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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない C02F
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備 無効としない C02F
管理番号 1209643
審判番号 無効2003-35170  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-04-28 
確定日 2010-01-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第3319592号「会合分子の磁気処理のための電磁処理装置」の特許無効審判事件についてされた平成20年 5月29日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10259号平成21年 7月 7日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3319592号の請求項1に係る発明についての審判請求は成り立たない。 審判費用は、これを2分し、その1を請求人の、その余を被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3319592号についての出願は、平成12年6月5日になされ、平成14年6月21日にその発明についての特許の設定登録がなされ(請求項の数2)、その後、平成15年4月28日に、本件特許を請求項1及び2に係る発明について無効にすることについて審判の請求がなされたものである。
その後、平成16年3月30日に第1次審決(平成17年12月26日に更正決定された)され、これに対して知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(平成17年(行ケ)第10067号)が提起され、平成18年2月27日に「特許庁が無効2003-35170号事件について平成16年3月30日にした審決のうち、特許第3319592号の請求項1に係る発明についての特許を無効とするとの部分をを取り消す。」との判決(以下、「第1判決」という。)がなされたものである。
なお、請求項2に係る発明に対する第1次審決は、この第1次判決の確定に伴い平成18年3月13日に確定したものである(当該請求項2に対する第1次審決は、後述「参考」参照)。
そして、再審理の後、平成20年5月29日付けで請求項1に係る発明の特許を無効とするとの第2次審決がなされ、これに対して知的財産高等裁判所に審決取消訴訟(平成20年(行ケ)第10259号)が提起され、平成21年7月7日に「特許庁が無効2003-35170号事件について平成20年5月29日にした審決を取り消す」との判決(以下、「第2次判決」という。)がなされ、この第2次判決は確定した。

II.本件発明
本件特許第3319592号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、この請求項1に係る発明を「本件発明」という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(ここで、本件発明については、下記のように特定事項を(A-1)から(A-4)までに分節して記載することとする。)。
「【請求項1】
(A-1):移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための装置であって、
(A-2):通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付け、
(A-3):一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御することによって被処理物に作用する磁束方向を変化させることを特徴とする
(A-4):会合分子の磁気処理のための電磁処理装置。」

III.当事者の主張
1.請求人の主張の概要
請求人は、本件発明は、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明であるか、または、同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当して特許を受けることができないものであるか、または、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないものであるから特許法第36条第4項の規定により特許を受けることができないものであり、そして、本件発明に係る特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないものであるから特許法第36条第6項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明の特許は同法第123条第1項第2号および第4号の規定により無効とされるべきである旨主張している。

2.請求人の証拠方法
甲第1号証:米国特許第5,074,998号明細書
甲第2号証:特開平8-42993号公報

3.被請求人の主張
被請求人は、本件発明は、甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明ではなく、また、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、かつ、本件特許明細書には請求人が主張するような記載不備は存在しない旨主張している。

4.被請求人の証拠方法
乙第1号証:特開2001-79556号公報
乙第2号証:米国特許第5,074,998号明細書の和訳
乙第3号証:甲第2号証と乙第2号証との対応を示す書面
乙第4号証:甲第2号証に対する拒絶理由通知書及び拒絶査定書
乙第5号証:「単位の辞典」、株式会社ラテイス、昭和56年7月31日改訂4版第1刷発行、13、32、184頁
乙第6号証の1:「一般化学(上)」、株式会社岩波書店、1966年12月25日発行、162?164頁
乙第6号証の2:「世界科学大事典18」、株式会社講談社、昭和52年3月20日発行、306、307、460頁

IV.当審の判断
1.明細書の記載不備についての検討
請求人が主張する本件発明に関する本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載不備は、次の(1)及び(2)である。
(1)段落【0007】の「抑制されたイオン励起状態の下で、分子会合を解いて、物質の活性度を回復可能とすること」、段落【0008】の「会合分子に対して効果的な活性化処理を行うこと」の意味が、本件特許明細書に記載されていない。
(2)段落【0026】の「負の作用を起こさない抑制されたイオン励起状態の下で分子会合を解いて物質の活性度を顕著な段階にまで回復することができる」という本件発明の効果は、本件特許明細書で実証されていない。
そこで、これらの点について検討する。
(1)について
<1>「抑制されたイオン励起状態」とは、より低いエネルギーのイオン励起状態を示すものであること、<2>実施例1は「磁力通電量5A」・「巻き数12」(段落【0018】)で60アンペアターン、実施例2は「磁力通電量10A」・「巻き数12」(段落【0019】)で120アンペアターン、実施例3は「磁力通電量5A」・「巻き数12」(段落【0022】)で60アンペアターン、実施例4は「磁力通電量12A」・「巻き数12」(段落【0023】)で144アンペアターンの処理条件で、電磁処理を行っためっき浴液及びエッチング液を用いて、電解めっき処理及びエッチング処理を行い、液の電磁処理を行わない比較例1、2の場合(段落【0020】、【0024】)に比べて、電解めっき処理では、電圧低下と電流効率の向上が、エッチング処理では、エッチングスピードとエッチングファクターの向上が確認されたことが記載されていること(段落【0019】、【0021】、【0024】、【0025】)によれば、「抑制されたイオン励起状態」は、具体的には60・120・144アンペアターン(実施例1ないし4の各処理条件)のエネルギーレベルを意味し、この「抑制されたイオン励起状態」による電磁処理が、電解めっき処理やエッチング処理に対してどのような効果を及ぼすかについても、発明の詳細な説明に記載がされているものと認めるのが相当である。
また、上記のように、本件発明において「抑制されたイオン励起状態」となる条件を特定することができれば、その条件での処理をし、その効果を確認することができるから、「抑制されたイオン励起状態」そのものまでを確認しなくとも、「抑制されたイオン励起状態」の技術的意味を理解することができるものと認められる。
(2)について
<1>本件発明の特許請求の範囲(請求項1)は、「移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための装置であって、通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付け、一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御することによって被処理物に作用する磁束方向を変化させることを特徴とする会合分子の磁気処理のための電磁処理装置。」であること、<2>本件特許明細書には、本件発明の実施例1ないし4として、60・120・144アンペアターンの各エネルギーレベルで、電磁処理を行っためっき浴液及びエッチング液を用いて、電解めっき処理及びエッチング処理を行った具体例が記載され(段落【0017】?【0019】、【0021】?【0023】)、液の電磁処理を行わない比較例1、2の場合(段落【0020】、【0024】)と比べて、電解めっき処理では、電圧低下と電流効率の向上が、エッチング処理では、エッチングスピードとエッチングファクターの向上が確認されたことが表1、3、5、6に具体的数値で示されており、これらの数値が真実に合致しないことをうかがわせる特段の事情は認められないこと、<3>もっとも、被処理物が流れる管路の外周にコイルを2重に巻き付けることは、実施例1?4に明記されていないが、本件特許明細書の段落【0011】、【0013】、【0014】等に記載された本件発明の装置の説明及び図1に示されており、当業者であれば、実施例1?4においても同様の構成が採られているものと理解することができるものと認められること、<4>また、実施例1ないし4において磁束方向を変化させる具体的な方法の記載が不十分であるとしても(なお、磁束方向を変えること自体はスイッチを入れる、回路を接続する等のような周知の手段で実現可能である。)、このことから直ちに請求項1の記載が不明確となるものでもないこと、
以上の<1>ないし<4>によれば、本件発明の特許請求の範囲(請求項1)において、特許を受けようとする発明が明確でないものということはできない。
よって、上記(1)及び(2)に係る本件特許明細書の記載不備はなく、本件特許明細書は、平成11年法律第160号による改正前の特許法第36条第4項及び第6項の規定を満たす。

2.本件発明の新規性進歩性についての検討
2-1.甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の記載がされている。
(1-1)「The present invention relates to an apparatus for treating liquid to prevent and/or remove scale deposits, comprising at least one solenoid-type electrical coil for generating a magnetic field for acting on the liquid to be treated, and an electrical energizing unit having at least one signal output for connecting the ends of the at least one coil to energize the same with an electrical energizing signal.」(1欄4?11行)
(当審訳:本発明は、スケールデポジットを防止および/または除去するための液体処理装置に関し、同装置は、処理対象液に作用する磁場を発生する少なくとも1つのソレノイド型電気コイルと、この少なくとも1つのコイルの両端を接続して、電気的励磁信号を用いて同コイルを励磁する少なくとも1つの信号出力端を有する電気的励磁装置とを備える。)
(1-2)「As is known, a moving charge in a magnetic field experiences a Lorentz force which depends on the applied magnetic field strength, the quantity of charge, the displacement velocity of the charge and the direction of the magnetic field lines with respect to the displacement direction of the charge. If the liquid contaminated with the said elements is now subjected to a magnetic field, the liquid molecules, for example water molecules, are oriented, as a result of which the said impurities, in particular the ions of calcium and magnesium, come out of solution and can be trapped, for example, by means of a filter to be placed in the liquid flow, with the result that no scale is consequently formed. 」(1欄41?53行)
(当審訳:周知のように、磁場の中を移動する電荷は、ローレンツ力を受ける。このローレンツ力は、印加されている磁場の強さ、電荷の大きさ、電荷の変位速度(displacement velocity)、および電荷の変位方向に対する磁力線の方向によって決まる。上記の元素で汚染された液体に磁場をかけると、液体分子、例えば水分子、は、特定方向に配列され、その結果、上述した不純物、特にカルシウムやマグネシウムのイオンが溶液から析出するので、例えば液体の流れの中に置いたフィルタにより吸着することが可能であり、その結果スケールは形成されない。)
(1-3)「FIG. 1 shows an application of the apparatus according to the invention in which the liquid to be treated, for example water, flows through a pipe 1. A solenoid-type coil 5 of insulated electrically conducting wire wound externally around the pipe 1 is fitted on the signal output terminals 3, 4 of an energizing unit 2.」(5欄60?65行)
(当審訳:図1には、本発明による装置の使用例が示してあり、同装置では、処理対象の液体、例えば水、がパイプ1を通って流れる。パイプ1の周囲の外側に巻かれた絶縁された導電性ワイヤからなるソレノイド型コイル5は、励磁装置2の信号出力端子3、4に取り付けられている。)
(1-4)「FIG. 2 shows, in block diagram form, a possible embodiment of the energizing unit 2. ・・・・・・VCO (voltage controlled oscillator), to the output of which a driver stage 11 is connected which has the signal output terminals 3, 4 for connecting the electrical coil 5.
・・・・・・
It is evident that the driver stage 11 can be provided with a plurality of signal outputs for connecting a plurality of coils 5.」(6欄4?41行)
(当審訳:図2には、この励磁装置2の可能な実施態様がブロック図の形で示してある。・・・・・・VCO(電圧制御発振器)の出力端には、電気コイル5を接続するための信号出力端子3、4を有するドライバ段11が接続されている。・・・・・・複数のコイル5を接続するための複数の信号出力端をドライバ段11に設けることができる、ということは明らかである。)
(1-5)「FIG. 4 shows diagrammatically a manner in which two or more coils 5, 16 can be used to treat a liquid in a pipe 1 according to the invention. In the situation shown, the coils are connected in series to the signal output connecting terminals 3, 4 of the energizing unit 2. As a result of the opposite winding direction, oppositely directed magnetic fields are generated, a few field lines of which are diagrammatically shown by chain lines.」(7欄19?27行)
(当審訳:図4は、本発明によるパイプ1中で液体を処理するために2つ以上のコイル5、16を使用することができる方法を図式的に示す。図示した状況において、それらのコイルは、励磁装置2の信号出力接続端子3、4に直列に接続されている。巻き方向を逆にした結果、逆向きの磁場が発生し、これらの磁力線の幾つかは鎖線を用いて図式的に示してある。)
(1-6)上記(1-5)の記載を併せみると、図4には、管路に巻き付けた2つのコイルにより形成される磁束方向が反対である2つの磁束が窺える。
(1-7)「It will be clear to the person skilled in the art that coils having the same winding direction may also be used, in the case of a series connection of two coils, the end, situated for example downstream in the flow direction of the liquid to be treated, of one coil being connected to the end, situated downstream, of the adjacent other coil and both ends situated upstream being connected to the signal output terminals 3, 4 of the energizing unit 2. Obviously, the coils can also be connected appropriately in parallel to the signal output terminals 3, 4.」(7欄35?45行)
(当審訳:巻き方向が同じ複数のコイルも使用可能であり、2つのコイルを直列接続する場合、一方のコイルの例えば処理対象の液体の流れの方向の下流に位置する端部が、隣接する他方のコイルの下流に位置する端部に接続され、上流に位置する両端部が励磁装置2の信号出力端子3、4に接続されるということは、当業者には明らかになるであろう。これらのコイルは、明らかに、適切に信号出力端子3、4に対し並列に接続することもできる。)

2-2.甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の記載がされている。
(2-1)「【産業上の利用分野】本発明は、スケールを予防又は除去する目的で液体を処理するための装置に関するもので、被処理液体に作用する磁界を発生するためのソレノイド状のコイルを少なくとも1つを備えるとともに、上記コイルの両端に接続され励磁信号で該コイルを励磁するための少なくとも1つの出力信号を有する制御装置を備えた装置に関する。」(【0001】)
(2-2)「既に知られているように、磁界中を動く電荷はローレンツ力を受ける。このローレンツ力は磁界の強さ、電荷量、電荷の移動速度、及び電荷移動方向に対する磁力線の向きに比例する。もし、上記元素によって汚染された液体が磁界の中に入ると、その液体分子、例えば水分子は方向性を持つようになる。その結果、前記不純物、特にカルシウムとマグネシウムのイオンは溶液から析出して、例えば液体流中に老(当審注:「置」の誤記と推認される。)いたフィルターによって捕獲することができる。・・・・・・」(【0005】)
(2-3)「図1において符号1はスケールの防止・除去装置を示し、このスケールの除去・防止装置1は、絶縁した銅線などの導電体ワイヤをパイプ2の外周に巻き付けたソレノイド状のコイル3と制御装置4とで構成され、上記コイル3は制御装置4の信号出力端子5、6に接続されている。さらに、上記制御装置4の制御信号入力端子7、8には上記パイプ2内を流れる液体の流量を検出するトランジューサ9が接続される・・・・・・。」(【0016】)
(2-4)「図2は制御装置4の構成を示し、電圧制御発信器12には信号出力端子5、6を有するドライバ13が接続されている。上記電圧制御発振器12の周波数は鋸波発振回路14によって制御されている。」(【0018】)
(2-5)「図3は2本のコイル3a、3bを使用した状態を示し、コイル3aとコイル3bとは信号出力端子5、6に直列に接続され、巻線の方向が反対に巻いてあるので、反対方向の磁界が発生する。点線で示される仮想分割面aの近くで、2つの磁界の磁力線は、例えば分割面aから離れて対面するコイル3aとコイル3bとの両端での磁力線に比べてパイプ2をより横切る方向へ向けられていることが明確に分かる。従って、液体分子は、分割面aの近くにおいてより大きなローレンツ効果を受けることができ、スケールの防止・除去の効果を増大することができる。」(【0024】)
(2-6)上記(2-5)の記載を併せみると、図3には、パイプに巻き付けた2つのコイルにより形成される2つの磁束が窺える。

2-3.甲第1号証について
甲第1号証の記載事項(1-1)に「スケールデポジットを防止および/または除去するための液体処理装置に関し、」「同装置は、処理対象液に作用する磁場を発生する少なくとも1つのソレノイド型電気コイルと、この少なくとも1つのコイルの両端を接続して、電気的励磁信号を用いて同コイルを励磁する少なくとも1つの信号出力端を有する電気的励磁装置とを備える」と記載されていることからして、「磁気処理のための装置」と「通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路」が記載されているといえ、記載事項(1-3)に「処理対象の液体、例えば水、がパイプ1を通って流れる。」と記載されていることからして、「移動する被処理液体」が記載されているといえ、記載事項(1-5)に「図4は、本発明によるパイプ1中で液体を処理するために2つ以上のコイル5、16を使用することができる方法を図式的に示す。図示した状況において、それらのコイルは、励磁装置2の信号出力接続端子3、4に直列に接続されている。巻き方向を逆にした結果、逆向きの磁場が発生し、これらの磁力線の幾つかは鎖線を用いて図式的に示してある。」と記載され、視認事項(1-6)に記載したように図4にそのことが図示されているみることができることからして、「通電によりそれぞれ磁束方向の異なる磁束を形成する巻き方向を逆にした2つのコイルを被処理物が流れる管路の外周に直列に配置して巻き付けること」と「それぞれ磁束方向の異なる磁束を形成することによって、被処理物にそれぞれのコイルに基づく2つの磁束方向の異なる磁気処理を作用させること」が記載されているといえることから、記載事項(1-1)ないし(1-7)を本件発明の記載ぶりに則って整理すると、
「(B-1):移動する被処理液体のスケールデポジットを防止および/または除去についての磁気処理のための装置であって、
(B-2):通電によりそれぞれ磁束方向の異なる磁束を形成する巻き方向を逆にした2つのコイルを被処理物が流れる管路の外周に直列に配置して巻き付け、
(B-3):2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、それぞれ磁束方向の異なる磁束を形成することによって、被処理物にそれぞれのコイルに基づく2つの磁束方向の異なる磁気処理を作用させる
(B-4):被処理液体のスケールデポジットを防止および/または除去についての磁気処理のための液体処理装置。」(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる(ここで、引用発明については、上記のとおり特定事項を(B-1)から(B-4)までに分節して記載することとする。)。
つぎに、本件発明と引用発明とを対比する。
(あ)本件発明の(A-1)及び(A-4)の特定事項について
(あ-1)本件特許明細書には次の記載がある。
(あ-1-1)「【発明の属する技術分野】本発明は、移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための電磁処理装置に関するものである。」(【0001】)
(あ-1-2)「【従来の技術】同種の分子2個以上が比較的弱い分子間力によって集合し、一つの単位として行動している状態を会合と称するが、会合を生じている分子から成る物質は、活性度が低いために、浸透性が低下したり、乱流が抑制されたりすることの原因となっている。故に会合を解いたり、より小さい会合状態にしたりすることができれば、その度合いに応じて物質の活性度を回復させ、浸透性の向上と乱流状態の維持等が図られると考えられる。」(【0002】)
(あ-1-3)「これに対してスケールを磁気処理によって除去しようという提案がなされている。
例えば米国特許第5074998号明細書記載の発明は、管壁に付着するスケールの除去及び付着量の減少を扱っている。しかし同発明の効果を期待できるのは、比較的小さい共鳴振動数を持つ会合分子に限られると考えられる。その理由は、同発明の実施品と見なされる装置では、電磁コイルの特性が実質的に120アンペアターン程度しか得られないからである。」(【0003】、【0004】)
(あ-2)乙第1号証には次の記載がある。
(あ-2-1)「【発明の属する技術分野】本発明は、移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための、電磁処理装置に関するものである。」(【0001】)
(あ-2-2)「【従来の技術】同種の分子2個以上が比較的弱い分子間力によって集合し、一つの単位として行動している状態を会合と称するが、会合を生じている分子から成る物質は活性度が低いために、配管等の壁面にスケールを生じる等の問題の原因となる。故にこの会合を解いて小さなものとすることができれば、その度合に応じて物質の活性度を回復することができ、スケールも生じにくくなると考えられる。」(【0002】)
(あ-3)そこで、これらの記載についてみてみると、
記載事項(あ-1-1)に「移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための、電磁処理装置」が記載され、記載事項(あ-1-2)に「会合を解いたり、より小さい会合状態にしたりすることができれば、その度合いに応じて物質の活性度を回復させ、浸透性の向上と乱流状態の維持等が図られると考えられる。」と記載され、記載事項(あ-1-3)に「これに対してスケールを磁気処理によって除去しようという提案がなされている。・・・・・・管壁に付着するスケールの除去及び付着量の減少を扱っている。しかし同発明の効果を期待できるのは、比較的小さい共鳴振動数を持つ会合分子に限られると考えられる。」と記載されていることからして、会合を解くことの具体例として移動する被処理物中に含まれるスケールの磁気処理が例示されているといえるので、本件発明(A-1)でいう「移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理」には「管壁に付着するスケールの除去及び付着量の減少させる磁気処理」が含まれているといえる。
そうすると、引用発明(B-1)の「移動する被処理液体のスケールデポジット」は「移動する被処理物中に含まれる会合分子」によるものであると認められ、「移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理」には「移動する被処理物のスケールデポジットを防止および/または除去する磁気処理」が含まれているといえる。
なお、被請求人は、乙第1号証の記載事項(あ-2-2)に「会合を生じている分子から成る物質は活性度が低いために、配管等の壁面にスケールを生じる等の問題の原因となる。」と記載しており、「被処理液体のスケールデポジット」が「会合分子」によるものであるということは、被請求人自身が自認していることなのである。
そうすると、
(あ-4)引用発明の「(B-1):移動する被処理液体のスケールデポジットを防止および/または除去についての磁気処理のための装置」は、本件発明の「(A-1):移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための装置」に含まれ、
また、引用発明の「(B-4):被処理液体のスケールデポジットを防止および/または除去についての磁気処理のための液体処理装置。」は、本件発明の「(A-4):会合分子の磁気処理のための電磁処理装置。」に含まれるといえる。
(い)本件発明の(A-2)の特定事項について
引用発明の「(B-2):通電によりそれぞれ磁束方向の異なる磁束を形成する巻き方向を逆にした2つのコイルを被処理物が流れる管路の外周に直列に配置して巻き付け、」と、本件発明の「(A-2):通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付け、」とは、いずれも、2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に巻き付けるものである点で共通する。
(う)本件発明の(A-3)の特定事項について
引用発明の「(B-3):2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、それぞれ磁束方向の異なる磁束を形成することによって、被処理物にそれぞれのコイルに基づく2つの磁束方向の異なる磁気処理を作用させる」と、本件発明の「(A-3):一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御することによって被処理物に作用する磁束方向を変化させる」とは、いずれも、2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、被処理物に異なる磁束方向で磁束を作用させる点で共通する。
(え)上記(あ)?(う)の検討から、本件発明と引用発明は、
「(A-1):移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための装置であって、
(A-2)’:2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に巻き付け、
(A-3)’:2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、被処理物に異なる磁束方向で磁束を作用させる
(A-4):会合分子の磁気処理のための電磁処理装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。
相違点1:本件発明では、2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付けるのに対して、引用発明では、2つの通電により磁束を形成するコイルを巻き方向を逆にし直列に配置して被処理物が流れる管路の外周に巻き付ける点
相違点2:本件発明では、2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路において、その一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御することによって、被処理物に作用する磁束方向を変化させて、被処理物に異なる磁束方向で磁束を作用させるのに対して、引用発明では、2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、巻き方向を逆にし直列に配置した2つのコイルを駆動することにより、それぞれ磁束方向の異なる磁束を形成することによって、被処理物に異なる磁束方向で磁束を作用させる点

そこで、これら相違点について検討する。
・相違点1について
(1)記載事項(1-5)は、図4に示されたものについて、被処理物の流れ方向に沿って、上流と下流に距離をおいて2つのコイルが配置され、その一方のコイルと他のコイルとに逆向きの磁場を発生させた場合の作用を説明するものである。
また、記載事項(1-7)は、同等の作用を発揮するような構成上のバリエーションについて記載されているものと理解することができる。すなわち、記載事項(1-5)及び(1-7)は、巻き方向が同じ2つのコイルを用いた場合、図4と同様に一方のコイルと他方のコイルに逆向きの磁場を発生させるためには、2つのコイルに流す電流の向きを逆にする必要があることを指摘しているにすぎないというべきであって、同記載が巻き方向が同じ複数のコイルを2重に巻き付ける態様についてまで示唆するものであるということはできない。
さらに、引用発明において、2つ以上のコイルを用いる意義は、液体の流れ方向の上流側と下流側に配置した複数のコイルに異なる方向の磁場を形成させ、コイルとコイルの間の仮想平面(分割線Sで示される)付近に、より大きなローレンツ力を発生させることにあるものと認められ、記載事項(1-7)はそのような構成を前提として、コイルの電気的な接続の仕方を記載するものであると認められる。
よって、記載事項(1-5)及び(1-7)から、巻き方向が同じ複数のコイルを2重に巻き付ける態様を適宜に設計できることが示唆されているとし、これを前提として、相違点1について、2つの通電により磁束を形成するコイルを装置に取り付ける使用の態様として、巻き方向が同じ複数のコイルを、2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付ける態様を採用することは、当業者が容易に想到しえることであるとはいえず、また、このことは、引用発明において、複数のコイルを重ねて配置し、分割線Sで示される仮想平面を形成することができない構成を採用することは、そもそも、その技術思想に反するものであることからもいえることである。
(2)よって、この相違点1に係る本件発明の特定事項について、甲第1号証には記載も示唆もされていない。
・相違点2について
(1)引用発明において2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付けることの構成を採用し得るものではないから、その構成が可能であることを前提として、相違点2に係る本件発明の特定事項をなすことは容易とはいえない。
そして、本件発明の構成として、2つのコイルを独立して作動可能であることが明示されていなくても、本件発明においては、一方のコイルと他の一方のコイルとが同じ箇所に重なって存在するのであって、このことを前提に、仮に、一方のコイルと他方のコイルとを同一の特性の信号により制御すれば、互いの磁力が打ち消し合うことによって、2つのコイルを作動させること自体が無意味とならざるを得ないことは技術常識から明らかである。
そうすると、本件発明の(A-3)における一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御するとの記載に接した当業者は、一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路とを各別に制御することを意図するものと容易に理解するということができるから、本件発明は2つのコイルを独立して制御することを前提とするものということができるのであり、記載事項(1-4)の記載は、複数のコイルに対して出力端子が1つでなく、2つ以上あるということを意味するものであるとしても、当該2つの端子に接続するコイルに供給される信号の特性は同一なのであって、それによっては、2つのコイルを独立して作動させることはできないから、記載事項(1-4)の記載から2つのコイルを独立して作動させることが示唆されているということもできない。
(2)よって、この相違点2に係る本件発明の特定事項について、甲第1号証には記載も示唆もされていない。
(お)以上のとおり、本件発明は引用発明と同一のものとも、引用発明をもとに甲第1号証の記載から、当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

2-4.甲第2号証について
甲第2号証の記載事項(2-1)に「スケールを予防又は除去する目的で液体を処理するための装置に関するもので、被処理液体に作用する磁界を発生するためのソレノイド状のコイルを少なくとも1つを備えるとともに、上記コイルの両端に接続され励磁信号で該コイルを励磁するための少なくとも1つの出力信号を有する制御装置を備えた」と記載されていることからして、「磁気処理のための装置」と「通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路」が記載されているといえ、記載事項(2-3)に「パイプ2内を流れる液体」と記載されていることからして、「移動する被処理液体」が記載されているといえ、記載事項(2-5)に「図3は2本のコイル3a、3bを使用した状態を示し、コイル3aとコイル3bとは信号出力端子5、6に直列に接続され、巻線の方向が反対に巻いてあるので、反対方向の磁界が発生する。点線で示される仮想分割面aの近くで、2つの磁界の磁力線は、例えば分割面aから離れて対面するコイル3aとコイル3bとの両端での磁力線に比べてパイプ2をより横切る方向へ向けられていることが明確に分かる。」と記載されているから、「通電によりそれぞれ磁束方向の異なる磁束を形成する巻き方向を逆にした2つのコイルを被処理物が流れるパイプの外周に直列に配置して巻き付けること」と「それぞれ磁束方向の異なる磁束を形成することによって、被処理物にそれぞれのコイルに基づく2つの磁束方向の異なる磁気処理を作用させること」が記載されているといえること、「パイプ」は「管路」であることは明らかであるから、記載事項(2-1)ないし(2-5)を本件発明の記載ぶりに則って整理すると、
「(C-1):移動する被処理液体のスケールを予防又は除去する目的で液体を処理する磁気処理ための装置であって、
(C-2):通電によりそれぞれ磁束方向の異なる磁束を形成する巻き方向を逆にした2つのコイルを被処理物が流れる管路の外周に直列に配置して巻き付け、
(C-3):2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、それぞれ磁束方向の異なる磁束を形成することによって、被処理物にそれぞれのコイルに基づく2つの磁束方向の異なる磁気処理を作用させる
(C-4):被処理液体のスケールを予防又は除去する目的で液体を処理する磁気処理のための液体を処理するための装置。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる(ここで、引用発明2については、上記のとおり特定事項を(C-1)から(C-4)までに分節して記載することとする。)。
つぎに、本件発明と引用発明2とを対比する。
(か)本件発明の(A-1)及び(A-4)の特定事項について
(か-1)上記(あ)の検討結果より、本件発明(A-1)でいう「移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理」には「管壁に付着するスケールの除去及び付着量の減少させる磁気処理」が含まれているといえるから、引用発明2(C-1)の「移動する被処理液体のスケールを予防又は除去する目的で液体を処理する磁気処理」は、本件発明(A-1)の「移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理」と重複することは明らかである。
(か-2)そうすると、引用発明2の「(C-1):移動する被処理液体のスケールを予防又は除去する目的で液体を処理する磁気処理ための装置」は、本件発明の「(A-1):移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための装置」と重複し、
また、引用発明2の「(C-4):被処理液体のスケールを予防又は除去する目的で液体を処理する磁気処理のための液体を処理するための装置」は、本件発明の「(A-4):会合分子の磁気処理のための電磁処理装置。」と重複するといえる。
(き)本件発明の(A-2)の特定事項について
引用発明2の「(C-2):通電によりそれぞれ磁束方向の異なる磁束を形成する巻き方向を逆にした2つのコイルを被処理物が流れる管路の外周に直列に配置して巻き付け、」と、本件発明の「(A-2):通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付け、」とは、いずれも、2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に巻き付けるものである点で共通する。
(く)本件発明の(A-3)の特定事項について
引用発明2の「(C-3):2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、それぞれ磁束方向の異なる磁束を形成することによって、被処理物にそれぞれのコイルに基づく2つの磁束方向の異なる磁気処理を作用させる」と本件発明の「(A-3):一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御することによって被処理物に作用する磁束方向を変化させる」とは、いずれも、2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、被処理物に異なる磁束方向で磁束を作用させる点で共通する。
(け)上記(か)?(く)の検討から、本件発明と引用発明は、
「(A-1):移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための装置であって、
(A-2)’:2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に巻き付け、
(A-3)’:2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、被処理物に異なる磁束方向で磁束を作用させる
(A-4):会合分子の磁気処理のための電磁処理装置。」
である点で一致し、次の点で相違している。
相違点3:本件発明では、2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付けるのに対して、引用発明では、2つの通電により磁束を形成するコイルを巻き方向を逆にし直列に配置して被処理物が流れる管路の外周に巻き付ける点
相違点4:本件発明では、2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路において、その一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御することによって、被処理物に作用する磁束方向を変化させて、被処理物に異なる磁束方向で磁束を作用させるのに対して、引用発明では、2つの通電により磁束を形成するコイルを駆動する電気回路により、巻き方向を逆にし直列に配置した2つのコイルを駆動することにより、それぞれ磁束方向の異なる磁束を形成することによって、被処理物に異なる磁束方向で磁束を作用させる点
そこで、これら相違点について検討する。
・相違点3について
(1)記載事項(2-5)、(2-6)から、図3に示されたものは、被処理物が流れる、パイプすなわち管路の外周に2つのコイルが配置されこの2つのコイルに反対方向に磁場を発生させたときの磁力線について説明をしているが、この説明は、通電により磁束を形成するコイルを管路の外周に2重に巻き付けるという構成事項を導き出すものとはいえない。
そして、この記載事項(2-5)には「液体分子は、分割面aの近くにおいてより大きなローレンツ効果を受けることができ、スケールの防止・除去の効果を増大することができる。」と記載されており、2つのコイルは異なる方向の磁場を形成するためのものであって、分割面aを形成することができないコイルを管路の外周に2重に巻き付ける構成事項を示唆しないことは明らかである。
そして、甲第2号証の他の部分にも、上記コイルを2重に巻き付けるという構成事項を導き出す記載も示唆も見当たらない。
(2)よって、この相違点3に係る本件発明の特定事項について、甲第2号証には記載も示唆もされていない。
・相違点4について
(1)相違点3の検討で述べたように「2つの通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付ける」ことの構成を採用し得るものではないから、この特定事項をとることを前提としている相違点4に係る本件発明の特定事項をなすことは容易とはいえない。
また、この相違点に係る本件発明の特定事項「一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御する」とは、特定事項として記載されていないものの「2つのコイルを独立して制御する」ことを前提とすることは明らかといえるから、記載事項(2-5)の「コイル3aとコイル3bとは信号出力端子5、6に直列に接続され」との記載は2つのコイルを独立して制御・作動することを示唆するものともいえない。
そして、甲第2号証の他の部分にも、2つのコイルを独立して制御することを導き出す記載も示唆も見当たらない。
(2)よって、この相違点4に係る本件発明の特定事項について、甲第2号証には記載も示唆もされていない。
(こ)以上のとおり、本件発明は引用発明2と同一のものとも、引用発明2をもとに甲第2号証の記載から、当業者が容易に発明できたものであるということもできない。

(さ)そして、本件発明は「負の作用を起こさない抑制されたイオン励起状態の下で分子会合を解いて物質の活性度を顕著な段階まで回復できるという」引用発明及び引用発明2から予想ができない格別の効果を奏するものといえる。

IV.まとめ
以上のとおり、本件請求項1に係る発明についての特許は、請求人の主張する理由及び証拠によっては、無効とすることができない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、これを2分し、その1を請求人の、その余を被請求人の負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
(参考)平成16年3月30日付け審決(1次審決)は、以下のとおり。

「 無効2003-35170
東京都墨田区菊川2丁目18番10号
請求人 エスケーエイ 株式会社
東京都中央区日本橋3丁目15番2号 高愛ビル9階 創明国際特許事務所
代理人弁理士 松永 孝義
埼玉県川越市大字小ケ谷716番地12
被請求人 有限会社 東伸計測
東京都北区東十条5-10-1 井沢特許事務所
代理人弁理士 井沢 洵
東京都北区東十条5-10-1 井沢特許事務所
代理人弁理士 井沢 幹
東京都小平市花小金井5丁目428番地
被請求人 日本弗素工業 株式会社
東京都北区東十条5-10-1 井沢特許事務所
代理人弁理士 井沢 洵
東京都北区東十条5-10-1 井沢特許事務所
代理人弁理士 井沢 幹

上記当事者間の特許第3319592号発明「会合分子の磁気処理のための電磁処理装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結 論
特許第3319592号の請求項に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理 由
1.手続の経緯
出願日 平成12年6月5日(特願2000-167034号)
登録日 平成14年6月21日(特許第3319592号)
無効審判 平成15年4月30日(無効2003-35170号)
無効審判請求書副本送付
平成15年5月23日(発送日)
答弁書 平成15年7月22日
答弁書副本送付 平成15年12月10日(発送日)
口頭審理 平成16年1月20日
上申書(被請求人) 平成16年2月20日

2.当事者の主張
2-1.請求人の主張
請求人は、下記の甲第1号証、甲第2号証を提出し、本件請求項1ないし2に係る発明は甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明であるか、少なくとも同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が明確でないので、本件請求項1ないし2に係る発明の特許は同法第123条第1項第2号ないし第4号の規定により無効とされるべきである旨主張している。

甲第1号証:米国特許第5,074,998号明細書
甲第2号証:特開平8-42993号公報

2-2.被請求人の主張
被請求人は、本件請求項に係る発明は、請求人が提出した証拠に記載された発明ではなく、該発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許明細書には請求人が主張する記載不備は存在しない旨主張している。

3.本件の特許請求の範囲請求項1に記載された発明
本件特許第33319592号の特許請求の範囲請求項1及び2に記載された発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】移動する被処理物中に含まれる会合分子の磁気処理のための装置であって、通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付け、一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御することによって被処理物に作用する磁束方向を変化させることを特徴とする会合分子の磁気処理のための電磁処理装置。
【請求項2】電気回路は、磁束方向が互いに逆向きとなるように2重のコイルを制御するものであり、かつ磁束方向が毎秒150アンペアターン以上で反転を繰り返すように構成されている請求項1記載の会合分子の磁気処理のための電磁処理装置。」

4.当審の判断
【明細書の記載不備について】
4-1.本件特許明細書特許請求の範囲の請求項2「磁束方向が毎秒150アンペアターン以上で反転を繰り返す」ことの意義が、本件明細書に記載されているか
(1)請求項2における「磁束方向が毎秒150アンペアターン以上で反転を繰り返す」という事項は、請求項1に係る発明の構成「被処理物に作用する磁束方向を変化させること」を技術的に限定するものであり、被請求人が提出した乙第5号証によれば「アンペアターン」とはソレノイドの巻数とソレノイドに流れる電流の積を表し『起磁力』の単位であることは本件特許出願時点において周知のことと認められる。
(2)上記事項のうち「150アンペアターン以上」について
本件特許明細書中には本願発明の先行技術である米国特許第5074998号明細書に記載される発明の装置について「同発明の実施品と見なされる装置では、電磁コイルの特性が実質的に120アンペアターン程度しか得られない」との記載があるだけであり、他に「アンペアターン」の記載はなく、本件特許明細書に記載される実施例における巻数とアンペア数から求められる「アンペアターン」も、60ないし144であるから、結局、本件特許明細書には、起磁力を「150アンペアターン以上」とすることは記載されていないと云わざるを得ない。
(3)上記事項のうち「毎秒」について
i)「毎秒150アンペアターン以上」、ii)「毎秒、反転を繰り返す」、の二通りの解釈が可能であるが、本件特許明細書には、後者に関し「2000Hz」、すなわち毎秒2000回反転を繰り返すことが実施例に記載があるだけで、「毎秒、反転を繰り返す」ことは記載がなく、前者については全く記載がない。
この点に付き被請求人は、口頭審理において「磁束方向が毎秒150アンペアターン以上で反転を繰り返す」の意味は磁束方向が反転を繰り返す際の仕事量が毎秒150アンペアターン以上である、という意味であり、アンペアターンが仕事量を示すことは、乙第5号証より明らかである旨主張する(口頭審理陳述要領書参照)。
乙第5号証には、『エルステッド』の説明として「(記)Oe CGS電磁単位系における単位.単位磁極にはたらく力が1ダインであるような磁場の強さ.・・・1〔Oe〕=103/4π〔AT/m〕 ATはアンペア回数.」、『ダイン』の説明として「・・・質量1gの物体にはたらいて1cm/s2の加速度を与えるような力の大きさ・・・」との記載があり、かかる記載によれば、『エルステッド』〔Oe〕が「単位磁極にはたらく力が1ダイン」と定義されることを示しているものの、あくまで磁場の強さを表す単位であり、その次元は〔AT/m〕で表わされるものであって、〔ダイン〕で表わされることを示すものではなく、そもそも本件特許明細書には、「被処理物に作用する磁束方向を変化させる」物理的条件を、仕事量と時間の積で表わされるエネルギー量で限定することは記載も示唆もされていないのであるから、上記被請求人の主張は採用できない。
(4)まとめ
上記のとおり、本件特許明細書特許請求の範囲の請求項2「磁束方向が毎秒150アンペアターン以上で反転を繰り返す」との事項のうち、「150アンペアターン以上」については本件特許明細書に記載がなく、また「毎秒」についてはその意味が明確でないことから、該事項の意義が本件特許明細書に記載されているとは云えず、本件明細書の請求項2に記載される発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められず、しかも当該発明の技術的意義も明確とはいえない。

4-2.本件明細書の段落【0007】の「抑制されたイオン励起状態の下で、分子会合を解いて、物質の活性度を回復可能とすること」、段落【0008】の「会合分子に対して効果的な活性化処理を行うこと」の意味が、本件明細書に記載されているか
(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書には「・・・出願をした(特願平11-264410)。同発明は、前記米国特許発明が流れと平行な磁束を形成するのに対して、流れと直交する磁束を形成することができる画期的なものであり、かつ高エネルギーレベルでの磁気処理を可能とするという特徴を有する。ところが無電解めっき法、電解めっき法及びエッチング法では、高エネルギーレベルのイオン励起状態が負の作用をなすという側面がある。」(段落【0005】)と先行技術の問題点が記載され、
さらに、本件発明が解決すべき課題として、「つまり、より低いエネルギーレベルで、磁束を自由にコントロールできることが望ましいというケースも存在する。」(段落【0006】)、「本発明は上記の点に着目してなされたものであって、その課題は、抑制されたイオン励起状態の下で、分子会合を解いて、物質の活性度を回復可能とすることである。」(段落【0007】)と記載されている。
(2)判断
これらの記載によれば、本件発明の先行技術(特願平11-264410に係る発明)では、高エネルギーレベルでの磁気処理が可能であるが、無電解メッキ法など特定の操作においては、望ましくないという問題点を指摘しているのであるから、「高エネルギーレベルのイオン励起状態」とは、「高エネルギーレベルでの磁気処理」を施されたときの被処理物が至る物理的状態のことを意味しているものと解され、「抑制されたイオン励起状態」とは、本件発明の先行技術(特願平11?264410に係る発明)よりも低いエネルギーレベルでの磁気処理を施された結果、被処理物が至る状態を意味するものと解され、「物質の活性度を回復」、「会合分子に対して効果的な活性化処理」とは、上記無電解メッキ法など特定の操作においても、被処理物が所期の効果を奏することを意味するものと解される。
そして、「励起状態」が、光、熱、電場、磁場などの外場により電子のスピンエネルギーが高くなり、基底状態にあった固有状態の電子が不安定な高エネルギー状態に移動した状態を意味することは、被請求人が提出した乙第6号証の1ないし2に開示されるように、本件特許出願時において周知の事項であると認められるが、本件特許明細書には「抑制されたイオン励起状態」が具体的にどのような「励起状態」であって、該状態とするための「より低いエネルギーレベル」とはどの程度かについて何ら記載がなく、先行技術に記載される「高エネルギーレベルでの磁気処理」との区別が明確でない。
この点について、被請求人は上申書において「最外殻電子軌道が内殻電子によって飽和されているため外部からの電子の授受が行われないという意味で不活性な状態で、酸化還元反応は進行しない。乙第1号証特願平11-264410号においてはこの現象が確認され、本件特許第3319592号においては、この現象は確認されなかった。」(第7頁1?4行)と主張し、本件特許明細書でいう「抑制されたイオン励起状態」が「最外殻電子軌道が内殻電子によって飽和されていない励起状態」のことと主張しているようであるが、本件特許明細書の記載に基づかないものであって採用できない。
さらに、被請求人は上申書において、先行技術(特願平11-264410号)では、アンペアターンの増加により、メッキにおいては電流効率の低下、エッチングにおいてはエッチングスピードの低下現象が現れ、その因子として、会合分子中のNi,Feイオンの励起現象が起因していると考えられ、本件発明では、該先行技術における励起状態が現れない領域での試験条件であり、これが抑制されたエネルギーレベル状態である旨主張する(第6頁1?14行)が、「抑制されたエネルギーレベル状態」がどの程度のレベルのことをいうのか明らかでないことは、上述したとおりである。
(3)まとめ
上述のとおり、本件特許明細書の段落【0007】の「抑制されたイオン励起状態の下で、分子会合を解いて、物質の活性度を回復可能とすること」における「抑制されたイオン励起状態」の技術的意味が、本件特許明細書に記載されておらず、本件発明が解決すべき課題が不明確であり、当業者がその実施を容易にできる程度に発明が明確に記載されているとは云えない。

4-3.本件特許明細書の段落【0026】の「負の作用を起こさない抑制されたイオン励起状態の下で分子会合を解いて物質の活性度を顕著な段階にまで回復することができる」という本件発明の効果は、本件明細書で実証されているか
(1)本件発明が解決すべき課題及びその課題を解決するための手段について
本件特許明細書において、先行技術(特願平11-264410に係る発明)では、高エネルギーレベルでの磁気処理が可能であるが、無電解メッキ法など特定の操作においては、望ましくないという問題点を指摘し、【課題を解決するための手段】として「前記の課題を解決するため、本発明は、通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付け、一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御することによって被処理物に作用する磁束方向を変化させるという手段を講じたものである。」(段落【0009】)と記載されている。
(2)課題を解決するための手段と本件発明の効果との関連について
これら本件特許明細書の記載によれば、上記の事項のうち「物質の活性度を顕著な段階にまで回復する」とは、無電解メッキ法など特定の操作において、高エネルギーレベルでの磁気処理における不都合が低減することを意味するものと解される。
そして、本件特許明細書に記載される実施例によれば、本件発明の装置と称する「電磁気処理装置」を使用した場合は使用しない場合と比べ、電解メッキ処理における電流効率、およびエッチング処理におけるエッチングファクターの向上が認められる。
しかしながら、以下の理由で、本件明細書中に記載される課題を解決すべき手段と、上記実施例における「電磁処理装置」との関連が不明であり、上記効果が本件発明による効果であるかが実証されているとは云えない。
i)「課題を解決すべき手段」では、通電により磁束を形成するコイルを被処理物が流れる管路の外周に2重に巻き付けるとしているが、「実施例」では、コイルを2重巻き付けることについての説明がなく、単に「巻き数」の記載しかない。
ii)「課題を解決すべき手段」では、一方のコイルを駆動する電気回路と他の一方のコイルを駆動する電気回路を制御することによって被処理物に作用する磁束方向を変化させるとしているが、「実施例」では、磁束方向を変化させるための具体的は方法についての説明がなく、単に「周波数」の記載しかない。
これらの点に関連して、被請求人は上申書において実験装置の「駆動概要図」(第7頁)を示し、本件発明は交流起電力を得るため直流印加方式を取り入れたものであり、本件特許明細書中段落【0014】は、そのことを意味するものである旨主張するが、同段落には書くコイルを駆動する電気回路の通電の制御を具体的にどのように行うのか記載されておらず、また、コイルに通電した場合に得られる磁束方向が互いに逆向きに作動するようにするためには、単に各コイルの通電方向を逆にすればよいのであるから、本件特許明細書の段落【0014】の記載から一義的に直流印加方式が導かれるものでもなく、被請求人の主張は採用できない。
(3)まとめ
以上のように、本件特許明細書には、本件発明における課題を解決すべき手段をその作用効果が関連づけて記載されているとは認められず、結果として本件発明が不明確である。

5.むすび
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をできる程度に本件発明が明確且つ十分に記載されているとは認められず、同特許請求に範囲の記載は、詳細な発明の説明に記載されておらず、また記載された発明が明確とはいえないから、本件特許は、特許法第36条第項の規定に違反してなされたものであり、本件発明の新規性・進歩性を判断するまでもなく、同法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
平成16年 3月30日
審判長 特許庁審判官 石井 良夫
特許庁審判官 岡田 和加子
特許庁審判官 金 公彦 」
 
審理終結日 2004-03-12 
結審通知日 2004-03-17 
審決日 2009-11-19 
出願番号 特願2000-167034(P2000-167034)
審決分類 P 1 112・ 121- Y (C02F)
P 1 112・ 536- Y (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 敬子  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 安齋 美佐子
小川 慶子
登録日 2002-06-21 
登録番号 特許第3319592号(P3319592)
発明の名称 会合分子の磁気処理のための電磁処理装置  
代理人 松永 孝義  
代理人 井澤 幹  
代理人 井澤 幹  
代理人 井澤 洵  
代理人 井澤 洵  
代理人 井澤 幹  
代理人 井澤 洵  
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