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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B |
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管理番号 | 1209704 |
審判番号 | 不服2008-6440 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-03-14 |
確定日 | 2010-01-07 |
事件の表示 | 特願2001-344864「光走査ユニット及びそれを備えた画像形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月21日出願公開、特開2003-149576〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成13年11月9日に特許出願したものであって、平成16年10月6日付け、平成19年10月25日付け及び平成20年1月11日付けで手続補正がなされたが、同年2月4日付けで平成20年1月11日付け手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月14日に拒絶査定不服審判請求がなされ、同年4月14日付けで手続補正がなされた後、当審において平成21年8月4日付けで拒絶理由が通知され、同年10月14日付けで手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項に係る発明は、平成21年10月14日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるものと認められるところ、請求項1の記載は、次のとおりである。 「 複数の半導体レーザと、前記複数の半導体レーザから射出された複数のレーザ光毎に設けられ且つ絞り形状が同一である複数の絞りと、前記複数の絞りのそれぞれにおいて光束径が絞られた複数のレーザ光を合成する合成手段と、前記合成手段で合成された前記複数のレーザ光を偏向走査する偏向手段と、前記偏向手段の偏向面で偏向走査された前記複数のレーザ光を被走査面上に結像させる結像レンズ系と、を有する光走査ユニットにおいて、 前記合成手段を構成する光学素子は、短波長になるに従い透過率が低下する特性を備えており、 前記複数の半導体レーザから射出された複数のレーザ光の波長のそれぞれは500nm以下であり、 前記複数の半導体レーザから射出された複数のレーザ光のそれぞれの中心軸における強度は等しく、 前記複数のレーザ光のうち、前記合成手段内を通過する距離が長いレーザ光の放射角を前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光の放射角より狭くすることで、前記合成手段内を通過する距離が長いレーザ光のカップリング効率を前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光のカップリング効率より大きくすることを特徴とする光走査ユニット。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 第3 当審において平成21年8月4日付けで通知した拒絶の理由 当審において平成21年8月4日付けで通知した拒絶の理由は、以下のとおりである。 「1 本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 記 (1)発明の詳細な説明には、【発明が解決しようとする課題】として、光学素子を通過する距離が長いレーザ光の光量を無理に上げて光量差をなくすようにすると、それを発するレーザの温度が上昇し、モードポップと呼ばれる波長シフトを生じること(【0007】)が挙げられており、光学素子を通過する距離が長いレーザ光の光量を上げて光量差をなくすということは、合成光の光量を下げずに光量差をなくすには、光学素子を通過する距離が長いレーザ光の光量を上げる必要があることをいうものと解される。 そして、【0008】、【0044】の記載によれば、本願発明は、半導体レーザの射出光量を増加させずに、合成されるレーザ光の光量差をなくすことを課題とし、合成手段を透過する各レーザ光の光量差をなくすように、レーザ光の放射角を調整したので、レーザの射出光量を増加させずに光量差をなくすことが可能となったとの効果を奏するとされていることが認められる。 しかるに、発明の詳細な説明における、本願発明の実施形態と認められる実施形態1の説明に照らすと、本願発明は、光学素子を通過する距離が短いレーザ光の放射角を広げることによって絞りを通過する光量を下げたものと考えられるところである。 してみると、合成光の光量を下げずに光量差をなくすには、光学素子を通過する距離が短いレーザ光の光量を上げることが必要になるものと考えられ、本願発明が、どのような構成、作用によって、「半導体レーザの射出光量を増加させずに、合成されるレーザ光の光量差をなくす」との課題を解決することができるのか理解できない。 (2)発明の詳細な説明をみても、半導体レーザが射出するレーザ光の放射角を調整するための手段が具体的にどのようなものであるのか不明である。 (3)以上の点において、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 (なお、本願出願時の技術常識を踏まえれば、発明の詳細な説明の記載に基づいて本願発明を実施できる場合には、技術常識の裏付けとなる文献を提示されたい。) (理由の2、3は省略)」 第4 本願明細書の記載 平成21年10月14日付けで補正された本願明細書(以下、単に「本願明細書」という。)には、以下の記載がある。 「 【0002】 【従来の技術】 従来、プリンタ等に用いられる光走査ユニットは、例えば、レーザの複数の光源から射出された光を、コリメータレンズにより平行な光にし、アパーチャーにより絞り、光学素子により合成した後、ポリゴンミラー等により進行方向を変えている。 【0003】 ポリゴンミラーの反射光は、射出された光を結像レンズ系等によって被走査面に光スポットとして結像されている。 【0004】 図10は特許第2942721号に記載されているマルチビーム走査装置の概略を示す斜視図である。この公報に記載されるマルチビーム走査装置でも、複数の半導体レーザから射出されたレーザ光が、コリメータレンズで平行光にされた後、光学素子を透過して合成されている。1回の走査で複数の走査線を描けるため、レーザビームプリンタやデジタル複写機などの処理の高速化が進められる装置で広く使用されている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 従来、上記の光走査ユニット等で用いられる半導体レーザは、波長が780nm程度の赤外線又は波長675nm程度の可視光線を射出していた。近年は形成される画像がより高解像化されることが要求されているため、微小スポット形状が得られる500nm以下の短波長の光を射出することが要求されている。 【0006】 ところが、光学素子には、短波長になるに従い内部吸収によりレーザ光の透過率を低下させる材料が用いられていることが多い。この場合、光学素子を通過する距離が長くなるほど透過する光の光量が減るので、500nm程度以下の短波長の光を用いて合成した場合、合成光における光量のバランスが崩れてしまう。 【0007】 これを防止するため、光学素子を通過する距離が長いレーザ光の光量を無理に上げて光量差をなくすようにすると、それを発するレーザの温度が上昇し、モードポップと呼ばれる波長シフトを生じる。そのため、各レーザが発する光に波長差が生じ、走査結像レンズの倍率色収差に起因する主走査方向のジッターが発生していた。また、レーザパワーを無理に上げた状態で使用していると、レーザの寿命が短くなるという問題もあった。 【0008】 そこで、本発明は、半導体レーザの射出光量を増加させずに、合成されるレーザ光の光量差をなくすことを課題とする。 【0009】 【課題を解決するための手段】 以上の課題を解決するために、本発明は、複数の半導体レーザと、前記複数の半導体レーザから射出された複数のレーザ光毎に設けられ且つ絞り形状が同一である複数の絞りと、前記複数の絞りのそれぞれにおいて光束径が絞られた複数のレーザ光を合成する合成手段と、前記合成手段で合成された前記複数のレーザ光を偏向走査する偏向手段と、前記偏向手段の偏向面で偏向走査された前記複数のレーザ光を被走査面上に結像させる結像レンズ系と、を有する光走査ユニットにおいて、 前記合成手段を構成する光学素子は、短波長になるに従い透過率が低下する特性を備えており、 前記複数の半導体レーザから射出された複数のレーザ光の波長のそれぞれは500nm以下であり、 前記複数の半導体レーザから射出された複数のレーザ光のそれぞれの中心軸における強度は等しく、 前記複数のレーザ光のうち、前記合成手段内を通過する距離が長いレーザ光の放射角を前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光の放射角より狭くすることで、前記合成手段内を通過する距離が長いレーザ光のカップリング効率を前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光のカップリング効率より大きくすることを特徴とする。 【0010】 【発明の実施の形態】 以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。 【0011】 (実施形態1) [構成の説明] 図1は本発明の実施形態1の光走査ユニットの概略構成図である。本実施形態の光走査ユニットは、画像データ等に基づく制御信号に基づいてレーザ光を射出する半導体レーザ1a及び1bと、射出された各レーザ光を平行光にするコリメータレンズ2a及び2bと、平行光にされた各レーザ光を所望のスポット径に絞って透過させる絞り3a及び3bと、絞り3bを透過したレーザ光の偏光方向を90°回転する1/2波長板4と、各レーザ光を合成する合成手段としてのプリズム5及び偏光ビームスプリッタ6と、合成されたレーザ光を円偏光にする1/4波長板7と、円偏光にされたレーザ光をポリゴンミラー9上で紙面垂直方向の副走査方向に集光するシリンドリカルレンズ8と、集光された光を偏向するポリゴンミラー9とを備えている。 【0012】 各半導体レーザ1a及び1bは、窒化ガリウム等の材料で製造される半導体レーザで、発振波長は約408nmである。半導体レーザ1aは反射面5aに対しS偏光の光を射出するように配置されており、半導体レーザ1bは合成境界面6aに対しS偏光の光を射出するように配置されている。半導体レーザの数は2つに限定される必要はない。例えば、モノリシックなマルチビームレーザを2個に合成したものや、シングルレーザを4個合成したものを使用しても構わない。 【0013】 図2及び図3は、図1の半導体レーザ1a及び1bが射出するレーザ光のビーム拡がり角(ファーフィールドパターンffp)と光強度分布との関係について示したグラフである。図2は半導体レーザ1aが射出するレーザ光について示し、図3は半導体レーザ1bが射出するレーザ光について示している。各図において、横軸はレーザ光のビーム拡がり角を示し、縦軸は光強度を示している。ビーム拡がり角はレーザ光の中心軸における強度を100%としたとき、その強度が50%になる放射角を意味する。偏光方向と平行な方向のビーム拡がり角をθ?、偏光方向と垂直な方向のビーム拡がり角をθ⊥とすると、図2ではθ?が5°程度、θ⊥が21°程度、図3ではθ?が16°程度、θ⊥が34°程度である。 【0014】 この条件で、コリメータレンズ3a又は3bの焦点距離fを20mm程度とし、絞り3a又は3bを紙面と平行な方向の主走査方向(長径)を3.5mm、紙面と垂直な方向の副走査方向(短径)を2.0mm程度の楕円状として、この順でレーザ光を透過させた場合のカップリング効率(絞りを通過する光量)を計算すると、半導体レーザ1aから射出されたレーザ光のカップリング効率は29.60%程度となるのに対し、半導体レーザ1bから射出されたレーザ光のカップリング効率は7.03%程度となる。 【0015】 なお、被走査面上での光スポットは主走査方向に絞られた長円状にする必要があり、そのため、絞り3a及び3bは図1の主走査方向に長い楕円状になっている。 【0016】 走査レンズは主走査と副走査でパワーが異なることが一般的であり、主走査方向のスポット径を副走査方向より絞るためには、主走査方向の射出Fナンバーを副走査より明るく設定する必要がある。そのため、絞りの形状を主副で異なる楕円状にしている。 【0017】 1/2波長板4は、絞り3bと偏光ビームスプリッタ6との間に配置されている。1/2波長板4は偏光方向を90°回転させようとしているが、製造誤差及び配置誤差などにより入射光のすべてが偏光方向を90°回転されることはなく、回転後の光量に損失が出る場合がある。それゆえ、半導体レーザ1a側よりも半導体レーザ1b側に配置することにより、全体としての光量のバランスをとるようにしている。 【0018】 プリズム5及び偏光ビームスプリッタ6は、光学樹脂又は光学ガラスを材料としている。プリズム5の反射面5aに対向する面と偏光ビームスプリッタ6の合成境界面6aとで接するように配置されている。プリズム5は反射面5aを有しており、半導体レーザ1aから射出された光を偏光方向を変えずに、90°で偏向ビームスプリッタ6側に反射する。偏光ビームスプリッタ6には合成境界面6aが形成されている。反射面5aで反射された光と、半導体レーザ1bから射出された光とはここで合成される。合成境界面6aは、S偏光を反射し、P偏光を透過する。一般にこのような偏光ビームスプリッタは、高屈折率の誘電体膜と低屈折率の誘電体膜とを交互に積層したものから構成される。高屈折率の材料としてはZnSなどがあげられ、低屈折率の材料としてはNa_(3)AlF_(6)などがあげられる。 【0019】 図4は、図1のプリズム5又は偏光ビームスプリッタ6を光学樹脂を材料として製造した場合の透過光の波長と透過率(厚みt=3.0mm)との関係について示す図である。図4において、横軸は入射光の波長を示し、縦軸は透過率を示している。AはZEONEX480(商品名 日本ゼオン製)を材料として製造したもの、Bはポリカーボネート(PC;Teijin Panlite L1250)を材料として製造したもの、CはPMMA(Mitsubishi Rayon Acrypet VH)を材料として製造したものについて示している。 【0020】 図4に示すように、赤外レーザの射出波長である780nm付近又は可視レーザの射出波長である675nm付近に比べて、窒化ガリウム系の短波長レーザの射出波長である400nm付近から、透過率が次第に減少している。光学ガラスを材料として製造した場合においても、同様に短波長になるに従い透過率が低下することが知られている。 【0021】 一般に光学素子の透過率は数式1で示すように、その反射係数P(表面反射成分)及び内部透過率τの積で与えられる。 全透過率T(λ)=P(λ)×τ(λ) … (1) 反射係数P(λ)は光学素子の屈折率n(λ)に依存し、以下の数式で表現できる。 反射係数P(λ)=2・n(λ)/(n(λ)^(2)+1) … (2) また、内部透過率τ(λ)は光学素子の厚さtに依存し、基準とする厚さの内部透過率をτ_(1)(λ)として、ランバードの法則より次の数式が成立する。 【0022】 内部透過率τ_(2)(λ)=τ_(1)(λ)^(t2/t1) … (3) ZEONEX480を材料として厚さ約3mmの光学素子を製造した場合、図4より全透過率T(408nm)は0.902程度となる。この材料の波長408nmの光に対する屈折率nが1.5402なので、内部透過率τ_(1)(408nm)は0.987程度となる。 【0023】 したがって、プリズム5及び偏光ビームスプリッタ6を透過する距離の差ΔLを18mm程度とすると、数式3より内部透過率τ_(2)=τ_(1)(408nm)^(18/3)は0.927程度となり、これらを透過する距離の差により7.3%程度の光量差が生じる。 【0024】 また、ポリカーボネート(PC)を材料として、同様にプリズム5及び偏光ビームスプリッタ6を製造した場合、内部透過率τ_(1)(408nm)は0.961程度で、τ_(2)(408nm)は0.789程度となって、これらを透過する距離の差により21.1%程度の光量差が生じる。 【0025】 複数のレーザ光を用いて画像を形成する場合、これらのレーザ光において光量差があると各画像に濃淡が生じる。そのため、この光量差をなくす必要があり、本実施形態では、プリズム5及び偏光ビームスプリッタ6を透過する距離が長い方のレーザ光のビーム拡がり角を狭くすることによって、この光量差をなくしている。 【0026】 ポリゴンミラー9で反射された光を被走査面上で結像する結像レンズ系は、等角速度で偏向されたレーザ光を所定の間隔で配置された被走査面上に等速度で走査させるfθ特性を有し、全走査域に亘って微小な光スポットを形成するように像面湾曲が良好に補正されることが必要とされる。なお、ポリゴンミラー9に代えてガルバノミラーを用いてもよい。 【0027】 また、ポリゴンミラー9は、ミラー面における加工誤差があったり、回転軸が振動したりするため、多くの結像レンズ系には副走査方向の走査位置のずれである面倒れを補正する倒れ補正手段がある。倒れ補正手段は、副走査断面においてポリゴンミラー9と被走査面とを光学的共役関係にすることで、ポリゴンミラー9における面倒れを補正している。このため、結像レンズ系は、主走査方向と副走査方向とで異なる結像特性を有するアナモフィクレンズ系となっている場合が多い。 【0028】 [動作の説明] 図1において、半導体レーザ1a及び1bは画像データ等に基づく制御信号が入力するとレーザ光を射出する。コリメータレンズ2a及び2bは、射出されたレーザ光が入射するとそれらを平行にする。絞り3a及び3bは、平行にされたレーザ光が入射するとそれらを所望の光束径に絞る。1/2波長板4は、絞り3bで絞られたレーザ光が入射すると、それらの偏光方向を90°回転させて、P偏光とする。 【0029】 プリズム5は、絞り3aで絞られたレーザ光が入射すると反射面5aで偏光ビームスプリッタ6がある方に90°で全反射する。合成境界面6aは、反射面5aで反射されたレーザ光及び偏光ビームスプリッタ6を透過したレーザ光が到達するとそれらを合成する。 【0030】 1/4波長板7は、合成されたレーザ光が入射するとそれを円偏光とする。シリンドリカルレンズ8は、円偏光となったレーザ光が入射すると、それをポリゴンミラー9上で紙面垂直方向である副走査方向に集光する。ポリゴンミラー9は副走査方向に集光されたレーザ光が入射すると、それを図示しない結像レンズ系に反射する。結像レンズ系は、反射されたレーザ光が入射するとこれを被走査面上に、主走査方向に絞られた長円状の光スポットに結像する。」 第5 判断 1(1)上記第4のとおり、本願明細書には、従来の技術である、複数の半導体レーザから射出されたレーザ光が、コリメータレンズで平行光にされた後、光学素子を透過して合成されるマルチビーム走査装置においては、光学素子に、短波長になるに従い内部吸収によりレーザ光の透過率を低下させる材料が用いられていることが多く、光学素子を通過する距離が長くなるほど透過する光の光量が減るので、500nm程度以下の短波長の光を用いて合成した場合、合成光における光量のバランスが崩れてしまうことを防止するために、光学素子を通過する距離が長いレーザ光の光量を無理に上げて光量差をなくすようにすると、それを発するレーザの温度が上昇し、モードポップと呼ばれる波長シフトを生じたり、レーザの寿命が短くなるという問題があることが、発明が解決しようとする課題として挙げられている(【0004】?【0007】)。 (2)ここで、単に、合成光における光量のバランスが崩れてしまうことを防止するためには、光学素子を通過する距離が長いレーザ光の光量を、上記(1)の問題が生じない程度のものとする一方、この光量とバランスがとれる程度に光学素子を通過する距離が短いレーザ光の光量を下げればよく、この場合には、上記(1)の問題が生じないことは明らかであるから、上記(1)の問題は、光学素子を通過する距離が短いレーザ光の光量を変えないことを前提として、この光量とバランスがとれる程度に、光学素子を通過する距離が長いレーザ光の光量を上げると、それを発するレーザの温度が上昇し、これに伴う問題が生じ得ることをいうものと解される。 (3)他方、前記第2によれば、本願発明は、複数の半導体レーザから射出された複数のレーザ光毎に同一形状の絞りを設け、前記絞りのそれぞれにおいてレーザ光の光束径を絞るものであって、合成手段内を通過する距離が長いレーザ光の放射角を、前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光の放射角より狭くすることで、前記合成手段内を通過する距離が長いレーザ光のカップリング効率を前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光のカップリング効率より大きくするようにしたものと認められる。 なお、「カップリング効率」(結合効率)とは、例えば「光ファイバーによって結合し、伝送される放射源から利用できる出力の端数。」(小柳修爾著「オプトロニクス光技術用語辞典第3版」、平成17年11月21日発行、(株)オプトロニクス)を意味するとされるところ、請求項1の記載のみでは、本願発明における「カップリング効率」の意味内容が不明であり、本願明細書の【0014】には、「カップリング効率(絞りを通過する光量)」とある一方、「半導体レーザ1aから射出されたレーザ光のカップリング効率は29.60%程度となるのに対し、半導体レーザ1bから射出されたレーザ光のカップリング効率は7.03%程度」として百分率で示されており、本願明細書の記載を参酌しても、その意味内容が必ずしも明確といえないが、「カップリング効率」との表現及びカップリング効率が百分率で示されることからすると、ひとまず、「半導体レーザから射出されたレーザ光のうち、絞りを通過する光量の割合」を意図したものと推測される。 (4)そうすると、本願発明は、合成手段内を通過する距離が長いレーザ光の放射角を、前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光の放射角より狭くすることで、前記合成手段内を通過する距離が長いレーザ光の、半導体レーザから射出されたレーザ光のうち、絞りを通過する光量の割合を前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光の同割合より大きくするようにしたものであって、放射角が狭い、合成手段内を透過する距離が長いレーザ光よりも、放射角が広い、合成手段内を透過する距離が短いレーザ光を絞りによって光量をより多く絞るようにしたものということができる。 なお、本願発明の「合成手段」とは、上記(1)(2)における「光学素子」に対応するものと認められる。 (5)ここで、上記(1)(2)の「レーザ光の光量」とは、光学素子に入射する光量を意味するものと解されるから、本願発明においては、「絞り」を通過する光量に相当し、上記(2)の「光学素子を通過する距離が短いレーザ光の光量を変えない」とは、本願発明においては、「合成手段内を透過する距離が短いレーザ光」が「絞り」を通過する光量を変えないことに相当するものと認められ、本願発明は、このことを前提とするものと解される(なお、上記(2)に照らして、「合成手段内を透過する距離が短いレーザ光」が「絞り」を通過する光量を下げてもよいのであれば、上記(1)の問題自体生じることはなく、本願発明が解決しようとする課題自体存在しないことになるし、光走査ユニットにおいては、仕様に応じた所定の光量で被走査面に微小スポットが形成されるのが通常であることも考慮すれば、「合成手段内を透過する距離が短いレーザ光」が「絞り」を通過する光量を変えないことが前提であるものと解さざるを得ない。)。 (6)しかるに、上記(4)のとおり、本願発明は、放射角が広い、合成手段内を透過する距離が短いレーザ光を絞りによって光量をより多く絞るようにしたものであるから、「合成手段内を透過する距離が短いレーザ光」が「絞り」を通過する光量を変えないようにするには、同レーザ光を出射する半導体レーザの射出光量を上げることが必要になるものと考えられる。 さらに、この場合には、上記(1)(2)と同様に、合成手段内を透過する距離が長いレーザ光を出射する半導体レーザの射出光量も上げることが必要になるものと考えられるところである。 (7)してみると、本願発明が、どのような構成、作用によって、「半導体レーザの射出光量を増加させずに、合成されるレーザ光の光量差をなくす」との課題を解決することができるのか理解できないといわざるを得ない。 2(1)本願発明は、「合成手段内を通過する距離が長いレーザ光の放射角を前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光の放射角より狭くすることで、前記合成手段内を通過する距離が長いレーザ光のカップリング効率を前記合成手段内を透過する距離が短いレーザ光のカップリング効率より大きくする」ものであるところ、前記第4のとおり、本願明細書には、【0013】に、図1の半導体レーザ1a及び1bが射出するレーザ光のビーム拡がり角に関する記載があるにとどまり、合成されるレーザ光の光量差をなくすべく、放射角の異なる半導体レーザをどのようにして得ることができるのか、全く記載されていない。 (2)なお、この点に関し、請求人は、平成21年10月14日付け意見書において、『「0014」記載のように、個体誤差、等に起因するffp(放射角)にバラツキを有する複数の半導体レーザを選別して、本願の補正請求項1の特徴Aを満たすように複数の半導体レーザを配置している。』旨主張するが、該主張内容は、本願明細書の記載に基づくものではないし、本願明細書の記載事項から当業者がそのように理解できると認めるに足る技術常識等の根拠も認めることができないから、上記主張は採用の限りでない。 3 以上によれば、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 よって、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項(平成14年法律第24号による改正前のもの。)に規定する要件を満たしていない。 第6 むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項(平成14年法律第24号による改正前のもの。)に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-10-28 |
結審通知日 | 2009-11-10 |
審決日 | 2009-11-25 |
出願番号 | 特願2001-344864(P2001-344864) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(G02B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 早川 貴之 |
特許庁審判長 |
服部 秀男 |
特許庁審判官 |
吉野 公夫 杉山 輝和 |
発明の名称 | 光走査ユニット及びそれを備えた画像形成装置 |
代理人 | 西山 恵三 |
代理人 | 内尾 裕一 |