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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1209768
審判番号 不服2007-2853  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-24 
確定日 2010-01-06 
事件の表示 平成10年特許願第350533号「呈味改善食品素材とその製造方法および同素材を含有する飲食品」拒絶査定不服審判事件〔平成12年6月20日出願公開、特開2000-166502〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年12月9日の出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成11年1月5日 手続補正書
平成18年9月26日付け 拒絶理由通知書
平成18年12月1日 意見書・手続補正書
平成18年12月20日付け 拒絶査定
平成19年1月24日 審判請求書・手続補正書
平成19年2月28日 手続補正書(審判請求書)
平成19年5月7日付け 前置報告書
平成20年12月25日付け 審尋
平成21年3月6日 回答書

第2 平成19年1月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定

〔補正の却下の決定の結論〕
平成19年1月24日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正
平成19年1月24日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲(平成18年12月1日付けの手続補正により補正されたもの)の
「【請求項1】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を、温度20?50℃において、pH5.5?6.2の範囲内のある一定のpHを維持するように、酸によりpH維持調整しながら作用させ、上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする呈味改善食品素材。
【請求項2】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を混合し、一定のpHを維持するように、酸によりpH維持調整することで上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したものを乾燥し粉体化したことを特徴とする呈味改善食品素材。
【請求項3】
クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整を行ったことを特徴とする請求項1または2記載の呈味改善食品素材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の呈味改善食品素材を添加したことを特徴とする飲食品。
【請求項5】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を、温度20?50℃において、pH5.5?6.2の範囲内のある一定のpHを維持するように、酸によりpH維持調整しながら作用させ、上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換することを特徴とする呈味改善食品素材の製造方法。
【請求項6】
pHを5.8に維持することを特徴とする請求項5記載の呈味改善食品素材の製造方法。
【請求項7】
クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整を行うことを特徴とする請求項5または6記載の呈味改善食品素材の製造方法。」

「【請求項1】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を、温度20?50℃において、pHを5.8に維持するように、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整しながら作用させ、上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする呈味改善食品素材。
【請求項2】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を混合し、pHを5.8に維持するように、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整することで上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したものを乾燥し粉体化したことを特徴とする呈味改善食品素材。
【請求項3】
請求項1または2のいずれかに記載の呈味改善食品素材を添加したことを特徴とする飲食品。
【請求項4】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を、温度20?50℃において、pHを5.8に維持するように、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整しながら作用させ、上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換することを特徴とする呈味改善食品素材の製造方法。
【請求項5】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を混合し、pHを5.8に維持するように、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整することで上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したのち、乾燥し粉体化することを特徴とする呈味改善食品素材。」
とするものを含むものである。

2 補正の適否
(1)補正の目的の適否
この補正は、補正前の【請求項1】に記載した発明を特定するために必要な事項(発明特定事項)である「pH5.5?6.2の範囲内のある一定のpHを」を、「pHを5.8に」に限定し、「酸」を「クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸」に限定するものであり、補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また、この補正は、補正前の【請求項2】に記載した発明を特定するために必要な事項(発明特定事項)である「一定のpHを」を「pHを5.8に」に限定し、「酸」を「クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸」に限定するものであり、補正前の請求項に記載された発明と補正後の請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
そして、補正前の【請求項3】及び【請求項7】を削除するものであるから、請求項の削除を目的とするものであるといえる。
よって、上記補正は、平成18年法律第55号改正第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除及び同条同項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
次に、以下、平成18年改正前特許法第126条第5項に規定する、いわゆる独立特許要件について検討すると、本件補正後における前記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本願補正発明」という。)は、次の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ア 本願補正発明について
本願補正発明は、以下のとおりである。
「乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を、温度20?50℃において、pHを5.8に維持するように、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整しながら作用させ、上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする呈味改善食品素材。」

イ 刊行物について
(ア)特開平3-244366号公報(原査定における引用文献1。以下、「刊行物1」という。)
(イ)特開平3-236763号公報(原査定における引用文献2。以下、「刊行物2」という。)

ウ 刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1について
1-a「1.化学的又は酵素的加水分解でグルタミン酸を多く生成することとなる食材の加水分解液にグルタミン酸脱炭酸酵素を作用させて、該加水分解液中のグルタミン酸の一部をγ-アミノ酪酸にすることを特徴とする飲食品の製造方法。
2.食材が穀類、種実類及び乳製品から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の飲食品の製造方法。

4.グルタミン酸脱炭酸酵素として、その酵素源から得られる搾汁液、水抽出液、これらの濃縮液又はこれらの乾燥物を用いる請求項1、2又は3記載の飲食品の製造方法。
5.酵素源が、未熟トマト、カボチャ、ニンジン及びダイコンから選ばれる1種又は2種以上である請求項4記載の飲食品の製造方法。
6.グルタミン酸脱炭酸酵素を温度15?35℃、PH4.0?6.0で作用させる請求項1、2、3、4又は5の飲食品の製造方法。
7.請求項1、2、3、4、5又は6記載の製造方法によって得られる飲食品。
8.トマト飲料又は野菜飲料である請求項7記載の飲食品。」(特許請求の範囲)

1-b「本発明は、血圧上昇抑制作用のある化合物として注目されているγ-アミノ酪酸を多く含有する健康性の高い飲食品の製造方法及び該製造方法によって得られる健康性の高い飲食品に関する。」(1頁右下欄12行?15行)

1-c「本発明において、グルタミン酸脱炭酸酵素を作用させる加水分解液の原料となる食材は、化学的又は酵素的加水分解でグルタミン酸を多く生成することとなる食材である。かかる食材として代表的には、穀類、種実類又は乳製品等が挙げられるが、なかでも特に、取扱いの便宜上、穀類の一次処理物である小麦蛋白や大豆蛋白を用いるのが好ましい。本発明では、上記のような食材を、必要に応じ適宜に破砕乃至磨砕し、水系で酸やプロテアーゼにより加水分解する。」(2頁右上欄14行?左下欄3行)

1-d「グルタミン酸脱炭酸酵素は種々の植物体中に存在しており、したがって本発明では、その酵素源としてこれら種々の植物体を用いることができるが、なかでも、酵素活性の点で、未熟トマト、カボチャ、カボチャの皮、ニンジン及びダイコンから選ばれる1種又は2種以上を用いるのが好ましい。そして具体的に、グルタミン酸脱炭酸酵素としては、これらの酵素源の例えば磨砕物を用いることもできるが、取扱いの便宜上、該酵素源から得られる搾汁液、水抽出液、これらの濃縮液又はこれらの乾燥物を用いるのが好ましい。」(2頁左下欄4行?14行)

1-e「食材の加水分解液にグルタミン酸脱炭酸酵素を作用させるには、必要に応じ適宜にPH調整、酵素失活、温度調整等を行なった加水分解液にグルタミン酸脱炭酸酵素又はその酵素源を加え、数時間、そのまま静置するか又は緩慢な攪拌下に放置すればよい。この際、通常は温度5?50℃でPH3.5?7.5に維持するが、好ましくは温度15?35℃でPH4.0?6.0に維持する。」(2頁左下欄15行?右上欄2行)

1-f「既に明らかなように、以上説明した本発明には、制御し易い条件下に、γ-アミノ酪酸を多く含有する飲食品を製造することができ、しかもその性質上、γ-アミノ酪酸の1回の摂取量を多くすることができるという効果がある。」(3頁左下欄下から1行?右下欄4行)

(イ)刊行物2について
2-a「1.グルタミン酸脱炭酸酵素活性の強い野菜処理物にグルタミン酸及び/又はその塩を加えて、該グルタミン酸及び/又はその塩の一部をγ-アミノ酪酸にすることを特徴とする飲食品の製造方法。
2.野菜処理物の原料として、未熟トマト、カボチャ、ニンジン及びダイコンから選ばれる1種又は2種以上を用いる請求項1記載の飲食品の製造方法。

4.グルタミン酸脱炭酸酵素を温度15?30℃、PH4.0?6.0で作用させる請求項1、2又は3の飲食品の製造方法。
5.請求項1、2、3又は4記載の製造方法によって得られる飲食品。…」(特許請求の範囲)

2-b「グルタミン酸脱炭酸酵素は種々の植物体中に存在しており、したがってその酵素源としてはこれら種々の植物体を用いることも考えられるが、これらのうちで本発明では、その酵素活性の強い野菜処理物を用いる。かかる野菜処理物の原料としては、未熟トマト、カボチャ、カボチャの皮、ニンジン及びダイコンから選ばれる1種又は2種以上を用いるのが好ましい。野菜処理物の形態としては、破砕物、磨砕物、搾汁液、濾液、遠心分離液等があり、本発明ではこれらのいずれも使用し得るが、製造上の便宜上からして、またグルタミン酸脱炭酸酵素の円滑な作用を促すために、搾汁液を用いるのが好ましい。」(2頁右上欄7行?19行)

2-c「本発明では、上記のような野菜処理物にグルタミン酸及び/又はその塩を加える。該グルタミン酸及び/又はその塩として、これらを多く含有する食材、例えばアボガド、ブロッコリー、ジャガイモ、コーン等の処理物を代用又は併用してもよい。」(2頁左下欄4行?9行)

エ 刊行物に記載された発明
刊行物1には、グルタミン酸を多く生成することとなる食材の加水分解液にグルタミン酸脱炭酸酵素を作用させて、該加水分解液中のグルタミン酸の一部をγ-アミノ酪酸にすることを特徴とする飲食品の製造方法及び該製造方法によって得られる飲食品が記載されている(摘記1-a)。そして、食材としては、穀類(摘記1-a及び1-c)、グルタミン酸脱炭酸酵素の酵素源としては、カボチャやカボチャの皮が記載されており(摘記1-a及び1-d)、グルタミン酸脱炭酸酵素としては、酵素源の磨砕物や水抽出物などが用いることができる旨記載されている。さらに、グルタミン酸脱炭酸酵素を作用させるには、温度15?35℃でPH4.0?6.0に維持することが好ましい旨の記載もされている(摘記1-e)。
よって、刊行物1には、本願補正発明にならって記載すると、
「穀類の加水分解液を使用し、それに、カボチャの磨砕物、あるいはカボチャの水抽出液に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素を、温度35?50℃において、pH4.0?6.0の範囲内に維持するように作用させ、上記加水分解液中のグルタミン酸の一部をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする飲食品」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

オ 本願補正発明と引用発明との対比・判断
(ア)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
まず、引用発明の「加水分解液」及び「水抽出液に含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素」は、本願補正発明の「分解物」及び「抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素」に相当する。
してみると、両者は、
「分解物を使用し、それに、カボチャの磨砕物、あるいはカボチャから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を作用させ、上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする物品」
という点で一致し、下記の点(i)?(iii)において相違するということができる。
(i)分解物が、本願補正発明は「乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物」であるのに対して、引用発明は「穀類の加水分解液」である点
(ii)グルタミン酸脱炭酸酵素を作用させる温度及びpHが、本願補正発明は「温度20?50℃において、pHを5.8に維持するように、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整しながら作用」させるのに対して、引用発明は「温度35?50℃において、pH4.0?6.0の範囲内に維持するように作用」させる点
(iii)物品が、本願補正発明は「グルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする呈味改善食品素材」であるのに対して、引用発明は「グルタミン酸の一部をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする飲食品」である点

(イ)判断
a 相違点(i)について
刊行物1には、グルタミン酸を多く生成することとなる食材として、穀類が記載されている(摘記1-a及び1-c)。一方、刊行物2には、グルタミン酸脱炭酸酵素活性の強い野菜処理物を作用させて、グルタミン酸をγ-アミノ酪酸にする際に用いる、グルタミン酸を多く含有する食材としてコーン、すなわち、トウモロコシが記載されている。
よって、引用発明において、グルタミン酸を多く生成することとなる食材である穀類として、トウモロコシを選択することは、当業者であれば容易に想到することである。

b 相違点(ii)について
グルタミン酸脱炭酸酵素を作用させる温度において、本願補正発明は「20?50℃」であるのに対して、引用発明は「35?50℃」であるから、35?50℃において重複しており、温度は実質的な相違点とはならない。
また、グルタミン酸脱炭酸酵素を作用させるpHにおいて、本願補正発明は「pHを5.8に維持するように、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整しながら作用」させるのに対して、引用発明は「pH4.0?6.0の範囲内に維持するように作用」させる点で相違している。しかしながら、一般に、酵素はpHによって酵素活性が変化するものであり、各酵素ごとに、酵素活性が最大となるpH、すなわち至適pHが存在することは、当該技術分野における技術常識であるから(例えば、特開平9-37780号公報の【図3】,【図8】及び特開平8-131166号公報の【図3】等参照)、酵素反応を効率的に行うために、酵素の至適pHを決定し、決定された至適pHの状態を維持して反応を行うこと、そのためにクエン酸やリンゴ酸等の酸でpHを調整することは、当業者であれば容易に想到することである(例えば、特開平9-107920号公報及び特開昭63-188336号公報等)。
よって、引用発明において、温度35?50℃で、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適pHに維持するように、クエン酸あるいはリンゴ酸等の酸によりpH維持調整しながら作用させることは、当業者であれば容易に想到することである。

c 相違点(iii)について
本願補正発明の「グルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする呈味改善食品素材」について、平成11年1月5日、平成18年12月1日及び平成19年1月24日付けの手続補正書により補正された明細書(以下、「本願補正明細書」という。)をみてみると、「特にグルタミン酸に由来する強い呈味が改善された呈味改善食品素材」(【0001】)、「蛋白分解物における主要な呈味成分であるグルタミン酸を呈味性の低いγ-アミノ酪酸に効率よく変換することができ、グルタミン酸に起因する強い呈味を緩和することができるものである。」(【0014】)、「本発明呈味改善食品素材は、…従来、グルタミン酸に起因する強い呈味のために、食品への使用が制限されていた食品蛋白の分解物の利用性を高めるのに寄与する。」(【0016】)等記載され、実施例及び比較例においては、グルタミン酸が多く残存している比較例が、塩味、苦味、渋味が強いのに対して、グルタミン酸がγ-アミノ酪酸に変換された実施例が、塩味、苦味、渋味などの呈味が緩和され、爽やか呈味を有するようになった旨記載されている(【0028】?【0039】)ことから、本願補正発明の「呈味改善」とは、グルタミン酸に起因する強い呈味を緩和することであるといえる。そして、「グルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換した」とは、実施例の【表2】等を参酌すれば、グルタミン酸の一部をγ-アミノ酪酸に変換したものも包含しているといえる。
一方、引用発明は、グルタミン酸の一部をγ-アミノ酪酸にするものであり(摘記1-a)、γ-アミノ酸を多く含有する健康性の高い飲食品に関する発明であるから(摘記1-b及び1-f)、できるだけ多くのグルタミン酸をγ-アミノ酪酸にしているといえ、その結果として、グルタミン酸に起因する強い呈味を緩和した「呈味改善」飲食品になっているといえる。そして、引用発明の「飲食品」には、トマト飲料や野菜飲料が包含されており(摘記1-a)、これらの飲料は、そのまま飲むだけでなく、食品の製造に用いられるものであることは明らかであるから、引用発明の「飲食品」は、本願補正発明の「食品素材」に相当する。
よって、相違点(iii)は、実質的な相違点とはならない。

カ 本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は、本願補正明細書の【0049】?【0050】に示されているように、以下のとおりであるといえる。
a「乳、トウモロコシまたはカカオ豆に含まれるグルタミン酸を、カボチャおよび/またはキュウリに含まれるグルタミン酸脱炭酸酵素の作用によりγ-アミノ酪酸に変換させることによって、消化吸収性がよく、蛋白質に起因するアレルギー(チャイニーズレストランシンドローム)の心配がなく、さらにγ-アミノ酪酸を多量に含むことにより動脈硬化等の疾病の予防が可能であって、かつ、呈味が改善され、栄養学的にも利用価値の高い呈味改善食品素材またはそれを含有する飲食品を提供できる。」

b「特に、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸によりpHを5.5?6.2、好ましくは5.8に調整しながら作用させた場合の効果は著しく、乳、トウモロコシまたはココア豆蛋白分解物の塩味、苦味、渋味等が顕著に緩和され、爽やかな呈味を有し、しかも、低吸湿性の呈味改善食品素材またはそれを含有する飲食品となる。」

【aについて】
「消化吸収性がよく、蛋白質に起因するアレルギー(チャイニーズレストランシンドローム)の心配がなく、さらにγ-アミノ酪酸を多量に含むことにより動脈硬化等の疾病の予防が可能」であるという効果については、本願補正明細書に具体的な裏付けがない。
そして、「呈味が改善され、栄養学的にも利用価値の高い呈味改善食品素材またはそれを含有する飲食品を提供」するという効果については、上記「オ c 相違点(iii)について」で示したように、本願補正発明の「呈味改善」とは、グルタミン酸に起因する強い呈味を緩和することであるといえ、一方、引用発明は、できるだけ多くのグルタミン酸をγ-アミノ酪酸にした結果として、グルタミン酸に起因する強い呈味を緩和した「呈味改善」飲食品になっているといえるから、予測できる範囲の効果であるといえる。

【bについて】
「pHを…5.8に調整しながら作用させた場合の効果は著しく、乳、トウモロコシまたはココア豆蛋白分解物の塩味、苦味、渋味等が顕著に緩和され、爽やかな呈味を有」するという効果については、上記「オ b 相違点(ii)について」で示したように、至適pHにおいて、酵素活性は最大となるから、グルタミン酸が効率的にγ-アミノ酪酸に変換されることとなり、結果として、グルタミン酸に起因する塩味、苦味、渋味等が緩和されるといえる。よって、爽やかな呈味を有するという効果については、予測できる範囲の効果であるといえる。
また、「低吸湿性の呈味改善食品素材またはそれを含有する飲食品となる」という効果については、本願補正明細書の【表8】において、pH無調整の比較例とpHを調整した実施例の吸湿性測定結果を示しているが、比較例よりも吸湿性の高い実施例もあることから、低吸湿性であるという効果について、格別顕著な効果であるとは認められない。

してみると、本願補正発明の効果は、予測できる範囲のものであり、格別顕著な効果であるとはいえない。

キ まとめ
したがって、本願補正発明は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ク 請求人の主張について
請求人は、平成19年2月28日の手続補正書(審判請求書)の3頁12行?18行において、以下の主張をしている。
「引用文献1に記載の発明は、このような内容の発明であることから、第1表、第2表、第3表を見れば分かるように、得られた飲食品中に含まれるL-グルタミン酸の量(単位はmg%)が「125」「82」「125」と高くなっており、それにより、これらの表に示されているようにγ-アミノ酪酸の生成量が本願発明に比べて格段に低い数値となっている。
したがって、引用文献1に記載の発明では、グルタミン酸の残存量を極力少なくして、より多くのγ-アミノ酪酸を生成させるということは不可能である。」

しかしながら、刊行物1には、γ-アミノ酪酸を多く含有する健康性の高い飲食品を製造することを目的としていることから、γ-アミノ酪酸をできるだけ多く含む飲食品を得ようという技術思想が記載されているといえ、上記「オ b 相違点(ii)について」で示したように、酵素の至適pHを決定し、決定された至適pHの状態を維持して反応を行うことによって、グルタミン酸が効率的にγ-アミノ酪酸に変換されるのであるから、グルタミン酸の残存量を極力少なくして、より多くのγ-アミノ酪酸を生成させるということは不可能であるという請求人の主張は採用できない。

ケ 小括
以上のとおり、本願補正発明は、その出願前頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
そうすると、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、平成11年1月5日及び平成18年12月1日付けの手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1?7に係る発明を、それぞれ「本願発明1」?「本願発明7」といい、併せて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を、温度20?50℃において、pH5.5?6.2の範囲内のある一定のpHを維持するように、酸によりpH維持調整しながら作用させ、上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする呈味改善食品素材。
【請求項2】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を混合し、一定のpHを維持するように、酸によりpH維持調整することで上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したものを乾燥し粉体化したことを特徴とする呈味改善食品素材。
【請求項3】
クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整を行ったことを特徴とする請求項1または2記載の呈味改善食品素材。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の呈味改善食品素材を添加したことを特徴とする飲食品。
【請求項5】
乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物を使用し、それに、カボチャおよび/またはキュウリの磨砕物、あるいは同カボチャおよび/またはキュウリから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を、温度20?50℃において、pH5.5?6.2の範囲内のある一定のpHを維持するように、酸によりpH維持調整しながら作用させ、上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換することを特徴とする呈味改善食品素材の製造方法。
【請求項6】
pHを5.8に維持することを特徴とする請求項5記載の呈味改善食品素材の製造方法。
【請求項7】
クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整を行うことを特徴とする請求項5または6記載の呈味改善食品素材の製造方法。」

2 原査定の拒絶の理由
本願発明についての原査定の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。
「したがって、本願請求項1-2、4-6に係る発明は、先の拒絶理由通知書で引用した引用文献1-2に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであり、本願請求項3-4、7に係る発明は、先の拒絶理由通知書で引用した引用文献1-3に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

3 刊行物について
引用文献1,2は、「第2 2(2)イ」に示したとおり、刊行物1,2と同じである。

4 刊行物に記載された事項
刊行物1,2に記載された事項は、「第2 2(2)ウ」に示したとおりである。

5 刊行物に記載された発明
刊行物1に記載された発明は、「第2 2(2)エ」に示したとおりである。

6 本願発明1と引用発明との対比・判断
(ア)対比
本願発明1は、本願補正発明の「pHを5.8に維持するように、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸から選ばれる1種または2種以上の酸によりpH維持調整しながら作用させ」を「pH5.5?6.2の範囲内のある一定のpHを維持するように、酸によりpH維持調整しながら作用させ」とするものであるから、 本願発明1と引用発明とを対比すると、両者は、
「分解物を使用し、それに、カボチャの磨砕物、あるいはカボチャから抽出したグルタミン酸脱炭酸酵素を作用させ、上記分解物中のグルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする物品」
という点で一致し、下記の点(i’)?(iii’)において相違するということができる。
(i’)分解物が、本願発明1は「乳、トウモロコシまたはカカオ豆の分解物」であるのに対して、引用発明は「穀類の加水分解液」である点
(ii’)グルタミン酸脱炭酸酵素を作用させる温度及びpHが、本願発明1は「温度20?50℃において、pH5.5?6.2の範囲内のある一定のpHを維持するように、酸によりpH維持調整しながら作用」させるのに対して、引用発明は「温度35?50℃において、pH4.0?6.0の範囲内に維持するように作用」させる点
(iii’)物品が、本願発明1は「グルタミン酸をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする呈味改善食品素材」であるのに対して、引用発明は「グルタミン酸の一部をγ-アミノ酪酸に変換したことを特徴とする飲食品」である点

(イ)判断
a 相違点(i’)について
相違点(i’)は、上記「第2 2(2)オ(ア)」の相違点(i)を同じであるから、上記「第2 2(2)オ(イ)a」と同様の理由により、引用発明において、グルタミン酸を多く生成することとなる食材である穀類として、トウモロコシを選択することは、当業者であれば容易に想到することである。

b 相違点(ii’)について
グルタミン酸脱炭酸酵素を作用させる温度において、本願発明1は「20?50℃」であるのに対して、引用発明は「35?50℃」であるから、35?50℃において重複しており、温度は実質的な相違点とはならない。
また、グルタミン酸脱炭酸酵素を作用させるpHにおいて、本願発明1は「pH5.5?6.2の範囲内のある一定のpHを維持するように、酸によりpH維持調整しながら作用」させるのに対して、引用発明は「pH4.0?6.0の範囲内に維持するように作用」させる点で相違している。しかしながら、一般に、酵素はpHによって酵素活性が変化するものであり、各酵素ごとに、酵素活性が最大となるpH、すなわち至適pHが存在することは、当該技術分野における技術常識であるから(例えば、特開平9-37780号公報の【図3】,【図8】及び特開平8-131166号公報の【図3】等参照)、酵素反応を効率的に行うために、酵素の至適pHを決定し、決定された至適pHの状態を維持して反応を行うこと、そのためにクエン酸やリンゴ酸等の酸でpHを調整することは、当業者であれば容易に想到することである(例えば、特開平9-107920号公報及び特開昭63-188336号公報等)。
よって、引用発明において、温度35?50℃で、グルタミン酸脱炭酸酵素の至適pHに維持するように、酸によりpH維持調整しながら作用させることは、当業者であれば容易に想到することである。

c 相違点(iii’)について
相違点(iii’)は、上記「第2 2(2)オ(ア)」の相違点(iii)を同じであるから、「第2 2(2)オ(イ)(iii)」と同様の理由により、相違点(iii’)は、実質的な相違点とはならない。

7 本願発明の効果について
本願発明の効果は、本願明細書の【0049】?【0050】の記載によれば、上記「第2 2(2)カ」のa?bと同様である。
そして、上記「第2 2(2)カ」で述べたように、本願発明1の効果は、予測できる範囲のものであり、格別顕著な効果であるとはいえない。

8 まとめ
したがって、本願発明1は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-10 
結審通知日 2009-11-11 
審決日 2009-11-25 
出願番号 特願平10-350533
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
P 1 8・ 575- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 飯室 里美村上 騎見高  
特許庁審判長 西川 和子
特許庁審判官 原 健司
坂崎 恵美子
発明の名称 呈味改善食品素材とその製造方法および同素材を含有する飲食品  
代理人 小林 恒夫  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 藤野 育男  
代理人 本田 亜希  
代理人 岡部 讓  
代理人 高梨 憲通  
代理人 木村 克彦  
代理人 越智 隆夫  
代理人 岡部 正夫  
代理人 臼井 伸一  
代理人 齋藤 正巳  

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