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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E04B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04B
管理番号 1209773
審判番号 不服2007-26891  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-01 
確定日 2010-01-06 
事件の表示 特願2001-387985「アンカー」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月19日出願公開、特開2002-201717〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成13年12月20日(パリ条約による優先権主張、2000年12月20日、フランス国)の出願であって、平成19年6月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月1日に審判請求がなされるとともに、同年10月31日付けで手続補正がなされたものである。
その後、前置報告書の内容について、審判請求人の意見を求めるために平成20年12月22日付けで審尋がなされたが、当該審尋に対する回答書は提出されなかった。

2.平成19年10月31日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年10月31日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1は、
補正前の
「固い材料のためのアンカーであって、ボア部分(13)を有した膨張スリーブ(1)と、概ね同じテーパ角のテーパ状のプラグ(15)とを具備し、前記膨張スリーブ(1)内に押し込まれる前記プラグ(15)の楔効果により膨張するアンカーにおいて、
膨張スリーブ(1)が膨張する間に、その軸方向の伸長長さを短くする手段(9、25)を具備したことを特徴とするアンカー。」
から、
「プラグを挿入する方向から見て細くなるテーパ状のテーパ領域を有する、ボア部分(13)を有する膨張スリーブ(1)と、該プラグの大部分の長さに渡り、テーパ状の外面を有し、前記テーパ領域と概ね同じテーパ角を有するプラグ(15)とを具備し、前記膨張スリーブ(1)内に押し込まれる前記プラグ(15)の楔効果により膨張する、固い材料用のアンカーであって、
前記スリーブが、膨張スリーブ(1)が拡張する間に、その軸方向の伸長さを短くするように変形可能な端部を有し、前記スリーブは更に、前記変形可能な端部を形成するように、前記テーパ領域の端部に形成される、脆弱部を形成する周溝(9)を有し、
前記変形可能な端部の前記ボア部分の領域は、プラグを挿入する方向から見て、増加するテーパ状である、
ことを特徴とするアンカー。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1に記載した事項である「膨張スリーブ」について「プラグを挿入する方向から見て細くなるテーパ状のテーパ領域を有する」との限定、同「プラグ」について「該プラグの大部分の長さに渡り、前記テーパ領域と概ね同じテーパ角を有する」との限定を付加するとともに、同「軸方向の伸張長さを短くする手段」を「変形可能な端部を有し、前記スリーブは更に、前記変形可能な端部を形成するように、前記テーパ領域の端部に形成される、脆弱部を形成する周溝を有し、前記変形可能な端部の前記ボア部分の領域は、プラグを挿入する方向から見て、増加するテーパ状である」と限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて以下に検討する。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平9-210028号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の記載がある。
(イ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】拡開スリーブ(2)の一端部に荷重負荷手段(4)を、他端部には拡開領域を有し、該拡開領域は拡開スリーブ(2)の装着方向側端部に向けて開放した長手方向スリット(7)により複数の拡開フラップ(6)に区分され、これら拡開フラップは第1の塑性変形継手(5)を介して拡開スリーブ(2)と結合すると共に前記長手方向スリット(7)によって中断した環状結合部分(8)を拡開スリーブ(2)の外周面に有し、さらに、前記拡開領域を拡開させるべく拡開本体(13)を拡開スリーブ(2)の軸線方向貫通孔(3)内で初期位置から最終位置まで打込み可能とした拡開アンカにおいて、拡開フラップ(6)は外周環状結合部分(8)を超えて延在させると共に第2の塑性変形継手(9)を介してスペーサ(10)と一体的に結合し、該スペーサを拡開フラップ(6)の拡開運動に応じて曲折可能としたことを特徴とする拡開アンカ。
【請求項2】請求項1記載の拡開アンカにおいて、貫通孔(3)は第1の塑性変形継手(5)から第2の塑性変形継手(9)へ向けて環状結合部分(8)の領域に配置した最小孔径の領域まで内径が減少するテーパ形状を呈し、貫通孔(3)の内壁(31)は、拡開スリーブ(2)の中心軸線(A)に対して約8°?13°、好適には約10°のテーパ角度をなすと共に、拡開スリーブ(2)の前端に向けて再び拡大する形状としたことを特徴とする拡開アンカ。・・・」
(ロ)「【0009】本発明の好適な実施例において、貫通孔は第1の塑性変形継手から第2の塑性変形継手へ向けて外周の環状結合部分領域に配置した最小径領域まで先細のテーパ形状を示し、その際に貫通孔の内壁が拡開スリーブの長手方向軸線に対してなすテーパ角度は約8°?13°、好適には約10°であり、次いで拡開スリーブの前端に向けて再び拡大する。貫通孔が環状結合部分領域において最小径となるため、そこで最大の拡開圧力が生じてドリル孔内壁に対する効果的な形状結合が可能となる。その際、当該領域では拡開本体の狭まりの程度は僅かである。したがって、拡開本体が打込まれた最終位置で確実に固定され、後方に滑動することが不可能となる。貫通孔の内壁が拡開スリーブの長手方向軸線に対してなすテーパ角度を約8°?13°、好適には約10°としたことにより、拡開時に生じる力が許容限度を超えることなく、硬質基盤であっても拡開本体を貫通孔内で初期位置から最終位置まで確実に打込むことが可能となる。」
(ハ)「【0010】拡開スリーブはスペーサの領域において、環状結合部分の領域における外径よりも小さい外径を有する構成とするのが好適である。これにより拡開アンカーはドリル孔底部に向かって狭まる孔内で底部まで変位可能となり、ドリル孔の入口から外部に突出しなくなる。さらに、本発明の特有の配置により軸線方向の力成分の半径方向拡開力への転向を支援することが可能となる。」
(ニ)「【0021】拡開フラップ6は環状結合部分8を超えて延在させ、第2の塑性変形継手9を介してスペーサ10と一体的に結合する。スペーサ領域における拡開スリーブの外径dは、外周環状結合部分8の領域における外径rよりも小とする。第2の塑性変形継手9からスペーサの前端12までの距離に相当するスペーサの長さaは、第1の塑性変形継手5から拡開スリーブ2の前端までの距離に相当する拡開フラップ6の全長lの約0. 19?0. 2倍とし、前記の端部は同時にスペーサ10の最前端12を形成する。・・・」
(ホ)「【0022】拡開スリーブの貫通孔3は、内ねじ4を有する後端領域において円筒形状を呈する。第1の塑性変形継手5と外周環状結合部分8との間において、貫通孔3は最小内径iに至るまで円錐形状を成し、その最小内径は環状結合部分8の領域に配置する。円錐形状領域において、貫通孔3の内壁31は拡開スリーブ2の中心軸線Aに対して約8°?13°、特に約10°の角度βを形成する。最小内径iを有する領域に続き、貫通孔3は拡開スリーブ2の前端方向で再び拡大する。・・・」
(へ)「【0023】・・・図2において、拡開本体13は打込まれた最終位置にあることを示している。壁構造Mにおけるドリル孔Bに装着した拡開アンカ1は、拡開フラップ6の外側面62において孔の内壁に加圧結合した状態で係止される。さらに、外周環状結合部分8はドリル孔Bの内壁と協働して拡開の間に形状結合を生じさせる。スペーサ10は第2の塑性変形継手9を介して中心軸線Aに対して内側に傾倒し、キャップ形状とした端面11がドリル孔底部において展開する。拡開本体13の前部領域14は、スペーサ領域における貫通孔3の円筒形状部分に収める。例示したように、前記の前部領域14は、円錐形状の延長部とすることができる。・・・」
(ト)図1には、拡開アンカーの縦断面図が記載されており、貫通孔3の内壁31が拡開本体13が打込まれる側から見て細くなる円錐形状を成し、拡開本体13の前部領域14が、貫通孔3の内壁31と概ね同じ形状の円錐形状を有していること、及び当該円錐形状が第2の塑性変形継手9付近で再び拡大していることが示されている。
(チ)上記(ヘ)の記載と各図面を参酌すれば、円錐形状の領域の端部である第2の塑性変形継手9は脆弱部を形成する周溝により形成されていることがわかる。

これらの記載によれば、引用例1には、
「拡開本体(13)を打込む側から見て細くなる円錐形状の領域を有する、拡開フラップ(6)を有する拡開スリーブ(2)と、前記円錐形状の領域と概ね同じ円錐形状の前部領域を有する拡開本体とを具備し、前記拡開スリーブ内に打込まれる前記拡開本体により拡開する、硬質基盤に用いるアンカであって、
前記拡開スリーブは、拡開スリーブが拡開する間に、内側に傾倒する端部(スぺーサ10)を有し、前記拡開スリーブは更に、前記内側に傾倒する端部を形成するように、前記円錐形状の領域の端部に形成される、脆弱部を形成する周溝により形成される第2の塑性変形継手(9)を有し、
前記内側に傾倒する端部は、拡開本体を打込む側から見て、拡大する円錐形状であるアンカ。」
との発明(以下、「引用例発明」という。)が開示されていると認めることができる。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用例発明とを比較すると、引用例発明の「拡開本体」、「打込む」、「円錐形状の領域」、「拡開フラップ」、「拡開スリーブ」、「周溝により形成される第2の塑性変形継手」及び「硬質基盤に用いるアンカ」は、それぞれ本願補正発明の「プラグ」、「挿入する」、「テーパ状のテーパ領域」、「ボア部分」、「膨張スリーブ」、「脆弱部を形成する周溝」及び「固い材料用のアンカー」に相当する。
また、引用例発明において「拡開スリーブ内に打込まれる前記拡開本体により拡開する」のは、拡開本体の楔効果によることは明らかである。
さらに、引用例発明において端部(スペーサ)が内側に傾倒することにより、傾倒前の長さと比べて該端部の長さが短くなることも自明な事項である。

したがって両者は、
「プラグを挿入する方向から見て細くなるテーパ状のテーパ領域を有する、ボア部分を有する膨張スリーブと、前記テーパ領域と概ね同じテーパ角を有するプラグとを具備し、前記膨張スリーブ内に押し込まれる前記プラグの楔効果により膨張する、固い材料用のアンカーであって、
前記スリーブが、膨張スリーブが拡張する間に、その軸方向の伸長さを短くするように変形可能な端部を有し、前記スリーブは更に、前記変形可能な端部を形成するように、前記テーパ領域の端部に形成される、脆弱部を形成する周溝を有し、
前記変形可能な端部の前記ボア部分の領域は、プラグを挿入する方向から見て、増加するテーパ状であるアンカー。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]本願補正発明のプラグが「プラグの大部分の長さに渡り、テーパ状の外面を有し」ているのに対して、引用例発明のプラグは前部領域のみがテーパ状の外面を有している点。

(4)判断
[相違点]について
膨張スリーブ内に押し込まれるプラグの楔効果を用いるアンカーにおいて「テーパ状の外面をプラグの大部分の長さに渡り」設けることは従来周知の技術(上記審尋に引用文献3として提示された実願平7-7285(実開平8-1089号)のCD-ROM参照)であり、引用例発明のプラグに上記周知技術を用いることは当業者が容易になし得ることである。

また、本願補正発明の作用効果も、引用例発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって、本願補正発明は、引用例発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成19年10月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、出願当初の明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのもの(上記2.(1)参照)である。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から「膨張スリーブ」について「プラグを挿入する方向から見て細くなるテーパ状のテーパ領域を有する」との限定、また「プラグ」について「該プラグの大部分の長さに渡り、前記テーパ領域と概ね同じテーパ角を有する」との限定事項を省くとともに、「変形可能な端部を有し、前記スリーブは更に、前記変形可能な端部を形成するように、前記テーパ領域の端部に形成される、脆弱部を形成する周溝を有し、前記変形可能な端部の前記ボア部分の領域は、プラグを挿入する方向から見て、増加するテーパ状である」を「軸方向の伸張長さを短くする手段」と上位概念化するものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-06 
結審通知日 2009-08-11 
審決日 2009-08-24 
出願番号 特願2001-387985(P2001-387985)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04B)
P 1 8・ 575- Z (E04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 関根 裕
山口 由木
発明の名称 アンカー  
代理人 水本 義光  
代理人 青木 篤  
代理人 鶴田 準一  
代理人 島田 哲郎  

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