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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2007800080 審決 特許
無効2007800138 審決 特許
無効200580069 審決 特許
無効2007800196 審決 特許
無効2009800243 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
管理番号 1210178
審判番号 無効2008-800037  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-02-26 
確定日 2009-12-28 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3929618号発明「口中溶解型又は咀嚼型鼻炎治療用固形内服医薬組成物」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3929618号の請求項1?2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3929618号の請求項1?16に係る発明についての出願は,平成10年9月22日に出願され,平成19年3月16日にその発明についての特許の設定登録がなされたものである。
これに対して,請求人興和株式会社は,平成20年2月26日に全請求項に対して無効審判を請求し,被請求人は同年5月26日に答弁書とともに訂正請求書を提出して訂正を求めた。
同年11月5日付審尋書が,請求人及び被請求人双方に対して発せられ,これに対して同月25日付で,請求人及び被請求人双方から回答書が提出された。
同年12月19日に第1回口頭審理が行われ,これに先立ち請求人からは同月5日付で,被請求人からは同月19日付でそれぞれ口頭審理陳述要領書が提出された。
平成21年1月20日付で,請求人及び被請求人双方からそれぞれ上申書が提出された。
その後,請求人に対して同年5月20日付け無効理由通知書が通知され,これに対して平成21年6月24日付で意見書が提出された。

2.訂正請求について

(1)訂正の内容

(訂正事項1)

訂正前の請求項1,すなわち
「【請求項1】副交感神経遮断薬を含有する口中溶解型又は咀嚼型の鼻炎治療用固形内服医薬組成物。」を,
以下のとおりに訂正し,新たな請求項1とする。
「【請求項1】ベラドンナアルカロイド,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,ダツラエキス,及びロートエキスから選択される副交感神経遮断薬を含有する口中溶解型又は咀嚼型の鼻炎治療用固形内服医薬組成物。」

なお,上記訂正請求書の「(3)訂正事項」の欄には明記されていないものの,訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2は請求項1を引用しているので,実質的には該請求項2についても請求項1と同様な上記訂正がなされていることになる。

(訂正事項2)

訂正前の請求項3?16を削除する。

(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無,及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1は訂正前の請求項1の「副交感神経遮断薬」を,「ベラドンナアルカロイド,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,ダツラエキス,及びロートエキスから選択される副交感神経遮断薬」と訂正するものである。

かかる訂正は,本件特許発明に係る医薬組成物に配合する成分として訂正前の「副交感神経遮断薬」を,「ベラドンナアルカロイド,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,ダツラエキス,及びロートエキスから選択される副交感神経遮断薬」に限定するものであるから,訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に,訂正事項2は,訂正前の請求項を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかである。
そして,訂正後請求項1において特定された各成分は,何れも,訂正前の請求項3及び明細書【0008】に列記されていた成分であって,願書に添付した明細書に記載されているものである。
また,訂正事項1及び2は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(3)小括
以上のとおりであるから,訂正事項1及び2に係る訂正は,何れも特許法第134条の2第1項並びに同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので,訂正を認める。

3.本件発明

上記のとおり訂正が認容されたので,本件特許第3929618号の請求項1?2に係る発明は,訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものであって,次のとおりのものである。

「【請求項1】ベラドンナアルカロイド,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,ダツラエキス,及びロートエキスから選択される副交感神経遮断薬を含有する口中溶解型又は咀嚼型の鼻炎治療用固形内服医薬組成物。
【請求項2】さらに,抗ヒスタミン薬,交感神経興奮薬,抗アレルギー薬,抗炎症薬及び消炎酵素から選択される1又はそれ以上の医薬をも含有する,請求項1記載の医薬組成物。」

以下,これらの請求項に係る各発明をそれぞれ「本件発明1」,「本件発明2」ということもある。

4.当事者の主張の概要

4-1.請求人の主張の概要

請求人は,「特許第3929618号の請求項1?2に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め,証拠方法として下記の書証を提出し,本件特許は,特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであり(理由A),また同項第4号(理由B)の規定により無効とされるべきである旨主張している。
その理由A及びBの概要は以下のとおりである。

理由A
本件特許の請求項1?2に係る発明は,甲第1?7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。

理由B
本件特許の請求項1?2に係る発明は,不明確であり,また発明の詳細な説明に記載されていない発明であり,さらに発明の詳細な説明にはこれらの発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから,本件特許出願は特許法第36条第6項第2号,同条同項第1号及び同条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず,本件特許は同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

(証拠方法)
甲第1号証:PHYSICIANS' DESK REFERENCE,PDR 50 Edition 1996,第951
?952頁
甲第2号証:医薬品の開発第4巻,合成医薬品[II],株式会社廣川書店
平成元年10月11日発行,第468-472頁
甲第3号証:医薬品製造指針 別冊,一般用医薬品製造(輸入)承認基準
1995,平成7年9月30日,株式会社薬業時報社発行,第137?
144頁
甲第4号証:改訂 看護のための薬品管理学,第95?98頁,昭和59年8月15
日,株式会社薬業時報社発行
甲第5号証:医薬品開発基礎講座IX,製剤設計法(1),第31?34頁,昭和46
年9月10日,株式会社地人書館発行
甲第6号証:特開平8-208483号公報
甲第7号証:特開平10-45576号公報
甲第8号証:特開平5-308903号公報
甲第9号証:食品工業,平成6年3月30日発行,第73?77頁
甲第10号証:特開平7-242536号公報
甲第11号証:J. Pharm. Pharmaco1.1990,42: 652?654
甲第12号証:特開平10-158193号公報
甲第13号証:歯学,83(5):1204?1210,1996

(請求人が提出した参考文献)
参考資料1(OTCハンドブック2 1995?1996,35?36,
164?165,176?177頁)
参考資料2(臨床と薬物治療1995年3月号,242?245頁)
参考資料3(ロート鼻炎ソフトカプセル添付文書)
参考資料4の1(セピー鼻炎ソフト添付文書)
参考資料4の2(最近の新薬’89/40集,328頁)
参考資料5の1(ルル鼻炎ソフトカプセル添付文書)
参考資料5の2(最近の新薬’88/39集,370頁)
参考資料6の1(ペラック鼻炎カプセル添付文書)
参考資料6の2(最近の新薬’91/42集,373頁)
参考資料7(病気と薬剤改訂第4版,11?12頁)
参考資料8(医薬品の開発第4巻,合成医薬品[II],393?396頁)
参考資料9(薬理書[上],薬物治療の基礎と臨床,216?219頁)

4-2.被請求人の主張の概要

被請求人は,本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め,上記請求人の主張する無効の理由A及びBは,いずれも理由がないと主張し,下記の証拠方法を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証:グッドマン・ギルマン 薬理書[上]薬物治療の基礎と臨床,第
8版,藤原元始ら監訳,東京廣川書店発行,内表紙,177頁?
195頁,および奥付
乙第2号証:薬理と治療(Jpn pharmacol Ther),第24巻 第3号,1996年,
ライフサイエンス出版株式会社発行,内表紙,121?125頁,お
よび奥付
乙第3号証:医薬品インタビューフオーム「エバステル錠5mg,エバステル
錠10mg,エバステルOD錠5mg,エバステルOD錠10mg」,大日本
住友製薬株式会社発行
乙第4号証:医薬品インタビューフォーム「シングレア錠5mg,シングレア
錠10mg,シングレアチュアブル錠5,シングレア細粒4mg」,万
有製薬株式会社発行
乙第5号証:医薬品インタビューフオーム「アムロジン錠2.5mg,アムロジ
ン錠5mg,アムロジンOD錠2.5mg,アムロジンOD錠5mg」,大日
本住友製薬株式会社発行
乙第6号証:添付文書「タケプロンOD錠15,タケプロンOD錠30」,武田薬品
工業株式会社発行
乙第7号証:添付文書「ベイスンOD錠0.2,ベイスンOD錠0.3」,武田薬品工
業株式会社発行
(なお,答弁書第26頁の「7.証拠方法」の項における,乙第6号証と乙第7号証の標題は,提出された証拠に照らし誤記と認められる。)
乙第8号証:医薬品インタビューフオーム「フリバス錠25mg・50mg・75mg,
フリバスOD錠50mg・75mg」,旭化成ファーマ株式会社発行
乙第9号証:J. Pharm. Sci., 87(5), 1998年, 613?615頁
乙第10号証:刈米達夫ら著,薬用植物分類学,(株)廣川書店発行,内表
紙,255?261頁,および奥付
乙第11号証:第十四改正 日本薬局方解説書,日本薬局方解説書編集委員
会編,(株)廣川書店発行,内表紙,D-1035?
D-1039頁,D-1240?D-1249頁,及び奥付
乙第12号証:第六改正 日本藥局方註解,小立正彦編,(株)南江堂
発行,653?656頁,866?867頁,及び奥付
乙第13号証:生薬学,稲垣 勲ら編,(株)南江堂発行,内表紙,92?
94頁,110?112頁,及び奥付
乙第14号証:Handbook of phytochemical Constituents of GRAS Herbs
and Other Economic Plants,1992年,CRC Press発行,内表
紙,84頁,224頁,及び552?553頁
乙第15号証:植物薬品化学,友田正司著,(株)廣川書店発行,内表紙,
203?204頁,および奥付
乙第16号証:「ベラドンナ総アルカロイド」に関する,医薬品製造承認事
項一部変更承認書及び医薬品製造承認事項一部変更承認申請

乙第17号証:薬剤製造法(上)医薬品開発基礎講座XI,(株)地人書館
発行,内表紙,55?65頁,および奥付
乙第18号証:(財)日本医薬情報センター編,一般薬日本医薬品集1994?
95,(株)薬業時報社発行,内表紙,788?799頁,
および奥付
乙第19号証:(財)日本医薬情報センター編,一般薬日本医薬品集1996?
97,(株)薬業時報社発行,内表紙,771?783頁,
および奥付
乙第20号証:(財)日本医薬情報センター編,一般薬日本医薬品集1998?
99,(株)薬業時報社発行,内表紙,718?731頁,
および奥付
乙第21号証:(財)日本医薬情報センター編,一般薬日本医薬品集2000?
01,(株)薬業時報社発行,内表紙,677?691頁,
および奥付
乙第22号証:堀美智子監修,帝京大学医薬情報室編,OTCハンドブック
1995-1996,(株)学術情報流通センター発行,内表紙,
186?191頁,および奥付
乙第23号証:堀美智子監修,帝京大学医薬情報室編,OTCハンドブック
1997-1998,(株)学術情報流通センター発行,内表紙,
200?205頁,および奥付
乙第24号証:堀美智子監修,医薬情報研究所エス・アイ・シー編,OTC
ハンドブック1999-2000,(株)学術情報流通センター発
行,内表紙,224?233頁,および奥付

5.当審で通知した無効理由

平成21年5月20日付け無効理由通知書で通知した無効理由(以下,「当審で通知した無効理由」という。)の概要は以下のとおりである。

本件発明1に係る発明は甲第3号証の記載に基づいて,また,本件発明2に係る発明は甲第3及び7号証の記載に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので,特許法第123条第1項第2号に該当し無効とされるべきものである。

6.当審の判断

最初に当審で通知した無効理由について判断する。

6-1.引用刊行物(甲第3号証及び甲第7号証)の記載事項

(A)甲第3号証(医薬品製造指針別冊,一般用医薬品製造(輸入)承認基準1995,平成7年9月30日,株式会社薬業時報社発行,第137?144頁)は,請求人が提出し,無効理由通知書で引用された文献であり,該文献には以下の事項が記載されている。
(A-1)第137頁第15?20行
「(2) 基準
この基準適合するものは,既に有効性,安全性,配合理由等は確認されているものとして扱われるが,この基準に適合しないもの,例えば,基準に収載されていない成分を配合する場合は,定められた分量を超えて配合する場合などは,申請内容によって昭和55年5月30日薬発第698号薬務局長通知の別表2-(1)の2一般用医薬品の申請区分(2)?(5)に定める資料の添付が必要である。」
(A-2)第138頁
「 第12-1表 有効成分の種類及び1日最大分量
区分 有効成分 1日最大分量
I欄 …
dl-マレイン酸クロルフェニラミン 12mg
d-マレイン酸クロルフェニラミン 6mg

II欄 1項 塩酸フェニルプロパノールアミン 100mg

2項 ダツラエキス 0.6mg(総アルカロイドとし て)
ベラドンナ(総)アルカロイド 0.6mg
ベラドンナエキス 60mg
ヨウ化イソプロパミド 7.5mg
ロートエキス 60mg


(A-3)第139頁
「 第12-2表 配合ルール・配合係数
成 分 配 合 …
ルール …
I欄 抗ヒスタミン剤 ◎
II欄 1項 交感神経興奮剤 ○
2項 副交感神経遮断剤 ○
III欄 消炎酵素 ○
IV欄 1項 グリチルリチン酸塩類 ○
2項 カンゾウ ○
V欄 カフェイン ○
VI欄 生薬 ○

1)成分名は参考
2)◎:必須成分,○:配合可
… 」
(A-4)第140頁
「c)剤型
剤型は,錠剤(チュアブル錠,発泡錠を含む),カプセル剤(軟カプセル剤を含む),丸剤,顆粒剤,散剤及び内服液剤(エリキシル剤及び酒精剤を除く)とする。…

ii)チュアブル錠の用法については,次の例を参考に具体的な服用方法を記載すること。
(例)かむか,口中で溶かして服用する。」
(A-5)第141頁
「e)効能又は効果
i)効能又は効果は,「急性鼻炎,アレルギー性鼻炎は副鼻腔炎による次の諸症状の緩和:くしゃみ,鼻みず(鼻汁過多),鼻づまり,なみだ目,のどの痛み,頭重(頭が重い)」の範囲とする。」

(B)甲第7号証(特開平10-45576号公報)は,請求人が提出し,無効理由通知書で引用された文献であり,該文献には以下の事項が記載されている。
(B-1)【請求項1】
「(a)フェニルプロパノールアミン及びその塩,フェニレフリン及びその塩,メチルエフェドリン及びその塩及びメトキシフェナミン及びその塩からなる群より選ばれる1種または2種以上の化合物並びに(b)フマル酸ケトチフェン及び塩酸エビナスチンからなる群より選ばれる1種または2種の化合物を配合した鼻炎用内服薬。」
(B-2)【0001】
「本発明は,鼻炎の諸症状のうち特に鼻粘膜の炎症症状(鼻閉)の除去或いは軽減効果が増強・改善された鼻炎用内服薬に関する。」
(B-3)【0008】
「本発明においては,上記有効成分の他,必要に応じて抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬,副交感神経遮断薬,消炎酵素薬・抗炎症薬,カフェイン類,ビタミン類,生薬などを本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。」
(B-4)【0011】
「本発明の鼻炎用内服薬は,常用の担体を用いて,通常の方法により,錠剤,カプセル剤,顆粒剤,細粒剤,粉剤,チュアブル剤,発泡剤,ドロップ剤,口中溶解剤,ドライシロップ剤,内服液剤等の経口投与形態の製剤に調製することができる。」

6-2.本件発明1について

(1)本件発明1の内容
本件発明1は,平成20年5月26日付訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであって,次のとおりである。
「【請求項1】ベラドンナアルカロイド,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,ダツラエキス,及びロートエキスから選択される副交感神経遮断薬を含有する口中溶解型又は咀嚼型の鼻炎治療用固形内服医薬組成物。」

(2)対比・判断
甲第3号証は,厚生省(現在の厚生労働省)が制定した一般用医薬品の審査に関する具体的な承認基準(成分及び分量,用法及び用量,効能又は効果等)をとりまとめたものであり,その第137?144頁には,鼻炎用内服薬の製造(輸入)承認基準が記載されている。
第138頁の表12-1(上記摘示事項(A-2))には,配合できる有効成分の種類が記載されていて,そのII欄2項には,ダツラエキス,ベラドンナ(総)アルカロイド,ベラドンナエキス,ロートエキスの各成分が記載されている。(なお,表12-1全体としては,その他の成分も含めて合計42の成分が記載されている。)
また,剤型としては,「チュアブル錠」の形態とし得ること,及び,「チュアブル錠」の用法には,「口中で溶かして服用する。」ことも含まれる旨記載されている(上記摘示事項(A-4);なお,ここの記載において,「錠剤」を「チュアブル錠」,「発泡錠」及び「その他の錠剤」の3種類として,また,「カプセル錠」を「軟カプセル剤」及び「その他のカプセル剤」の2種類として数えると剤型の形態の種類としては合計9種類のものが提示されていることになる。)。
これら各記載から,甲第3号証には,「ダツラエキス,ベラドンナ(総)アルカロイド,ベラドンナエキス,ロートエキスを含む42成分の中から選択される成分を有効成分とし,チュアブル錠を含む9種類の中から選択される形態を剤型とする鼻炎用内服薬」(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
ここで,本願発明と引用発明とを対比すると,本願発明においては有効成分の「ベラドンナアルカロイド,ベラドンナ総アルカロイド,ベラドンナエキス,ダツラエキス,及びロートエキス」(以下,これらう成分を併せて「ベラドンナアルカロイド等5成分」という。)が副交感神経遮断薬とされているものであるが,甲第3号証の第139頁の第12-2表には,II欄2項の成分,すなわち「ベラドンナエキス等5成分」が副交感神経遮断剤であることが記載されている(A-3)ので,本願発明においてベラドンナエキス等5成分が副交感神経遮断薬とされていることによって引用発明と差異があるとすることができない。
したがって,両発明は,「副交感遮断薬であるベラドンナエキス等5成分を含む成分の中から選択される成分を含有する鼻炎治療用内服医薬組成物」の点で一致し,以下の点で相違する。
[相違点]本願発明では,有効成分がベラドンナエキス等5成分に,そして剤型が「固形」の「口中溶解型又は咀嚼型」と,それぞれ特定されているのに対して,引用発明では,有効成分として42成分が,剤型として9種類の剤型が提示されているに止まる点。
以下,この相違について順次検討する。
まず,本願発明の剤型については,「口中溶解型又は咀嚼型」とされているものではあるが,明細書【0031】?【0034】の記載から見て,このような剤型にはチュアブル錠も含まれるものと解される。そして,チュアブル錠であれば通常固体である。そこで,相違点についての検討に際しては,有効成分として42成分の中からベラドンナエキス等5成分を特定し,さらに剤型としてチュアブル錠と特定することが当業者にとって容易であったかどうかについて検討する。
甲第3号証は「一般用医薬品製造〔輸入〕承認基準」であり,「この基準に適合するものは,既に,有効性,安全性,配合理由等は確認されているものとして扱われる」(A-1)とされていて,この基準に収載された成分・剤型であれば,医薬品の製造〔輸入〕承認の申請にあたり,有効性・安全性を示す臨床データの添付が必要ないことを意味するものであるから,42成分のそれぞれについて,そして9種類の剤型の何れにおいても,その有効性・安全性が技術的に確認されているというものである。
すなわち,技術的に有効性や安全性が確認されていない成分・剤型について多数提示されていて,その中から逐一その薬効や毒性等を確認しつつ選択する場合とは異なり,引用発明で示された42成分の中から特定の成分を選択し,さらに9種類の中から特定の剤型を選択することは,格別困難の伴うものではなく,当業者ならば格別容易になし得ることである。
なお,被請求人は平成21年6月24日付け意見書において,乙17号証を提示し,錠剤の種類が細分すれば8種類であり,これと甲第3号証に示された他の剤型を併せると合計14種類となることを主張しているが,仮に剤型の種類が9種類でなく14種類と多くなったとしても,少なくともチュアブル錠については,「錠剤(チュアブル錠…を含む)」とされていることに加えて,甲第3号証には「更に,平成7年3月22日薬発第232号薬務局長通知をもって,錠剤にチュアブル錠及び発泡錠が含まれることが明確化された。」(第137頁第8?9行)とも記載されていて,錠剤の一形態として明記されている上,「承認基準」に適合していることは明らかであるから,錠剤の種類が甲第3号証に記載のものより実際はさらに多いという事情があったとしても,そのことによってチュアブル錠の形態を選択することの容易性が左右されるものではない。

(3)効果について
甲第3号証の記載に係る鼻炎内服薬は「くしゃみ,鼻みず,鼻づまり,なみだ目,のどの痛み,頭重」といった症状の緩和に用いられる旨記載されており(上記摘示事項(A-5)),これらについては本件発明による効果として明細書に記載されているものと同様であるので,この点で本件発明1の成分に特定したことにより,格別予想外の効果が奏されたものとすることができない。

また,被請求人は,平成21年6月24日付け意見書において,本件発明1による効果として,
「(ア)即効性と持続性の両面で極めて優れた効果を有し,
(イ)生物学的利用率が高く,
(ウ)副作用の口渇感の増大を伴わない
という全く予想外の優れた効果を奏する」旨主張するので,以下順次検討する。

(ア)即効性と持続性について
本件明細書において,本件発明1に係る医薬組成物が即効性を有することを示す具体的な試験データを伴った記載としては,「試験例1 溶出試験」(【0031】?【0034】)及び「試験例2 有効性試験」(【0035】?【0038】)のうちの表10において示されたデータであると解される。しかしながら,試験例1の溶出試験については,該試験の指標成分としてはマレイン酸クロルフェニラミンが用いられていて,本件発明1で特定されているベラドンナエキス等5成分とは異なるものであり,また,試験例2の表10では確かにA-1及びA-2という本件発明1に係る医薬組成物の即効性が示されているとはいえるものの,これら組成物には試験例1の溶出試験で即溶性が確認されているマレイン酸クロルフェニラミンが含まれていて,かつ,評価指標についても「鼻炎症状(くしゃみ,鼻水,鼻づまり,のどの痛み,涙目,頭重)」という何れもマレイン酸クロルフェニラミンにより改善するとされる症状であって(例えば,請求人提示の参考資料1の第35,176頁,参考資料3及び参考資料7の第11頁など参照),しかもこれら症状のうちベラドンナ総アルカロイドにより改善するとされるものは「鼻汁,涙目」のみである(例えば,請求人提示の参考資料1の第177頁,参考資料2の第244頁及び参考資料3など参照)から,A-1及びA-2の医薬組成物の即効性はマレイン酸クロルフェニラミンによるものと解釈するのが合理的な理解であるから,「試験例1 溶出試験」及び「試験例2 有効性試験」の表10で示されたデータを以てベラドンナエキス等5成分を含み,マレイン酸クロルフェニラミンを必ずしも必須成分とはしていない本件発明1の医薬組成物についての即効性を示す根拠となるデータであるとすることができない。
また,明細書【0006】には,「本発明の口中溶解型又は咀嚼型の医薬組成物は,同量の鼻炎治療薬を口中で溶解又は咀嚼することなく内服錠剤として服用した場合に比較して,予想外に優れた治療効果を奏する。このように,本発明により鼻炎治療効果の増強が達成されたことで,鼻閉,鼻汁,頭重,涙目,のどの痛みを含むすべての鼻炎症状を,投与直後から長時間にわたって効果的に解消することができる。この優れた効果は,鼻炎が口腔に密接した部位における症状であり,口中で本発明の医薬組成物を溶解及び/又は咀嚼する過程で唾液と混和されることにより,薬物の溶出が促進されてその一部が,咽頭側から鼻腔内の局所に直接作用し即効性を発揮すること,唾液との混合物として吸収されやすい状態で吸収部位に到達し,安定性を保って消化管から吸収され高い効果を発揮することができること等に関連する。」と記載されていて,即効性は咽頭側から鼻腔内の局所に直接作用することと関連するとしているが,このことについて裏付けとなるデータは明細書には示されていない。そして,被請求人が答弁書に添付したロートエキスを用いた追加実験2においては,ロートエキスに含まれる成分であるヒヨスチアミンについては,口腔粘膜から吸収されないというデータが示されていて,このことは明細書【0006】の記載とは相容れないデータであるので,追加実験1で示されるロートエキスに関するデータが,明細書の記載を補足するものとして斟酌すべきものとすることができない。
一方,持続性については,本件明細書において,本件発明1に係る医薬組成物が持続性を有することを示す具体的な試験データを伴った記載としては,「試験例2 有効性試験」(【0035】?【0038】)のうちの表11において示されたデータであると解される。しかしながら,上記したようにこの試験例で使用された組成物には評価指標とした全ての症状に効果があるとされているマレイン酸クロルフェニラミンが含まれている一方,ダツラエキス等4成分により効果があるとされる症状は2つのみであるから,このようなデータに基づいてマレイン酸クロルフェニラミンを必ずしも必須成分とはしていない本件発明1の持続性を示す根拠となるデータであるとすることができない。また,被請求人が答弁書において示した追加実験1のデータをみても,持続性の点で格別の改善が示されているものとすることはできない。
そして,明細書のその他の記載をみても,ベラドンナエキス等5成分を含ませた場合に,即効性及び持続性の両面で優れた効果が奏されることに関する記載は何れも定性的なものに止まるものであって,より具体的な記載は見あたらないので,本件発明1により,即効性又は持続性の面で,当業者が予測し得ない格別優れた効果が奏されるものとすることができない。
(イ)生物学的利用率について
本件明細書において生物学的利用率に関する効果を示す記載は,先に述べた「試験例1 溶出試験」及び「試験例2 有効性試験」において示されたデータであると解される。しかしながら,上記したように,これらの試験例では,本件発明1で必須成分とはされていないマレイン酸クロルフェニラミンによる影響が排除されていないので,少なくともベラドンナエキス等5成分に関して具体的に生物学的利用率がどの程度改善したのかが示されているものとすることができない。
また,明細書【0009】には,ベラドンナエキス等5成分の1日あたりの投与量についての記載があり,「本発明組成物の場合,投与量当たりの効果が高められるので投与量を減少することができる。従って,ベラドンナアルカロイドの場合には,0.1?0.6mg,ロートエキス,ベラドンナエキス,ダツラエキスでは10?60mg…の範囲であっても有効であり,口渇等の副作用を避ける意味で,この範囲が好ましい。」とされているが,ここで記載された投与量は,基本的には甲第3号証で示されたこれら成分の「1日最大分量」を上限とするものであって,格別の差異があるものとすることができないので,明細書の全記載を見ても,生物学的利用率の改善に関して当業者には予測し得ない格別優れた効果が奏されたものとすることができない。
(ウ)副作用の口渇感について
本件明細書には,本件発明1により副作用が軽減されることを試験的に確認した記載はなく,かかる効果に関しては何れも定性的又は一般的な記載に止まるものである。
そして,その記載も,例えば以下の(ウ-1)及び(ウ-2)の記載のように何れも生物学的利用率が高まることに伴って投与量を低減できることに伴う効果であるとするものである。
(ウ-1)
「副交感神経遮断薬には,唾液分泌の抑制による口渇の副作用があるが,口中で溶解又は咀嚼することにより,内服投与の場合よりも投与量当たりの効果が高くなり,即効性と高い生物学的利用率が確保されるので,結果的に副作用の発現を回避することができる。」(【0008】)
(ウ-2)
「本発明組成物の場合,投与量当たりの効果が高められるので投与量を減少することができる。従って,ベラドンナアルカロイドの場合には,0.1?0.6mg,ロートエキス,ベラドンナエキス,ダツラエキスでは10?60mg,ヨウ化イソプロパミドであれば1?8mgの範囲であっても有効であり,口渇等の副作用を避ける意味で,この範囲が好ましい。」(【0009】)
(なお,この他副作用に関する記載としては,【0015】に「本発明の医薬組成物に,鼻炎治療薬に加えて中枢神経興奮薬を配合すると,鼻炎による頭重に対する効果が一層高まるほか,ある種の鼻炎治療薬の副作用である眠気に対して有効であり,総合的な治療効果の向上に寄与することから,好ましい場合もある。」との記載があるが,これは眠気に関するものである上,カフェイン等の他の成分を添加することにより副作用を抑制するものであるから被請求人が主張する副作用の低減効果とは関連しない記載である。)
しかしながら,生物学的利用率に関しては,上記したように,各試験例において,少なくとも本件発明1において特定されたベラドンナエキス等5成分について,具体的にどの程度投与量が低減したかを示す定量的なデータは記載されていない上,明細書【0009】に記載の1日あたりの投与量についても,上記したように甲第3号証に記載の1日最大量と比較して格別の差異があるものとすることができないので,明細書において生物学的利用率が高まること(すなわち,有効成分の投与量が低減すること)に伴うものとされる口渇感という副作用の低減効果についても具体的にどの程度のものなのかが示されているものとすることができず,このような記載をもって当業者が予測し得ない効果が奏されたものとすることができない。
また,上記(ア)?(ウ)に関する効果について,被請求人が答弁書において提示した追加実験1及び2の結果を考慮したとしても,当業者が予測し得ない効果が奏されたものとすることができない。特に,被請求人が主張する鼻炎症状と口渇副作用との分離という効果については,上記した明細書における副作用に関する記載と異質のものであって,明細書には何ら記載のないものであるから,そのような効果を主張することは明細書の記載に基づかないものとせざるを得ないので,この点に関する被請求人の主張は採用できない。

なお,被請求人は,本件発明1で特定されている成分は口腔内で殆ど又は全く吸収されない薬物であり,このような薬物の場合は普通錠とチュアブル錠とで薬物動態は大きくは異ならず,生物学的にも同等と考えるのが当業者の常識であるから,本件発明1が奏する効果は当業者にとって予測し得ないものである旨も主張しているが,被請求人が主張する本件発明1の奏する効果,すなわち上記(ア)?(ウ)の効果については,明細書の記載に基づかないものか,又は,格別の差異があるとされるものではないことは上記したとおりであるから,このような被請求人の主張は採用し得ないものである。

(4)被請求人のその他の主張について
被請求人は,平成21年6月24日付け意見書においては,上記した効果に関する主張の他,以下の2点についても主張している。
(a)甲第3号証には一般用医薬品の鼻炎用内服薬で選択可能な剤形候補の1つとしてチュアブル錠が明記されていたにも拘わらず,本件特許の出願前に,当業者が該剤形を採用しようとしなかったことは,甲第3号証の記載から当業者が本件発明の特定の剤形の鼻炎用内服薬を容易に想到し得なかったことを裏付けるものといえること。
(b)甲第3号証には,鼻炎用内服薬に配合し得る有効成分として42種類の成分が記載されていて,また剤型については,甲第3号証には合計14種類の剤形が記載されているということができるので,本件発明は,588通り(42成分×14剤形)のうち4通りで,全く予想外の格別な効果があることを見つけたことになり,これは0.68%の確率となるので,本件発明は容易に想到し得る程度のものとは到底いえないこと。
まず,(a)については,甲第3号証の記載から,当業者が特定のチュアブル錠の形態を選択しうるに十分な動機づけがあれば進歩性は否定されるのであって,現実に,甲第3号証の記載に基づいてチュアブル錠の形態を採用した製品が存在したか否かは問題となるものではない。そして,上記相違点2についての検討で述べたように,甲第3号証の記載に基づいてチュアブル錠を選択することについては,当業者に十分な動機づけがあったというべきものである。
次に,(b)については,引用発明が,結果として多数の組み合わせを開示することとなっているとしても,上記したように引用発明で示された有効成分及び剤型は,何れも技術的に評価が確立されたものと解される上,承認申請した場合には,それらは全て「既に,有効性,安全性,配合理由等は確認されているものとして扱われる」のであるから,たとえ組合せの数が大きくなったとしても,そのために逐一活性や毒性等の試験が必要となるものではないので,選択に際しての負担は基本的には変わらないものである。そのように負担が変わらないことに加えて,特定の成分及び特定の剤型を選択することによる効果についても,上記(4)で記載したように,当業者が予測し得ないほど格別なものとすることができないので,結果として引用発明には多数の組合せが開示されていることになっているとしても,そのことによって本件発明1が当業者にとって容易にはなし得ないものであるとすることができない。

6-3.本件発明2について

(1)本件発明2の内容
本件発明2は,平成20年5月26日付訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるものであって,次のとおりである。
「【請求項2】さらに,抗ヒスタミン薬,交感神経興奮薬,抗アレルギー薬,抗炎症薬及び消炎酵素から選択される1又はそれ以上の医薬をも含有する,請求項1記載の医薬組成物。」

(2)対比・判断
本件発明2は,本件発明1に対して,さらに,「抗ヒスタミン薬,交感神経興奮薬,抗アレルギー薬,抗炎症薬及び消炎酵素から選択される1又はそれ以上の医薬」を含有させたものである。
しかしながら,上記6-2.で記載したように,本件発明1が甲第3号証の記載に基づいて,当業者が容易に発明することができたとされるものであることに加えて,甲第3号証には,「ダツラエキス,ベラドンナ(総)アルカロイド,ベラドンナエキス,ロートエキス」の他,マレイン酸クロルフェニラミン等の抗ヒスタミン剤,塩酸フェニルプロパノールアミン等の交感神経興奮剤,グリチルリチン酸塩類及びカンゾウといった抗炎症剤,消炎酵素等を配合しうることも記載されている(上記摘示事項(A-2)及び(A-3))し,また,甲第7号証にも,チュアブル錠の剤型ともし得る鼻炎用内服薬に対して,「抗ヒスタミン薬,抗アレルギー薬,副交感神経遮断薬,消炎酵素薬・抗炎症薬,カフェイン類」等の成分を配合することができる旨記載されている(上記摘示事項(B-1)?(B-4))ので,本件発明1の鼻炎治療用内服薬に対して,さらに本件発明2において特定された成分を配合することは,当業者が容易になし得ることである。
そして,それら成分をさらに添加することにより格別優れた効果が奏されるものとすることができない。

7.むすび

以上のとおり,本件発明1は甲第3号証の記載に基づいて,また,本件発明2は甲第3及び7号証の記載に基づいて,ともに当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法第123条第1項第2号に該当するので,請求人が主張する無効理由について検討するまでもなく,本件発明1及び2は無効とされるべきものである。
審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。

以上
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
口中溶解型又は咀嚼型鼻炎治療用固形内服医薬組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】ベラドンナアルカロイド、ベラドンナ総アルカロイド、ベラドンナエキス、ダツラエキス、及びロートエキスから選択される副交感神経遮断薬を含有する口中溶解型又は咀嚼型の鼻炎治療用固形内服医薬組成物。
【請求項2】さらに、抗ヒスタミン薬、交感神経興奮薬、抗アレルギー薬、抗炎症薬及び消炎酵素から選択される1又はそれ以上の医薬をも含有する、請求項1記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は即効性と持続性を有する口中溶解型又は咀嚼型の鼻炎症状治療用固形内服医薬組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
鼻の入口(鼻孔)は小さいが、その奥に粘膜で覆われた大きい空間(鼻腔)があり、鼻腔はさらに奥の方で咽頭とつながっている。鼻炎はこの鼻腔の粘膜に何らかの原因で炎症が起こった状態であり、主な原因として、アレルギー、ウイルスや細菌による感染症を挙げることができる。
近年、花粉症やハウスダストによるアレルギー性鼻炎に悩む患者は増加の一途にある。また、ウイルス等によるインフルエンザや感冒等、いわゆる「かぜ」の諸症状の一つとしての鼻炎症状を示す患者は絶えることがない。通常、慢性的な鼻炎症状を示す原因の代表はアレルギーであるが、「かぜ」の治療が中途半端な場合には鼻炎が治らず慢性鼻炎に移行する例もある。また、「かぜ」の患者ではウイルス感染等により鼻の自浄作用が低下するためにブドウ球菌、溶連菌等の常在性細菌によって鼻炎が悪化する場合がある。
このように原因は様々であるが、鼻炎に共通する具体的症状として、鼻汁、鼻閉、くしゃみ、鼻腔の痒み、涙目、のどの痛み等がある。鼻閉症状は鼻の粘膜が腫れて鼻腔が狭くなることによるものであり、呼吸困難や頭重感等を伴うことがある。また、鼻汁分泌は、それ自身、不快感をもたらすが、頻繁に鼻を噛むことにより鼻腔の炎症を誘発する恐れがある。涙目は、涙の分泌が促進されることによって引き起こされる症状である。
【0003】
多くの鼻炎患者が上記の不快な症状を複数、繰り返して、又は慢性的に発現している。そのような状態が長期間にわたって持続すると、患者の生活の質(QOL)が低下し、日常生活に支障をきたすことになる。これら鼻炎症状、特に鼻閉及び鼻汁の増加は耐え難い不快感を与えることから、鼻炎患者は即効性のある有効な治療を強く求める傾向がある。そのため、総合的鼻炎症状の緩和に留まらず、鼻汁分泌抑制や鼻閉改善効果の増強された即効性と持続性に優れた医薬製剤の開発が強く望まれていた。
従来、鼻炎症状に対する薬物治療は、主として抗ヒスタミン薬、交感神経興奮薬(血管収縮薬)、副交感神経遮断薬、抗炎症剤、消炎酵素等の薬物を経口内服剤、もしくは点鼻剤として投与することによって行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
点鼻剤は、鼻孔から鼻腔へ薬物を噴霧又は滴下して直接粘膜に到達させるために、鼻閉に対する即効性は期待できる。しかし、鼻汁過多の場合には、鼻腔の生理機能により鼻腔から鼻孔に向かって鼻汁が押出されるために、薬物を鼻腔に効果的に到達できない場合がある。また、効果の持続性や、鼻汁、頭重、涙目の緩和という点では十分な効果を示さない。一方、経口内服剤は、効果の持続性や、鼻閉、鼻汁、頭重、のどの痛み、涙目の治療という点では有用であるが、即効性を期待することはできない。より優れた即効性の内服固形剤として、鼻炎用ソフトカプセル剤が提供されているが、この製剤も服用後速やかに胃に到達するため、鼻腔への直接作用がなく、即時に効果を示すことはできない。また、一般に内服固形剤は、消化管を経て吸収され、局所に作用するものであることから、効果の発現が食事内容の影響を受けて変動し、確実な効果を期待できないばかりか、投与した薬物のごく一部が目的の部位(鼻腔)に到達し、効果を発揮するにすぎず、薬物の有効利用という点でも問題がある。
従って、投与した薬物が迅速に炎症部位に到達して作用すると同時に、その作用が確実に持続し、生物学的利用率が高く、薬物の効果を最大限に引き出すことができる医薬組成物の開発が望まれていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鼻炎症状の治療に即効性と確実な持続性とを示す、有効な鼻炎治療用の固形内服医薬組成物を提供することを目的として鋭意、研究を重ねた結果、同量の有効成分を作用させる場合に、口中溶解型又は咀嚼型の形態にすると、効果の即効性、持続性のみならず高い生物学的利用率をも達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は鼻炎治療薬を含有する口中溶解型又は咀嚼型の鼻炎治療用固形医薬組成物を提供するものである。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明の口中溶解型又は咀嚼型鼻炎治療用医薬組成物とは、口腔内で唾液の存在下、瞬時又は漸次溶解させて服用する製剤、又は咀嚼、粉砕して唾液と混合することにより一部又は全部を溶解させてから服用する製剤であり、アレルギーや、インフルエンザ、感冒等の風邪に伴う鼻炎症状の治療に用いる医薬組成物を意味する。
後述の試験例に示すように、本発明の口中溶解型又は咀嚼型の医薬組成物は、同量の鼻炎治療薬を口中で溶解又は咀嚼することなく内服錠剤として服用した場合に比較して、予想外に優れた治療効果を奏する。このように、本発明により鼻炎治療効果の増強が達成されたことで、鼻閉、鼻汁、頭重、涙目、のどの痛みを含むすべての鼻炎症状を、投与直後から長時間にわたって効果的に解消することができる。
この優れた効果は、鼻炎が口腔に密接した部位における症状であり、口中で本発明の医薬組成物を溶解及び/又は咀嚼する過程で唾液と混和されることにより、薬物の溶出が促進されてその一部が、咽頭側から鼻腔内の局所に直接作用し即効性を発揮すること、唾液との混合物として吸収されやすい状態で吸収部位に到達し、安定性を保って消化管から吸収され高い効果を発揮することができること等に関連する。
【0007】
本発明の医薬組成物には、口中で溶解させ又は咀嚼することに適しない薬物を除き、任意の既知の鼻炎治療薬を含有させることができる。
そのような鼻炎治療薬として、副交感神経遮断薬、抗ヒスタミン薬、交感神経興奮薬、抗アレルギー薬、抗炎症薬及び消炎酵素を挙げることができ、本発明の医薬組成物を調製する際には、それらから選択される薬物を1又は複数用いる。複数の薬物を用いる場合、それらの薬物は同じ種類(作用によって分類した場合)であってもよく、異なる種類であってもよい。通常、鼻炎患者は、鼻閉、鼻汁、頭重、涙目等の複数の症状を呈することが多いので、総合的に優れた治療効果を得るために、本発明組成物には2種以上の薬物を併用することが好ましい。
【0008】
本発明に用いられる副交感神経遮断薬は、抗アセチルコリン作用を遮断することに基づく粘液分泌抑制効果、鼻汁抑制効果を有する薬物であり、鼻汁抑制に有用である。例えば、ダツラエキス、ベラドンナアルカロイド、ベラドンナ総アルカロイド、ベラドンナエキス、ロートエキス、ヨウ化イソプロパミド等が例示され、ベラドンナアルカロイド、ベラドンナ総アルカロイド、ベラドンナエキス、ロートエキス、ヨウ化イソプロパミドが好ましく、ベラドンナアルカロイド、ベラドンナ総アルカロイド、ヨウ化イソプロパミドがより好ましい。これらは単独又は2種以上を併せて用いることができる。副交感神経遮断薬には、唾液分泌の抑制による口渇の副作用があるが、口中で溶解又は咀嚼することにより、内服投与の場合よりも投与量当たりの効果が高くなり、即効性と高い生物学的利用率が確保されるので、結果的に副作用の発現を回避することができる。
【0009】
副交感神経遮断薬は、通常、成人に対して、1日あたり有効成分の量として、通常、0.01?100mgを投与することができ、例えばベラドンナアルカロイドの場合には、0.01?1mg、ロートエキス、ベラドンナエキス、ダツラエキスでは1?100mg、ヨウ化イソプロパミドであれば0.1?10mgを1日1回ないし数回に分けて経口投与することができる。本発明組成物の場合、投与量当たりの効果が高められるので投与量を減少することができる。従って、ベラドンナアルカロイドの場合には、0.1?0.6mg、ロートエキス、ベラドンナエキス、ダツラエキスでは10?60mg、ヨウ化イソプロパミドであれば1?8mgの範囲であっても有効であり、口渇等の副作用を避ける意味で、この範囲が好ましい。しかし、投与量は、患者の年齢、体重、病状に応じて適宜増減することができ、上記範囲に限定されない。
【0010】
抗ヒスタミン薬はヒスタミンの作用をブロックする薬物であって、例えば、塩酸イソチペンジル、塩酸イプロヘプチン、塩酸ジフェテロール、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、塩酸トリプロリジン、塩酸トリペレナミン、塩酸トンジルアミン、塩酸プロメタジン、塩酸メトジラジン、サリチル酸ジフェンヒドラミン、ジフェニルジスルホン酸カルビノキサミン、酒石酸アリメマジン、タンニン酸ジフェンヒドラミン、テオクル酸ジフェニルピラリン、マレイン酸カルビノキサミン、マレイン酸クロルフェニラミン(d体、dl体)、メチレンジサリチル酸プロメタジン又はそれらの塩類等が挙げられ、単独又は2種以上を併用することができる。塩類としては、塩酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、サリチル酸塩、タンニン酸塩、ジフェニルジスルホン酸塩、テオクル酸塩、メチレンジサリチル酸塩等がある。好ましい抗ヒスタミン薬は塩酸イソチペンジル、塩酸イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、ジフェンヒドラミン、酒石酸アリメマジン、タンニン酸ジフェンヒドラミン及びマレイン酸クロルフェニラミン(d体、dl体)、又はそれらの塩類である。抗ヒスタミン薬は、通常、成人に対し、1日量にして、1?200mg、好ましくは1?100mg投与するが、適量は薬物によって異なる。例えば、塩酸ジフェンヒドラミンであれば、1?100mg、マレイン酸クロルフェニラミン(dl体)であれば、1?10mgが適量であり、薬物により適宜使用することができる。
【0011】
抗アレルギー薬として、アステミゾール、塩酸シクロヘプタジン、テルフェナジン、イブジラスト、オキサトミド、アンレキサノクス、トラニラスト、ケトチフェン、アゼラスチン、クロモグリク酸ナトリウム、レピリナスト、エメダスチン、メキタジン、オザグレル、タザノラスト、ペミロラスト、フマル酸クレマスチン、アリメマジン、エピナスチン、スプラタスト等又はそれらの塩類等が挙げられ、単独又は2種以上を併用することができる。塩類としては、塩酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、サリチル酸塩、タンニン酸塩、ジフェニルジスルホン酸塩、テオクル酸塩、メチレンジサリチル酸塩、硝酸塩、フマル酸塩等がある。好ましい抗アレルギー薬は、アステミゾール、塩酸シクロヘプタジン、アンレキサノクス、フマル酸ケトチフェン、塩酸アゼラスチン、クロモグリク酸ナトリウム、メキタジン、フマル酸クレマスチン、塩酸エピナスチン、トラニラスト、フマル酸エメダスチン、オキサトミド、ペミロラストカリウム及びアリメマジン、又はそれらの塩類である。抗アレルギー薬は、通常、成人に対し、1日量にして、0.01?300mg投与するが、適量は薬物によって異なり、通常用いられる範囲で適宜使用することができる。例えば、アステミゾールは2.5?5mg、フマル酸ケトチフェンは0.2?5mg、塩酸エピナスチンは2?30mg、メキタジンは0.5?15mg、酒石酸アリメマジンは2?15mgである。
【0012】
交感神経興奮薬(血管収縮薬)として、塩酸フェニルプロパノールアミン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸メトキシフェナミン、エピネフリン、塩酸エフェドリン、ノルエピネフリン、硝酸ナファゾリン、ジャイロメタゾリン、ミドドリン、メトキサミン、塩酸テトラヒドロゾリン等の薬物又はそれらの塩類等が挙げられ、単独又は2種以上を併用することができる。塩類としては、塩酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、サリチル酸塩、タンニン酸塩、ジフェニルジスルホン酸塩、テオクル酸塩、メチレンジサリチル酸、硝酸塩等がある。塩類としては、塩酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、サリチル酸塩、タンニン酸塩、ジフェニルジスルホン酸塩、テオクル酸塩、メチレンジサリチル酸、硝酸塩等がある。好ましい交感神経興奮薬(血管収縮薬)は、塩酸フェニルプロパノールアミン、塩酸フェニレフリン及び塩酸メトキシフェナミン、塩酸メチルエフェドリン又はそれらの塩類である。交感神経興奮薬(血管収縮薬)は通常、成人に対する1日量として、1?300mg、好ましくは1?150mgを投与するが、適量は薬物によって異なり、例えば、塩酸フェニルプロパノールアミンであれば、1?120mg、塩酸フェニレフリンであれば、1?40mg、塩酸メチルエフェドリンであれば1?125mg、塩酸メトキシフェナミンであれば、1?175mgを投与するが、症状等により適宜増減できる。
【0013】
消炎酵素として、塩化リゾチーム、ブロメライン、α-キモトリプシン、セミアルカリプロティナーゼ(セアプローゼS-AP)、プロテナーゼ、セラチオペプチダーゼ(セラペプチダーゼ)、ストレプトキナーゼ、ストレプドルナーゼ等を挙げることができる。好ましい消炎酵素は、セミアルカリプロティナーゼ、塩化リゾチーム、ブロメライン及びセラチオペプチダーゼ(セラペプチダーゼ)である。消炎酵素は、通常、成人に対し、1日量にして、1.0?200mg、好ましくは1?100mg投与するが、適量は薬物によって異なり、通常用いられる範囲で適宜使用することができる。例えば、塩化リゾチームであれば、1?100mgの範囲が適当である。
【0014】
抗炎症薬は、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルリチン酸ジアンモニウム等のグリチルリチン酸及びその塩類の他、カンゾウ、トラネキサム酸等が挙げられ、これらは単独でも併用することもできる。抗炎症薬は、通常、成人に対し、1日量にして、グリチルリチン酸の量として0.1?300mg投与するが、適量は薬物によって異なり、通常用いられる範囲で適宜使用することができる。
【0015】
本発明の医薬組成物に、鼻炎治療薬に加えて中枢神経興奮薬を配合すると、鼻炎による頭重に対する効果が一層高まるほか、ある種の鼻炎治療薬の副作用である眠気に対して有効であり、総合的な治療効果の向上に寄与することから、好ましい場合もある。
中枢神経刺激薬としては、カフェイン類が例示され、具体的には無水カフェイン、カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン等が挙げられる。投与量は、成人に対し1日量にして12?300mgが好ましい。より好ましくは、100?200mgである。
【0016】
本発明の組成物にはさらにメントール、シネロール、カンフルを共に用いることができる。後述の試験例に示されているように、メントールを含有すると、コンプライアンスの向上に加えて即効性が更に顕著に増強がされるため、好ましい。メントールは、メントールとして使用しても、ハッカ油、スペアミント油やペパーミント油、ミント油といったメントールを含有する精油として使用しても良い。メントールの投与量は、通常、成人に対し、1日量で0.001?40mgの範囲である。組成物中のメントールの好ましい濃度は0.1?2.25重量%であり、この範囲であれば、苦味を伴うことなくすっきりした清涼感を与え、患者のコンプライアンスの向上に有効である、この範囲を超えると、メントールの刺激が逆に不快感となりうる。
メントールは文献(第13改正日本薬局方、D1050?1058)に記載されているものであって、市販のものを使用することも可能である。天然精油由来及び合成品のいずれであってもよい。本発明組成物に用いる場合、メントールはl体、dl体のいずれでもよい。シネロール、カンフルはともに日本薬局方に記載されているものであって、市販のものを使用することも可能である。シネロールはユーカリ油に多く含まれ、シネロールとして使用してもユーカリ油として使用しても良い。カンフルはカンフル油に多く含まれ、カンフルとして使用してもカンフル油として使用しても良い。
また、口中で溶解及び/又は咀嚼する剤形である本発明の組成物は、口中での滞留時間が長く味覚芽に薬物が直接接触するために、味覚・臭覚への影響も考慮することが好ましい。そのような観点から、メントール、カンフル、シネロールを含有する精油や、フルーツフレーバーを共に用いると、患者のコンプライアンス(服薬遵守)の向上に役立つ。これは、特に苦味のある薬物を用いる場合に、それをマスキングすることが可能となるので好ましい。
【0017】
本発明の組成物には、本発明の目的に従って任意の薬効成分を配合することができ、上記の薬物に限定されない。
また、鼻炎症状治療効果を損なわない限り、当該技術分野で通常用いられている他の物質(医薬品又は医薬部外品)を添加してもよい。そのような物質として、ビタミン薬、生薬、鎮咳薬、去痰薬、喀痰溶解薬、解熱鎮痛薬、制酸薬等がある。
風邪薬用の成分を共に配合すると、風邪に伴う鼻炎症状の治療に有用である。
【0018】
上記の他の成分は、それぞれ、通常用いられている投与量の範囲内で配合される。生薬としては、ケイガイ、サイシン、ショウキョウ、シンイ、ゼンコ、ビャクシ等、鎮咳薬としては、リン酸コデイン、デキストロメトロファン類等、去痰薬としてはグアイフェネシン、グアヤコールスルホン酸カリウム等、喀痰溶解薬としては塩化リゾチーム、システイン類等、解熱鎮痛薬としてはアセトアミノフェン、エテンザミド、アスピリン等、制酸薬としてはケイ酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0019】
本発明の医薬組成物は、口中で溶解又は咀嚼することにより服用する形態であれば、剤形は任意であり、錠剤(素錠、糖衣錠)、キャンディー(飴)、グミ剤、ヌガー剤等が例示される。形や大きさは口中にて服用することに不都合がない範囲で適宜選択される。
錠剤は、粉末状の薬物と製薬上許容される賦形剤とを混合して圧縮成形することにより、また、キャンディー(飴)、グミ剤、ヌガー剤等は、製菓の分野で既知の方法で調製することができる。
例えば、錠剤は、当該技術分野で既知の押しだし造粒法、粉砕造粒法、乾式圧密造粒法、流動層造粒法、転動造粒法、高速攪拌造粒法、湿式打錠法、直接打錠法等を、目的に応じて適宜組み合わせて製造すればよい。
本発明の実施に好ましい剤形は、錠剤であり、特に口中で咀嚼することにより服用する形態である咀嚼型の錠剤である。
【0020】
本発明製剤には、本発明の効果に影響を与えない限り、一般的に医薬品添加剤として使用されている任意の成分を添加することができる。そのような添加剤として、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、白糖、タルク、カオリン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、結晶セルロース等の賦形剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の滑沢剤、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシメチルセルロース等の崩壊剤、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、セルロース高分子、アクリル酸系高分子、メチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアルコール等の結合剤、その他の甘味剤、着香剤、着色剤、矯味剤、吸着剤、防腐剤、湿潤剤、帯電防止剤等が挙げられる。
また、本発明の組成物は、目的に応じて薬物放出を制御することにより、薬理効果の発現を制御し、より持続性のある製剤とすることもできる。
【0021】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
実施例1 錠剤
【表1】

日本薬局方 製剤総則「錠剤」に準じて、錠剤を製した。具体的には、d-マレイン酸クロルフェニラミンからマンニットまでの成分をとり、湿式造粒法により、顆粒(A)を調製する。他方、メントールとアビセルを混合して、メントール倍散(B)を調製する。次に、顆粒(A)、メントール倍散(B)、及びステアリン酸マグネシウムを混合して、打錠用顆粒とし、これを重量400mg/錠ととして、打錠機で錠剤を製した。
【0022】
実施例2 錠剤
【表2】

実施例1と同様に、塩酸ジフェンヒドラミンからキシリットまでの成分を用いて顆粒(A)を調製し、他方、アビセルからペパーミントオイルまでの成分を混合して、メントール倍散(B)を調製し、1錠300mgの錠剤を製した。
【0023】
実施例3 錠剤
【表3】

実施例1と同様に、サリチル酸ジフェンヒドラミンからマンニットまでの成分を用いて顆粒(A)を調製し、他方、アビセルからミントオイル又はハッカ油までの成分を混合して、メントール倍散(B)を調製し、1錠400mgの錠剤を製した。
【0024】
実施例4 錠剤
【表4】


実施例1と同様に、フマル酸クレマスチンからソルビットまでの成分を用いて顆粒(A)を調製し、他方、L-HPCとメントールから、メントール倍散(B)を調製し、1錠250mgの錠剤を製した。
【0025】
実施例5 錠剤
【表5】

実施例1と同様に、メキタジンからマンニットまでの成分を用いて顆粒(A)を調製し、他方、アビセルからミントオイル又はハッカ油までの成分を混合して、メントール倍散(B)を調製し、1錠500mgの錠剤を製した。
【0026】
実施例6 錠剤
【表6】

実施例1と同様に、フマル酸ケトチフェンからソルビットまでの成分を用いて顆粒(A)を調製し、他方、L-HPCとメントールからメントール倍散(B)を調製し、1錠250mgの錠剤を製した。
【0027】

上記の成分を混合し、常法通り、1個当たり1.5g(用量:1日3個)のキャンディを製した。
【0028】


上記の成分を混合し、常法通り、1個当たり1.8g(用量:1日3個)のヌガーを製した。
【0029】

上記の成分を混合し、常法通り、1個当たり1.5g(用量:1日3個)のグミを製した。
【0030】


上記の成分を混合し、常法通り、1枚当たり3.0g(用量:1日3枚)のガムを製した。
【0031】
試験例1 溶出試験
実施例1のチュアブル錠と市販の鼻炎用内服剤を用い、日本薬局方の一般試験法である溶出試験法(パドル法)に従って試験を行った。試験溶液として、精製水を用い、試験溶液500ml中、37℃で、パドルの回転数100rpmとして行った。実施例1のチュアブル錠は、口中で約5から15回かみ砕いた後、試料として試験溶液に添加した。試験開始後、経時的に溶出液を採取し、チュアブル錠に配合されているマレイン酸クロルフェニラミンを指標成分として薬物溶出量を測定した。
対照として、有効成分としてマレイン酸クロルフェニラミンを含有する市販の硬カプセル剤(市販品1)、錠剤(糖衣錠)(市販品2)、顆粒剤(市販品3)、及び軟カプセル剤(市販品4)を用い、これらは咀嚼せずに試験した。
マレイン酸クロルフェニラミンは常法のHPLC法にて測定した。結果を表7に示す。
【0032】
【表7】

一方、日本薬局方の一般試験法である崩壊試験にある胃液を想定したpH1.2又は腸液を想定したpH6.8の試験液を用い、実施例1のチュアブル錠と市販の顆粒剤(市販品3)について、上記と同様の方法で薬物溶出試験を行った。結果を表8に示す。
【0033】
【表8】

【0034】
表7及び8から、実施例1のチュアブル錠からの薬物の溶出は極めて迅速であり、短時間で完全に溶出する(ほぼ100%)ことが分かる。その溶出速度は表面積の大きい顆粒剤(市販品3)よりも優れている。また、表8から、実施例1のチュアブル錠からの溶出はpHの影響を全く受けないことが分かる。
咀嚼による表面積の増大によって薬物の溶出が促進されると考えられるが、市販品3の顆粒剤と比較すると、胃内(pH=1.2)、口内(pH=6.8)のいずれの条件下でも、本発明組成物の方が優れた薬物溶出効果を示している。これは、本発明組成物における溶出促進が、単に咀嚼による表面積の増大のみに起因するものでないことを示唆している。
薬物放出速度とその変動は、消化管内での薬物吸収の速度、吸収量と密接に関連しており、薬物治療の効果の発現に大きい影響を及ぼすことが知られている。上記の試験結果は、本発明の製剤が従来の製剤に比較して優れた溶出速度を示すものであることを明らかにし、本発明製剤が即効性であると同時に生物学的利用率が高く、確実に持続して高い効果を発揮しうる有用な製剤であることを証明するものである。
【0035】
試験例2 有効性試験
【表9】

表9に示す錠剤A-1?Dは、実施例1と同様に調製した。対照としてメントールのみを含有する錠剤Eも同様にして調製し、試験に用いた。これらの製剤は、いずれも、含量試験、崩壊試験(JP)、含量均一性試験(JP)に適合することを確認した。鼻炎症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、涙目、頭重)を有する被験者14名に薬剤を投与(一回一錠)し、症状の改善度を、薬剤服用10分後と4時間後に評価した。
錠剤A-1、B及びEは口中で咀嚼(5から15回)して服用し、錠剤A-2は咀嚼せず溶解させ、服用した。また、錠剤CとDは、150mlの水で、口中で咀嚼又は溶解せずに嚥下内服した。試験結果を表10及び表11に示す。
【0036】
【表10】

【0037】
【表11】

【0038】
本発明の錠剤A-1、A-2、及びBを、非咀嚼、非溶解型の錠剤Cと比較すると、10分後の改善率が有意に高く、4時間後の改善率においても優れており、即効性と持続性の両方を兼ね備えていることが分かる。また、これら本発明の製剤A-1,A-2及びBを、メントール以外の薬物を含有しない錠剤E(咀嚼して服用)と比較すると、10分後、4時間後のいずれにおいても、メントール単独の組成物よりもはるかに有効であることが分かる。一方、非咀嚼、非溶解型の錠剤C及びDはメントールの有無に関係無く、改善率が低い。
また、メントールを含有する咀嚼型(A-1)及び溶解型(A-2)の製剤をメントールを含有しない咀嚼型(B)製剤と比較すると、前2者は後者よりも即効性が極めて高いことが分かる(表10参照)。これは、咀嚼型又は溶解型製剤にメントールを含有させると、即効性が顕著に増強されることを示している。
以上の結果から、本発明の溶解型又は咀嚼型製剤は、通常の嚥下型の錠剤に比較して鼻炎症状に対して即効性であり、かつ持続的な効果を有することが明らかである。投与から4時間後においても、対応する錠剤に比較して高い効果を示すことから、本発明の組成物は、高い即効性と高い生物学的利用率を兼ね備えた、治療効果が増強された優れた製剤であるといえる。これらの優れた作用の原因として以下の点が考察される。
1.口中で唾液と混和されるために、薬物溶解が促進される。
2.即座に吸収され、かつ吸収量が高まる。
3.顎の運動により鼻腔の血行が促進される。
4.咽頭部からの鼻腔直接作用がある。
【0039】
【発明の効果】
本発明の医薬組成物は、口中で長時間保持され唾液と混合されるために、鼻粘膜に咽頭部から直接作用することができるので、鼻汁過多を含むあらゆるタイプの鼻炎症状に対して即効性を示す。この即効性は鼻閉にとどまらず、鼻汁や頭重、のどの痛みなどの鼻炎の諸症状の緩和に有効である。同時に、消化管からも吸収され、確実に持続的な効果を発揮することができ、同量の活性成分を含有する通常の内服用錠剤に比較して十分に高い生物学的利用率を達成できる。その結果、薬物の有効利用が可能となり投与量の減少等を通して、患者の負担を軽減すると共に、生活の質を向上させることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-11-02 
結審通知日 2009-11-05 
審決日 2009-11-17 
出願番号 特願平10-267998
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関 景輔  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 弘實 謙二
塚中 哲雄
登録日 2007-03-16 
登録番号 特許第3929618号(P3929618)
発明の名称 口中溶解型又は咀嚼型鼻炎治療用固形内服医薬組成物  
代理人 高野 登志雄  
代理人 品川 永敏  
代理人 品川 永敏  
代理人 田村 恭生  
代理人 鮫島 睦  
代理人 有賀 三幸  
代理人 森本 靖  
代理人 村田 正樹  
代理人 山本 博人  
代理人 田村 恭生  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 中嶋 俊夫  
代理人 森本 靖  
代理人 鮫島 睦  

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