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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1210205
審判番号 不服2008-82  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-04 
確定日 2010-01-13 
事件の表示 特願2000-207463「有機EL素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月25日出願公開、特開2002- 25781〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年(2000年)年7月7日の出願(特願2000-207463号)であって、平成19年8月22日付けで手続補正がなされ、同年9月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年1月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年1月29日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成20年1月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定について

[補正の却下の決定の結論]
平成20年1月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成19年8月22日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載の、

「基板に並設された複数の透明電極と、前記透明電極と交差する方向に延在する複数の陰極と、これら透明電極と陰極との間に形成された発光層を含む有機層と、を具備する有機EL素子であって、
隣接する前記透明電極どうしの間のスペース部に、絶縁有機層が形成されて、
前記絶縁有機層が、前記透明電極の端部の上側に張り出して、該透明電極の端部を被覆しており、
前記絶縁有機層は、その幅方向端部に、前記幅方向外側に向かって膜厚が減少するようにテーパ角を有し、
前記絶縁有機層が、少なくとも有機層の一部分と同一の材質から形成されてなることを特徴とする有機EL素子。」が

「基板に並設された複数の透明電極と、前記透明電極と交差する方向に延在する複数の陰極と、これら透明電極と陰極との間に形成された発光層を含む有機層と、を具備する有機EL素子であって、
隣接する前記透明電極どうしの間のスペース部に、絶縁有機層が形成されて、
前記絶縁有機層が、前記透明電極の端部の上側に張り出して、該透明電極の端部を被覆しており、
前記絶縁有機層は、その幅方向端部に、前記幅方向外側に向かって膜厚が減少するようにテーパ角を有し、
前記絶縁有機層は正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層のうちのいずれか1つの層と同一の材質から形成されてなることを特徴とする有機EL素子。」と補正された。

そして、この補正は、本件補正前の請求項1における「少なくとも有機層の一部分」を、具体的に「正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層のうちのいずれか1つの層」と限定して特定する補正事項を含むものであるから、特許請求の範囲のいわゆる限定的減縮を目的とする補正を含む。
すなわち、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものを含む。

2 独立特許要件違反についての検討
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反しないか)について検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、平成20年1月29日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるものである。(上記「第2 平成20年1月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

(2)引用例
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-173777号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。(後述の「イ 引用例1に記載された発明」において発明の認定に直接関係する記載に下線を付した。)

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも一方が透明なアノードとカソードの間に、発光層を含む有機層を備えた有機EL素子において、 前記アノードと前記有機層の間の少なくとも一部分に、前記アノードからのホールの移動を阻止するホールブロッキング層を設けたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】 少なくとも一方が透明なアノードとカソードの間に、発光層を含む有機層を備えた有機EL素子において、前記有機層が、前記アノードの上に所定のパターンで形成され前記アノードからのホールの移動を阻止するホールブロッキング層と、前記ホールブロッキング層及び前記ホールブロッキング層に覆われていない前記アノードの上に形成されたホール注入層と、前記ホール注入層の上に形成されたホール輸送層と、前記ホール輸送層と前記カソードの間に形成された電子輸送層兼発光層を有していることを特徴とする有機EL素子。
【請求項3】 前記ホールブロッキング層のイオン化ポテンシャルは、前記アノードのイオン化ポテンシャルよりも0.6eV以上大きい請求項1又は2記載の有機EL素子。
【請求項4】 前記アノードがITOであり、前記ホールブロッキング層が化学式(化1)に示すAl_(2) O(OXZ)_(4 )である請求項3記載の有機EL素子。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、少なくとも一方が透明である一対の電極間に、有機化合物からなる正孔輸送層や発光層等が積層された有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と呼ぶ)に関する。」

「【0013】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態の一例である有機EL素子1を図1?図4を参照して説明する。図1は本例の有機EL素子1の積層構造を示す断面図である。この図1に示すように、ガラス製の基板2の上には透光性のITOからなるアノード3が形成されている。本例のアノード3は、所定間隔をおいて配置された多数本の帯状の電極からなる。基板2とこれらアノード3の上には、前記化学式(化1)に示すキレート錯体Al_(2) O(OXZ)_(4 )からなるホールブロッキング層4が形成されている。このホールブロッキング層4は、その真下にあるアノード3から供給されるホールを阻止する機能を有する。図2は、図1の切断線(イ)における横断面の構造を含む模式的な図であり、主としてアノード3とホールブロッキング層4の形状及び位置関係を示している。この図2に示すように、ホールブロッキング層4は、帯状の各アノード3に対応する部分に正方形状の開口部5を有している。開口部5は複数個あり、所定間隔をおいて配置されている。
【0014】このホールブロッキング層4は、その真下にあるアノード3から、その真上にある後述する有機層にホールが入り込まないように阻止する。また、方形の開口部5の部分においては、ホールの移動を許容して有機層が開口部5の形状で発光するようにする。即ち、発光パターンを区画するための従来の絶縁層に相当する部分である。
【0015】このホールブロッキング層4は、アノード3からホールが入り込まないように阻止するためのものであるから、イオン化ポテンシャルの値がアノード3よりも高くなければならない。本例のアノード3であるITOのイオン化ポテンシャルは4.5?5.0eVである。本例のホールブロッキング層4のイオン化ポテンシャルは、これよりも0.6eV以上高いことが必要であり、0.8eV以上高ければさらに好ましい。即ち、本例で使用されるAl2 O(OXZ)4 のイオン化ポテンシャルは、5.8?6.0eV以上となる。
【0016】なお、前記イオン化ポテンシャルとは固体表面の電子状態を表す物性値であり、真空準位を基準とした価電子帯最上端のエネルギーのことである。換言すれば、固体から電子を真空中に取り出すに要する最小のエネルギーのことである。
【0017】本例における上述したイオン化ポテンシャルの数値は、任意のガス雰囲気内で電子を計数できるオープンカウンターを利用した大気中紫外線光電子分析装置を用いて測定したものである。この種の装置としては、例えば理研計器株式会社製のAC-1等が知られている。この装置は、紫外線放出光源から出た200?360nmの光を分光器で任意の波長に分光し、サンプル表面に照射する。この光子1個のエネルギーEを、E=hc/λ(h:プランク定数、c:光速、λ:波長)から換算すると、6.2?3.4eVになる。この照射光をエネルギーの低い方から高い方へ掃引していくと、あるエネルギー値から光電効果による電子放出が始まる。このエネルギーをイオン化ポテンシャルと呼ぶ。
【0018】有機EL素子に使われる有機物質のイオン化ポテンシャルを前記装置によって測定した例を比較のために挙げれば、PVKが5.8、BBOTが5.9、PBDが5.9、TPBが6.0、DCM1が5.6である。
【0019】図1に示すように、ホールブロッキング層4の上には、化学式(化2)に示すCuPcからなるホール注入層6が形成されている。ホール注入層6は、ホールブロッキング層4の上面に接するとともに、ホールブロッキング層4の開口部5の中に入り込んでアノード3にも接している。
【0020】
【化2】

【0021】このホール注入層6の上には、化学式(化3)に示すα-NPDからなるホール輸送層7が形成されている。
【0022】
【化3】

【0023】ホール輸送層7の上には、化学式(化4)に示すAlq_(3) からなる電子輸送層兼発光層8が形成されている。
【0024】
【化4】

【0025】電子輸送層兼発光層8の上には、LiF層9とAl層10からなるカソード11が形成されている。」


「【0029】次に、本例の有機EL素子1の構造において、ホールブロッキング層4の絶縁性について実験結果を参照して説明する。前述した積層構造において開口部5のないホールブロッキング層4を有する素子Aと、前述した積層構造においてホールブロッキング層4を設けない素子Bを、それぞれ作成する。前者Aは、本例の有機EL素子1においてホールブロッキング層4の絶縁部分(開口部5のない部分)に相当し、後者Bは、本例の有機EL素子1においてホールブロッキング層4の開口部5の部分に相当する。これらの素子A,Bに直流電圧を印加し、電流と発光輝度を測定し、それぞれ図3及び図4に示した。
【0030】図3及び図4に示すように、素子Aは、20V以上の電圧をかけても電流が流れず、発光しなかった。即ち、電気的な絶縁性が確実であることが確認された。また、素子Bは、約5Vで電流が流れはじめ、図示のように発光は電圧の上昇に伴って急速に増加し、約10Vで約2500cd/m^(2) の輝度が得られた。これらの結果から分かるように、本例の有機EL素子1によれば、ホールブロッキング層4を適当な位置に所定のパターンで配置することにより絶縁層としての機能を発揮させ、発光層を所定のパターンで発光させることができる。
【0031】このように、本例によれば、アノード3上に蒸着によって所定パターンの開口部5を有するホールブロッキング層4を形成することにより、発光層のアノード配線に対応する部分等が発光する等の不都合を避けて、任意の発光パターンの任意の部分のみを選択的に発光させるように構成できる。また、ホールブロッキング層4はAl_(2) O(OXZ)_(4) の蒸着によって形成するので、他の有機層と共に真空装置内の一貫した連続工程で製造できるので、水分の混入を避けられ、製造費用も安くなる。また、本例のホールブロッキング層4は従来の絶縁層に比べて薄く形成できるので開口部における段差が軽減される。
【0032】従来絶縁層として使用されていたSiO_(2) は水分を含有しやすく、有機EL素子として使用した際に水分によって表示に悪影響がでていた。しかし、本例のAl_(2) O(OXZ)_(4 )等の有機のホールブロッキング層4は水を吸いにくいので、このような問題が生じない。また、従来絶縁層として使用されていたSiNはCVD法で被着しており、他の有機層の製造方法と異なる。しかし、本例のAl_(2) O(OXZ)_(4) 等の有機のホールブロッキング層4は、他の有機層と共に真空装置内における一貫した連続工程で蒸着により製造できるので、水分の混入を避けられ、また製造費用が安くなる。
【0033】
【発明の効果】本例の有機EL素子によれば、アノードと有機層の間の少なくとも一部分に、アノードからのホールの移動を阻止するホールブロッキング層を設けたので、次のような効果が得られる。
【0034】ホールブロッキング層の形状(パターン)に応じて発光する領域が区画され、任意の発光パターンの任意の部分のみを選択的に発光させるように構成できる。
【0035】また、ホールブロッキング層を例えばAl_(2) O(OXZ)_(4 )等の有機物質の蒸着によって形成することとすれば、他の有機層と共に真空装置内の一貫した連続工程で製造できることとなり、水分の混入を避けられ、また製造費用が安くなる。さらに、従来の無機の絶縁層に比べて薄く形成できるので、パターンの開口部における段差が軽減される。」

【図1】【図2】から、隣接するアノード3どうしの間に、ホールブロッキング層4が形成されていることが見て取れる。

イ 引用例1に記載された発明の認定
【化1】ないし【化4】の化学式から、ホールブロッキング層4、ホール注入層6、ホール輸送層7及び電子輸送層兼発光層8はいずれも有機物質からなる層であることがわかるから、上記記載事項から、引用例1には、有機EL素子に関し、
「ガラス製の基板2の上には透光性のITOからなるアノード3が形成され、アノード3は、所定間隔をおいて配置された多数本の帯状の電極からなり、基板2とこれらアノード3の上には、キレート錯体Al_(2) O(OXZ)_(4 )からなる有機絶縁層であるホールブロッキング層4が形成され、このホールブロッキング層4は、その真下にあるアノード3から供給されるホールを阻止する機能を有し、
ホールブロッキング層4の上には、CuPcからなる有機のホール注入層6が形成され、
ホール注入層6の上には、α-NPDからなる有機のホール輸送層7が形成され、
ホール輸送層7の上には、Alq_(3) からなる有機の電子輸送層兼発光層8が形成され、
電子輸送層兼発光層8の上には、LiF層9とAl層10からなるカソード11が形成され、
隣接するアノード3どうしの間に、上記の有機絶縁層のホールブロッキング層4が形成されている有機EL素子。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-97182号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。(後述の「(4)当審の判断」において直接参照する記載に下線を付した。)

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板と、
前記基板の上に形成された複数の第1電極と、
前記第1電極の縁部を覆うとともに中央部を露出させるように形成された絶縁膜と、
前記第1電極の前記露出された部分の上に形成された発光層と、
前記発光層の上に形成された複数の第2電極とを備え、
前記絶縁膜はその厚みが前記縁部側では厚く前記中央部に近づくに従って徐々に薄くなるように傾斜して形成されたことを特徴とする発光ディスプレイパネル。
【請求項2】 前記絶縁膜の傾斜角度は前記基板の面に対して45度以下であることを特徴とする請求項1に記載の発光ディスプレイパネル。
【請求項3】 前記絶縁膜はポリイミドからなることを特徴とする請求項1に記載の発光ディスプレイパネル。
【請求項4】 前記発光層は有機材料を含んでなることを特徴とする請求項1ないしは3のいづれか一に記載の発光ディスプレイパネル。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有機EL(Electroluminecsence )ディスプレイ等の発光ディスプレイパネルに関する。」

「【0006】次に図3に上述した発光ディスプレイパネルの部分断面図を示す。図3において、画素間の間隙部には絶縁膜9が形成され、その後有機層3及び金属電極1を蒸着して構成されている。金属電極1はストライプ状の複数の陰極に分割され、金属電極1と直交する透明電極2により画素マトリクスを形成している。また、絶縁膜9は透明電極2の縁部を覆い中央部を露出させるように形成され、絶縁膜9の縁部は透明電極2上に急峻に形成されている。
【0007】このように絶縁膜9を隣合う透明電極2間に配設することにより、透明電極2と金属電極1の間の絶縁を確保することにより所望画素以外の画素の誤発光を防止している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上述したように発光ディスプレイパネルでは、有機層及び金属電極は、一般的に、第1電極の縁部に絶縁膜を形成した後に、有機材料及び金属材料を蒸着により堆積させることで形成される。ところが絶縁膜の縁部付近は、縁部が垂直方向に立ち上がった形状となっているために、有機材料や金属材料が堆積しにくい構造となっており、その部分の層厚(図3のxで示す)は他の部分の層厚に比べて薄くなってしまう。そのため、有機層の厚い部分に比べて十分な発光輝度が得られないという問題があった。また、絶縁膜の縁部付近においては、金属電極の層が薄いことから、他の部分に比べて水分が侵入し易くなるが、有機材料は水分によって発光特性が劣化する性質のものであることから、発光領域の外周から非発光部が進行していくという問題があった。本発明は上記の問題点に鑑みなされたものであって、絶縁膜の縁部の厚さが透明電極上で徐々に薄くなるように形成したので外部から水分が侵入しにくく、有機膜が薄くなることがなく、有機膜が連続しているため、発光特性の安定した発光ディスプレイパネルを提供することができる。」

「【0014】
【発明の実施の形態】以下に本発明を図1を参照しつつ説明する。図1は、本発明における発光ディスプレイパネルの構造の部分断面を示している。
【0015】図1に示すように、ガラス透明基板6上に、第1の電極となるITO等の複数の透明電極102、発光層となる有機層103、透明電極102に交差する複数の第2の電極の金属電極層となる金属電極101を順に蒸着積層して形成される。有機層103を挾持して互いに対向し対をなす透明電極102及び金属電極101とによって有機EL発光素子となる発光部が形成され、透明電極102及び金属電極101の各々が互いに対向して交差する交差領域部の発光部を1単位として1画素が形成される。
【0016】また、電気抵抗の高い透明電極102の導電性を補うために、該透明電極102より低抵抗な金属膜からなる透明電極102の幅より細幅の図示しないバスラインが透明電極102及び有機層103間の一部に積層され、その各層はマトリクス状に配列されている。
【0017】金属電極101には、Al、Inの合金等の仕事関数が小さな金属(例えば、Al-Li合金)を用いる。また、透明電極102には、ITO等の仕事関数の大きな導電性材料又は金等を用いることができる。なお、金を電極材料として用いた場合には、電極は半透明の状態となる。
【0018】透明電極102及び有機層103間の一部に積層される図示しないバスラインには、低抵抗な金:Au、白金:Pt、ニッケル:Ni、アルミニウム:Al、銅:Cu等と、あるいはこれら金属を含む合金材料を用いる。
【0019】絶縁膜109は、透明電極102の画素間の間隙部に形成される。
【0020】絶縁膜109には、SiO_(2) 等の絶縁性を備えた材料であり、スパッタ等により形成される。また、窒化珪素(Si_(3) N_(4) )やアルミナ(Al_(2) O_(3) )の薄膜等も用いられる。なお、絶縁性部材としては、SiNxに代えて、SiO_(2) 、Al_(2) O_(3) 、Y_(2)O_(3) 、Ta_(2) O_(5) 等であってもよい。
【0021】絶縁膜109の形成は、絶縁性感光レジストである感光性ポリイミド樹脂を用い、スピンコート、ロールコート、印刷、ラミネート等の方法により均一に付着させ、さらにフォトリソグラフィー等によるパターニングによって所定の間隙部分を残して除去される。
【0022】一方、絶縁膜109の縁部は、透明電極102上で必要な露出部を確保し、かつ、この絶縁膜109の縁部の形成を鋭い縁部とならないように、絶縁膜の厚さが絶縁膜の縁部に近付くに従って徐々に薄くなるように形成してある。」


「【0030】このようにして作製した発光ディスプレイパネルにおいて、有機層及び金属電極の積層の後にディスプレイパネル全体を封止する作業を行いディスプレイパネルの製造が終了した時点で、画素の周縁における非発光部の領域を調べたところ、絶縁膜の縁部傾斜が30度、40度、45度の場合は画素中に非発光部は存在しなかったが、縁部傾斜が50度だと画素の周縁に非発光部が出現した。
【0031】従って、絶縁膜を上記の傾斜形状にすることで、絶縁膜の縁部付近における有機層及び金属電極の厚みが他の部分と比べて極端に薄くなることはない。よって、他の部分に比べて発光が不十分になったり水分が侵入しやすくなるということはない。」

【図1】から、絶縁膜109が、透明電極2の端部の上側に張り出して、透明電極2の端部を被覆していること、また、絶縁層109は、幅方向端部に、幅方向外側に向かって膜厚が減少するように傾斜していることが見て取れる。

【図2】から、透明電極2と交差する方向に複数の金属電極が延在していることが見て取れる。

(3)本願補正発明と引用発明との対比
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「ガラス製の基板2」、「透光性のITOからなるアノード3」、「LiF層9とAl層10からなるカソード11」及び「キレート錯体Al_(2) O(OXZ)_(4 )からなる有機絶縁層であるホールブロッキング層4、CuPcからなる有機のホール注入層6、α-NPDからなる有機のホール輸送層7及びAlq_(3) からなる有機の電子輸送層兼発光層8」が、それぞれ、本願補正発明の「基板」、「透明電極」、「陰極」及び「発光層を含む有機層」に相当するから、引用発明の「ガラス製の基板2の上には透光性のITOからなるアノード3が形成され、アノード3は、所定間隔をおいて配置された多数本の帯状の電極からなり、基板2とこれらアノード3の上には、キレート錯体Al_(2) O(OXZ)_(4 )からなる有機絶縁層であるホールブロッキング層4が形成され、ホールブロッキング層4の上には、CuPcからなる有機のホール注入層6が形成され、ホール注入層6の上には、α-NPDからなる有機のホール輸送層7が形成され、ホール輸送層7の上には、Alq_(3) からなる有機の電子輸送層兼発光層8が形成され、電子輸送層兼発光層8の上には、LiF層9とAl層10からなるカソード11が形成され、」ることと、本願補正発明の「基板に並設された複数の透明電極と、前記透明電極と交差する方向に延在する複数の陰極と、これら透明電極と陰極との間に形成された発光層を含む有機層と、を具備する」こととは、「基板に並設された複数の透明電極と、陰極と、これら透明電極と陰極との間に形成された発光層を含む有機層と、を具備する」ことで一致する。

また、引用発明の「隣接するアノード3どうしの間に、有機絶縁層のホールブロッキング層4が形成されている」ことは、本願補正発明の「隣接する前記透明電極どうしの間のスペース部に、絶縁有機層が形成され」ることに相当する。

イ 一致点
よって、本願補正発明と引用発明は、
「基板に並設された複数の透明電極と、陰極と、これら透明電極と陰極との間に形成された発光層を含む有機層と、を具備する有機EL素子であって、
隣接する前記透明電極どうしの間のスペース部に、絶縁有機層が形成されてなる有機EL素子。」の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

ウ 相違点
(ア)相違点1
本願補正発明の陰極は、「透明電極と交差する方向に延在する複数」の陰極であるのに対し、引用発明においては、そのような限定がなされていない点。

(イ)相違点2
隣接する前記透明電極どうしの間のスペース部に形成された絶縁有機層に関し、本願補正発明は、「前記透明電極の端部の上側に張り出して、該透明電極の端部を被覆しており」、また、「その幅方向端部に、前記幅方向外側に向かって膜厚が減少するようにテーパ角を有し」ているのに対し、引用発明においては、そのような限定がなされていない点。

(ウ)相違点3
本願補正発明の、隣接する前記透明電極どうしの間のスペース部に形成された絶縁有機層が、「正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層のうちのいずれか1つの層と同一の材質から形成されてなる」のに対し、引用発明においては、そのような限定がなされていない点。

(4)当審の判断
ア 上記各相違点について検討する。
(ア)相違点1について
有機EL素子において、陰極を「透明電極と交差する方向に延在する複数」の陰極とすることは、引用例2に記載されている。(【0015】段落、及び、【図2】参照。)
引用発明においても、必要に応じて、引用例2に記載された発明を適用し、陰極を「透明電極と交差する方向に延在する複数」の陰極として上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

(イ)相違点2について
有機EL素子の、隣接する透明電極どうしの間のスペース部に形成された絶縁層を「透明電極の端部の上側に張り出して、該透明電極の端部を被覆し」、また、「その幅方向端部に、前記幅方向外側に向かって膜厚が減少するようにテーパ角を有」する構造とすることは、引用例2に記載されている。(【0019】、【0022】段落、及び、【図1】参照。)
そして、引用例2の【0007】段落の記載に照らすと、引用例2の「絶縁膜109」は「透明電極102」から注入するホールをブロックする機能を有すると認めることができるから、引用発明の「有機絶縁層のホールブロッキング層4」と引用例2の「絶縁膜109」とは、透明な陽極の間に配置されたホールブロック機能を有する絶縁層である点で一致する。
したがって、引用発明に、引用例2に記載された発明を適用し、「有機絶縁層のホールブロッキング層4」を「透明電極の端部の上側に張り出して、該透明電極の端部を被覆しており、また、その幅方向端部に、前記幅方向外側に向かって膜厚が減少するようにテーパ角を有」するとして上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

(ウ)相違点3について
有機EL素子の、隣接する透明電極どうしの間のスペース部に形成されてホールブロック機能を有する有機絶縁層を、発光層と同一の材質から形成することは、例えば、特開平6-342692号公報(【0023】段落、及び、【図1】参照)、特開平11-273869号公報(【0079】、【0080】、及び、【図10】参照)にも記載されているように周知の技術である。
したがって、引用発明においても、上記の周知の技術を適用し、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 本願補正発明の奏する作用効果
そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び上記の周知技術から当業者が予測し得る程度のものである。

ウ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるということができないから、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年1月29日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成19年8月22日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記「第2 平成20年1月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」の記載参照。)

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項及び引用発明については、上記「第2 平成20年1月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(2)引用例」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 平成20年1月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「1 本件補正について」に記載したように、本願発明に対して、本願発明の発明特定事項「少なくとも有機層の一部分」を、具体的に「正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層のうちのいずれか1つの層」と限定して特定したものが本願補正発明である。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに本願発明の1つの発明特定事項を具体化して限定して特定したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 平成20年1月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定について」の「2 独立特許要件違反についての検討」の「(3)本願補正発明と引用発明との対比」及び「(4)当審の判断」において記載したとおり、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様に、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1,2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-17 
結審通知日 2009-08-18 
審決日 2009-09-01 
出願番号 特願2000-207463(P2000-207463)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井亀 諭濱野 隆  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 日夏 貴史
森林 克郎
発明の名称 有機EL素子およびその製造方法  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 佐伯 義文  

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