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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C02F
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C02F
管理番号 1210418
審判番号 不服2007-12974  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2010-01-14 
事件の表示 特願2000-323832「汚染物質の難溶化処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月 2日出願公開、特開2001-269664〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年10月24日(優先権主張 平成12年1月20日)の出願であって、平成18年2月16日付けで拒絶理由が起案され、同年4月24日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、更に同年12月12日付けで最後の拒絶理由通知が起案され、平成19年2月19日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、同年3月20日付けで同年2月19日付けの手続補正を却下する旨の補正の却下の決定が起案されると共に拒絶査定が起案され、同年5月7日に拒絶査定不服の審判請求がなされ、同年6月6日に明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成21年8月5日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が起案され、回答書の提出がなされなかったものである。

2.平成19年6月6日付けの手続補正について
[補正却下の決定の結論]
平成19年6月6日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正により、平成18年4月24日付けの手続補正書の特許請求の範囲
「 【請求項1】 固体状の被処理物に含まれる汚染物質を難溶化する方法であって、水銀、砒素、カドミウム、銅、鉛、セレン及び六価クロムからなる群から選択された少なくとも1種の汚染物質を含有する被処理物に、陰イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質と、陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質とを混合することを特徴とする汚染物質の難溶化処理方法。
【請求項2】 前記陰イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質としてハイドロタルサイトを使用し、前記陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質として少なくともベントナイトを使用することを特徴とする請求項1に記載の汚染物質の難溶化処理方法。
【請求項3】 前記陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質は、更に、モンモリロナイト、ハロイサイト、カオリン、雲母粘土鉱物又はゼオライトを含むことを特徴とする請求項2に記載の汚染物質の難溶化処理方法。
【請求項4】 前記被処理物にセレンが含まれていない場合は、更に、石灰を添加することを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の汚染物質の難溶化処理方法。」が、次のように補正された。
「 【請求項1】 固体状の被処理物に含まれる汚染物質を難溶化する方法であって、水への溶出時に砒素、セレン又は六価クロムを含む陰イオンを生じる1種以上の汚染物質と、水への溶出時に水銀、カドミウム、銅又は鉛を含む陽イオンを生じる1種以上の汚染物質とを含有する被処理物に、陰イオン交換性物質であるハイドロタルサイトと、陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質としてのベントナイトとを前記被処理物の重量に対して5から30%混合し、前記ハイドロタルサイトに前記被処理物中の砒素、セレン及び六価クロムを固定化すると共に、前記陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質に前記被処理物中の水銀、カドミウム、銅及び鉛を固定化することを特徴とする汚染物質の難溶化処理方法。
【請求項2】 前記陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質は、更に、モンモリロナイト、ハロイサイト、カオリン、雲母粘土鉱物又はゼオライトを含むことを特徴とする請求項1に記載の汚染物質の難溶化処理方法。
【請求項3】 前記被処理物にセレンが含まれていない場合は、更に、石灰を添加し、pH9.2以上のアルカリ性となるように調整することを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染物質の難溶化処理方法。」
(2)そして、本件補正は、平成18年4月24日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1における「水銀、砒素、カドミウム、銅、鉛、セレン及び六価クロムからなる群から選択された少なくとも1種の汚染物質」を「水への溶出時に砒素、セレン又は六価クロムを含む陰イオンを生じる1種以上の汚染物質と、水への溶出時に水銀、カドミウム、銅又は鉛を含む陽イオンを生じる1種以上の汚染物質」とし(補正事項1)、「陰イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質」を「陰イオン交換性物質であるハイドロタルサイト」とし(補正事項2)、「陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質」を「陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質としてのベントナイト」(補正事項3)とし、「ハイドロタルサイトと、・・・のベントナイトとを前記被処理物の重量に対して5から30%混合し」(補正事項4)とし、「前記ハイドロタルサイトに前記被処理物中の砒素、セレン及び六価クロムを固定化すると共に、前記陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質に前記被処理物中の水銀、カドミウム、銅及び鉛を固定化する」(補正事項5)ことを加えたものである。しかし、前記補正事項が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当するとするためには、特許請求の範囲を減縮するだけでなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならない[必要ならば、知財高裁 平成19年(行ケ)10055号 審決取消請求事件 平成20年2月27日判決参照]ところ、本件補正前の請求項1には、被処理物の重量に対してイオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質の混合量の数値範囲を定めるという発明特定事項が記載されておらず、前記補正事項4は、発明特定事項を限定するものとすることができないので、同法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当するものではなく、当該補正事項が請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明にも該当せず、同法第17条の2第4項第1号、第3号、および第4号のいずれにも該当しない。
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

『知財高裁 平成19年(行ケ)10055号 審決取消請求事件 平成20年2月27日判決
特許法17条の2第4項2号は,「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と定めているから,同号の事項を目的とする補正とは、特許請求の範囲を減縮するだけでなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならないと解される。また、「発明を特定するために必要な事項」とは、特許法「第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項」とあることから、特許請求の範囲中の事項であって特許を受けようとする発明を特定している事項であると解される。』

そして、仮に、本件補正が平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであり、同法第17条の2第4項に規定する補正の要件を満たしているとしても、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、6.に後記するとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなく、本件補正は、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成19年6月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年4月24日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「固体状の被処理物に含まれる汚染物質を難溶化する方法であって、水銀、砒素、カドミウム、銅、鉛、セレン及び六価クロムからなる群から選択された少なくとも1種の汚染物質を含有する被処理物に、陰イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質と、陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質とを混合することを特徴とする汚染物質の難溶化処理方法。」

4.引用発明の認定
(i)最後の拒絶の理由及び平成19年3月20日付けなされた補正の却下の決定において引用文献1として引用された本願出願前日本国内において頒布された刊行物である特開平10-128287号には次の事項が記載されている。
(ア)「本発明は、焼却灰、煤塵、鉱滓、汚泥、土壌等の固体状廃棄物中に存在する重金属等の有害物質を固定化し、これらの固体状廃棄物中からの溶出を防止できる、固体状廃棄物の処理方法に関する。」(段落【0001】)
(イ)「本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、従来の金属捕集剤にかえて無機イオン交換体を使用することにより、水銀、カドミウム、鉛、亜鉛、銅、クロム等の重金属元素はもとより、ヒ酸やセレン酸等の元素も効率良く固定化でき、しかも有毒ガスが発生する虞もないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】即ち本発明の固体状廃棄物の処理方法は、固体状廃棄物に無機イオン交換体を添加し、固体状廃棄物中の有害物質を無機イオン交換体によって固定化することを特徴とする。」(段落【0005】?【0006】)
(ウ)「本発明において用いる無機イオン交換体としては、例えば金属酸化物・含水酸化物、多価金属酸性塩、不溶性ヘテロポリ酸塩、不溶性フェロシアン化物、アルミノ珪酸塩や粘土鉱物等が挙げられる。」(段落【0007】)
(エ)「アルミノ珪酸塩類や粘土鉱物類としては、ゼオライト、モルデナイト、ベントナイト、バーミキュライト、スメクタイト(モンモリロナイトを含む)等が挙げられる。更にこれらの他に、ヒドロキシアパタイト、トバモライト、ゾノトライト、マガディライト等や、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、珪酸ジルコニウム等も無機イオン交換体として用いることができる。これら無機イオン交換体は、1種または2種以上を混合して用いることができる。これらの無機イオン交換体は、その化学構造や結晶構造、層間距離等によって、陽イオン或いは陰イオンに対する選択性やイオン交換物性が異なるため、処理の対象となる固体状廃棄物から溶出するイオンの種類と溶出量に基づき、無機イオン交換体を選定する必要がある。」(段落【0009】)
(オ)「無機イオン交換体の固体状廃棄物への添加量は、固体状廃棄物中に含まれている固定化すべき金属等の量によっても異なるが、通常、無機イオン交換体の使用量は固体状廃棄物の重量の0.1?50重量%程度の量である。」(段落【0011】)
引用文献1の記載事項(ア)には「本発明は、・・・固体状廃棄物中に存在する重金属等の有害物質を固定化し、これらの固体状廃棄物中からの溶出を防止できる、固体状廃棄物の処理方法に関する。」との記載があり、記載事項(イ)には「無機イオン交換体を使用することにより、水銀、カドミウム、鉛、亜鉛、銅、クロム等の重金属元素はもとより、ヒ酸やセレン酸等の元素も効率良く固定化でき(る)」ことが記載され、記載事項(ウ)には「無機イオン交換体としては、・・・アルミノ珪酸塩や粘土鉱物等が挙げられる。」ことが記載され、記載事項(エ)には「アルミノ珪酸塩類や粘土鉱物類としては、ゼオライト、・・・ベントナイト・・・等が挙げられ・・・これら無機イオン交換体は、1種または2種以上を混合して用いることができ・・・これらの無機イオン交換体は、・・・陽イオン或いは陰イオンに対する選択性やイオン交換物性が異なるため、処理の対象となる固体状廃棄物から溶出するイオンの種類と溶出量に基づき、無機イオン交換体を選定する必要がある。」ことが記載されている。これらを本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると「固体状廃棄物中に存在する重金属等の有害物質を固定化し、これらの固体状廃棄物中からの溶出を防止できる、固体状廃棄物の処理方法に関し、陽イオン或いは陰イオンに対する選択性やイオン交換物性が異なるため、処理の対象となる固体状廃棄物から溶出するイオンの種類と溶出量に基づき、ベントナイト等の粘土鉱物等の無機イオン交換体を選定し、1種または2種以上を混合して用いることにより、水銀、カドミウム、鉛、銅、クロム等の重金属元素はもとより、ヒ酸やセレン酸等の元素も効率良く固定化できる固体状廃棄物の処理方法。」の発明(以下、「引用1発明」という。)が引用文献1には記載されていると認められる。

5.対比・判断
本願発明と引用1発明を対比すると、引用1発明の「固体状廃棄物」は、処理方法の対象であるから「固体状の被処理物」であることは明らかであり、引用1発明の「重金属等の有害物質を固定化し、これらの固体状廃棄物中からの溶出を防止できる」ことは、「汚染物質を難溶化する」ことにほかならない。したがって、引用1発明の「固体状廃棄物中に存在する重金属等の有害物質を固定化し、これらの固体状廃棄物中からの溶出を防止できる、固体状廃棄物の処理方法」は、本願発明の「固体状の被処理物に含まれる汚染物質を難溶化する方法」に相当する。また、引用1発明の「水銀、カドミウム、鉛、銅、クロム等の重金属元素、ヒ酸やセレン酸等の元素」の内で「水銀、カドミウム、鉛、銅、の重金属元素」は、本願補正発明の「水銀、カドミウム、銅、鉛からなる群から選択された少なくとも1種の汚染物質」を意味することは明らかである。さらに、引用1発明の「陽イオン或いは陰イオンに対する選択性やイオン交換物性が異なるため、処理の対象となる固体状廃棄物から溶出するイオンの種類と溶出量に基づき、ベントナイト等の粘土鉱物等の無機イオン交換体を選定し、1種または2種以上を混合して用いる」のであるから、引用1発明には「陽イオン交換体となる粘土鉱物と陰イオン交換体となる粘土鉱物とを混合すること」すなわち「陰イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質と、陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質とを混合すること」が記載されていると認められる。
してみると、本願発明と引用1発明とは、「固体状の被処理物に含まれる汚染物質を難溶化する方法であって、水銀、カドミウム、銅及び鉛からなる群から選択された少なくとも1種の汚染物質を含有する被処理物に、陰イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質と、陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質とを混合する汚染物質の難溶化処理方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
本願発明では、「被処理物」が「砒素、セレン及び六価クロムからなる群から選択された少なくとも1種の汚染物質」を含むのに対して、引用1発明では固体状廃棄物が「クロム等の重金属元素はもとより、ヒ酸やセレン酸等の元素」を有害物質として含む点(以下、「相違点(a)」という。)。
そこで、上記相違点(a)について検討する。
引用1発明の「クロム」については、引用文献1の表1に溶出した金属の具体的な例としてHgやPbと並んでCr^(6+)が記載されていることからみて、本願補正発明の「六価クロム」に相当することは明らかであり、引用1発明の「ヒ酸やセレン酸」は「H_(3)AsO_(4)やH_(2)SeO_(4)」であって、ヒ酸やセレン酸等の元素とは本願補正発明の「砒素」及び「セレン」を意味し、本願の明細書の実施例でも「クロム」とともに陰イオンの形態で溶出するように調整しているから(段落【0014】)、処理対象として同じ元素を意味するということができ、結局、当業者であれば適宜なし得る処理対象元素の言い換えにすぎないものである。
そして、本願明細書の記載を検討しても、本願発明により当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏することができたものとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.本願補正発明の独立特許要件の検討
(i)本件補正により補正された請求項1は、2.(1)に記載されたとおりの「固体状の被処理物に含まれる汚染物質を難溶化する方法であって、水への溶出時に砒素、セレン又は六価クロムを含む陰イオンを生じる1種以上の汚染物質と、水への溶出時に水銀、カドミウム、銅又は鉛を含む陽イオンを生じる1種以上の汚染物質とを含有する被処理物に、陰イオン交換性物質であるハイドロタルサイトと、陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質としてのベントナイトとを前記被処理物の重量に対して5から30%混合し、前記ハイドロタルサイトに前記被処理物中の砒素、セレン及び六価クロムを固定化すると共に、前記陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質に前記被処理物中の水銀、カドミウム、銅及び鉛を固定化することを特徴とする汚染物質の難溶化処理方法。」(以下、「本願補正発明」という。)である。
(ii)引用発明の認定
引用文献1及びその記載事項は4.(i)に記載のとおりである。
引用文献1には、記載事項(オ)に「無機イオン交換体の固体状廃棄物への添加量は、固体状廃棄物中に含まれている固定化すべき金属等の量によっても異なるが、通常、無機イオン交換体の使用量は固体状廃棄物の重量の0.1?50重量%程度の量である。」とあるので、引用1発明にさらに、「固体状廃棄物の重量の0.1?50重量%程度イオン交換体を使用する」ことを加えた「固体状廃棄物中に存在する重金属等の有害物質を固定化し、これらの固体状廃棄物中からの溶出を防止できる、固体状廃棄物の処理方法に関し、陽イオン或いは陰イオンに対する選択性やイオン交換物性が異なるため、処理の対象となる固体状廃棄物から溶出するイオンの種類と溶出量に基づき、ベントナイト等の粘土鉱物等の無機イオン交換体を選定し、1種または2種以上を混合して固体状廃棄物の重量の0.1?50重量%程度イオン交換体を使用することにより、水銀、カドミウム、鉛、銅、クロム等の重金属元素はもとより、ヒ酸やセレン酸等の元素も効率良く固定化できる固体状廃棄物の処理方法。」の発明(以下、「引用1’発明」という。)が引用文献1には記載されていると認められる。
(iii)対比・判断
本願補正発明と引用1’発明を対比すると、引用1’発明の「固体状廃棄物」は、処理方法の対象であるから「固体状の被処理物」であることは明らかであり、引用1’発明の「重金属等の有害物質を固定化し、これらの固体状廃棄物中からの溶出を防止できる」ことは、「汚染物質を難溶化する」ことにほかならない。したがって、引用1’発明の「固体状廃棄物中に存在する重金属等の有害物質を固定化し、これらの固体状廃棄物中からの溶出を防止できる、固体状廃棄物の処理方法」は、本願補正発明の「固体状の被処理物に含まれる汚染物質を難溶化する方法」に相当する。上記相違点(a)の検討を踏まえれば引用1’発明の「ヒ酸やセレン酸等の元素」は、いずれも陰イオンでの形態で溶出するから、「水への溶出時に砒素、セレン又は六価クロムを含む陰イオンを生じる1種以上の汚染物質」に相当する。また、引用1’発明の「水銀、カドミウム、鉛、銅の重金属元素」は、本願補正発明の「水への溶出時に水銀、カドミウム、銅又は鉛を含む陽イオンを生じる1種以上の汚染物質」を意味することは明らかである。さらに、引用1’発明は「陽イオン或いは陰イオンに対する選択性やイオン交換物性が異なるため、処理の対象となる固体状廃棄物から溶出するイオンの種類と溶出量に基づき、ベントナイト等の粘土鉱物等の無機イオン交換体を選定し、1種または2種以上を混合して固体状廃棄物の重量の0.1?50重量%程度イオン交換体を使用する」ものであり、この数値範囲内でのイオン交換体の使用量は適宜決定採用し得る事項であり、ベントナイトがゼオライトとともに陽イオン交換体として用いられることが周知であるから、引用1’発明には「陰イオン交換性を有する物質と、陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質としてのベントナイトとを前記被処理物の重量に対して5から30%混合すること」が記載されていると認められ、「陰イオン交換性を有する物質が前記被処理物中の砒素、セレン及び六価クロムを固定化すると共に、前記陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質に前記被処理物中の水銀、カドミウム、銅及び鉛を固定化すること」は、記載されているに等しい事項と認められる。
してみると、本願補正発明と引用1’発明とは、「固体状の被処理物に含まれる汚染物質を難溶化する方法であって、水への溶出時に砒素、セレン又は六価クロムを含む陰イオンを生じる1種以上の汚染物質と、水への溶出時に水銀、カドミウム、銅又は鉛を含む陽イオンを生じる1種以上の汚染物質とを含有する被処理物に、陰イオン交換性を有する物質と、陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質としてのベントナイトとを前記被処理物の重量に対して5から30%混合し、前記陰イオン交換性を有する物質が前記被処理物中の砒素、セレン及び六価クロムを固定化すると共に、前記陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質に前記被処理物中の水銀、カドミウム、銅及び鉛を固定化する汚染物質の難溶化処理方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
本願補正発明では、「陰イオン交換性を有する物質」が「ハイドロタルサイト」であるのに対して、引用1発明では、特定のない点(以下、「相違点(b)」という。)。
そこで、上記相違点(b)について検討すると、陰イオンを交換する物質として、重金属等を含む陰イオンを捕捉できることが周知であるハイドロタルサイト(必要であれば、最後の拒絶の理由及び平成19年3月20日付けなされた補正の却下の決定で提示された引用文献2(特開昭60-161744号公報)、同補正の却下の決定で提示された引用文献3(上住圭、小舟正文、藤井知,ハイドロタルサイト状化合物によるシュウ酸クロム(3価)錯イオンの吸着,日本化学会中国四国・同九州支部合同大会講演要旨集,日本,日本化学会中国四国支部,1993年,113頁)、同補正の却下の決定で提示された引用文献4(辻正道、山口真、松波淳、玉浦裕,セレン吸着材の探索,日本イオン交換研究発表会講演要旨集,日本,日本イオン交換学会,1999年,15th,18頁)を参照。)を引用1’発明に採用することは、当業者であれば容易に想到しうるというべきであって、それを妨げる事情も存在しない。
そして、本願明細書の記載を検討しても、本願補正発明により、当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。
したがって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(iv)まとめ
以上のとおりであるから、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。そうすると、平成19年6月6日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反してなされたものである。
(3)むすび
したがって、平成19年6月6日付けで提出された手続補正書によりなされた補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

7.請求人の主張について
請求人は、平成19年7月26日に提出した審判請求書の補正書において、
「(3-4) 本願発明と引例との対比
本発明では、陽イオン交換性を有する粘土もしくは粘土状物質として、あくまでベントナイトを用いる場合について限定をかけている。ハイドロタルサイトと、ベントナイトとを前記被処理物の重量に対して5から30%混合する点について限定している。即ち、本発明では、このベントナイトとハイドロタルサイトとの組み合わせとすることにより、陰イオンとして溶出しうる物質としての特にセレンの量を低く抑えることが可能となる。ちなみに、ベントナイトとハイドロタルサイトとの組み合わせとすることにより、セレンの溶出量を0.009mg/lまで低減させることが可能となることは、本発明者が知見したものであり(表1参照)、これを技術的特徴として見出したものが、本願請求項1記載の発明である。また、このハイドロタルサイトと、ベントナイトとを前記被処理物の重量に対して5から30%混合することが適正であることも見出し、これを発明の構成要件として規定している。」と主張している。
しかし、本願明細書の実施例は、標準的な汚染水に対してベントナイト・ハイドロタルサイトをそれぞれ重量比10%ずつ加えたものでなされたのであって、固体状の被処理物に含まれる汚染物質についてのものではない。そして、本願明細書の記載を検討すると、「ベントナイト(bentonite)は、層状の結晶構造を持つ粘土鉱物であるモンモリロナイトを主成分とし、石英・クリストバライト・ゼオライト・長石・他の粘土鉱物などを含む天然粘土状物質の総称であり」(段落【0011】)、「ハイドロタルサイト(hydrotalcite)は、2価(Cu^(2+),Mg^(2+)など)及び3価(Al^(3+)など)の金属元素、及び陰イオン(OH^(-), CO_(3)^(2-),Cl^(-),SO_(4)^(2-))からなり、一般化学式 [M^(2+)xM^(3+)x(OH)_(2)]^(X+)[A^(n-)_(X/n)H_(2)O]^(X-) の形で表される2重層状結晶構造を有する水酸化物(Layered Double Hydroxides)である(ここでMは金属元素、A^(n-)はn価の陰イオンを示す)。蛇紋岩などの変成岩にともなって天然鉱物として産出するほか、粘土や海水など天然の材料を原料として合成できることが知られている。」(段落【0009】)と記載されるように、ベントナイト、ハイドロタルサイトはそれぞれ広範な物質の総称であることが理解されるところ、本願明細書の実施例は、それぞれ一つのものについてなされただけであって、具体的にどのような構造のベントナイト等を用いたのか不明であり、この実施例の結果によるだけでは、到底、本願補正発明全体が当業者が予測し得ない格別顕著な効果を奏するものとは認めることはできない。さらに、ハイドロタルサイトと、ベントナイトとを被処理物の重量に対して5から30%混合することが適正であることも見出したとする点にも臨界的意義を見いだすことができない。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

8.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-16 
結審通知日 2009-11-17 
審決日 2009-12-01 
出願番号 特願2000-323832(P2000-323832)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C02F)
P 1 8・ 121- Z (C02F)
P 1 8・ 572- Z (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤樫 祐樹  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 深草 祐一
斉藤 信人
発明の名称 汚染物質の難溶化処理方法  
代理人 林 信之  
代理人 林 信之  
代理人 林 信之  

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