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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1210421
審判番号 不服2007-14716  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-23 
確定日 2010-01-14 
事件の表示 特願2006-119763「インクジェットプリンタ、ならびにインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月 3日出願公開、特開2006-199045〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年11月28日に出願した特願平9-327852号の一部を平成18年4月24日に新たな特許出願としたものであって、平成19年1月31日に手続補正がなされ、同年4月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月23日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年6月21日に手続補正がなされたものである。

第2 平成19年6月21日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕
平成19年6月21日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容・目的
(1)補正の内容
ア 平成19年6月21日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明についてするもので、特許請求の範囲については、補正前に、
「 【請求項1】
インク滴を吐出するための複数のノズル部と、
前記各ノズル部に設けられ、対応するノズル部からインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生する複数の吐出エネルギー発生手段と、
インク吐出動作させるための駆動信号をインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段に供給し、前記インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段のインク吐出動作に伴って生ずる影響を打ち消すための補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給するヘッドコントローラと
を備え、
前記ヘッドコントローラは、入力されたデータに基づいて、前記複数の吐出エネルギー発生手段の1つに供給される前記駆動信号と、前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段以外の吐出エネルギー発生手段に供給される前記補助駆動信号との吐出タイミングごとの組み合わせを用意しておき、吐出タイミングごとに前記駆動信号および前記補助駆動信号の組み合わせを前記各吐出エネルギー発生手段に供給する
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
インク滴を吐出するための複数のノズル部と、
前記各ノズル部に設けられ、対応するノズル部からインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生する複数の吐出エネルギー発生手段と、
インク吐出動作させるための駆動信号をインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段に供給し、前記インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段のインク吐出動作に伴って生ずる影響を打ち消すための補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給するヘッドコントローラと
を備え、
前記ヘッドコントローラは、入力されたデータに基づいて、前記複数の吐出エネルギー発生手段の1つに供給される前記駆動信号と、前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段以外の吐出エネルギー発生手段に供給される前記補助駆動信号との吐出タイミングごとの組み合わせを用意しておき、吐出タイミングごとに前記駆動信号および前記補助駆動信号の組み合わせを前記各吐出エネルギー発生手段に供給する
ことを特徴とするインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動装置。
【請求項3】
インク滴を吐出するための複数のノズル部と、前記各ノズル部に設けられ、対応するノズル部からインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生する複数の吐出エネルギー発生手段とを備えたインクジェットプリンタ用記録ヘッドを駆動する方法であって、
インク吐出動作させるための駆動信号をインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段に供給し、前記インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段のインク吐出動作に伴って生ずる影響を打ち消すための補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給し、
入力されたデータに基づいて、前記複数の吐出エネルギー発生手段の1つに供給される前記駆動信号と、前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段以外の吐出エネルギー発生手段に供給される前記補助駆動信号との吐出タイミングごとの組み合わせを用意しておき、吐出タイミングごとに前記駆動信号および前記補助駆動信号の組み合わせを前記各吐出エネルギー発生手段に供給する
ことを特徴とするインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法。」とあったものを、

「 【請求項1】
インク滴を吐出するための複数のノズル部と、
前記各ノズル部に設けられ、対応するノズル部からインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生する複数の吐出エネルギー発生手段と、
インク吐出動作させるための駆動信号をインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段に供給し、前記インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段のインク吐出動作に伴って生ずる影響を打ち消すために前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段との距離に応じた波高値を有する補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給するヘッドコントローラと
を備え、
前記ヘッドコントローラは、入力されたデータに基づいて、前記複数の吐出エネルギー発生手段の1つに供給される前記駆動信号と、前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段の両隣の吐出エネルギー発生手段およびその外側に近接する複数の吐出エネルギー発生手段に供給される前記補助駆動信号との吐出タイミングごとの組み合わせを用意しておき、吐出タイミングごとに前記駆動信号および前記補助駆動信号の組み合わせを前記各吐出エネルギー発生手段に供給する
ことを特徴とするインクジェットプリンタ。
【請求項2】
インク滴を吐出するための複数のノズル部と、
前記各ノズル部に設けられ、対応するノズル部からインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生する複数の吐出エネルギー発生手段と、
インク吐出動作させるための駆動信号をインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段に供給し、前記インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段のインク吐出動作に伴って生ずる影響を打ち消すために前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段との距離に応じた波高値を有する補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給するヘッドコントローラと
を備え、
前記ヘッドコントローラは、入力されたデータに基づいて、前記複数の吐出エネルギー発生手段の1つに供給される前記駆動信号と、前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段の両隣の吐出エネルギー発生手段およびその外側に近接する複数の吐出エネルギー発生手段に供給される前記補助駆動信号との吐出タイミングごとの組み合わせを用意しておき、吐出タイミングごとに前記駆動信号および前記補助駆動信号の組み合わせを前記各吐出エネルギー発生手段に供給する
ことを特徴とするインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動装置。
【請求項3】
インク滴を吐出するための複数のノズル部と、前記各ノズル部に設けられ、対応するノズル部からインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生する複数の吐出エネルギー発生手段とを備えたインクジェットプリンタ用記録ヘッドを駆動する方法であって、
インク吐出動作させるための駆動信号をインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段に供給し、前記インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段のインク吐出動作に伴って生ずる影響を打ち消すために前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段との距離に応じた波高値を有する補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給し、
入力されたデータに基づいて、前記複数の吐出エネルギー発生手段の1つに供給される前記駆動信号と、前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段の両隣の吐出エネルギー発生手段およびその外側に近接する複数の吐出エネルギー発生手段に供給される前記補助駆動信号との吐出タイミングごとの組み合わせを用意しておき、吐出タイミングごとに前記駆動信号および前記補助駆動信号の組み合わせを前記各吐出エネルギー発生手段に供給する
ことを特徴とするインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動方法。」に補正するものである。(下線は審決で付した。以下同じ。)

イ 本件補正後の請求項1に係る上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「補助駆動信号」が「前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段との距離に応じた波高値を有する」ものであること、及び、同じく本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段以外の吐出エネルギー発生手段」が「駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段の両隣の吐出エネルギー発生手段およびその外側に近接する複数の吐出エネルギー発生手段」であることを、それぞれ、限定するものである。

(2)補正の目的
上記(1)イのとおり、本件補正後の請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平3-293144号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。

(1)「技術分野
本発明は、液体噴射記録装置に関し、例えば、インクジェットプリンタに適用されるものである。」(2頁左上欄8?10行)

(2)「この様なインクジェット記録法は、所謂インクと称される記録液体の小滴(droplet)を飛翔させ、記録部材に付着させて記録を行うものであって、この記録液体の小滴の発生法によって幾つかの方式に大別される。
例えば、Stemme方式は、記録液体を吐出する吐出口を有する記録ヘッドに付設されているピエゾ振動素子に、電気的な記録信号を印加し、この電気的な記録信号をピエゾ振動素子の機械的振動に変え、該機械的振動に従って前記吐出口より記録液体の小滴を吐出飛翔させ、記録部材に記録液体を付着させることで記録を行うものである。
前述のような記録液体の小滴の発生法において、複数ノズルを有する場合、駆動ノズルに隣接したノズルへ圧力波が共通液室(中継液室)を介して伝播したり、あるいは電気パルスを印加されて駆動ノズルのPZTが変位すると、流路を形成する上板や基板、側壁を介して機械的に振動が隣接ノズルへ伝播したりする。従って、1チャネルまたは複数のチャネルの任意のノズルからインクを噴射させる場合、非駆動ノズルのメニスカスは駆動ノズルからの振動(流体的や機械的な振動)の影響を受けて、不安定状態になり、振動したり又はインクだれを起こしてノズル表面に付着し、駆動時のメニスカス切断を不安定にし、噴射方向や噴射速度、応答周波数特性に悪影響を及ぼす。また、地よごれの原因にもなる。」(2頁右上欄20行?同頁右下欄6行)

(3)「目 的
本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたもので、1チャネル又は複数チャネルのノズルからインクを噴射させる場合に、非駆動チャネルのメニスカス振動を減少させ、ノズルからのインクだれを防止することで、地よごれをなくし、安定したインク噴射特性(インク噴射速度、メニスカス切断状態、応答周波数特性)を得ることであり、また、低コスト、省エネルギー、高速駆動、高画像品質を得るようにした液体噴射記録装置を提供することを目的としてなされたものである。」(3頁左上欄1?11行)

(4)「構 成
本発明は、上記目的を達成するために、(1)導入される記録液体を収容するとともに、該記録液体に圧電素子によって圧力波を発生させるエネルギー作用部を付設した流路と、該流路に連絡して前記記録液体を前記作用力によって液滴として吐出させるためのオリフィスと、前記流路に連絡して該流路に前記記録液体を導入するための液室と、該液室に前記記録液体を導入する導入手段とよりなる複数チャネルを有する液体噴射記録装置において、少なくとも1チャネルに印字信号がきたときに、全チャネル、または非駆動チャネル、または駆動チャネルに隣接する非駆動チャネルのみに、複数の波高値の異なる正または負の補正パルスを印加すること…略…を特徴としたものである。以下、本発明の実施例に基づいて説明する。
まず、第7図(a)?(c)は、駆動チャネル(ch)と非駆動チャネル(ch)のメニスカス振動の様子を示す図で、今、ch1とch3が駆動チャネルで、ch2は非駆動チャネルである。図(a)のように、駆動ch1とch3に隣接する非駆動ch2は、相互干渉(機械的あるいは流体的)の影響をうけ、メニスカスが吐出しはじめる。図(b)はch2のメニスカスが最大になったときの様子を示し、その後、図(c)のように、メニスカスは収縮していく。このメニスカスの振動は、インク粘度やヘッドの構造、あるいはノズルピッチや駆動パルスの電気エネルギー等の条件によってその振幅値や周期が変わり、ノズル面へのインクだれや、不必要なインクの噴射を引き起こし、延いては駆動チャネルのインク噴射方向や噴射速度を乱したり、記録紙の地よごれの原因となる。
第8図(a),(d),(e),(f),(g)は、印加する駆動パルスを示している。図(a)は、ch1,ch3に印加する駆動パルスを示し、図(b)はch2のPZTが相互干渉によって発生する電気波形を示したものである。前述のch2(非駆動チャネル)のメニスカスの振動は周期的にくり返し発生するもので、図(b)の周期Tに一致し、メニスカス振動の振幅のピークは電圧波形の谷(t=t_(1),t_(1)+T,t_(1)+2T,・・・)に一致し、除々に減衰する。
本発明は、上記の電圧波形に注目し、非駆動チャネルに発生する電圧波形(図(b))を打ち消すような補正パルスを印加することで、非駆動チャネルが受ける相互干渉の影響をなくすものである。
図(d),(e),(f),(g)にその補正パルスの例を示す。図(d)のように異なる波高値V_(P1),V_(P2),V_(P3),V_(P4)(V_(P1)>V_(P2)>V_(P3)>V_(P4))の複数の補正パルスを印加した場合、図(c)のような電圧波形、すなわち図(b)に示した電圧波形と逆位相の電圧波形を発生する。従って、ch1及びch3を駆動した場合、ch2(非駆動チャネル)に発生する電圧波形は、ch2に補正パルスを印加することで見かけ上はなくなり、ch2のメニスカスの振動を抑えることができる。
…略…
第9図にPZTの電圧-変位特性を示す。本発明による補正パルスの波高値、-V_(P1)(,-V_(P2),-V_(P3),--)は、PZTの分極を反転しないように-V_(P1)>-V_(PM)でなければならない。また、ノズルからインクを噴射させるために必要な最小電気エネルギーをE_(min)とすると、補正パルスの電気エネルギーE_(1)は、E_(1)<E_(min)でなければならない。」(3頁左上欄12行?4頁右上欄18行)

(5)「第2図は、本発明の他の実施例を示す図で、図中、11は各チャネルの信号線、12はインバータ、13は補正パルス発生回路、14は補正パルスドライバ、15は主パルス発生回路、16は主パルスドライバ、17,18はダイオード、19はプルダウン抵抗、20はヘッドである。
各チャネルの少なくとも1チャネルに印字信号がきたときに、駆動チャネルを除く全ての非駆動チャネルに補正パルスを印加する場合のヘッド駆動回路のブロックダイヤグラムを示したものである。
各チャネルの信号線11に印字信号がくると、主パルス発生回路15によってパルス幅P_(WO)のパルスが発生され、主パルス用ドライバ16によって波高値V_(PO)に増幅された主パルスがヘッド20に印加される。一方、補正パルス発生回路13の入力は、非駆動チャネルのみ“H”となり、パルス幅がP_(W1),P_(W2),P_(W3),P_(W4)(P_(W1)>P_(W2)>P_(W3)>P_(W4))の複数パルスが発生する。このパルスが補正パルスドライバ14に入力されると、波高値V_(P1)の複数の補正パルスを発生してヘッド20に印加される。また負の補正パルスを発生させるには、補正パルスドライバ14を負電源とし、ダイオード17の向きを逆にすればよい。」(4頁右下欄2行?5頁左上欄6行)

(6)駆動チャネルを除く全ての非駆動チャネルに補正パルスを印加する場合のヘッド駆動回路のブロックダイヤグラムを示す第2図から、「各チャネルの信号線11が、主パルス発生回路15に直接入力されるとともに、インバータ12を介して、補正パルス発生回路13に入力され、主パルス発生回路15の出力は主パルスドライバ16及びダイオード18を介して、補正パルス発生回路13の出力は補正パルスドライバ14及びダイオード17を介して、ヘッド20に供給されるようになっているヘッド駆動回路」が見て取れる。

(7)上記(1)ないし(6)からみて、引用例には、
「導入される記録液体を収容するとともに、該記録液体に圧電素子によって圧力波を発生させるエネルギー作用部を付設した流路と、該流路に連絡して前記記録液体を前記作用力によって液滴として吐出させるための複数のノズルと、前記流路に連絡して該流路に前記記録液体を導入するための液室と、該液室に前記記録液体を導入する導入手段とよりなる複数チャネルを有するヘッド20と、
各チャネルの信号線11が、主パルス発生回路15に直接入力されるとともに、インバータ12を介して、補正パルス発生回路13に入力され、主パルス発生回路15の出力は主パルスドライバ16及びダイオード18を介して、補正パルス発生回路13の出力は補正パルスドライバ14及びダイオード17を介して、ヘッド20に供給されるようになっているヘッド駆動回路と
を備え、
前記圧電素子に、記録信号を印加し、この記録信号を圧電素子の機械的振動に変え、該機械的振動に従って前記ノズルより記録液体の小滴を吐出飛翔させ、記録部材に記録液体を付着させることで記録を行う液体噴射記録装置であって、
駆動ノズルに隣接したノズルへ圧力波が共通液室を介して伝播したり、あるいは電気パルスを印加されて駆動ノズルの圧電素子が変位すると、流路を形成する上板や基板、側壁を介して機械的に振動が隣接ノズルへ伝播したりして、1チャネルまたは複数のチャネルの任意のノズルからインクを吐出させる場合、非駆動ノズルのメニスカスは駆動ノズルからの流体的や機械的な振動の影響を受けて、不安定状態になり、振動したり又はノズル表面に付着するインクだれを起こす非駆動チャネルに発生する電圧波形を打ち消すような補正パルスを非駆動ノズルの圧電素子に印加することで、非駆動チャネルが受ける相互干渉の影響をなくす液体噴射記録装置において、
各チャネルの信号線11に印字信号がくると、主パルス発生回路15によってパルス幅P_(WO)のパルスが発生され、主パルス用ドライバ16によって波高値V_(PO)に増幅された主パルスをヘッド20の駆動チャネルの圧電素子に印加する一方、補正パルス発生回路13には非駆動チャネルのみに印字信号の反転信号が入力され、パルス幅がP_(W1),P_(W2),P_(W3),P_(W4)(P_(W1)>P_(W2)>P_(W3)>P_(W4))の複数パルスを発生し、このパルスが入力された補正パルスドライバ14によって波高値V_(P1)の複数の補正パルスをヘッド20の非駆動チャネルの圧電素子に印加する液体噴射記録装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「記録液体」、「液滴」、「吐出」、「ノズル」、「圧電素子」、「主パルス」、「駆動チャネルの圧電素子」、「印加」、「補正パルス」、「非駆動チャネルの圧電素子」、「ヘッド駆動回路」、「印字信号」及び「液体噴射記録装置」は、それぞれ、本願補正発明の「インク」、「インク滴」、「吐出」、「ノズル部」、「吐出エネルギー発生手段」、「駆動信号」、「インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段」、「供給」、「補助駆動信号」、「インク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段」、「ヘッドコントローラ」、「入力されたデータ」及び「インクジェットプリンタ」に相当する。
(2)引用発明の「複数のノズル部(複数のノズル)」は、インク(記録液体)を吐出エネルギー発生手段(圧電素子)の作用力によってインク滴(液滴)として吐出させるためのものであるから、引用発明の「複数のノズル部」と本願補正発明の「複数のノズル部」とは「インク滴を吐出するための」ものである点で一致する。
(3)引用発明において、流路は、吐出エネルギー発生手段(圧電素子)を付設したものであることが明らかであるとともに、ノズル部(ノズル)と連絡するものであるから、吐出エネルギー発生手段は各ノズル部に設けられるものであることも明らかである。
また、引用発明において、「ノズル(ノズル部)」は、「記録液体(インク)を『前記(圧電素子(吐出エネルギー発生手段)によって圧力波を発生させるエネルギーの)作用力』によって液滴(インク滴)として吐出させるための」ものであるから、吐出エネルギー発生手段は、対応するノズル部からインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生するものである。
したがって、引用発明の「複数の吐出エネルギー発生手段」と本願補正発明の「複数の吐出エネルギー発生手段」とは、「前記各ノズル部に設けられ、対応するノズル部からインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生する」ものである点で一致する。
(4)引用発明の「インクジェットプリンタ(液体噴射記録装置)」は、「駆動ノズルに隣接したノズルへ圧力波が共通液室を介して伝播したり、あるいは電気パルス(主パルス)を印加されてインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段(駆動ノズルの圧電素子)が変位すると、流路を形成する上板や基板、側壁を介して機械的に振動が隣接ノズルへ伝播したりして、1チャネルまたは複数のチャネルの任意のノズルからインクを吐出させる場合、非駆動ノズルのメニスカスは駆動ノズルからの流体的や機械的な振動の影響を受けて、不安定状態になり、振動したり又はノズル表面に付着するインクだれを起こす非駆動チャネルに発生する電圧波形を打ち消すような補助駆動信号(補正パルス)をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段(非駆動ノズルの圧電素子)に供給(印加)することで、非駆動チャネルが受ける相互干渉の影響をなくす」ものであるから、「インク吐出動作させるための駆動信号をインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段に供給し、前記インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段のインク吐出動作に伴って生ずる影響を打ち消すための補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給する」ものといえる。
そして、引用発明の「インクジェットプリンタ」において、駆動信号(主パルス)及び補助駆動信号(補正パルス)を吐出エネルギー発生手段(圧電素子)を有するヘッドに供給する手段は「ヘッドコントローラ(ヘッド駆動回路)」であるから、引用発明の「ヘッドコントローラ」と本願補正発明の「ヘッドコントローラ」とは「インク吐出動作させるための駆動信号をインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段に供給し、前記インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段のインク吐出動作に伴って生ずる影響を打ち消すための補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給する」ものである点で一致する。
(5)また、引用発明の「インクジェットプリンタ」と本願補正発明の「インクジェットプリンタ」とは、「複数のノズル部(複数のノズル)と、複数の吐出エネルギー発生手段(複数の圧電素子)と、ヘッドコントローラ(ヘッド駆動回路)とを備え」ている点で一致する。
(6)引用発明において、「ヘッドコントローラ(ヘッド駆動回路)」は、「各チャネルの信号線11が、主パルス発生回路15に直接入力されるとともに、インバータ12を介して、補正パルス発生回路13に入力され、主パルス発生回路15の出力は主パルスドライバ16及びダイオード18を介して、補正パルス発生回路13の出力は補正パルスドライバ14及びダイオード17を介して、ヘッド20に供給されるように」なっており、「インクジェットプリンタ(液体噴射記録装置)」は、各チャネルの信号線11に印字信号がくると、「主パルス発生回路15によってパルス幅P_(WO)のパルスが発生され、主パルス用ドライバ16によって波高値V_(PO)に増幅された主パルスをヘッド20の駆動チャネルの圧電素子に印加する一方、補正パルス発生回路13には非駆動チャネルのみに印字信号の反転信号が入力され、パルス幅がP_(W1),P_(W2),P_(W3),P_(W4)(P_(W1)>P_(W2)>P_(W3)>P_(W4))の複数パルスを発生し、このパルスが入力された補正パルスドライバ14によって波高値V_(P1)の複数の補正パルスをヘッド20の非駆動チャネルの圧電素子に印加する」ものであるから、引用発明の「ヘッドコントローラ」は、全チャネルのうちの1つを駆動する印字信号が各チャネルの信号線11にくると、ヘッド20の当該1つの駆動チャネルの圧電素子には主パルスが印加され、全チャネルのうちのその1つの駆動チャネル以外のすべてのチャネルの圧電素子には補正パルスが印加されるように、各チャネルの信号線11、主パルス発生回路15、インバータ12、補正パルス発生回路13、主パルスドライバ16、ダイオード18、補正パルスドライバ14及びダイオード17から構成されていることになる。したがって、引用発明の「ヘッドコントローラ」は、このように構成されることによって、前記印字信号の内容毎に主パルスと補正パルスとの組み合わせを用意しているといえる。
ここで、「全チャネルのうちのその1つの駆動チャネル以外のすべてのチャネルの圧電素子」には、全チャネルのうちの1つを駆動する印字信号により駆動される「当該1つの駆動チャネル」の圧電素子の両隣のチャネルの圧電素子およびその外側に近接する複数の圧電素子も含まれていることが明らかである。
してみると、引用発明の「ヘッドコントローラ」と本願補正発明の「ヘッドコントローラ」とは、「入力されたデータ(印字信号)に基づいて、複数の吐出エネルギー発生手段(圧電素子)の1つに供給される駆動信号(主パルス)と、前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段(圧電素子)の両隣の吐出エネルギー発生手段(圧電素子)およびその外側に近接する複数の吐出エネルギー発生手段(圧電素子)に供給(印加)される前記補助駆動信号(補正パルス)との組み合わせを用意し」ているものである点で一致するといえる。
(7)また、引用発明において、駆動ノズルの圧電素子に電気パルス(主パルス)を、また、非駆動ノズルの圧電素子に補正パルスを、それぞれ印加するタイミングは、毎回、ノズルから記録液体の小滴を吐出飛翔させるタイミングであることが当業者に自明であり、前記主パルス及び補正パルスは、ヘッド駆動回路の主パルスドライバ16及び補正パルスドライバ14からそれぞれ出力されることも明らかであるから、引用発明の「ヘッドコントローラ」は、ノズルから記録液体の小滴を吐出飛翔させるタイミングごとに主パルスおよび補正パルスの組み合わせ(上記(6)参照。)をヘッドに供給し、ヘッドの各圧電素子に印加するものであるといえる。
してみると、引用発明の「ヘッドコントローラ」と本願補正発明の「ヘッドコントローラ」とは、「吐出タイミングごとに駆動信号および補助駆動信号の組み合わせを各吐出エネルギー発生手段に供給する」ものである点でも一致するといえる。
(8)上記(1)ないし(7)からみて、本願補正発明と引用発明とは、
「インク滴を吐出するための複数のノズル部と、
前記各ノズル部に設けられ、対応するノズル部からインク滴を吐出させるためのエネルギーを発生する複数の吐出エネルギー発生手段と、
インク吐出動作させるための駆動信号をインク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段に供給し、前記インク吐出動作させる吐出エネルギー発生手段のインク吐出動作に伴って生ずる影響を打ち消すための補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給するヘッドコントローラと
を備え、
前記ヘッドコントローラは、入力されたデータに基づいて、前記複数の吐出エネルギー発生手段の1つに供給される前記駆動信号と、前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段の両隣の吐出エネルギー発生手段およびその外側に近接する複数の吐出エネルギー発生手段に供給される前記補助駆動信号との組み合わせを用意しておき、吐出タイミングごとに前記駆動信号および前記補助駆動信号の組み合わせを前記各吐出エネルギー発生手段に供給する
インクジェットプリンタ。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記「補助駆動信号」が、本願補正発明では「駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段との距離に応じた波高値を有する」ものであるのに対して、引用発明ではそうでない点。

相違点2:
前記「駆動信号と補助駆動信号との組み合わせ」が、本願補正発明では「吐出タイミングごとの」ものであるのに対して、引用発明ではそのようなものかどうか不明である点。

4 判断
上記相違点1及び2について検討する。
(1)相違点1について
ア 本願補正発明の「補助駆動信号」が「駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段との距離に応じた波高値を有する」ことに関しては、本願明細書の発明の詳細な説明には、「【0056】 ところで、図9および図11において、インク滴吐出を行わない他のインク室における振動プレート113の変位量は、インク滴吐出を行ったインク室から離れるほど小さくなると考えられる。そこで、クロストーク抑制用の補助駆動信号として、それぞれ異なる波高値(電圧値V3?V6)を持った複数種類の補助駆動信号を用意しておき、これらをそれぞれ対応する圧電素子に印加するようにしてもよい。このようにすることにより、よりきめの細かいクロストーク抑制制御が可能となる。」の記載がある。
イ 本願補正発明は、ある吐出エネルギー発生手段にインク吐出動作させると、そのインク吐出動作に伴って生ずる影響が、インク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に及ぶので、この影響を打ち消すために、補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給するところ、本願補正発明の「補助駆動信号」が「駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段との距離に応じた波高値を有する」ことの技術上の意義は、上記アの記載からみて、インク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に及ぶ前記影響の大きさは、インク滴吐出を行ったインク室から離れるほど小さくなるから、補助駆動信号の波高値を、その影響の大きさに応じたものにしたものと解される。
ウ 他方、引用発明は、「駆動ノズルに隣接したノズルへ圧力波が共通液室を介して伝播したり、あるいは電気パルスを印加されて駆動ノズルの圧電素子が変位すると、流路を形成する上板や基板、側壁を介して機械的に振動が隣接ノズルへ伝播したりして、1チャネルまたは複数のチャネルの任意のノズルからインクを吐出させる場合、非駆動ノズルのメニスカスは駆動ノズルからの流体的や機械的な振動の影響を受けて、不安定状態になり、振動したり又はノズル表面に付着するインクだれを起こす非駆動チャネルに発生する電圧波形を打ち消すような補正パルスを非駆動ノズルの圧電素子に印加することで、非駆動チャネルが受ける相互干渉の影響をなくす」ものであるから、引用発明のこのことと、本願補正発明の上記イで述べたこととは、「ある吐出エネルギー発生手段にインク吐出動作させると、そのインク吐出動作に伴って生ずる影響が、インク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に及ぶので、この影響を打ち消すために、補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給する」ものである点では技術上の意義は共通している。
エ また、ある吐出エネルギー発生手段にインク吐出動作させると、そのインク吐出動作に伴って生ずる影響が、インク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に及ぶところ、その及ぶ影響の大きさは、インク滴吐出を行ったインク室から離れるほど小さくなることは、当業者に自明である(特開平3-216339号公報の1頁右下欄7?13行の記載及び2頁左上欄3行の「影響を受けない距離」の記載、特開平9-52359号公報の【0002】及び【0004】の記載(特に【0004】の「このいずれの影響も、…空間的な距離が関係する。」及び「広範な範囲に及ぶ」の記載参照。)参照。)。
オ 引用例の第8図について、引用例には「第8図(a),(d),(e),(f),(g)は、印加する駆動パルスを示している。図(a)は、ch1,ch3に印加する駆動パルスを示し、図(b)はch2のPZTが相互干渉によって発生する電気波形を示したものである。前述のch2(非駆動チャネル)のメニスカスの振動は周期的にくり返し発生するもので、図(b)の周期Tに一致し、メニスカス振動の振幅のピークは電圧波形の谷(t=t_(1),t_(1)+T,t_(1)+2T,・・・)に一致し、除々に減衰する。
本発明は、上記の電圧波形に注目し、非駆動チャネルに発生する電圧波形(図(b))を打ち消すような補正パルスを印加することで、非駆動チャネルが受ける相互干渉の影響をなくすものである。
図(d),(e),(f),(g)にその補正パルスの例を示す。図(d)のように異なる波高値V_(P1),V_(P2),V_(P3),V_(P4)(V_(P1)>V_(P2)>V_(P3)>V_(P4))の複数の補正パルスを印加した場合、図(c)のような電圧波形、すなわち図(b)に示した電圧波形と逆位相の電圧波形を発生する。従って、ch1及びch3を駆動した場合、ch2(非駆動チャネル)に発生する電圧波形は、ch2に補正パルスを印加することで見かけ上はなくなり、ch2のメニスカスの振動を抑えることができる。」(上記2(4)参照。)と記載されている。
カ 上記オの記載から、駆動チャネルに駆動パルスを印加したとき、非駆動チャネルにメニスカスの振動が周期的に繰り返し発生するから、非駆動チャネルに発生する駆動チャネルの影響によるメニスカスの振動を打ち消すような補正パルスを印加することで、非駆動チャネルが受ける相互干渉の影響をなくすものにおいて、前記メニスカス振動の振幅のピークは徐々に減衰することから、これに注目し、波高値が徐々に減少する複数の補正パルスを非駆動チャネルに順に印加して、駆動チャネルの影響による徐々に減衰するメニスカスの振動を抑える事項が把握される。
キ 上記アないしカからみて、「ある吐出エネルギー発生手段にインク吐出動作させると、そのインク吐出動作に伴って生ずる影響が、インク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に及ぶので、この影響を打ち消すために、補助駆動信号をインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に供給する」との技術上の意義を有している引用発明(上記ウ参照。)において、インク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に及ぶ前記影響の大きさは、インク滴吐出を行ったインク室から離れるほど小さくなることは、当業者に自明であり(上記エ参照。)、及ぶ影響が小さいインク吐出を行わない吐出エネルギー発生手段に印加する補正パルスは、その波高値は小さいものとして、その小さい影響を抑えることができることが引用例の記載から把握できる(上記カ参照。)から、引用発明において、前記「補助駆動信号」を「駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段との距離に応じた波高値を有する」ものにして、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が、容易に想到することができたことである。

(2)相違点2について
ア 本願補正発明の「駆動信号と補助駆動信号との吐出タイミングごとの組み合わせを用意してお」くことに関して、本願明細書の発明の詳細な説明には、次の記載がある。
(ア)「【0038】
図1において、図示しないパーソナルコンピュータ等の情報処理装置から印刷データがインクジェットプリンタ1に入力されると、画像処理部15は、この入力データに対して所定の画像処理(例えば圧縮されたデータの伸長等)を行ったのち、これを印画データ22としてヘッドコントローラ14に送出する。
【0039】
ヘッドコントローラ14の駆動波形選択制御部143は、記録ヘッド11のノズル数に対応したnドット分の印画データ22が入力されると(図8ステップS101、これらの印画データ22を基に、各ノズル118ごとに、ドット形成の有無とクロストーク抑制措置の要否とを判定し、この判定結果から、各波形選択部141-1?141-nにおいて選択すべき駆動信号波形を決定する。より具体的には、変数jを“1”から“n”まで順次インクリメントしながら、波形選択部141-jが選択すべき駆動信号波形を決定する(ステップS102?S105)。
【0040】
n個の波形選択部141-1?141-nのすべてについて、選択すべき駆動信号の決定を終了すると(ステップS105;Y)、駆動波形選択制御部143は、所定の切り替えタイミングts(図7)が到来した時点で(ステップS106;Y)、波形選択部141-1?141-nに対して、それぞれ、決定された波形の駆動信号を選択するための波形選択信号146-1?146-nを出力する(ステップS107)。
【0041】
波形選択部141-1?141-nは、それぞれ、入力された波形選択信号146-1?146-nに基づき、駆動信号145a?145dの中から該当するものを選択し、これを出力する。これにより、例えば図6(a)?(d)に示したような波形の駆動信号145a?145dが記録ヘッド11の各ノズルの圧電素子116に供給される。記録ヘッド11の各ノズルでは、各駆動信号の電圧波形に基づいて、図7で説明したような3つの行程によるインク滴吐出や、後述するようなクロストーク抑制動作が行われる。」
(イ)「【0045】
本実施の形態に係るインクジェットプリンタでは、このようなクロストークによる影響を軽減するため、例えば図10に示したような組み合わせによって、インク滴吐出を行った圧電素子116-3以外の圧電素子に対して、補助駆動信号を印加するようにしている。なお、図10は、図9に示した各圧電素子116-1?116-5に印加する駆動信号の組み合わせの時系列的変化を表すものである。また、この図の“a”,“b”,“c”は、それぞれ、駆動信号145a,145b,145cを印加することを示す。
【0046】
この具体例では、例えば、ある吐出タイミングにおいて圧電素子116-3に駆動信号145aが印加されてインク的吐出が行われる場合、その両隣の圧電素子116-2,116-4に対しては駆動信号145aと同位相の駆動信号145bを印加し、また、圧電素子116-3からみてそれぞれ1つずつ隔てた圧電素子116-1,116-5に対しては、駆動信号145aと逆位相の駆動信号145cを印加する。この場合、外側に変位しようとする圧電素子116-2,116-4には、それぞれ、基準の電圧V1よりやや大きい電圧V4が印加され、振動プレート113の変位が抑制される。一方、内側に変位しようとする圧電素子116-1,116-5には、基準の電圧V1よりやや小さい電圧V6が印加され、振動プレート113の変位が抑制される。
【0047】
また、これに続く吐出タイミング?においても同様であり、吐出動作を行う圧電素子に隣接する圧電素子には同位相の駆動信号145bを印加すると共に、吐出動作を行う圧電素子からそれぞれ1つずつ隔てた圧電素子には、逆位相の駆動信号145cを印加する。
【0048】
このように、本具体例では、吐出動作を行った圧電素子以外の圧電素子に対して、それぞれのインク室の容積変位を抑制し得るような補助駆動信号を印加するようにしたことにより、あるノズル118における吐出動作によって他のノズルに対応するインク室の容積が変位するということがなくなり、予定したサイズのインク滴が得られるようになる等、印字品質のばらつきをなくすことが可能となる。」
(ウ)「【0052】
本具体例では、このようなクロストークによる影響を軽減するため、例えば図12に示したような組み合わせによって、インク滴吐出を行った圧電素子116-3以外の圧電素子に対して、補助駆動信号を印加するようにしている。なお、図12は、図11に示した各圧電素子116-1?116-5に印加する駆動信号の組み合わせの時系列的変化を表すものであり、また、“a”,“c”は、それぞれ、駆動信号145a,145cを印加することを示す。
【0053】
本具体例では、例えば、ある吐出タイミングにおいて圧電素子116-3に駆動信号145aが印加されてインク的吐出が行われる場合、それ以外のすべての圧電素子116-1,116-2,116-4,116-5に対して駆動信号145aと逆位相の駆動信号145cを印加する。この場合、内側に変位しようとする圧電素子116-1,116-2,116-4,116-5には、それぞれ、基準の電圧V1よりやや小さい電圧V6が印加されるので、振動プレート113の変位が抑制される。
【0054】
また、これに続く吐出タイミング?においても同様であり、吐出動作を行う圧電素子以外のすべての圧電素子に、逆位相の駆動信号145cを印加する。」
イ 上記ア(ア)ないし(ウ)の記載からみて、本願補正発明の「入力されたデータに基づいて、前記複数の吐出エネルギー発生手段の1つに供給される前記駆動信号と、前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段の両隣の吐出エネルギー発生手段およびその外側に近接する複数の吐出エネルギー発生手段に供給される前記補助駆動信号との吐出タイミングごとの組み合わせを用意してき、吐出タイミングごとに前記駆動信号および前記補助駆動信号の組み合わせを前記各吐出エネルギー発生手段に供給する」ことには、「図10の4組や図12の4組に例示されているような『複数の圧電素子』のそれぞれと、『駆動信号(駆動信号145a、図6参照。)及び補助駆動信号(駆動信号145b又は駆動信号145c、図6参照。)』のそれぞれとの組合せパターンを用意しておき、ヘッドコントローラの駆動波形選択制御部に記録ヘッドのノズル数に対応したnドット分の印画データが入力されると、該印画データに基づき、駆動波形選択制御部が、前記組合せパターンに従って、各ノズルごとに、ドット形成の有無とクロストーク抑制措置の要否とを判定し、各波形選択部において選択すべき駆動信号波形を決定して、所定の切り替えタイミングtsが到来した時点で、決定された波形の駆動信号を選択するための波形選択信号を出力し、各波形選択部が、入力された波形選択信号に基づき、対応する圧電素子に供給する駆動信号波形を選択し、これを記録ヘッドの各ノズルの圧電素子に供給する」ことが含まれていると解される。そうすると、吐出タイミングごとに各吐出エネルギー発生手段に供給するところの「組み合わせ」は、本願補正発明でいうところの「吐出タイミングごとの組み合わせ」に含まれるいえる。
ウ 引用発明の「駆動信号と補助駆動信号との組み合わせ」は、吐出タイミングごとに各吐出エネルギー発生手段に供給するところの「組み合わせ」であるから、上記イに照らせば、引用発明の「駆動信号と補助駆動信号との組み合わせ」は、本願補正発明でいうところの「吐出タイミングごとの組み合わせ」であるといえる。
エ したがって、上記相違点2は、実質的なものではなく表現上の差異にすぎない。

(3)効果について
本願補正発明の奏する効果は、当業者が、引用発明の奏する効果、引用例に記載の事項及び当業者に自明の事項から予測できた程度のものである。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載の事項及び当業者に自明の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 小括
上記4のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、上記1(1)アの本件補正後の請求項1に係る補正内容は、旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものである。
よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成19年1月31日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)ア」で、本件補正前の請求項1として記載したものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は、前記「第2〔理由〕2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明において、その発明を特定するために必要な事項である「補助駆動信号」について、「前記駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段との距離に応じた波高値を有する」ものであるとの限定を省き、及び、同じくその発明を特定するために必要な事項である「駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段の両隣の吐出エネルギー発生手段およびその外側に近接する複数の吐出エネルギー発生手段」を単に「駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段以外の吐出エネルギー発生手段」として、「駆動信号の供給される吐出エネルギー発生手段の両隣の吐出エネルギー発生手段およびその外側に近接する複数の吐出エネルギー発生手段」に補助駆動信号が供給されるとの限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2〔理由〕4」に記載したとおり、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載の事項及び当業者に自明の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載の事項及び当業者に自明の事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例に記載された発明、引用例に記載の事項及び当業者に自明の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-17 
結審通知日 2009-11-18 
審決日 2009-12-01 
出願番号 特願2006-119763(P2006-119763)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塚本 丈二  
特許庁審判長 小牧 修
特許庁審判官 星野 浩一
桐畑 幸▲廣▼
発明の名称 インクジェットプリンタ、ならびにインクジェットプリンタ用記録ヘッドの駆動装置および方法  
代理人 藤島 洋一郎  

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