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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1210457
審判番号 不服2008-15499  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-19 
確定日 2010-01-14 
事件の表示 特願2004-283840「ボトル缶用アルミニウム合金板およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 4月13日出願公開、特開2006- 97076〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年9月29日の出願であって、平成20年4月18日付けで手続補正がなされ、平成20年5月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年6月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年7月17日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成20年7月17日付けの手続補正についての補正の却下の決定

【補正の却下の決定の結論】
平成20年7月17日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

【決定の理由】
[1]本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、次の(1-1)を次の(1-2)とする補正事項を含むものである。

(1-1)
「【請求項1】
Cuを0.1?0.4質量%、Mgを0.8?1.7質量%、Mnを0.5?0.85質量%、Feを0.4?0.8質量%、Siを0.1?0.4質量%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、
前記Mn、MgおよびFeの含有量が、5.45<{5.66×Mn(質量%)+0.667×Mg(質量%)+2.17×Fe(質量%)}<7.55の関係を満足し、かつ、 210℃で10分の熱処理を施した後の0.2%耐力が240?270N/mm^(2)であり、
板表面の圧延直角方向の平均結晶粒径が40μm以下であることを特徴とするボトル缶用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Cuを0.1?0.4質量%、Mgを0.8?1.7質量%、Mnを0.5?0.85質量%、Feを0.4?0.8質量%、Siを0.1?0.4質量%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物から構成され、前記Mn、MgおよびFeの含有量が、5.45<{5.66×Mn(質量%)+0.667×Mg(質量%)+2.17×Fe(質量%)}<7.55の関係を満足するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する第1工程と、
前記鋳塊を均質化熱処理する第2工程と、
前記均質化熱処理された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製する第3工程と、
前記圧延板を冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する第4工程とを含み、
前記第2工程の均質化熱処理を570?620℃の温度条件下で行い、かつ、
前記第3工程の熱間圧延を巻き取り温度300℃以上で行うことを特徴とするボトル缶用アルミニウム合金板の製造方法。」

(1-2)
「【請求項1】
Cuを0.1?0.4質量%、Mgを0.8?1.7質量%、Mnを0.5?0.85質量%、Feを0.40?0.8質量%、Siを0.1?0.4質量%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、
前記Mn、MgおよびFeの含有量が、5.45<{5.66×Mn(質量%)+0.667×Mg(質量%)+2.17×Fe(質量%)}≦6.56の関係を満足し、かつ、
210℃で10分の熱処理を施した後の0.2%耐力が240?270N/mm^(2)であり、
板表面の圧延直角方向の平均結晶粒径が40μm以下であることを特徴とするボトル缶用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Cuを0.1?0.4質量%、Mgを0.8?1.7質量%、Mnを0.5?0.85質量%、Feを0.40?0.8質量%、Siを0.1?0.4質量%含有し、残部がAlおよび不可避的不純物から構成され、前記Mn、MgおよびFeの含有量が、5.45<{5.66×Mn(質量%)+0.667×Mg(質量%)+2.17×Fe(質量%)}≦6.56の関係を満足するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する第1工程と、
前記鋳塊を均質化熱処理する第2工程と、
前記均質化熱処理された鋳塊を熱間圧延して圧延板を作製する第3工程と、
前記圧延板を冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する第4工程とを含み、
前記第2工程の均質化熱処理を570?620℃の温度条件下で行い、かつ、
前記第3工程の熱間圧延を巻き取り温度300℃以上で行うことを特徴とするボトル缶用アルミニウム合金板の製造方法。」

[2]本件補正の適否
上記補正事項は、補正前の特許請求の範囲の請求項1、2について、Mn、Mg、Feの含有量の関係式の上限を7.55未満から6.56以下に減縮するものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の前記請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

<独立特許要件についての検討>

[2-1]刊行物及び刊行物の主な記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「特開2004-250790号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴体部と、底部と、ネジ切り加工が施されたネジ部を備えた口部とが一体に形成されてなるボトル缶において、このボトル缶の胴体部の直径をD_(1)とし、口部の直径をD_(2)として、前記胴体部の直径に対する口部の直径の絞り比R1(%)をR_(1)={(D_(1)-D_(2))/D_(1)}×100として表したとき、前記絞り比R_(1)が20%以上であるボトル缶に用いられるAlを主成分とするアルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板は、Feを0.2?0.7質量%、Siを0.1質量%以上0.5質量%未満、Mnを0.5?1.2質量%、Mgを1.2質量%を超え1.5質量%以下、Cuを0.1?0.3質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有し、且つ
前記アルミニウム合金板の板厚が0.3?0.5mm、且つ
前記アルミニウム合金板の210℃で10分間保持した後の0.2%耐力が250?265N/mm^(2)であることを特徴とするボトル缶用アルミニウム合金板。
【請求項2】
前記アルミニウム合金板の組成において、
(Fe含有量+1.07×Mn含有量)が1.30質量%を超え1.55質量%未満、且つ、(Mn含有量+Mg含有量)が1.75質量%を超え2.35質量%未満であることを特徴とする請求項1に記載のボトル缶用アルミニウム合金板。」

(1b)「【0032】
《Mnの含有量:0.5?1.2質量%》
Mnは、アルミニウム合金板の強度上昇に寄与するとともに、金属間化合物であるAl-Mn-Fe-Si(α相)を適正に分散させて、しごき成形性を向上させるのに効果的な成分である。すなわち、アルミニウム合金板中のMnの含有量が0.5質量%未満では、それらの効果が充分に得られず、またMnの含有量が1.2質量%を超えるとMnAl_(6)の巨大な初晶が晶出し、成形性が低下する。したがって、アルミニウム合金板中のMnの含有量は、0.5?1.2質量%とする。」

(1c)「【0039】
また、ボトル缶用アルミニウム合金板の組成において、(Fe含有量+1.07×Mn含有量)および(Mn含有量+Mg含有量)を所定範囲内に規制することにより、シワや亀裂の発生がさらに防止される。以下に、これらを数値限定した理由について説明する。
【0040】
《(Fe含有量+1.07×Mn含有量)が1.30質量%を超え1.55質量%未満、且つ、(Mn含有量+Mg含有量)が1.75質量%を超え2.35質量%未満》
本発明では、金属間化合物分布と強度を最適化することにより、成形性により優れた高強度材を得ることができる。すなわち、(Fe含有量+1.07×Mn含有量)が1.30質量%以下では、しごき加工時の成形性がやや低下し、また1.55質量%以上では、ネジ加工時に表面の亀裂(塗膜亀裂)を多少招き、内容物の品質維持が万全ではなくなる。また、(Mn含有量+Mg含有量)が1.75質量%以下では、強度がやや低下し、さらに、2.35質量%以上では、しごき加工時の成形性およびネジ加工時の成形性(塗膜性能)がやや低下する。
したがって、Fe、Mn、Mgは、上記関係式を満足することが好ましい。
更に好ましくは、(Mn含有量+Mg含有量)が1.90質量%を超え2.20質量%未満である。」

(1d)「【0047】
次に、本発明に係るボトル缶用アルミニウム合金板にあっては、従来のアルミニウム合金板の製造方法を用いて製造することができる。すなわち、本発明に係るボトル缶用アルミニウム合金板は、まず、常法に従って本発明に係る組成を有するアルミニウム合金板の鋳塊を作製し、このアルミニウム合金板の鋳塊に均質化熱処理を施した後、熱間圧延を施し、続いて、焼鈍処理を施した後、冷間圧延処理を施して作製することができる。なお、前記熱間圧延と冷間圧延との間に行われる焼鈍処理は省略することも可能である。
【0048】
なお、ここで常法とは、板厚500?600mmに鋳造し、面削後に550?620℃の均質化熱処理を施して熱間圧延を行う。熱間圧延では、板厚2?5mmでコイル状に巻き取るが、その時の温度は300℃以上が望ましい。巻き取り時の温度が320℃を越える場合には、その後の焼鈍を省略できる。更にその後、冷間圧延を施して所定の板厚0.3?0.5mmに仕上げる。また、0.2%耐力および45°耳の耳率の制御は主として化学成分と熱間圧延時の巻き取り温度をコントロールして行う。巻き取り温度300℃未満では再結晶が不十分となり、0.2%耐力が上昇し、45°耳率も高くなる。」

(1e)「【実施例】
【0052】
以下、本発明に係るボトル缶用アルミニウム合金板について、実施例を挙げて具体的に説明する。なお、本発明は、この実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく限りにおいて適宜に変更することが可能である。
【0053】
(第1の実施例)
本発明に係るボトル缶用アルミニウム合金板の必要条件を満たす実施例(No.1?7)と本発明の必要条件を満たさない比較例(No.1?17)の供試材の構成を表1に、各々の供試材について行ったボトル缶の各特性に関する評価結果を表2に示す。
【0054】
(供試材の作製)
表1に示す成分を有したアルミニウム合金板の供試材を、従来の通常の方法で製造した。また、0.2%耐力および45°耳の耳率は、前記の手法によって各供試材のN数を2として測定し、その平均値から求めた。」

(1f)「【0055】
(供試材の評価方法)
(1)しごき成形性
アルミニウム合金板に対して胴体部の直径が66mmとなるようにDI成形(絞り加工、しごき加工)を施し、DI成形品を10000缶作製した。なお、最終しごき加工率を45%と破断しやすい条件にして、破断促進試験とした。そして、前記DI成形品10000缶について、破断が発生した缶の数によって、このしごき成形性を評価した。すなわち、破断が発生した缶が10000缶中、1缶以下であったものを「○(良好)」、2?4缶であったものを「△(概ね良好)」、5缶を超えたものを「×(不良)」とした。
【0056】
(2)ネック成形性
前記DI成形品に、トリミング、洗浄、ベーキング(最高保持温度:210℃)行ない、続いて口部の直径が40mmとなる(胴体部の直径に対する口部の直径の絞り比が39.4%である状態)までダイネック方式によりネッキングを施し、ネッキング品を作製した。そして、前記ネッキング品について、シワの発生具合によって、ネック成形性を評価した。すなわち、シワの発生が全く見られなかったものを「○(良好)」、シワの発生が若干見られたものを「△(概ね良好)」、顕著なシワの発生が見られたものを「×(不良)」とした。
【0057】
(3)トリミング性
前記ネッキング品について、45°耳の山と谷との差によって、トリミング性を評価した。すなわち、45°耳の山と谷との差が0.5mm未満であったものを「○(良好)」、0.5?0.7mmであったものを「△(概ね良好)」、0.7mmを超えたものを「×(不良)」とした。
【0058】
(4)ネジ成形性
前記ネッキング品にネジ・カーリング成形を施してボトル缶を作製した。そして、そのボトル缶のネジ部の割れ等の発生状況によって、ネジ成形性を評価した。すなわち、割れや顕著なクビレがないものを「○(良好)」、クビレが若干あるものを「△(概ね良好)」、亀裂や割れが発生したものを「×(不良)」とした。
【0059】
(5)座屈荷重
前記ボトル缶に上部から荷重を加えていき、ボトル缶が塑性変形したときのピーク荷重を測定し、5缶の平均値を座屈荷重として評価した。高耐圧の内容物を巻締めすることを考慮して、座屈荷重が1800N以上のものを良好とした。」
そして、供試材の構成が表1に、各々の供試材について行ったボトル缶の各特性に関する評価結果が表2に示される。」

(1g)「【0060】【表1】
化学成分(質量%) 耳率 0.2%
Si Fe Mn Mg Cu (%) 耐力
(N/mm^(2))
・・・
実施例2 0.25 0.42 0.88 1.27 0.18・・1.2・・259
・・・ 」

(1h)「【0061】【表2】実施例2/ネック成形性 ○ 」

[2-2]本願補正発明1についての当審の判断

(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1の(1a)の記載によれば、刊行物1には、
「Cuを0.1?0.3質量%、Mgを1.2質量%を超え1.5質量%以下、Mnを0.5?1.2質量%、Feを0.2?0.7質量%、Siを0.1質量%以上0.5質量%未満含有し、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有するアルミニウム合金板であって、
前記Fe、MnおよびMgの含有量について、(Fe含有量+1.07×Mn含有量)が1.30質量%を超え1.55質量%未満、且つ、(Mn含有量+Mg含有量)が1.75質量%を超え2.35質量%未満であり、
且つ、
前記アルミニウム合金板の210℃で10分間保持した後の0.2%耐力が250?265N/mm^(2)である、ボトル缶用アルミニウム合金板。」が記載されていると認められる。
そして、刊行物1の(1e)及び(1g)の記載によれば、前記「ボトル缶用アルミニウム合金板」について、表1の実施例2として、次の発明が記載されていると認められる。

「Cuを0.18質量%、Mgを1.27質量%、Mnを0.88質量%、Feを0.42質量%、Siを0.25質量%含有し、残部がAlと不可避的不純物とからなる組成を有するアルミニウム合金板であって、
前記アルミニウム合金板の210℃で10分間保持した後の0.2%耐力が259N/mm^(2)である、ボトル缶用アルミニウム合金板。」(以下、「刊行物1発明」という。)

(2)本願補正発明1と刊行物1発明との対比
本願補正発明1と刊行物1発明とを対比すると、両発明は、
「Cuを0.1?0.4質量%、Mgを0.8?1.7質量%、Feを0.40?0.8質量%、Siを0.1?0.4質量%含有するとともに、Mnを含有し、残部がAlおよび不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、
210℃で10分の熱処理を施した後の0.2%耐力が240?270N/mm^(2)である、
ボトル缶用アルミニウム合金板。」である点において一致し、以下の点において相違する。

相違点1:Mnの含有量が、本願補正発明1は、0.5?0.85質量%であるのに対し、刊行物1発明は、0.88質量%である点。

相違点2:Mn、MgおよびFeの含有量の関係を定めた関係式、{5.66×Mn(質量%)+0.667×Mg(質量%)+2.17×Fe(質量%)}(以下、「本願関係式」という。)について、本願補正発明1は、本願関係式が5.45を越え6.65以下であるのに対し、刊行物1発明は、本願関係式の数値が6.74である点。

相違点3:板表面の圧延直角方向の平均結晶粒径が、本願補正発明1は、40μm以下であるのに対し、刊行物1発明は、不明である点。

(3)相違点についての検討

(3-1)相違点1及び2について
刊行物1発明においてMnの添加は、刊行物1の(1b)の記載によれば、アルミニウム合金板の強度を上昇させ、また、金属間化合物であるAl-Mn-Fe-Si(α相)を適正に分散させ、しごき成形性を向上させるために行うものであり、0.5?1.2質量%の範囲で添加できることが記載されている。
また、刊行物1の(1a)、(1c)には、さらにMnの含有量をFeの含有量及びMgの含有量との関係において個々に定めること、すなわち、具体的には、「(Fe含有量+1.07×Mn含有量)が1.30質量%を超え1.55質量%未満、且つ、(Mn含有量+Mg含有量)が1.75質量%を超え2.35質量%未満とすること」により、金属間化合物分布と強度を最適化でき、成形性、すなわち、しごき加工時の成形性およびネジ加工時の成形性(塗膜性能)のより優れた高強度材を得ることができることが記載されている。
これらの記載によると、成形性のより優れた合金板を得るためのMnの含有量の範囲は、刊行物1発明において、0.83質量%程度までの範囲となり、刊行物1発明において、Mn含有量をこの範囲において調整することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、かかるMnの含有量範囲にある、例えば、0.83質量%は、本願補正発明1のMnの含有量範囲である、0.5質量%?0.85質量%と一致するものであり、また、本願関係式についても、6.46となる。
なお、本願明細書の【0017】、【0021】の記載から、本願補正発明1におけるMn含有量と本願関係式の上限値に作用効果上の臨界的意義はないと認められる。

そうすると、刊行物1発明において、Mnの含有量を調整することにより、相違点1及び相違点2を解消することは、当業者が容易になし得た事項である。

(3-2)相違点3について
金属材料分野において、微細組織の平均結晶粒径等は、合金の成分組成、及び、その製造方法において定まるものであり、また、所望の組織が得られているかについては、直接的な組織観察以外に、適正な各種評価試験によりその特性値等を評価することによっても確認が行われているところ、本願補正発明1と刊行物1発明の製造方法については、それぞれ、本願明細書の【0024】と、刊行物1の(1d)とに記載され、いずれも、アルミニウム合金板の製造方法としては、常法と認められる、アルミニウム合金の鋳塊を作製し、均質化熱処理を施し、熱間圧延を施し、圧延板を作製し、300℃以上の温度で巻き取った後、冷間圧延処理を施すものであり、製造方法においても一致するものといえる。
そして、本願補正発明1において、板表面の圧延直角方向の平均結晶粒径を40μm以下とする技術的理由は、本願明細書の【0023】の記載によれば、前記平均結晶粒径を40μm以下とすることによって、ネック部のシワが抑制され、ネック部およびネジ部の塗装または樹脂フィルムの剥離を防止でき、優れたネック成形性が得られるというものである。
そして、本願明細書の【0045】、【0046】、【0048】、【表2】には、Mn含有量が0.89質量%までの実施例について、前記平均結晶粒径が40μm以下であると、ネック成形性は、ダイネック方式によりネッキングを施したネッキング品のサンプル数20缶について、シワまたはスジ状の欠陥の発生が全く見られない良好なレベルであり、また、樹脂フィルムの微細な剥離を確認するための、ERV測定においては、内面塗装に微細な剥離がないことが推定される10mA未満であり、良好なレベルであったことが記載されている。
他方、刊行物1発明に関して、刊行物1の(1f)、(1h)には、ネック成形性については、本願補正発明1と同様のダイネック方式によりネッキングを施したネッキング品についてシワの発生が全く見られない良好なレベルであることが記載されている。そして、(1f)には、ERV測定を行った旨の記載は認められないが、ネジ加工時の表面の亀裂(塗膜亀裂)やネジ加工時の成形性(塗膜性能)について、ネッキング品のネジ・カーリング成形を施し、得られたボトル缶のネジ部の割れ等の発生状況によって評価し、割れや顕著なクビレがなく、良好なレベルであることが記載されている。
そうすると、刊行物1発明は、合金組成について、Mnが0.88質量%である以外は本願補正発明1と同様であり、製造方法においても一致し、奏される効果についても格別の差異があるとは認められないから、刊行物1発明においても、同様の組織、すなわち、40μm以下の前記平均結晶粒径を有する組織が得られているものと推認される。
また、そうでないとしても常法の製造方法により、ネック成形性に優れたアルミニウム合金板を得ようとして、結果として40μm以下の前記平均結晶粒径を有する組織のものを得ることに当業者が格別の創作力を要したものとも認められない。

(4)小括
したがって、本願補正発明1は、刊行物1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[2-3]むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明についての審決

[1]本願発明
平成20年7月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成20年4月18日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、前記「第2 【決定の理由】[1](1-1)」の【請求項1】に記載されたとおりのものである。
[2]原査定の理由の概要
原審における拒絶査定の理由の概要は、本願の請求項1、2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された次の刊行物1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

刊行物1:特開2004-250790号公報

[3]刊行物の主な記載事項及び刊行物1発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特開2004-250790号公報)の主な記載事項は、前記「第2 【決定の理由】[2-1]」に記載したとおりである。
また、刊行物1発明は、前記「第2 【決定の理由】[2-2](1)」に記載したとおりである。

[4]当審の判断
前記「第2 【決定の理由】[2-2]」において、その独立特許要件を検討した本願補正発明1は、前記「第2 【決定の理由】[1]、[2]」に示すとおり、本願発明1において、Mn、Mg、Feの含有量の関係式である{5.66×Mn(質量%)+0.667×Mg(質量%)+2.17×Fe(質量%)}ついて、その上限の7.55未満を6.56以下と規定することにより、発明を特定するために必要な事項を限定したものである。 そして、このように発明を特定するために必要な事項をより狭い範囲に限定的に減縮した本願補正発明1が、刊行物1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められることは、前記「第2 【決定の理由】[2-2]」に示すとおりであるから、本願発明1も、前記「第2 【決定の理由】[2-2]」に記載したと同様の理由により、刊行物1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

[5]むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-06 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-12-03 
出願番号 特願2004-283840(P2004-283840)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C22C)
P 1 8・ 121- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 植前 充司
大橋 賢一
発明の名称 ボトル缶用アルミニウム合金板およびその製造方法  
復代理人 多田 悦夫  
復代理人 富田 哲雄  
代理人 磯野 道造  

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