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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1210459
審判番号 不服2008-15709  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-19 
確定日 2010-01-14 
事件の表示 特願2004-257397「樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月16日出願公開、特開2006- 70344〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年9月3日の出願であって、平成20年4月21日付けで手続補正がなされ、平成20年5月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年6月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成20年7月22日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成20年7月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成20年7月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

【決定の理由】
[1]本件補正の内容
本件補正は、以下の補正事項a?cを有するものと認める。

補正事項a;発明の詳細な説明の段落【0025】?【0026】の記載を、
「 【0025】
(1.50(質量%)≦{Cu(質量%)+Mg(質量%)}<1.63(質量%))
本発明では、樹脂被覆が行われた後においても適正な材料強度を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板が得られるように、材料強度に寄与する元素であるCu及びMgをコントロールする。本発明者らが、本発明に係る樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板に樹脂被覆が行われた後の材料強度に対するCuとMgの寄与度について調査した結果、1.50(質量%)≦{Cu(質量%)+Mg(質量%)}<1.63(質量%)の関係を満足するときに、適正な材料強度を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板が具現されることが判明した。
【0026】
すなわち、{Cu(質量%)+Mg(質量%)}が1.50未満であると、充分な材料強度が得られず、成形したアルミ缶の熱処理後の耐力及びネジ座屈強度が不足する。また、{Cu(質量%)+Mg(質量%)}が1.63以上であると、耐力が高くなり、圧延性が低下してエッジ割れや板破断などの不具合が発生するばかりでなく、アルミ缶のしごき成形性も低下する。従って、本発明では、1.50(質量%)≦{Cu(質量%)+Mg(質量%)}<1.63(質量%)を満足するように、CuとMgの含有量を調整する。」と補正する。

補正事項b;発明の詳細な説明の段落【0027】?【0028】の記載を、
「 【0027】
(280℃、20秒間の熱処理を施した後の耐力:225N/mm^(2)以上242N/mm^(2)未満)
前記アルミニウム合金板に樹脂被覆を施した後に、絞り、しごき成形を施す際の成形性に対しては、前記アルミニウム合金板に対して樹脂被覆を施す際の熱処理に相当する280℃で、20秒間の条件の熱処理を施した後の耐力が重要な指標となる。
【0028】
すなわち、前記アルミニウム合金板に280℃で20秒間の熱処理を施した後の耐力が225N/mm^(2)未満では、充分な材料強度が得られず、成形したアルミ缶のネジ座屈強度が不足する。また、前記耐力がN/mm^(2)以上であると、アルミ缶の成形性、特にしごき成形性が低下し、破断の発生により生産性が阻害される。従って、本発明に係る樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板では、280℃で、20秒間の熱処理を施した後の耐力を225N/mm^(2)以上242N/mm^(2)未満とすることが好ましい。」と補正する。

補正事項c;特許請求の範囲について、次の(1-1)を次の(1-2)とする。
(1-1)
「【請求項1】
Cuを0.20?0.40質量%、Mgを1.30?1.60質量%、Mnを0.80?1.30質量%、Feを0.25?0.50質量%、Siを0.10?0.50質量%それぞれ含有し、残部がAl及び不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、
前記Cu及び前記Mgの含有量が、
1.50(質量%)≦{Cu(質量%)+Mg(質量%)}≦1.80(質量%)
の関係を満足し、かつ、
280℃で、20秒間の熱処理を施した後の耐力が225?255N/mm^(2)であることを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。 【請求項2】
Cuを0.20?0.40質量%、Mgを1.30?1.60質量%、Mnを0.80?1.30質量%、Feを0.25?0.50質量%、Siを0.10?0.50質量%それぞれ含有し、残部がAl及び不可避的不純物から構成され、前記Cu及び前記Mgの含有量が、1.50(質量%)≦{Cu(質量%)+Mg(質量%)}≦1.80(質量%)の関係を満足するアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を作製する溶解・鋳造工程と、
この溶解・鋳造工程において作製されたアルミニウム合金の鋳塊に570?620℃で均質化熱処理を施す均質化熱処理工程と、
この均質化熱処理工程において均質化熱処理が施されたアルミニウム合金の鋳塊を熱間圧延し、巻き取り温度を300℃以上にして巻き取る熱間圧延工程と、
この熱間圧延工程において熱間圧延されたアルミニウム合金板に、冷間加工の圧延率を80?90%に設定して冷間圧延を行う冷間圧延工程と、
を含むことを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法。」

(1-2)
「【請求項1】
Cuを0.20?0.40質量%、Mgを1.30?1.60質量%、Mnを0.80?1.30質量%、Feを0.25?0.50質量%、Siを0.10?0.50質量%それぞれ含有し、残部がAl及び不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、
前記Cu及び前記Mgの含有量が、
1.50(質量%)≦{Cu(質量%)+Mg(質量%)}<1.63(質量%)
の関係を満足し、かつ、
280℃で、20秒間の熱処理を施した後の耐力が225N/mm^(2)以上242N/mm^(2)未満であることを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。
【請求項2】
Cuを0.20?0.40質量%、Mgを1.30?1.60質量%、Mnを0.80?1.30質量%、Feを0.25?0.50質量%、Siを0.10?0.50質量%それぞれ含有し、残部がAl及び不可避的不純物から構成され、前記Cu及び前記Mgの含有量が、1.50(質量%)≦{Cu(質量%)+Mg(質量%)}<1.63(質量%)の関係を満足するアルミニウム合金を溶解・鋳造して鋳塊を作製する溶解・鋳造工程と、
この溶解・鋳造工程において作製されたアルミニウム合金の鋳塊に570?620℃で均質化熱処理を施す均質化熱処理工程と、
この均質化熱処理工程において均質化熱処理が施されたアルミニウム合金の鋳塊を熱間圧延し、巻き取り温度を300℃以上にして巻き取る熱間圧延工程と、
この熱間圧延工程において熱間圧延されたアルミニウム合金板に、冷間加工の圧延率を80?90%に設定して冷間圧延を行う冷間圧延工程と、
を含むことを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法。」

[2]本件補正の適否
[2-1]補正事項a、bの根拠について
補正事項a、bが、「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものであるかについて、以下に検討する。

[2-1-1]補正事項aについて
補正事項aは、アルミニウム合金板のCu及びMgの含有量の関係を、
1.50(質量%)≦{Cu(質量%)+Mg(質量%)}<1.63(質量%)とし、その上限を1.63質量%未満に規定するとともに、その関係式の値が「1.63以上であると、耐力が高くなり、圧延性が低下してエッジ割れや板破断などの不具合が発生するばかりでなく、アルミ缶のしごき成形性も低下する。」と補正するものである。
しかしながら、当初明細書等には、その上限を1.80とすることと、その上限を超えると耐力が高くなり、圧延性が低下してエッジ割れや板破断などの不具合が発生するばかりでなく、アルミ缶のしごき成形性も低下するという前記関係式の技術的意義については、記載されていたとすることはできるが、その上限を1.63を超えないとすることと、その技術的意義については記載されていたとすることができないし、自明な事項であるとすることもできない。

[2-1-2]補正事項bについて
補正事項bは、アルミニウム合金板において、「280℃で、20秒間の熱処理を施した後の耐力を225N/mm^(2)以上242N/mm^(2)未満」と規定するとともに、その値が、242N/mm^(2)以上であると、「アルミ缶の成形性、特にしごき成形性が低下し、破断の発生により生産性が阻害される。」と補正するものである。
しかしながら、当初明細書等には、その上限を255N/mm^(2)とすることと、その上限を超えるとアルミ缶の成形性、特にしごき成形性が低下し、破断の発生により生産性が阻害されるというその技術的意義については、記載されていたとすることはできるが、242N/mm^(2)未満とすることと、その技術的意義については記載されていたとすることができないし、自明な事項であるとすることもできない。

[2-1-3]まとめ
以上のとおり、補正事項a及び補正事項bは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものとすることはできないから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
したがって、補正事項a及び補正事項bを有する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[2-2]補正事項cについての独立特許要件の検討
また、仮に、上記補正事項a及び補正事項bが、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであるとすると、上記補正事項cは、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。
しかしながら、当該補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下、「本願補正発明1」という。)は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
以下、詳述する。

[2-2-1]刊行物及び刊行物の主な記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「特開2004-238653号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cuを0.1?0.5質量%、Mgを0.8?2.0質量%、Mnを0.5?1.5質量%、Feを0.25?0.50質量%、Siを0.1?0.5質量%それぞれ含有し、残部がAl及び不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、
前記Cu及び前記Mgの含有量が、
2.15≦{3.0×Cu(質量%)+Mg(質量%)}≦2.50…(1)
の関係を満足し、かつ
最終冷間圧延工程の終了時の引張強さが、310?350N/mm^(2)であることを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。
【請求項2】
前記最終冷間圧延工程の後に、200?280℃で、20秒間、熱処理を施したときの引張強さが250?290N/mm^(2)であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。
【請求項3】
絞り比(ブランク径/ポンチ径)を1.5?1.8としてカッピング成形を行ったときの45°耳の耳率が、-3?+3%であること特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。
【請求項4】
請求項1に記載の樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法であって、
熱間圧延工程の終了時の温度を、300?350℃に設定して熱間圧延処理を施す熱延工程と、
前記熱間圧延工程が終了した後に、冷却速度を5℃/h以上に設定して冷却を行う冷却工程と、
冷間加工の圧延率を80?95%に設定して冷間圧延を行う冷延工程と、
を含むことを特徴とする樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板の製造方法。」

(1b)「【0022】
(Cuの含有量:0.1?0.5質量%)
本発明に係る樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板に含まれるCuは材料強度に寄与する元素である。すなわち、このCuの含有量が0.1質量%より少ないと充分な材料強度が得られず、また、Cuの含有量が0.5質量%を超えると材料強度が高くなり過ぎて成形性が低下する。従って、本発明ではCuの含有量を0.1?0.5質量%とする。
【0023】
(Mgの含有量:0.8?2.0質量%)
本発明に係る樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板に含まれるMgは前記したCuの場合と同じく材料強度に寄与する元素である。すなわち、このMgの含有量が0.8質量%未満では所要の材料強度が得られ難く、また、Mgの含有量が2.0質量%を超えると加工硬化が大きくなって成形性が低下する。従って、本発明ではMgの含有量を0.8?2.0質量%とする。」
(1c)「【0028】
(2.15≦{3.0×Cu(質量%)+Mg(質量%)}≦2.50…(1))
本発明では、ラミネートが行われた後に適正な材料強度を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板が得られるように、材料強度に寄与する元素であるCu及びMgをコントロールする。本発明者らが本発明に係る樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板にラミネートが行われた後の材料強度に対するCuとMgの寄与度について調査した結果、Cuの寄与度がMgの寄与度より高いことが明らかとなった。更に、本発明者らが詳細に調査し
たところ、このCuとMgの含有量が、2.15≦{3.0×Cu(質量%)+Mg(質量%)}≦2.50…(1)の関係を満足するときに、ラミネートが行われた後に適正な材料強度を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板が具現されることが判明した。
【0029】
すなわち、前記関係式(1)中の{3.0×Cu(質量%)+Mg(質量%)}が2.15未満であると充分な材料強度が得られず、成形したアルミ缶の耐圧強度及び座屈強度が不足する。また、前記関係式(1)で{3.0×Cu(質量%)+Mg(質量%)}が2.50を超えると、圧延性が低下してエッジ割れや板破断などの不具合が発生するばかりでなく、アルミ缶の成形性も低下する。従って、本発明では、2.15≦{3.0×Cu(質量%)+Mg(質量%)}≦2.50…(1)を満足するように、CuとMgの含有量を調整する。」

(1d)「【0048】
【実施例】
以下、本発明に係る実施例について、本発明で規制した条件を満足しない比較例と対比させながら具体的に説明する。
まず、表1に示すような合金組成を備えたアルミニウム合金を溶解鋳造し、つぎに、600℃、4時間の均熱処理を施し、続いて熱間粗圧延、仕上げ圧延を順次行ってアルミニウム合金板を製造した後、表1に示すような熱間圧延工程の終了温度でこのアルミニウム合金板を巻取って、ホットコイルを製造した。
【0049】【表1】
化学成分(質量%)
Si Fe Mn Mg Cu

・・・
実施例3 0.27 0.45 0.98 1.41 0.30
・・・
【0050】
そして、このホットコイルは冷却速度をコントロールしながら冷却され、その後冷間圧延が施されて厚さ0.32mmのアルミニウム合金板のホットコイルとした。
なお、実施例6については、ホットコイルを連続焼鈍し、冷間圧延を施した。また、比較例24については、冷間圧延後に、中間焼鈍として連続焼鈍を行い、再び冷間圧延を施した。
【0051】
その後、このようにして製造された実施例及び比較例のアルミニウム合金板に、アルカリ洗浄及びリン酸クロメート処理を施し、更に、厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート樹脂を両面に被覆し、続いて、280℃で、20秒間のリメルト処理を施して本発明に係る樹脂被覆包装用アルミニウム合金板(実施例No.1?6)と本発明で規制した条件を満足しないアルミニウム合金板(比較例No.7?24)とを製造した。
【0052】
すなわち、実施例No.1?6は、いずれも合金組成、前記関係式(1)、熱延工程終了
時の温度、熱延工程終了後の冷却速度、及び冷間圧延工程における冷間加工の圧延率が本発明で規制した条件を満足するものである。このうち、実施例No.1?6は、熱間圧延後の冷間圧延工程で焼鈍を行わなかったものであり、実施例No.6は熱間圧延後に焼鈍を行ったものである。」

(1e)「【0057】
このようにして製造された本発明に係る実施例及び本発明の条件を満足しない比較例について行った評価方法について説明する。
(引張り強さ)
厚さが0.32mmとなるまで冷間圧延を施した前記アルミニウム合金板、及び硝石炉(ソルトバス)を用いてリメルトとほぼ同じ熱履歴である280℃、20秒間の熱処理を施した前記アルミニウム合金板について、JIS H 4000に準じて引張強さを測定して得られたそれぞれの測定結果を、最終冷間圧延工程終了時の引張強さ、焼鈍後の引張強さとした。
【0058】
(45°耳の耳率)
また、耳率は、冷間圧延を行ったアルミニウム合金板について、φ66.7mmのフランクを、φ40mmのポンチで絞ってカップを作製し、得られたカップの耳の高さから45°耳を求めた。更に、得られた樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板に白色のワセリンを塗布して絞り成形、しごき成形を施し、得られたDI缶の缶底部にネック加工及びネジ加工を施してボトル缶を作製した。DI成形では被覆した樹脂の剥離を抑えるべくフラン
ジ部を残した成形を行った。
【0059】
(しごき成形性)
しごき成形性は、連続成形で10000缶製缶したときに破断が発生した回数が、0?1回のものを「○(良好)」とし、2?4回のものを「△(やや劣るが製造工程に適用が可能)」とし、5回以上のものを「×(不良)」とした。
【0060】
(フランジ成形性)
フランジ成形性は、しごき成形時に上端部に残しているフランジの形が真円に近いものを「○(良好)」とし、四角形やフランジが欠けているものを「×(不良)」とした。
【0061】
(ネジ座屈強度)
ネジ座屈強度は、成形したボトル缶に軸方向の圧縮荷重を負荷し、ネジ部が座屈したときの荷重をn(サンプル数)=5で測定して平均値とした。
なお、このネジ座屈強度は、1500N以上であれば実用上問題がない。」

(1f)「【0063】【表2】
実施例3/しごき成形性:○/ネジ座屈強度:1538N 」

[2-2-2]本願補正発明1についての当審の判断

(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1の(1a)の記載によれば、刊行物1には、
「Cuを0.1?0.5質量%、Mgを0.8?2.0質量%、Mnを0.5?1.5質量%、Feを0.25?0.50質量%、Siを0.1?0.5質量%それぞれ含有し、残部がAl及び不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、
前記Cu及び前記Mgの含有量が、
2.15≦{3.0×Cu(質量%)+Mg(質量%)}≦2.50…(1)の関係を満足し、かつ
200?280℃で、20秒間、熱処理を施したときの引張強さが250?290N/mm^(2)である、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。」が記載されていると認められる。
そして、刊行物1の(1d)の記載によれば、前記「樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板」について、表1の実施例3として、次の発明が記載されていると認められる。

「Cuを0.30質量%、Mgを1.41質量%、Mnを0.98質量%、Feを0.45質量%、Siを0.27質量%それぞれ含有し、残部がAl及び不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、かつ
200?280℃で、20秒間、熱処理を施したときの引張強さが270N/mm^(2)である、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。」(以下、「刊行物1発明」という。)

(2)本願補正発明1と刊行物1発明との対比
本願補正発明1と刊行物1発明とを対比すると、両発明は、
「Cuを0.20?0.40質量%、Mgを1.30?1.60質量%、Mnを0.80?1.30質量%、Feを0.25?0.50質量%、Siを0.10?0.50質量%それぞれ含有し、残部がAl及び不可避的不純物から構成される、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。」である点において一致し、以下の点において相違する。

相違点1:Cuの含有量とMgの含有量の和が、本願補正発明1は、1.50以上1.63未満であるのに対し、刊行物1発明は、1.71である点。
相違点2:280℃で、20秒間の熱処理を施した後の耐力が、本願補正発明1は、225N/mm^(2)以上242N/mm^(2)未満であるのに対し、刊行物1発明は、不明である点。

(3)相違点についての検討

(3-1)相違点1について
刊行物1発明におけるCu及びMgの添加について、刊行物1の(1b)には、Cu及びMgは、いずれも材料強度に寄与する元素であり、Cuについては、0.1?0.5質量%の範囲で、Mgについては、0.8?2.0質量%の範囲で添加できることが記載されている。
また、刊行物1の(1a)、(1c)には、さらに、Cu含有量とMg含有量について特定の関係を満たすように規定すること、具体的には、{3.0×Cu(質量%)+Mg(質量%)}が、2.15以上、2.50以下とすることにより、ラミネートが行われた後に適正な材料強度を有する樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板が得られることが記載されている。
これらの記載によると、前記適正な材料強度を有するアルミニウム合金板を得るためのMgの含有量の範囲は、刊行物1発明においては、1.30質量%程度までの範囲となり、刊行物1発明において、Mg含有量をこの範囲において調整することは当業者が容易になし得ることである。
そして、かかるMgの含有量範囲にある、例えば、1.32質量%は、本願補正発明1のMgの含有量範囲である、1.30質量%?1.60質量%と一致し、また、Cuの含有量とMgの含有量の和についても、1.62となり一致する。
なお、本願の当初明細書等の【0025】の記載によれば、本願補正発明1においてCuの含有量とMgの含有量の和を規定することによる作用効果上の臨界的意義はないものと認められる。
そうすると、刊行物1発明において、Mgの含有量を調整することにより、相違点1を解消することは、当業者が容易になし得た事項である。

(3-2)相違点2について
本願補正発明1において、280℃で、20秒間の熱処理を施した後の耐力を225N/mm^(2)以上242N/mm^(2)未満と規定する技術的理由は、本件補正後の明細書の【0027】、【0028】の記載によれば、その下限については、耐力が225N/mm^(2)未満では、充分な材料強度が得られず、成形したアルミ缶のネジ座屈強度が不足するというものであり、また、その上限については、耐力が242N/mm^(2)以上では、アルミ缶の成形性、特にしごき成形性が低下し、破断の発生により生産性が阻害されるというものである。
そして、本件補正後の明細書の【表2】、【0056】、【0054】には、本願補正発明1の実施例1においては、ネジ座屈強度は、成形した3ピースボトル缶に軸方向の圧縮荷重を負荷し、ネジ部が座屈したときの荷重を5サンプルについて測定し、その平均値により求め、実用上問題がないとされる1500N以上の1540Nであることが記載され、また、しごき成形性は、連続成形で10000缶製缶したときに破断(胴切れ)が発生した回数が、0?3回であり、良好なレベルであったことが記載されている。
他方、刊行物1発明に関して、刊行物1の(1e)、(1f)には、ネジ座屈強度については、成形したボトル缶に軸方向の圧縮荷重を負荷し、ネジ部が座屈したときの荷重をサンプル数5で測定して平均値とし、その値は、実用上問題がないとされる1500N以上の1538Nであったことが記載され、また、しごき成形性は、連続成形で10000缶製缶したときに破断が発生した回数が、0?1回であり、良好なレベルであったことが記載されている。
そうすると、本願補正発明1と刊行物1発明とは、ネジ座屈強度、及び、しごき成形性において、格別の差異があるとは認められず、両発明は、いずれも、ネジ部が座屈しないレベルの強度を有するとともに、破断の発生に至らないレベルの成形性を有するのであるから、有する耐力レベルにおいても重複しているものと認められる。

(4)小括
したがって、本願補正発明1は、刊行物1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

[2-2-3]むすび
以上のとおり、仮に補正事項a、bが新規事項を追加するものでないとしても、補正事項cを有する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明についての審決

[1]本願発明
平成20年7月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成20年4月21日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、前記「第2 【決定の理由】[1](1-1)」の【請求項1】に記載されたとおりのものである。
[2]原査定の理由の概要
原審における拒絶査定の理由の概要は、本願の請求項1、2に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された前述した刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、というものである。

[3]刊行物の主な記載事項及び刊行物1発明の認定
刊行物1(特開2004-238653号公報)の主な記載事項は、前記「第2 【決定の理由】[2-2-1]」に記載したとおりである。

[4]当審の判断
(1)刊行物1発明
刊行物1発明は、前記「第2 【決定の理由】[2-2-2]の(1)」に記載したとおりである。

(2)本願発明1と刊行物1発明との対比
本願発明1と刊行物1発明とを対比すると、両発明は、
「Cuを0.20?0.40質量%、Mgを1.30?1.60質量%、Mnを0.80?1.30質量%、Feを0.25?0.50質量%、Siを0.10?0.50質量%それぞれ含有し、残部がAl及び不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金板であって、
前記Cu及び前記Mgの含有量が、
1.50(質量%)≦{Cu(質量%)+Mg(質量%)}≦1.80(質量%)
の関係を満足する、樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板。」である点において一致し、以下の点において一応相違する。

相違点3:280℃で、20秒間の熱処理を施した後の耐力が、本願発明1は、225N/mm^(2)以上255N/mm^(2)未満であるのに対し、刊行物1発明は、不明である点。

(3)相違点3についての検討
前記「第2 【決定の理由】[2-2-2]の(3-2)」に記載したと同じ理由により、本願発明1と刊行物1発明は、ネジ座屈強度、及び、しごき成形性において、格別の差異があるとは認められず、その耐力においても一致しているものと推認される。

そうすると、相違点3は、実質的なものとすることはできない。

[5]むすび
以上のとおり、本願発明1は、刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-06 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-12-03 
出願番号 特願2004-257397(P2004-257397)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (C22C)
P 1 8・ 575- Z (C22C)
P 1 8・ 121- Z (C22C)
P 1 8・ 113- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 毅  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 大橋 賢一
植前 充司
発明の名称 樹脂被覆包装容器用アルミニウム合金板及びその製造方法  
復代理人 富田 哲雄  
代理人 磯野 道造  
復代理人 多田 悦夫  

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