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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1210463
審判番号 不服2008-21590  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-08-22 
確定日 2010-01-14 
事件の表示 平成11年特許願第263075号「動圧軸受の動圧溝の形成方法及び形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 3月27日出願公開、特開2001- 82483〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年9月17日の出願であって、平成20年7月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年8月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものであり、その請求項1ないし6に係る発明は、平成20年3月27日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「ラジアル部およびスラスト部を有する動圧軸受に動圧溝を形成する、
動圧軸受の動圧溝の形成方法において、
前記ラジアル部および前記スラスト部に電着によりレジストを形成する工程と、
形成された前記レジストをレーザーにより除去して前記ラジアル部および前記スラスト部にエッチングパターンを形成する工程と、
前記エッチングパターンを用いてエッチングすることにより前記ラジアル部および前記スラスト部に前記動圧溝を形成するエッチング工程と、
を備えることを特徴とする動圧軸受の動圧溝の形成方法。」

2.引用文献の記載事項
(1)特開昭63-238992号公報
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭63-238992号公報(以下、「引用例1」という。)には、「動圧発生用溝の形成方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
ア.「この発明は、動圧形流体軸受装置用の被加工体に動圧発生用溝を形成する方法の改善に関する。」(1ページ左下欄20行?右下欄1行)
イ.「第1図は、この発明の方法により被加工体10に形成された動圧発生用の溝20,22の一例を示したものである。この溝20,22は何れもヘリングボーン状をなしており、被加工体10の外周面に軸方向に間隔をおいて配置されている。
上記の溝20,22の溝加工を行うに当っては、まず第2図に示すように、被加工体10の外周面に腐食液に対する耐食性を有する液体を塗布し、この液体を乾燥凝固させて被加工体10に耐食性の被膜12を密着させる。」(2ページ右上欄5行?14行)
ウ.「次いで、この被膜付き被加工体10aを図示しないレーザ加工装置に取り付けて、レーザ光14を軸方向に走査する。
照射するレーザ光14のパワー・周波数は、被加工体10がレーザ加工される臨界値よりも小さく、被膜12がレーザ加工により除去される臨界値と同等以上の値を有するものを適宜選択して使用する。
レーザ光14の走査は、第1図に示した溝20,22のパターンが入力されたコンピュータプログラムに基づいて照射位置と被照射位置とが制御されており、レーザ光14が被膜付き被加工体10aの始端から終端まで走査した時点で被膜付き被加工体10aを軸心の周りの一定方向に微少角度だけ回転し、次いでレーザ光14を被膜付き被加工体10aの終端から始端まで逆方向に走査させ、往行程と復行程との何れの場合も溝20,22に対応する部分、すなわち被加工個所12a,12bだけにレーザ光14が照射されるようにしてある。
このような行程を被膜付き被加工体10aが1回転するまで繰り返して行うことにより、レーザ光14が照射された被加工個所12a,12bの被膜が除去される。」(2ページ右上欄15行?左下欄18行)
エ.「次いで、上記の被膜付き被加工体10aを腐食液に浸漬すると、被加工体10の被加工個所12a,12bの表面層が腐食して、第1図に示した動圧発生用の溝20,22が形成される。
然る後、被膜付き被加工体10aを剥離液に浸漬して被膜12の残留部分を剥離して除去することにより、動圧発生用の溝が形成された被加工体が得られる。」(2ページ左下欄19行?右下欄6行)
オ.第1図には、外周面に動圧発生用の溝20,22を形成した被加工体10が図示されており、この被加工体10は、上記ア.に摘記したとおり、動圧形流体軸受装置用の被加工体であるから、被加工体10の外周面は、ラジアル部であり、その動圧発生用の溝20,22はラジアル部に形成された溝であることは明らかである。

これらの記載事項及び図面内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ラジアル部を有する動圧形流体軸受装置に動圧発生用の溝20,22を形成する、
動圧形流体軸受装置の動圧発生用溝の形成方法において、
前記ラジアル部に耐食性を有する液体を塗布し乾燥凝固させて耐食性の被膜12を形成する工程と、
形成された前記被膜12をレーザ光14により除去して前記ラジアル部に溝20,22に対応する被加工箇所12a,12bを形成する工程と、
前記被加工箇所12a,12bを形成した被膜付き被加工体10aを腐食液に浸漬し前記ラジアル部に前記動圧発生用の溝20,22を形成する工程と、
を備える動圧形流体軸受装置の動圧発生用溝の形成方法。」

(2)特開平7-256879号公報
同じく原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-256879号公報(以下、「引用例2」という。)には、「インク噴射装置の駆動電極形成方法」に関して、図面とともに次の事項が記載されている。
カ.「まず圧電セラミックス板1の溝2形成側の面及び溝2の内面の全体に、図12のように、第一実施例、第二実施例と同様に無電解メッキ法を用いて駆動電極4となる導電性薄膜100を形成する(第一工程)。
続いて、図13に示すように導電性薄膜100の表面にレジスト膜5cを形成する。このレジスト膜5cは例えば電着レジスト(東亜合成社製、ネガタイプ)を用いて、電着によりコーティングする(第二工程)。これは、帯電した電着レジストを用いてメッキと同じ原理により導電体上に析出させる方法によって形成されるものである。これにより、形成した導電性薄膜100膜上にレジスト膜5cをコンフォーマルに形成できる。その後、紫外線光源(図示しない)から、図14に示すように溝2の上方より特定波長の平行光である紫外線6を、隔壁3の長手方向に対して直角であり、且つ圧電セラミックス板1の溝2形成側の面に対して角度ψ傾けた方向より、隔壁3の一方の面に一定時間照射した後に、更に紫外線光源に対する圧電セラミックス板1の位置を変えて、同様にして紫外線6隔壁3の他方の面に同じ時間照射する(第三工程)。
次に、専用の現像液により現像すると、紫外線6が照射された隔壁3の上半分及び頭頂部にレジスト膜5cが残り、紫外線6の照射されなかった部分のレジスト膜5cが溶解し除去される。すなわち、図15に示すように、隔壁3の上半分及び頭頂部15にレジスト層7が形成される(第四工程)。次に、隔壁3のレジスト膜5cが除去された位置には導電性薄膜100が露出しており、これを塩化第2鉄溶液によりエッチング除去する(第五工程)。最後にレジスト層7をアセトン等の有機溶剤により溶解除去する(第六工程)。このようにして、図16に示すように導電性薄膜100が隔壁3の上半分及び頭頂部15にのみ形成された状態となる。この後、隔壁3の頭頂部15に残っている導電性薄膜100をラッピング等で除去することによって、図17に示すように隔壁3に駆動電極4が形成される。」(段落【0040】?【0042】)

3.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、その機能又は作用からみて、引用発明の「動圧形流体軸受装置」は本願発明の「動圧軸受」に相当し、以下同様に、「動圧発生用の溝20,22」及び「動圧発生用溝」は「動圧溝」に、「被膜12」は「レジスト」に、「レーザ光14」は「レーザー」に、「溝20,22に対応する被加工箇所12a,12b」は「エッチングパターン」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「前記被加工箇所12a,12bを形成した被膜付き被加工体10aを腐食液に浸漬」することは、本願発明の「エッチングパターンを用いてエッチングすること」に相当するから、引用発明の「前記被加工箇所12a,12bを形成した被膜付き被加工体10aを腐食液に浸漬し前記ラジアル部に前記動圧発生用の溝20,22を形成する工程」と本願発明の「前記エッチングパターンを用いてエッチングすることにより前記ラジアル部および前記スラスト部に前記動圧溝を形成するエッチング工程」とは、「前記エッチングパターンを用いてエッチングすることにより前記ラジアル部に前記動圧溝を形成するエッチング工程」の点で共通する。
さらに、引用発明の「前記ラジアル部に耐食性を有する液体を塗布し乾燥凝固させて耐食性の被膜12を形成する工程」と本願発明の「前記ラジアル部および前記スラスト部に電着によりレジストを形成する工程」とは、どちらも「前記ラジアル部にレジストを形成する工程」である点で共通する。

したがって、本願発明の用語を用いて表現すると、両発明は、
「ラジアル部を有する動圧軸受に動圧溝を形成する、
動圧軸受の動圧溝の形成方法において、
前記ラジアル部にレジストを形成する工程と、
形成された前記レジストをレーザーにより除去して前記ラジアル部にエッチングパターンを形成する工程と、
前記エッチングパターンを用いてエッチングすることにより前記ラジアル部に前記動圧溝を形成するエッチング工程と、
を備える動圧軸受の動圧溝の形成方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明の動圧軸受は、ラジアル部およびスラスト部を有するのに対して、引用発明の動圧軸受は、ラジアル部を有するものの、スラスト部を有していない点。
[相違点2]
レジストを形成する工程に関して、本願発明では、電着によりレジストを形成する工程であるのに対して、引用発明は、耐食性を有する液体を塗布し乾燥凝固させて耐食性の被膜12を密着させる工程である点。

4.判断
次に上記各相違点について、以下に検討する。
(1)[相違点1]について
動圧軸受として「ラジアル部およびスラスト部を有する動圧軸受」は、例えば、特開平10-80091号公報の図4及び図5、特開平11-125242号公報の図4、特開平4-50914号公報の第6図及び第7図などに見られるように従来周知であるから、引用発明を、ラジアル部およびスラスト部を有する従来周知の動圧軸受に適用することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
したがって、相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、当業者が容易に想到できたものである。

(2)[相違点2]について
引用例2には、「このレジスト膜5cは例えば電着レジスト(東亜合成社製、ネガタイプ)を用いて、電着によりコーティングする(第二工程)」(摘記事項カ.参照)と記載され、レジストを電着により形成することが記載されている。また、電着によりレジストを形成することは、引用例2以外にも、例えば、特開平8-167769号公報(段落【0006】参照)、特開平5-110255号公報(段落【0021】参照)などにも見られるように、レジスト形成技術として従来周知の技術にすぎない。
そうすると、引用発明において、レジストを形成する工程に関して、耐食性を有する液体を塗布し乾燥凝固させて耐食性の被膜12を形成する工程に代えて、上記周知技術である電着によりレジストを形成する工程を採用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本願発明による効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は審判請求書の中で「引用例2はインク噴射装置の駆動電極の形成方法であり、本願の請求項1は動圧軸受の動圧溝の形成方法であり、そもそも前提となる技術が異なります。」(「(2)特許法第29条第2項に関するもの」「(a)引用例2と本願の請求項1に係る発明との比較」の項参照)と主張する。しかしながら、引用発明は、ラジアル部に耐食性を有する液体を塗布し乾燥凝固させて耐食性の被膜12を形成することによりレジストを形成するものであり、一方、引用例2に記載された発明は、電着によりレジストを形成する技術に関するものであり、いずれもレジストの形成技術に関する点で共通性があるから、引用発明において、レジストを形成する工程に関して、引用例2に記載された電着によりレジストを形成する技術を適用することは、当業者であれば容易に想到できたことであって、それを妨げる格別の事情も見出せない。
また、審判請求人は「引用例2にはレジストを均一に形成するという本願特有の効果を示唆していない以上、引用例2に基づいて本願の請求項1に係る発明に想到することは極めて困難であると思料致します。」(同上)とも主張する。しかし、電着はそもそも複雑な形状のものに対しても均一な厚さの膜を形成することができる方法として従来から広く一般に知られているものであり、レジストを電着により形成する場合においても、そのことは従来からよく知られていることである(例えば、特開平4-76985号公報(4ページ左上欄1行?11行)、特開平2-271600号公報(2ページ左上欄15行?右上欄7行))。すなわち、レジストを均一に形成するという効果は電着がもつ当然の効果にすぎない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-13 
結審通知日 2009-10-27 
審決日 2009-11-30 
出願番号 特願平11-263075
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 勝司  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 常盤 務
藤村 聖子
発明の名称 動圧軸受の動圧溝の形成方法及び形成装置  
代理人 久原 健太郎  
代理人 内野 則彰  
代理人 木村 信行  

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