• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65D
管理番号 1210473
審判番号 無効2009-800146  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-07-07 
確定日 2010-01-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第4236693号発明「二重エヤゾール容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第4236693号は、平成8年8月20日に出願した特願平8-238604号を、二以上の発明を包含する特許出願とし、特許法第44条第1項の規定によるものとして、平成20年3月6日(優先権主張;平成7年8月21日)に特許出願されたものであって、平成20年12月26日に、その特許権の設定登録がされ、これに対し、請求人清崎泰之から本件無効審判が請求されたものである。
以下に、請求以後の経緯を整理して示す。

平成21年 7月 7日付け 審判請求書の提出
平成21年 9月24日付け 審判事件答弁書の提出
平成21年11月 2日付け 証拠提出書の提出(請求人より)
平成21年11月25日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人より)
同日付け 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人より)
平成21年11月25日 口頭審理の実施

2.請求人の主張

1)請求人は、審判請求書によれば、「本件特許である、特許請求の範囲請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の甲第1?4号証を証拠方法としている。

甲第1号証;実願平1-128947号(実開平3-66886号)のマイクロフィルム
甲第2号証;特開昭55-48069号公報
甲第3号証;特開平1-278929号公報
甲第4号証;特許第4236693号公報(本件出願の特許公報)

2)請求人は、審理の全趣旨によれば、以下の無効理由Aを主張しているものと認める。

A;本件特許の請求項1?6に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、これら請求項に係る発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3.被請求人の主張
被請求人は、審判事件答弁書によれば、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、そして、無効理由Aに理由はないと主張している。

4.無効理由の判断

4-1.本件特許の発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、「本件発明1?6」という。)は、本件願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件明細書等」という。)の特許請求の範囲請求項1?6に記載された事項により特定されるもので、特許請求の範囲請求項1?6は、甲第4号証によれば、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
円筒状の胴部、その胴部の上端に設けられた肩部およびその肩部上端に外側にカーリング加工されたビード部を備えた耐圧性の容器本体と、上端近辺が容器本体のビード部とアンダーカップ充填ができる程度の隙間を有する寸法とした可撓性を有する軟質合成樹脂製の内袋と、その内袋の上端近辺を容器本体のビード部との間に挟持する下向きに開いた断面コ字状ないし円弧状の被せ部およびその被せ部の内面側から下方に延びた円筒状の側壁部を有するマウンティングカップを備えたバルブとからなり、前記被せ部とビード部の間からプロペラントをアンダーカップ充填し、その後、前記側壁部を部分的に外側に突出させてバルブと容器本体とをシールする二重エヤゾール容器であって、
前記内袋が、円筒状の胴部、肩部、底部を備えており、肩部の上端に円筒状の首部を備えており、その首部の上端に外方向に張り出す円板状のフランジ部を有し、容器本体の内底面の上に載置したときに肩部上端が容器本体のビード部付近にあり、前記フランジ部が容器本体のビード部よりいくらか突出した位置にあり、縦方向に弾力的に撓むものであり、かつその首部の内周面とバルブのマウンティングカップの側壁部外周面との嵌め合い寸法が、前記マウンティングカップの側壁の外径が内袋の首部の内径よりも大きい止まり嵌合であり、気密に嵌合している二重エヤゾール容器。
【請求項2】
前記マウンティングカップの内面に合成樹脂フィルムがラミネートされている、請求項1記載の二重エヤゾール容器。
【請求項3】
前記内袋の胴部が縦向きの凹溝を備えている、請求項1記載の二重エヤゾール容器。
【請求項4】
前記内袋の肩部が円錐状を呈している、請求項1記載のエヤゾール容器。
【請求項5】
前記内袋のフランジ部の外周縁とマウンティングカップの被せ部の外壁の内周面との嵌め合い寸法が、止まり嵌合となっている、請求項1記載のエヤゾール容器。
【請求項6】
前記マウンティングカップに、内袋の上端近辺と係合するリブが形成されている、請求項1記載のエヤゾール容器。」

4-2.無効理由Aの適否
本件発明1?6は、甲第1号証、甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができた、とする根拠が見当たらず、無効理由Aに理由はない。
これに対し、請求人は、審理の全趣旨によれば、甲第2号証に記載された、第5図に関する発明、を主要な発明とした上で、本件発明1?6は、これと甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたと主張するので、検討する。

4-2-1.甲第1?3号証の記載

(1)甲第1号証(実願平1-128947号(実開平3-66886号)のマイクロフィルム)
1a;「2.実用新案登録請求の範囲
容器本体と、該容器本体内に懸吊される内筒体と、内筒体の開口部を挟んで容器本体の開口部にクリンチされるマウンティングカップとを有し、内筒体内には内容物が充填されると共に、内筒体が適度の柔軟性と伸縮性とを有する単層または多層の合成樹脂材料からなる二重エアゾール容器において、
前記内筒体の開口部外周には、圧縮ガスの注入の際にビード部に係合して内筒体を保持する複数の外リブと、クリンチの際にマウンティングカップのカップを保持する複数の内リブとを有し、前記容器本体のビード部と内筒体の内リブとの間隙から圧縮ガスが注入されることを特徴とする二重エアゾール容器。」

(2)甲第2号証(特開昭55-48069号公報)
2a;「本発明は、弁担持体として形成された蓋を有する竪い円筒形の外側容器と、弾性的な内側容器と、蓋に配置された放出弁とからなり、上端で開口する内側容器がその首部で、外側容器の縁部とこれに締めつけられた蓋の縁部の間に固定されている二室圧力缶を備え、内側容器を外側容器に挿入し、内側容器を満たし、弁を有する蓋を載置して蓋の壁と外側容器壁を内側容器の首部の中間位置の下で錠止し、内側容器と、外側容器の間の中間室にガスを圧入することよりなる。二室圧力缶を充填しかつガスを圧入する方法に関する。」(2頁左下欄1?12行)
2b;「この公知技術状態から出発して本発明は、実質的に唯一の作業過程で作動ガスを上方から充満し、同時に弁蓋を内側容器と共に外側容器の上へ押し当てて固定しなければならないことを課題としている。この課題の解決は、本発明により次のようにして行われる。すなわち、内側容器を満たした後、蓋をその首部に摩擦連結で挿入し、次いで首部と外側容器の間に環状間隙を形成させながら蓋を少し持ち上げ、内側容器と外側容器の間の中間室にこの環状間隙を通じてガスを圧入し、蓋を内側容器と共に下降させ、それから首部を蓋の縁部と外側容器の間でこれらと錠止するのである。
すなわち、内側容器を満たした後、弁蓋を内側容器と結合し、それから環状間隙を形成しながらこれを少し持ち上げるのである。実際任意に大きい横断面を有するこの環状間隙を通って作動ガスを充満させる。これは十分短時間で行うことができる。それから、まづ蓋を内側容器と共に下降させて外側容器と錠止する。内側容器の首部に押込むべき蓋の円筒状部分と内側容器自体の大きさは、締りばめが形成されるように相互に一致させてある。従って、持ち上げたときに蓋が内側容器を帯行するように保証される。」(3頁左下欄下から5行?右下欄末行)
2c;「上記の方法によれば、内側容器を空の状態で外側容器に挿入する。それから、外側容器の内方で、内側容器を後で配送される流動状または糊状の塊で満たす。その後、内側容器を弁蓋で閉鎖する。内側容器を満たすと、その重量が増して、内側容器が外側容器内を下方へ滑り落ちようとする。この下降運動は短時間で終る。充填により内側容器が幾分半径方向に広がる。内側容器が外側容器の外被の内側に押付けられる。これにより生じる圧力と摩擦力が、内側容器のそれ以上の下降運動に対抗する。アコーデオン形に形成したことにより内側容器の首部が確実な弾性を有する。これにより首部を挿入された弁蓋と共に持ち上げることができ、その後充填の際に内側容器が初めに幾分下方へ滑る。それにより内側容器と外側容器の間に環状の間隙が形成される。次いで、この環状間隙を通じて内側容器と外側容器の間の空間に圧縮空気のような作動媒体を満たす。これにより次のような運動経過を始める。すなわち、充填の際に内側容器が初めに幾分下方へ滑り、次いで環状間隙を形成するために内側容器の首部を軸方向に延ばし、ガス圧入後再び圧縮して内側容器と外側容器の縁部を弁蓋の縁部と一緒に錠止する。」(4頁右上欄下から4行?左下欄末行)
2d;「この運動経過を短縮しかつ簡単にすることが望ましい。それ故、合目的に形成するには、内側容器が少なくとも1つの脚部を有するようにする。この脚部で内側容器が外側容器の底部にしっかりとかつ変位できないように立っている。また、内側容器の重量が急速に増加する充填過程を始めるために、内側容器か下方に滑り落ちることができない。内側容器の縁部が外側容器の縁部の上に常に所定の間隔を置いて突出している。弁蓋を差込んだ後ガスの圧入のために内側容器の首部を持ち上げ、次いでそれを再び下降させることはもはや必要ではない。作業過程で弁蓋を挿入して、同時のガス圧入の際に漸次押し下げることができる。このガスの圧入は、内側容器の縁部が外側容器の縁部に当接したと同時に終る。その後、弁蓋、内側容器、外側容器の緑部を公知の仕方で相互に錠止する。
従って、本発明により提案された脚部は内側容器が滑らないように阻止すると共に、外側容器の縁部に対する内側容器の縁部の一定の間隔を保証する。これにより運動の経過が簡単になる。機械の費用が下る。内側容器をもっと高くあるいはもっと良く形成することにより同じ結果が得られると考えるかもしれない。しかしながら、これは不可能である。上方からのガス圧入ができる内側容器の形状にもかかわらず、底部が栓で閉鎖可能な開口を有する外側容器に内側容器が挿入される。内側容器がその底部でこの栓に立つほどまでに内側容器を下方へ長くしたら、損傷を避けられないだろう。」(4頁左下欄末行?5頁左上欄10行)
2e;「第1図は巻回縁部14を有する外側容器12を示し、その外側容器には内側容器16が十分に挿入されている。内側容器の周面には軸方向に走る凹所18がある。しかしながら、これは本発明には重要でない。内側容器16がその首部20で外側容器12の開口に位置しかつその首部の縁部22で外側容器の巻回縁部14の上に載っている。首部20がアコーデオン形のひだ24を有する。
第2図は、さらに、放出弁28を担持する蓋26を示す。蓋の縁部30の下には密封リング32がある。拡張工具が蓋26を担持している。この拡張工具の腕34が見える。内側容器16が既に流体または糊状の塊36で満たされている。しかしながら、両方の容器の間の中間室38がまだ圧カガスで満たされていない。
引続いて、第2図に示した方法過程では、円筒状部分を有する蓋26を内側容器の首部20に挿入する。その際、蓋と内側容器の間のしまり嵌めを強めるために拡張工具34を少し拡張することができる。
その後に、拡張工具34を蓋と内側容器と共に幾分持ち上げる。第3図に示した形となる。しかしながら、巻回縁部14と内側容器の縁部22の間に示した間陳は誇張して示してある。しかしながら、第3図は明らかに今や引延ばされたひだ24を示し、これらのひだにより首部が長く延びている。書き込んである矢印40方向に圧力ガスを中間室38に圧入する。必要な圧力に達した後、圧カガスの供給を中止する。蓋26を内側容器と共に下げる。第4図に示したように拡張工具の腕34を拡張する。蓋26の円筒状部分が半径方向に広げられる。蓋が内側容器20を巻回縁部14の下方でこれに押圧する。アコーデオン状のひだ24が押し縮められる。同時に、蓋26の外縁を半径方向内方に向って押圧することができる。」(5頁右上欄7行?右下欄3行)及び第1?4図
2f;「第5図は、既にひだ24が部分的に押し縮められた位置において脚部を有する実施態様を示す。第1図乃至第4図に示した実施態様と異なり、脚部42が内側容器16の底部の下に設けられている。この脚部は受容部44を有する。この受容部が、外側容器12の底部にあるプラグを受け入れることかできる。この実施態様では、内側容器の充填後に首部20を上昇させる運動がなくなっている。弁蓋を差込んだ後に、作動ガスを直ちに環状間隙を通じて矢印40の方向に圧入することができる。その後、蓋26をさらに下降させる。ひだ24が完全に押し縮められる。内側容器の首部の縁部22が外側容器の巻回緑部14に載ったときに、環状間隙か閉鎖されかつ蓋の縁部30が周知の仕方で締付けられて閉鎖される。」(5頁右下欄4行?下から2行)及び第5図

(3)甲第3号証(特開平1-278929号公報)
3a;「2.特許請求の範囲
容器主体(1)の上端開放部に具備させたカーリング部(c)に蓋体(2)の周縁部をカシメ止めする形式の密封容器において、容器主体(1)を、金属板の一面に合成樹脂製のラミネート層(11)を形成した素材シートを前記ラミネート層(11)が内周面となるように絞り加工及びカーリング加工によつて製作したものとして、容器主体(1)の内周面からカーリング部(c)の外周面全域に亙つて前記ラミネート層(11)を形成し、前記カーリング部(c)の内周面から外周面にかけて蓋体(2)の環状胴部(23)及びフランジ部(21)を加工変形させた状態で前記蓋体(2)をカシメ止めした密封容器の蓋取付け構造。」

4-2-2.甲第2号証に記載の発明

1)甲第2号証には、記載2aによると、二室圧力缶についての発明が記載され、これは、外側容器、内側容器、及び蓋に配設された放出弁からなるものと認められ、また、上記発明については、記載2f等を参照すると、第1図乃至第4図に示した実施態様に関する発明が記載され、更に、請求人の主張する、第5図に関する発明が、該図に示した実施態様に関する発明として記載されていると認められる。

2)そこで、まずは、第1図乃至第4図に示された実施態様に関する発明について見ていくことにする。
この発明の外側容器12は、記載2e及び、その第1?4図を特に参酌すると、胴部、該胴部の上端に設けられた肩部、及び、肩部の上端から立ち上がり部を設けて形成された、内側にカーリング加工された巻回縁部14、を備えていることが、また、内側容器16は、胴部、肩部、底部、及び、肩部の上端に、ひだ24を有する首部20を備えており、その首部20の上端に外方向に張り出す縁部22を有していることが、更に、蓋26は、放出弁28を担持するもので、縁部30と該縁部30の内面側から下方に延びた円筒状部分を有し、縁部30は、内側容器16の上端近辺を外側容器12の巻回縁部14との間に挟持する下向きに開いた断面コ字状ないし円弧状のものであることが窺える。
また、記載2e及び、その第3図を特に参酌すると、塊36を充填後の内側容器16の首部20上部に蓋26の円筒状部分を挿入し、これらをしまり嵌めさせた状態で内側容器16と蓋26を持ち上げた後、外側容器12と内側容器16の間の中間室38に、内側容器16の上端近辺と外側容器12の巻回縁部14との間隙を通じて圧力ガスを圧入することが窺え、このことは、内側容器16について見れば、これの上端近辺が、巻回縁部14との間に、中間室38に圧力ガスを圧入することができる程度の隙間を有する寸法となっていることに他ならないし、また、圧力ガスの圧入については、別の見方をすれば、縁部30と巻回縁部14の間から、圧力ガスが圧入されるといえる。そして、この圧入の後、内側容器16と蓋26を下げてから、拡張工具の腕34を拡張することにより、前記円筒状部分を部分的に外側に突出させることも窺える。
更に、記載2eの第2図を見ると、内側容器16の肩部の上端が外側容器12の巻回縁部14付近にあり、また、縁部22が外側容器12の巻回縁部14よりいくらか突出した位置にあることが見て取れる。また、記載2eからは、上述したように、内側容器16の首部20上端に蓋26の円筒状部分を挿入し、これらをしまり嵌めしていることが窺えるのであるが、このしまり嵌めは、首部20上部の内周面と蓋26の円筒状部分外周面との嵌め合い寸法が、蓋26の円筒状部分の外径が内側容器16の首部20上端の内径よりも大きい止まり嵌合であることに他ならない。
そして、以上の検討を踏まえると、甲第2号証には、以下の発明(以下、「第1?4図発明」という。)が記載されていると認められる。

「胴部、該胴部の上端に設けられた肩部、該肩部の上端から立ち上がり部を設けて形成された内側にカーリング加工された巻回縁部14、を備えた外側容器12と、上端近辺が、外側容器12の巻回縁部14との間で、中間室38に圧力ガスを圧入することができる程度の隙間を有する寸法とした内側容器16と、その内側容器16の上端近辺を外側容器12の巻回縁部14との間に挟持する下向きに開いた断面コ字状ないし円弧状の縁部30及び該縁部30の内面側から下方に延びた円筒状部分を有する、放出弁28を担持する蓋26とからなり、
塊36を充填後の内側容器16の首部20上部に蓋26の円筒状部分を挿入し、これらをしまり嵌めさせた状態で内側容器16と蓋26を持ち上げた後、縁部30と巻回縁部14の間から圧力ガスを中間室38に圧入し、その後、内側容器16と蓋26とを下げてから、拡張工具の腕34を拡張することにより、前記円筒状部分を部分的に外側に突出させる二室圧力缶であって、
前記内側容器16が、胴部、肩部、底部、及び、肩部の上端に、ひだ24を有する首部20を備えており、該首部20の上端に外方向に張り出す縁部22を有し、前記肩部の上端が外側容器12の巻回縁部14付近にあり、縁部22が外側容器12の巻回縁部14よりいくらか突出した位置にあり、かつ首部20上部の内周面と蓋26の円筒状部分外周面との嵌め合い寸法が、蓋26の円筒状部分の外径が内側容器16の首部20上部の内径よりも大きい止まり嵌合である、二室圧力缶。」

3)次に、第5図に示された実施態様に関する発明について見ていくことにする。

3-1)第5図に示された実施態様に関する発明は、記載2fによれば、第1?4図発明との対比でいえば、該発明とは、受容部44を有する脚部42が内側容器16の底部の下に設けられ、受容部44が、外側容器12の底部にあるプラグを受け入れることができるように構成されている点において相違していると認められる。
そこで、この点の技術的内容について検討すると、これは、内側容器16が外側容器12の内底面の上に載置した状態にあることを示し、更に、第5図等を参酌すれば、この載置した状態のときに、内側容器16の肩部上端が外側容器12の巻回縁部14付近にあり、縁部22が外側容器12の巻回縁部14よりいくらか突出した位置にあるものであることが見て取れる。

3-2)更に、第5図に示された実施態様に関する発明は、第1?4図発明との対比でいえば、該発明とは、内側容器への塊36の充填後に、首部20、すなわち、内側容器16を上昇させることなく、内側容器16の首部20上部に蓋26の円筒状部分を差込んだ後、圧力ガスを中間室38に圧入し、その後、蓋26を下げて首部20を縮めている点において相違していると認められる。
そこで、この点の、特に、首部20上記に円筒状部分を差込む、との技術的内容についての検討、より具体的には、これが、第1?4図発明と同様に、「首部20上部の内周面と蓋26の円筒状部分外周面との嵌め合い寸法が、蓋26の円筒状部分の外径が内側容器16の首部20上部の内径よりも大きい止まり嵌合である」ことを意味しているかについて、以下に、検討する。
記載2b、2c及び2dが第1?4図発明や第5図に示した実施態様に関する発明について記載するもので、特に、記載2dが後者発明に対し、主として説明する記載であることは、甲第2号証の記載全体から明らかである。
そして、記載2cには、第1?4図発明の「内側容器16の首部20上部に蓋26の円筒状部分を挿入し、これらをしまり嵌めさせた状態で内側容器16と蓋26を持ち上げた」との構成に対応する「首部を挿入された弁蓋と共に持ち上げることができ、」(4頁左下欄9?10行)との記載があり、そして、記載2bの「蓋をその首部に摩擦連結で挿入し、次いで首部と外側容器の間に環状間隙を形成させながら蓋を少し持ち上げ、」(3頁右下欄2?4行)や「内側容器の首部に押込むべき蓋の円筒状部分と内側容器自体の大きさは、締りばめが形成されるように相互に一致させてある。従って、持ち上げたときに蓋が内側容器を帯行するように保証される。」(3頁右下欄下から6行?下から1行)の記載を参照すれば、第1?4図発明の構成である、上述した「首部20上部の内周面と蓋26の円筒状部分外周面との嵌め合い寸法が、蓋26の円筒状部分の外径が内側容器16の首部20上部の内径よりも大きい止まり嵌合である」の技術的意義の1つとして、蓋26を持ち上げる際に、首部20、すなわち、内側容器16が共に、しかも確実に持ち上げることができるとの意義が認められる。
そこで、あらためて、第5図に示された実施態様に関する発明について見ると、該発明は、上述したように、内側容器16を上昇させることなく、首部20上部に円筒状部分を差込むのであって、蓋26と共に首部20を上昇させるために、首部20上部と円筒状部分とをきつく嵌合するように差込む必要はないのであって、第1?4図発明にあるように、「首部20上部の内周面と蓋26の円筒状部分外周面との嵌め合い寸法が、蓋26の円筒状部分の外径が内側容器16の首部20上部の内径よりも大きい止まり嵌合である」との構成を採る必要はないものである。また、甲第2号証には、第5図に示された実施態様に関する発明において、前記構成を採っているとの記載も見当たらないのである。

3-3)以上の検討を踏まえると、甲第2号証には、第5図に関する発明として、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「胴部、該胴部の上端に設けられた肩部、該肩部の上端から立ち上がり部を設けて形成された内側にカーリング加工された巻回縁部14、を備えた外側容器12と、上端近辺が、外側容器12の巻回縁部14との間で、中間室38に圧力ガスを圧入することができる程度の隙間を有する寸法とした内側容器16と、その内側容器16の上端近辺を外側容器12の巻回縁部14との間に挟持する下向きに開いた断面コ字状ないし円弧状の縁部30及び該縁部30の内面側から下方に延びた円筒状部分を有する、放出弁28を担持する蓋26とからなり、
塊36を充填後の内側容器16を上昇させることなく、内側容器16の首部20上部に蓋26の円筒状部分を差込んだ後、縁部30と巻回縁部14の間から圧力ガスを中間室38に圧入し、その後、蓋26を下げて首部20を縮めてから、拡張工具の腕34を拡張することにより、前記円筒状部分を部分的に外側に突出させる二室圧力缶であって、
前記内側容器16が、胴部、肩部、底部、及び、肩部の上端に、ひだ24を有する首部20を備えており、該首部20の上端に外方向に張り出す縁部22を有し、外側容器12の内底面の上に載置したときに肩部の上端が外側容器12の巻回縁部14付近にあり、縁部22が外側容器12の巻回縁部14よりいくらか突出した位置にある、二室圧力缶。」

4-2-3.本件発明と引用発明との対比判断

(1)本件発明1について

1)引用発明の「外側容器12」、「内側容器16」、「放出弁28を担持する蓋26」、「内側容器16の首部20上部」及び「蓋26の円筒状部分」は、本件発明1の「容器本体」、「内袋」、「マウンティングカップ」、「内袋の首部」及び「マウンティングカップの側壁部」に対応し、本件発明1と引用発明とは、少なくとも、以下の相違点aで相違していると認められる。

相違点a;本件発明1は、内袋に関し、その首部の内周面とバルブのマウンティングカップの側壁部外周面との嵌め合い寸法が、前記マウンティングカップの側壁の外径が内袋の首部の内径よりも大きい止まり嵌合である点。

2)そこで、この相違点aが容易に想到し得るかについて検討する。
引用発明は、先に「4-2-2」の「3-2)」で述べたように、「首部20上部の内周面と蓋26の円筒状部分外周面との嵌め合い寸法が、蓋26の円筒状部分の外径が内側容器16の首部20上部の内径よりも大きい止まり嵌合である」との構成、すなわち、相違点aを採る必要はないものである。
また、引用発明は、内側容器16の首部20上部に蓋26の円筒状部分を差込んだ後、縁部30と巻回縁部14の間から圧力ガスを中間室38に圧入するのであるが、円筒状部分の外径が首部20上部の内径よりも大きいと、この差込みが円滑に行われず、例えば、上昇状態にある首部20上部を保持しておく等、特別な対応を採れば、差込みが円滑に行い得ることも考えられないではないが、いずれにしても、上記構成、すなわち、相違点aを採る必要はないものである。
また、甲第1号証には、記載1aによれば、二重エアゾール容器の発明が、また、甲第3号証には、記載3aによれば、密封容器の蓋取付け構造の発明が、それぞれ、記載されているものの、これら甲号証の記載から、相違点aが容易に想到し得るとする根拠を見出すことはできない。
してみると、本件発明1は、引用発明と甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明とに基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたということはできない。

(2)本件発明2?6について
本件発明2?6は、いずれも、本件発明1の、いわゆる、発明特定事項の全てを有するものである。
そして、本件発明1は、先に「(1)」で述べたように、引用発明と甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明とに基いて当業者がその出願前に容易に発明をすることができたということはできないのであるから、やはり、本件発明2?6も容易に発明をすることができたということはできない。

4-2-4.まとめ
請求人の、甲第2号証に記載された、第5図に関する発明、を主要な発明とした上で、本件発明1?6は、これと甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明とに基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたとの主張は採用できないものである。
なお、本件発明1が第1?4図発明と甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明とに基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができるかについて、以下に、簡単に触れておく。

1)本件発明1は、先に「4-1」で認定したとおりであって、「内袋が、円筒状の胴部、肩部、底部を備えており、肩部の上端に円筒状の首部を備えており、その首部の上端に外方向に張り出す円板状のフランジ部を有し、容器本体の内底面の上に載置したときに肩部上端が容器本体のビード部付近にあり、前記フランジ部が容器本体のビード部よりいくらか突出した位置にあり、」と記載した事項を発明特定事項とするものであって、該事項について見てみると、少なくとも、本件発明1は、内袋が容器本体の内底面の上に載置したとの構成を採り得ることを発明特定事項としているものと認められる。

2)次に、第1?4図発明をみると、これは、先に「4-2-2」の「2)」で認定したとおりであって、「内側容器16が、胴部、肩部、底部、及び、肩部の上端に、ひだ24を有する首部20を備えており、該首部20の上端に外方向に張り出す縁部22を有し、前記肩部の上端が外側容器12の巻回縁部14付近にあり、縁部22が外側容器12の巻回縁部14よりいくらか突出した位置にあり、」との構成を有するものであるが、第1?4図発明について説明する記載であることが明らかな記載2cには、「それから、外側容器の内方で、内側容器を後で配送される流動状または糊状の塊で満たす。その後、内側容器を弁蓋で閉鎖する。内側容器を満たすと、その重量が増して、内側容器が外側容器内を下方へ滑り落ちようとする。この下降運動は短時間で終る。充填により内側容器が幾分半径方向に広がる。内側容器が外側容器の外被の内側に押付けられる。これにより生じる圧力と摩擦力が、内側容器のそれ以上の下降運動に対抗する。」(4頁右上欄下から3行?左下欄7行)との記載があり、この記載によれば、内側容器が外側容器の内底面の上に載置したとの構成を採り得るものではないことが示され、記載2dの「本発明により提案された脚部は内側容器が滑らないように阻止すると共に、外側容器の縁部に対する内側容器の縁部の一定の間隔を保証する。これにより運動の経過が簡単になる。機械の費用が下る。内側容器をもっと高くあるいはもっと良く形成することにより同じ結果が得られると考えるかもしれない。しかしながら、これは不可能である。上方からのガス圧入ができる内側容器の形状にもかかわらず、底部が栓で閉鎖可能な開口を有する外側容器に内側容器が挿入される。内側容器がその底部でこの栓に立つほどまでに内側容器を下方へ長くしたら、損傷を避けられないだろう。」(4頁右下欄下から3行?5頁左上欄10行)との記載を参照すれば、内袋が容器本体の内底面の上に載置したとの構成を採り得ないことによる技術的意義も記載されている。

3)してみると、本件発明1は、第1?4図発明と対比すると、少なくとも、内袋が、容器本体の内底面の上に載置したときに肩部上端が容器本体のビード部付近にあり、フランジ部が容器本体のビード部よりいくらか突出した位置にある点で相違していると認められ、そして、この相違点が容易に想到し得ないことは、上記技術的意義からして明らかであるし、また、内袋が容器本体の内底面の上に載置したとの構成を採る具体例としては、引用発明が甲第2号証に記載されているが、該引用発明からは、先に「4-2-3」で述べたように、相違点aが容易に想到し得るとはいえないのであって、いずれにしても、第1?4図発明との上記相違点が容易に想到し得ないことに変わりはない。また、甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明を見ても、同様である。

4)よって、本件発明1が第1?4図発明と甲第1号証又は甲第3号証に記載された発明とに基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたということもできない。

4-3.むすび
無効理由Aには、理由はなく、また、他に、本件特許を無効とする理由は見当たらない。

5.結語
本件特許は、無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2009-12-04 
出願番号 特願2008-56864(P2008-56864)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 市野 要助山口 直阿部 利英  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 熊倉 強
鳥居 稔
登録日 2008-12-26 
登録番号 特許第4236693号(P4236693)
発明の名称 二重エヤゾール容器  
代理人 明石 憲一郎  
代理人 明石 昌毅  
代理人 鎌田 雅元  
代理人 秋山 重夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ