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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C03B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C03B
管理番号 1210521
審判番号 不服2007-1925  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-18 
確定日 2010-01-20 
事件の表示 平成 8年特許願第277257号「ガラス板の加工装置」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 4月21日出願公開,特開平10-101355〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は,平成8年9月30日の出願であって,平成18年8月16日付けで拒絶理由通知書の起案がなされ,同年10月20日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され,同年12月11日付けで拒絶査定の起案がなされ,平成19年1月18日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同年2月16日に明細書の記載に係る手続補正書が提出され,平成21年1月19日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋の起案がなされ,同年3月26日に回答書が提出されたものである。

II.平成19年2月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

II-1.補正却下の決定の結論
平成19年2月16日付けの手続補正を却下する。

II-2.理由
1.平成19年2月16日付けの手続補正について
平成19年2月16日付けの手続補正(以下「本件手続補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の記載である,
「【請求項1】 加工されるべきガラス板を支持する支持手段と,この支持手段上の水平面内で旋回自在なアーム手段と,このアーム手段を水平面内で旋回させる旋回手段と,アーム手段に,当該アーム手段の伸びる方向に摺動自在に装着された可動台と,この可動台をアーム手段の伸びる方向に沿って直動させる直動手段と,支持手段に支持されたガラス板に所定の切り線を形成すべく,可動台に搭載されたカッタヘッドとを具備しており,直動手段は,可動台に取り付けられた可動子と,アーム手段に取り付けられた固定子とを有した電動リニアモータを具備しているガラス板の切断装置。」を,
補正後の特許請求の範囲の記載である
「【請求項1】 加工されるべきガラス板を支持する支持手段と,この支持手段上の水平面内で旋回自在なアーム手段と,このアーム手段を水平面内で旋回させる旋回手段と,アーム手段に,当該アーム手段の伸びる方向に摺動自在に装着された可動台と,この可動台をアーム手段の伸びる方向に沿って直動させる直動手段と,支持手段に支持されたガラス板に所定の切り線を形成すべく,可動台に搭載されたカッタヘッドとを具備しており,直動手段は,可動台に取り付けられた可動子と,アーム手段に取り付けられた固定子とを有した電動リニアモータを具備しており,カッタヘッドは,切り線形成用のカッタホイールと,このカッタホイールの刃先を切り線形成方向に強制的に向ける刃先配向手段とを具備しており,刃先配向手段は,電動モータを具備しており,この電動モータの作動によりカッタホイールの刃先を切り線形成方向に向けるようになっているガラス板の切断装置。」と補正する補正事項を有するものである。
そして,上記補正事項は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項(以下「特定事項」という。)とされていた「カッタヘッド」について,「カッタヘッドは,切り線形成用のカッタホイールと,このカッタホイールの刃先を切り線形成方向に強制的に向ける刃先配向手段とを具備しており,刃先配向手段は,電動モータを具備しており,この電動モータの作動によりカッタホイールの刃先を切り線形成方向に向けるようになっている」との限定を付加するものであって,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件手続補正後の特許請求の範囲に記載された請求項1の発明(以下「補正後発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて,以下検討する。

2.独立特許要件について
(1)補正後発明
補正後発明は,本件手続補正により補正された明細書および図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次の事項を特定事項とするものである。
「加工されるべきガラス板を支持する支持手段と,この支持手段上の水平面内で旋回自在なアーム手段と,このアーム手段を水平面内で旋回させる旋回手段と,アーム手段に,当該アーム手段の伸びる方向に摺動自在に装着された可動台と,この可動台をアーム手段の伸びる方向に沿って直動させる直動手段と,支持手段に支持されたガラス板に所定の切り線を形成すべく,可動台に搭載されたカッタヘッドとを具備しており,直動手段は,可動台に取り付けられた可動子と,アーム手段に取り付けられた固定子とを有した電動リニアモータを具備しており,カッタヘッドは,切り線形成用のカッタホイールと,このカッタホイールの刃先を切り線形成方向に強制的に向ける刃先配向手段とを具備しており,刃先配向手段は,電動モータを具備しており,この電動モータの作動によりカッタホイールの刃先を切り線形成方向に向けるようになっているガラス板の切断装置。」

(2)本出願前に頒布された刊行物の記載
(2-1)刊行物1(特開平4-74730号公報,拒絶理由通知書の引用文献2):
(ア)「ガラス板が載置されるテーブルと,各々がこのテーブルに載置されたガラス板に対して切りすじを付け,この切りすじを付けられたガラス板の部位の近傍を押圧して切りすじを付けられたガラス板の部位を押し割る複数の折割機構と,折割機構の夫々を,テーブルに載置されたガラス板の面に沿って直線移動させるべく,折割機構の夫々に連結された複数の移動装置と,移動装置の夫々を,ガラス板の面に直交する中心線を中心として旋回させるべく,移動装置の夫々に連結された旋回装置と,各折割機構の折割操作,各移動装置の移動動作及び旋回装置の旋回動作を制御する制御装置とからなり,・・・ガラス板の折割装置」(特許請求の範囲(1))
(イ)「各折割機構は,テーブルに載置されたガラス板に対して切りすじを付けるカッタ装置と,このカッタ装置により切りすじを付けられたガラス板の部位の近傍を押圧して切りすじを付けられたガラス板の部位を押し割るプレス装置とからなる請求項1記載のガラス板の折割装置」(特許請求の範囲(2))
(ウ)「折割されるべきガラス板1が載置されるテーブル2は,普通は,折割カレットを排出するためベルトコンベアから構成されている。」(第2頁左下欄第18行?同右下欄第1行)
(エ)「テーブル2の上方に設けられた支持枠7には,サーボモータなどからなる旋回装置8が取り付けられており,旋回装置8の出力回転軸には,連結部材9を介して第一の移動装置10の支持アーム11と,第二の移動装置12の支持アーム13とが連結されており,第一の移動装置10と第二の移動装置12とは,ほぼ同様に構成されている。」(第2頁右下欄第7?13行)
(オ)「移動装置10において,支持アーム11の一端には,サーボモータ14が取り付けられており,モータ14の出力軸15は,ねじ軸16の一端に連結されており,ねじ軸16は,支持アーム11に固定された軸受17及び18により両端で回転自在に支持されている。支持アーム11に固定された一対のレール19には,スライド20が支持アーム11の伸びる方向,即ちガラス板1の面に沿う方向であるR方向に滑動自在に嵌合しており,またスライド20には,ねじ軸16が螺合しており,これにより,モータ14の出力軸15が回転されてねじ軸16が同じく回転されると,スライド20はR方向に直線移動される。」(第2頁右下欄第14行?第3頁左上欄第6行)
(カ)「スライド20には,第一の折割機構を構成する端切カッタ装置21及びプレス装置22が取り付けられており,端切カッタ装置21は,一端でスライド20に固定されたエアシリンダ23とエアシリンダ23のピストンロッドの先端に取り付けられたカッタホイールブロック24とからなり,カッタホイールブロック24には,カッタホイール25が設けられている。」(第3頁左上欄第7?14行)
(キ)「ベルト4上にガラス板1が載置されると,制御装置により,旋回装置8並びにモータ14及び28が動作され,これにより支持アーム11及び13が中心線41を中心としてH方向に旋回されると共に,スライド20及び33がR方向に移動される結果,カッタホイイール25及び37の先端が折割予定線51に沿って次々に位置決めされる。このカッタホイール25及び37の連続的な位置決めにおいて,所要箇所でエアシリンダ23及び36が作動されてカッタホイールブロック24及び38が下降され,カッタホイール25及び37の先端がガラス板1の素板に当接されてガラス板1の素板の折割予定線51に切りすじが形成される。」(第4頁左上欄第1?14行)

(2-2)刊行物2(特開平7-136985号公報,拒絶理由通知書の引用文献3):
(ア)「カッタヘッドを支持するブリッジフレームを両側でY方向に移動自在に支持し,・・・ブリッジフレームにカッタヘッドをX方向に移動自在に支持し,ブリッジフレームとカッタヘッドとの間に,カッタヘッドをX軸方向に直動させるX方向直動手段を設け,このX方向直動手段をリニアモータで構成してなる・・・板状体の切断装置。」(請求項1)
(イ)「【従来の技術】例えば従来のガラス板の切断装置,換言すればガラス板に折割り線(切線)を形成する装置においては,カッタヘッドが搭載された移動台にナットを介してねじ軸を連結し,このねじ軸を電動モータの出力回転軸にプーリ,ベルト等を介して連結し,電動モータの出力軸の回転によりねじ軸を回転させて移動台を例えばX方向に移動させ,ガラス板が載置されたベッドにナットを介してねじ軸を連結し,このねじ軸を電動モータの出力回転軸にプーリ,ベルト等を介して連結し,電動モータの出力軸の回転によりねじ軸を回転させてベッドを例えばY軸方向に移動させ,しかしてカッタヘッドのカッタホイールをガラス板に対して切断すべき形状,すなわち形成すべき折割り線に沿って相対的に移動させている。ところで上記のような従来のガラス板の切断装置では,比較的長尺のねじ軸を回転させているため,危険速度域でねじ軸に容易に大きな撓み振動が発生し,したがってねじ軸を高速回転させ移動台及びベッドを高速に移動させて作業能率を向上させるようにすることが困難である。・・・
【0003】そこで本出願人は先に特願平5-235755号において,カッタヘッドを支持するブリッジフレームを両側でY方向に移動自在に支持し,このブリッジフレームの両側と基台との間にそれぞれ,ブリッジフレームをY方向に直動させるY方向直動手段を設け,各Y方向直動手段をリニアモータで構成し,両リニアモータを同期して作動させるようにしてなり,ブリッジフレームにカッタヘッドをX方向に移動自在に支持し,ブリッジフレームとカッタヘッドとの間に,カッタヘッドをX軸方向に直動させるX方向直動手段を設け,このX方向直動手段をリニアモータで構成してなる板状体の切断装置を一例として提案した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この提案した板状体の切断装置によれば,上述の問題点は効果的に解決し得るのであるが」(段落【0002】第1行?段落【0004】第3行)
(ウ)「ブラケット21はベースプレート61に取り付けられており,ベースプレート61には,ボルト62を介してスライダ63が取り付けられている。スライダ63はブリッジフレーム3の側面に取り付けられたレール64にX方向に摺動自在に嵌合されており,こうしてカッタヘッド2は,ブリッジフレーム3にX方向に移動自在に支持されている。リニアモータ12はリニアモータ9及び10と同様に形成されており,レール64の中央部にX方向に沿って配された固定子と,固定子に対して一定の隙間をもってスライダ63に設けられた可動子とを具備し,リニアモータ9及び10と同様に動作する。」(段落【0015】)
(エ)「なお,ガラス板の切断装置1では,長尺のボールねじを回転させることなしに,ブリッジフレーム3及びカッタヘッド2をY方向及びX方向に移動させ,しかして切線Cを付すべきガラス板25の部位にカッタヘッド2を移動させているため,長尺のボールねじの高速回転による撓み振動が生ることがなく,高速にカッタヘッド2の移動を行うことができる。」(段落【0020】)

(2-3)刊行物3(特開平7-223830号公報,審尋で提示した引用文献5)
(ア)「カッタホイールを転がり軸受を介して先金部に回転自在に支持したカッタ装置。」(請求項1)
(イ)「本発明は,ガラス板切断用又はガラス板折割用のカッタ装置に関する。」(段落【0001】)
(ウ)「軸回転装置6は,軸5と同心に配された電動モータ51を具備しており,・・・電動モータ51の作動で回転子53が回転されることにより軸5も回転され,而してカッタホイール7は切線を形成すべき方向に向けられる。」(段落【0014】)

(3)対比・判断
刊行物1には,記載事項(ア)及び(イ)から,「ガラス板が載置されるテーブルと,各々がこのテーブルに載置されたガラス板に対して切りすじを付け,この切りすじを付けられたガラス板の部位の近傍を押圧して切りすじを付けられたガラス板の部位を押し割る複数の折割機構と,折割機構の夫々を,テーブルに載置されたガラス板の面に沿って直線移動させるべく,折割機構の夫々に連結された複数の移動装置と,移動装置の夫々を,ガラス板の面に直交する中心線を中心として旋回させるべく,移動装置の夫々に連結された旋回装置と,各折割機構の折割操作,各移動装置の移動動作及び旋回装置の旋回動作を制御する制御装置とからなり,各折割機構は,テーブルに載置されたガラス板に対して切りすじを付けるカッタ装置と,このカッタ装置により切りすじを付けられたガラス板の部位の近傍を押圧して切りすじを付けられたガラス板の部位を押し割るプレス装置とからなるガラス板の折割装置」が記載されているといえる。
そして,上記「ガラス板」は,記載事項(ウ)から「折割されるべきガラス板」であるといえ,また,上記「移動装置」及び「旋回装置」について,記載事項(エ)から,テーブルの上方に設けられた支持枠に「旋回装置」が取り付けられており,旋回装置には移動装置の「支持アーム」が連結されていることが記載されており,記載事項(オ)から,「支持アーム」に固定された一対のレールには,「スライド」が支持アームの伸びる方向,即ちガラス板の面に沿う方向であるR方向に滑動自在に嵌合していることが記載されており,記載事項(カ)から,スライドには,折割機構を構成する「端切カッタ装置」(記載事項(イ)における上記「カッタ装置」に相当するもの。)及びプレス装置が取り付けられており,端切カッタ装置は,一端でスライドに固定されたエアシリンダとエアシリンダのピストンロッドの先端に取り付けられた「カッタホイールブロック」とからなり,カッタホイールブロックには,「カッタホイール」が設けられていることが記載されている。更に,記載事項(オ)から,支持アームの一端には,「サーボモータ」が取り付けられており,モータの出力軸は,「ねじ軸」の一端に連結されており,ねじ軸は,支持アームに固定された軸受により両端で回転自在に支持されていること,及び,スライドにはねじ軸が螺合しており,これにより,モータの出力軸が回転されてねじ軸が同じく回転されると,スライドはR方向に直線移動されることが記載されていることから,移動装置にはスライドを支持アームの伸びる方向に直線移動させるねじ軸及びその一端に連結されたサーボモータが取り付けられていることが記載されているといえる。
また,支持アームの動作について,記載事項(キ)から,前記「支持アーム」は「中心線41を中心としてH方向に旋回される」ことが記載されており,当該H方向とは,記載事項(オ)において,旋回装置に連結された支持アームに関し「支持アーム11の伸びる方向,即ちガラス板1の面に沿う方向」と説明されていることからみて,支持アームはガラス板の面に沿って旋回装置に連結されているのであるから,テーブル上の水平面内の方向であることは明らかである。更に,記載事項(キ)から,旋回装置が動作されることにより,支持アームがテーブル上の水平面内で旋回されることが記載されているといえ,また,カッタホイールは先端がガラスに当接されて切りすじを形成するものであるといえる。
してみると,刊行物1には,「折割されるべきガラス板が載置されるテーブルと,このガラス板に対して切りすじを付けるカッタ装置を有する折割機構と,折割機構をテーブルに載置されたガラス板の面に沿って直線移動させるべく折割機構に連結された移動装置と,移動装置をガラス板の面に直交する中心線を中心として旋回させるべく移動装置に連結された旋回装置とを有するガラス板の折割装置であって,前記折割機構は,先端がガラスに当接されて切りすじを形成するカッタホイールが設けられたカッタホイールブロックを有するカッタ装置がスライドに取り付けられたものであり,前記移動装置は,支持アームに固定された一対のレールにスライドが支持アームの伸びる方向に滑動自在に嵌合しており,スライドを支持アームの伸びる方向に直線移動させるねじ軸及びその一端に連結されたサーボモータが取り付けられたものであり,前記旋回装置は,旋回装置が動作されることにより支持アームがテーブル上の水平面内で旋回されるようにされたものである,ガラス板の折割装置」の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。
そこで,補正後発明と刊行物1発明とを比較すると,
後者の「折割されるべきガラス板」は前者の「加工されるべきガラス板」に相当し,後者の「載置」,「テーブル」は前者の「支持」,「支持手段」に相当する。そして,後者の「支持アーム」は前記支持手段に相当するテーブル上の水平面内で旋回されるようにされたものであるから,前者の「支持手段上の水平面内で旋回自在なアーム手段」に相当し,後者の「旋回装置が動作されることにより支持アームがテーブル上の水平面内で旋回されるようにされた」「旋回装置」は前者の「アーム手段を水平面内で旋回させる旋回手段」に相当する。更に,後者の「支持アームに固定された一対のレールにスライドが支持アームの伸びる方向に滑動自在に嵌合して」いる「スライド」は前者の「アーム手段に,当該アーム手段の伸びる方向に摺動自在に装着された可動台」に相当し,後者の「スライドを支持アームの伸びる方向に直線移動させる」手段は前者の「可動台をアーム手段の伸びる方向に沿って直動させる直動手段」に相当する。そして,後者の折割機構における「このガラス板に対して切りすじを付けるカッタ装置」はスライドに取り付けられたものであるから,前者の「支持手段に支持されたガラス板に所定の切り線を形成すべく,可動台に搭載されたカッタヘッド」に相当し,後者の「ガラスに当接されて切りすじを形成するカッタホイール」は前者の「切り線形成用のカッタホイール」に相当し,後者の「ガラス板の折割装置」は前者の「ガラス板の切断装置」に相当するということができる。
したがって,補正後発明と刊行物1発明とは,「加工されるべきガラス板を支持する支持手段と,この支持手段上の水平面内で旋回自在なアーム手段と,このアーム手段を水平面内で旋回させる旋回手段と,アーム手段に,当該アーム手段の伸びる方向に摺動自在に装着された可動台と,この可動台をアーム手段の伸びる方向に沿って直動させる直動手段と,支持手段に支持されたガラス板に所定の切り線を形成すべく,可動台に搭載されたカッタヘッドとを具備しており,カッタヘッドは,切り線形成用のカッタホイールを具備しているガラス板の切断装置」である点で一致し,
次の(A),(B)の点で相違する。
(A)補正後発明では「直動手段は,可動台に取り付けられた可動子と,アーム手段に取り付けられた固定子とを有した電動リニアモータを具備し」ているのに対し,刊行物1発明では,補正後発明の直動手段に相当する,スライドを支持アームの伸びる方向に直線移動させる手段として,「ねじ軸及びその一端に連結されたサーボモータ」を用いている点
(B)補正後発明では,カッタヘッドは,「カッタホイールの刃先を切り線形成方向に強制的に向ける刃先配向手段を具備しており,刃先配向手段は,電動モータを具備しており,この電動モータの作動によりカッタホイールの刃先を切り線形成方向に向けるようになっている」のに対し,刊行物1発明では,カッタホイールの刃先を配向させる手段について特定されていない点

そこで,前記相違点について,以下,検討する。
相違点(A)について:
刊行物2には,記載事項(ア)から,「ブリッジフレームにカッタヘッドをX方向に移動自在に支持し,ブリッジフレームとカッタヘッドとの間に,カッタヘッドをX軸方向に直動させるX方向直動手段を設け,このX方向直動手段をリニアモータで構成してなる板状体の切断装置」の発明が記載されており,更に,記載事項(ウ)から,「カッタヘッド」は「スライダ」を介してブリッジフレームにX方向に移動自在に支持されており,「リニアモータ」はスライダに設けられた「可動子」と,ブリッジフレームの側面に取り付けられたレールの中央部にX方向に沿って配された「固定子」とを具備していることが記載されている。刊行物2に記載された「カッタヘッド」,「スライダ」及び「リニアモータ」は補正後発明の「カッタヘッド」,「可動台」及び「電動リニアモータ」に相当するものであるから,刊行物2には,直動手段として「可動台に取り付けられた可動子と,ブリッジフレームに取り付けられた固定子とを有した電動リニアモータ」を具備する板状体の切断装置の発明が記載されているといえる。また,刊行物2に記載された上記「板状体の切断装置」は,記載事項(イ)から「ガラス板に折割り線(切線)を形成する装置」に関するものであって,補正後発明と刊行物1発明とは技術分野を同じくする発明であることは明らかであり,更に,刊行物2には,記載事項(イ),(エ)から,直動手段をリニアモータで構成してなる板状体の切断装置によれば,補正後発明と共通の,従来のねじ軸を電動モータの出力回転軸に連結した装置による撓み振動の問題を解決し得るものであることも記載されている。
してみると,刊行物1発明における,アーム手段に装着された可動台の直動手段として,「ねじ軸及びその一端に連結されたサーボモータ」に替えて,刊行物2に記載された前記直動手段を適用することは,当業者が容易に想到し得ることである。そして,その際に,刊行物2に記載された可動子を刊行物1発明における可動台に取り付け,刊行物2に記載された発明においてブリッジフレームに取り付けられる固定子を刊行物1発明におけるアーム手段に取り付けることは,当業者にとって自明のことである。

相違点(B)について:
刊行物3には,記載事項(ア)?(ウ)から,「カッタホイール7は,強制的に切線を形成すべき方向に向けられる」「ガラス板切断用又はガラス板折割用のカッタ装置」の発明が記載されており,「軸回転装置6は,軸5と同心に配された電動モータ51を具備しており」この「電動モータ51の作動で回転子53が回転されることにより軸5も回転され,而してカッタホイール7は,強制的に切線を形成すべき方向に向けられる」ことが記載されている。したがって,刊行物3には,カッタホイールを強制的に切線を形成すべき方向に向ける軸回転装置を具備しており,軸回転装置は,電動モータを具備しており,この電動モータの作動によりカッタホイールを切線を形成すべき方向に向けるようになっているガラス板切断用又はガラス板折割用のカッタ装置の発明が記載されているといえる。この刊行物3に記載された発明に照らせば,相違点(B)に係る補正後発明の構成は刊行物3に開示されているといえる。
してみると,刊行物1発明と刊行物3に記載された発明とは,ガラス板の切断を行う装置に関する同一の技術分野に属する発明であることを勘案すれば,刊行物1発明におけるカッタホイールに前記刊行物3に記載された発明を適用して,相違点(B)に係る補正後発明の構成を導出することは,当業者が容易に想到し得ることである。

補正後発明の効果について:
本願明細書には,段落【0035】に,「以上のようにガラス板の加工装置1では,アーム本体31及び33のθ方向の旋回と,可動台7及び8のR方向の直動とにより,可動台7及び8を水平面内の任意の位置に移動させるようにしているため,同期の問題が生じなく,また,電動リニアモータ57及び60により可動台7及び8を移動させているため,ねじ軸を用いた場合に生じる撓み振動の虞がなく,高速にかつ正確にガラス板2に切り線を形成し得る。」と記載されている。したがって,上記相違点(A)に係る補正後発明の特定事項による効果は,ねじ軸を用いた場合に生じる撓み振動の虞がなく,高速にかつ正確にガラス板2に切り線を形成し得る点にあると認められるが,当該効果は,刊行物2の記載事項(イ)及び(オ)に記載されている効果と同様のものであるから,当該特定事項による効果は当業者が予測し得るものである。そして,上記段落【0035】に記載された「アーム本体31及び33のθ方向の旋回と,可動台7及び8のR方向の直動とにより,可動台7及び8を水平面内の任意の位置に移動させるようにしているため,同期の問題が生じな」いという効果については,刊行物1発明においても補正後発明と同じく支持アームを旋回させる装置を採用していることから,刊行物1発明において自ずと奏される効果である。
また,上記相違点(B)については,補正後発明及び刊行物3に記載された発明のいずれも同じくモータの作動によってカッタホイールを切り線形成方向に向けることを特徴とするものであるところ,本願明細書にはその作用・効果について特段の説明が記載されていないから,相違点(B)に係る補正後発明の特定事項による効果は刊行物3の記載及び当該技術分野における技術常識から当業者が予測し得る範囲にとどまるものと認められる。
してみると,補正後発明が格別の効果を有するとすることはできない。

(4)むすび
以上のとおりであるから,補正後発明は,本願出願前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により出願の際に独立して特許を受けることができないものであり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
平成19年2月16日付けの明細書の記載に係る手続補正は,上記のとおり,補正却下の決定がなされた。
したがって,本願の特許請求の範囲に記載された発明は,平成18年10月20日付けで補正された明細書および図面の記載からみて,その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり,その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は,次の事項により特定されるものである。
「【請求項1】加工されるべきガラス板を支持する支持手段と,この支持手段上の水平面内で旋回自在なアーム手段と,このアーム手段を水平面内で旋回させる旋回手段と,アーム手段に,当該アーム手段の伸びる方向に摺動自在に装着された可動台と,この可動台をアーム手段の伸びる方向に沿って直動させる直動手段と,支持手段に支持されたガラス板に所定の切り線を形成すべく,可動台に搭載されたカッタヘッドとを具備しており,直動手段は,可動台に取り付けられた可動子と,アーム手段に取り付けられた固定子とを有した電動リニアモータを具備しているガラス板の切断装置」

IV.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は,平成18年8月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由2すなわち,請求項1に対して引用文献1?3を引用した特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

V.引用文献2,3の記載
引用文献2,3は,上記2.の(2)において,それぞれ,刊行物1,2として提示した文献であり,その記載事項は上記(2-1)及び(2-2)に記載したとおりである。

VI.対比・判断
刊行物1には,上記(3)に記載したとおり
「折割されるべきガラス板が載置されるテーブルと,このガラス板に対して切りすじを付けるカッタ装置を有する折割機構と,折割機構をテーブルに載置されたガラス板の面に沿って直線移動させるべく折割機構に連結された移動装置と,移動装置をガラス板の面に直交する中心線を中心として旋回させるべく移動装置に連結された旋回装置とを有するガラス板の折割装置であって,前記折割機構は,先端がガラスに当接されて切りすじを形成するカッタホイールが設けられたカッタホイールブロックを有するカッタ装置がスライドに取り付けられたものであり,前記移動装置は,支持アームに固定された一対のレールにスライドが支持アームの伸びる方向に滑動自在に嵌合しており,スライドを支持アームの伸びる方向に直線移動させるねじ軸及びその一端に連結されたサーボモータが取り付けられたものであり,前記旋回装置は,旋回装置が動作されることにより支持アームがテーブル上の水平面内で旋回されるようにされたものである,ガラス板の折割装置」の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているといえる。
そこで,本願発明と刊行物1発明とを比較すると,
後者の「折割されるべきガラス板」は前者の「加工されるべきガラス板」に相当し,後者の「載置」,「テーブル」は前者の「支持」,「支持手段」に相当する。そして,後者の「支持アーム」は前記支持手段に相当するテーブル上の水平面内で旋回されるようにされたものであるから,前者の「支持手段上の水平面内で旋回自在なアーム手段」に相当し,後者の「旋回装置が動作されることにより支持アームがテーブル上の水平面内で旋回されるようにされた」「旋回装置」は前者の「アーム手段を水平面内で旋回させる旋回手段」に相当する。更に,後者の「支持アームに固定された一対のレールにスライドが支持アームの伸びる方向に滑動自在に嵌合して」いる「スライド」は前者の「アーム手段に,当該アーム手段の伸びる方向に摺動自在に装着された可動台」に相当し,後者の「スライドを支持アームの伸びる方向に直線移動させる」手段は前者の「可動台をアーム手段の伸びる方向に沿って直動させる直動手段」に相当する。そして,後者の折割機構における「このガラス板に対して切りすじを付けるカッタ装置」はスライドに取り付けられたものであるから,前者の「支持手段に支持されたガラス板に所定の切り線を形成すべく,可動台に搭載されたカッタヘッド」に相当し,後者の「ガラス板の折割装置」は前者の「ガラス板の切断装置」に相当するということができる。
したがって,本願発明と刊行物1発明とは,「加工されるべきガラス板を支持する支持手段と,この支持手段上の水平面内で旋回自在なアーム手段と,このアーム手段を水平面内で旋回させる旋回手段と,アーム手段に,当該アーム手段の伸びる方向に摺動自在に装着された可動台と,この可動台をアーム手段の伸びる方向に沿って直動させる直動手段と,支持手段に支持されたガラス板に所定の切り線を形成すべく,可動台に搭載されたカッタヘッドとを具備しているガラス板の切断装置」である点で一致し,
次の(C)の点で相違する。
(C)本願発明では「直動手段は,可動台に取り付けられた可動子と,アーム手段に取り付けられた固定子とを有した電動リニアモータを具備し」ているのに対し,刊行物1発明では,本願発明の直動手段に相当する,スライドを支持アームの伸びる方向に直線移動させる手段として,「ねじ軸及びその一端に連結されたサーボモータ」を用いている点

しかし,上記相違点(C)は,上記(3)において前記した相違点(A)と同じものである。
したがって,相違点(C)に係る本願発明の特定事項は,相違点(A)について前記したのと同様に,本出願前に頒布された刊行物1,2に基づき当業者が容易に想到することができた事項である。
また,相違点(C)に係る特定事項の採用に伴う本願発明の効果は,相違点(A)に係る特定事項の採用に伴う効果について前記したのと同様に,刊行物1,2の記載内容から,当業者が容易に予期しうる効果である。

VII.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,本願の出願日前に頒布された刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-06 
結審通知日 2009-11-17 
審決日 2009-12-01 
出願番号 特願平8-277257
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C03B)
P 1 8・ 575- Z (C03B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 新司  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 松本 貢
深草 祐一
発明の名称 ガラス板の加工装置  
代理人 高田 武志  

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