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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01Q
管理番号 1210613
審判番号 不服2007-13416  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-09 
確定日 2010-01-21 
事件の表示 特願2000-208827「分割ストリップアンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 1月25日出願公開、特開2002- 26637〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成12年7月10日の出願であって、原審において平成19年4月5日付けで拒絶査定となり、これに対し同年5月9日付けで審判請求がなされ、当審より平成21年6月26日付けで発せられた拒絶理由通知に対して、同年8月27日付けで意見書および手続補正書の提出があったものである。
その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年8月27日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

(本願発明)
「テープ状の導体をその長手方向に分割するように有限長の開口部であるスロットを配置し、該スロット長軸の長さを送受信の対象とする電磁波の波長の1/2とし、
前記テープ状の導体の幅Wを送受信の対象とする電磁波の半波長の1/10程度とし、
分割されたスロット短軸方向両側の導体は平行2線としてTEMモードで共振動作する導体であり、前記スロット長軸の両端部はテープ状の導体により短絡された短絡部であり、該短絡部のテープ長手方向長さはテープ幅よりも長く、
前記スロット短軸方向両側の導体に流れる電流I(z)がスロット長軸両端部の短絡部で最大値Isとなり、スロットの中央部でゼロとなり、前記スロット短軸方向両側の導体間の電界E(z)はスロット長軸の両端部でゼロとなり、中央部で最大となり、
前記スロット短軸方向両側の導体に流れる電流I(z)は、前記スロット短軸方向両側の導体がスロット長軸方向の両端部で前記テープ状の導体により短絡されていることから、放射モードの閉じた磁界を前記スロット長軸を含みスロット開口面に直交する前記スロットの垂直面内に形成することを特徴とする分割ストリップアンテナ。」


2.引用発明及び周知技術

A.これに対して当審の拒絶理由に引用された特開昭60-127803号公報(以下、「引用例」という。)には、「極超短波帯用自動車アンテナ結合器」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「自動車のガラス部分等の誘電体を構成する所定位置に、該誘電体を挟んで導体箔を内外に対設し、該導体箔のうち長さl=λ/2×0.98,巾w=l/16(但し、λは波長(m),0.98は波長短縮率を示す。)で表される細長矩形の導体箔部分を除去して前記誘電体を顕出させたスロット部分を形成するとゝもに、前記スロット部分の長さの半分の位置に、同調々整スリットを残して巾方向に沿って所定巾の導体箔延出部を形成し、かつ該導体箔延出部に、該延出部上に沿って配設した同軸ケーブルの先端部の外部導体を固着し、該ケーブルの内部導体を同調々整スリットを跨いだ導体箔部分に固着し、さらに上記誘電体を挟んで対設した導体箔の長さLがL>l+4w,巾WがW>3wで,スロット部分の長さ方向の両端から導体箔の長さ方向終端位置までの距離rがr>2wとなるように形成したことを特徴とする極超短波帯用自動車アンテナ結合器」
(1頁左下?右下欄、特許請求の範囲)

ロ.「このように導体箔4平面板に約λ/2長のスロット部分7をつくり、その中央部で同軸ケーブル9により給電することゝしたのは、丁度細隙部分を半波長ダイポールにおきかえた場合とほゝ゛同じ指向性をもつアンテナが得られることに基づくものである。」(2頁右下欄1?7行)

上記ほか、引用例の記載及び図面ならびにこの分野における技術常識を考慮すると、
まず、上記「アンテナ結合器」を構成する「導体箔4」は、引用例第4図にあるように「スロット部分7」を有してなり、『導体箔をその長手方向に分割するように有限長の開口部であるスロットを配置』したものということができる。
また、上記イ.には、該「スロット」の細長矩形の形状に関して、「長さl=λ/2×0.98,・・・(但し、λは波長(m),0.98は波長短縮率を示す。」とあり、電磁波の波長短縮率を考慮した波長を『実効波長』と称するのは技術常識であるから、『該スロット長軸の長さlを送受信の対象とする電磁波の実効波長の1/2』とすることが開示されており、
また、「巾w=l/16」ともあって、『該スロットの幅wを前記スロット長軸の長さlの1/16とする』ものである。
さらに、上記イ.には、該「導体箔」の形状に関して、「導体箔の長さLがL>l+4w,巾WがW>3w」ともあって、
『前記導体箔の幅Wをスロットの幅wの3倍以上』とするものであって、
また、「スロット部分の長さ方向の両端から導体箔の長さ方向終端位置までの距離rがr>2wとなるように形成した」ともあり、引用例第4図も勘案すれば、前記「導体箔」の「スロット部分の長さ方向の両端から導体箔の長さ方向終端位置までの距離r」の部分は、『前記スロット長軸の両端部』を導体箔により短絡する『短絡部』ということができ、
『該短絡部の導体箔長手方向長さrはスロットの幅wの2倍以上とした』ものである。

したがって、上記引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(引用発明)
「導体箔をその長手方向に分割するように有限長の開口部であるスロットを配置し、該スロット長軸の長さlを送受信の対象とする電磁波の実効波長の1/2とし、
該スロットの幅wを前記スロット長軸の長さlの1/16とするとともに前記導体箔の幅Wをスロットの幅wの3倍以上とし、
前記スロット長軸の両端部は導体箔により短絡された短絡部であり、該短絡部の導体箔長手方向長さrはスロットの幅wの2倍以上とした
アンテナ結合器。」


B.同じく当審の拒絶理由に引用した特開平7-170119号公報(以下、「引用例2」という。)には、「スロットアンテナ」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明はグランド平面の狭いスロットアンテナを提供することによって、上述の欠点を克服するものである。一般にグランド平面の狭いアンテナは、好ましくは長方形の形をした、細い導電性ストリップから成るループを含み、あらかじめ決められた受信波長の数分の1に対応する長さを有する。もっと詳しく言うと、ループの長さはグランド平面の広いスロットアンテナでは半波長というのに対し、それより短い。アンテナのインピーダンスを伝送インピーダンスと整合させるには、従来のスロットアンテナと同様に、例えば同軸ケーブルの心導体とシールド部分から成る導体端子の位置を、導電性ストリップループ上で調整する。また、アンテナの長さは従来のスロットアンテナに比べて短く、導電性ストリップも小さいので、従来のアンテナと比べて視界をさえぎることが確かに少い。その結果、本発明によりつくられたスロットアンテナはヒータグリッドやFMアンテナのような他のウィンドアンテナと一緒に、1個のウィンドパネルの中で使うことができるという利点を有する。」(2頁2欄)

ロ.「【0011】図2に図1に示したアンテナ18を拡大して示す。グランド平面は例えば厚さが約0.002インチ(約50.8μm)の3M電気テープである粘着剤付きの銅泊テープを切って1/4インチ(約0.64cm)幅のストリップ23をつくり、角をハンダ付けして、図2に示すような形にする。この形は従来のスロットアンテナのグランド平面が幅の広い導電性材料を採用していたのと異なる。しかし、前述の曇り止り格子14に使った銀セラミック材料のような他の導電体材料を用いて、本発明のアンテナのグランド平面をつくることもできる。図示した実施例は、本発明によりつくられたアンテナの有効性を適切に示すものである。
【0012】グランド平面の面積を少くしたアンテナ18の場合、スロット長22も短くすべきであることがわかった。したがって、全体の長さは所望の波長315MHz の1/3、すなわちわずか13.062インチ(33.2cm)となり、従来より短くなる。315MHz の半波長の長さは18.75インチ(47.6cm)である。この結果、スロット長は従来のスロットアンテナで通常必要とされる半波長の長さよりかなり短いということになる。その上、アンテナが占める全面積は従来のスロットアンテナが占める面積よりかなり少くて済む。スロットの幅24は従来の標準と実務とにより、例えば幅対長さの比で決まる。好ましい実施例では、上側ストリップと下側ストリップ間のすき間を1.125インチ(2.8cm)とすると、現存する曇り止め格子線のすき間と合う。このすき間は所望の帯域の受信に必要な幅より大きいが、RKE(リモート・キーレス・エントリ・システム)の無線周波数範囲の電波を受信するのに必要な最低約1/4インチ(0.6cm)より大きいので良い。」(3頁3?4欄)

即ち、上記引用例2には、「スロットアンテナを電気テープである粘着剤付きの銅泊テープ」からなる「上側ストリップと下側ストリップ」で構成する技術手段、及び
「スロットアンテナの全幅(即ち、上側ストリップと下側ストリップの幅約0.64cm×2とスリットの幅2.8cmの和)を4.08cm(即ち、半波長47.6cmの8.57%)」とする技術手段が開示されている。


C.同じく当審の拒絶理由に引用された、『JOHN D KRAUS(谷村功訳)「空中線(下巻)」近代科学社、1958年発行、pp.411-421』(平成18年4月21日付意見書の添付資料として手続補足書により提出された文献、以下、「周知例1」という。)には、「第13章 スロット空中線、ホーン空中線、及び相補的空中線」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.411頁第13-1図(b)には、スロットアンテナの電流の流れが矢印で図示されている。またスロットの幅wは波長λに対して、w≪λである。(411頁下から3行目)

ロ.412頁第13-2図(c)には、水平方向の長さが3/4λ,垂直方向の幅がλ/2の金属板の中央に水平方向の長さがλ/2のスロットが切られたスロットアンテナの構成が図示されている。

ハ.416頁第13-7図(a)には、スロットアンテナの長軸方向を含む垂直面内の磁界成分が図示されている。


D.例えば本件出願の10年以上も前に公開された、米国特許第2,755,465号明細書(1956年7月17日特許、平成18年9月25日付け拒絶理由通知書において引用した文献、以下、「周知例2」という。)には、「AERIALS」(邦訳:空中線)として、図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.Fig.3?Fig.5及び明細書1頁2欄37行目?2頁3欄26行目にはスロットアンテナと同様な動作をする平行2線アンテナが開示されており、Fig.3にはその電流(電界)分布が、Fig.4にはその電流経路が、Fig.5にはその電磁界分布がそれぞれ図示されている。


3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると、
本願発明の「テープ状の導体」又は「テープ」と引用発明の「導体箔」を対比するに、本願発明において「テープ」とは「テープ状の導体」のことであるから、いずれも「導体」である点で一致している。
また、本願発明の「波長」と、引用発明の「実効波長」を対比するに、本願発明においても例えば本願明細書【0012】には、波長は誘電率の寄与を考慮して適宜補正する旨の記載があり、これは実効的な波長を考慮するということであるから、両者に間に実質的な差異はない。
また、本願発明の「導体の幅Wを送受信の対象とする電磁波の半波長の1/10程度とし」という構成と、引用発明の「導体の幅Wをスロットの幅wの3倍以上とし」という構成は、いずれも「導体の幅Wを所定の幅とし」という構成の点で一致している。
また、本願発明の「短絡部のテープ長手方向長さはテープ幅よりも長く」する構成と、引用発明の「短絡部の導体箔長手方向長さrはスロットの幅wの2倍以上と」する構成は、いずれも「短絡部の導体長手方向長さは所定の長さ」とする構成の点で一致している。
また、本願発明の「分割ストリップアンテナ」と、引用発明の「アンテナ結合器」は、いずれも「アンテナ装置」である点で一致している。
また、引用発明のアンテナ装置が本願発明のような、
「分割されたスロット短軸方向両側の導体は平行2線としてTEMモードで共振動作する導体であり」という構成、
「前記スロット短軸方向両側の導体に流れる電流I(z)がスロット長軸両端部の短絡部で最大値Isとなり、スロットの中央部でゼロとなり、前記スロット短軸方向両側の導体間の電界E(z)はスロット長軸の両端部でゼロとなり、中央部で最大となり、」という構成、及び
「前記スロット短軸方向両側の導体に流れる電流I(z)は、前記スロット短軸方向両側の導体がスロット長軸方向の両端部で前記テープ状の導体により短絡されていることから、放射モードの閉じた磁界を前記スロット長軸を含みスロット開口面に直交する前記スロットの垂直面内に形成する」という構成を備えているか否かは不明である。
したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「導体をその長手方向に分割するように有限長の開口部であるスロットを配置し、該スロット長軸の長さを送受信の対象とする電磁波の波長の1/2とし、
前記導体の幅Wを所定の幅とし、
前記スロット長軸の両端部は導体により短絡された短絡部であり、該短絡部の導体長手方向長さは所定の長さとした
アンテナ装置。」

<相違点>
(1)「導体」に関し、本願発明は「テープ状の導体」又は単に「テープ」であるのに対し、引用発明は「導体箔」である点。
(2)「導体の幅Wを所定の幅とし」という構成に関し、本願発明は「導体の幅Wを送受信の対象とする電磁波の半波長の1/10程度とし」という構成であるのに対し、引用発明は「導体の幅Wをスロットの幅wの3倍以上とし」という構成である点。
(3)「短絡部の導体長手方向長さは所定の長さ」とする構成に関し、本願発明は「短絡部のテープ長手方向長さはテープ幅よりも長く」する構成であるのに対し、引用発明は「短絡部の導体箔長手方向長さrはスロットの幅wの2倍以上と」する構成である点。
(4)「アンテナ装置」に関し、本願発明は「分割ストリップアンテナ」であるのに対し、引用発明は「アンテナ結合器」である点。
(5)本願発明は、
「分割されたスロット短軸方向両側の導体は平行2線としてTEMモードで共振動作する導体であり」という構成、
「前記スロット短軸方向両側の導体に流れる電流I(z)がスロット長軸両端部の短絡部で最大値Isとなり、スロットの中央部でゼロとなり、前記スロット短軸方向両側の導体間の電界E(z)はスロット長軸の両端部でゼロとなり、中央部で最大となり、」という構成、及び
「前記スロット短軸方向両側の導体に流れる電流I(z)は、前記スロット短軸方向両側の導体がスロット長軸方向の両端部で前記テープ状の導体により短絡されていることから、放射モードの閉じた磁界を前記スロット長軸を含みスロット開口面に直交する前記スロットの垂直面内に形成する」という構成を備えているのに対し、
引用発明がそのような構成を備えているか否かは不明である点。


4.判断
そこで、まず、上記相違点(1)の「導体」及び上記相違点(4)の「アンテナ装置」についてまとめて検討するに、
そもそも本願発明の「導体」は、単に「テープ状の」としてその形状を限定するに過ぎず、引用発明の「導体箔」も、その厚みの薄い箔の「細長矩形」の形状は、これを「テープ状の」形状と言うこともできるものであるから、形状に特段の相違はないものであるが、
上記引用例2には「スロットアンテナを電気テープである粘着剤付きの銅泊テープ」からなる「上側ストリップと下側ストリップ」で構成する技術手段が開示されているところ、当該ストリップは導体箔である「銅箔テープ」からなる導電性ストリップであるから、当該技術手段を引用発明の「導体箔」に適用する上での阻害要因は何ら見当たらない。
したがって、当該技術手段に基づいて、引用発明の「導体箔」を、本願発明のような「テープ状の導体」とする(相違点1)程度のことは、当業者であれば適宜なし得ることである。
また、前記技術手段に基づいて、引用発明の「導体箔」を前記「銅箔テープ」で構成することにより、引用発明の導体箔が概念的にスロットを挟む「上側ストリップ」と「下側ストリップ」に分割されるのであるから、これを「分割ストリップ」ということができ、これを短絡部で短絡した構成が「アンテナ」として機能することも、引用例の上記ロ.に記載のあることであるから、当該構成に基づいて、引用発明の「アンテナ結合器」の導体箔部分を本願発明のようなスロットにより分割された導電性ストリップからなる「分割ストリップアンテナ」とする(相違点4)程度のことも、当業者であれば容易になし得ることである。

ついで、上記相違点(2)の「導体の幅Wを所定の幅とし」という構成ついて検討するに、
引用発明の構成によれば、引用発明のスロットの幅wはスロット長軸の長さlすなわち半波長の1/16であり、導体箔の幅Wは、W>3wであるから、該導体箔の幅Wは少なくとも半波長の3/16(即ち、18.75%)となる。
しかしながら、スロットアンテナにおけるスロットの幅wは、例えば上記周知例1に開示されているように、スロットの幅w≪波長λであれば良く、その具体的な値に特に制限はないものである。
しかも例えば、上記引用例2には、「スロットアンテナの全幅(即ち、上側ストリップと下側ストリップの幅約0.64cm×2とスリットの幅2.8cmの和)を4.08cm(即ち、半波長47.6cmの8.57%)」とする技術手段が開示されているのであるから、これらの値を参考に、本願発明の導体の幅Wを引用発明の18.75%と前記技術手段の8.57%の中間である10%程度(即ち、1/10程度)とすること(相違点2)も、当業者であれば適宜なし得ることである。
また、上記したようにスロットの幅wは波長λに対して十分に小さければよいのであるから、金属箔の全幅Wをスロットの幅wの3倍以上とするにせよ、これも波長λに対して十分に小さくするのは適宜可能なことであるから、半波長の1/10程度とするのも適宜の設計的事項の範囲内であり、当業者であれば適宜なし得ることである。
なお、この本願発明の「1/10程度」とする限定に付き、本願明細書にはその段落【0012】に「半波長約6cm」に対して「6?7mm程度が適当である。」との一数値例が示されるにすぎず、「1/10程度」の割合に特段の臨界的意義が開示されているものでもない。

ついで、上記相違点(3)の「短絡部の導体長手方向長さは所定の長さ」とする構成について検討するに、
引用発明の「短絡部の導体長手方向長さrはスロットの幅wの2倍以上」であれば良いのであるから、適宜これを「スロットの幅wの3倍」すなわち「導体箔の幅W」以上とする場合も含まれるものであって、当該構成に基づいて、本願発明の「短絡部のテープ長手方向長さ」を必要に応じて「テープ幅よりも長く」する程度のこと(相違点3)も、当業者であれば適宜なし得ることである。
なお、この本願発明の「短絡部のテープ長手方向長さ」を「テープ幅よりも長く」する限定についても、本願明細書には、その図面の寸法以上の記載はないことであって、特段の臨界的意義が開示されているものでもない。

ついで、上記相違点(5)について検討するに、
スロットアンテナの電流経路や電磁界分布、電流・電界分布は、例えば上記周知例1又は周知例2に図示されているとおり従来周知のものである。
そして、引用発明も前記周知例に記載されたアンテナと同様にスロットアンテナとして動作しているのであるから、その電流(電界)分布は前記周知例の分布と同様なものとなることは自明のことである。
したがって、前記周知のスロットアンテナの電流(電界)分布に基づいて、引用発明の電流(電界)分布を本願発明のような、
「前記スロット短軸方向両側の導体に流れる電流I(z)がスロット長軸両端部の短絡部で最大値Isとなり、スロットの中央部でゼロとなり、前記スロット短軸方向両側の導体間の電界E(z)はスロット長軸の両端部でゼロとなり、中央部で最大となり」という構成(前記周知例2のFig.3参照)とする程度のことは、当業者であれば適宜なし得ることである。
また、半波長の平行2線路自体が、出願人が意見書で述べているように、TEMモードの共振を引き起こすのであり、上記引用例2記載の「上下に分離されたストリップ状導体」も、本願発明のストリップ状導体と同様波長に比べて十分に狭幅な線路を構成しているのであるから、引用例2に開示されているスロットアンテナも当然にTEMモードで共振するものであり、当該引用例2に開示されて技術手段に基づいて狭幅化した引用発明の構成も当然にTEMモードで動作するものである。
したがって、引用例2に開示されている技術手段に基づいて、その幅を狭くした引用発明の導体箔が、本願発明のような、
「分割されたスロット短軸方向両側の導体は平行2線としてTEMモードで共振動作する導体であり」という構成となることは当業者であれば自明のことであり、引用発明にこのような構成を付加する程度のことも、当業者であれば適宜なし得ることである。
また、上記周知例1又は2に開示されているように、スロットアンテナの電磁界はダイポールアンテナの電磁界を入れ替えたものであるから、スロットアンテナのスロット長軸を含みスロット開口面に直交する前記スロットの垂直面内に形成される電磁界は、スロットの例えば長軸両端を始点終点とする閉じた磁力線からなる「磁界」であることは自明の事項である。
そして、引用発明のアンテナ結合器はスロット短軸方向両側の導体がスロット長軸方向の両端部で導体箔により短絡されており、かつ該アンテナ結合器がスロットアンテナとして動作するものであることは明らかであるから、前記スロットアンテナの磁界分布に基づいて、引用発明の電磁界分布を本願発明のような、
「前記スロット短軸方向両側の導体に流れる電流I(z)は、前記スロット短軸方向両側の導体がスロット長軸方向の両端部で前記テープ状の導体により短絡されていることから、放射モードの閉じた磁界を前記スロット長軸を含みスロット開口面に直交する前記スロットの垂直面内に形成する」という構成とする程度のことも、当業者であれば適宜なし得ることである。
したがって、相違点(5)もいずれも格別のことではない。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術手段ないしは周知技術もしくは自明の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-13 
結審通知日 2009-11-17 
審決日 2009-12-07 
出願番号 特願2000-208827(P2000-208827)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西脇 博志佐藤 当秀  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 新川 圭二
高野 洋
発明の名称 分割ストリップアンテナ  
代理人 小杉 良二  
代理人 堀田 信太郎  
代理人 渡邉 勇  
代理人 渡邉 勇  
代理人 小杉 良二  
代理人 堀田 信太郎  

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