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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01D
管理番号 1210621
審判番号 不服2007-29114  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-25 
確定日 2010-01-21 
事件の表示 特願2002-266883「エンコーダ用スリット」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 4月 2日出願公開、特開2004-101475〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年9月12日の出願であって、平成19年8月20日付け手続補正により明細書又は図面についての補正(以下、「補正1」という。)がなされ、同年9月14日付け(送達:同年9月25日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月25日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月8日付け手続補正により明細書又は図面についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容・補正の適否
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を補正前の
「回転型エンコーダ又はリニアエンコーダに用いられる符号板(1)に形成されるエンコーダ用スリットにおいて、
前記符号板(1)は光を透過する光透過部材よりなり、前記符号板(1)には光を透過しない状態の遮光部分からなる遮光部(30)が部分的に形成されており、 前記移動方向(A)に直交する方向(A')に沿う前記遮光部(30)の幅(W1)は、前記符号板(1)に対向配置された受光体(4)の前記移動方向(A)に直交する方向(A')に沿う幅(W2)よりも小さく、
前記遮光部(30)の両端に位置する遮光端部(30a,30b)間に受光量変化領域(C)が設けられ、
前記受光体(4)の両端に位置する受光端部(4a,4b)と前記遮光端部(30a,30b)との間に許容変位(B)が設けられていることを特徴とするエンコーダ用スリット。」から、補正後の
「回転型エンコーダ又はリニアエンコーダに用いられる符号板(1)に形成されるエンコーダ用スリットにおいて、
前記符号板(1)は光を透過する光透過部材よりなり、前記符号板(1)には光を透過しない状態の遮光部分からなる遮光部(30)が部分的に形成されており、
前記符号板(1)の移動方向(A)に直交する方向(A')に沿う前記遮光部(30)の幅(W1)は、前記符号板(1)に対向配置された受光体(4)の前記移動方向(A)に直交する方向(A')に沿う幅(W2)よりも小さく、
前記遮光部(30)の両端に位置する遮光端部(30a,30b)間に受光量変化領域(C)が設けられ、
前記受光体(4)の両端に位置する受光端部(4a,4b)と前記遮光端部(30a,30b)との間に許容変位(B)が設けられ、 前記許容変位(B)は、前記符号板(1)の前記移動方向(A)への移動に伴う前記遮光部(30)の移動に拘わらず、前記符号板(1)を透過した光を前記受光体(4)で受光できる領域を形成することを特徴とするエンコーダ用スリット。」に補正する補正事項を含むものである。(下線は、補正箇所を明示するために請求人が付した。)
この補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「許容変位(B)」について「前記許容変位(B)は、前記符号板(1)の前記移動方向(A)への移動に伴う前記遮光部(30)の移動に拘わらず、前記符号板(1)を透過した光を前記受光体(4)で受光できる領域を形成する」との限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用例記載の事項・引用発明
(2-1)
原査定の拒絶の理由に引用された特開昭51-79378号公報(以下「引用例1」という。)には、「光式タコメータ」(発明の名称)に関し、次の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている。
(a)「本発明は光式タコメータに係り、特に縞状パターンを有する光式タコメータに関する。
従来のこの種光式タコメータにおいては、第1図に示すように、回転位置の検出を必要とする回転体(2点鎖線で示されている)に、タコメータボス3を固着し、このボス3にタコメータディスク2を嵌め込み、これを端板4で一体に固定することによってロータ1が構成されている。タコメータディスク2は第2図に示すように、アクリル樹脂やガラスなどのような透明な円板17からなり、その側面上に印刷または写真の焼付などによって、不透明部(一般に黒色)15と透明部16とが交互に等間隔で形成されている。」(1頁右下欄8行?20行)
(b)「このタコメータディスク2を挟むような形で固定されたデテクタ5は、一般に不透明な物質、たとえば黒色のプラスチックなどで作られたデテクタ枠6の中に、ランプ、発光ダイオードなどのような光源10と、光源10から出た光をタコメータディスク2を介して受けとる受光素子8、たとえばフォトトランジスタや太陽電池などのような光感応素子とを設けることによって構成され、その受光素子8の前面には、受光板7が設けられている。この受光板7は第3図に示すように、タコメータディスク2と同様な材質で作られた透明板18の表面に、不透明部19と透明部20からなるパターンを形成したもので、このパターンのピッチはディスク2のパターンのピッチと同一である。」(2頁左上欄6行?20行)
(c)「このように構成されたタコメータにおいて、光源10より出た光は、デテクタ枠6の穴11を通り、タコメータディスク2に到る。ここで、もしディスク2の透明部16と受光板7の透明部20が重なった時には、光はこれら両透明部16、20を通って受光素子8に達するので、プリント板14の外側からリード線13によって出力を取り出すことができる。また、ディスク2の透明部16が受光板7の不透明部19と重なった時には光はディスク2の不透明部15と受光板7の不透明部19とによって遮断され、受光素子8に達しないため出力は出ない。・・・すなわち、第4図に示すように、タコメータディスク2の回転位置に従って、出力信号Eの大きさが変化する。」(2頁右上欄1行?16行)
(d)「以上の説明から明らかなように、ディスク2と受光板7の透明部および不透明部からなる縞状パターンの相対位置の変化によって、光の遮断、透過が起る。そのため、ディスク2に芯ずれがあると、同一スピードでロータ1を回転してもパルス間隔が異なったり、また、受光板7の取付位置が正確でないと、光の強弱の差がなくなったりする不都合が生ずる。」(2頁左下欄1行?8行)

・前記記載(a)及びタコメータディスクの正面図である第2図より、
(イ)「光式タコメータに用いられるタコメータディスク2に縞状パターンが形成されており、該タコメータディスク2は透明な円板17よりなり、不透明部15と透明部16とが交互に等間隔で形成されている。」との技術事項が読み取れる。
・前記記載(c)及び第2図より、タコメータディスク2の不透明部15の半径方向の両端部間は受光素子8の受光量を変化させる領域であることが理解できるから、
(ロ)「タコメータディスク2の不透明部15の半径方向の両端部間に受光量を変化させる領域が設けられている。」との技術事項が読みとれる。
・光式タコメータの出力特性図である第4図から、
(ハ)光式タコメータの出力はタコメータディスクの回転に伴い正弦波状に変動するが、その出力は最低でも零にはならず、一定の正の出力を有することが見て取れる。
このことは、タコメータディスク2の透明部16と受光板7の不透明部19とが重なりあったとき(または、タコメータディスク2の不透明部15と受光板7の透明部20とが重なりあったとき)であっても、光源10から出た光が受光素子8に達する何らかの光路が存在し、該光路の存在により前記出力は一定の正の出力があるものと解するのが自然である。
・この点に関して、タコメータディスクの正面図である第2図から、
(ニ)タコメータディスク2の不透明部15は透明な円板17の外周部にまで延長されておらず、よって、不透明部15の外側端部と透明な円板17の外周部間に円周方向に亘り帯状の透明な領域があることが見て取れる。
以上の(ハ)、(ニ)を考慮すると、
(ホ)「タコメータディスク2の透明部16と受光板7の不透明部19とが重なりあったとき(または、タコメータディスク2の不透明部15と受光板7の透明部20とが重なりあったとき)であっても、光源10から出た光が受光素子8に達する何らかの光路を形成するための帯状の透明な領域がタコメータディスク2の不透明部15の外側端部と透明な円板17の外周部間に存在する。」と解するのが自然である。
・光式タコメータの縦断面図である第1図より、タコメータディスク2に対向配置された受光板7の上端部は、透明な円板17の外周部と略同じ高さとされていることが見て取れ、また、受光板の正面図である第3図より、受光板7の透明部20及び不透明部19が受光板7の上端部にまで形成されていることが見て取れる。
そして、前記したように、「タコメータディスク2の透明部16と受光板7の不透明部19とが重なりあったとき(または、タコメータディスク2の不透明部15と受光板7の透明部20とが重なりあったとき)であっても、光源10から出た光が受光素子8に達する何らかの光路を形成するための帯状の透明な領域がタコメータディスク2の不透明部15の外側端部と透明な円板17の外周部間に存在する。」のであるから、結局、
(ヘ)「タコメータディスク2の不透明部15の半径方向長さは前記タコメータディスク2に対向配置された受光板7の透明部20の半径方向長さよりも小さい。」と解するのが自然である。

以上の技術事項(イ)、(ロ)、(ホ)及び(ヘ)を総合勘案すると、引用例1には、
(引用発明1)
「光式タコメータに用いられるタコメータディスク2に形成される縞状パターンにおいて、
前記タコメータディスク2は透明な円板17よりなり、前記タコメータディスク2には不透明部15と透明部16とが交互に等間隔で形成されており、
前記タコメータディスク2の不透明部15の半径方向長さは、前記タコメータディスク2に対向配置された受光板7の透明部20の半径方向長さよりも小さく、
前記タコメータディスク2の不透明部15の半径方向の両端部間に受光量を変化させる領域が設けられ、
前記受光板7の透明部20の上端部と前記タコメータディスク2の不透明部15の外側端部との間に帯状の透明な領域を設けた縞状パターン。」についての発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
(2-2)
また、同じく原査定の拒絶の理由に引用された、実願昭54-182735号(実開昭56-99474号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、次の事項(e)ないし(g)が図面とともに記載されている。
(e)「回転円盤7及び固定円盤8に取付偏心がある場合第2図(b)に示す如くスリット9及びスリット10の重なり合う面積すなわち透孔の面積が回転円盤7の回転位置に応じて変化する。従って、回転円盤7の回転によってスリット9及びスリット10で形成される透孔の面積の大きさが変化し、それに伴って該透孔を通過した光の信号を電気信号へ変換することによって生ずるパルスは第2図(c)に示す如く振幅が変動する。この回転円盤7及び固定円盤8の取付偏心を避けることは実際上非常に困難である。従って、前記回転速度検出装置からは従来振幅に変動のあるパルスしか得られなかった。
よって本考案の目的は回転速度に比例した周波数でかつ一定振幅の信号出力を発生し得る回転速度検出装置を提供することである。」(明細書5頁4行?19行)
(f)「第3図(a)は本考案による回転速度検出装置のスリットの形状を示している。図において14は、回転円盤7にこの円盤と同心的に円周方向に設けられたスリットの1つである。スリット14より小さくかつスリット14により覆われ得る形状のスリット15が固定円盤8上にスリット14と対面すべく配列されている。前記第3図(a)においては回転円盤7と固定円盤8に取付偏心が無い状態でスリット14及びスリット15が重なり合っている。第3図(b)は回転円盤7及び固定円盤8に取付偏心がある状態でスリット14及びスリット15が重なり合っている場合を示している。取付偏心がある場合でもスリット14によってスリット15が覆われているので重なり合った部分すなわち透孔の面積は取付偏心がない場合と同一である。よって該透孔を通過したのちフォトトランジスタ13に入射される光量も同一となる。従って、本考案による回転速度検出装置の出力信号としてフォトトランジスタ13より第3図(c)に示す如く振幅一定の信号が得られるのである。」(明細書6頁3行?7頁2行)
(g)「なお上記実施例においては回転盤に設けられたスリットが固定盤に設けられたスリットより大きいとしたが、回転盤に設けられたスリットが固定盤に設けられたスリットより小さいとすることも可能であることは勿論である。」(明細書7頁3行?7行)

前記記載(e)ないし(g)及び第1図ないし第3図より、引用例2には次の発明が記載されているものと認める。
(引用発明2)
「回転円盤7及び固定円盤8に存在する取付偏心により生じる出力信号の変動を抑えるために、固定円盤8に設けられたスリット15のサイズよりも回転円盤7に設けられたスリット14のサイズを小さくし、かつ、スリット14がスリット15に覆われるようにして、固定円盤8に設けられたスリット15の内周側端部と回転円盤7に設けられたスリット14の内周側端部間、及びスリット15の外周側端部とスリット14の外周側端部間にそれぞれ所定の領域を設けるようにした光学的回転速度検出装置。」についての発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比
本願補正発明と引用発明1を対比する。
引用発明1の
「光式タコメータ」、「タコメータディスク2」、「縞状パターン」、「透明な円板17」、「不透明部15と透明部16とが交互に等間隔で形成されて」、「タコメータディスク2の不透明部15の半径方向長さ」、「受光板7の透明部20」、「受光板7の透明部20の半径方向長さ」及び「タコメータディスク2の不透明部15の半径方向の両端部間に受光量を変化させる領域が設けられ」は、
本願補正発明の
「回転型エンコーダ」、「符号板(1)」、「エンコーダ用スリット」、「光を透過する光透過部材」、「光を透過しない状態の遮光部分からなる遮光部(30)が部分的に形成されて」、「符号板(1)の移動方向(A)に直交する方向(A')に沿う前記遮光部(30)の幅(W1)」、「受光体(4)」、「受光体(4)の前記移動方向(A)に直交する方向(A')に沿う幅(W2)」及び「遮光部(30)の両端に位置する遮光端部(30a,30b)間に受光量変化領域(C)が設けられ」にそれぞれ相当する。
引用発明1における「受光板7の透明部20の上端部と前記タコメータディスク2の不透明部15の外側端部との間に帯状の透明な領域を設けた」ことも、 本願補正発明における「受光体(4)の両端に位置する受光端部(4a,4b)と前記遮光端部(30a,30b)との間に許容変位(B)が設けられ、前記許容変位(B)は、前記符号板(1)の前記移動方向(A)への移動に伴う前記遮光部(30)の移動に拘わらず、前記符号板(1)を透過した光を前記受光体(4)で受光できる領域を形成する」ることも、
共に、「受光体の受光端部と遮光端部との間に前記符号板(1)を透過した光を前記受光体(4)で受光できる領域を設けた」点で共通している。
してみると、両者は
(一致点)
「回転型エンコーダに用いられる符号板に形成されるエンコーダ用スリットにおいて、
前記符号板は光を透過する光透過部材よりなり、前記符号板には光を透過しない状態の遮光部分からなる遮光部が部分的に形成されており、
前記符号板の移動方向に直交する方向に沿う前記遮光部の幅は、前記符号板に対向配置された受光体の前記移動方向に直交する方向に沿う幅よりも小さく、
前記遮光部の両端に位置する遮光端部間に受光量変化領域が設けられ、
前記受光体の受光端部と前記遮光端部との間に前記符号板を透過した光を前記受光体で受光できる領域を設けたエンコーダ用スリット。」で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)受光体の受光端部と遮光端部との間に設けられた、符号板を透過した光を前記受光体で受光できる領域について、
本願補正発明では、このような領域が、「許容変位」として「符号板(1)の前記移動方向(A)への移動に伴う前記遮光部(30)の移動に拘わらず、前記符号板(1)を透過した光を前記受光体(4)で受光できる領域を形成する」ものであり、「受光体(4)の両端に位置する受光端部(4a,4b)と前記遮光端部(30a,30b)との間に設けられたもの」とあるように、受光端部(4a)と遮光端部(30a)との間だけでなく、受光端部(4b)と遮光端部(30b)との間にも設けられている、すなわち、かかる領域が一対設けられているのに対し、
引用発明1では、このような領域が受光体の上端部と遮光端部の外側端部との間に設けられているにとどまる点。

(4)当審の判断
上記相違点について検討する。
前記引用発明2において、固定円盤8に設けられたスリット15の内周側端部と回転円盤7に設けられたスリット14の内周側端部間、及びスリット15の外周側端部とスリット14の外周側端部間にそれぞれ所定の領域を設けた(すなわち、一対の所定の領域を設けた)のは、回転円盤7及び固定円盤8に存在する取付偏心により生じる出力信号の変動を抑えるためであるから、この一対の所定の領域は、本願補正発明における「許容変位」として作用することは明らかである。
そして、引用例1においても、前記記載(d)にあるように、回転するディスクの取付け位置の不正確さ、すなわち、取付偏心が出力変動を引き起こすという課題を認識しているから、引用発明1の「帯状の透明な領域」は、本願補正発明における「許容変位」として作用するといえる。
また、引用発明2は光学的回転速度検出装置に関するものであるところ、その検出原理からみれば実質的にエンコーダ装置であるといえるから、引用発明1も引用発明2も、共にエンコーダ装置という同じ技術分野に属する発明である。

してみると、引用発明1の「受光板7の透明部20の上端部とタコメータディスク2の不透明部15の外側端部との間に帯状の透明な領域を設け」る点に、引用発明2の「固定円盤8に設けられたスリット15の内周側端部と回転円盤7に設けられたスリット14の内周側端部間、及びスリット15の外周側端部とスリット14の外周側端部間にそれぞれ所定の領域を設ける」点、すなわち、一対の所定の領域を設けることを適用することにより、引用発明1において「帯状の透明な領域」を一対設けるようにして、本願補正発明のように、「受光体(4)の両端に位置する受光端部(4a,4b)と前記遮光端部(30a,30b)との間に許容変位(B)が設けられ、前記許容変位(B)は、前記符号板(1)の前記移動方向(A)への移動に伴う前記遮光部(30)の移動に拘わらず、前記符号板(1)を透過した光を前記受光体(4)で受光できる領域を形成する」ものとすることは、当業者ならば容易に想到し得たところといえる。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。
[請求人の主張について]
審判請求人は審判請求の理由において、「本願発明では、受光体で常に少量の光を受光できるようにしているから、フォトトランジスタの特性として、出力の立ち上がりが早い」旨主張しているので、この点について検討する。
先に説示したように、引用例1に記載のものも、帯状の透明な領域を透過して受光板に到る光が存在し(2.(2)(ロ)参照のこと)、受光素子としてフォトトランジスタを用いている(2.(2)(b)参照のこと)ことを勘案すると、引用発明1においても本願補正発明と同様、受光素子であるフォトトランジスタは常に少量の光を受けている状態にあると解され、そのことは引用発明1に引用発明2を適用して得られた構成においても同様であるといえる。
よって、引用発明1に引用発明2を適用したものと比べて本願補正発明が格別顕著な効果を奏するものであるとはいえず、審判請求人の主張は採用し得ない。

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の前特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するので、同法159条において読み替えて準用する同法53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、補正1によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。
(1)本願発明
「回転型エンコーダ又はリニアエンコーダに用いられる符号板(1)に形成されるエンコーダ用スリットにおいて、
前記符号板(1)は光を透過する光透過部材よりなり、前記符号板(1)には光を透過しない状態の遮光部分からなる遮光部(30)が部分的に形成されており、
前記移動方向(A)に直交する方向(A')に沿う前記遮光部(30)の幅(W1)は、前記符号板(1)に対向配置された受光体(4)の前記移動方向(A)に直交する方向(A')に沿う幅(W2)よりも小さく、
前記遮光部(30)の両端に位置する遮光端部(30a,30b)間に受光量変化領域(C)が設けられ、
前記受光体(4)の両端に位置する受光端部(4a,4b)と前記遮光端部(30a,30b)との間に許容変位(B)が設けられていることを特徴とするエンコーダ用スリット。」(以下、「本願発明」という。)

(2)原査定に係る拒絶の理由について
平成19年9月14日付け拒絶査定には、「この出願については、平成19年6月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由2.によって、拒絶をすべきものです。」と記載されているので、まずこの点について検討する。
上記拒絶理由通知書に記載された拒絶理由は3つあり、理由1は本願が特許法第36条4項、6項違反であり、理由2は本願発明が同法第29条1項3号違反であり、理由3は本願発明が同法第29条2項違反であるというものであり、引用刊行物として引用例1と引用例2とが挙げられている。
ところで、上記拒絶査定の備考欄には、「引用例2に記載された上記技術思想に基づき、引用例1に記載された受光体と、符号板の遮光部における符号板の移動方向に直交する方向に沿う幅を請求項1に記載された構成にすることは当業者にとって容易になし得ることであり、請求項2、3に係る発明についても同様である。」旨記載されており、また、請求人も審判請求の理由において、「引用例1、2を組み合わせることで得られる効果は容易に想像できるものでなく、従って、本願発明は、引用例1、2から当業者といえども容易に想到し得るものではない。」旨反論している。
以上のことを勘案すると、前記拒絶査定に記載の「理由2.によって」は「理由3.によって」の誤記と解され、請求人もそのように解釈した上で対応しているので、原査定の実質的な拒絶の理由は、理由3、すなわち、本願発明が特許法第29条2項違反であるものとして扱うこととする。

(3)引用例記載の事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例記載の事項・引用発明は、前記「2.(2)引用例記載の事項・引用発明」に記載したとおりである。

(4)対比・判断
本願発明は、前記「2.(1)補正の内容・補正の適否」で検討した本願補正発明から「許容変位(B)」についての限定事項である「前記許容変位(B)は、前記符号板(1)の前記移動方向(A)への移動に伴う前記遮光部(30)の移動に拘わらず、前記符号板(1)を透過した光を前記受光体(4)で受光できる領域を形成する」との発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)当審の判断」に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-17 
結審通知日 2009-11-24 
審決日 2009-12-07 
出願番号 特願2002-266883(P2002-266883)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01D)
P 1 8・ 575- Z (G01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 昌宏  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 松浦 久夫
下中 義之
発明の名称 エンコーダ用スリット  
代理人 古川 秀利  
代理人 曾我 道治  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 梶並 順  

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