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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C21D |
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管理番号 | 1210625 |
審判番号 | 不服2008-247 |
総通号数 | 123 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-03-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-01-04 |
確定日 | 2010-01-21 |
事件の表示 | 平成11年特許願第 85914号「一方向性電磁鋼板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年10月10日出願公開、特開2000-282142〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成11年3月29日の出願であって、平成18年12月21日付けの拒絶理由が通知され、平成19年11月28日付けで拒絶査定がされたものである。 本件審判は、この査定を不服として、平成20年1月4日付けで請求がされたものであり、同日付けで明細書について補正がされている。 2.本願発明の認定 平成20年1月4日付けで明細書の特許請求の範囲についてした補正は、請求項の削除を目的とした適法なものであるから、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、当該補正後の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 【請求項1】 質量%で、 C:0.020?0.075%、 Si:2.5?4.5%、 酸可溶性Al:0.010?0.050%、 N≦0.0100%、 B:0.0005?0.0040%、 Mn:0.05?0.45%、 S或いはSeを単独又は複合で≦0.015%、 Cr:0.03?0.20%、 Sn:0.02?0.15%、 残部Fe及び不可避的不純物からなるスラブを、1280℃以下の温度に加熱後熱延し、圧下率80%以上の冷間圧延をし、次いで脱炭焼鈍をし、次いで鋼板の窒素量が120ppm以上となるように窒化処理を、ストリップを走行せしめる状態下で、水素、窒素、アンモニアの混合ガス中で650?850℃の範囲で行い、その後仕上げ焼鈍を行う一方向性電磁鋼板の製造方法において、熱延に際し、累積圧下率60%以上の粗圧延後に行う仕上げ熱延開始温度を900?1100℃とし、かつ、スラブのB含有量(ppm)、仕上げ熱延の開始温度のコイル偏差ΔF0T(℃)を下記式の範囲に制御することを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。 ΔF0T(℃)≦1.25・B+50 3.原査定の理由 原審でなされた拒絶査定の理由の一つは、 「本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物、 特開平7-138641号公報(以下、「引用例」という。) に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野にお ける通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 というものである。 4.引用例の記載 摘記1(段落0012?0013) 【0012】 【課題を解決するための手段】本発明の要旨とするところは、下記の通りである。 (1)重量比でC:0.075%以下、Si:2.2?4.5%、酸可溶性Al:0.010?0.060%、N:0.0130%以下、S+0.405Se:0.014%以下、Mn:0.05?0.8%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを1280℃未満の温度で加熱し、熱延を行い、引き続き熱延板焼鈍を施すことなく、圧下率80%以上の最終強圧下冷延を行い、次いで脱炭焼鈍、最終仕上焼鈍を施して一方向性電磁鋼板を製造する方法において、粗熱延の累積圧下率を60%以上とし、粗熱延と仕上熱延の間の時間を1秒以上とし、仕上熱延の開始温度を800?1100℃とし、スラブの酸可溶性Al,Nの含有量(重量%)、仕上熱延の開始温度のコイル内偏差ΔFoT(℃)を下記(1)式の範囲に制御し、脱炭焼鈍完了後、最終仕上焼鈍開始までの一次再結晶粒の平均粒径を18?35μmとし、熱延後最終仕上焼鈍の二次再結晶開始までの間に鋼板に0.0010重量%以上の窒素吸収を行わせる窒化処理を施すことを特徴とする磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。 ΔFoT(℃)≦15+2500×{Al(%)-(27/14)×N(%)}……(1) 但し、Al:酸可溶性Al 【0013】(2)前項において、スラブの成分としてさらにSn:0.01?0.15%を含有せしめることを特徴とする磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。 摘記2(段落0025?0027) 【0025】Mnの下限値は0.05%である。0.05%未満では、熱間圧延によって得られる熱延板の形状(平坦さ)、つまりストリップの側縁部が波形状となり製品歩留りを低下させる問題が発生する。一方、Mn量が0.8%を超えると製品の磁束密度を低下させ好ましくないので、Mn量の上限を0.8%とした。Snは、粒界偏析元素として知られており、粒成長を抑制する元素である。一方スラブ加熱時Snは完全固溶しており、通常考えられる数10℃の温度差を有する加熱時のスラブ内でも、一様に固溶していると考えられる。従って、温度差があるにも拘らず加熱時のスラブ内で均一に分布しているSnは、脱炭焼鈍時の粒成長抑制効果についても、場所的に均一に作用すると考えられる。 【0026】このため、AlNの場所的不均一に起因する脱炭焼鈍時の粒成長の場所的不均一を、Snは希釈する効果があるものと考えられる。従って、Snを添加することはさらに製品の磁気特性の変動を低減させるのに有効である。このSnの適正範囲を0.01?0.15%とした。この下限値未満では、粒成長抑制効果が少なすぎて好ましくない。一方、この上限値を超えると鋼板の窒化が難しくなり、二次再結晶不良の原因となるため好ましくない。 【0027】この他インヒビター構成元素として知られているSb,Cu,Cr,Ni,B,Ti,Nb等を微量に含有することはさしつかえない。特に、B,Ti,Nb等の窒化物構成元素は、スラブ加熱時の鋼中の固溶N量を低減するために積極的に添加してもかまわない。これらのAlよりNとの親和力の高い元素がある場合には、後述する仕上熱延開始温度偏差を規定する式を計算する際に、全N量から含有するB,Ti,Nbのために形成される窒化物のN量を差し引きすることは、本発明における制御効果の精度を高める上で好ましい。 摘記3(段落0042?0044) 【0042】実施例3 重量%で、Si:2.85%、C:0.029%、酸可溶性Al:0.024%、N:0.0065%、Mn:0.14%、S:0.007%を含有する250mm厚の20ton スラブに対して、Z(℃)=15+2500×{Al(%)-(27/14)×N(%)}を計算したところ、44であった。(1)式より、仕上熱延開始温度のコイル内偏差を44℃以下にすることが良好な磁気特性を得るために必要なことが予測できた。このスラブを、(A)圧延方向の先頭部1100℃、後尾部1120℃となるよう約60分温度傾斜保持、(B)1100℃に約60分保持なる2通りのスラブ加熱を行った後、7パスで40mm厚まで粗熱延し(累積圧下率:84%)、しかる後、5秒空冷して、6パスで仕上熱延を行い、2.6mm厚の熱延板とした。この場合、仕上熱延開始温度は、各々、(A)1020?1057℃、(B)1001?1056℃であった。 【0043】これらの熱延コイルを、酸洗し、約87%の圧下率で冷延して、0.335mm厚の冷延コイルとし、845℃に150秒保持する脱炭焼鈍(25%N_(2)+75%H_(2)、露点60℃)を施し、しかる後、770℃で30秒保持する焼鈍を行い、焼鈍雰囲気中にNH_(3)ガスを混入させ鋼板に窒素を吸収せしめた。窒化後の鋼板のN量は0.0215?0.0237%であり、鋼板の一次再結晶粒の平均粒径は、25?30μmであった。次いで、この鋼板にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、公知の方法で、最終仕上焼鈍を施した。実験条件と磁気特性の結果を表3に示す。 【0044】 【表3】 5.引用発明の認定 引用例には、磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法の発明(摘記1)が記載されており、その実施例3「本発明」(摘記3)には、次の製法発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「重量比で C:0.029%、 Si:2.85%、 酸可溶性Al:0.024%、 N:0.0065%、 S:0.007%、 Mn:0.14%を含有し、 残部がFe及び不可避的不純物からなるスラブを、 圧延方向の先頭部1100℃、後尾部1120℃となるよう約60分温度傾斜保持するスラブ加熱を行った後、累積圧下率84%で粗圧延し、しかる後、5秒空冷して、仕上熱延開始温度1020?1057℃(コイル内偏差ΔFoT(℃)=37℃)として仕上熱延を行い熱延板とし、この熱延コイルを、熱延板焼鈍を施すことなく、約87%の圧下率で冷延して、冷延コイルとし、脱炭焼鈍(25%N_(2)+75%H_(2))を施し、しかる後、770℃で焼鈍雰囲気中にNH_(3)ガスを混入させ鋼板に窒素を吸収せしめ、窒化後の鋼板のN量は0.0215?0.0237%であり、鋼板の一次再結晶粒の平均粒径を25?30μmとし、次いで、この鋼板に最終仕上焼鈍を施したことを特徴とする磁気特性の優れた一方向性電磁鋼板の製造方法。」 6.発明の対比(一致点・相違点の認定) 本願発明と引用発明を対比する。 冷延鋼板(=ストリップ)の焼鈍を連続焼鈍炉にて実施することは周知であるから、引用発明において焼鈍雰囲気を変更して実施する「窒化」は、本願発明の「ストリップを走行せしめる状態下」で行われていると認められる。また、引用発明の「ΔFoT(℃)」は、本願発明の「ΔF0T(℃)」と同意であるが、引用発明のΔFoT(℃)は37℃であるから、本願発明における「ΔF0T(℃)≦1.25・B+50」をB含有量に無関係に満足する。 してみると、本願発明のうち、 「質量%で、 C:0.020?0.075%、 Si:2.5?4.5%、 酸可溶性Al:0.010?0.050%、 N≦0.0100%、 Mn:0.05?0.45%、 Sを単独で≦0.015%、 残部Fe及び不可避的不純物からなるスラブを、1280℃以下の温度に加熱後熱延し、圧下率80%以上の冷間圧延をし、次いで脱炭焼鈍をし、次いで鋼板の窒素量が120ppm以上となるように窒化処理を、ストリップを走行せしめる状態下で、水素、窒素、アンモニアの混合ガス中で650?850℃の範囲で行い、その後仕上げ焼鈍を行う一方向性電磁鋼板の製造方法において、熱延に際し、累積圧下率60%以上の粗圧延後に行う仕上げ熱延開始温度を900?1100℃とし、かつ、スラブのB含有量(ppm)、仕上げ熱延の開始温度のコイル偏差ΔF0T(℃)を下記式の範囲に制御することを特徴とする一方向性電磁鋼板の製造方法。 ΔF0T(℃)≦1.25・B+50」 (ただし、「残部」とは、相違点とする副成分を除く残部の意。) の点は、引用発明と一致し、本願発明のスラブが、 「B:0.0005?0.0040%、Cr:0.03?0.20%、Sn:0.02?0.15%」を含有するのに対し、引用発明のスラブがこれらの副成分を含有しない点で相違する。 なお、本願発明は、脱炭焼鈍完了後、最終仕上焼鈍開始までの一次再結晶粒の平均粒径について特定するものでないから、引用発明における当該平均粒径の限定は相違点にならない。 7.容易性の判断(相違点の検討) 相違点となる各副成分について検討する。 Snについて: 引用例には、インヒビターとして粒成長を抑制するAlNの場所的不均一を希釈するために、酸可溶性Alを0.010?0.060%含むスラブに、Snを0.01?0.15%含有せしめること(摘記1,2)が記載されている。 してみると、0.024%の酸可溶性Alを含有する引用発明のスラブにおいて、Snを0.02?0.15%含有せしめることは、当業者が容易になし得た副成分添加である。 Bについて: 引用例には、窒化物インヒビター構成元素として、さらにスラブ加熱時に鋼中固溶Nを低減させるために、Bを微量添加すること(摘記2)が記載されている。 してみると、0.0065%の固溶Nを含有する引用発明のスラブにおいて、その一部をBNとするために、0.0005?0.0040%のBを添加することは、当業者が容易になし得た副成分添加である。 Crについて: 引用例には、インヒビターを構成する元素としてCrを微量含有すること(摘記2)が記載されており、さらに、一方向性電磁鋼板において、脱炭焼鈍時の酸化促進元素としてスラブ中にCrを0.03?0.20%含有させること(要すれば、特開平6-256847号公報の段落0023?0024等参照)は周知である。 してみると、引用発明のスラブにおいて、Crを0.03?0.20%含有させることは、当業者が容易になし得た副成分添加である。 8.むすび 以上のとおり、本願発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である引用例に記載された発明と周知技術に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-11-20 |
結審通知日 | 2009-11-24 |
審決日 | 2009-12-07 |
出願番号 | 特願平11-85914 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C21D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 陽一 |
特許庁審判長 |
山田 靖 |
特許庁審判官 |
大橋 賢一 植前 充司 |
発明の名称 | 一方向性電磁鋼板の製造方法 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 中村 朝幸 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 永坂 友康 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 亀松 宏 |
代理人 | 亀松 宏 |
代理人 | 中村 朝幸 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 永坂 友康 |