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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B24B
管理番号 1210832
審判番号 不服2008-13515  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-29 
確定日 2010-01-25 
事件の表示 平成10年特許願第105730号「砥石の非接触ドレッシング・ツルーイング法およびその装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月19日出願公開、特開平11-285971〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本件出願の発明
本願は、平成10年3月31日の特許出願であり、平成19年11月13日付手続補正を経て平成20年4月24日付で拒絶査定がなされ、同年5月29日に査定を不服とする審判が請求されるとともに、同年6月30日付で明細書の手続補正がなされたものであり、平成21年8月7日付の当審による審尋に対し、同年9月28日に回答書が提出されたものである。
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、上記請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件出願の発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】加工物を研削するための、人工ダイヤモンドを砥粒、鋳鉄を結合剤とする薄刃砥石の停止時もしくは回転時、該ドレッシング・ツルーイングが必要な砥石の使用面もしくは補助使用面に対して波長532nmのYAGレーザーを照射し、該使用面もしくは補助使用面の結合剤を溶融、蒸発させ、砥粒突きだし量を増加させることを特徴とする砥石の非接触ドレッシング・ツルーイング法。」

第2 引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平9-285962号公報(以下「引用例」という。)の記載内容は以下のとおりである。
1 引用例記載の事項
引用例には以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、樹脂性のボンドを使用した砥石の砥粒突き出し量の調節方法に関する。」
「【0009】図1に示すように、レーザー発振器1から出たレーザー光線2は、ミラー3等の光学系を通り砥石表面に照射される。
【0010】レーザー発振器1は、レーザー制御装置6と接続しており、レーザー光線2の照射エネルギー・照射数・照射時間をコントロールすることができる。
【0011】砥石4はモータ5に接続しており、回転するようになっている。また、モータ5にはモータ制御装置7が接続いており、モータ5の回転数を制御できるようになっている。
【0012】レーザー制御装置6とモータ制御装置7はそれぞれ総合制御装置8に接続しており、総合制御装置8によってそれぞれ制御される。
【0013】図2に示すように、レーザー光線2が砥石表面に照射することにより、樹脂ボンド9のみが除去され、砥粒10が突き出る。
【0014】図3に示すように、光学系にレンズ12加えることにより、レーザー光線2の照射エネルギーを増幅し、1回の除去量を増やすことも可能である。
【0015】図4に示すように、樹脂ボンドの除去工程は、次のように進行する。まずレーザー光線2が樹脂ボンド9に照射されると樹脂ボンド9はレーザー光線2を吸収し、光化学反応によって樹脂ボンド9を構成する高分子の化学結合を切断する。その後アブレーションと言われる現象により、樹脂ボンド9を構成する高分子は重合体(ポリマー)から単量体(モノマー)へと変化し、体積膨張によって飛散し除去される。
【0016】この砥石の砥粒突き出し量調整方法は、レーザー光線2の照射したところのみ除去されるので、図5で示すような凹凸形状の総型砥石13でも通常砥石14と同じように凹凸形状に沿って、同量だけ除去することができる。
【0017】樹脂ボンドに使用する樹脂材料としては、ポリサルホン・ポリエーテルサルホン・ポリフェニルサルホン・ポリフタルアミド・ポリカーボネート・ポリイミド・ポリエステル・エポキシ・ポリウレタン・アクリルが挙げられる。
【0018】図6,7は上記に示した樹脂材料のうち、ポリサルホン・ポリエーテルサルホン・ポリフェニルサルホン・ポリフタルアミド・ポリカーボネートの5つの樹脂材料について実験を行った結果である。レーザーは波長248nmのKrFエキシマレーザーを使用した。照射条件としては、発振周波数50Hz、照射エネルギー0.5,1.0J/cm^(2)、照射数を10,50,100,150,200Shot(ショット)での各樹脂材料の除去量を求めた。図6,7のグラフから、レーザー光線2の照射数と除去量が比例関係にあること、1回の照射でサブミクロンオーダーの加工ができることが確認できた。今回確認できなかった樹脂材料についても、波長193nmのArFエキシマレーザーや波長308nmのXeClエキシマレーザーを使用することにより、サブミクロンオーダーの加工が可能である。」
2 引用例記載の発明
引用例記載の事項を技術常識を考慮に入れながら本件出願の発明に照らして整理すると、引用例には以下の発明が記載されていると認める。
「加工物を研削するための、樹脂ボンドを使用した総型砥石ないし通常砥石の停止時もしくは回転時、砥石表面に対して波長248nmのKrFエキシマレーザー、波長193nmのArFエキシマレーザーないし波長308nmのXeClエキシマレーザーを照射し、砥石表面の樹脂ボンドを光化学反応によって変成させ、その後アブレーションによって飛散除去させ、砥粒突きだし量を増加させる砥石の砥粒突き出し量の調節方法。」

第3 対比
本件出願の発明と引用例記載の発明とを対比すると以下のとおりである。
引用例記載の発明の「樹脂ボンド」は、砥粒の結合剤であるという限りで、本件出願の発明の「結合剤」と共通しており、引用例記載の発明の「総型砥石ないし通常砥石」と本件出願の発明の「薄刃砥石」とは、「砥粒と結合剤からなる砥石」である限りにおいて共通している。
また、引用例記載の発明の「砥石表面」が、本件出願の発明の「砥石の使用面」に相当し、引用例記載の発明の「砥粒突き出し量の調節」が、本件出願の発明の「非接触ドレッシング・ツルーイング」に相当することは明らかである。
さらに、引用例記載の発明において「砥石表面に対して波長248nmのKrFエキシマレーザー、波長193nmのArFエキシマレーザーないし波長308nmのXeClエキシマレーザーを照射し、砥石表面の樹脂ボンドを光化学反応によって変成させ、その後アブレーションによって飛散除去させ」ることは、砥石の使用面に対してレーザーを照射し、該使用面の結合剤を除去させるという限りで、本件出願の発明において「砥石の使用面もしくは補助使用面に対して波長532nmのYAGレーザーを照射し、該使用面もしくは補助使用面の結合剤を溶融、蒸発させ」ることと共通している。
したがって、本件出願の発明と引用例記載の発明とは以下の点で一致している。
「加工物を研削するための砥粒と結合剤とからなる砥石の停止時もしくは回転時、ドレッシング・ツルーイングが必要な砥石の使用面に対してレーザーを照射し、該使用面の結合剤を除去させ、砥粒突きだし量を増加させる砥石の非接触ドレッシング・ツルーイング法。」である点。
そして、本件出願の発明と引用例記載の発明とは以下の2点で相違している。
1 相違点1
本件出願の発明では、ドレッシング・ツルーイングされる砥石が、人工ダイヤモンドを砥粒、鋳鉄を結合剤とする薄刃砥石であるのに対して、引用例記載の発明では、砥粒の材質が明らかでなく、また、結合剤が樹脂である総型砥石ないし通常砥石である点。
2 相違点2
本件出願の発明では、砥石の使用面に照射されるレーザーが、波長532nmのYAGレーザーであって、レーザー照射によって使用面の結合剤を溶融、蒸発させているのに対して、引用例記載の発明では、当該レーザーが、波長248nmのKrFエキシマレーザー、波長193nmのArFエキシマレーザーないし波長308nmのXeClエキシマレーザーであって、レーザー照射によって使用面の結合剤である樹脂を化学的に変成させて飛散除去している点。

第4 相違点についての検討
1 相違点1について
人工ダイヤモンドを砥粒、鋳鉄を結合剤とする砥石は、例えば、特開平7-186046号公報、特開平4-372368号公報等に示されているように従来周知であり、これらを薄刃の砥石とすることは、砥石による加工対象に応じて当業者が従来よりなしてきた設計に過ぎない。
そして、この従来周知の薄刃砥石にあっても、その使用経過に応じてドレッシング・ツルーイングすることは当然必要となる。
そうしてみると、ドレッシング・ツルーイングされる砥石として、上記従来周知の薄刃砥石を対象とすることに何らの困難性もない。
2 相違点2について
砥石の非接触ドレッシング・ツルーイングに使用するレーザーとして、どのようなタイプ・波長のレーザーを採用するかは、対象となる砥石の組成に応じて、適宜選択することが出来る単なる設計的事項にすぎない。
そして、平成20年7月15日付手続補正書の第11頁下から4?2行において請求人もその旨述べているように、YAGレーザーは、基本的な波長として1064nmの赤外線を発するものの外、波長532nmの可視光を発するものもあることは従来からよく知られているところであり、また、波長532nmのYAGレーザーによって、金属を溶融、蒸発させることは、例えば、国際公開第97/19580号、特開平9-10983号公報、特開平5-42382公報等に示されているように従来周知である。
そうしてみると、レーザーにより非接触ドレッシング・ツルーイングされる砥石として、人工ダイヤモンドを砥粒、鋳鉄を結合剤とする薄刃砥石を対象とした場合、使用するレーザーとして、波長532nmのYAGレーザーを採用し、レーザー照射によって使用面の結合剤である鋳鉄を溶融、蒸発させるように構成することに格別の困難性は見当たらない。
3 本件出願の発明の効果について
本件出願の発明の採用する構成によってもたらされる効果も、引用例記載の発明及び上記従来周知の事項から当業者であれば予測できる程度のものであって格別のものではない。

第5 むすび
したがって、本件出願の発明は、引用例記載の発明及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許をすることができない。
よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-25 
結審通知日 2009-11-27 
審決日 2009-12-08 
出願番号 特願平10-105730
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B24B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 今関 雅子  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 今村 亘
千葉 成就
発明の名称 砥石の非接触ドレッシング・ツルーイング法およびその装置  
代理人 須藤 阿佐子  

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