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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1211051
審判番号 不服2007-7043  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-03-08 
確定日 2010-02-04 
事件の表示 特願2006-166741「測定機の真直精度補正方法および測定機」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月14日出願公開、特開2006-242969〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年1月18日に出願した特願2000-8990号(以下「原出願」という。)の一部を平成18年6月15日に新たな特許出願としたものであって、平成19年1月31日付けで拒絶査定(同年2月6日発送)がなされ、これに対し、同年3月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。


第2.本願発明
本願の請求項1乃至5に係る発明は、願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載される事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
直動機構を有する測定機の真直精度補正方法であって、
前記測定機の直動機構を使って検出器を移動させながら、予め形状データが高精度測定装置によって計測され値付けされたマスターワークを測定し、そのマスターワーク測定データから前記値付けされた形状データを差し引いて直動機構の真直精度データを求める真直精度データ算出工程と、
前記測定機の直動機構を使って検出器を移動させながら、ワークを測定し、そのワーク測定データを求めるワーク測定データ算出工程と、
前記ワーク測定データから前記真直精度データを差し引いてワークの真値データを求めるワーク形状演算工程とを備えることを特徴とする測定機の真直精度補正方法。」


第3.先願明細書等の記載事項及び先願発明
原査定の拒絶の理由において引用された、原出願の出願の日前の他の特許出願であって、原出願の出願後に出願公開された特願平10-251424号(特開2000-81329号公報参照。以下「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。

<先願の明細書の記載事項>
・段落【0008】
「本発明は、前述した課題に鑑み為されたもので、形状測定装置により得られた被測定物表面の測定値から、形状測定装置に固有な誤差や誤差の経時変化の影響等を確実に取り除くことを可能し、高い測定精度を得ることを可能にする形状測定方法及び形状測定装置を提供することを目的としている。」
・段落【0009】【課題を解決するための手段】
「請求項1に記載の形状測定方法は、被測定物表面を走査して、被測定物表面の位置情報を2次元もしくは3次元の座標値として取り込み、被測定物表面の形状を測定する形状測定装置を用いた形状測定方法において、被測定物に近似な形状を有し、設計上の形状データが明らかな原器の形状を測定して第1の測定値を求める第1のステップと、第1の測定値と前記原器の形状データとから形状測定装置に起因する装置誤差量を求める第2のステップと、被測定物の形状を測定し、第2の測定値を求める第3のステップと、装置誤差量を用いて第2の誤差量(当審註:該「第2の誤差量」は誤記であり、正しくは「第2の測定値」であると認められる。)を補正し、被測定物の測定値を求める第4のステップとから構成されることを特徴とする。」
・段落【0010】
「請求項2に記載の形状測定装置は、被測定物表面を走査して、被測定物表面の位置情報を2次元もしくは3次元の座標値として取り込み、被測定物の形状を測定する形状測定装置において、被測定物に近似な形状を有し、設計上の形状データが明らかな原器を測定して第1の測定値を求め、第1の測定値から原器の形状データを減算して、前記形状測定装置に起因する装置誤差量を求める測定誤差検出手段と、被測定物を測定して第2の測定値を求め、さらに装置誤差量を用いて第2の測定値を補正し、被測定物の測定値を求める形状測定手段とを備えることを特徴とする。」
・段落【0013】
「また、それぞれのステージ11,13には移動量を検出するための図示しない位置検出手段が設けてある。図3は、本発明の対象となる2次元(X,Z空間)の形状測定装置の一例を示す。図3に示す形状測定装置は、ベース1上にガイド5とフレーム3が設けられている。ガイド5は、被測定物9を搭載する測定物用のステージ11を備え、ステージ11はガイド5に沿ってX方向に移動可能に構成されている。」
・段落【0014】
「プローブ15を搭載したプローブ用のステージ13は、Z軸スライド17に結合されている。Z軸スライド17は、Z軸用のガイド7に沿ってZ方向に移動可能に構成されている。したがって、プローブ15は、Z方向に移動可能である。 また、それぞれのステージ11,13(又はZ軸スライド17)には移動量を検出するための図示しない位置検出手段が設けてある。」
・段落【0016】
「図2又は図3に示す形状測定装置において、プローブ15を被測定物9に接触させ、被測定物9を相対的に走査し、あらかじめ定められた複数の位置におけるステージ11,13の位置情報を取り込む。これによって、プローブ15と被測定物9との接触点、すなわち被測定物9表面の座標情報を測定値として得ることができる。」
・段落【0018】
「一般に、形状測定装置の測定誤差は、各ステージ11,13の走りの真直度、直角度、及びプローブ15上の接触位置に依存したプローブ15の誤差が支配的である。これは、換言すると、形状測定装置の測定誤差は、被測定物9を形状測定装置のどの位置でどのような姿勢で測定を行ったかにより、ほぼ決まることを意味する。」
・段落【0019】
「本発明の実施の形態では、以下の手法により、真の非球面レンズの形状を示す座標情報S2を得る。まず、被測定物9である非球面レンズに近似した別の原器球面レンズ(ベストフィット球面)を用意する。この原器球面レンズは、後述するように、あらかじめ計算により正確な形状データが得られている。そして、前記非球面レンズを測定する時と同じ位置、同じ姿勢で前記原器球面レンズを測定し、原器球面レンズの実際の測定値を得る。この動作により、前記原器球面レンズの測定値には前述した形状測定装置の測定誤差の性質から、非球面レンズ測定時とほぼ同一の測定誤差が含まれている。」
・段落【0020】
「ここで、非球面レンズに近似した原器球面レンズとは、前記非球面の形状に最もフィットするように曲率半径が調整された球面レンズ(ベストフィット球面を備えたレンズ)という意味である。図5は、前記原器球面レンズの実際の測定値S4、及び前記原器球面レンズ(ベストフィット球面)について計算で求められた形状データS5、測定誤差S6の関係を示す図である。図中、実線S4がベストフィット球面の実際の測定値を示し、破線S5がベストフィット球面の形状データを示し、一点鎖線S6が測定誤差(以後、フィッティング残渣と称する)を示している。」
・段落【0021】
「ここで、前記原器球面レンズの測定値S4からあらかじめ判明している該原器球面レンズの形状データS5を減算し、形状測定装置の当該測定位置におけるフィッティング残渣S6が求められる。このフィッティング残渣S6は、前記原器球面レンズの製造誤差(理想球面からの乖離)と前記形状測定装置の測定誤差を含んでいる。」
・段落【0022】
「しかし、球面レンズは極めて高精度(1nm rms以下)に製造することが可能であるため、このような球面レンズを原器として用いれば前記製造誤差は無視することができ、前記フィッティング残渣S6は形状測定装置の測定誤差を表すことになる。上記の手法により、形状測定装置の所定の位置((X,Z)座標)における測定誤差S3=フィッティング残渣S6を得ることができる。」
・段落【0023】
「前記の通り図4は、非球面レンズの測定値S1と測定誤差S3との関係を示す図である。 図5に示すように、前記原器球面レンズのフィッティング残渣S6をデータとして記憶しておき、測定誤差S3とS6が同じ値であることから、図4における前記非球面レンズの測定値S1から減算補正する。これによって、非球面レンズの真の座標情報S2を求めることが可能となる。」
・段落【0024】
「前記した実施の形態では、被測定物9および近似球面を凸面として図示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の如何なる形状、例えば凹面であっても構わない。 また、極めて高精度に製造された球面を用いる代わりに、球面レンズの製造誤差を別の測定機、例えばフィゾー型の干渉計で計測しておき、その結果をあらかじめ該球面レンズ測定結果から差し引いておくことでも同様の効果が得られる。」
・段落【0026】
「次に、ステップS103において、被測定物の形状測定を形状測定装置を用いて行う。 最後に、ステップS104において、ステップS103で得られた被測定物の測定値からフィッティング残渣を減算補正し、真の被測定物の座標情報を求める。なお、前記実施の形態において、フィッティング残渣の算出や被測定物の測定結果からフィッティング誤差を補正する処理は、形状測定装置に接続された計算機により自動的に行うことができる。したがって、作業者は被測定物とその近似形状の原器の測定を行うだけでよい。」

<先願の図面の記載事項>
・【図3】の記載から『図示の形状測定装置は、X方向及びZ方向に移動可能なステージ11,13を有している』点が読みとれる。

そこで、先願明細書等の記載事項について順次検討する。
(1)第一に、段落【0008】の「本発明は、…、形状測定装置により得られた被測定物表面の測定値から、形状測定装置に固有な誤差…を確実に取り除くことを可能…にする形状測定方法…。」という記載について検討する。
まず、上記「形状測定装置」は、段落【0013】,【0014】,【図3】の記載から明らかなように、X方向及びZ方向に移動可能なステージ11,13を有している。
また、上記「形状測定装置に固有な誤差」には、段落【0018】の「一般に、形状測定装置の測定誤差は、各ステージ11,13の走りの真直度、直角度、及びプローブ15上の接触位置に依存したプローブ15の誤差が支配的である。…。」という記載から明らかなように、少なくとも「ステージ11,13」「の走りの真直度」「の誤差」が含まれている。
よって、先願明細書等に記載された発明は『X方向及びZ方向に移動可能なステージ11,13を有する形状測定装置により得られた被測定物表面の測定値からステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差を確実に取り除くことを可能にする形状測定方法において』のものであるといえる。

(2)第二に、段落【0009】の「…設計上の形状データが明らかな原器の形状を測定して第1の測定値を求める第1のステップ…」という記載について検討する。
まず、上記「形状を測定」は、段落【0013】,【0014】,【0016】等の記載から明らかなように、形状測定装置のステージ11,13を使ってプローブ15を移動させながら行われるものといえる。
また、上記「設計上の形状データが明らかな原器」について、「原器」とは、具体的には段落【0019】乃至【0024】において「原器球面レンズ」や単に「球面レンズ」,「球面」と表記されるものと同じである。そして、上記「原器球面レンズ」の「設計上の形状データが明らかな」理由は、段落【0024】の「…また、極めて高精度に製造された球面を用いる代わりに、球面レンズの製造誤差を別の測定機、例えばフィゾー型の干渉計で計測しておき、その結果をあらかじめ該球面レンズ測定結果から差し引いておくことでも同様の効果が得られる。」という記載から明らかなように、直接的には、原器球面レンズが極めて高精度に設計値どおりに製造されるからであるが、これの代わりに、球面レンズの製造誤差を別の測定機であるフィゾー型の干渉計で計測しておき、その結果を当該球面レンズのものであると認識することを理由に、形状データが明らかとなるものともいえる。
よって、先願明細書等に記載された発明は『原器球面レンズの製造誤差を別の測定機であるフィゾー型の干渉計で計測して当該原器球面レンズのものであると認識することによって形状データが明らかとなった原器球面レンズの形状を、形状測定装置のステージ11,13を使ってプローブ15を移動させながら測定して第1の測定値を求める第1のステップ』を具備するものといえる。

(3)第三に、段落【0009】の「…第1の測定値と前記原器の形状データとから形状測定装置に起因する装置誤差量を求める第2のステップ…」という記載について検討する。
まず、上記「形状測定装置に起因する装置誤差量」とは、上記(1)に説示した、ステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差と同じものであるといえる。
また、上記「第1の測定値と前記原器の形状データとから」「求める」とは、段落【0010】の「…第1の測定値から原器の形状データを減算して…」という記載や段落【0024】の「…その結果をあらかじめ該球面レンズ測定結果から差し引いておく…」という記載から明らかなように、第1の測定値から原器の形状データを減算することであるといえる。
よって、先願明細書等に記載された発明は『第1の測定値から原器球面レンズの形状データを減算して、ステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差を求める第2のステップ』を具備するものといえる。

(4)第四に、段落【0009】の「…被測定物の形状を測定し、第2の測定値を求める第3のステップ…」という記載について検討するに、上記「形状を測定」は、段落【0013】,【0014】,【0016】等の記載から明らかなように、形状測定装置のステージ11,13を使ってプローブ15を移動させながら行われるものといえる。
よって、先願明細書等に記載された発明は『形状測定装置のステージ11,13を使ってプローブ15を移動させながら、被測定物の形状を測定し、第2の測定値を求める第3のステップ』を具備するものといえる。

(5)第五に、段落【0009】の「…形状測定装置に起因する装置誤差量を用いて第2の測定値を補正し、被測定物の測定値を求める第4のステップ…」という記載について検討する。
まず、上記「装置誤差量を用いて第2の測定値を補正し」とは、段落【0026】の「…最後に、ステップS104において、ステップS103で得られた被測定物の測定値からフィッティング残渣を減算補正し、真の被測定物の座標情報を求める。…」という記載から明らかなように、第2の測定値から装置誤差量を減算補正することであるといえる。
よって、先願明細書等に記載された発明は『第2の測定値からステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差を減算補正し、被測定物の測定値を求める第4のステップ』を具備するものといえる。

以上から先願明細書等には、
『X方向及びZ方向に移動可能なステージ11,13を有する形状測定装置により得られた被測定物表面の測定値からステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差を確実に取り除くことを可能にする形状測定方法において、
原器球面レンズの製造誤差を別の測定機であるフィゾー型の干渉計で計測して当該原器球面レンズのものであると認識することによって形状データが明らかとなった原器球面レンズの形状を、形状測定装置のステージ11,13を使ってプローブ15を移動させながら測定して第1の測定値を求める第1のステップと、
第1の測定値から原器球面レンズの形状データを減算して、ステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差を求める第2のステップと、
形状測定装置のステージ11,13を使ってプローブ15を移動させながら、被測定物の形状を測定し、第2の測定値を求める第3のステップと、
第2の測定値からステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差を減算補正し、被測定物の測定値を求める第4のステップと、
を具備する形状測定方法。』
の発明(以下「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。


第4.対比
(1)まず、先願発明の
「X方向及びZ方向に移動可能なステージ11,13」,「形状測定装置」,「プローブ15」,「原器球面レンズ」,「第1の測定値」,「減算」,「被測定物」,「第2の測定値」,「第3のステップ」,「減算補正」,「被測定物の測定値」,「第4のステップ」,「具備する」は、それぞれ本願発明の「直動機構」,「測定機」,「検出器」,「マスターワーク」,「マスターワーク測定データ」,「差し引いて」,「ワーク」,「ワーク測定データ」,「ワーク測定データ算出工程」,「差し引いて」,「ワークの真値データ」,「ワーク形状演算工程」,「備える」に相当する。

(2)次に、先願発明の「ステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差を確実に取り除く」について、これは少なくとも「ステージ11,13の走りの真直度の誤差」「を確実に取り除く」ものといえ、これは真直精度を補正するものといえる。
また、先願発明は直接的には「形状測定方法」についての発明であるが、上述のとおり真直精度の補正を伴うものであるから、真直精度を補正する方法であるともいえる。
よって、本願発明と先願発明とは、「真直精度補正方法」である点で一致している。

(3)次に、一方で、先願発明の「原器球面レンズの製造誤差を別の測定機であるフィゾー型の干渉計で計測して」「形状データが明らかとなった」とは、原器球面レンズの形状データが別の測定機であるフィゾー型の干渉計で計測されたものといえる。
また、先願発明の「原器球面レンズの製造誤差」とは原器球面レンズの製造上の形状の設計値から原器球面レンズの形状の真値がどの程度隔たっているのかを表す値であるから、これは原器球面レンズの形状データであるといえる。
他方で、本願発明の「値付け」の意味について、本願の明細書等において直接的な定義はされていない。そこで、本願の明細書等の「値付け」に関連する記載事項、特に本願の特許請求の範囲の請求項1の「値付け」という用語の前後の記載事項を考慮して常識的に「値付け」の意味を解釈すると、請求項1の「…予め形状データが高精度測定装置によって計測され値付けされたマスターワーク…」という記載において、「値付け」の「値」とはその直前に記載されている「計測」の結果たる計測値、すなわち「マスターワーク」を「計測」して得られた結果たる「マスターワーク」の「形状データ」の値のことであり、また、「付け」とはその直後に記載されている「マスターワーク」に対して「された」ものであるから、「形状データ」の「値」を当該「マスターワーク」のものであると認識することであるといえる。そうすると、本願発明の「値付け」の意味は、「マスターワーク」を「計測」して得られた結果たる「マスターワーク」の「形状データ」の値を、当該「マスターワーク」のものであると認識することであるといえる。
よって、先願発明の「原器球面レンズの製造誤差を別の測定機であるフィゾー型の干渉計で計測して当該原器球面レンズのものであると認識することによって形状データが明らかとなった原器球面レンズの形状を、形状測定装置のステージ11,13を使ってプローブ15を移動させながら測定して第1の測定値を求める第1のステップ」と、本願発明の「前記測定機の直動機構を使って検出器を移動させながら、予め形状データが高精度測定装置によって計測され値付けされたマスターワークを測定」する「真直精度データ算出工程」とは、「前記測定機の直動機構を使って検出器を移動させながら、予め形状データが」「測定装置によって計測され値付けされたマスターワークを測定」する「真直精度データ算出工程」である点で共通である。
なお、計量法第2条第8項には、「この法律において「標準物質の値付け」とは、その標準物質に付された物象の状態の量の値を、その物象の状態の量と第百三十4条第1項の規定による指定に係る器具、機械又は装置を用いて製造される標準物質が現示する計量器の標準となる特定の物象の状態の量との差を測定して、改めることをいう。」との規定があり、「標準物質の値付け」の用語が定義されている。
しかしながら、上記定義はあくまで計量法の各規定中に用いられる「標準物質の値付け」という用語を定義するものであって、本願の明細書等の中で用いられる用語を定義するものではない。また、上記定義は「標準物質の値付け」という用語を定義するものであって、単なる「値付け」という用語を定義するものではない。
したがって、上記定義にかかわらず、本願発明の発明特定事項たる「値付け」の意味は上述のとおりのものと解すべきである。

(4)次に、先願発明の「ステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差」は、上記「第3.」の「(1)」で説示したように、少なくとも「ステージ11,13の走りの真直度の誤差」を含むものである。そして、「真直度の誤差」は真直精度のデータであるといえる。
よって、先願発明の「第1の測定値から原器球面レンズの形状データを減算して、ステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差を求める第2のステップ」は、本願発明の「そのマスターワーク測定データから前記値付けされた形状データを差し引いて直動機構の真直精度データを求める真直精度データ算出工程」に相当する。

(5)最後に、先願発明の「形状測定装置のステージ11,13を使ってプローブ15を移動させながら、被測定物の形状を測定し、第2の測定値を求める第3のステップ」及び「第2の測定値からステージ11,13の走りの真直度の誤差を含む形状測定装置に固有な誤差を減算補正し、被測定物の測定値を求める第4のステップ」は、それぞれ本願発明の「前記測定機の直動機構を使って検出器を移動させながら、ワークを測定し、そのワーク測定データを求めるワーク測定データ算出工程」及び「前記ワーク測定データから前記真直精度データを差し引いてワークの真値データを求めるワーク形状演算工程」に相当している。

したがって、本願発明と先願発明とは、

《一致点》
「直動機構を有する測定機の真直精度補正方法であって、
前記測定機の直動機構を使って検出器を移動させながら、予め形状データが」「測定装置によって計測され値付けされたマスターワークを測定し、そのマスターワーク測定データから前記値付けされた形状データを差し引いて直動機構の真直精度データを求める真直精度データ算出工程と、
前記測定機の直動機構を使って検出器を移動させながら、ワークを測定し、そのワーク測定データを求めるワーク測定データ算出工程と、
前記ワーク測定データから前記真直精度データを差し引いてワークの真値データを求めるワーク形状演算工程とを備えることを特徴とする測定機の真直精度補正方法。」

である点で一致し、以下の点で一応相違している。

《相違点》
「マスターワーク」の「形状データ」を「予め」「計測」するための「測定装置」が、本願発明では「高精度」であるのに対して、先願発明では、先願明細書等にはこれが高精度であるとの明記はされておらず、「別の測定機、例えばフィゾー型の干渉計」である点。


第5.判断
以下、相違点について検討する。
(1)まず、先願発明において「原器球面レンズの製造誤差を別の測定機であるフィゾー型の干渉計で計測」することの技術的意義について検討する。
先願明細書等の段落【0024】の「…また、極めて高精度に製造された球面を用いる代わりに、球面レンズの製造誤差を別の測定機、例えばフィゾー型の干渉計で計測しておき、その結果をあらかじめ該球面レンズ測定結果から差し引いておくことでも同様の効果が得られる。」という記載がある。上記記載の前段部分の「極めて高精度に製造された球面」によれば、原器球面レンズは極めて高精度に製造されるものといえ、これによって原器球面レンズの形状データは製造上の設計値に極めて近い値になるのであるから、原器球面レンズの形状は製造上の設計値とおりであるという意味で、原器球面レンズの形状は高精度に明らかになるという効果があるものといえる。そして上記記載の後段部分の「球面レンズの製造誤差を別の測定機、例えばフィゾー型の干渉計で計測しておき、その結果をあらかじめ該球面レンズ測定結果から差し引いておく」は、前段部分の「代わりに」行われるものであって前段部分と「同様の効果が得られる」ものである。とすれば、後段部分は、前段部分と同様に、原器球面レンズの形状は高精度に明らかになるという効果を有するものといえる。そして、後段部分がこのような効果を有するためには、「球面レンズの製造誤差」が高精度な「別の測定機、例えばフィゾー型の干渉計で計測」される必要があることは、当業者において自明である。
そうすると、先願発明における「別の測定機、例えばフィゾー型の干渉計」について、先願明細書等に高精度なものとの明記がされていないとはいえ、当業者によればこれを高精度なものと解するのが自然であるといえる。

(2)また、一般に一方の測定装置を他方の測定装置の測定結果を用いて補正する場合、他方の測定装置の測定精度が一方の測定装置のものより高い必要があることは、計測の技術分野において常識である。そうすると、先願発明における「別の測定機であるフィゾー型の干渉計」は「形状測定装置」よりも高精度なものであるというべきである。

(3)また、一般にフィゾー型の干渉計は、例えば特開平11-337321号公報(段落【0008】等参照), 特開平10-163139号公報(段落【0004】等参照)及び特開平11-325848号公報(段落【0002】等参照)等に記載されているように高精度な測定装置として知られている。そうすると、先願発明における「別の測定機であるフィゾー型の干渉計」も、特段の事情が無い限り、高精度なものであるといえる。

(4)以上から、先願発明の「別の測定機であるフィゾー型の干渉計」は本願発明の「測定装置」と同様に高精度なものといえるので、この点で両者は実質的には相違しておらず、上記相違点は実質的なものではない。


第6.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、先願発明と同一であると認められ、しかも、先願の発明者が本願の発明者と同一の者ではなく、また、本願の出願時に本願の出願人と先願の出願人とが同一の者でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願発明が特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-25 
結審通知日 2009-12-01 
審決日 2009-12-14 
出願番号 特願2006-166741(P2006-166741)
審決分類 P 1 8・ 16- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大和田 有軌  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 森口 正治
後藤 時男
発明の名称 測定機の真直精度補正方法および測定機  
代理人 中山 寛二  
代理人 特許業務法人樹之下知的財産事務所  
代理人 石崎 剛  
代理人 木下 實三  

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