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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1211104
審判番号 不服2008-13563  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-29 
確定日 2010-02-04 
事件の表示 特願2004- 69177「測定装置および測定ユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月22日出願公開、特開2005-257455〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年3月11日の出願であって、平成20年1月31日付け拒絶理由通知に対して、同年4月3日付けで手続補正がされたが、同年4月25日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月29日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。

そして、本願の請求項1?9に係る発明は、平成20年4月3日付け手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲請求項1?9に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明は次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
光ビームを発生させる光源と、
前記光ビームに対して透明な誘電体ブロック、該誘電体ブロックの一面に形成される薄膜層、および該薄膜層の表面上に試料を保持可能に形成された試料保持部を備えてなり、前記薄膜層が前記表面上に特性の異なる2つの領域を有する測定チップと、
前記薄膜層の前記表面上に前記試料を供給する供給路、および前記表面上から前記試料を排出する排出路を備え、前記測定チップの前記試料保持部内に出入自在に装填される流路ユニットと、
前記薄膜層の異なる2つの領域のうちの一方の領域と前記誘電体ブロックとの第1界面、および前記2つの領域のうちの他方の領域と前記誘電体ブロックとの第2界面の各々に対して、全反射条件が得られる角度で並列的に前記光ビームを入射させる光学系と、
前記第1界面および前記第2界面で全反射した光ビームの強度を各々独立して検出する光検出手段と、
該光検出手段の検出結果に基づいて、前記薄膜層上の測定対象物の屈折率情報を求める屈折率情報取得手段とを備えてなることを特徴とする測定装置。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-65731号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の技術事項が記載されている。
なお、引用例に関し、平成20年1月31日付け拒絶理由通知では誤った番号により引用されたが、その後、請求人が正しい番号を確認の上、審判請求時に正しい公報番号に読み替えて意見を述べている。

(1)「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図に従って説明する。図1はSPR検出装置の概略を示す縦断面図である。図2はセンサーチップの拡大断面図である。
【0011】先ず、SPR検出装置1の概略を説明すると、SPR検出装置1のフレーム(図示せず)には金属製又は合成樹脂製の四角柱形状からなるプリズム保持体3が取付けられ、該プリズム保持体3には少なくとも一対で、図示する上下方向に軸線を有した軸支孔3aが形成されている。又、プリズム保持体3の上部中央部には半割り円筒形状のプリズム5が取付けられる支持凹所3bが形成され、プリズム5に対する光の入射側及び出射側に応じたプリズム保持体3には光通路3c・3dが支持凹所3b及び外部と連通して対称に形成されている。各光通路3c・3dの通路幅はプリズム5に対する光の入射及び出射の角度が夫々35?80度、100?145度の範囲となるように設定される。
【0012】プリズム保持体3の上部外縁には上方及び下方が開口した筒体7が取付けられ、該筒体7内にはセルブロック9が上下方向へ摺動可能に支持されている。セルブロック9の下面には軸支孔3aに軸支されるガイドロッド11の上部が固定され、プリズム保持体3の下面から突出したガイドロッド11の端部には固定板13が取付けられると共に該固定板13とプリズム保持体3下面の間に位置する各ガイドロッド11には圧縮ばね等の弾性部材15が装着されている。そしてセルブロック9は各弾性部材15の弾性力により軸線方向下方へ付勢されてプリズム保持体3の上面に圧接される。
【0013】セルブロック9の下面中央部には平面がほぼ楕円形のフローセル9aが形成され、該フローセル9aの長軸側端部に応じたセルブロック9には供給流路9b及び排出流路9cが夫々形成されている。
【0014】そしてプリズム5の上面及びセルブロック9の下面の間にはガラス基板17が相互に対して密着可能に取付けられ、セルブロック9側のガラス基板17上面には金薄膜及び銀薄膜の少なくとも何れかの金属薄膜(図示せず)が、フローセル9aとほぼ一致する大きさでイオンプレーティング法、スパッタ法及び蒸着法の何れかにより成膜されている。尚、ガラス基板17の金属薄膜上には試料溶液内の特定の物質を検出する抗体や試薬等が予め付着されている。
【0015】入射側の光通路3cに応じたフレームには光源19が、又出射側の光通路3dに応じたフレームには受光装置21が夫々配置されている。光源19はプリズム5に対し、ガラス基板17の金属薄膜境界面で収束する上記した所要の入射角度幅からなる光を照射したり、プリズム5の外周に沿った円弧上を所要の角度幅で回動してスポット光をガラス基板17の金属薄膜境界面に照射する。又、受光装置21は、例えば上記角度幅に応じた長さのCCDやフォトダイオードアレイ等からなり、夫々の角度毎に上記境界からの反射光強度を検出する。
【0016】セルブロック9の供給流路9bには供給アダプター23が、又排出流路9cには回収アダプター25がパイプ27・29を介して夫々接続されている。供給アダプター23及び回収アダプター25は合成樹脂材料又は金属材料からなり、夫々のアダプター23・25には吸引吐出具としてのマイクロピペット(図示せず)のチップ31が装着される装着部23a・25aが夫々のパイプ27・29と連通するように形成されている。」

(2)「【0020】先ず、試料溶液に応じた抗体等が付着されたガラス基板17の取付け方法を説明すると、弾性部材15の弾性力に抗してガイドロッド11を押し上げて筒体7に対してセルブロック9を上方へ移動してプリズム5の上面とセルブロック9下面との間に間隙を形成する。この状態にて共鳴角を検出しようとする試料溶液に応じた抗体等が予め付着されたガラス基板17を上記間隙内に差し込んでイオンプレーティング法、スパッタ法及び蒸着法の何れかにより成膜された金属薄膜をフローセル9aに一致させた後、ガイドロッド11の押し上げを中断してセルブロック9を下方へ移動してガラス基板17の下面にプリズム5を、又上面にセルブロック9を弾性部材15の弾性力に応じた圧力で夫々密着させる(図3参照)。
【0021】次に、図4に示すように予めセットされた量の試料溶液を吸引したマイクロピペットのチップ31を供給アダプター23の装着部23a内に圧入して弾性変形させながらテーパ面に密着した状態でマイクロピペットのピストンを押圧操作すると、試料溶液を押し出してパイプ27、供給流路9b及びフローセル9a内に充満させた後、その一部を排出流路9c、パイプ29を介して回収アダプター25の装着部25a内にオーバーフローさせる。このとき、装着部23aのテーパ面に対してチップ31が弾性変形して密着しているため、試料溶液の押し出しに伴って空気が混入するのを回避し、フローセル9a内に試料溶液のみを充満させることができる。
【0022】そしてフローセル9a内に試料溶液が充満した状態でプリズム5の入射側に対して光源19から光を所要の角度幅で照射すると共にガラス基板17の金属薄膜境界面からの反射光を受光装置21により受光し、反射光の強度が最小、従ってフローセル9a内に充満された試料溶液に対する光の吸光度が最大になる反射角度(共鳴角)を検出し、この共鳴角により試料成分を特定する。」

上記摘記事項(1)記載の「プリズム保持体3の上部中央部には半割り円筒形状のプリズム5が取付けられる支持凹所3bが形成され」、「プリズム保持体3の上部外縁には上方及び下方が開口した筒体7が取付けられ、該筒体7内にはセルブロック9が上下方向へ摺動可能に支持されている。」、「セルブロック9の下面中央部には平面がほぼ楕円形のフローセル9aが形成され」、及び、「プリズム5の上面及びセルブロック9の下面の間にはガラス基板17が相互に対して密着可能に取付けられ」、上記摘記事項(2)記載の「金属薄膜をフローセル9aに一致」、及び、「試料溶液を押し出してパイプ27、供給流路9b及びフローセル9a内に充満させた後、その一部を排出流路9c、パイプ29を介して回収アダプター25の装着部25a内にオーバーフローさせる。」、並びに、図2から、プリズム保持体3、筒体7、上面に金属薄膜を有するガラス基板17から形成される空間に試料溶液が保持されることが読み取れる。

また、上記摘記事項(2)記載の「金属薄膜をフローセル9aに一致」、「試料溶液を押し出してパイプ27、供給流路9b及びフローセル9a内に充満させた後、その一部を排出流路9c、パイプ29を介して回収アダプター25の装着部25a内にオーバーフローさせる。」から、供給流路9bは金属薄膜の表面上に試料溶液を供給し、及び、排出流路9cは金属薄膜の表面上から試料溶液を排出することが読み取れる。

上記摘記事項(1)記載の「光源19はプリズム5に対し、ガラス基板17の金属薄膜境界面で収束する上記した所要の入射角度幅からなる光を照射したり」、及び、上記摘記事項(2)記載の「試料溶液に応じた抗体等が付着されたガラス基板17」、及び、「フローセル9a内に試料溶液が充満した状態でプリズム5の入射側に対して光源19から光を所要の角度幅で照射すると共にガラス基板17の金属薄膜境界面からの反射光を受光装置21により受光し、反射光の強度が最小、従ってフローセル9a内に充満された試料溶液に対する光の吸光度が最大になる反射角度(共鳴角)を検出し、この共鳴角により試料成分を特定する。」から、試料溶液に応じた抗体が付着したガラス基板17の金属薄膜境界面に共鳴角で光を照射することが読み取れる。

これらの記載事項によると、引用例には、次の発明(以下、「引用例発明という。」)が記載されていると認められる。

「光を照射する光源19と、
プリズム5と、
プリズム5の上面に密着可能に取り付けられるガラス基板17の上面に成膜された金属薄膜とプリズム5を保持するプリズム保持体3と筒体7とを有する部材と、前記部材において、前記プリズム保持体3、前記筒体7、及び前記ガラス基板17から形成される空間に試料溶液が保持され、
前記金属薄膜の上面に試料溶液に応じた抗体が付着しており、
金属薄膜の表面上に試料溶液を供給する供給流路9b、および前記表面上から前記試料溶液を排出する排出流路9cを備え、該筒体7内に上下方向へ摺動可能に支持されたセルブロック9と、
試料溶液に応じた抗体が付着したガラス基板17の金属薄膜境界面に共鳴角で光を照射し、
金属薄膜境界面からの反射光強度を検出する受光装置21、
反射光の強度が最小になる反射角度である共鳴角を検出し、この共鳴角により試料成分を特定する表面プラズモン共鳴角検出装置。」

3.対比・判断
本願発明と引用例発明とを対比する。
(1)引用例発明の「光を照射する光源19」、「金属薄膜」、「供給流路9b」、「排出流路9c」、「セルブロック9」、「試料溶液」、「表面プラズモン共鳴角検出装置」は、
本願発明の「光ビームを発生させる光源」、「薄膜層」、「供給路」、「排出路」、「流路ユニット」、「試料」、「装置」に各々相当する。

(2)引用例発明の「プリズム5」は、技術常識からみて、ガラスやプラスチック等の透明な誘導体から構成されることから、本願発明の「光ビームに対して透明な誘電体ブロック」に相当する。

(3)引用例発明の「プリズム5を保持するプリズム保持体3、筒体7、上面に金属薄膜を有するガラス基板17から形成される空間に試料溶液が保持され」ることは、その構造からみて、本願発明の「薄膜層の表面上に試料を保持可能に形成された試料保持部」に相当する。

(4)引用例発明の「筒体7内に上下方向へ摺動可能に支持されたセルブロック9」は、上記(3)の考察における空間内にセルブロック9が出入自在に装填されることといえるから、本願発明の「試料保持部内に出入自在に装填される流路ユニット」に相当する。

(5)引用例発明の「共鳴角」は、引用例発明が「表面プラズモン共鳴角検出装置」であり、その測定原理からみて、本願発明の「全反射条件が得られる角度」に相当する。

(6)引用例発明のプリズム5、金属薄膜、プリズム保持体3、筒体7からなる「部材」と、本願発明の「測定チップ」とは、その構造からみて、測定部材という点で共通する。

(7)引用例発明の「プリズム5の上面に密着可能に取り付けられるガラス基板17の上面に成膜された金属薄膜」と、本願発明の「誘電体ブロックの一面に形成される薄膜層」とは、「誘電体ブロックの一面に配置される薄膜層」という点で共通する。

(8)引用例発明の「前記金属薄膜の上面に試料溶液に応じた抗体が付着しており」と、本願発明の「薄膜層が前記表面上に特性の異なる2つの領域を有する」とは、試料と反応する特性を有する材料を配置するという測定原理からみて、「薄膜層が前記表面上に特性を持った領域を有する」という点で共通する。

(9)引用例発明の「試料溶液に応じた抗体が付着したガラス基板17の金属薄膜境界面に共鳴角で光を照射し」と、本願発明の「薄膜層の異なる2つの領域のうちの一方の領域と前記誘電体ブロックとの第1界面、および前記2つの領域のうちの他方の領域と前記誘電体ブロックとの第2界面の各々に対して、全反射条件が得られる角度で並列的に前記光ビームを入射させる光学系」とは、入射光路からみて、「薄膜層の領域と誘電体ブロックとの界面に対して、全反射条件で得られる角度で光ビームを入射させる構成」という点で共通する。

(10)引用例発明の「金属薄膜境界面からの反射光強度を検出する受光装置21」と、本願発明の「前記第1界面および前記第2界面で全反射した光ビームの強度を各々独立して検出する光検出手段」とは、測定原理からみて、「界面で全反射した光ビームの強度を検出する光検出手段」である点で共通する。

(11)引用例発明の「反射光の強度が最小になる反射角度である共鳴角を検出し、この共鳴角により試料成分を特定する」と、本願発明の「光検出手段の検出結果に基づいて、前記薄膜層上の測定対象物の屈折率情報を求める屈折率情報取得手段」とは、光検出手段の検出結果に基づいて特定の情報を求めていることから、「光検出手段の検出結果に基づいて、前記薄膜層上の測定対象物の情報を求める情報取得手段」という点で共通する。

以上、(1)?(11)の考察から、両者は、

(一致点)
「光ビームを発生させる光源と、
前記光ビームに対して透明な誘電体ブロック、該誘電体ブロックの一面に構成される薄膜層、および該薄膜層の表面上に試料を保持可能に形成された試料保持部を備えてなり、前記薄膜層が前記表面上に特性を持った領域を有する測定部材と、
前記薄膜層の前記表面上に前記試料を供給する供給路、および前記表面上から前記試料を排出する排出路を備え、試料保持部内に出入自在に装填される流路ユニットと、
前記薄膜層の領域と前記誘電体ブロックとの界面に対して、全反射条件が得られる角度で前記光ビームを入射させる構成と、
前記界面で全反射した光ビームの強度を検出する光検出手段と、
該光検出手段の検出結果に基づいて、前記薄膜層上の測定対象物の情報を求める情報取得手段とを備えてなることを特徴とする測定装置」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
薄膜層がその表面に有する領域が、本願発明では、「表面上に特性の異なる2つの領域を有する」のに対し、引用例発明では、「前記金属薄膜の上面に試料溶液に応じた抗体が付着しており」と、領域の数について不明である点。
そして、この相違点に伴い、「前記薄膜層の領域と前記誘電体ブロックとの界面に対して、全反射条件が得られる角度で前記光ビームを入射させ、前記界面で全反射した光ビームの強度を検出する光検出手段」が、本願発明では、2つの領域に光ビームの入射及び反射光の検出ができるように「前記薄膜層の異なる2つの領域のうちの一方の領域と前記誘電体ブロックとの第1界面、および前記2つの領域のうちの他方の領域と前記誘電体ブロックとの第2界面の各々に対して、全反射条件が得られる角度で並列的に前記光ビームを入射させる光学系と、前記第1界面および前記第2界面で全反射した光ビームの強度を各々独立して検出する光検出手段」を有しているのに対し、引用例発明では、「試料溶液に応じた抗体が付着したガラス基板17の金属薄膜境界面に共鳴角で光を照射し、金属薄膜境界面からの反射光強度を検出する受光装置21」とし、光路が2つとなるような構成か否か不明である点。

(相違点2)
測定部材の構成において、本願発明が、薄膜層が「該誘電体ブロックの一面に形成され」、かつ、誘電体ブロック、薄膜層、試料保持部を備えた「測定チップ」であるのに対し、引用例発明では、金属薄膜が「プリズムの上面に密着可能に取り付けられるガラス基板の上面に成膜され」とプリズムと薄膜層とが別体であり、かつ、プリズム、金属薄膜、プリズム保持体、筒体を備えた部材で構成されている、すなわち、部材全体がチップ構造化していない点。

(相違点3)
情報取得手段が、本願発明では、「光検出手段の検出結果に基づいて、前記薄膜層上の測定対象物の屈折率情報を求める屈折率情報取得手段」であるのに対し、引用例発明では、「反射光の強度が最小になる反射角度である共鳴角を検出し、この共鳴角により試料成分を特定する」点。

(3)当審の判断
上記(相違点1)について検討する。
表面プラズモン共鳴測定装置において、参照用測定等のため、特性の異なる2つの領域を設け、同時に光を照射することは、周知の技術である。
例えば、特表平4-501462号公報(以下、「周知例1」という。)には、「並置状態にある複数のフローセルを有するタイプの液体取り扱い用ブロック・ユニットにおける流路系のさらに別の実施例によれば、すべてのフローセルは、それぞれ、同時にそれ自体の液体の供給を受ける。こうして、液体は分析装置において同時に分析することができる。これらの液体は種々のサンプル液であってもよいし、同じタイプのサンプル液であってもよい。また、多数のサンプル液プラス1つまたはそれ以上の参照液であってもよい。複数種類の液体を並列分析するこの方法によれば、分析に要する時間を短縮できる。」(第15頁左下欄第20行?右下欄第5行)とあり、同じタイプのサンプル液と、参照液という2種類の領域があるといえ、
特開2001-255267号公報(以下、「周知例2」という。)には、「【0038】実施例1と同じ方法で5つの領域(a、b、c、d、e)に区切った金の薄膜パターンを作製した。領域aには西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)を含んだOsポリマー(BAS社製)を塗布し、その後ヒスタミン酸化酵素を固定化した。領域bには同じくHRPを含んだOsポリマーを塗布し、その後グルタミン酸酸化酵素を固定化した。領域cにはHRPを含んだOsポリマーを塗布し、その後、ラクテート(乳酸)酸化酵素を固定化した。領域d、eには参照計測として、それぞれ、Osポリマーのみと、何も塗布しない領域を設けた。」と、測定領域と参照領域の2つの領域を設けることが記載されているといえ、
特開2003-254906号公報(以下、「周知例3」という。)には、「【0064】例えば、金属膜12上の半分の領域にセンシング物質30が固定され、残りの領域にはセンシング物質30が固定されていない測定チップを作成し、各測定流路がそれぞれの領域上に形成されるように、測定ユニットを取り付け、2つの測定流路における測定値の差を求めることにより、液体試料の温度変化等の影響で生じる測定誤差を相殺した測定結果を得ることができる。
【0065】なお、上述のように、測定流路を複数個形成する流路ユニット60あるいは70を用いた場合には、レーザ光源14、光学系15、コリメータレンズ16およびフォトダイオードアレイ17から成る測定系を2組配設して、同時に2つの測定流路の測定を行ってもよいし、あるいは1組の測定系を用いて、この測定系あるいは測定チップ9を移動させて、時分割で測定を行ってもよい。」と記載されており、
特開平9-257699号公報(以下、「周知例4」という。)には、「【0024】図4は、第2の実施形態を示す。この第2実施形態では、センサチップ1は円柱プリズム8(勿論、三角プリズムでもよい)に接合されているが、検知部2aとリファレンス2bとがプリズム8の中心軸に沿って並ぶような姿勢でプリズム8に接合されている。これにより、検知部2a及びリファレンス2bへの入射光の光軸をプリズム中心軸に平行な同一平面上に配置することができる。」と記載されている。

したがって、引用例発明の領域に対し、参照用測定等のために特性の異なる2つの領域を設け、同時に光を照射する旨の周知の構成を適用し、本願発明のようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

次に、上記(相違点2)について検討する。
表面プラズモン共鳴測定装置において、測定試料を配置する部材の周辺部をまとめてチップとして構成することは、上記周知例3に「【0033】【発明の実施の形態】以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明の第1の実施形態のエバネッセント波を利用したセンサーは、表面プラズモン共鳴を利用した表面プラズモンセンサーであり、図1は表面プラズモンセンサーの側面形状を示すものであり、図2は、この表面プラズモンセンサーに用いられる流路ユニットの上面図および側面図である。」の記載及び図1のように、特開2002-357544号公報の「【0046】次に、図5を参照して本発明の第4の実施形態について説明する。この第4の実施形態の測定装置も表面プラズモンセンサーであり、本装置は図1のものと比べると、用いている測定ユニット40の形状が異なるものである。本実施形態の測定ユニット40は、光ビームが入出力される部分と液体試料45を保持する容器状部41aとが一体化された、概略四角錐の一部が切り取られた形状のブロック41と、このブロック41の容器状部41aの底面に形成された、例えば金、銀、銅、アルミニウム等からなる金属膜43とを有しており、さらに、金属膜43の上にセンシング媒体44が固定されている。」の記載のように周知の技術である。
したがって、引用例発明のプリズムの上面に密着可能に取り付けられるガラス基板の上面に成膜された金属薄膜、プリズム、プリズム保持体、筒体を備えた部材に周知のチップ構成にする技術を適用し、本願発明のようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

上記(相違点3)について検討する。
表面プラズモン共鳴測定装置において、光検出器の検出結果に基づいて、薄膜層上の測定対象物の屈折率情報を求めることは、周知例1の「特定物質に関する光学応答性は、最小反射角が検知面での滞留物質の屈折率、表面濃度に関係するという点で、表面プラズモ共鳴、ブルースター角反射光測定および臨界角屈折率測定に応用できるP偏光の入射角の関数としての反射強度として測定され得る。」(第6頁右上欄第12?16行)の記載、周知例3の「【0053】以後、所定時間が経過する毎に上記選択された差動アンプ18dが出力する微分値I’が、所定の補正処理を受けてから表示部21に表示される。この微分値I’は、測定チップの金属膜12に接している物質の誘電率つまりは屈折率が変化し、全反射減衰角θSPが変化して、図4(1)に示す曲線が左右方向に移動する形で変化すると、それに応じて上下する。したがって、この微分値I’を時間の経過とともに測定し続けることにより、金属膜12に接しているセンシング物質30の屈折率変化を調べることができる。」の記載のように周知の技術である。
したがって、引用例発明の反射光の強度が最小になる反射角度である共鳴角を検出し、この共鳴角により試料成分を特定するための具体的手段として、周知の屈折率情報を求める技術を適用し、本願発明のように構成することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明の奏する効果についても、引用例及び周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって、本願発明は、引用例発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-24 
結審通知日 2009-12-01 
審決日 2009-12-14 
出願番号 特願2004-69177(P2004-69177)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樋口 宗彦  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 信田 昌男
居島 一仁
発明の名称 測定装置および測定ユニット  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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