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審決分類 審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) B01J
審判 一部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) B01J
管理番号 1211122
審判番号 無効2004-35128  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-03-08 
確定日 2010-02-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第2137309号「樹脂配合用酸素吸収剤及びその組成物」の特許無効審判事件についてされた平成20年 7月 1日付け審決に対し,知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10304号平成21年 8月18日判決言渡)があったので,さらに審理のうえ,次のとおり審決する。 
結論 特許第2137309号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2137309号の請求項1,2に係る発明についての出願は,平成1年3月28日の出願であって,平成10年7月10日にその発明についての特許権の設定登録がなされた。その後,平成16年3月8日付けで三菱瓦斯化学株式会社(以下,「請求人」という。)から,請求項1に係る発明の特許について無効審判の請求がなされ,平成18年8月31日に「特許第2137309号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決がなされた。
これに対し,被請求人(特許権者)は,平成18年10月10日に知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起し(「平成18年(行ケ)第10452号」),平成19年10月31日に「特許庁が無効2004-35128号事件について平成18年8月31日にした審決を取り消す。」旨の判決が言い渡され,この判決は確定している。
そして,再審理の後,平成20年7月1日付けで,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決がなされ,これに対して,請求人は,平成20年8月11日に知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起し(「H20年(行ケ)第10304号」),平成21年8月18日に「特許庁が無効2004-35128号事件について平成20年7月1日にした審決を取り消す。」旨の判決が言い渡され,この判決は確定している。

II.特許発明
本件無効審判請求の対象となった請求項1に係る発明は,本件明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載の,次のとおりのものである。(以下,「本件発明」という。)

【請求項1】還元性鉄と酸化促進剤とを含有し且つ鉄に対する銅の含有量が150ppm以下及び硫黄の含有量が500ppm以下であることを特徴とする樹脂配合用酸素吸収剤。

III.請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は,本件特許第2137309号の明細書の請求項1に係る発明についての特許を無効とする,との審決を求め,その理由として,審判請求書,口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及びその後の上申書を整理し纏めると,概ね,以下のとおり主張し,証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第19号証を提出している。
(1)本件発明は,甲第1号証に記載された発明に,甲第2?7号証の記載と甲第12?17号証の記載を勘案することにより,或いは甲第2?6号証等の記載を含む周知事実を勘案することにより,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。(無効理由1)
(2)本件発明が,(a)銅・硫黄含有量を鉄基準で規定したことにより不明確であり,(b)本件発明の効果を奏しない樹脂を包含する点で,本件発明に係る特許は,特許法第36条第4項あるいは同条第5項第1号,第2号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。(無効理由2)


甲第1号証:特開昭55-90535号公報
甲第2号証:「食品包装」第8巻第7号,1969,第30-35頁
甲第3号証:「HANDBOOK OF Metal Powders」REINHOLD PUBLISHING CORPORATION,1966,p.iii,v,ix,140-159
甲第4号証:「工業化学雑誌」第70巻第12号,昭和42年12月,第2364-2367頁
甲第5号証:「Ind.odor Technol.Assess.」1975,31CXAR,p.101-115
甲第6号証:米国特許第3756976号明細書
甲第7号証:特公昭54-476号公報
甲第8号証:平成8年4月8日付け実験報告書の写し
甲第9号証:平成15年9月22日付け実験報告書
甲第10号証:食品包装技術便覧,財団法人日本生産性本部発行,1968年10月10日,p.908-911
甲第11号証:分析報告書
甲第12号証:川崎製鉄株式会社が作成した鉄粉製品(KIP)に関する資料(1988年1月印刷)
甲第13号証:KIP 303A-60 の鉄粉検査証明書(1988年11月14日)
甲第14号証:「KIP 川鉄の還元鉄粉・アトマイズ鉄粉カタログ」1-3,8,9頁
甲第15号証:三菱瓦斯化学株式会社が作成した「川崎鉄粉のAX剤原末原料としての使用提案」(昭和63年12月11日付け)
甲第16号証:三菱瓦斯化学株式会社が川崎製鉄株式会社及び菱江化学株式会社の合意の下に作成した「原料.資材調査表」商品名:鉄粉KIP303A-60(昭和63年6月8日付け)
甲第17号証:三菱瓦斯化学株式会社が作成した「エージレス用鉄粉粒度分布調査依頼書」(昭和63年6月28日付け)
甲第18号証:「回答書」(「神鋼のアトマイズ鉄粉 アトメル」神戸製鋼添付)
甲第19号証:特開昭62-107001号公報

IV.被請求人の主張
一方,被請求人は,請求人の上記主張に対して,答弁書,口頭審理及びその後の上申書において,次のとおり主張し,証拠方法として下記の乙第1号証,乙第2号証を提出している。
(1)無効理由1に対して
本件発明は,甲第1号証に,周知事実を勘案することにより,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件発明に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく,同法第123条第1項第2号に該当せず,無効となるものではない。
(2)無効理由2に対して
本件発明についての出願は,特許法第36条第4項あるいは同条第5項第1号,第2号に規定する要件を満すものであるから,本件発明に係る特許は,同法第123条第1項第4号に該当せず,無効となるものではない。


乙第1号証:昭和59年(行ケ)第180号審決取消請求事件の判決
乙第2号証:特開2001-150604号公報

V.当審の判断
請求人は,無効事由として,前記III.1.(1)?(2)のとおり無効理由1及び2を主張している。そして,無効理由2は,上記のとおり,(a)及び(b)の理由からなるものであるが,無効理由相互の関係その他の本件の内容にかんがみ,無効理由2(b)から判断することとする。

1 無効理由2(b)について
無効理由2(b)は,「本件発明が,本件発明の効果を奏しない樹脂を包含する点で,本件発明に係る特許は,特許法第36条第4項あるいは同条第5項第1号に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから,同法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきものである。」というものであるから,いわゆる実施可能要件ないしサポート要件についての無効理由である。
そこで,これらの要件について,順次検討する。

(1) 実施可能要件について
ア 特許法第36条第4項に定める実施可能要件
本件発明は,その用途として,単に「樹脂配合用」と規定するのみであるから,本件発明について実施可能要件を満たす記載がされるべきである以上,発明の詳細な説明に,酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明の酸素吸収剤を適用することが有用であること,すなわち,当該樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされていることを要すると解すべきである。
そこで,以下,上記観点に立ち,発明の詳細な説明に,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける程度の記載があるか否かについて検討する。

イ 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には,以下の各記載がある。なお,発明の詳細な説明が引用する第1図及び第2図についても,これを末尾に示す。
(ア)「(産業上の利用分野)
本発明は,樹脂配合用酸素吸収剤に関し,より詳細には樹脂に配合したとき,そのゲル化,分解や異味,異臭の発生等が防止された樹脂配合用酸素吸収剤に関する。」(特許公告公報1頁左欄14行?右欄2行)
(イ)「成形すべき樹脂に酸素吸収剤(脱酸素剤)を配合し,溶融混練し,これを押出しや射出等の成形加工に賦するときには,樹脂の架橋を生じて成形性の低下を招き,また架橋した樹脂成分が成形機内に滞留して焦げ等の変質を招くという欠点が認められる。更に,この成形加工段階で配合樹脂組成物に異味,異臭成分が発生し,このものが成形容器中の内容物に移行して,内容品の香味保持性(フレーバー保持性)を損なうという欠点も認められる。
従って,本発明の目的は,樹脂に配合したとき,樹脂分のゲル化や分解が抑制され,更に異味,異臭成分の発生も抑制された樹脂配合用酸素吸収剤を提供するにある。」(同2頁左欄27?38行)
(ウ)「(問題点を解決するための手段)
本発明によれば,還元性鉄と酸化促進剤とを含有し且つ鉄に対する銅の含有量が150ppm以下及び硫黄の含有量が500ppm以下であることを特徴とする樹脂配合用酸素吸収剤が提供される。」(同2頁左欄42?46行)
(エ)「(作用)
本発明は,還元性鉄と酸化促進剤とを含有する酸素吸収剤中の銅(Cu)の含有量を150ppm以下,特に100ppm以下及び硫黄(S)の含有量を500ppm以下,特に250ppm以下に抑制すると,樹脂に配合したときのゲル化や分解,更には異味,異臭成分の発生が有効に防止されるという知見に基づくものである。
還元性鉄を主体とする酸素吸収剤では,前述した銅成分や硫黄成分が,化合物の形で酸化促進剤として,或いは金属中の不純成分の形で含有されている。還元性鉄は酸素吸収剤の作用の主体をなすものであり,それ自体が酸素と結合して酸素化物等を形成することにより酸素を吸収するものである。還元性鉄単独と酸素との反応は,乾燥した状態ではかなり遅いものであるが,電解質が共存する状態では,所謂銹の発生が急速に進行するように,この酸化反応が著しく促進される。前述した銅成分や硫黄成分は,銅塩や硫酸塩等の形で酸化促進剤として含有されている場合があり,また還元性鉄中に不可避不純物成分として含有されている場合がある。」(同2頁右欄5?23行)
(オ)「本発明において,上記酸素吸収剤中の銅成分及び硫黄成分を,上記基準値以下に抑制することにより,樹脂のゲル化や分解或いは異味,異臭成分の発生が抑制されるという事実は,本発明者等が多数の実験の結果から現象として見出したものであって,その理論的根拠は未だ十分には明らかではないが次のようなものと推定される。
即ち,酸素吸収剤を配合した樹脂組成物におけるゲル化や分解は,全て高分子ラジカルの発生によるものと認められる。発生した高分子ラジカルは,その寿命内に再結合するとゲル化(架橋)を生じ,さもないと主鎖切断や,低級アルコール,低級アルデヒド,低級カルボン酸等の分解生成物の発生に連なる。本発明者等の研究によると,樹脂中に配合された還元性金属は程度の差はあれ,混練条件下でこの高分子ラジカルを発生する傾向があるが,還元性金属と基準値よりも多い銅成分とを含有する酸素吸収剤では,本発明内のものに比して高分子ラジカルの発生がはるかに多くなるものと認められる。
事実,添付図面第1図は,酸素吸収剤中における銅成分の量と低級アルコール,低級アルデヒド,低級カルボン酸等の発生量との関係をプロットしたものであり,また第2図は,前記銅成分の量と配合樹脂のメルトインデックスとの関係をプロットしたものであるが,銅成分の含有量は有臭成分の発生量とメルトインデックスとに重大な影響を及ぼしていることが了解される(実験の詳細は後述する実施例参照)。
本発明において,酸素吸収剤中の銅成分を,前記基準値以下に抑制しただけでは異味,異臭成分の抑制に十分でなく,硫黄成分をも前記基準値以下に抑制することも重要となる。即ち,酸素吸収剤中に含有される硫黄成分は,それが遊離し,或いは樹脂分や樹脂分の分解生成物に作用して,内容品の香味保持性を著しく低下させる異味,異臭成分を与えるが,本発明による前記基準値以下に抑制することにより,香味保持性を優れたレベルに維持することができる。」(同2頁右欄43行?3頁左欄26行)
(カ)「配合すべき樹脂は,溶融成形が可能で,前述した吸湿性を有する樹脂である。この吸湿性樹脂は20℃及び0%RHの条件で測定して10^(-12)cc・cm/cm^(2)・sec・cmHg以下の酸素透過係数を有する樹脂であることが特に好ましい。
吸湿性でしかもガスバリヤー性の樹脂の最も適当な例としては,エチレン-ビニルアルコール共重合体を挙げることができ(る)」(同4頁左欄3?9行)
(キ)「また,前記特性を有する吸湿性ガスバリヤー性樹脂の他の例としては,炭素数100個当りのアミド基の数が5乃至50個,特に6乃至20個の範囲にあるポリアミド類;例えばナイロン6,ナイロン6,6,ナイロン6/6,6共重合体,メタキシリレンアジパミド,ナイロン6,10,ナイロン11,ナイロン12,ナイロン13等が使用される。」(同4頁左欄18?23行)
(ク)「本発明の樹脂配合用酸素吸収剤は,勿論上記樹脂以外に,オレフィン系樹脂や,ポリエステル樹脂,ポリカーボネート樹脂,スチレン系樹脂,塩化ビニル樹脂等の容器乃至フィルム形成用樹脂や,これらの樹脂と前記吸湿性ガスバリヤー性樹脂とのブレンド物に配合して用いることもできる。」(同4頁左欄28?33行)
(ケ)「(発明の効果)
本発明の樹脂配合用酸素吸収剤は,樹脂に配合したとき,ゲル化や分解を生じる傾向が著しく小さく,また異味,異臭成分を発生する傾向もなく,・・・という優れた利点を与えるものである。」(同5頁左欄12?18行)
(コ)「(実施例)
実施例1
ミルスケースを原料とする還元性鉄を主成分とし,これに酸化促進剤を加えて製造された酸素吸収性鉄組成物(酸素吸収剤)を20℃-0%RHでの酸素透過係数が4×10^(-14 )cc・cm/cm^(2)・sec・cmHgで20℃-100%RHでの吸水率が4.8%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量32モル%,ケン化度99.6モル%)と鉄の割合が30重量%となるように,バッチ式高速攪拌翼型混合機(ヘンシェルミキサー)にて混合した。次いでこの混合物を50mm径スクリューを内蔵する押出機/ストランドダイ/ブロワー冷却槽/カッターで構成されるペレタイザーによって220℃でペレット化した。対照品として市販酸素吸収剤(第1表A)を同様にペレタイズした。使用酸素吸収剤の元素分析を後述する方法によって測定し,結果を第2表に示した。また作成されたペレットについてメルトインデックス(MI)および加熱揮発生成物を測定した。明らかに本発明品である銅及び硫黄含有量を低下させた酸素吸収剤を用いたものが優れていた。結果を第3表に示した。」(同5頁左欄19?38行)
(サ)「<2>メルトインデックス測定
酸素吸収剤含有エチレン-ビニルアルコール共重合体6gを120mlのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し,酸素吸収剤成分をフィルターによって分離した後,ポリマー溶液を10倍量の蒸留水中に高速攪拌しながら滴下し,樹脂分を回収した。蒸留水で十分にすすいだ後,50℃で一晩乾燥してMI測定サンプルとした。測定はJIS K 7210に従って行った。試験温度は190℃,荷重は2160gであった。
<3>分解生成物の定量測定
ペレット10gをヘッドスペースガス採集瓶に入れ,窒素ガスを100ml/minで流しながら,170℃に加熱し,発生成分をテナックス(Tenax)管によって吸着捕集した。捕集したテナックス管をガスクロマトグラフ装置(GC)の試料注入口にセットし,220℃に加熱して脱着成分をGCに導入して測定を行った。カラムはOV-101キャピラリーカラム(内径0.25mm,長さ25m)を使用し,カラム温度は60℃より250℃まで昇温させながら分析した。検出器は水素炎イオン検出器(FID)を用いた。発生量は同一測定条件での全ピーク面積を用いて表わした。」(同5頁左欄49行?右欄18行,なお,○付きアラビア数字を表すために,アラビア数字を< >で囲んだ。 )
(シ)「実施例2
塩化鉄水溶液より電解法で作られた鉄を粉砕して得られた鉄粉にアルカリ金属ハロゲン化物を酸化促進剤として加えて作成された酸素吸収剤を実施例1の方法でエチレン-ビニルアルコール共重合体中に分散しペレット化した。対照品として同様に,市販の酸素吸収剤(第1表A)を用いて作ったペレットを使用した。本実施例で使用した酸素吸収剤中の元素分析結果を第2表に記した。実施例1と同様の方法でペレットのMI,加熱発生ガス量を測定した。明らかに対照品に比べてMI,発生ガス量とも良い性能を示した。結果を第3表に示した。

実施例3
実施例1で使用した還元鉄粉,酸化促進剤より成る酸素吸収剤を,実施例1の方法でエチレン-ビニルアルコール共重合体に分散混合してペレットとした。上記の酸素吸収剤含有エチレン-ビニルアルコール共重合体(EO)を中間層とし,メルトインデックス(MI)が0.5g/10min(230℃)のポリプロピレン(PP)を内外層とし,MIが1.0g/10minの無水マレイン酸変成PP(ADH)を接着剤層とした対称3種5層シート(全厚み0.9mm,構成比PP/ADH/EO/ADH/PP=12/1/2/1/12)を50mm径内外層押出機/32mm径接着剤層押出機/32mm径中間層押出機/フィードブロック/T-ダイ/冷却ロール/シート引取機で構成される多層シート成形装置にて成形した。得られた3種5層シートを約190℃に加熱後,真空成形機にて高さ15mm,口径100mm,内容積117mlのカップ状容器を作成した。このカップと窒素雰囲気中で2mlの蒸留水を充填後,アルミ箔/PPから成るシール材にて加熱シールを行った。本容器を120℃-30分の熱殺菌を行い,その後60%RH-22℃で保存した。一定期間後の容器内酸素濃度をGCにて測定した。また,同容器に100ml日本薬局方精製水(宮沢薬品製)を充填後,同様の熱殺菌を行い,冷却後にフレーバーテストを行った。対照品として鉄に対して銅含有量が1010ppm,硫黄含有量が3400ppm(対照品1),及び銅含有量が200ppm,硫黄含有量が540ppm(対照品2)である2種類の酸素吸収剤についての同様のカップを成形し,同一試験を行った。結果を第4表に示した。銅及び硫黄含有量は,酸素透過性に影響を与えないがフレーバー性能に影響を与え,本発明品は対照品に比べて明らかに優れていた。

」( 同5頁右欄19行?6頁右欄第4表)
(ス) 図面


」(同第1図,第2図)

実施可能要件の検討
(ア) 以上の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明が所期する作用効果は,酸素吸収剤を樹脂に適用した際の樹脂のゲル化及び分解並びに異味・異臭成分の発生を抑制すること(以下「本件作用効果」という。)であると認められる。
もっとも,発明の詳細な説明には,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂をエチレン-ビニルアルコール共重合体とした場合,対照品と比較して,メルトインデックス,加熱揮発生成物(加熱発生ガス)の量及びフレーバー性能において優れている旨の各実施例の記載があるにすぎない。第1図及び第2図に記載された結果も,エチレン-ビニルアルコール共重合体を用いた場合のものである。
しかしながら,発明の詳細な説明には,本件発明の酸素吸収剤を適用するのに特に好適な樹脂(エチレン-ビニルアルコール共重合体を除く。)の例として一定の数のアミド基を有するポリアミド類が,本件発明の酸素吸収剤を適用することができるその他の樹脂の例としてオレフィン系樹脂等がそれぞれ記載されているのであって,それにもかかわらず,エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の樹脂(酸素吸収剤の適用の対象となるもの。以下同じ。)については,前記したとおりであって,本件発明が本件作用効果を奏するものと確認された旨の直接の記載は一切存在しないのである。

(イ) そこで,発明の詳細な説明に,エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般について,本件発明が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているといえるか否かについてみると,発明の詳細な説明には,
<1>本件発明は,還元性鉄と酸化促進剤とを含有する酸素吸収剤中の銅(Cu)の含有量を150ppm以下,特に100ppm以下及び硫黄(S)の含有量を500ppm以下,特に250ppm以下に抑制すると,本件作用効果を奏するとの知見に基づくものである旨の記載(前記イ(エ)),
<2>還元性鉄と電解質が共存する状態においては,還元性鉄の酸化反応が著しく促進される旨の記載(同),
<3>酸素吸収剤中の銅成分及び硫黄成分を,基準値以下に抑制することにより本件作用効果を奏するとの事実は,多数の実験の結果から現象として見出されたものであって,その十分な理論的根拠は明らかでない旨の記載(前記イ(オ)),
<4>酸素吸収剤を配合した樹脂組成物におけるゲル化及び分解は,すべて高分子ラジカルの発生によるものと認められ,樹脂中に配合された還元性金属は,程度の差はあるものの,混練条件下で高分子ラジカルを発生する傾向があるところ,還元性金属と本件上限値を超える銅を含有する酸素吸収剤においては,本件発明の酸素吸収剤と比較して,高分子ラジカルの発生がはるかに多くなるものと認められることが上記理論的根拠であると推定される旨の記載(同),
<5>酸素吸収剤中に含有される硫黄成分は,それが遊離し,又は樹脂分やその分解生成物に作用して,内容品の香味保持性を著しく低下させる異味・異臭成分を与えるところ,硫黄の含有量を本件上限値以下とすることによって,香味保持性を優れたレベルに維持することができる旨の記載(同),
<6>本件発明の酸素吸収剤を樹脂に配合したときに,樹脂のゲル化及び分解を生じる傾向が著しく小さく,異味・異臭成分を発生する傾向もないとの優れた利点が与えられる旨の記載(前記イ(ケ))
があるにとどまり,それ以上の記載はない。
しかしながら,<1>,<3>及び<6>の各記載の実質は,単に結論(本件発明が本件作用効果を奏する旨)を述べるものにすぎない。また,<2>,<4>及び<5>の各記載をみても,これを,酸素吸収剤を適用する樹脂の特性(化学構造等)を念頭に置いたものとみることはできないから,当業者において,これらの記載の内容が,エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般についても,そのまま妥当するものと容易に理解することができるとみることはできない。さらに,発明の詳細な説明には,当業者において,銅及び硫黄が過大に存在することによる樹脂のゲル化及び分解並びに異味・異臭成分の発生を考える上で,エチレン-ビニルアルコール共重合体とそれ以外の樹脂一般とを同視し得るものと容易に理解することができるような記載は全くない。
以上からすると,発明の詳細な説明に,エチレン-ビニルアルコール共重合体以外の樹脂一般について,本件発明が本件作用効果を奏することを裏付ける程度の記載がされているものと認めることはできず,その他,そのように認めるに足りる証拠はない。

エ 小括
以上によると,発明の詳細な説明の記載は,特許法第36条第4項に定める実施可能要件を満たすものと認めることはできないというべきである。

(2) サポート要件について
ア 特許法第36条第5項第1号に定めるサポート要件
本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂一般について,発明の詳細な説明に,当業者において,本件発明の課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆があるか否か,また,本件出願時の技術常識に照らし,当業者において,当該課題が解決されるものと認識し得るか否かについて検討する。

イ 本件発明の解決課題
前記(1)ウ(ア)において説示したところに照らすと,本件発明が解決すべき課題は,酸素吸収剤を樹脂に適用した際の樹脂のゲル化及び分解並びに異味・異臭成分の発生(本件課題)であるということができる。

ウ 発明の詳細な説明の記載等
前記(1)ウにおいて説示したところに照らすと,本件発明の酸素吸収剤を適用する樹脂がエチレン-ビニルアルコール共重合体である場合はともかく,その余の樹脂一般である場合についてまで,発明の詳細な説明に,当業者において本件課題が解決されるものと認識し得る程度の記載ないし示唆があるということはできず,また,本件出願時の技術常識に照らし,当業者において本件課題が解決されるものと認識し得るということもできないといわざるを得ない。

エ 小括
以上によると,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が特許法第36条第5項第1号に定めるサポート要件を満たすものと認めることはできないというべきである。

(3)まとめ
そうすると,本件発明は,本件発明の効果を奏しない樹脂を包含する点で明細書の記載に不備があり,請求人の無効理由2(b)の主張は,実施可能要件の欠缺をいう点及びサポート要件の欠缺をいう点のいずれについても理由がある。

VI むすび
以上の次第であるから,その余の無効理由について判断するまでもなく,請求項1に係る発明についての特許は,特許法第36条第4項,及び同条第5項第1号の規定に違反してなされたものであり,同法第123条第1項第4号の規定に該当し,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-06-12 
結審通知日 2006-08-14 
審決日 2008-07-01 
出願番号 特願平1-73869
審決分類 P 1 122・ 534- Z (B01J)
P 1 122・ 531- Z (B01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡田 万里雨宮 弘治  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官
安齋 美佐子
小川 慶子
登録日 1998-07-10 
登録番号 特許第2137309号(P2137309)
発明の名称 樹脂配合用酸素吸収剤及びその組成物  
代理人 塚脇 正博  
代理人 富永 一途  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 大谷 保  
代理人 片岡 誠  
代理人 小野 尚純  
代理人 神宝 正文  
代理人 伊藤 高志  
代理人 東平 正道  
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