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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1211268
審判番号 不服2007-13091  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-05-07 
確定日 2010-02-05 
事件の表示 平成 9年特許願第347900号「カメラおよびその制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月 2日出願公開、特開平11-174314〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成9年12月17日の出願であって、平成18年9月20日付け拒絶理由通知に対して、同年11月24日付けで手続補正がされたが、平成19年3月30日付けで拒絶査定され、これに対して、同年5月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
その後、当審から、平成20年4月16日付けで、拒絶理由を通知した。
これに対して、平成20年6月23日付けで意見書が提出されるともに、同日付けで手続補正がされた。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成20年6月23日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)と認める。
「【請求項1】
ユーザーの手動でフォーカス調整、または自動でフォーカス調整を行うことのできるカメラであって、
2段操作式のスイッチと、
手動にてフォーカスを調整するフォーカス調整手段と、
前記2段操作式のスイッチの1段目の押圧半押しに応じて露出制御をロックし、当該露出制御がロックされている状態で自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態へ移行した場合、当該合焦状態への移行によりフォーカスロック状態へ移行し、当該フォーカスロック状態への移行により前記自動でフォーカス調整を行っている状態で許可されない前記フォーカス調整手段の操作によるフォーカスの調整を許可する制御手段と、
を備えたことを特徴とするカメラ。」

3.引用例
平成20年4月16日付け拒絶理由通知に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-248510号公報(以下、引用例1という。)には、次の事項が記載されている。

記載事項ア
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止画撮影を行うスチルカメラ部と、動画撮影を行うビデオカメラ部と、上記スチルカメラ部とビデオカメラ部とに共通に用いられフォーカスレンズを含む撮影レンズとを有する複合カメラの自動焦点調節装置において、
上記フォーカスレンズの合焦状態をくり返し検出し、デフォーカス量を求める焦点検出手段と、
上記フォーカスレンズを駆動するレンズ駆動手段と、
上記焦点検出手段により求められたデフォーカス量に基づいて合焦状態が得られるようなレンズ駆動量を求め、このレンズ駆動量に応じて上記レンズ駆動手段を制御する制御手段と、
被写体が動いているか否かを検出する動き検出手段とを備え、
上記制御手段は、上記静止画撮影時に上記動き検出手段により上記被写体が動いていると検出されたときは、上記焦点検出手段のくり返し検出に基づく焦点調節を行い、上記被写体が動いていないと検出されたときは、一度合焦状態になるとレンズ駆動を停止させるワンショット制御を行うことを特徴とする複合カメラの自動焦点調節装置。」

記載事項イ
「【0028】図2は本発明の第1の実施例による複合カメラ全体の動作を説明するためのフローチャートである。図8の主モード選択スイッチ33が操作されてカメラの電源がオン状態となり、図9の電気回路への給電がなされると、カメラの制御を行う各種マイコン41、42、43はROMに格納されたプログラムに従って次のようにしてカメラの制御を行う。カメラの電源がオン状態になるとステップS1を経てステップS2へ進む。ステップS2では不図示のビデオスタンバイスイッチの状態検知がなされ、ビデオ録画のスタンバイ操作がなされているときは、ステップS3へ進み、そうでなければステップS10へ進む。・・・
【0032】ステップS10では、レリーズボタン35の第1ストロークによって、オン状態となるスイッチSW1の状態検知がなされ、SW1がオン状態であれば、ステップS12へ移行し、そうでなければステップS11へ進み、静止画撮影時に使用する各種変数及びフラグを初期化した後、ステップS2へ戻る。
【0033】次にステップS12?S37は銀塩フィルムを使った静止画撮影を行うときのフローチャートである。ステップS12では、固体撮像素子13の出力信号とビデオ絞りユニット11の絞り値とから被写体輝度を算出し、更にこの被写体輝度と装てんされた銀塩フィルム5の感度から適切な露光を行なうためのシャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納する。後述するレリーズボタンの第2ストロークの押下によってオンするスイッチSW2がオン状態となり、フィルムの露光動作が行なわれるときには、このメモリに格納した値に基づいてシャッタ及び絞りが制御されることになる。
【0034】ステップS13では、ステップS3と同様にして、焦点検出装置15のラインセンサを制御して像信号の取り込みを行ない、続くステップS14では、ステップS13で得られた像信号からレンズユニット2のデフォーカス量を演算する。ステップS15では、被写体が移動しているか否かを判別するフラグAFMによって被写体の状態判別がなされAFM=1のときには被写体が移動しているということでステップS25へ進み、そうでなければステップS16へ移行する。ステップS16では、フラグAFJによってフォーカスロック状態か否かの判別が行われ、AFJ=1であれば、一度合焦状態となり、フォーカスロック状態となっているのでステップS23へ進みそうでなければステップS17へ移行する。
【0035】ステップS17では、今回の焦点検出動作で得られたデフォーカス量が所定の値より小さいか否かによって、合焦状態かそうでないかが判別され、合焦状態と判断されるとステップS18へ進み、フォーカスロックを行うためにフラグAFJを1にセットする。非合焦状態と判断されると、ステップS19へ移行し、焦点調節動作を実行した回数をカウントするカウンタCOUNTをカウントアップする。次のステップS20ではステップS14に検出されたデフォーカス量を解消するように、デフォーカス用レンズを駆動し焦点調節を行う。そして、ステップS21では、カウンタCOUNTの値が3か否かが判別されCOUNT=3であればステップS22へ進み、被写体が移動していることを示すフラグAFMを1にセットした後、ステップS2へ戻る。
【0036】ステップS23では被写体が移動しているか否かを判別する動体検知を行い動体と判断されればステップS24へ移行し、そうでなければステップS2へ戻る。ここで、ステップS23の動体検知の方法については後述するので、ここでの詳細な説明は省略する。」

記載事項ウ
「【0038】以上のように、本実施例よれば、静止画撮影を行うときには、一度合焦状態となると、フォーカスロックされ、その後は被写体が移動しているか否かの判別がなされ、動体と判断されると、フォーカスロックを解除し焦点調節動作を再開する。この場合のレンズ制御では、レリーズタイムラグとAFタイムラグとの間に被写体が移動する量も考慮した予測制御を行うようにしている。このような制御を行うことによって静止した被写体を撮影することが多い静止画撮影では、合焦するとフォーカスロックすることで無駄に焦点調節をくり返すことがなくなる。また、被写体が動体の場合には予測制御の焦点調節を行うようにしている。これによって、追従遅れのない写真撮影を行うことができる。また、動画撮影時には常に検出されたデフォーカス量を解消するようにレンズ駆動する焦点調節をくり返すことによって、少し追従遅れは発生するが、安定したレンズ制御を行うことができる。これは、動画撮影時は精度よりもスムーズで安定した制御が重視されるためである。
【0039】次に静止画撮影のための焦点調節動作であるステップS12?S26が実行されている間にレリーズボタン35が更に押下され、レリーズスイッチSW2がオン状態になると、割り込み機能によって直ちにステップS27へ移行してレリーズ動作を開始する。ステップS28ではレンズ駆動を実行中か否かの判別を行い、レンズ駆動中であればステップS29でレンズの駆動を停止させてステップS30へ進み、レンズを駆動していなければ、すぐにステップS30へ移行する。ステップS30では、カメラのサブミラー14及び遮光部材16を撮影光路外へ退避させる。これは、不図示のモータを制御することで実行される。次のステップS31では先のステップS12の測光サブルーチンによりメモリに格納されている絞り制御値まで、不図示のステッピングモータによって絞り4を駆動する。」

以上の記載事項ア?ウ及び図面から、引用例1には、以下の点が記載されていると言える。

(1)記載事項アの「静止画撮影を行うスチルカメラ部と、動画撮影を行うビデオカメラ部と、上記スチルカメラ部とビデオカメラ部とに共通に用いられフォーカスレンズを含む撮影レンズとを有する複合カメラの自動焦点調節装置」との記載から、引用例1には、「自動焦点調節」ができる「カメラ」が記載されている。

(2)記載事項イの「【0032】ステップS10では、レリーズボタン35の第1ストロークによって、オン状態となるスイッチSW1の状態検知がなされ、SW1がオン状態であれば、ステップS12へ移行し、そうでなければステップS11へ進み、静止画撮影時に使用する各種変数及びフラグを初期化した後、ステップS2へ戻る。
【0033】次にステップS12?S37は銀塩フィルムを使った静止画撮影を行うときのフローチャートである。ステップS12では、固体撮像素子13の出力信号とビデオ絞りユニット11の絞り値とから被写体輝度を算出し、更にこの被写体輝度と装てんされた銀塩フィルム5の感度から適切な露光を行なうためのシャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納する。後述するレリーズボタンの第2ストロークの押下によってオンするスイッチSW2がオン状態となり、フィルムの露光動作が行なわれるときには、このメモリに格納した値に基づいてシャッタ及び絞りが制御されることになる。」との記載、及び図2のフローチャートから、引用例1には、
「レリーズボタン35」は「第1ストローク」及び「第2ストローク」の2段式の押下げボタンであって、前記「第1ストローク」によって、オン状態となるスイッチSW1の状態検知がなされたことを受けて、「被写体輝度を算出し、」「適切な露光を行なうためのシャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納」し、「レリーズボタンの第2ストロークの押下によってオンするスイッチSW2がオン状態となり、フィルムの露光動作が行なわれるときには、このメモリに格納した値に基づいてシャッタ及び絞りが制御される」という制御手法が記載されている。

(3)記載事項イの「ステップS13では、ステップS3と同様にして、焦点検出装置15のラインセンサを制御して像信号の取り込みを行ない、続くステップS14では、ステップS13で得られた像信号からレンズユニット2のデフォーカス量を演算する。・・・ステップS16では、フラグAFJによってフォーカスロック状態か否かの判別が行われ、AFJ=1であれば、一度合焦状態となり、フォーカスロック状態となっているのでステップS23へ進みそうでなければステップS17へ移行する。
【0035】ステップS17では、今回の焦点検出動作で得られたデフォーカス量が所定の値より小さいか否かによって、合焦状態かそうでないかが判別され、合焦状態と判断されるとステップS18へ進み、フォーカスロックを行うためにフラグAFJを1にセットする。非合焦状態と判断されると、ステップS19へ移行し、焦点調節動作を実行した回数をカウントするカウンタCOUNTをカウントアップする。次のステップS20ではステップS14に検出されたデフォーカス量を解消するように、デフォーカス用レンズを駆動し焦点調節を行う。」との記載、図2のフローチャート、及び上記(2)で指摘した記載内容から、引用例1には、「レリーズボタン35」は「第1ストローク」及び「第2ストローク」の2段式の押下げボタンであって、前記「第1ストローク」によって、オン状態となるスイッチSW1の状態検知がなされたことを受けて、「被写体輝度を算出し、」「適切な露光を行なうためのシャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納」した状態で(ステップ12)、自動のフォーカス調整を行う手段が記載されており、同自動フォーカス調整を行った結果、当該「合焦状態と判断されると」「フォーカスロックを行う」(ステップ13?18)手段が記載されている。

(4)記載事項ウの「本実施例よれば、静止画撮影を行うときには、一度合焦状態となると、フォーカスロックされ、その後は被写体が移動しているか否かの判別がなされ、動体と判断されると、フォーカスロックを解除し焦点調節動作を再開する。」との記載から、引用例1には、「フォーカスロック」の後、「被写体」が「動体と判断されると、フォーカスロックを解除し焦点調節動作を再開する」制御手段が開示されている。

以上、記載事項ア?ウ、及び図面と、上記考察(1)?(4)を勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「自動焦点調節ができるカメラであって、
第1ストローク及び第2ストロークの2段式の押下げボタンであるレリーズボタン35の第1ストロークによって、オン状態となるスイッチSW1の状態検知がなされたことを受けて、被写体輝度を算出し、適切な露光を行なうためのシャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納した状態で、自動のフォーカス調整を行い、前記自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態と判断されると、フォーカスロックを行う手段を有し、当該フォーカスロックの後、被写体が動体と判断されると、当該フォーカスロックを解除し焦点調節動作を再開する制御手段を備えたカメラ。」

次に、平成20年4月15日付け拒絶理由通知に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平6-194565号公報(以下、引用例2という。)には、次の事項が記載されている。

記載事項エ
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 撮影光学系の焦点状態を検出する焦点検出手段と、該焦点検出手段の検出結果に基づいて自動的に焦点調節を行う自動焦点調節手段と、手動焦点調節部材の操作に応答して撮影光学系の焦点状態を調節する手動焦点調節手段とを備えたカメラにおいて、前記自動焦点調節手段による焦点調節のみを許容する第1のモード、前記手動焦点調節手段による焦点調節のみを許容する第2のモード、前記自動焦点調節手段と手動焦点調節手段の両方による焦点調節を許容する第3のモードの何れかを選択するモード選択手段を設けたことを特徴とするカメラ。
【請求項2】 選択手段により第3のモードが選択されている場合、自動焦点調節手段による焦点調節が実行されている際は、手動焦点調節手段による焦点調節を禁止し、手動焦点調節手段による焦点調節が実行されている際は、自動焦点調節手段による焦点調節を禁止する禁止手段を設けたことを特徴とする請求項1記載のカメラ。」

記載事項オ
「【0003】そこで、自動焦点調節モード時にも手動による焦点調節が可能としたカメラが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記構成のカメラにおいては、モード選択の為の手間が省け、自動焦点調節モード時にも必要に応じて手動調節が可能となる利点は有するものの、自動焦点調節モード時に、ユーザーの意図に反して不用意に手動焦点調節用の操作部材に触れてしまった場合、自動焦点調節による焦点位置に対して焦点がずれてしまい、適正な焦点調整ができないといった問題があった。」

記載事項カ
「【0006】本発明の第2の目的は、自動焦点調節手段による焦点調節を実行後の手動焦点調節手段による微調整を容易に行うことのできるカメラを提供することである。」

記載事項キ
「【0063】また、スイッチ2によって自動焦点調節と手動焦点調節の両方が可能なモードが選択されている時(スイッチ2a,2bが共にOFF時)には、自動焦点調節を行っている最中は手動焦点調節は禁止し、その後必要に応じて直ちに手動による焦点調節を行えるようにし、撮影者の意図に応じた微調整が可能としている。また、このモードにおいて、フォーカスリング3が回転された事を、つまり手動焦点調節が行われてたことを検出した場合には、自動焦点調節を一定期間禁止、つまり撮影動作実行の為のレリーズボタンの第2ストローク操作が終了しているであろう一定時間は自動焦点調節を禁止し、前記撮影動作実行の為のレリーズボタン操作によって(第2のストロークの前の第1ストロークに応答して)意図しない焦点調節が自動的に行われないようにしている。」

以上の記載事項エ?キ及び図面から、引用例2には、以下の点が記載されていると言える。

(5)記載事項エには、「自動的に焦点調節を行う自動焦点調節手段と、手動焦点調節部材の操作に応答して撮影光学系の焦点状態を調節する手動焦点調節手段とを備えたカメラ」が記載されている。

(6)記載事項エの「自動焦点調節手段と手動焦点調節手段の両方による焦点調節を許容する第3のモードの何れかを選択するモード選択手段を設けたことを特徴とするカメラ。
【請求項2】 選択手段により第3のモードが選択されている場合、自動焦点調節手段による焦点調節が実行されている際は、手動焦点調節手段による焦点調節を禁止し、」、
記載事項カの「本発明の第2の目的は、自動焦点調節手段による焦点調節を実行後の手動焦点調節手段による微調整を容易に行うことのできるカメラを提供すること」、及び、
記載事項キの「スイッチ2によって自動焦点調節と手動焦点調節の両方が可能なモードが選択されている時(スイッチ2a,2bが共にOFF時)には、自動焦点調節を行っている最中は手動焦点調節は禁止し、その後必要に応じて直ちに手動による焦点調節を行えるようにし、撮影者の意図に応じた微調整が可能としている。」との記載から、引用例2には、
自動焦点調節を行っている最中は手動焦点調節を禁止し、その後必要に応じて手動による焦点調節が行える制御手段を有するカメラが記載されている。

4.対比
引用発明と本願発明とを比較する。

(1)引用発明の「自動焦点調節ができるカメラ」と本願発明の「ユーザーの手動でフォーカス調整、または自動でフォーカス調整を行うことのできるカメラ」を比較すると、引用発明の「自動焦点調節ができるカメラ」は、本願発明の「自動でフォーカス調整を行うことのできるカメラ」に相当する。

(2)引用発明の「第1ストローク及び第2ストロークの2段式の押下げボタンであるレリーズボタン35」は、本願発明の「2段操作式のスイッチ」に相当する。

(3)引用発明の「第1ストローク及び第2ストロークの2段式の押下げボタンであるレリーズボタン35の第1ストロークによって、オン状態となるスイッチSW1の状態検知がなされたことを受けて、被写体輝度を算出し、適切な露光を行なうためのシャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納した状態で、自動のフォーカス調整を行い、前記自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態と判断されると、フォーカスロックを行う」と、本願発明の「前記2段操作式のスイッチの1段目の押圧半押しに応じて露出制御をロックし、当該露出制御がロックされている状態で自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態へ移行した場合、当該合焦状態への移行によりフォーカスロック状態へ移行し、」とを比較すると、

ア.引用発明の「第1ストローク及び第2ストロークの2段式の押下げボタンであるレリーズボタン35の第1ストローク」は、本願発明の「2段操作式のスイッチの1段目の押圧半押し」に相当する。

イ.引用発明の「レリーズボタン35の第1ストロークによって、オン状態となるスイッチSW1の状態検知がなされたことを受けて、被写体輝度を算出し、適切な露光を行なうためのシャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納し」と、本願発明の「2段操作式のスイッチの1段目の押圧半押しに応じて露出制御をロックし」とは、共に、「2段操作式のスイッチの1段目の押圧半押しに応じて、露出制御の動作を実行し、」の点で一致する。

ウ.引用発明の「RAMの所定の領域に格納した状態で、自動のフォーカス調整を行い、前記自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態と判断されると、フォーカスロックを行う」と、本願発明の「露出制御がロックされている状態で自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態へ移行した場合、当該合焦状態への移行によりフォーカスロック状態へ移行し、」とは、共に「露出制御の動作が実行されている状態で自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態へ移行した場合、当該合焦状態への移行によりフォーカスロック状態へ移行する」点で一致する。

以上ア.?ウ.から、両者は、「前記2段操作式のスイッチの1段目の押圧半押しに応じて露出制御の動作を実行し、当該露出制御の動作が実行されている状態で自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態へ移行した場合、当該合焦状態への移行によりフォーカスロック状態へ移行する」、点で一致する。

(4)引用発明の「当該フォーカスロックの後、被写体が動体と判断されると、当該フォーカスロックを解除し焦点調節動作を再開する制御手段」と、本願発明の「当該フォーカスロック状態への移行により前記自動でフォーカス調整を行っている状態で許可されない前記フォーカス調整手段の操作によるフォーカスの調整を許可する制御手段」とを比較すると、両者は共に、フォーカスロック状態への移行した後に、同フォーカスロック状態(自動焦点調整の結果の状態)を基点にして、フォーカス状態をさらに調整し直す必要があると判断された場合に、フォーカスの再調整を可能とする制御手段である点で共通する。
即ち、両者は「フォーカスロック状態への移行により、フォーカスの再調整を可能とする制御手段」である点で一致する。

以上(1)?(4)の考察から、引用発明と本願発明とは、
「自動でフォーカス調整を行うことのできるカメラであって、
2段操作式のスイッチと、
前記2段操作式のスイッチの1段目の押圧半押しに応じて露出制御の動作を実行し、当該露出制御の動作が実行されている状態で自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態へ移行した場合、当該合焦状態への移行によりフォーカスロック状態へ移行し、当該フォーカスロック状態への移行により、フォーカスの再調整を可能とする制御手段と、
を備えたことを特徴とするカメラ。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1;
2段操作式のスイッチの1段目の押圧半押しに応じて実行される露出制御の動作及び自動のフォーカス調整について、本願発明は、上記露出制御の動作が「露出制御をロック」するものであり、また、自動のフォーカス調整の動作が「露出制御がロックされている状態で自動のフォーカス調整を行う」ものであるのに対して、引用発明では、上記露出制御の動作が「被写体輝度を算出し、適切な露光を行なうためのシャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納」するものであり、また、自動のフォーカス調整の動作が前記「シャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納した状態で、自動のフォーカス調整を行」うものである点。

相違点2;
カメラのフォーカス調整として、本願発明は「ユーザーの手動でフォーカス調整」を行うことができるように、「手動にてフォーカスを調整するフォーカス調整手段」を有するのに対し、引用発明には、そのような構成がない点。

相違点3;
フォーカスロック状態への移行により、フォーカスの再調整を可能とする制御手段として、本願発明は、「フォーカスロック状態への移行により前記自動でフォーカス調整を行っている状態で許可されない前記フォーカス調整手段(手動にてフォーカスを調整するフォーカス調整手段)の操作によるフォーカスの調整を許可する」ものであるのに対し、引用発明は、「フォーカスロックの後、被写体が動体と判断されると、当該フォーカスロックを解除し焦点調節動作を再開する」ものである点。

5.当審の判断

(1)相違点1について

ア.露出制御をロックする、とは、露出に関係するデータ(測光値、シャッター秒時、絞り値など)を所定の値に固定(ロック)して撮影を行うことを意味することは、カメラ技術分野の当業者にとって、従来周知の事項である(例えば、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-185758公報の記載「【0002】従来の技術 従来から、露出値を所定の値にロックして撮影を行う露出ロック(AEロック)機能をもつカメラがあり、」や、同じく本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-135815号公報の記載「測光回路4の測光動作で得られた測光出力S15に基づく第1の測光データE1をメモリに格納(AEロック)する。」(同公報の第3頁左下欄第7行目乃至第9行目)等を参照のこと。)
また、引用発明の「被写体輝度を算出し、適切な露光を行なうためのシャッタ秒時及び絞り値を演算し、RAMの所定の領域に格納」するという一連の動作は、

・シャッタ秒時及び絞り値は、露出に関する値であることと、

・このRAMに格納された上記値は、「レリーズボタンの第2ストロークの押下によってオンするスイッチSW2がオン状態となり、フィルムの露光動作が行なわれるときには、このメモリに格納した値に基づいてシャッタ及び絞りが制御される」(記載事項イ)ために使用されること、

から、上述した従来周知の事項に照らせば、当該一連の動作も露出制御のロックであると言える。

さらに、引用発明の自動のフォーカス調整も、この「RAMの所定の領域に格納」されている状態で調整が行われることから(記載事項イのステップS12?S20の制御フローを参照)、同様に、露出制御がロックされている状態で、自動のフォーカス調整が行われるものであると言える。
してみれば、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ.また、別の見解として、2段操作式のスイッチの1段目の押圧半押しに応じて露出制御をロックし、当該露出制御がロックされている状態で自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態へ移行した場合、当該合焦状態への移行によりフォーカスロック状態へ移行すること自体は、カメラの分野において、従来周知の制御動作である。
(例えば、上記特開昭62-135815号公報の記載「(主要被写体が高輝度の場合)補助光が必要ないような高輝度な主要被写体の場合には、通常の撮影動作を行うことになり、レリーズ釦の半押し動作によりフォーカスロックとAEロックとが掛り、主要被写体の距離と適正露出情報とが記憶され、全押し動作により合焦制御と共に露出制御が行われ撮影が完了する。以下に詳しく説明する。
レリーズ釦2には半押し位置に操作されたとき動作する第1のスイッチSw1と、全押し位置に操作されたとき動作する第2のスイッチSw2と有し、スイッチSw1及びSw2から第1.第2信号としての検出信号S1、S2をマイコン1に供給する。第1のスイッチSw1がオンされると、カメラの電気回路に給電が行われ、このスイッチSW1の押圧状態で給電が確保される。(ステップSP1.ステップSP2)。
検出信号S1が得られたときのマイコン1は、測光回路4に対して第1の測光指令信号S13を出力し、測光回路4において撮影画面の中央の測光領域にある主要被写体に対して中央重点測光動作させ、その結果得られた測光出力S15に基づく第1の測光値データE1と予め定められた基準データとを比較する。・・・測光回路4の測光動作で得られた測光出力S15に基づく第1の測光データE1をメモリに格納(AEロツク)する。そして、マイコン1は、測光回路4に第1の測光指令信号S13を出力すると共に、オートフォーカス部3に対しても駆動信号S11を出力してオートフォーカス部3を作動させている。同様にオートフォーカス部3は、撮影画面の中央の焦点検出領域にある主要被写体の被写体距離を検出し、その検出出力S12に基づいて測距値データRをマイコン1のメモリに格納(フォーカスロツク)する。(ステップSP6?ステップSP8)。」(同公報の第3頁左上欄第8行目乃至左下欄第18行目)等を参照のこと。レリーズ釦の半押し動作により、適正露光情報を記憶(AEロック)し、(同AEロックのまま)引き続き、オートフォーカス制御、フォーカスロック制御を行う手段が開示されている。)
したがって、引用発明における2段操作式のスイッチの1段目の押圧に伴う自動のフォーカス調整に、当該従来周知の制御動作を組み入れて、自動のフォーカス調整に先駆けて、露出制御ロックを行うことは、当業者であれば適宜採用する程度の事項である、とも言える。
したがって、相違点1は、引用発明から、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものであるとすることもできる。

(2)相違点2、3について
カメラの焦点調節の分野において、自動でフォーカス調整を行う手段と共に、手動でフォーカスを調整する手段を兼ね備えることは、従来周知の構成である(例えば記載事項エ(引用例2))
また、前述したとおり(4.(4))、引用発明の「自動のフォーカス調整を行った結果、合焦状態と判断されると、フォーカスロックを行う手段を有し、当該フォーカスロックの後、被写体が動体と判断されると、当該フォーカスロックを解除し焦点調節動作を再開する制御手段」とは、自動焦点調整を終了した後で、必要に応じて、同調整結果の状態を基点にして、フォーカス状態の再調整を行う手段である、と言える。
そこで、この引用発明の当該フォーカスの再調整手段に換えて、同じく、自動焦点調整後、必要な場合に、実行可能なフォーカス再調整手段である、引用例2に記載された「手動焦点調節手段による微調整」手段(記載事項カの「本発明の第2の目的は、自動焦点調節手段による焦点調節を実行後の手動焦点調節手段による微調整を容易に行うことのできるカメラを提供する」等の記載を参照)を採用することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
また、上記「手動焦点調節手段による微調整」手段を採用するにあたって、同じく引用例2に記載された事項、即ち、自動でフォーカス調整を行っている状態では、上記手動焦点調節手段による焦点調節は許可せず、自動でフォーカス調整終了後に許可する手法(「自動焦点調節モード時に、ユーザーの意図に反して不用意に手動焦点調節用の操作部材に触れてしまった場合、自動焦点調節による焦点位置に対して焦点がずれてしまい、適正な焦点調整ができないといった問題」(記載事項オ)を解決するために、「自動焦点調節を行っている最中は手動焦点調節は禁止し、その後必要に応じて直ちに手動による焦点調節を行えるようにし、撮影者の意図に応じた微調整を可能としている。」(記載事項キ)等の記載を参照のこと)を併せて採用することも、当業者であれば、適宜になす程度の事項である。

したがって、相違点2及び3は、引用発明から、引用例2に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に想到することができたものである。

そして、本願発明の効果も、引用例1及び2の記載、並びに従来周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって、本願発明は、引用例1に記載された発明、並びに引用例2に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明、並びに引用例2に記載された事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-09-08 
結審通知日 2008-09-09 
審決日 2009-12-15 
出願番号 特願平9-347900
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柏崎 康司  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 越河 勉
村田 尚英
発明の名称 カメラおよびその制御方法  
代理人 野口 忠夫  
代理人 丹羽 宏之  

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