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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K
管理番号 1211277
審判番号 不服2008-13740  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-02 
確定日 2010-02-05 
事件の表示 特願2003-360202「ボールバルブのボールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月19日出願公開、特開2005-127340〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成15年10月21日の特許出願であって、平成20年4月25日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年6月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年6月19日付けで明細書及び特許請求の範囲に対する手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、当審において、平成21年7月16日(起案日)付けで審尋がなされたが、指定された期間内に回答がなされていない。

【2】補正の却下の決定

[結論]
本件補正を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に対し、以下のような補正を含むものである。なお、下線は、審判請求人が付した補正箇所である。

(1)本件補正前の請求項1(平成19年11月21日付け手続補正)
「【請求項1】
ニッケル合金やチタン合金の耐食性金属板材で円板状に形成した円板状板材を金型により半球状に成形し、こうして成形した二つの半球状体を突き合わせて溶接することにより球状のボール本体を形成し、この後ボール本体に、貫通流路形成用スリーブを挿入するためのスリーブ挿入孔を穿孔すると共に、ボール回転駆動用スピンドルの係合凸部が係合する凹状係合部材を挿入するための係合部材挿入用開口部を開口し、これらスリーブ挿入孔及び係合部材挿入用開口部に貫通流路形成用スリーブ及び凹状係合部材を夫々挿入してボール本体に対し溶接した後、内部応力を除去する熱処理を行いボール本体の表面及び溶接部を機械仕上げすることを特徴とする金属腐食性液体及び金属腐食性ガスが流通する配管に使用されるボールバルブのボールの製造方法。」

(2)本件補正後の請求項1(平成20年6月19日付け手続補正)
「【請求項1】
ニッケル合金やチタン合金の耐食性金属板材で円板状に形成した円板状板材を、半球面状の凹部を形成した下側にある固定雌型と、この雌型の凹部に対応する半球面状の凸部を形成した上側にある可動雄型からなる金型により半球状に成形し、こうして成形した二つの半球状体を突き合わせて溶接することにより球状のボール本体を形成し、この後ボール本体に、貫通流路形成用スリーブを挿入するためのスリーブ挿入孔を穿孔すると共に、ボール回転駆動用スピンドルの係合凸部が係合する凹状係合部材を挿入するための係合部材挿入用開口部を開口し、これらスリーブ挿入孔及び係合部材挿入用開口部に貫通流路形成用スリーブ及び凹状係合部材を夫々挿入してボール本体に対し溶接した後、内部応力を除去する熱処理を行いボール本体の表面及び溶接部を機械仕上げすることを特徴とする金属腐食性液体及び金属腐食性ガスが流通する配管に使用されるボールバルブのボールの製造方法。」

2.補正の適否

上記補正は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0010】の記載に基づき、本件補正前の「金型」を「半球面状の凹部を形成した下側にある固定雌型と、この雌型の凹部に対応する半球面状の凸部を形成した上側にある可動雄型からなる金型」とさらに限定して特定するものである。
すなわち、上記補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の各請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。
したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3.本願補正発明について

3-1.本願補正発明

本願補正発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記「【2】1.本件補正の内容」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。

3-2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:実願昭48-29422号(実開昭49-137117号)のマイクロフィルム
刊行物2:登録実用新案第3039639号公報

[刊行物1]
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物1には、「ボールバルブのボール」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)「本考案はボールバルブのボールに関し、その目的とする処は軽量且安価で、しかも従来品と変らない強度及び耐久性を有す製品を提供せんとするにある。」(第1ページ第14?17行)

(イ)「以下、本考案実施の一例を図面により説明する。ボール本体(A)は外殻(1)と内殻(2)及びスピンドル受(3)とで構成するが、これら各構成部材はおよそ0.5mm厚の板状ステンレス材で成型するものである。外殻(1)は内部中空状の球面形に成形すると共に、相対する両側面を平行に切断し、その両側面間(4)(4)に渉り内殻(2)を貫通状に溶接する。
内殻(2)はバルブケース(B)を通過する流体の通路(5)となるもので円筒状に成型し、上記外殻(1)の中心を貫く様に前記両側面間(4)(4)に渉り貫挿通し、外殻(1)と内殻(2)との接触部分を溶接密着すると共に、外殻(1)より突出した部分の内殻(2)を削り落すようにする。
又、ボール本体(A)には外部から開閉回動操作し得るようにスピンドル受(3)を内側に凹設状に溶接固定するが、スピンドル受(3)は略舟型に成型し、且又前記外殻(1)上面に円筒状内殻(2)と直交状に窓孔(6)を開穿し、この窓孔(6)にスピンドル受(3)を嵌挿して凹設状に溶接固定するものである。」(第1ページ第18行?第2ページ第18行)

(ウ)第2図から、ボール本体(A)は、外殻(1)の中心を貫く両側面間(4)(4)に、内殻(2)を挿入するための内殻挿入孔を有していることが看取できる。

そうすると、上記記載事項(ア)?(ウ)及び図面の記載からみて、上記刊行物1には次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「板状ステンレス材を、内部中空状の球面形の外殻(1)に成形し、外殻(1)の中心を貫く両側面間(4)(4)に、内殻(2)を挿入するための内殻挿入孔を有し、ボール本体(A)を外部から開閉回動操作し得るように、外殻(1)上面に円筒状内殻(2)と直交状に窓孔(6)を開穿し、内殻(2)を円筒状に成型して両側面間(4)(4)に貫挿通し、外殻(1)と内殻(2)との接触部分を溶接密着するとともに外殻(1)より突出した部分の内殻(2)を削り落し、スピンドル受(3)を略舟型に成型し、この窓孔(6)にスピンドル受(3)を嵌挿して凹設状に溶接固定する、流体通路に使用されるボールバルブのボール本体(A)の製造方法。」

[刊行物2]
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物2には、「玉弁」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(エ)「【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は一種の玉弁に関し、特に、伝統の玉弁が、製造上及び材料コスト上、有していた数々の欠点を改善し、さらに、全体構造が玉弁本来の作用効果を具えたものとされながら、大幅に材料コストを削減でき、製造プロセスを簡単にでき大量生産に適していることを特徴とするものに関する。」

(オ)「【0002】
【従来の技術】
一般の玉弁は図1、図2に示され、玉弁2は、実心状に製造され、その製造工程は、まず、ステンレス鋼或いは銅のインゴット31を、高温で溶融32し鋳造33して中央に一つの貫通する中心水道を有する半製品34となし、旋盤で半製品34の表面の粗い面を旋削加工35し、必要な精密度、即ち必要な公差範囲のものとし、最後に全体表面を研削加工36して滑らかとなし、玉弁2を完成していた。しかし、この伝統的な玉弁2は、その全体構造と製造上、以下のような多くの欠点を有しており、改善が待たれていた。
1.玉弁2が、ステンレス或いは銅のインゴット31を鋳造することで実心構造を有するものとして製造されているが、ステンレスであっても銅であっても、単価の高い材料であり、ゆえに、その構造に適合する材料にコストがかかった。
2.製造工程における各ステップが、独立作業され、一貫した連続作業を以て生産することができず、製造工程が複雑であった。
3.鋳造方式で製造された玉弁は、その表面に多少なりとも砂孔が残るため、鋳造の後に、切削加工して必要とされる精密な円周寸法とする必要があるが、特に最初に鋳造する時など、砂孔の発生過多や過大が起こった場合に、不良品の発生率が高まり、製品の品質が要求レベルに達しないものとなるため、改善が求められていた。」

(カ)「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
本考案は、ステンレス鋼板或いは銅板を連続式にプレス加工してなる二つの半円杯状の半円球体を、その間に、ステンレス鋼管或いは銅管で製造され長さが半円球体の外径に同じ一つの円管を置いて組み合わせて、高周波溶接機で溶接して一つの円球状となしたものに、真円度矯正と表面研磨してなした中空の玉弁を提供し、それにより玉弁の本来の作用効果を保持しつつ、その製造工程を簡易化し、大量生産を行えるようにし、大幅に材料コストを削減できるようにすることを課題としている。」

(キ)「【0007】
【考案の実施の形態】
図3及び図4を参照されたい。本考案の玉弁4は、ステンレス鋼板或いは銅板411を連続式にプレス加工してなる二つの半円球体41を、その間にステンレス鋼管或いは銅管421で製造した長さが半円球体41の外径に同じく玉弁の中心水道とされる一つの円管42を挟んで組み合わせて、高周波溶接機で溶接S1して一つの円球状となしたものに、真円度矯正S2と表面研磨S3してなした中空の玉弁4となしたものである(図4参照)。本考案の玉弁4は、弁室内に置かれた後、その全体の外観の大きさは伝統の実心の玉弁と同じであり、ステンレス鋼板或いは銅板411をプレス加工して半円球体41となしたことから、玉弁4の耐圧強度が増強されて伝統の実心の玉弁と同じ程度とされ、ゆえに精密で耐圧力を有するものとされ、また、同じ寸法のものでは、伝統の玉弁に較べてその重量が大幅に軽減されており、また製造過程で、連続自動式プレス加工方式と溶接による組み合わせを採用していることから、全体の製造が簡単に行え、大幅に製造コストを下げることができ、生産量を高めて経済的な利益をもたらしうるものとされている。」

上記記載事項(エ)?(キ)及び図面(特に、図4)の記載を総合すると、刊行物2には、次の技術事項(a)?(d)を含む発明が記載されているものと認められる。
(a)従来の玉弁(「ボールバルブ」に相当する。)は、ステンレス或いは銅のインゴット31を鋳造することで実心構造を有するものとして製造されているため、材料にコストがかかった(上記記載事項(オ))。
(b)鋳造は、製造工程が複雑であった(上記記載事項(オ))。
(c)製造過程で、連続自動式プレス加工方式と溶接による組み合わせを採用していることから、全体の製造が簡単に行え、大幅に製造コストを下げることができる(上記記載事項(キ))。
(d)玉弁4は、ステンレス鋼板をプレス加工してなる二つの半円球体41を、その間にステンレス鋼管で製造した長さが半円球体41の外径に同じく玉弁の中心水道とされる一つの円管42を挟んで組み合わせて溶接S1して一つの円球状となしたものに、真円度矯正S2と表面研磨S3してなした中空の玉弁4となした(上記記載事項(キ))。

3-3.発明の対比

本願補正発明と刊行物1発明を対比する。
刊行物1発明の「板状ステンレス材」は、ボールバルブにおける機能及び技術常識からみて、耐食性金属板材といえるものであるから、本願補正発明の「耐食性金属板材」に相当し、以下同様に、「外殻(1)」は「球状のボール本体」ないし「ボール本体」に相当し、「内殻(2)」は「貫通流路形成用スリーブ」に相当し、「内殻挿入孔」は「スリーブ挿入孔」に相当し、「スピンドル受(3)」は「凹状係合部材」に相当し、「窓孔(6)」は「係合部材挿入用開口部」に相当し、「ボールバルブのボール本体(A)」は「ボールバルブのボール」に相当するものである。
そうすると、刊行物1発明の「板状ステンレス材」と本願補正発明の「ニッケル合金やチタン合金の耐食性金属板材で円板状に形成した円板状板材」は、少なくとも「耐食性金属板材で形成した板材」である限りにおいて共通するものである。
刊行物1発明の「内部中空状の球面形の外殻(1)に成形し」は、具体的形成手段を相違点において別途検討することとすると、実質的に、本願補正発明の「球状のボール本体を形成し」に相当する。
刊行物1発明の「外殻(1)の中心を貫く両側面間(4)(4)に、内殻(2)を挿入するための内殻挿入孔を有し」は、実質的に、本願補正発明の「この後ボール本体に、貫通流路形成用スリーブを挿入するためのスリーブ挿入孔を穿孔する」に相当する。
刊行物1発明の「ボール本体(A)を外部から開閉回動操作し得るように、外殻(1)上面に円筒状内殻(2)と直交状に窓孔(6)を開穿し」は、刊行物1の第3図に記載されたスピンドル(9)を参酌しつつ、当該スピンドル(9)を受けるスピンドル受(3)が略舟型であることを考慮すると、当該スピンドル(9)の係合部分は凸部であるものと解され、実質的に、本願補正発明の「ボール回転駆動用スピンドルの係合凸部が係合する凹状係合部材を挿入するための係合部材挿入用開口部を開口し」に相当する。
刊行物1発明の「内殻(2)を円筒状に成型して両側面間(4)(4)に貫挿通し、外殻(1)と内殻(2)との接触部分を溶接密着するとともに外殻(1)より突出した部分の内殻(2)を削り落し、スピンドル受(3)を略舟型に成型し、この窓孔(6)にスピンドル受(3)を嵌挿して凹設状に溶接固定する」は、外殻(1)より突出した部分の内殻(2)を削り落すことが必要に応じて実施される長さを調整するための工程にすぎないから、実質的に、本願補正発明の「これらスリーブ挿入孔及び係合部材挿入用開口部に貫通流路形成用スリーブ及び凹状係合部材を夫々挿入してボール本体に対し溶接した」に相当する。
刊行物1発明の「流体通路に使用されるボールバルブ」は、少なくとも「流体が流通する配管に使用されるボールバルブ」である点で、本願補正発明の「金属腐食性液体及び金属腐食性ガスが流通する配管に使用されるボールバルブ」と共通するものである。

したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、
「耐食性金属板材で形成した板材により球状のボール本体を形成し、この後ボール本体に、貫通流路形成用スリーブを挿入するためのスリーブ挿入孔を穿孔すると共に、ボール回転駆動用スピンドルの係合凸部が係合する凹状係合部材を挿入するための係合部材挿入用開口部を開口し、これらスリーブ挿入孔及び係合部材挿入用開口部に貫通流路形成用スリーブ及び凹状係合部材を夫々挿入してボール本体に対し溶接した、流体が流通する配管に使用されるボールバルブのボールの製造方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
耐食性金属板材として、本願補正発明が、「ニッケル合金やチタン合金の耐食性金属板材で円板状に形成した円板状板材」としているのに対し、刊行物1発明は、単に「板状ステンレス材」としている点。

[相違点2]
球状のボール本体を、本願補正発明が、「半球面状の凹部を形成した下側にある固定雌型と、この雌型の凹部に対応する半球面状の凸部を形成した上側にある可動雄型からなる金型により半球状に成形し、こうして成形した二つの半球状体を突き合わせて溶接することにより形成し」たのに対し、刊行物1発明は、どのように形成したか明らかではない点。

[相違点3]
スリーブ挿入孔及び係合部材挿入用開口部に貫通流路形成用スリーブ及び凹状係合部材を夫々挿入してボール本体に対し溶接した後、本願補正発明が、「内部応力を除去する熱処理を行いボール本体の表面及び溶接部を機械仕上げする」のに対し、刊行物1発明は、溶接した後に熱処理や機械仕上げを行っているかどうか明らかではない点。

[相違点4]
流通する流体が、本願補正発明が、「金属腐食性液体及び金属腐食性ガス」であるのに対し、刊行物1発明は、どのような流体が流通するのか明らかではない点。

3-4.当審の判断

(1)相違点1について
まず、バルブを形成する材料について検討するに、バルブの材料として、使用する環境や流通する流体に応じた耐食性を考慮することは技術常識であって、「バルブエンジニア・プラントエンジニアのためのバルブ設計資料集(バルブ設計資料集編纂委員会,日本,日本工業出版株式会社,1984年7月15日,初版)のP.229-P.232を参照。」にも例示されているように、その具体的材料は上記技術常識に基づいて当業者が適宜選択できるものである。そして、本願補正発明の「ニッケル合金やチタン合金」とした点は、「耐食性金属板材」との関係が一義的に捉えられないから本願明細書の記載を参酌すると、上記2つの合金は、本願明細書の段落【0004】に記載された「ニッケル合金やチタン合金等の高価な耐食性金属材料でボールバルブのボールを製造するにあたって」との記載を根拠に補正された構成である(平成19年11月21日付けの意見書の「(3)補正の根拠」の項)が、「ニッケル合金やチタン合金等の高価な耐食性金属材料」における「ニッケル合金やチタン合金等」の記載からは例示されたものとして解釈するほかなく、「ニッケル合金やチタン合金」が耐食性という機能に加えて、ボールバルブのボールの機能において格別の意味を有するものとも認められないから、上記2つの合金を特定した点は、上記技術常識の範ちゅうにおいて当業者が適宜選択したものにすぎない。
次に、本願補正発明が耐食性金属板材を「円板状に形成した円板状板材」とした点について検討するに、金属加工によって部品を加工する場合に、加工前の形状をどのようにするかは、加工の容易性や製品の形状などを考慮して適宜設計されるものであるところ、円板状の形状が特異な形状でもなくごく一般的な形状であることに照らせば、「円板状に形成した円板状板材」とすることは、当業者が決定できる設計的事項にすぎない。
したがって、刊行物1発明について技術常識を参酌した上で適宜設計変更をすることにより上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
刊行物2には、ステンレス鋼板をプレス加工してなる二つの半円球体41を、その間に一つの円管42を挟んで組み合わせて、溶接S1して一つの円球状となしたものに、真円度矯正S2と表面研磨S3した、ボールバルブのボールに相当する球状の玉弁が記載されており(上記記載事項(キ))、成形した二つの半球状体を突き合わせて溶接することにより球状のボール本体を形成することは、刊行物1発明に刊行物2に記載された技術事項(d)を適用して、当業者が容易に想到できたことである。そして、上記のようなプレス加工によって半球面状の部材を成形する際、その形状に見合った凹部を形成した下側にある固定雌型と、この雌型の凹部に対応する凸部を形成した上側にある可動雄型からなる金型を用いることは従来周知(特開2001-120317号公報の段落【0012】,【0027】及び図面の上型16,18、及び実願昭54-150586号(実開昭56-71332号)のマイクロフィルムの第4図の絞り型A,Bを参照。)であり、このような加工の方法は技術分野を問わず、成形する形状に応じた金型を用いて実施されるものであるから、ボールバルブのバルブを成形するために当該形状を半球面状とすることは当業者が困難を要せず実施できることである。
なお、刊行物2に記載された発明では、二つの半円球体41の間に円管42を挟んで連続的に溶接してボールバルブのボールを形成しているが、この溶接作業を本願補正発明のようにボール本体を溶接する作業と貫通流路形成用スリーブをボール本体に溶接する作業に分けて行うか、刊行物2に記載された発明のように連続して行うかは、当業者が適宜決定できる設計的事項であって、この作業順序や作業の連続化・分割化によって製造方法において予測されないような効果が生じるものではない。
したがって、刊行物1発明に刊行物2の技術事項を適用し、適宜上記周知の技術を採用することによって、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
溶接した後、内部応力が残ることは技術常識であって、必要に応じて内部応力を除去するために熱処理を行うことは、「機械工学便覧(日本,社団法人 日本機械学会,1987年 4月,新版)」の「溶接行程(B1-6ページ)」の欄に「溶接行程後、精密機械加工を行う部品にあっては、溶接後の応力除去焼きなまし(JIS Z 3701,Z 3702)の指定を行うことが必要である。」と記載されているように従来から適宜実施されている周知の技術である。そして、金属加工によって成形した後の表面や溶接後の表面を機械仕上げすることは、刊行物2の技術事項(d)においても表面研磨S3されているように慣用手段にすぎない。
したがって、刊行物1発明に適宜上記周知の技術を採用し、刊行物2の技術事項を適用することによって、上記相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(4)相違点4について
本願補正発明が、金属腐食性液体及び金属腐食性ガスが流通する配管に使用されるものである点を特定した点について検討するに、耐食性金属板材としてどのような材料を用いるかは配管を流通する流体に応じて当業者が適宜選定できることは、上記「3-4.(1)相違点1について」に説示したとおりであるから、上記材料を特定したボールバルブのボールは、金属腐食性液体及び金属腐食性ガスが流通する配管に使用できることは明らかである。
したがって、刊行物1発明について技術常識を参酌した上で適宜設計変更をすることにより上記相違点4に係る本願補正発明のようにすることは、当業者が容易に想到できたことである。

(5)効果について
本願補正発明が奏する「従来のボール製造方法である鋳造や鍛造に比べ、製造に要する設備が甚だ簡単で小規模で済むから、ニッケル合金等の非常に高価な耐食性金属板材を使用して、ボールを少量製造する場合でも、製造単価を安くすることが可能となり、またボール本体、スリーブ及び凹状係合部材に発生した歪みを除去することが出来、後に行う機械仕上げが容易となり、加工精度の向上を図る」といった効果は、いずれも、プレス加工の適用や材料の選択などに伴う一般的な効果にすぎず、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術から当業者が予測できるものである。

(6)まとめ
したがって、本願補正発明は、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(7)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の平成20年6月19日付けの手続補正書において、「引用文献1には外殻(1)の製造方法が何ら記載も示唆もされておりません。そのため、前記外殻(1)を製造する設備が全く不明であるため、ボールバルブのボールを製造する設備が簡単で小規模で済むのか否かが全く不明であります。」と述べるとともに、「引用文献2には、単にステンレス鋼板或いは銅板411を連続式にプレス加工してなるという記載しかなく、具体的にどのようなプレス加工をするのかが全く不明であります。そのため、引用文献2には、本願発明のように、二つの半球状体を半球面状の凹部を形成した下側にある固定雌型と、この雌型の凹部に対応する半球面状の凸部を形成した上側にある可動雄型からなる金型により半球状に成形するという具体的な構成が何ら記載も示唆もされておりませんから、プレス加工を行うにあったての設備が小規模ですむものなのか否かが全く不明であります。」と述べるなど(審判請求書の手続補正書「3.(4)本願発明と引用文献に記載された内容との対比」の項参照)、本願は特許されるべき旨主張している(審決注:引用文献1,2は、それぞれ、上記刊行物1,2に対応する)。
確かに、上記刊行物1には、板状ステンレス材で成型するとあるだけで、外殻(1)の具体的製造方法は明らかではなく、上記刊行物2にはプレス加工とあるだけで金型などに関する記載はない。しかしながら、プレス加工において、成型する部品の形状に応じた凹部を形成した下側にある固定雌型と、この雌型の凹部に対応する凸部を形成した上側にある可動雄型からなる金型によって加工することは、成型する部品の分野を問わず実施されている従来周知の技術であって、これをボールバルブのボールに適用したことによって生じた審判請求人が主張する上記のような効果は、プレス加工の採用に伴う一般的な効果であって、当業者が予測できないものではない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

4.むすび

以上のとおり、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成20年6月19日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成19年11月21日付け手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める(以下、「本願発明」という)。
「【請求項1】
ニッケル合金やチタン合金の耐食性金属板材で円板状に形成した円板状板材を金型により半球状に成形し、こうして成形した二つの半球状体を突き合わせて溶接することにより球状のボール本体を形成し、この後ボール本体に、貫通流路形成用スリーブを挿入するためのスリーブ挿入孔を穿孔すると共に、ボール回転駆動用スピンドルの係合凸部が係合する凹状係合部材を挿入するための係合部材挿入用開口部を開口し、これらスリーブ挿入孔及び係合部材挿入用開口部に貫通流路形成用スリーブ及び凹状係合部材を夫々挿入してボール本体に対し溶接した後、内部応力を除去する熱処理を行いボール本体の表面及び溶接部を機械仕上げすることを特徴とする金属腐食性液体及び金属腐食性ガスが流通する配管に使用されるボールバルブのボールの製造方法。」

2.引用刊行物とその記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は次のとおりであり、その記載事項は、上記【2】3-2.のとおりである。

刊行物1:実願昭48-29422号(実開昭49-137117号)のマイクロフィルム
刊行物2:登録実用新案第3039639号公報

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、「金型」についての限定事項である「半球面状の凹部を形成した下側にある固定雌型と、この雌型の凹部に対応する半球面状の凸部を形成した上側にある可動雄型からなる」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-4.当審の判断」に示したとおり、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記限定を省いた本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1、2に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2009-11-30 
結審通知日 2009-12-02 
審決日 2009-12-17 
出願番号 特願2003-360202(P2003-360202)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16K)
P 1 8・ 575- Z (F16K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐伯 憲一  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 藤村 聖子
常盤 務
発明の名称 ボールバルブのボールの製造方法  
代理人 藤川 忠司  

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