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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16K |
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管理番号 | 1211279 |
審判番号 | 不服2008-17672 |
総通号数 | 123 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-03-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-07-10 |
確定日 | 2010-02-05 |
事件の表示 | 特願2002-213562「流路切換器」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 5月30日出願公開、特開2003-156161〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
【1】手続の経緯 本願は、平成14年7月23日(優先権主張:平成13年9月6日)の出願であって、平成20年6月2日付け(起案日)で拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年7月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成20年8月8日付けで明細書に対する手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。 その後、当審において、平成21年7月13日(起案日)付けで審尋がなされ、平成21年9月17日に審尋に対する回答書が提出されたものである。 【2】補正の却下の決定 [結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1に対し、以下のような補正を含むものである。なお、下線は、審判請求人が付した補正箇所である。 (1)本件補正前の請求項1(平成20年2月8日付け手続補正) 「【請求項1】熱可塑性プラスチックで形成されたボディを有し、前記ボディ内は、流体流入口を有する上部室および複数個の流体流出口を有する下部室を形成する区画板と、前記上部室と前記複数個の流体流出口のそれぞれとを連通する、前記区画板に設けられた複数個の流体通路と、前記区画板に当接して前記流体通路を閉塞する複数個の弁体とを備え、かつ、前記区画板は、前記弁体と当接するシール部がゴム硬度が50?95度の範囲内にある熱可塑性エラストマーで形成されたものであり、かつ、前記区画板の前記弁体が当接しない部位を含む前記ボディと前記シール部とが熱融着により一体的に成形されていることを特徴とする流路切換器。」 (2)本件補正後の請求項1(平成20年8月8日付け手続補正) 「【請求項1】アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)で形成されたボディを有し、前記ボディ内は、流体流入口を有する上部室および複数個の流体流出口を有する下部室を形成する区画板と、前記上部室と前記複数個の流体流出口のそれぞれとを連通する、前記区画板に設けられた複数個の流体通路と、前記区画板に当接して前記流体通路を閉塞する複数個の弁体とを備え、かつ、前記区画板は、前記弁体と当接するシール部がゴム硬度が50?95度の範囲内にある熱可塑性ポリエステル系エラストマーで形成されたものであり、かつ、前記区画板の前記弁体が当接しない部位を含む前記ボディと前記シール部とが熱融着により一体的に成形されていることを特徴とする流路切換器。」 2.補正の適否 上記補正は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0020】の記載に基づき、「熱可塑性プラスチックで形成されたボディ」をさらに限定して「アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)で形成されたボディ」と特定し、「熱可塑性エラストマー」をさらに限定して「熱可塑性ポリエステル系エラストマー」と特定するものである。 すなわち、上記補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものとして認めることができ、かつ、補正前の各請求項に記載した発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更することのない範囲内において行われたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものである。 したがって、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであり、かつ、特許法第17条の2第3項に規定された新規事項追加禁止に違反するものではない。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 3.本願補正発明について 3-1.本願補正発明 本願補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記「【2】1.本件補正の内容」に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。 3-2.引用刊行物とその記載事項 刊行物A:特開平9-144913号公報 刊行物B:実願平3-111850号(実開平5-49093号)のCD-ROM 刊行物C:特開昭60-261515号公報 刊行物D:特開平10-266291号公報 [刊行物A] 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物A(特開平9-144913号公報)には、「多方弁、浄水器および流体の分配、混合方法」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。 (ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 隔室(18)内に、区画板(18d)を介して流入口(15)を有する上部室(18e)と複数の流出口(16)(17)(17a)を有する下部室(18f)とを設けるとともに、区画板(18d)に両室(18e)(18f)を互に連通する複数の流体通路(18a)(18b)(18c)を設け、各流体通路(18a)(18b)(18c)に、上部室(18e)側から係合して流体の流通を阻止するとともに、流体の流通を阻止する状態において一部が下部室(18f)側に突出する弁体(18a1)(18b1)(18c1)を設け、下部室(18f)に移動可能に収容されているとともに、移動に伴なって一部の弁体(18a1)(18b1)(18c1)を上方に移動させて該当する流体通路を開放するカム部(23a)(23b)(23c)が一体的に設けられてなる移動体(23)を有することを特徴とする多方弁。」 (イ)「【0001】 【発明の属する技術分野】この発明は多方弁、浄水器および流体の分配、混合方法に関し、さらに詳細にいえば、流体の分配、混合を行うための多方弁、この多方弁を用いた浄水器および流体の分配、混合方法に関する。」 (ウ)「【0013】 【発明の実施の形態】以下、添付図面によってこの発明の実施の態様を詳細に説明する。なお、以下の説明はこの発明の実施態様に係る多方弁を組み込んでなる浄水器に基づいて行うが、多方弁自体は浄水器以外のものにも適用できることは周知であるから、多方弁の用途が浄水器に限定されるわけではないことは明らかである。 【0014】図1はこの発明の浄水器の一実施態様を示す縦断面図、図2は、図1の浄水器の右側面図、図3は図1のIII-III線断面図である。この実施態様の浄水器10は、浄水器本体11と浄水器用カートリッジ(以下、濾材収納筒部と称する)12とで構成されており、水道蛇口(図示せず)に対して浄水器本体11の固定具14で直結される。 【0015】前記浄水器本体11は、上部に水道蛇口(図示せず)からの原水の流入口である原水入口15、側部に設けられ、かつ受入れた原水を濾材収納筒部12に供給するための原水取出口16、および下部に設けられ、かつ原水をそのままシャワー水として取出す原水供給口17およびシャワー供給口17aを有するボディ18の内部に、原水の流路を前記原水入口15または原水供給口17の方向に切り換える切換弁19が設けられたものであり、ボディ18の上部には、前記水道蛇口13と連結するための固定具14が設けられている。尚、該固定具14は、図1に示すように、リング状ゴムパッキン20、押えリング21、キャップ22からなり、キャップ11とボディ18にそれぞれ形成されたメネジとオネジとにより水漏れがない状態で水道蛇口(図示せず)とボディ18とを連結する従来公知の構成を採用している。 【0016】前記ボディ18の内部には、3個の通水路18a,18b,18cが前記切換弁19のスプール軸23と平行に設けられてなる区画板18dによって区画された上部室18eと下部室18fとが形成されている。すなわち、図に示すように上部室18eには、原水の流入口である1つの原水入口15が設けられ、また、下部室18fには、3つの原水流出口である原水取出口16、原水供給口17、シャワー供給口17aが設けられている。そして、通水路18a,18b,18cのそれぞれに上方から水密的に係合し、係合状態において下端部が下部室18eに突出するように球状の弁体18a1,18b1,18c1が設けられている。したがって、検査時などにおける弁体18a1,18b1,18c1の取り出し、交換に当っては、前記固定具14をボディ18から取り外して上部室18eの上部を開放することにより簡単に達成することができる。前記切換弁19は、スプール軸23の所定位置にシールリング23dを設けて下部室18fの内壁面と水密的に係合させることにより、前記通水路18a,18b,18cをそれぞれ前記原水取出口16、原水供給口17、シャワー供給口17aと連通している。また、スプール軸23の所定位置(各通水路と対向する所定位置)に弁体を押し上げるためのカム部23a,23b,23cが設けられており、しかもこれらカム部23a,23b,23cは、スプール軸23を例えば90°ずつ回転させることにより選択的に上方を向き、対応する弁体を押し上げるようにしている。なお、ここで、弁体の押し上げ量としては、1?2mmに設定すれば十分な通水量を確保することができる。したがって、上部室18eと下部室18fとを有するボディ18を小形化することができ、ひいては滞留水の量を少なくして衛生的にすることができる。そして、切換弁操作機構19aによりそのスプール軸23を所定角度回動することにより、前記弁体18a1,18b1,18c1のうち、該当する弁体の下部を押し上げて該当する通水路を開放し、前記原水入口15を、前記原水取出口16、原水供給口17またはシャワー供給口17aと選択的に連通することができる。なお、19bはクリックストップ機構であり、スプール軸23の回転位置を簡単に設定することができる。」 (エ)「【0017】前記弁体18a1は、図4に示すように、芯体としての鋼球18a2の全外周を厚みが0.5?1mm程度の弾性体層18a3にて覆ってなるものであることが好ましく、シール性、耐久性を高めることができるが、全体が円錐状、円筒状であってもよく、またある程度のシール性、耐久性で十分な場合には、弾性体層18a3を有していなくてもよい。ここで、弾性体層18a3としては、例えば、ゴム硬度が50?90度のものが好適に採用される。また、他の弁体18b1,18c1についても同様の構成が採用されるので、詳細な説明を省略する。」 そうすると、上記記載事項(ア)?(エ)及び図面の記載からみて、上記刊行物Aには次の発明(以下、「刊行物A発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ボディ18内に、区画板(18d)を介して流入口(15)を有する上部室(18e)と複数の流出口(16)(17)(17a)を有する下部室(18f)とを設けるとともに、区画板(18d)に両室(18e)(18f)を互に連通する複数の流体通路(18a)(18b)(18c)を設け、各流体通路(18a)(18b)(18c)に、上部室(18e)側から係合して流体の流通を阻止する弁体(18a1)(18b1)(18c1)を設け、下部室(18f)に移動可能に収容されているとともに、前記弁体(18a1)(18b1)(18c1)は、芯体としての鋼球(18a2)の全外周をゴム硬度が50?90度の弾性体層にて覆ってなるものである、多方弁。」 [刊行物B] 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物B(実願平3-111850号(実開平5-49093号)のCD-ROM)には、「浄水器」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。 (オ)「【0010】 【実施例】 図1に示す実施例について説明する。 浄水器本体1には水道水を受ける密閉された部屋2があり、この下部隔壁に複数個の穴を開けてここから流れ出る水の流路、すなわち原水ストレート流路3、原水シャワー流路4、浄水流路5を形成してある。これを開放、閉塞する3つの弁6がそれぞれの穴に対応して設けられ、それぞれの弁に対応して回転する3つのカム7があり、このカムはシャフトで連結されていて、先端にツマミ8が取り付けられており手動で回転させることによって弁を開放、閉塞することができ、流れの方向を複数方向に切り換えできるように構成されている。 【0011】 側方からの図で一つの弁の開閉の状態を説明する。 図2は閉、図3は開の状態を示す。 弁6は板ばね材でできていて、予め開方向に付勢されている。 図2は予め開方向に付勢されている弁6をカム7の円周部で押さえて穴を塞ぎ、閉の状態にしている。 図3はカム7を回転してカム7の切り欠き部9を弁6と当接させ予め開方向に付勢されている弁6を開としている。 図2でシール構造について説明すると、穴にはもちろん、確実にシールするためのパッキン10があり、このパッキン穴と当接する弁6は半球状に成形されて水漏れのない構造となっている。・・・(以下、略)」 [刊行物C] 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物C(特開昭60-261515号公報)には、「浄化装置付き止水栓」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。 (カ)「これら流入口6a、6bの上面にはテーパ状のゴム製弁座13a、13bを配し、且つこれらの上に夫々の流入口6a、6bを閉塞するようにボール7a、7bを配している。」(第2ページ左上欄第20行?同右上欄第3行) [刊行物D] 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物D(特開平10-266291号公報)には、「浄水器」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。 (キ)「【0018】上記構成の、浄水吐出部34を含む本体ボディ4および原水吐出部6は、コスト、成形加工性を考慮し、ABS樹脂、AS樹脂、PP樹脂、ポリカーボネート樹脂等のプラスチックで構成されている。・・・(以下、略)」 3-3.発明の対比 本願補正発明と刊行物A発明を対比する。 刊行物A発明の「ボディ18」は、その機能からみて、本願補正発明の「ボディ」に相当し、以下同様に、「流入口(15)」は「流体流入口」に相当し、「上部室(18e)」は「上部室」に相当し、「複数の流出口(16)(17)(17a)」は「複数個の流体流出口」に相当し、「下部室(18f)」は「下部室」に相当し、「区画板(18d)」は「区画板」に相当し、「多方弁」は「流路切換器」に相当するものである。 また、刊行物A発明の「弁体(18a1)(18b1)(18c1)」は、具体的構成を相違点において検討することとすると、その機能からみて、本願補正発明の「複数個の弁体」に相当するものである。 そうすると、刊行物A発明の「ボディ18内に、区画板(18d)を介して流入口(15)を有する上部室(18e)と複数の流出口(16)(17)(17a)を有する下部室(18f)とを設ける」は、実質的に、本願補正発明の「前記ボディ内は、流体流入口を有する上部室および複数個の流体流出口を有する下部室を形成する区画板」に相当し、以下同様に、「区画板(18d)に両室(18e)(18f)を互に連通する複数の流体通路(18a)(18b)(18c)を設け」は、「前記上部室と前記複数個の流体流出口のそれぞれとを連通する、前記区画板に設けられた複数個の流体通路」に相当し、「各流体通路(18a)(18b)(18c)に、上部室(18e)側から係合して流体の流通を阻止する弁体(18a1)(18b1)(18c1)を設け」は、「前記区画板に当接して前記流体通路を閉塞する複数個の弁体とを備え」に相当する。 したがって、本願補正発明の用語にならってまとめると、両者は、 「ボディを有し、前記ボディ内は、流体流入口を有する上部室および複数個の流体流出口を有する下部室を形成する区画板と、前記上部室と前記複数個の流体流出口のそれぞれとを連通する、前記区画板に設けられた複数個の流体通路と、前記区画板に当接して前記流体通路を閉塞する複数個の弁体とを備えた、流路切換器。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 上記ボディが、本願補正発明は「アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)で形成され」ているのに対し、刊行物A発明はどのような材料で形成されているか明らかでない点。 [相違点2] 本願補正発明は、「前記区画板は、前記弁体と当接するシール部がゴム硬度が50?95度の範囲内にある熱可塑性ポリエステル系エラストマーで形成されたものであり、かつ、前記区画板の前記弁体が当接しない部位を含む前記ボディと前記シール部とが熱融着により一体的に成形されている」のに対し、刊行物A発明は、「下部室(18f)に移動可能に収容されているとともに、前記弁体(18a1)(18b1)(18c1)は、芯体としての鋼球(18a2)の全外周をゴム硬度が50?90度の弾性体層にて覆ってなるものである」点。 3-4.当審の判断 (1)相違点1について 上記刊行物Dには、浄水器などの流路切換器のボディ(本体)の材料としてABS樹脂、AS樹脂、PP樹脂、ポリカーボネート樹脂等のプラスチックが例示されており(記載事項(キ))、刊行物A発明の流路切換器のボディの材料として、上記に例示された中から、コスト、成形加工性などを考慮してABS樹脂を選択することは、当業者が適宜実施できることである。 したがって、刊行物A発明に上記刊行物Dに記載された発明を適用して上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。 (2)相違点2について 浄水器などの流路切換器において、流路を遮断・開放する弁(本審決において、「弁」とは、「弁体」とその弁体が当接する「弁座」によって構成されるものを指す。)は、弁体とその弁体が当接する弁座が密着することによって遮断され、離れることによって開放される機能を有するものである。そして、上記弁体と上記弁座は、どちらか一方の材料を弾性体とすることによってよく密着するように構成することは技術常識である。刊行物A発明は、「ある程度のシール性、耐久性で十分な場合には、弾性体層18a3を有していなくてもよい」ものであるところ(上記刊行物Aの記載事項(エ))、弁体(18a1)(18b1)(18c1)の側に弾性体を設けて弁座の側との密着性をよくしているが、弁座の側に弾性体を設けて「シール部」とすることにより密着性をよくすることも上記刊行物Bの「パッキン10」や上記刊行物Cの「ゴム製弁座13a、13b」にあるように適宜実施されている慣用手段である。そうすると、刊行物A発明において、鋼球を弾性体層で覆うことにより弁体の側に弾性体を設けて弁座との密着性をよくすることに代えて、弁座の側に弾性体を設けてシール部とすることは、当業者が上記慣用手段を適用して適宜実施できることである。 そこで、弾性体からなる上記シール部が「ゴム硬度が50?95度の範囲内にある熱可塑性ポリエステル系エラストマーで形成された」点についてさらに検討するに、上記弾性体は、上述のとおり、弁体と弁座の密着性をよくするために設けられるものであり、そのゴム硬度は流路を遮断・開放すべき流体の圧力や、空気か水かなどといった流体の性質に応じて当業者が考慮すべき設計的事項というべきところ、刊行物A発明の弁体の側に設けられた弾性体のゴム硬度が50?90度であることに照らせば、本願補正発明においてゴム硬度が50?95度の範囲内とした点は、刊行物A発明と近似した数値範囲であって特異なものではなく、かつ、本願の明細書に上記数値範囲が臨界的意義を有する旨の記載もなく、上記弾性体は弁体の側に設けられているか、弁座の側に設けられているかに関わりなく弁の密着性をよくするものであることから、刊行物A発明に上記慣用手段を適用するにあたって「ゴム硬度が50?95度の範囲内」とすることは当業者が容易になし得ることである。さらに、流路を遮断・開放する観点から弁体と弁座の密着性を考慮する上で上記弾性体として最適の材料を選択することは、当業者が通常の創作能力を発揮して実施できることであるというべきところ、いわゆる密封ないしシールの材料として熱可塑性ポリエステル系エラストマーを用いることは周知事項(例えば、特開平2-266168号公報の第1表「実施例1」にはシール装置の本体1の材料として熱可塑性ポリエステル系エラストマーに相当するTPEEが用いられており(第5ページ右下欄第5?12行、第1表、及び第1,3図を参照)、特開平8-230456号公報にはウインドガラス1をシールするガスケットの材料として熱可塑性ポリエステル系エラストマーが例示されている(段落【0002】、【0005】、【0026】を参照)。)であるから、上記弾性体の材料として熱可塑性ポリエステル系エラストマーを選択することは当業者が容易に推考できることである。 次に、「前記区画板の前記弁体が当接しない部位を含む前記ボディと前記シール部とが熱融着により一体的に成形されている」点について検討するに、ボディに一体化して取り付けるか、パッキンのように独立して形成したものをボディに嵌着するかは、当業者が設計上考慮できる事項にすぎないから、一体的に成形することに何ら困難性はない。その具体的方法として、ボディとシール部を熱融着することは、製造方法に係る構成であって、本願補正発明が「物」の発明である以上、その製造方法は単なる設計的事項ともいえるところ、仮に、物としての構成上、何らかの意味を有するとしても、弁座を構成する熱可塑性弾性体を硬質の合成樹脂本体に熱融着して一体化することは技術分野を問わず当業者が実施できる周知事項(例えば、特開平10-220635号公報の段落【0007】?【0011】参照)であるから、流路切換器の弁座であるシール部にこれを適用して「前記区画板の前記弁体が当接しない部位を含む前記ボディと前記シール部とが熱融着により一体的に成形されている」ようにすることは当業者が容易に推考できることである。 したがって、刊行物A発明に上記刊行物B,Cに記載された発明及び上記周知事項を適用して上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。 (3)効果について 本願補正発明が奏する「流体通路に対応する数の弁体で選択的に流路の開閉を行うので、弾性体を強制的に移動させる必要がなく、切換操作力を小さく維持しつつ十分なシール性、耐久性を発揮することができる。そして、弁体が当接する部位を弾性体で形成するので、弁体がどのような素材のものであっても、また、繰り返し流路切換を行って弁体が多少変形しても、十分なシール性を発揮することができる。」といった効果は、いずれも刊行物A?Dに記載された発明及び上記周知事項から当業者が予測できるものである。 (4)まとめ したがって、本願補正発明は、刊行物A?Dに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書の平成20年9月18日付けの手続補正書及び平成21年9月17日付けの審尋に対する回答書において、刊行物A発明の弁体は、柔らかい弾性体でできたシール部をカム部で突き上げる構造となっているため、繰り返して使用すると、シール部が徐々に傷付き、劣化する場合があるが、本願補正発明のシール部は流路切換器ボディの内部に一体的に熱融着で成形されていることから、繰り返して使用しても、シール部が徐々に傷付いたり、劣化することはないこと(上記回答書の(2-2)の項)、上記周知事項に例示した特開平10-220635号公報に記載された弁は、内燃機関の吸気系等において温度変化によるバイメタルの反りを利用して空気通路の開閉を行う軽量で、組み付け性に優れるバイメタルバルブであり、熱可塑性エラストマーと熱可塑性プラスチックを一体成形することによりコストダウンを図ることが記載されているが、本願補正発明が対象としている浄水器という技術分野には全く関連していないこと(審判請求書の上記手続補正書の3.(5)の項)、などを根拠に、本願は特許されるべき旨主張している。 しかしながら、刊行物A発明において、弁体の側に設けた弾性体を弁座の側に設けてシール部とすることは、上記に説示したとおり、当業者が容易に想到できたことである。また、流路切換器のボディとシール部とが熱融着により一体的に成形されている点について、物の発明における製造方法かどうかはさておき、硬質の合成樹脂に熱可塑性弾性体を熱融着して固着することは分野を問わず実施できる周知事項であり、これを阻害する事情も見あたらない以上、この点も当業者が容易に想到できたものといわざるを得ない。 よって、審判請求人の主張は採用できない。 4.むすび 以上のとおり、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、刊行物A?Dに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 よって、本願補正発明、すなわち本件補正後の請求項1に係る発明は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 【3】本願発明について 1.本願発明 平成20年8月8日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成20年2月8日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。 「【請求項1】熱可塑性プラスチックで形成されたボディを有し、前記ボディ内は、流体流入口を有する上部室および複数個の流体流出口を有する下部室を形成する区画板と、前記上部室と前記複数個の流体流出口のそれぞれとを連通する、前記区画板に設けられた複数個の流体通路と、前記区画板に当接して前記流体通路を閉塞する複数個の弁体とを備え、かつ、前記区画板は、前記弁体と当接するシール部がゴム硬度が50?95度の範囲内にある熱可塑性エラストマーで形成されたものであり、かつ、前記区画板の前記弁体が当接しない部位を含む前記ボディと前記シール部とが熱融着により一体的に成形されていることを特徴とする流路切換器。」 2.引用刊行物とその記載事項 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は次のとおりであり、その記載事項は、上記【2】3-2.のとおりである。 刊行物A:特開平9-144913号公報 刊行物B:実願平3-111850号(実開平5-49093号)のCD-ROM 刊行物C:特開昭60-261515号公報 刊行物D:特開平10-266291号公報 3.対比・判断 本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明の「アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)で形成されたボディ」の構成を「熱可塑性プラスチックで形成されたボディ」と拡張し、「熱可塑性ポリエステル系エラストマー」の構成を「熱可塑性エラストマー」と拡張したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、審判請求時の手続補正によってさらに構成を限定した本願補正発明が、上記「【2】3-4.当審の判断」に示したとおり、刊行物A?Dに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記構成を拡張した本願発明も実質的に同様の理由により、刊行物A?Dに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、刊行物A?Dに記載された発明及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-11-16 |
結審通知日 | 2009-11-24 |
審決日 | 2009-12-07 |
出願番号 | 特願2002-213562(P2002-213562) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16K)
P 1 8・ 575- Z (F16K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邉 洋、刈間 宏信 |
特許庁審判長 |
川上 益喜 |
特許庁審判官 |
山岸 利治 藤村 聖子 |
発明の名称 | 流路切換器 |