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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1211284
審判番号 不服2009-4679  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-04 
確定日 2010-02-05 
事件の表示 特願2003-296668「円筒ころ軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月17日出願公開、特開2005- 69282〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
【1】手続の経緯

本願は、平成15年8月20日の出願であって、平成21年1月28日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年3月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年3月30日付けで手続補正がなされたものである。

【2】平成21年3月30日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成21年3月30日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明

平成21年3月30日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
外周に軌道を有する内輪と、内周に軌道を有する外輪と、内輪の軌道と外輪の軌道との間に転動自在に配された複数の円筒ころと、円筒ころを円周方向で所定の間隔に保持する保持器とを備えた円筒ころ軸受において、
前記保持器が、保持器柱部が円筒ころと接することにより半径方向が位置決めされる転動体案内形式で、かつ、円筒ころを保持器外径側から拘束する外径拘束形のかご形保持器であって、保持器柱部が円筒ころと接する点ところ中心とを結ぶ線分が、ころ中心と保持器中心とを結ぶ径方向に伸びる線に対してなす角度が60°以上72°以下の範囲内(ただし、60°を除く)であることを特徴とする円筒ころ軸受。」
と補正された。(なお、下線は補正箇所を示す。)

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である、保持器柱部が円筒ころと接する点ところ中心とを結ぶ線分が、ころ中心と保持器中心とを結ぶ径方向に伸びる線に対してなす角度の数値範囲である「60°以上72°以下の範囲内」について、「(ただし、60°を除く)」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下で検討する。

2.引用刊行物とその記載事項

刊行物1:実願昭63-93299号(実開平2-19928号)
のマイクロフィルム

原査定の拒絶の理由に引用された上記刊行物1には、「円筒ころ軸受のプラスチック製保持器」の従来の技術に関し、図面第6図?第8図とともに次の事項が記載されている。

(ア) 「一般に、つばを有する内輪と外輪との間にころを組込んだ円筒ころ軸受においては、内輪の外側にころ収納用のポケットを有する保持器を嵌合し、その保持器の外径側からポケット内にころを組込んだのち、その外側に外輪を嵌め合わせるようにしている。
上記円筒ころ軸受において、保持器のポケットがころを無理なく組込むことができる大きさであると、外輪の組込み時に、ポケットからころが脱落し、外輪の組込みがきわめて困難になる。このため、円筒ころ軸受においては、ポケットにころ抜け止め用の突出部を形成した保持器が用いられる。
上記保持器の従来技術として、第6図乃至第8図に示したものがある。この保持器は、一対の環状体20間に複数の柱部21を、環状体20の周方向に等間隔に形成して隣接する柱部21間にポケット22を設け、各柱部21の内面における外径部に、弾性変形可能なころ抜け止め用の突出部23を形成してある。また、柱部21の内側に円弧状のころ案内面24を形成し、周方向で対向するころ案内面24の内径部の寸法LをころRの外径より小さくして保持器の外径側からポケット22内に組込まれたころRが、保持器の内径側に抜け出るのを防止している。」(明細書第2ページ第1行?第3ページ第5行)

上記記載事項(ア)及び図面第6図?第8図の記載を総合すると、刊行物1には、
「内輪と、外輪と、内輪と外輪との間に組込まれた複数のころRと、ころ収納用のポケットを有する保持器とを備えた円筒ころ軸受において、
上記保持器が、一対の環状体20間に複数の柱部21を、環状体20の周方向に等間隔に形成して隣接する柱部21間にポケット22を設け、各柱部21の内面における外径部に、弾性変形可能なころ抜け止め用の突出部23を形成してある保持器である円筒ころ軸受。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。


3.発明の対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「内輪」は本願補正発明の「外周に軌道を有する内輪」に相当し、以下同様に、「外輪」は「内周に軌道を有する外輪」に、「内輪と外輪との間に組込まれた複数のころR」は「内輪の軌道と外輪の軌道との間に転動自在に配された複数の円筒ころ」に、「ころ収納用のポケットを有する保持器」は「円筒ころを円周方向で所定の間隔に保持する保持器」に、それぞれ相当する。
また、引用発明の「一対の環状体20間に複数の柱部21を、環状体20の周方向に等間隔に形成して隣接する柱部21間にポケット22を設け、各柱部21の内面における外径部に、弾性変形可能なころ抜け止め用の突出部23を形成してある保持器」は、円筒ころを保持器の外径側から拘束しているものであるから、本願補正発明の「円筒ころを保持器外径側から拘束する外径拘束形のかご形保持器」に相当する。
よって、本願補正発明と引用発明とは、
[一致点]
「外周に軌道を有する内輪と、内周に軌道を有する外輪と、内輪の軌道と外輪の軌道との間に転動自在に配された複数の円筒ころと、円筒ころを円周方向で所定の間隔に保持する保持器とを備えた円筒ころ軸受において、
前記保持器が、円筒ころを保持器外径側から拘束する外径拘束形のかご形保持器である円筒ころ軸受。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明では、保持器が、「保持器柱部が円筒ころと接することにより半径方向が位置決めされる転動体案内形式」であるのに対して、引用発明では、保持器の案内形式が不明である点。

[相違点2]
本願補正発明では、「保持器柱部が円筒ころと接する点ところ中心とを結ぶ線分が、ころ中心と保持器中心とを結ぶ径方向に伸びる線に対してなす角度が60°以上72°以下の範囲内(ただし、60°を除く)である」であるのに対して、引用発明では、そのような角度についての言及がない点。

4.当審の判断

(1)相違点1について
円筒ころ軸受の保持器の案内形式として、保持器が、「保持器柱部が円筒ころと接することにより半径方向が位置決めされる転動体案内形式」であるものは、周知の技術(例えば、特開平7-103240号公報の段落【0011】、特開2000-179544号公報の段落【0017】、特開2000-274437号公報の段落【0008】を参照。)であるから、引用発明の保持器の案内形式として、上記転動体案内形式を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2)相違点2について
円筒ころ軸受において、保持器成形時に金型を外方に無理抜きすること、及び軸受組立時に円筒ころを保持器の外径側から無理嵌めすることは、周知の技術であり、このことは、原査定で引用された実願平3-105501号(実開平5-52348号)のCD-ROMの段落【0002】?【0004】に、従来の技術として、円筒ころ軸受用保持器を形成する際に、各柱体51を成形する金型を当該保持器の径方向外方に無理抜きすること、及び、軸受を組み立てる際に、各円筒ころを各羽根部5a、5b間の隙間に押し込むことにより、各羽根部5a、5bを弾性的に拡開させて無理嵌めすることが記載されていることからも裏付けられる。そして、上記周知の技術を適用するにあたっては、無理抜き及び無理嵌めという用語からも類推されるように、保持器柱部は、金型との関係や円筒ころとの寸法の大小関係ないし嵌め合わせの関係などを考慮すべきことは当業者であれば容易に理解できることである。そうだとすると、上記周知の技術における寸法の大小関係や嵌め合わせについて、保持器ポケットの外径側開口部に対して円筒ころが断面方向でみてどの程度の幅や高さで接触するかといった幾何学的関係を考慮することは設計的事項であるということができる。このことは、例えば、特開2000-145790号公報の段落【0002】、【0003】に、保持器付き針状ころに用いられる樹脂製の保持器51にポケット52を成形する際に金型を外径側へ無理抜きするすることに関連した突条間寸法B_(0)や、突条間寸法B_(0)の過剰によるころの落ち止め効果の不足、突条間寸法B_(0)の不足による組み込み作業の困難性についての問題が記載されていることからも、当業者は保持器ポケットの外径側開口部と円筒ころの直径の関係を必要に応じて考慮していることが分かる。
ところで、本願補正発明における「角度が60°以上72°以下の範囲内」である点の技術的意義について、本願の明細書の段落【0008】には次のような記載がある。
「既述のとおり、保持器柱部が円筒ころと接する点ところ中心とを結ぶ線分が、ころ中心と保持器中心とを結ぶ径方向に伸びる線に対してなす角度をころ抱き角度と呼ぶこととする。このころ抱き角度を72°以下(保持器ポケットの外径側開口部幅Mところ直径Dwとの比M/Dwが0.95以下(M/Dw≦0.95))とすることにより、円筒ころ間の保持器柱部に働くくさび作用を防止あるいは緩和することができる。また、ころ抱き角度を60°以上(比M/Dwが0.86以上(M/Dw≧0.86))とすることにより、保持器成形時に半径方向に型抜きすることに伴う保持器柱部のムシレの発生を防止することができる。」
他方、一般に、円筒ころが保持器の柱ところ抱き角度θで接触する場合のころ直径Dwと保持器ポケットの外径側開口部幅Mは、幾何学的に次の式で表される。

M=Dw×sinθ

この式から、M/Dw=sinθが導かれ、この式に、θ=60°及び72°を代入して計算すると、M/Dw=0.866及び0.951の値が得られるが、この値は、本願の明細書の上記段落【0008】にころ抱き角度の注釈として括弧内に記載された値と近似した値であることがわかる。
すなわち、上記相違点2において特定された「保持器柱部が円筒ころと接する点ところ中心とを結ぶ線分が、ころ中心と保持器中心とを結ぶ径方向に伸びる線に対してなす角度が60°以上72°以下の範囲内(ただし、60°を除く)である」点は、実質的に、保持器ポケットの外径側開口部幅Mところ直径Dwとの比と相関を有する事項を、上記のようなころ抱き角度で表記したものである。そうすると、保持器柱部が円筒ころと接する点を上記のようなころ抱き角度で表記するか、保持器ポケットの外径側開口部幅Mと保持器の直径Dwの寸法の大小関係で表記するかは、設計に際して当業者が適宜選択できる事項であるから、上記設計的事項の範ちゅうにおいて、当業者が幾何学的な解析や実験に基づいて上記ころ抱き角度の数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮というべきものである。よって、引用発明に上記周知の技術を適用して、上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

また、上記相違点2において特定された角度の数値範囲は、円筒ころと保持器の幾何学的関係からみて何ら特異な角度ではなく、かつ、その効果についてみても、本願明細書には定性的な効果が記載されているだけで、上記ころ抱き角度が60°以上72°以下の範囲内と当該範囲外とで、円筒ころ軸受の効果に顕著な差異が生じるなどの記載がない以上、臨界的な意義は認められず、「(ただし、60°を除く)」と特定したことによってこの点の判断が左右されるものでもない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび

以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

【3】本願発明について

1.本願発明

平成21年3月30日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし3に係る発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
外周に軌道を有する内輪と、内周に軌道を有する外輪と、内輪の軌道と外輪の軌道との間に転動自在に配された複数の円筒ころと、円筒ころを円周方向で所定の間隔に保持する保持器とを備えた円筒ころ軸受において、
前記保持器が、保持器柱部が円筒ころと接することにより半径方向が位置決めされる転動体案内形式で、かつ、円筒ころを保持器外径側から拘束する外径拘束形のかご形保持器であって、保持器柱部が円筒ころと接する点ところ中心とを結ぶ線分が、ころ中心と保持器中心とを結ぶ径方向に伸びる線に対してなす角度が60°以上72°以下の範囲内であることを特徴とする円筒ころ軸受。」

2.引用刊行物とその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1とその記載事項は、上記【2】2.に記載したとおりである。

3.対比・判断

本願発明は、上記【2】で検討した本願補正発明から、保持器柱部が円筒ころと接する点ところ中心とを結ぶ線分が、ころ中心と保持器中心とを結ぶ径方向に伸びる線に対してなす角度の数値範囲の限定事項である「(ただし、60°を除く)」との事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記【2】4.に記載したとおり、引用発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、引用発明及び上記各周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、請求項2及び3に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。



 
審理終結日 2009-12-04 
結審通知日 2009-12-07 
審決日 2009-12-21 
出願番号 特願2003-296668(P2003-296668)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔山崎 勝司  
特許庁審判長 川上 益喜
特許庁審判官 川本 真裕
大山 健
発明の名称 円筒ころ軸受  
代理人 熊野 剛  
代理人 白石 吉之  
代理人 城村 邦彦  
代理人 田中 秀佳  

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