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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B23Q
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  B23Q
管理番号 1211313
審判番号 無効2006-80019  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-02-15 
確定日 2009-11-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2687110号「工作機械の主軸装置」の特許無効審判事件についてされた平成20年 1月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決の一部取消の判決(平成20年行ケ第10064号平成21年3月11日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
1.本件特許第2687110号の請求項1?3に係る発明についての出願は、平成7年8月30日に出願されたものであって、平成9年8月22日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
2.これに対して、平成18年2月15日に請求人ビエロマティク ロイゼ ゲゼルシャフト ミット ベシユュレンクテル ハフツング ウント コンパニ一 コマンディト ゲゼルシャフトより、「特許第2687110号発明の明細書の請求項1に係る発明についての特許を無効とする」との審決を求める無効審判請求(無効2006-80019号)がなされた。
3.被請求人より、平成18年5月8日付けで答弁書及び訂正請求書が提出された。
4.平成18年9月26日に第1回口頭審理が行われ、同日付けで、請求人及び被請求人双方より、口頭審理陳述要領書が提出された。
5.請求人より、平成18年10月13日付けで上申書が提出された。
6.被請求人より、平成18年10月13日付けで実験報告書を添付資料とする上申書が提出された。
7.平成18年11月21日付けで本件請求項1に係る特許を無効とする旨の審決(以下、「一次審決」という。)がなされた。
8.被請求人は、これを不服として知的財産高等裁判所に当該一次審決の取消を求める訴え(平成18年(行ケ)第10551号)を提起した後、本件特許第2687110号につき訂正審判の請求(訂正2007-390014号)をし、平成19年3月26日付けで前記一次審決を取り消す旨の決定がなされ、上記訂正審判の請求書に添付した訂正明細書を援用する訂正請求が、平成19年2月9日付けでなされたものとみなすこととなった。
9.請求人は、平成19年6月21日付けで弁駁書を、平成19年7月19日付けで補正書を提出し、一方、被請求人は、平成19年8月27日付けで第二答弁書を提出した。
10.平成19年12月14日付けで、請求の理由の補正を許可する決定がなされた。
11.平成20年1月16日付けで、「訂正を認める。特許第2687110号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」旨の審決(以下、「二次審決」という。)がなされた。
12.被請求人は、これを不服として知的財産高等裁判所に当該二次審決の取消を求める訴え(平成20年(行ケ)第10064号)を提起し、その後、同裁判所において、平成21年3月11日付けで前記二次審決について、「特許庁が無効2006-80019号事件について平成20年1月16日にした審決のうち『特許第2687110号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。』との部分を取り消す。」との判決がなされた。したがって、二次審決における訂正を認めた部分については、審決は確定した。
第2.本件発明
(1)上記のとおり、訂正請求は二次審決により確定しているので、請求項1?3に係る発明は、その訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるが、そのうち、無効審判が請求されている請求項1に係る発明は、以下のとおりである。
「【請求項1】主軸内へ気体と液体を同時かつ別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けた工作機械の主軸装置であって、前記二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成されており、液体が当該液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されて、液体と気体が混合されるように構成されていることを特徴とする工作機械の主軸装置。」
第3.請求人の主張の概要
本件無効審判請求時、請求人は、甲第1号証、及び、甲第2号証を提示し、特許第2687110号の明細書の請求項1に記載された発明(以下、「本件特許発明」という。)は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張した。
その後、平成19年6月21日付けの弁駁書によると、請求人は、平成19年2月9日付け訂正請求書による訂正が願書に添付した明細書及び図面に記載された事項の範囲内でされたものではないという無効理由の他に、証拠方法として甲第1?8号証を提示し、以下の理由により本件の請求項1に係る特許は無効とすべきであると主張する。
なお、第1の12.で言及しているとおり、上記訂正請求による訂正については二次審決において認められ、二次審決の当該部分についての審決は確定している。
理由
訂正後の本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という。)は、甲第2号証に記載された発明に甲第3?6号証記載の周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
なお、以下の甲各号証のうち、甲第3ないし第6号証は、平成18年9月26日付けの口頭審理陳述要領書において提出されたものであり、甲第7ないし第8号証は、平成19年6月21日付け弁駁書において提出されたものである。
[証拠方法]
甲第1号証:独国特許第919026号明細書、及び、訳文
甲第2号証:独国特許公開第4200808号明細書、及び、訳文
甲第3号証:特開昭63-272442号公報
甲第4号証:実公平 1- 11408号公報
甲第5号証:特開平 5-154736号公報
甲第6号証:ドイツ民主共和国経済特許第221952号明細書
甲第7号証:水谷幸夫著「燃焼工学」第2版(1989年10月20日、森北出版発行)第136頁
甲第8号証:独国特許公開第3105186号明細書、及び、訳文
第4.被請求人の主張の概要
被請求人は、乙第1号証(大隈豊和機械株式会社・パンフレット)を提出するとともに、以下の各点を主張している。
(1)甲第2号証記載の発明は、「主軸内へ気体と液体を同時かつ別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を設けた工作機械の主軸装置であって、液体が供給管の先端部に設けられた孔から供給されるとともに、気体が該供給パイプの外周囲から供給され液体と気体が混合されるように構成されている工作機械の主軸装置」である点で本件訂正発明と一致している。
しかし、
相違点(イ)
本件訂正発明は、ミスト発生装置が「主軸の先端部或いは工具ホルダ内」に設けられているのに対し、甲第2号証記載の発明においては、「ドリル工具又はフライス工具の出口領域の直ぐ上流」に設けられている点。
相違点(ロ)
本件訂正発明は、「二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成されており、液体が当該液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出され」るのに対し、甲第2号証記載の発明においては、液体の供給管及び液体供給孔は主軸と同体に回転せず、気体は狭窄部を経ることなく供給される点。
の、2点で相違している。
(2)上記相違点(イ)、(ロ)は、いずれも、甲第1?8号証に基づいて容易に発明できたものではない。
(3)本件訂正発明と甲第2号証記載の発明との課題解決手段の方向性の違いからすれば、甲第2号証記載の発明におけるミスト発生装置の場所を「主軸の先端部或いは工具ホルダ内」に変更することについては阻害要因があるというべきである。
(4)相違点(ロ)に関連して認定するべき周知技術は、本件訂正発明と同様にミスト発生機構を有する主軸装置に関するものでなくてはならないところ、甲第3?6号証のいずれにも上記ミスト発生機構を有する主軸装置に関する記載は一切ないから、相違点(ロ)は、甲第3?6号証に記載された周知技術から当業者が容易になし得るものではない。
(5)甲第3?6号証に記載された発明においては、供給管自体が主軸と同体に回転しても装置構造上何ら問題がないようになっているが、甲第2号証記載の発明における供給パイプは非常に細くて長いパイプであるから、単に主軸と同体として長い自由端を有したまま回転させたら振動、ぶれ、撓みなどの問題が生じ、甲第2号証記載の発明においては供給パイプを主軸と同体に回転させることはあり得ないと解釈するのが技術常識に即した理解である。
(6)甲第2号証には「狭窄部を経て噴出させる」という構成が記載されていない。甲第2号証記載の発明では、加工部位に極めて近い位置で細いパイプによって潤滑液が供給されるものであるところ、潤滑液を噴霧状態とし近接する加工部位に到達させるためには一時的に噴霧状態にできる程度の圧縮空気との接触があればよく「狭窄部を経て噴出させる」ような機構は不要である。
(7)甲第7,8号証はいずれも燃焼装置における回転式の噴霧器という本件訂正発明の技術とは無関係の技術を開示するにすぎない。
第5.甲各号証記載の発明(事項)
(1)甲第1号証
甲第1号証である独国特許第919026号明細書には、甲第1号証訳文によれば、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「回転するナイフヘッド内を介して潤滑剤を供給する装置」
(イ)特許請求の範囲
「1.ロッド状材料の端部を加工するための回転するナイフヘッド内において潤滑液を供給する装置において、分配ヘッド(1)が機械設備に静的に支持され且つ圧縮空気用の連結部を備え、分配ヘッドがナイフヘッド内で延びると共にジャケットパイプ(3)を備え、、ジャケットパイプ(3)はボールベアリング(13)によりナイフヘッド内に支持されると共に潤滑液出口地点まで圧縮空気を案内し、ジャケットパイプ(4)を介してノズルのようなもので終端する潤滑液用パイプが案内されることを特徴とする装置。」
(ウ)明細書
「本発明は、ロッド状材料の端部を加工するための回転するナイフヘッド用の潤滑剤供給装置に関する。・・・
新しい装置は、空気を供給することにより切削加工部に近接した領域に潤滑液を分散する噴射機能と同様に加工中のみに被加工物に噴霧することにより、潤滑液を節約しつつなおも高い信頼性で被加工物を潤滑及び冷却する。・・・
これは、機械設備に固定して支持された分配ヘッド1と、中空の駆動シャフト2内のジャケットパイプ3と、端部においてノズルのように形成された潤滑液用パイプ4とから成る。静止している分配ヘッド1はその長手方向に円筒状のキャビティ5を有し、その長さの約半分までネジ山6を備える。内側ネジ山7が前面からキャビティ5内へ延び、これに対して垂直にボアが延びる。このボアは空気供給部との連結部材として利用されるネジ状連結部8において外部に終端する。
・・・空気を供給するために用いられる潤滑液用パイプの反対向きの二つの窪み部11が液体用出口から分配ヘッド1のキャビティ5まで連続的に長手方向に延びる。
・・・ジャケットパイプ及び中空シャフト2には半球状のショルダ13が設けられ、これらの間にはボールが配置される。潤滑液用パイプ4はネジ山9で分配ヘッド1のキャビティ5を介して下方から案内されると共にネジ山7へ挿入された部分の端部が付加的にカウンターナットに締結されるまでねじ込まれる。ジャケットパイプ3をネジ山6内にねじ込んだ後にナイフヘッドの中空シャフト内にボールが挿入され、潤滑液供給部全体が挿入せしめられると共に分配ヘッド1が静的に固定される。」
(2)甲第2号証
甲第2号証である独国特許公開第4200808号明細書には、甲第2号証訳文によれば、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「動力駆動される回転スピンドルを備えた加工ユニット」
(イ)特許請求の範囲の請求項1
「1.ドリル工具又はフライス工具(10)のシャフト用のクランプブラケット(6)が組み込まれた動力駆動される回転スピンドル(2)を備え、スピンドルとドリル工具又はフライス工具のシャフトとが互いに整列した中央ボア孔(21、22)を備え且つドリル工具又はフライス工具(10)が加工領域に潤滑液及び冷却液を供給するための出口(31)を備える加工ユニットにおいて、
上記中央ボア孔(21、22)が工具の冷却に関与する圧縮空気の供給部(17)に独占的に連結され、該中央ボア孔を通って細いパイプ(19)がドリル工具又はフライス工具(10)の出口(31)の直ぐ上流側まで延び、該細いパイプは潤滑液の供給部に連結されることを特徴とする加工ユニット。」
(ウ)明細書における訳文の第2頁第2?5行
「本発明は、ドリル工具又はフライス工具用のクランプブラケットが取付けられた動力駆動される回転スピンドルを備える加工ユニットであって、スピンドルとドリル工具又はフライス工具とが中央ボア孔を備え且つドリル工具又はフライス工具が加工領域に潤滑液及び冷却液を供給するための出口を備える加工ユニットに関する。」
(エ)明細書における訳文の第2頁第6?13行
「ボア孔を介して加工地点へ冷却液及び潤滑液を供給するために中央ボア孔を備えたシャフト状フライス(・・・)の形態のドリル工具又はフライス工具が知られている。斯かる構成とすることで工具自体がその内部から冷却されるという効果を奏する。冷却、潤滑及び切屑の洗い流しを十分に行うためには、一般に一分当たり20?30リットルの液体が必要とされる。」
(オ)明細書における訳文の第2頁第14行?第3頁第2行
「構造体の形材加工、例えば窓及び建物の正面の構造体の形材加工には、加工されるのが主にアルミニウム製の中空形材である場合、必ずしも上述したように潤滑及び冷却を行うことはできない。例えば、窓又は温室の構造物で用いられるようなマルチチャンバ型中空形材は潤滑液で満たされ、この潤滑液は従来の被加工物とは異なって中空チャンバから吸い出されず、循環せしめられない。斯かる形材の加工では、潤滑液が別個の噴霧ノズルにより加工領域に供給される潤滑液の噴霧を用いることが必要である。しかしながら、このタイプの潤滑液の噴霧は上述したような中空のドリル工具及びフライス工具の場合のように工具の徹底的な冷却を容易にするものではない。例えば、中空チャンバ形材内に位置する加工の必要なクロスバーの領域に噴霧を供給する必要がある場合に、長いドリル工具又はフライス工具を用いたマルチチャンバ型中空形材の加工中には問題が生じる。また、適切な加工及び十分な切屑の除去を行うために比較的多量の潤滑液が噴霧されなければならないことから、作業者の健康の観点からも問題がある。この潤滑液は作業者の気道に進入してしまうことがある。」
(カ)明細書における訳文の第3頁第3?5行
「従って、本発明の目的は上述したようなタイプの加工ユニットを、長い工具を用いて加工を行った場合でさえも切削が行われている領域で潤滑及び冷却が行われるように潤滑液の噴霧が加工領域に直接供給されるように設計することにある。」
(キ)明細書における訳文の第3頁第6?11行
「中央ボア孔が工具の冷却に関与する圧縮空気の供給部に独占的に連結され、細いパイプがドリル孔とほぼ同心状にドリル工具又はフライス工具の出口領域の直ぐ上流側まで延びる。斯かる構成により、潤滑油の噴霧と工具の内部冷却とが同時に実現され得る。噴霧は切削領域に放出され、よって必要な潤滑が正確な地点で行われ、また工具自体も加工作業中に内部から均一に冷却せしめられる。」
(ク)明細書における訳文の第3頁第12?15行
「潤滑液が駆動スピンドル及びドリル工具又はフライス工具の内部に制御不可能な且つ望まれていない態様で残ることが防止される。潤滑液は供給パイプからドリル工具又はフライス工具の出口地点の直ぐ上流側で供給パイプの端部を通って流れる空気によって分散せしめられて所望の潤滑液の噴霧を形成する。」
(ケ)明細書における訳文の第3頁第20?22行
「潤滑液用の供給パイプは非常に細いことのみが必要とされることが分かる。供給パイプの直径は、ボールペンのカートリッジのように、約1ミリ程度で全く十分である。従って、スピンドル内のボア孔、及び加工工具内のボア孔は大きなものである必要がない。」
(コ)明細書における訳文の第3頁23行?第4頁第1行
「請求項2に記載の発明の更なる改良によれば、回転スピンドル内のボア孔及びドリル工具又はフライス工具内のボア孔は互いに整列せしめられ、潤滑液用の供給パイプはこのボア孔にほぼ同心円状に配置される。これはスピンドルベアリング上でパイプを保持することによってもたらされる。」
(サ)明細書における訳文の第4頁第22?25行
「図1に示したように、ボール盤又はフライス盤(図示せず)のスリーブ型のベアリングヘツド(1)内には、ベアリング(3)を用いて回転可能にスピンドル(2)が配置される。スピンドル(2)は、スピンドル(2)のネック部(5)に連結されたVベルト(4)を介して駆動モータ(図示せず)によって回転せしめられる。」
(シ)明細書における訳文の第5頁第7?17行
「コネクタ(12)はその内部に円筒状のボア孔(13)を有し、このボア孔(13)はスピンドル(2)のネック部分(5)内に堅固にねじ込まれるピストン(14)によってスピンドル(2)に向かって閉じられている。ボア孔(13)によって囲われているピストン(14)上の空間において、ボア孔(15)が側方に通じており、このボア孔(15)のねじ山に圧縮空気供給パイプ(17)用の連結用ニップル(16)がねじ込まれる。ボア孔(13)に同心状にピン状の中空突起(18)が突出し、この中空突起内に細いパイプ(19)が挿入されて所定位置に保持される。この細いパイプ(19)はコネクタ(12)を通ってシャフト状フライス(10)の領域まで延びる。このパイプの直径は比較的小さい。実際、直径が1mmであれば十分であることが判明している。従って、大まかに言うとパイプ(19)はそのデザインがボールペンのカートリッジに類似しており、長さがかなり長い点のみが異なっている。」
(ス)明細書における訳文の第5頁第18?24行
「ピストン(14)には中央ボア穴(20)が設けられ、この中央ボア穴(20)はスピンドル(2)のボア孔(21)及びシャフト状フライス(10)の中央ボア穴(22)と整列している。パイプ(19)は、ピストン(14)のボア孔(20)と、スピンドルのボア孔(21)と、締付けコーンを備え且つスピンドル(2)のボア孔(21)の下方に形成された円筒状の中空空間(23)と、シャフト状フライス(10)の中央ボア孔(22)とを通って延び、そしてその開いた出口端部(24)は、シャフト状フライス(10)内であって切削加工がシャフト状フライスによって実行される領域にまで達する。」
(セ)明細書における訳文の第5頁第25行?第6頁第10行
「パイプ(19)の上方端部(25)は、コネクタ(12)のネジソケット(26)の頂部から突出しており、ネジソケット(26)のねじ山に取り付けられた連結ニップル(27)と、連結ニップルと連結ソケット(26)との間に位置決めされたパッキングリング(28)とによって囲われている。潤滑液用の供給パイプ(29)が連結ニップル(27)内に挿入され且つキャップ(30)によりニップル(27)に液密に結合される。この供給パイプ(29)を介して、計測された量の潤滑液がパイプ(19)及びシャフト状フライス(10)の切削部の領域に供給される。更なる説明なくして明らかなように、パイプの出口端部(24)から現れるこの潤滑液は、フライス盤の作動中に、パイプ(19)周りで流れていて圧縮空気の配管(17)を介して供給される圧縮空気の流れにより細かく分散され、シャフト状フライス(10)の出口(31)を介して噴霧の形態で切削地点へと供給される。」
(ソ)明細書における訳文の第6頁第16行?第7頁第2行
「図示した実施形態を用いると、切削操作を実行するシャフト状フライス(10)の先端に噴霧状の潤滑液を計画的に提供することができる。従って、例えば潤滑液又は噴霧状潤滑液を供給することができなかった、マルチチャンバ型中空形材の中間バーであって該形材の内部に配置された中間バーをフライス加工又はドリル加工する場合に切削操作中に潤滑液を投与することができる。パイプ(29)を通って流れる潤滑液の流量(0.001)リットル/分のオーダー)をパイプ(17)から流出する圧縮空気に合わせることにより、空気に対する潤滑液の比率を容易に調整することができる。このため、潤滑液の比率をかなり低く維持することができ、その結果、一方では潤滑液の消費量が低減され、他方では周囲環境にやさしい潤滑が達成されると共に、潤滑液の噴霧を搬送する空気中の潤滑液の比率が健康に悪くないレベルに維持される。また、この潤滑液の計量と同時に、本発明は従来のドリル工具又はフライス工具と同様に工具自体が圧縮空気によって内側から冷却されるという効果を実現する。」
(タ)明細書における訳文の第7頁第3?13行
「噴霧による効果及び潤滑性能は適切な工具を用いることにより高められる。図2?図4は例えば図1のシャフト状フライス(10)に対応する単一歯のシャフト状フライスを示している。図2?図4は、シャフト状フライス(10)のボア孔(22)が、このシャフト状フライス(10)の軸線(35)と平行に且つこの軸線から偏心して延びる出口チャネル(34)と流体上の関係をもって通じることを示している。この出口チャネル(34)はスロット(36)に通じる。スロット(36)は、破線で示したように、出口チャネル(34)付近においてシャフト状フライスに回転するフライスディスク(37)をあてることにより研削される。出口チャネル(34)及びスロット(36)は、図4に示したように,回転する螺旋状カッタ(38)から離れた側に配置される。出口スロットは、出口チャネル(34)を大きく広げることになり、分散された噴霧の形態で噴霧状潤滑液を加工地点に供給するスロットノズルとして機能する。」
(チ)ここで、図面のFig.1を参照すると、供給パイプ(29)に供給された潤滑液は、細いパイプ(19)内を通り、シャフト状フライス(10)の内部でパイプ(19)先端部の出口端部(24)の外に出ている。上記摘記事項(サ)から、潤滑液は、この出口端部(24)において圧縮空気と混合されてミスト状になるものであることは明らかであって、この出口端部(24)をミスト発生装置と呼ぶことができる。
また、パイプ(19)は、コネクタ(12)に設けられたピン状の中空突起(18)内に挿入されるのであるから、コネクタ(12)が固定部材である以上、パイプ(19)が回転しないものであることは明らかである。
さらに、圧縮空気を供給する配管(17)は、ボア孔(20、21、22)に接続されて圧縮空気の供給路を構成しており、潤滑液を供給する供給パイプ(29)は、細いパイプ(19)に接続されて潤滑液の供給路を構成していることは明らかである。
以上(ア)ないし(タ)の記載事項、及び(チ)の認定事項から、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「回転するスピンドル(2)内へ圧縮空気と潤滑液を同時かつ別々に供給するための配管(17)、ボア孔(20、21、22)からなる圧縮空気の供給路及び供給パイプ(29)、パイプ(19)からなる潤滑液の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された圧縮空気と潤滑液を混合させて噴霧を噴出させるためのミスト発生装置をシャフト状フライス(10)内のパイプ(19)の出口端部(24)に設けた工作機械の回転スピンドル装置であって、
前記二系統の供給路のうち内側の潤滑液の供給路を形成するパイプ(19)及びその先端部に設けられた出口端部(24)は回転しないものであって、潤滑液が当該出口端部(24)から供給されるとともに、圧縮空気が該出口端部(24)の外周囲から供給され、これにより、潤滑液が圧縮空気の流れにより細かく分散される工作機械の回転スピンドル装置。」
(3)甲第3号証
甲第3号証である特開昭63-272442号公報には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「電気駆動モーターを備えた工具スピンドル」
(イ)特許請求の範囲
「(1)1つのスピンドルケーシングの中に回転可能に支承されている1つの作動スピンドル及びこの作動スピンドルと駆動結合している1つの電気駆動モーターを有し、その際作動スピンドルはスピンドルの機能要素を収容するため中空に形成されている工具スピンドルにおいて、電気駆動モーター(20)のモーター軸は作動スピンドルとして形成されていることを特徴とする工具スピンドル。」
(ウ)第2頁右下欄第13?15行
「モーター軸部分22は連結手段28を介して前方のスピンドル部分14と回転結合している。」
(エ)第3頁左上欄第18行?右上欄第4行
「導管46はそれの締め付け棒40に向き合った端が締め付け棒に形成された収容穿孔の中にねじ込まれそして締め付け棒40の中に形成されている中央の冷却剤流路48を形成している。締め付け棒40はスピンドル部分14と共に回転するから、作動棒44及び導管46もスピンドル軸の回りに回転する。」
(オ)第3頁左下欄第13行?右下欄第1行
「1つの圧縮空気導管64を介してケーシング部分48の内部空間に、従ってまた導管46を取り巻いているリング状空間66に圧縮空気が供給されることが可能である。リング状の空間66は図の左端においては皿状のばねの重なり42を収容しているリング状空間と結合し、この空間は別の曲がった結合導管70を介して工具収容部分36に開放されている。」
(カ)第3頁右下欄第9?15行
「供給された冷却剤は導管46と締め付け棒50の中に形成されている中央孔47並びにそれに続いている流路部分80、82を介してスピンドル部分14の正面にそしてそこから自体公知の態様で工具収容部分36の中に挿入されている工具の冷却剤通路の中に到達する。」
(4)甲第4号証
甲第4号証である実公平1-11408号公報には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)考案の名称
「切削液と空気供給機能を有する主軸装置」
(イ)実用新案登録請求の範囲
「後部にプルスタツドを設けたテーパシヤンクを有する工具または工具ホルダを着脱可能に装着する主軸を備えた工作機械の主軸頭において、前記工具または工具ホルダは刃具先端に向けて開口した切削液流路を前記プルスタツドの中心にまた圧力空気路を前記テーパシヤンクに開口して設け、前記主軸の貫通穴内に空気路となる第1隙間を有して挿通された工具または工具ホルダ締上げ用部材の中心に切削液供給路を穿設し、前記締上げ用部材の後端に切削液供給用回転継手を設け、前記主軸頭に前記工具または工具ホルダのアンクランプ用シリンダ装置を取付け、該シリンダ装置のピストンロツド貫通穴に前記締上げ用部材を空気路となる第2隙間を有して挿通し、前記ピストンロツドの後端に圧力空気供給用回転継手を設け、前記第1隙間と第2隙間とがほぼ密封状態で連結されてなり、オイルホール工具が主軸に装着されたとき締上げ用部材と密接して切削液供給路を連結し切削液供給と圧力空気とを別経路で同時にも行えるようになしたことを特徴とする切削液と空気供給機能を有する主軸装置。」
(ウ)第3欄第22?30行
「主軸頭1に固定された主軸スリーブ2に軸受によって回転可能に軸承された主軸3は中心貫通穴3aの先端に工具のテーパシヤンクを嵌着するテーパ穴3bをまたプルスタツドのコレツトチヤツクのコレツトの逃げ溝3cが形成されている。この中心穴3aには中心に切削液流路4aを穿設したドローバー4が軸方向に移動可能に隙間を有して挿通されていて、その先端にスリーブ5が螺着されている。」
(エ)第3欄第35行?第4欄第4行
「この回転継手9はドローバー4とピストンロツド8との隙間更にはドローバー4と主軸3との隙間に圧力空気を送り込むように周囲を取巻き空気の洩れが少ないように構成されており管9aより圧力空気源と接続されている。更に回転継手9の軸受を固定するナツト10と主軸頭1側に保持された切削液用の回転継手11とが連結されていて切削液供給管12よりの切削液が回転継手11、ナツト10を経てドローバー4の中心穴4aに送られるようになつている。また主軸3の後端部においてドローバー4はピン36により一体回転するように連結されており、同じく後端部には複数枚の皿ばね13が積層して介挿されている。」
(オ)第6欄第1?6行
「圧力空気はピストンロツド8とドローバー4との隙間よりカラー16の溝16a、ドローバー4の溝4bより主軸3とドローバー4との隙間、主軸3とスリーブ5の隙間、スリーブ5の溝5f穴3aよりテーパ穴3bに送り込まれテーパ穴より噴出する。」
(カ)第6欄第29行?第7欄第10行
「主軸3が工作物の加工位置に位置決めされると切換弁が切換えられて切削液が管12に送られ回転継手11、ナツト10の穴、ドローバー4の穴4a、穴5b、第1弁筒の穴19b、第1球押筒22の流路22a第1、第2チエツク弁、第2弁筒の流路26dを経て切削液の圧力により第3チエツク弁の球体28をばね30の力に抗して弁口を開いてプルスタツド32の中心穴32aより切削液の圧力によって第4チエツク弁の球体33をばね34の力に抗して押し弁口を開いて中心穴31bより工具のオイルホールを通つて切削部に切削液を供給する。また切削中切粉のたまりを除去したい場合若しくは切削後に切削部位を清掃したい場合は、図示しない切換弁を作用させて圧力空気源から圧力空気を管9aに送り回転継手9よりドローバー4とピストンロツド8、ドローバー4の溝4b、ドローバー4と主軸3との隙間、スリーブ5と主軸3との隙間、スリーブ5の溝5fを経てコレツト17を納めている穴3aに送られ工具ホルダ31の空気穴31cに送られ工具の空気穴または工具ホルダの穴より切削部位に噴出され、角とか溝にたまつた切粉を吹き飛ばし清掃するものである。清掃作業が終れば圧力空気側の切換弁を作用させて空気を遮断する。切削加工が終了すれば切削液供給側の切換弁が切換わり遮断される。」
(5)甲第5号証
甲第5号証である特開平5-154736号公報には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「加工装置」
(イ)特許請求の範囲の請求項1
「主軸ヘッドに支持された主軸の装着穴に、先端に工具を取り付けた回転軸を静圧軸受を介して回転可能に支持する工具ホルダが、着脱可能に装着される加工装置において、
前記工具ホルダには、回転軸をエアの噴射によって回転駆動させるためのエア駆動機構と、回転軸の回転をエアの逆噴射によって停止させるためのエア停止機構とを設け、前記主軸にはエア供給源に連結される駆動用のエア供給路及び停止用のエア供給路を設けると共に、工具ホルダにはエア駆動機構及びエア停止機構にそれぞれ連結された駆動用のエア通路及び停止用のエア通路を設け、前記工具ホルダを装着穴に装着したときに互いに接続されるように、各エア通路のエア供給端を各エア供給路の開口端に接離可能に対応させたことを特徴とする加工装置。」
(ウ)段落【0021】?【0023】
「・・・中空筒状のクランプ軸12は主軸4内に上下方向へ移動可能に挿通支持され、図2に示すように主軸4の上端から上方に突出されている。
被作動部としての被押圧ナット13及び支持ナット14は前記クランプ軸12の中間ネジ部15に螺着され、この支持ナット14の下面には上バネ受けリング16が接合配置されている。下バネ受けリング17は主軸4の内底部に配設され、この下バネ受けリング17と上バネ受けリング16との間には第1付勢部材としての皿バネ18が介装されている。そして、この皿バネ18の付勢力によりクランプ軸12が上方に向かって移動付勢されている。
プルスタッド式のクランプ機構19は前記クランプ軸12とホルダ本体11との間に設けられ、クランプ軸12の下端の支持孔20内に収容支持された複数のクランプボール21と、そのクランプボール21と係合するようにホルダ本体11の上端に設けられたプルスタッド22とから構成されている。そして、このクランプボール21がプルスタッド22に係合した状態で、クランプ軸12が皿バネ18の付勢力によりクランプ方向の上方へ引かれることにより、ホルダ本体11が装着穴4aに装着された状態でクランプされる。又、クランプ軸12が皿バネ18の付勢力に抗してアンクランプ方向の下方へ移動されることにより、クランプボール21がプルスタッド22から離脱して、ホルダ本体11のクランプが解除される。」
(エ)段落【0028】
「駆動用エア供給路としての第1エア供給路41は前記クランプ軸12の中空部内に設けられ、その下端がクランプ軸12の外周面に開口されている。・・・」
(オ)段落【0030】
「そして、主軸4が所定位置に位置決め停止された状態で、ホルダ本体11のテーパシャンク部11aが装着穴4aに図示しないキーを介して定位状態で嵌挿されたとき、フロート部材44がバネ46の付勢力に抗して上方に移動されて、接合体45がホルダ本体11の上端面に圧接される。・・・」
(カ)段落【0031】
「停止用エア供給路としての第2エア供給路48は前記主軸4の中空部内に設けられ、その下端が前記停止用エア通路39の上端開口部と対向するように、クランプ軸12に形成された供給路49を介して装着穴4aの内頂部に開口されている。・・・」
(キ)段落【0036】
「支持ブラケット65は前記主軸ヘッド1の上面に取り付けられ、この支持ブラケット65上には筒状のカップリング66が軸受67を介して回転可能に支持されている。駆動エア及びクーラント供給用の回転継手68は支持ブラケット65上に図示しない取付板を介して取り付けられ、その下面に突出した回転管68aがカップリング66にねじ込み固定されている。そして、カップリング66には前記クランプ軸12の上端が一体回転可能に且つ軸線方向へ相対移動可能に嵌挿され、回転継手68の内部がカップリング66を介してクランプ軸12内の第1エア供給路41に連結されている。」
(ク)段落【0051】
「一方、クーラントを必要とする工具を備えた工具ホルダを主軸4に装着した状態で加工を行う場合には、クーラント供給回路の開閉弁85が開放されて、クーラント供給ポンプ83からのクーラントが、回転継手68、カップリング66、第1エア供給路41及び傾斜供給路42を介して工具ホルダに供給されて、工具やワークの加工部が冷却される。」
(ケ)段落【0054】
「そして、この状態で、停止用エア供給回路の開閉弁89が開放され、エアポンプ86から停止用減圧弁87を通して減圧された停止用エアが、停止用エアポート61、エア供給口60、第2エア供給路48及び供給路49を介して、工具ホルダ10内の停止用エア通路39に導かれる。・・・」
(6)甲第6号証
甲第6号証であるドイツ民主共和国経済特許第221952号明細書には、甲第6号証訳文によれば、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「工作機械の主軸の冷却装置」
(イ)請求の範囲
「1.工作機械の主軸を冷却するための装置であって、前方及び後方へ向かって主軸冷却剤を流通させ、該主軸冷却剤が主軸の内部を通って該主軸の全長に亘って鉛直方向に流れ、流れ方向の異なる主軸冷却剤が主軸の中央に配置されたパイプの壁によって分離される装置において、
上記主軸(2)内に配置された主軸冷却剤(1)を流通させるためのパイプ(3)内において加工処理用の冷却・潤滑媒体(5)を流通させるためのパイプ(3)が中央に設けられ、該パイプ4のネジ状部分上には自動的に工具を把持及び開放する公知の装置のネジ付ブッシュ(16)がねじ込まれ、皿バネ(6)によって加えられる工具を把持するための軸線方向の力がネジ付ブッシュ(16)及びパイプ(4)を介して伝達され、該ネジ付ブッシュ(16)は主軸冷却剤用のラインの一部としてブッシュ(18)とパイプ(3)との間に配置されると共に凹部(19)を有することを特徴とする装置。
2.工具を自動的に開放するのに必要であって主軸(2)に対して中心に配設された上記油圧ピストン(7)は、加工処理用の冷却・潤滑媒体(5)をパイプ(4)に供給するための中央ボア(8)を有すると共に、回転する構成要素と静止している構成要素との間のシール要素(10)を伴って環状空間(9、23)を有し、環状空間(9)はネジ式結合部(11)に連結され、該ネジ式結合部はブッシュ(18)とパイプ(4)との間の環状間隙と共に主軸冷却剤(1)を流入させるべく回転する主軸(2)に対して径方向に固定され、上記環状空間(23)は主軸冷却剤(1)を流出させるべくネジ付ブッシュ(18)のボア(22)及びネジ式結合部(12)に接続されることを特徴とする請求項1に記載の装置。」
(ウ)明細書における訳文の第5頁第16?20行
「主軸2は、その鉛直方向の全長に亘って孔が開けられていると共にパイプ3を有する。パイプ3の外壁と主軸2のボアとの間に、キャビティ14が形成される。キャビティ14は、主軸冷却剤1を受け入れると共に主軸2の鉛直方向の全長に亘って延びる。パイプ3内には加工処理用の冷却又は潤滑媒体を通過させるための更なるパイプ4が配置される。」
(エ)明細書における訳文の第5頁第25行?第6頁第8行
「工具を緩めるために、皿バネ6がピストンの力によってジャーナル軸受17並びに主軸2及びネジ付リング15と共に回転するネジ付きブッシュ16を介して圧縮され、パイプ4がネジ付ブッシュ16のネジ山を介して工具を解放すべく前方に押される。
ネジ式結合部11から主軸冷却剤1が油圧ピストン7内部の環状空間9に供給され、主軸冷却剤1はここからパイプ4とブッシュ18との間隙、ネジ付ブッシュ16の扇形状凹部19を介して、主軸2に沿ってパイプ3、4間に形成されたキャビティ20へと流れる。工具取付部に近接してパイプ3は開口を有し、この開口により主軸冷却剤1が外側キャビティ14内に流入する。」
(オ)明細書における訳文の第6頁第15?17行
「パイプ4はシール要素10によって非回転の油圧ピストン7に対してシールされる。加工処理用の冷却・潤滑媒体はパイプ4を介して主軸システムの後端部から主軸2のヘッドへと運ばれ、工具へと移送せしめられる。」
(7)甲第7号証
甲第7号証である水谷幸夫著「燃焼工学」第2版(1989年10月20日、森北出版発行)の第136頁には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
「(4)の回転体噴霧器は回転するカップや円盤の緑から遠心力で飛散する液膜を軸方向の空気流で粉砕するもので,微粒化性能はよくないが,ノズルを持たないので,固形物が混ざっても詰まることがない.通常は図5.17に示すようにファンとカップを一軸に取り付け,中空軸を通して燃料を送るホールインワンタイプのロータリバーナの形に設計される.廃液の焼却に適している.」
そして、同頁における図5.17によれば、燃料を供給する中空軸(管)の先端にロート状に開いたカップが一体に付けられ回転すること、及び、中空軸(管)の外周囲の空気の通路は、カップの縁において狭められ、ここで燃料が粉砕される、つまりミストにされることが示されている。
(8)甲第8号証
甲第8号証である独国特許公開第3105186号号明細書には、甲第8号証訳文によれば、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「回転式噴霧器」
(イ)特許請求の範囲
「1.特に燃焼の目的で液体及び懸濁液を霧化する回転式噴霧器であって、
回転するカップ(4)と、吸気パイプ(1)と、前記回転するカップと噴霧空気用ハウジング(7)とによって形成される噴霧空気用ノズル(6)とを具備する回転式噴霧器において、
カップ縁部(5)の直径は、カップの内壁の接線方向に計測されたカップの内径の最大値よりも少なくとも4mm及び最大で18mmだけ長いことを特徴とする回転式噴霧器。
2.上記カップ縁部(5)は、噴霧空気用ハウジング(7)と共に、角度をつけて設置されたリングノズルを形成することを特徴とする、請求項1に記載の回転式噴霧器。
3.上記噴霧空気用ノズル(5)の設定角度αは最小で65°且つ最大で45°であることを特徴とする、請求項1及び2に記載の回転式噴霧器。
4.丸まった箇所においてカップの縁部(5)は破断エッジを有する、請求項1?3に記載の回転式噴霧器。
5.上記噴霧空気用ノズル(6)のスロット幅は噴霧空気用ハウジング(7)の軸線方向の移動によって調整可能である、請求項1?4に記載の回転式噴霧器。
6.燃料及び/又は蒸気及びガスは二つの同軸パイプ(1、2)を通って供給される、請求項1?5に記載の回転式噴霧器。
7.同軸に配置されたパイプ(2)は加熱液又は冷却液を通すために用いられる、請求項1?6に記載の回転式噴霧器。」
(ウ)明細書における訳文の第5頁第9?10行
「霧化すべき液体は中央パイプ1を介して回転するカップ4に供給される。駆動は中空シャフト3を介して行われる。」
(エ)明細書における訳文の第5頁第17?22行
「図1によれば、中央パイプ1から流出する液体は回転するカップ4内へ薄いフィルム12として引き出されて、カップの縁部5に供給される。遠心力により、液体フィルム12はカップの縁部5から径方向に放り出されて、霧化空気リングノズル6において霧化空気の流れに衝突する。
霧化空気の流れ11は液体フィルム12を霧状にし、二次空気用ノズル8内で燃焼可能な態様で二次空気の流れ10と混合する。」
(オ)明細書における訳文の第7頁第4?5行
「本発明の更なる特徴によれば、霧化空気用ハウジング7は霧化空気用ノズル6のスロットを狭める又は広げるように軸線方向に変位可能である。」
(カ)図面のFig.2によれば、上下の矢印にて、霧化空気用ハウジング7が変位する向きが示され、上方向の変位にて霧化空気用ノズル6のスロットが狭められていることが示されている。
第6.対比
本件訂正発明と甲第2号証記載の発明とを対比すると、後者の「スピンドル(2)」が前者の「主軸」に、後者の「圧縮空気」が前者の「気体」に、後者の「潤滑液」が前者の「液体」に、後者の「噴霧」が前者の「ミスト」に、後者の「出口端部(24)」が前者の「液体供給孔」に、後者の「工作機械の回転スピンドル装置」が前者の「工作機械の主軸装置」に、それぞれ相当する。
また、甲第2号証記載の発明の「配管(17)、ボア孔(20、21、22)からなる圧縮空気の供給路及び供給パイプ(29)、パイプ(19)からなる潤滑液の供給路」が、「二系統の供給路」と言えるものであることは明らかである。
さらに、甲第2号証記載の発明の「潤滑液の供給路を形成するパイプ(19)」は、回転しないものではあるものの、先端部にミスト発生装置を構成する出口端部(24)が設けられていることから、本件訂正発明における「液体用供給路を形成する供給管」に相当する。
そして、甲第2号証記載の発明の「圧縮空気が該出口端部(24)の外周囲から供給され」ることは、「気体が液体供給孔の外周囲から供給され」る限りにおいて、本件訂正発明の「気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出され」ることと共通し、甲第2号証記載の発明の「潤滑液が圧縮空気の流れにより細かく分散される」ことは、本件訂正発明の「液体と気体が混合されるように構成されている」ことに相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「主軸内へ気体と液体を同時かつ別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を設けた工作機械の主軸装置であって、
前記二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔を有し、
液体が液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲から供給されて、液体と気体とが混合されるように構成されている工作機械の主軸装置。」
<相違点1>
本件訂正発明は、ミスト発生装置が「主軸の先端部或いは工具ホルダ内」に設けられているのに対し、甲第2号証記載の発明においては、「シャフト状フライス(10)内」に設けられている点。
<相違点2>
本件訂正発明は、「液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成されており、液体が液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出され」るのに対して、甲第2号証記載の発明は、液体供給孔に相当する出口端部(24)から液体である潤滑液が供給されるものではあるものの、液体用供給路に相当するパイプ(19)は回転するものではない点。
第7.当審の判断
上記相違点1について、以下検討する。
本件訂正発明は、本件図面の図3及び4に示した従来技術における主軸1、工具ホルダ8及び刃物2が加工中に回転するため、供給されたミストmが遠心力によって気体と切削油とに分離し、加工部を十分に潤滑及び冷却することができないという課題が生じていたところ、この課題を解決するために、内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成し、液体が液体供給孔から供給されると、その液体が遠心力で外方に噴出して微細化するとともに、気体がこの液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出することにより、液体と気体が激しく攪拌混合してミストを発生する構成としたものである。そして、このミスト発生装置は、主軸の先端部内又は工具ホルダ内に設けられており、発生したミストは、工具ホルダ及び工具内通路を通じて切刃近傍から噴出され、被加工物の比較的深い箇所にも供給されるものである。
一方、甲第2号証記載の発明は、シャフト状フライス(10)が組み込まれたスピンドル(2)は回転するが、そのボア孔(20,21,22)内に配置した細いパイプ(19)は回転するものではない。そして、甲第2号証記載の発明においては、パイプ(19)は、シャフト状フライス(10)の出口(31)のすぐ上流側まで延びて配置され、パイプ(19)内の潤滑液は、シャフト状フライス(10)の出口地点のすぐ上流側で、供給パイプの端部を通って流れる空気によって分散されて所望の潤滑液の噴霧を形成し、シャフト状フライス(10)自体も加工作業中に内部から冷却されるものである。
以上のとおり、本件訂正発明は、相違点2として特定されている如く、内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成し、これによって液体供給孔から供給された液体が遠心力で外方に噴出して微細化することとなり、さらに、気体がこの液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されることにより、液体と気体が激しく攪拌混合してミストを発生するようにしたものを前提とし、その上で、このようにして発生したミストは、工具ホルダ及び工具内の通路を分離することなく通過して、被加工物の比較的深い箇所にも供給されるものである。そして、その結果、ミスト発生装置の設置箇所は、主軸の先端部内又は工具ホルダ内とすることが可能となったものである。
これに対し、甲第2号証記載の発明は、本件訂正発明と異なり、パイプ(19)をスピンドルと同体にして回転させるものではなく、また、液体供給孔の外周に狭窄部を設けて空気を噴出させて積極的に液体と気体が激しく攪拌混合してミストを発生するようにするものではなく、噴霧を切削領域に放出させるためには、パイプ(19)は、シャフト状フライス(10)の出口(31)のすぐ上流側まで延びて配置する必要があるものである。
そうすると、本件訂正発明と甲第2号証記載の発明とは、同じ工作機械の主軸装置に関する発明において、主軸装置側にミスト発生装置を設け、そのミスト発生装置は、気体と液体を同時かつ別々に供給するための2系統の供給路を備え、2系統の供給路のうち内側に液体用供給路を形成する供給管を設けて切削液を液体供給孔から供給し、気体をこの液体供給孔の外周囲に設けられた供給管から供給して、液体と気体を混合してミストを発生する構成とした点で共通するものであるが、本件訂正発明は、混合したミストが分散しないことを解決課題としているという点で、甲第2号証記載の発明とは異なる課題を有するものである。
そして、(1)本件発明における上記課題を解決するため、本件訂正発明のミスト発生装置の構成は、甲第2号証記載の発明のミスト発生装置の構成とは上記のとおりの相違点を有することになり、その結果、(2)ミスト発生装置の設置位置につき、甲第2号証記載の発明は工具であるシャフト状フライス(10)の出口のすぐ上流側であるのに対し、本件訂正発明は主軸の先端部又は工具ホルダ内とすることができるとの相違点を生じさせ、さらに、(3)ミスト発生位置からミストを供給する加工部までの噴霧状態を保つ必要がある距離も、両者を比較すると、本件訂正発明は長い距離であるのに対し、甲第2号証記載の発明は短い距離であるとの相違点を生じさせたものである。
このように、本件訂正発明は、本件訂正発明が有し、甲第2号証記載の発明が有しない上記課題を解決するために、相違点2における内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するという構成、及び気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されるものであるという前提のもと、ミストを発生する機構、ミスト発生装置の設置箇所及び噴霧状態を保つ距離において異なることとなったものであって、これらについては、甲第2号証記載の発明から容易に想到し得るものではないと認められる。
以上の点に関して、甲第1号証に記載された発明では、工具であるナイフヘッドに気体と液体とを供給してミストを噴出させるものではあるものの、液体用供給孔である潤滑液用パイプは回転するものではない。
甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明は、主軸に液体と気体を送る工作機械の主軸装置に関する発明であって、液体は回転する供給孔を通して供給されるものではあるものの、いずれも液体と気体とを混合することによりミストを噴出させる発明ではないことから、これらの発明から、相違点2における内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するという構成、及び気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されるものであるという前提のもと、ミスト発生装置を主軸の先端部或いは工具ホルダ内に設けることを容易になし得たものとすることはできない。
さらに、甲第7号証、甲第8号証に記載された発明は、液体を回転する供給孔から、気体をその周囲から供給することにより液体と気体とを混合してミストを発生させるものではあるものの、いずれも内燃機関の噴霧器に関する発明であって、工作機械の主軸装置とは技術分野が大きくことなることから、供給されたミストmが遠心力によって気体と切削油とに分離し、加工部を十分に潤滑及び冷却することができないという本件訂正発明が有する課題自体が存在しないことから、当該甲第7号証、甲第8号証に記載された発明を甲第2号証に記載された発明に適用し、相違点2における内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するという構成、及び気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されるものであるという前提のもと、ミスト発生装置を主軸の先端部或いは工具ホルダ内に設けることを容易になし得たものとすることはできない。
作用ないし効果については、本件訂正発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載によれば、本件訂正発明は、内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体用供給孔が主軸と同体に回転するように構成され、液体が液体供給孔から供給されるとともに、気体がこの液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されて、液体と気体が混合されるように構成されているものであるから、本件無効審判における「訂正の請求」とみなされることになった平成19年2月9日付け審判請求書第11頁第2行?第17行に記載されたように、液体が遠心力で外方に噴出して微細化するとともに、液体と気体が激しく攪拌混合してミストを発生するという効果を奏するものであることが認められる。
第8.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証ないし甲第8号証に記載された発明から当業者が容易になし得たものであるとすることもできない。
したがって、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件訂正発明を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (参考)
平成20年1月16日付け審決
審決
無効2006- 80019
ドイツ連邦共和国,デー-72639 ノイフェン,ダイムラーシュトラーセ 6-10
請求人 ビエロマティク ロイゼ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディト ゲゼルシャフト
東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所
代理人弁理士 青木 篤
東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所
代理人弁理士 鶴田 準一
東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所
代理人弁理士 島田 哲郎
東京都港区虎ノ門3-5-1 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所
代理人弁理士 三橋 真二
東京都港区虎ノ門3丁目5番1号 虎ノ門37森ビル 青和特許法律事務所
代理人弁理士 西山 雅也
広島県福山市草戸町2丁目24番20号
被請求人 ホーコス株式会社
東京都中央区八重州2-8-7 福岡ビル9階 阿部・井窪・片山法律事務所
代理人弁理士 加藤 志麻子
東京都港区西新1丁目20番3号 虎ノ門法曹ビル701 内田・鮫島法律事務所
代理人弁護士 鮫島 正洋
東京都港区西新1丁目20番3号 虎ノ門法曹ビル701 内田・鮫島法律事務所
代理人弁護士 内田 公志
東京都港区西新橋1丁目20番3号 虎ノ門法曹ビル701 内田・鮫島法律事務所
代理人弁護士 岩永 利彦
東京都港区西新橋1丁目20番3号 虎ノ門法曹ビル701 内田・鮫島法律事務所
代理人弁護士 松島 淳也
東京都中央区八重洲2丁目8番7号 福岡ビル9階 阿部・井窪・片山法律事務所
代理人弁護士 長沢 幸男
東京都中央区八重洲2丁目8番7号 福岡ビル9階 阿部・井窪・片山法律事務所
代理人弁理士 井口 司
上記当事者間の特許第2687110号「工作機械の主軸装置」の特許無効審判事件についてされた平成18年11月21日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成18年行ケ第10551号平成19年3月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結 論
訂正を認める。
特許第2687110号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理 由
第1.手続の経緯
1.本件特許第2687110号の請求項1?3に係る発明についての出願は、平成7年8月30日に出願されたものであって、平成9年8月22日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
2.これに対して、平成18年2月15日に請求人ビエロマティク ロイゼゲゼルシャフト ミット ベシユレンクテル ハフツング ウント コンパニ一 コマンディト ゲゼルシャフトより、「特許第2687110号の請求項1の特許を無効とする」との審決を求める無効審判請求がなされた。
3.被請求人より、平成18年5月8日付けで答弁書及び訂正請求書が提出された。
4.請求人、被請求人、双方より、平成18年9月26日付け口頭審理陳述要領書が提出された。
5.平成18年9月26日に第1回口頭審理が行われた。
6.請求人より、平成18年10月13日付けで上申書が提出された。
7.被請求人より、平成18年10月13日付けで上申書及び実験報告書が提出された。
8.平成18年11月21日付けで本件請求項1に係る特許を無効とする旨の審決がなされた。
9.被請求人は、これを不服として知的財産高等裁判所に当該審決の取消を求める訴え(平成18年(行ケ)第10551号)を提起した後、本件特許第2687110号につき訂正審判の請求(訂正2007-390014号)をし、平成19年3月26日付けで前記審決を取り消す旨の決定がなされ、上記訂正審判の請求書に添付した訂正明細書を援用する訂正請求が、平成19年2月9日付けでなされたものとみなすこととなった。
10.請求人は、平成19年6月21日付けで弁駁書を、平成19年7月19日付けで補正書を提出し、一方、被請求人は、平成19年8月27日付けで第二答弁書を提出した。
11.平成19年12月14日付けで、請求の理由の補正を許可する決定がなされた。
第2.訂正請求について
(1)訂正請求の内容
上記平成19年2月9日付け訂正請求は、本件の願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)を添付した訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下の三つの訂正事項からなる。
訂正事項1:請求項1に「主軸内へ気体と液体を別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置。」とあるのを、「主軸内へ気体と液体を同時かつ別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けた工作機械の主軸装置であって、前記二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成されており、液体が当該液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されて、液体と気体が混合されるように構成されていることを特徴とする工作機械の主軸装置。」と訂正する。
訂正事項2:請求項2に「気体の供給路とミスト発生装置のミスト噴出側空間とを連通させるためのバイパス通路を設けると共にこの通路の途中にはミスト発生装置の発生したミストが一定圧以下であるときに開放状態に保持される開閉弁機構を設けたことを特徴とする請求項1記載の工作機械の主軸装置。」とあるのを、「主軸内へ気体と液体を別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置において、気体の供給路とミスト発生装置のミスト噴出側空間とを連通させるためのバイパス通路を設けると共にこの通路の途中にはミスト発生装置の発生したミストが-定圧以下であるときに開放状態に保持される開閉弁機構を設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置。」と訂正する。
訂正事項3:請求項3に「液体の供給路の末端部であるミスト発生装置の直前箇所に液体が-定圧以下であるときに閉鎖状態に保持される止め弁を設けたことを特徴とする請求項1記載の工作機械の主軸装置。」とあるのを、「主軸内へ気体と液体を別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置において、液体の供給路の末端部であるミスト発生装置の直前箇所に液体が-定圧以下であるときに閉鎖状態に保持される止め弁を設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置。」
(2)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正事項(ア)と訂正事項(イ)からなる。
訂正事項(ア):訂正前の特許請求の範囲の請求項1における「主軸内へ気体と液体を別々に供給する」を「主軸内へ気体と液体を同時かつ別々に供給する」と訂正する。
訂正事項(イ):訂正前の特許請求の範囲の請求項1について、「前記二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成されており、液体が当該液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されて、液体と気体が混合されるように構成されていること」を付加する。
(2-1)訂正事項(ア)について
訂正事項(ア)は、気体と液体の主軸内への供給を時間的に特定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
そして、この点は、特許明細書の段落【0011】に、ミストを噴出させることが記載されており、ミストを噴出させるためには液体と気体は同時に供給されなければならないことは自明であるから、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項(ア)は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2-2)訂正事項(イ)について
訂正事項(イ)の前段は、「二系統の供給路」のうち、「内側の液体用供給路を形成する供給管」が、「内管部材」、「内管」、及び、「ノズル後部材」であって、これらが、「主軸と同体に回転する」ことは、特許明細書の段落【0018】、【0019】、【0022】の記載から明らかであり、また、供給管の「先端部に設けられた液体供給孔」は、「ノズル後部材」の先端の「先端小径突出部」に形成された、液体が供給される孔であることも同様に、特許明細書の段落【0024】、【0025】の記載から明らかであり、また、この「液体供給孔」が主軸と同体に回転する「ノズル後部材」に形成されているから、「液体供給孔」が主軸と同体に回転することも明らかである。
また、訂正事項(イ)の後段、「液体が当該液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されて、液体と気体が混合される」についてみると、これが、「ミスト発生装置」を詳細に記述したものであることは明らかであり、「液体が当該液体供給孔から供給される」点は、前述のとおり、特許明細書の段落【0024】、【0025】の記載から明らかである。
次に、「狭窄部」についてみると、特許明細書には「狭窄部」という文言は何ら記載されていない。しかしながら上記「狭窄部」は、ノズル後部材の先端小径突出部の外周囲と、ノズル前部材の中心孔の内周囲で囲まれる部分、つまり、図7のX2位置で示される気体のリング状供給路(図8(C)参照。)であることは、明細書の段落【0025】、及び、【0026】の記載から明らかである。
そして、このように液体供給孔から供給される液体を、液体供給孔の外周囲の狭窄部を経て噴出する気体により混合するミスト発生装置は、もとより、噴霧器等で周知のものである。してみれば、ミスト発生装置の構成として、このような液体供給孔の外周囲の「狭窄部」は自明な事項であるから、その加入は新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項(イ)は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(4)訂正事項2,3について
訂正事項2,3は、訂正前に請求項1を引用する従属形式で記載されていた請求項2,3の記載を独立形式に訂正するもので、その内容は変わっていないから、明りょうでない記載の釈明に該当する。
(5)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、同条第5項で準用する特許法第126条第3項、4項及び第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
第3.本件発明
(1)上記のとおり、訂正請求が認められるから、請求項1?3に係る発明は、その訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】主軸内へ気体と液体を同時かつ別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けた工作機械の主軸装置であって、前記二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成されており、液体が当該液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されて、液体と気体が混合されるように構成されていることを特徴とする工作機械の主軸装置。
【請求項2】主軸内へ気体と液体を別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置において、気体の供給路とミスト発生装置のミスト噴出側空間とを連通させるためのバイパス通路を設けると共にこの通路の途中にはミスト発生装置の発生したミストが一定圧以下であるときに開放状態に保持される開閉弁機構を設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置。
【請求項3】主軸内へ気体と液体を別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置において、液体の供給路の末端部であるミスト発生装置の直前箇所に液体が一定圧以下であるときに閉鎖状態に保持される止め弁を設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置。」
第4.請求人の主張の概要
請求人は、証拠方法として甲第1?8号証を提示し、以下の理由により本件の請求項1に係る特許は無効とすべきであると主張する。
理由
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)は、甲第1?8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
[証拠方法]
甲第1号証:独国公開第 919026号公報、及び、訳文
甲第2号証:独国公開第4200808号公報、及び、訳文
甲第3号証:特開昭63-272442号公報
甲第4号証:実公平 1- 11408号公報
甲第5号証:特開平 5-154736号公報
甲第6号証:独国公開第 221952号公報
甲第7号証:「燃焼工学」第2版 水谷幸夫著(1989年10月20日、森北出版発行)
甲第8号証:独国公開第3105186号公報、及び、訳文
第5.被請求人の主張の概要
被請求人は、乙第1号証(大隈豊和機械株式会社・パンフレット)を提出するとともに、以下の各点を主張している。
(1)甲第2号証記載の発明は、「主軸内へ気体と液体を同時かつ別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を設けた工作機械の主軸装置であって、液体が供給管の先端部に設けられた孔から供給されるとともに、気体が該供給パイプの外周囲から供給され液体と気体が混合されるように構成されている工作機械の主軸装置」である点で本件発明1と一致している。
しかし、
相違点(イ)
本件発明1は、ミスト発生装置が「主軸の先端部或いは工具ホルダ内」に設けられているのに対し、甲第2号証記載の発明においては、「ドリル工具又はフライス工具の出口領域の直ぐ上流」に設けられている点。
相違点(ロ)
本件発明1は、「二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成されており、液体が当該液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出され」るのに対し、甲第2号証記載の発明においては、液体の供給管及び液体供給孔は主軸と同体に回転せず、気体は狭窄部を経ることなく供給される点。
の、2点で相違している。
(2)上記相違点(イ)、(ロ)は、いずれも、甲第1?8号証に基づいて容易に発明できたものではない。
(3)本件発明と甲第2号証記載の発明との課題解決手段の方向性の違いからすれば、甲第2号証記載の発明におけるミスト発生装置の場所を「主軸の先端部或いは工具ホルダ内」に変更することについては阻害要因があるというべきである。
(4)相違点(ロ)に関連して認定するべき周知技術は、本件発明と同様にミスト発生機構を有する主軸装置に関するものでなくてはならないところ、甲第3?6号証のいずれにも上記ミスト発生機構を有する主軸装置に関する記載は一切ないから、相違点(ロ)は、甲第3?6号証に記載された周知技術から当業者が容易になし得るものではない。
(5)甲第3?6号証に記載された発明においては、供給管自体が主軸と同体に回転しても装置構造上何ら問題がないようになっているが、甲第2号証記載の発明における供給パイプは非常に細くて長いパイプであるから、単に主軸と同体として長い自由端を有したまま回転させたら振動、ぶれ、撓みなどの問題が生じ、甲第2号証記載の発明においては供給パイプを主軸と同体に回転させることはあり得ないと解釈するのが技術常識に即した理解である。
(6)甲第2号証には「狭窄部を経て噴出させる」という構成が記載されていない。甲第2号証記載の発明では、加工部位に極めて近い位置で細いパイプによって潤滑液が供給されるものであるところ、潤滑液を噴霧状態とし近接する加工部位に到達させるためには一時的に噴霧状態にできる程度の圧縮空気との接触があればよく「狭窄部を経て噴出させる」ような機構は不要である。
(7)甲第7,8号証はいずれも燃焼装置における回転式の噴霧器という本件発明の技術とは無関係の技術を開示するにすぎない。
第6.甲各号証記載の発明(事項)
(1)甲第1号証
甲第1号証である独国公開第919026号公報には、甲第1号証訳文によれば、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「回転するナイフヘッド内を介して潤滑剤を供給する装置」
(イ)特許請求の範囲
「1.ロッド状材料の端部を加工するための回転するナイフヘッド内において潤滑液を供給する装置において、分配ヘッド(1)が機械設備に静的に支持され且つ圧縮空気用の連結部を備え、分配ヘッドがナイフヘッド内で延びると共にジャケットパイプ(3)を備え、、ジャケットパイプ(3)はボールベアリング(13)によりナイフヘッド内に支持されると共に潤滑液出口地点まで圧縮空気を案内し、ジャケットパイプ(4)を介してノズルのようなもので終端する潤滑液用パイプが案内されることを特徴とする装置。」
(ウ)明細書
「本発明は、ロッド状材料の端部を加工するための回転するナイフヘッド用の潤滑剤供給装置に関する。
・・・
新しい装置は、空気を供給することにより切削加工部に近接した領域に潤滑液を分散する噴射機能と同様に加工中のみに被加工物に噴霧することにより、潤滑液を節約しつつなおも高い信頼性で被加工物を潤滑及び冷却する。
・・・
これは、機械設備に固定して支持された分配ヘッド1と、中空の駆動シャフト2内のジャケットパイプ3と、端部においてノズルのように形成された潤滑液用パイプ4とから成る。静止している分配ヘッド1はその長手方向に円筒状のキャビテイ5を有し、その長さの約半分までネジ山6を備える。内側ネジ山7が前面からキャビティ5内へ延び、これに対して垂直にボアが延びる。このボアは空気供給部との連結部材として利用されるネジ状連結部8において外部に終端する。
・・・
空気を供給するために用いられる潤滑液用パイプの反対向きの二つの窪み部11が液体用出口から分配ヘッド1のキャビティ5まで連続的に長手方向に延びる。
・・・
ジャケットパイプ及び中空シャフト2には半球状のショルダ13が設けられ、これらの間にはボールが配置される。潤滑液用パイプ4はネジ山9で分配ヘッド1のキャビティ5を介して下方から案内されると共にネジ山7へ挿入された部分の端部が付加的にカウンターナットに締結されるまでねじ込まれる。ジャケットパイプ3をネジ山6内にねじ込んだ後にナイフヘッドの中空シャフト内にボールが挿入され、潤滑液供給部全体が挿入せしめられると共に分配ヘッド1が静的に固定される。」
(2)甲第2号証
甲第2号証である独国公開第4200808号公報には、甲第2号証訳文によれば、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「動力駆動される回転スピンドルを備えた加工ユニット」
(イ)特許請求の範囲
「1.ドリル工具又はフライス工具(10)のシャフト用のクランプブラケット(6)が組み込まれた動力駆動される回転スピンドル(2)を備え、スピンドルとドリル工具又はフライス工具のシャフトとが互いに整列した中央ボア孔(21、22)を備え且つドリル工具又はフライス工具(10)が加工領域に潤滑液及び冷却液を供給するための出口(31)を備える加工ユニットにおいて、
上記中央ボア孔(21、22)が工具の冷却に関与する圧縮空気の供給部(17)に独占的に連結され、該中央ボア孔を通って細いパイプ(19)がドリル工具又はフライス工具(10)の出口(31)の直ぐ上流側まで延び、該細いパイプは潤滑液の供給部に連結されることを特徴とする加工ユニット。」(請求項1)
(ウ)明細書
「本発明は、ドリル工具又はフライス工具用のクランプブラケットが取付けられた動力駆動される回転スピンドルを備える加工ユニットであって、スピンドルとドリル工具又はフライス工具とが中央ボア孔を備え且つドリル工具又はフライス工具が加工領域に潤滑液及び冷却液を供給するための出口を備える加工ユニットに関する。」(訳文の第2頁第2?5行)
「従って、本発明の目的は上述したようなタイプの加工ユニットを、長い工具を用いて加工を行った場合でさえも切削が行われている領域で潤滑及び冷却が行われるように潤滑液の噴霧が加工領域に直接供給されるように設計することにある。」(訳文の第3頁第3?5行)
「中央ボア孔が工具の冷却に関与する圧縮空気の供給部に独占的に連結され、細いパイプがドリル孔とほぼ同心状にドリル工具又はフライス工具の出口領域の直ぐ上流側まで延びる。斯かる構成により、潤滑油の噴霧と工具の内部冷却とが同時に実現され得る。噴霧は切削領域に放出され、よって必要な潤滑が正確な地点で行われ、また工具自体も加工作業中に内部から均一に冷却せしめられる。」(訳文の第3頁第6?11行)
「潤滑液が駆動スピンドル及びドリル工具又はフライス工具の内部に制御不可能な且つ望まれていない態様で残ることが防止される。潤滑液は供給パイプからドリル工具又はフライス工具の出口地点の直ぐ上流側で供給パイプの端部を通って流れる空気によって分散せしめられて所望の潤滑液の噴霧を形成する。」(訳文の第3頁第12?15行)
「請求項2に記載の発明の更なる改良によれば、回転スピンドル内のボア孔及びドリル工具又はフライス工具内のボア孔は互いに整列せしめられ、潤滑液用の供給パイプはこのボア孔にほぼ同心円状に配置される。」(訳文の第3頁23?25行)
「図1に示したように、ボール盤又はフライス盤(図示せず)のスリーブ型のベアリングヘツド(1)内には、ベアリング(3)を用いて回転可能にスピンドル(2)が配置される。スピンドル(2)は、スピンドル(2)のネック部(5)に連結されたVベルト(4)を介して駆動モータ(図示せず)によって回転せしめられる。」(訳文の第4頁第22?25行)
「コネクタ(12)はその内部に円筒状のボア孔(13)を有し、このボア孔(13)はスピンドル(2)のネック部分(5)内に堅固にねじ込まれるピストン(14)によってスピンドル(2)に向かって閉じられている。ボア孔(13)によって囲われているピストン(14)上の空間において、ボア孔(15)が側方に通じており、このボア孔(15)のねじ山に圧縮空気供給パイプ(17)用の連結用ニップル(16)がねじ込まれる。ボア孔(13)に同心状にピン状の中空突起(18)が突出し、この中空突起内に細いパイプ(19)が挿入されて所定位置に保持される。この細いパイプ(19)はコネクタ(12)を通ってシャフト状フライス(10)の領域まで延びる。」(訳文の第5頁第7?14行)
「ピストン(14)には中央ボア穴(20)が設けられ、この中央ボア穴(20)はスピンドル(2)のボア孔(21)及びシャフト状フライス(10)の中央ボア穴(22)と整列している。パイプ(19)は、ピストン(14)のボア孔(20)と、スピンドルのボア孔(21)と、締付けコーンを備え且つスピンドル(2)のボア孔(21)の下方に形成された円筒状の中空空間(23)と、シャフト状フライス(10)の中央ボア孔(22)とを通って延び、そしてその開いた出口端部(24)は、シャフト状フライス(10)内であって切削加工がシャフト状フライスによって実行される領域にまで達する。」(訳文の第5頁第18?24行)
「潤滑液用の供給パイプ(29)が連結ニップル(27)内に挿入され且つキャップ(30)によりニップル(27)に液密に結合される。この供給パイプ(29)を介して、計測された量の潤滑液がパイプ(19)及びシャフト状フライス(10)の切削部の領域に供給される。更なる説明なくして明らかなように、パイプの出口端部(24)から現れるこの潤滑液は、フライス盤の作動中に、パイプ(19)周りで流れていて圧縮空気の配管(17)を介して供給される圧縮空気の流れにより細かく分散され、シャフト状フライス(10)の出口(31)を介して噴霧の形態で切削地点へと供給される。」(訳文の第6頁第3?10行)
以上の記載から、甲第2号証には以下の発明(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
「回転スピンドル内へ圧縮空気と潤滑液を同時かつ別々に供給するための配管及び供給パイプを設けると共に、これら配管及び供給パイプを通じて供給された圧縮空気と潤滑液を混合させて噴霧を噴出させる工作機械の回転スピンドル装置」
(3)甲第3号証
甲第3号証である特開昭63-272442号公報には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「電気駆動モーターを備えた工具スピンドル」
(イ)特許請求の範囲
「(1)1つのスピンドルケーシングの中に回転可能に支承されている1つの作動スピンドル及びこの作動スピンドルと駆動結合している1つの電気駆動モーターを有し、その際作動スピンドルはスピンドルの機能要素を収容するため中空に形成されている工具スピンドルにおいて、電気駆動モーター(20)のモーター軸は作動スピンドルとして形成されていることを特徴とする工具スピンドル。」
(ウ)明細書
「モーター軸部分22は連結手段28を介して前方のスピンドル部分14と回転結合している。」(公報第2頁右下欄第13?15行)
「導管46はそれの締め付け棒40に向き合った端が締め付け棒に形成された収容穿孔の中にねじ込まれそして締め付け棒40の中に形成されている中央の冷却剤流路48を形成している。締め付け棒40はスピンドル部分と共に回転するから、作動棒44及び導管46もスピンドル軸の回りに回転する。」(公報第3頁左上欄第18行?右上欄第4行)
「1つの圧縮空気導管64を介してケーシング部分48の内部空間に、従ってまた導管46を取り巻いているリング状空間66に圧縮空気が供給されることが可能である。リング状の空間66は図の左端においては皿状のばねの重なり42を収容しているリング状空間と結合し、この空間は別の曲がった結合導管70を介して工具収容部分36に開放されている。」(公報第3頁左下欄第13行?右下欄第1行)
「供給された冷却剤は導管46と締め付け棒50の中に形成されている中央孔47並びにそれに続いている流路部分80、82を介してスピンドル部分14の正面にそしてそこから自体公知の態様で工具収容部分36の中に挿入されている工具の冷却剤通路の中に到達する。」(公報第3頁右下欄第9?15行)
(4)甲第4号証
甲第4号証である実公平1-11408号公報には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)考案の名称
「切削液と空気供給機能を有する主軸装置」
(イ)実用新案登録請求の範囲
「後部にプルスタツドを設けたテーパシヤンクを有する工具または工具ホルダを着脱可能に装着する主軸を備えた工作機械の主軸頭において、前記工具または工具ホルダは刃具先端に向けて閉口した切削液流路を前記プルスタツドの中心にまた圧力空気路を前記テーパシヤンクに閉口して設け、前記主軸の貫通穴内に空気路となる第1隙間を有して挿通された工具または工具ホルダ締上げ用部材の中心に切削液供給路を穿設し、前記締上げ用部材の後端に切削液供給用回転継手を設け、前記主軸頭に前記工具または工具ホルダのアンクランプ用シリンダ装置を取付け、該シリンダ装置のピストンロツド貫通穴に前記締上げ用部材を空気路となる第2隙間を有して挿通し、前記ピストンロツドの後端に圧力空気供給用回転継手を設け、前記第1隙間と第2隙間とがほぼ密封状態で連結されてなり、オイルホール工具が主軸に装着されたとき締上げ用部材と密接して切削液供給路を連結し切削液供給と圧力空気とを別経路で同時にも行えるようになしたことを特徴とする切削液と空気供給機能を有する主軸装置。」
(ウ)明細書
「主軸頭1に固定された主軸スリーブ2に軸受によって回転可能に軸承された主軸3は中心貫通穴3aの先端に工具のテーパシヤンクを嵌着するテーパ穴3bをまたプルスタツドのコレツトチヤツクのコレツトの逃げ溝3cが形成されている。この中心穴3aには中心に切削液流路4aを穿設したドローバー4が軸方向に移動可能に隙間を有して挿通されていて、その先端にスリープ5が螺着されている。」(公報第2頁左欄第22?30行)
「この回転継手9はドローバー4とピストンロツド8との隙間更にはドローバー4と主軸3との隙間に圧力空気を送り込むように周囲を取巻き空気の洩れが少ないように構成されており管9aより圧力空気源と接続されている。更に回転継手9の軸受を固定するナツト10と主軸頭1側に保持された切削液用の回転継手11とが連結されていて切削液供給管12よりの切削液が回転継手11、ナツト10を経てドローバー4の中心穴4aに送られるようになつている。また主軸3の後端部においてドローバー4はピン38により一体回転するように連結されており、同じく後端部には複数枚の皿ばね13が積層して介挿されている。」(公報第2頁左欄第35行?右欄第4行)
「圧力空気はピストンロツド8とドローバー4との隙間よりカラー16の溝16a、ドローバー4の溝4bより主軸3とドローバー4との隙間、主軸3とスリーブ5の隙間、スリーブ5の溝5f穴3aよりテーパ穴3bに送り込まれテーパ穴より噴出する。」(公報第3頁右欄第1?6行)
「主軸3が工作物の加工位置に位置決めされると切換弁が切換えられて切削液が管12に送られ回転継手11、ナツト10の穴、ドローバー4の穴4a、穴5b、第1弁筒の穴19b、第1球押筒22の流路22a第1、第2チエツク弁、第2弁筒の流路26dを経て切削液の圧力により第3チエツク弁の球体28をばね30の力に抗して弁口を開いてプルスタツド32の中心穴32aより切削液の圧力によって第4チエツク弁の球体33をばね34の力に抗して押し弁口を開いて中心穴31bより工具のオイルホールを通って切削部に切削液を供給する。また切削中切粉のたまりを除去したい場合若しくは切削後に切削部位を清掃したい場合は、図示しない切換弁を作用させて圧力空気源から圧力空気を管9aに送り回転継手9よりドローバー4とピストンロツド8、ドローバー4の溝4b、ドローバー4と主軸3との隙間、スリーブ5と主軸3との隙間、スリーブ5の溝5fを経てコレツト17を納めている穴3aに送られ工具ホルダ31の空気穴31Cに送られ工具の空気穴または工具ホルダの穴より切削部位に噴出され、角とか溝にたまった切粉を吹き飛ばし清掃するものである。清掃作業が終れば圧力空気側の切換弁を作用させて空気を遮断する。切削加工が終了すれば切削液供給側の切換弁が切換わり遮断される。」(公報第3頁右欄第29?第4頁左欄第10行)
(5)甲第5号証
甲第5号証である特開平5-154736号公報には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「加工装置」
(イ)特許請求の範囲
「【請求項1】主軸ヘッドに支持された主軸の装着穴に、先端に工具を取り付けた回転軸を静圧軸受を介して回転可能に支持する工具ホルダが、着脱可能に装着される加工装置において、
前記工具ホルダには、回転軸をエアの噴射によって回転駆動させるためのエア駆動機構と、回転軸の回転をエアの逆噴射によって停止させるためのエア停止機構とを設け、前記主軸にはエア供給源に連結される駆動用のエア供給路及び停止用のエア供給路を設けると共に、工具ホルダにはエア駆動機構及びエア停止機構にそれぞれ連結された駆動用のエア通路及び停止用のエア通路を設け、前記工具ホルダを装着穴に装着したときに互いに接続されるように、各エア通路のエア供給端を各エア供給路の開口端に接離可能に対応させたことを特徴とする加工装置。・・・」
(ウ)明細書
「・・・中空筒状のクランプ軸12は主軸4内に上下方向へ移動可能に挿通支持され、図2に示すように主軸4の上端から上方に突出されている。
被作動部としての被押圧ナット13及び支持ナット14は前記クランプ軸12の中間ネジ部15に螺着され、この支持ナット14の下面には上バネ受けリング16が接合配置されている。下バネ受けリング17は主軸4の内底部に配設され、この下バネ受けリング17と上バネ受けリング16との間には第1付勢部材としての皿バネ18が介装されている。そして、この皿バネ18の付勢力によりクランプ軸12が上方に向かって移動付勢されている。
プルスタッド式のクランプ機構19は前記クランプ軸12とホルダ本体11との間に設けられ、クランプ軸12の下端の支持孔20内に収容支持された複数のクランプボール21と、そのクランプボール21と係合するようにホルダ本体11の上端に設けられたプルスタッド22とから構成されている。そして、このクランプボール21がプルスタッド22に係合した状態で、クランプ軸12が皿バネ18の付勢力によりクランプ方向の上方へ引かれることにより、ホルダ本体11が装着穴4aに装着された状態でクランプされる。又、クランプ軸12が皿バネ18の付勢力に抗してアンクランプ方向の下方へ移動されることにより、クランプボール21がプルスタッド22から離脱して、ホルダ本体11のクランプが解除される。」(段落【0021】?【0023】)
「駆動用エア供給路としての第1エア供給路41は前記クランプ軸12の中空部内に設けられ、その下端がクランプ軸12の外周面に開口されている。・・・」(段落【0028】)
「そして、主軸4が所定位置に位置決め停止された状態で、ホルダ本体11のテーパシャンク部11aが装着穴4aに図示しないキーを介して定位状態で嵌挿されたとき、フロート部材44がバネ46の付勢力に抗して上方に移動されて、接合体45がホルダ本体11の上端面に圧接される。・・・」(段落【0030】)
「停止用エア供給路としての第2エア供給路48は前記主軸4の中空部内に設けられ、その下端が前記停止用エア通路39の上端開口部と対向するように、クランプ軸12に形成された供給路49を介して装着穴4aの内頂部に開口されている。・・・」(段落【0031】)
「支持ブラケット65は前記主軸ヘッド1の上面に取り付けられ、この支持ブラケット65上には筒状のカップリング66が軸受67を介して回転可能に支持されている。駆動エア及びクーラント供給用の回転継手68は支持ブラケット65上に図示しない取付板を介して取り付けられ、その下面に突出した回転管68aがカップリング66にねじ込み固定されている。そして、カップリング66には前記クランプ軸12の上端が一体回転可能に且つ軸線方向へ相対移動可能に嵌挿され、回転継手68の内部がカップリング66を介してクランプ軸12内の第1エア供給路41に連結されている。」(段落【0036】)
「一方、クーラントを必要とする工具を備えた工具ホルダを主軸4に装着した状態で加工を行う場合には、クーラント供給回路の開閉弁85が開放されて、クーラント供給ポンプ83からのクーラントが、回転継手68、カップリング66、第1エア供給路41及び傾斜供給路42を介して工具ホルダに供給されて、工具やワークの加工部が冷却される。」(段落【0051】)
「そして、この状態で、停止用エア供給回路の開閉弁89が開放され、エアポンプ86から停止用減圧弁87を通して減圧された停止用エアが、停止用エアポート61、エア供給口60、第2エア供給路48及び供給路49を介して、工具ホルダ10内の停止用エア通路39に導かれる。・・・」(段落【0054】)
(6)甲第6号証
甲第6号証である独国公開第221952号公報には、甲第1号証訳文によれば、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「工作機械の主軸の冷却装置」
(イ)特許請求の範囲
「1.工作機械の主軸を冷却するための装置であって、前方及び後方へ向かって主軸冷却剤を流通させ、該主軸冷却剤が主軸の内部を通って該主軸の全長に亘って鉛直方向に流れ、流れ方向の異なる主軸冷却剤が主軸の中央に配置されたパイプの壁によって分離される装置において、
上記主軸(2)内に配置された主軸冷却剤(1)を流通させるためのパイプ(3)内において加工処理用の冷却・潤滑媒体(5)を流通させるためのパイプ(3)が中央に設けられ、該パイプ4のネジ状部分上には自動的に工具を把持及び開放する公知の装置のネジ付ブッシュ(16)がねじ込まれ、皿バネ(6)によって加えられる工具を把持するための軸線方向の力がネジ付ブッシュ(16)及びパイプ(4)を介して伝達され、該ネジ付ブッシュ(16)は主軸冷却剤用のラインの一部としてブッシュ(18)とパイプ(3)との間に配置されると共に凹部(19)を有することを特徴とする装置。
2.工具を自動的に開放するのに必要であって主軸(2)に対して中心に配設された上記油圧ピストン(7)は、加工処理用の冷却・潤滑媒体(5)をパイプ(4)に供給するための中央ボア(8)を有すると共に、回転する構成要素と静止している構成要素との間のシール要素(10)を伴って環状空間(9、23)を有し、環状空間(9)はネジ式結合部(11)に連結され、該ネジ式結合部はブッシュ(18)とパイプ(4)との間の環状間隙と共に主軸冷却剤(1)を流入させるべく回転する主軸(2)に対して径方向に固定され、上記環状空間(23)は主軸冷却剤(1)を流出させるべくネジ付ブッシュ(18)のボア(22)及びネジ式結合部(12)に接続されることを特徴とする請求項1に記載の装置。」
(ウ)明細書
「主軸2は、その鉛直方向の全長に亘って孔が開けられていると共にパイプ3を有する。パイプ3の外壁と主軸2のボアとの間に、キャビテイ14が形成される。キャピティ14は、主軸冷却剤1を受け入れると共に主軸2の鉛直方向の全長に亘って延びる。パイプ3内には加工処理用の冷却又は潤滑媒体を通過させるための更なるパイプ4が配置される。」(訳文の第5頁第16?20行)
「工具を緩めるために、皿バネ6がピストンの力によってジャーナル軸受17並びに主軸2及びネジ付リング15と共に回転するネジ付きブッシュ16を介して圧縮され、パイプ4がネジ付ブッシュ16のネジ山を介して工具を解放すべく前方に押される。
ネジ式結合部11から主軸冷却剤1が油圧ピストン7内部の環状空間9に供給され、主軸冷却剤1はここからパイプ4とブッシュ18との間隙、ネジ付ブッシュ16の扇形状凹部19を介して、主軸2に沿ってパイプ3、4間に形成されたキャビティ20へと流れる。工具取付部に近接してパイプ3は閉口を有し、この開口により主軸冷却剤1が外側キャビテイ14内に流入する。」(訳文の第5頁
第25行?第6頁第8行)
「パイプ4はシール要素10によって非回転の油圧ピストン7に対してシールされる。加工処理用の冷却・潤滑媒体はパイプ4を介して主軸システムの後端部から主軸2のヘッドへと運ばれ、工具へと移送せしめられる。」(訳文の第6頁第15?17行)
(7)甲第7号証
甲第7号証である「燃焼工学」第2版 水谷幸夫著(1989年10月20日、森北出版発行)には、図面と共に、以下のとおり記載されている。
「(4)の回転体噴霧器は回転するカップや円盤の緑から遠心力で飛散する液膜を軸方向の空気流で粉砕するもので,微粒化性能はよくないが,ノズルを持たないので,固形物が混ざっても詰まることがない.通常は図5.17に示すようにファンとカップを一軸に取り付け,中空軸を通して燃料を送るホールインワンタイプのロータリバーナの形に設計される.廃液の焼却に適している.」(第136頁)
そして、同図5.17によれば、燃料を供給する中空軸(管)の先端にロート状に開いたカップが一体に付けられ回転すること、及び、中空軸(管)の外周囲の空気の通路は、カップの縁において狭められ、ここで燃料が粉砕される、つまりミストにされることが示されている。
(8)甲第8号証
甲第8号証である独国公開第3105186号号公報には、甲第8号証訳文によれば、図面と共に、以下のとおり記載されている。
(ア)発明の名称
「回転式噴霧器」
(イ)特許請求の範囲
「1.特に燃焼の目的で液体及び懸濁液を霧化する回転式噴霧器であって、
回転するカップ(4)と、吸気パイプ(1)と、前記回転するカップと噴霧空気用ハウジング(7)とによって形成される噴霧空気用ノズル(6)とを具備する回転式噴霧器において、
カップ縁部(5)の直径は、カップの内壁の接線方向に計測されたカップの内径の最大値よりも少なくとも4mm及び最大で18mmだけ長いことを特徴とする回転式噴霧器。
2.上記カップ縁部(5)は、噴霧空気用ハウジング(7)と共に、角度をつけて設置されたリングノズルを形成することを特徴とする、請求項1に記載の回転式噴霧器。
3.上記噴霧空気用ノズル(5)の設定角度αは最小で65°且つ最大で45°であることを特徴とする、請求項1及び2に記載の回転式噴霧器。
4.丸まった箇所においてカップの縁部(5)は破断エッジを有する、請求項1?3に記載の回転式噴霧器。
5.上記噴霧空気用ノズル(6)のスロット幅は噴霧空気用ハウジング(7)の軸線方向の移動によって調整可能である、請求項1?4に記載の回転式噴霧器。
6.燃料及び/又は蒸気及びガスは二つの同軸パイプ(1、2)を通って供給される、請求項1?5に記載の回転式噴霧器。
7.同軸に配置されたパイプ(2)は加熱液又は冷却液を通すために用いられる、請求項1?6に記載の回転式噴霧器。」
(ウ)明細書
「霧化すべき液体は中央パイプ1を介して回転するカップ4に供給される。駆動は中空シャフト3を介して行われる。」(訳文の第5頁第9?10行)
「図1によれば、中央パイプ1から流出する液体は回転するカップ4内へ薄いフィルム12として引き出されて、カップの縁部5に供給される。遠心力により、液体フィルム12はカップの縁部5から径方向に放り出されて、霧化空気リングノズル6において霧化空気の流れに衝突する。
霧化空気の流れ11は液体フィルム12を霧状にし、二次空気用ノズル8内で燃焼可能な態様で二次空気の流れ10と混合する。」(訳文の第5頁第17?22行)
「本発明の更なる特徴によれば、霧化空気用ハウジング7は霧化空気用ノズル6のスロットを狭める又は広げるように軸線方向に変位可能である。」(訳文の第7頁第4?5行)
そして、同図2によれば、上下の矢印にて、霧化空気用ハウジング7が変位する向きが示され、上方向の変位にて霧化空気用ノズル6のスロットが狭められることが示されている。
第7.周知事項について
甲第3号証から甲第6号証に示されるように、工作機械の主軸装置の分野で、主軸内に設けた内側の供給管とその外側の供給路とを通じて別の流体を個別に供給する際に、内側の供給管と主軸とを同体に回転させることは、周知事項である。
第8.対比
(1)本件発明1について
本件発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、後者の「回転スピンドル」が前者の「主軸」に、後者の「圧縮空気」が前者の「気体」に、後者の「潤滑液」が前者の「液体」に、後者の「噴霧」が前者の「ミスト」に、相当する。
そして、甲第2号証記載の発明の「供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させる」機構は、被請求人も訂正請求とみなされた平成19年2月9日付け審判請求書の第15頁第15?17行で認めているとおり「ミスト発生装置」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「主軸内へ気体と液体を同時かつ別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を設けた工作機械の主軸装置」
<相違点1>
本件発明1は、ミスト発生装置が「主軸の先端部或いは工具ホルダ内」に設けられているのに対し、甲第2号証記載の発明においては、「工具内」に設けられている点。
<相違点2>
本件発明1は、「二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転する」のに対して、甲第2号証記載の発明は、そうではない点。
<相違点3>
本件発明1は、「液体が液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されて、液体と気体が混合される」のに対して、甲第2号証記載の発明は、そうではない点。
第9.当審の判断
上記相違点1?3について、以下検討する。
(1)相違点1について
甲第2号証記載の発明においては、「パイプの出口端部」が、工具(シャフト状フライス10)の内部の中央ボア孔(22)に位置し、そのために、細いパイプ19がスピンドル2から突出する位置まで延びている。そして、中央ボア孔(22)の内側で、パイプ(19)の外側を流れている圧縮空気の流れが、パイプ(19)を通して流れる潤滑液を細かな噴霧とする。
この構成では、ミスト発生のための機構が、工具の中央ボア孔(22)と、パイプ(19)からなっているのであるから、工具そのものが、その中央ボア孔がパイプを通し、更に必要な量の圧縮空気を流すことのできるというような、ミスト発生のための専用の形状を採らざるを得ないことは明らかである。
しかしながら、切削液通路を備えただけの通常の形状の工具を用いるというような要求は一般的なものであるから、この要求に応えるならば、ミスト発生のための機構を、工具内に設けることはできなくなり、工具の手前、つまり「主軸の先端部或いは工具ホルダ内」に設けるざるを得ないのは、当然である。
してみれば、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、当業者が適宜採用できた設計的事項である。
この点について、被請求人は、第二答弁書第14頁において「イ しかし、訂正請求書においても述べたとおり、甲2発明においては、長い工具であっても切削が行われている領域で潤滑及び冷却が行われるようにするという課題を解決するための手段そのものが、噴霧の発生部位を「工具の出口の直ぐ上流側」となるようにすることなのであるから、甲2発明における課題の解決手段は、加工部から最も遠い場所である「主軸の先端部或いは工具ホルダ内」にミスト発生機構を設けるという本件訂正発明とは、正に反対の方向性(teaching away)というべきものである。このような課題解決手段の方向性の違いからすれば、甲2発明におけるミスト発生装置の場所を「主軸の先端部或いは工具ホルダ内」に変更することについては阻害要因があるというべきであるから、甲2発明を端緒として、進歩性欠如の理由を構成することは本来不可能というべきである。」と主張している。しかしながら、「加工部から最も遠い場所」とは、本件明細書の段落【0008】、及び、図4に従来技術として記載のような、主軸の後端を意味するものと考えるのが自然であり、本件発明1が、この従来技術における気体と切削油が分離してしまうという課題を、加工部に近い場所でミストを発生させることで解決したのは、甲第2号証記載の発明と同一の方向性というべきであるから、この点に阻害要因があるとはいえない。
(2)相違点2について
甲第3号証から甲第6号証に示されるように、工作機械の主軸装置の分野で、主軸内に設けた内側の供給管とその外側の供給路とを通じて別の流体を個別に供給する際に、内側の供給管と主軸とを同体に回転させることは周知事項である。
そして、供給管が主軸と同体に回転するなら、その供給管の先端に設けられた液体供給孔も同様に主軸と同体に回転するのは明らかである。
してみれば、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、上記周知事項を、甲第2号証記載の発明に適用することにより、当業者が容易に発明をすることができた事項である。
被請求人は、相違点2に関連して認定するべき周知技術は、本件発明と同様にミスト発生機構を有する主軸装置に関するものでなくてはならないところ、甲第3?6号証のいずれにも上記ミスト発生機構を有する主軸装置に関する記載は一切ないと主張している。
しかしながら、甲第3?6号証は、工作機械の主軸装置という甲第2号証記載の発明と共通の分野で、「主軸内に設けた内側の供給管とその外側の供給路とを通じて別の流体を個別に供給する場合に、内側の供給管と主軸とを同体に回転させること」が周知事項であることを示すものであり、上記周知事項を組み合わせるに当たっては、この周知事項がミスト発生機構を有する主軸装置に関するか否かは必須の事項ではない。
また、被請求人は、甲第2号証記載の発明における供給パイプは非常に細くて長いパイプであるから、単に主軸と同体として長い自由端を有したまま回転させたら振動、ぶれ、撓みなどの問題が生じ、甲第2号証記載の発明においては供給パイプを主軸と同体に回転させることはあり得ないと解釈するのが技術常識に即した理解であると主張している。
この点についても、長い自由端を有したまま回転させること自体、むしろ技術常識からあり得ず、甲第2号証記載の発明に上記周知事項を適用するに当たり、振動、ぶれ、撓みなどの問題が生じないような手段を講じることは当業者が当然考慮すべき事項にすぎないというべきである。
(3)相違点3について
甲第2号証には、「パイプの出口端部(24)から現れるこの潤滑液は、フライス盤の作動中に、パイプ(19)周りで流れていて圧縮空気の配管(17)を介して供給される圧縮空気の流れにより細かく分散され、シャフト状フライス(10)の出口(31)を介して噴霧の形態で切削地点へと供給される。」(訳文第6頁第6?10行)と記載されるとおり、甲第2号証記載の発明では、潤滑液(液体)はパイプの出口端部(液体供給孔)から供給されるとともに、圧縮空気は、円筒状の中空空間(23)から、供給パイプの外周囲の前記中空空間(23)より小径のリング状の通路を経て供給パイプの出口端部(24)の外周から中央ボア(22)に至り、前記パイプの外周囲を経た圧縮空気の流れにより液体と気体が混合される。そして、前記「より小径のリング状の通路」は狭窄部ということができるが、たとえ狭窄部ということができなかったとしても、前記「訂正事項(イ)について」で述べたとおり、ミスト発生装置において、液体供給孔から供給される液体を、液体供給孔の外周囲の狭窄部を経て噴出する気体により混合することは噴霧器等にみられるように従来周知の事項であるから、甲第2号証記載の発明におけるミスト発生装置において、気体が液体供給孔の外周囲の狭窄部を経て噴出されて液体と気体が混合されるように構成することに困難性はない。
しかも、甲第7,8号証に示されるように、ミスト生成の技術分野において、「二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が回転するように構成されており、液体が当該液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されて、液体と気体が混合される」こと
も、当業者に既に知られた事項にすぎない。
してみれば、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、上記周知事項を、甲第2号証記載の発明に適用することにより、当業者が容易に発明をすることができた事項である。
なお、被請求人は、甲第2号証には「狭窄部を経て噴出させる」という構成が記載されておらず、また、甲第2号証記載の発明では、加工部位に極めて近い位置で細いパイプによって潤滑液が供給されるものであるところ、潤滑液を噴霧状態とし近接する加工部位に到達させるためには一時的に噴霧状態にできる程度の圧縮空気との接触があればよく「狭窄部を経て噴出させる」ような機構は不要であると主張している。
この点について、甲第2号証記載の発明では、圧縮空気は、円筒状の中空空間(23)から、供給パイプの外周囲の前記中空空間(23)より小径のリング状の通路を経て供給パイプの出口端部(24)の外周囲から中央ボア(22)に至るものである。このような、より小径の通路を空気が通過する際に流速が増加することは技術常識から明らかであるから、前記供給パイプの外周囲を経た圧縮空気の流れが「噴出させる」ものではないということはできない。そして、上述のとおり、前記「より小径のリング状の通路」が、たとえ狭窄部ということができなかったとしても、ミスト発生装置において、液体供給孔から供給される液体を、液体供給孔の外周囲の狭窄部を経て噴出する気体により混合することは従来周知の事項であるから、狭窄部を経て噴出させるように構成することに困難性はない。また、甲第2号証においても噴霧状態を良好にすることは当然考慮すべき課題であるから、「狭窄部を経て噴出させる」ような機構が不要であるということはできない。
(4)相違点2,3に関する被請求人の主張について
被請求人は、上記第5.に示したように、本件発明1の甲第2号証記載の発明との比較において、相違点は、相違点(イ)(ロ)の2点であり、これに基づいて本件発明1の進歩性を論じている。
被請求人の示す相違点(イ)は、第8.対比における相違点1であり、相違点(ロ)は、同相違点2と相違点3を合わせたものである。
しかしながら、上記(2),(3)で述べたように、相違点2,3はいずれも周知事項であって、これらを組み合わせた点にも困難性はないから、相違点2,3を合わせて1つの相違点として論じても、結論に違いはない。
(5)作用効果について
本件発明1の作用効果は、甲第2号証記載の発明及び上記周知事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。
(6)まとめ
したがって、本件発明1は、甲第2号証記載の発明、及び、上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第9.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
工作機械の主軸装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸内へ気体と液体を同時かつ別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けた工作機械の主軸装置であって、前記二系統の供給路のうち内側の液体用供給路を形成する供給管及びその先端部に設けられた液体供給孔が主軸と同体に回転するように構成されており、液体が当該液体供給孔から供給されるとともに、気体が該液体供給孔の外周囲に設けられた狭窄部を経て噴出されて、液体と気体が混合されるように構成されていることを特徴とする工作機械の主軸装置。
【請求項2】
主軸内へ気体と液体を別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置において、気体の供給路とミスト発生装置のミスト噴出側空間とを連通させるためのバイパス通路を設けると共にこの通路の途中にはミスト発生装置の発生したミストが一定圧以下であるときに開放状態に保持される開閉弁機構を設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置。
【請求項3】
主軸内へ気体と液体を別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置において、液体の供給路の末端部であるミスト発生装置の直前箇所に液体が一定圧以下であるときに閉鎖状態に保持される止め弁を設けたことを特徴とする工作機械の主軸装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、主軸内にミスト発生装置を設けたものとした工作機械の主軸装置に関する。
【0002】
【従来の技術】工作機械による加工では被加工物や刃物の冷却及び潤滑、又は切屑の除去などのため加工部に切削液を多量に供給しているが、これによるときは切削液による環境汚染や人体の健康への悪影響、切削液の廃油処理に伴う大きなコスト、被加工物の過冷却による刃物寿命の低下、又は切削油過多による刃物の微細切込み加工時の滑り摩耗などの問題があるほか、加工時に多量の切削油が切屑に付着するため、切屑の処理や再利用のさい、これに付着した切削油を分離することが必要となるが、この処理に大きなコストがかかるなどの問題がある。
【0003】これらの問題を解決するため、近年では極微量の切削液をミスト状にして加工部へ供給することが行われている。
【0004】具体的には例えば図1及び図2に示すように主軸1先端に固定された刃物2の近傍に付設したミスト供給管3を通じることにより、刃物2の近傍位置から加工部へ向けて切削油のミストmを噴射するようになされている。このさい、4は主軸1から離れて設けられたミスト発生供給装置、5は主軸1を回転自在に包囲したヘッド部材、6は主軸1に回転を入力するためのプーリ、7は工具ホルダ8を固定解放するためのドローバー9を押引き変位させるための駆動装置、そしてwは被加工物である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】既述した図1及び図2に示す従来手段では、例えば穴加工のように加工部が被加工物wの比較的深い位置となる場合、ミストmが被加工物wや刃物2或いは切屑などに遮られて加工部まで十分に侵入することができなくなる。このため、加工部の冷却や潤滑が十分に行われないのであり、その程度によっては単に効率的な加工が行えないことに留まらず、加工が不可能となってしまうのである。
【0006】これを解消する試みとして図3に示すように工具ホルダ8の周囲に設けられたミスト供給路手段10の入口10aからミストmを供給し、このミストmを刃物2の軸芯に形成された通路2aを経て加工部まで供給することが考えられる。
【0007】しかし、これによるときは工具ホルダ8及び刃物2が加工中に主軸1と同体に回転されるため、入口10aから供給されたミストmは同ホルダ8の半径方向通路8a内を外側から回転中心へ向けて流れるさいに遠心力を受け、これに影響されて安定した濃度で加工部へ供給されるものとならない。即ち、工具ホルダ8内に達したミストmは当初は気体と切削油が均一に混合した状態のものとなっているが、通路8a内を通過中に、比重の大きい切削油は半径方向外側に、そしてそれの小さい気体は半径方向内側に偏し、気体と液体が分離された状態のものとなってしまうのであり、したがって切削油の過少な状態のミストとそれの過多な状態のミストが不規則的に供給されることが生じるのである。
【0008】また別の試みとして図4に示すように主軸1後部に流体通路の回転継手11を設け、これの入口11aからミストmを供給し、このミストmを主軸1、工具ホルダ8及び刃物2に形成された通路1a、8b、2aを経て加工部へ供給することが考えられる。
【0009】しかし、これによるときも主軸1、工具ホルダ8及び刃物2は加工中に回転されるため、主軸1内へ供給されたミストmは主軸1後部から刃具2先端までの長い通路1a、8b、2aを通過中に遠心力を受けて、やはり前述したと同様に気体と切削油が分離した状態のものに変化され、同様な問題が生じるのである。
【0010】上記したように被加工物wの比較的深い箇所へミストmを効果的に供給することは、従来に存在する装置へ単にミストを供給するということだけでは達成することができないのであり、これを実現させるための装置が望まれる。本発明は斯かる要望に応え得る工作機械の主軸装置を提供することを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明においては主軸内へ気体と液体を別々に供給するための二系統の供給路を設けると共に、これら供給路を通じて供給された気体と液体を混合させてミストを噴出させるためのミスト発生装置を主軸の先端部内或いは工具ホルダ内に設けたものとなす。
【0012】この発明においてミスト必要量の大小に拘らず使用できるようにするには、気体の供給路とミスト発生装置のミスト噴出側空間とを連通させるためのバイパス通路を設けると共にこの通路の途中にはミスト発生装置の発生したミストが一定圧以下であるときのみ開放状態に保持される開閉弁機構を設ける。
【0013】またミストの供給を停止したような場合にミスト発生装置から液垂れが生じないようにするには、液体の供給路の末端部であるミスト発生装置の直前箇所に液体が一定圧以下であるときに閉鎖状態に保持される止め弁を設ける。
【0014】
【発明の実施の形態】以下の説明で示される図において、既述したものと実質的に同一の部位には同一の符号を付すものとする。
【0015】先ず第一の実施形態を説明すると、図5は工作機械の主軸ヘッド部の縦断面図である。
【0016】図に示すように主軸1の内孔1a内に内管12が同心状に設けてあり、内孔1a内は図6に示すように内管12壁面を境として外側通路s1と内側通路s2との二系統に区分されている。そして外側通路s1は気体の供給路となされ、内側通路s2は切削液の供給路となされている。
【0017】主軸1の後部には流体通路の回転継手11Aが固定してあって、具体的には次のようになされている。
【0018】即ち、主軸1の後端面に段付軸筒部材13を延長状に螺着して、これの上部細径部13aにベアリング14a、14bを介して外筒部材15を嵌装すると共に、この外筒部材15には中間筒部材16及び蓋部材17を固定する。軸筒部材13の内孔13b内にはこれと同心に内管部材18をボルト固定し、この内管18壁面の外側の通路s3は切欠部18cを経て前記供給路s1と連通させ、また内側の通路s4は内管部材18の下端に前記内管12の上端を接続させることにより前記供給路s2と連通させる。中間部材16の内孔16aには摺動筒部材19をOリング20による液密状に嵌挿し、この摺動筒部材19は鍔部19aを有し、これの前面に摺接リング体21を固定すると共に中間部材16に固定された案内棒22を介して主軸1方向の出入り自在となし且つスプリング23に主軸1側へ押圧させたものとなす。そして軸筒部材13の細径部13aの上端面にも前記摺接リング体21の圧接するものとした摺接リング体24を固定する。さらに蓋部材17の内孔17aにもOリング25、案内棒26及びスプリング27を介して比較的小さな摺動筒部材28を前記摺動筒部材19に準じた作動の得られるように嵌挿し、これの鍔部28aの前面に摺接リング体29を固定し、また前記内管部材18の上端面にも前記摺接リング体29の圧接するものとなる摺接リング体30を固定する。31は中間部材16の内孔16aに気体を供給するための供給口で、32は蓋部材17の内孔17a内に切削液を供給するための供給口である。
【0019】この回転継手11Aにおいて外筒部材15、中間部材16及び蓋部材17は非回転状態に支持され、段付軸筒部材13及び内管部材18は主軸1と同体に回転されるものとなされる。
【0020】そして、その作動中は、摺接リング体21と摺接リング体24とが圧接状態かつ液密状態で相対回転され、同時に摺接リング体29と摺接リング体30とが同様の状態で相対回転される。このため主軸1の回転状態下であっても、供給口31から供給された気体は摺動筒部材19の内孔及び軸筒部材13の内孔13bを経て供給路s1内に達し、また供給口32から供給された切削液は摺動筒部材28の内孔及び内管部材18の通路s4を経て他方の供給路s2内に達する。
【0021】主軸1の先端中心部内にはミスト発生装置33が設けてあって、具体的には次のようになされている。
【0022】即ち、図7に示すように主軸1の内孔1aの先端に連続して幾分直径の拡大された案内孔1bを形成し、これの内方に摺動筒部材34を主軸1方向の変位自在に嵌挿する。この摺動筒部材34の外周面の細径部には圧縮スプリング35を外嵌し、これの一端を工具ホルダ8の上端面に支持させることにより摺動筒部材34をスプリング35の弾力で上方へ押圧させる。一方、内孔1aの先端にはノズル前部材36を嵌挿すると共に、この部材36に嵌合固定されたノズル後部材37は内管12の先端に固定させる。そしてノズル前部材36は先部外周面36aを円錐面となすと共に本体外周面に主軸方向の通路s5を形成すべく本体部断面を図8に示すような概ね三角形となし、中心部には図9に示すように段付状の中心孔36bを設け、この中心孔36bの先側と前記通路s5とを連通させるための連絡路s6を形成し、さらに肉厚部内には中心孔36bを内孔1a周面内に解放するのと同時に連絡路p2に連通する小孔通路pを設けたものとなす。またノズル後部材37は細径部37aをノズル前部材36の中心孔36bに内嵌固定させ、中心部には内孔37bを設け、この内孔37bの上端を供給路s2に連通させると共に、先端小径突出部37cを中心孔36bの中央小径部に同心状に位置させてこの突出部37cの外周囲に通路の形成されるようになすほか、内孔37bと前記小孔通路pとを連通させるための連絡路p2を形成したものとなす。
【0023】工具ホルダ8は主軸1にボルト固定されており、同ホルダ8の上端面の中心部にはこれの中心通路8bと連続され前記案内孔1bに対応したものとなされた案内孔8b1を設け、この案内孔8b1に摺動筒部材34の下部を主軸1方向の変位自在に嵌挿させている。刃物2の通路2aは先端を複数に分岐され、各切刃2bの存在箇所に開口されている。
【0024】上記の如く構成した本発明装置の使用例及びその作動を説明する。装置が作動状態となされると、図示しないモータの回転がプーリ6を経て主軸1に伝達され、また外部の気体供給ラインから供給口31を通じて気体が、そして外部の切削油供給ラインから他の供給口32を通じて切削油が供給される。
【0025】これにより、気体は回転継手11Aの気体通路及び供給路s1を経た後、連絡路s6を通じて先端小径突出部37cの外周囲から中心孔36bの先部内方に噴出され、また切削油は回転継手11Aの切削油通路及び供給路s2を経た後、内孔37bを通じて先端小径突出部37cの中心部から同じくノズル前部材36の中心孔36bの先部内方に噴出される。
【0026】このように噴出された気体と切削油は前記中心孔36b内で激しく攪拌混合されて切削油のミストmとなされる。
【0027】このさい、刃物2のサイズが比較的小さいなどのため通路2a内のミストmの圧力がスプリング35の弾力などに関連した一定圧力よりも大きく保持されているとすると、この圧力は摺動筒部材34の先端面34aなどに作用してこの部材を主軸1の後側へ押圧するため、この部材34の内孔の上端開口はこのミスト圧による押圧力とスプリング35の押圧力によりノズル前部材36の先部外周面36aに押し付けられるものとなり、かくして摺動筒部材34は図9に示す状態を保持される。
【0028】したがってミスト発生装置33で生成されたミストmはそのまま摺動筒部材34の内孔を経た後、工具ホルダ8及び刃物2の通路2aを通じて切刃2b近傍から噴出される。
【0029】この状態の下で主軸ヘッド部が必要に応じ降下移動され、刃物2が被加工物wを切削加工するものとなるのであり、この加工が進むと、切刃2bは被加工物wの深い箇所で作用するが、この場合もミストmは直接的に切刃2b部分に供給されるため、その供給が切屑などに遮蔽されることは生じず、加工部を十分に潤滑及び冷却することができ、所要の作用を奏するのである。
【0030】一方、刃物2のサイズが比較的大きいような場合で通路2a内のミストmの圧力が一定圧力よりも小さくなったとすると、この圧力が摺動筒部材34の先端面34aなどに作用することに基づいてこの部材34を主軸1の後側へ押圧するものとなる力が小さくなるため、ノズル前部材36の通路s5を通じて摺動筒部材34の後端面34bに作用する気体の圧力に基づく刃物2側への力がスプリング35の力に抗して同部材34を図7に示すように刃物2側へ変位させるものとなる。
【0031】これにより摺動筒部材34の内孔の上端開口とノズル前部材36の先部外周面36aとが離れ、供給路s1とミスト発生装置33のミスト噴出側空間(摺動筒部材34の内孔内)とが連通される。
【0032】したがって供給路s1内の気体は通路s5及び案内孔1bの上部を経た後、摺動筒部材34の内孔の上端開口とノズル前部材36の先部外周面36aとの間を通じて摺動筒部材34の内孔内へ直接的に流れ込むものとなる。即ち本態様では通路s5及び案内孔1bの上部が供給路と摺動筒部材34の内孔とを連通させるバイパス通路として機能し、また摺動筒部材34の内孔の上端開口とノズル前部材36の先部外周面36aとが気体の流動を制御するものとなる開閉弁として機能する。
【0033】かつして通路2a内を流れる気体の量が増大され、ミストmは圧力低下を補われて加工部へ効果的に供給され所要の効果を奏するのである。
【0034】上記実施態様においてミスト発生装置33及び摺動筒部材34は図10に示すように工具ホルダ8の内方に設けることもできる。
【0035】また既述した摺動筒部材34及びこれに関連したスプリング35などは図11に示すように省略することも差し支えない。
【0036】図12は上記実施態様を改良したものの要部を示す縦断面図である。このものでは同図に示すようにノズル後部材37の上部に細径部37dが形成してあり、ここに所要の止め弁38を設けるのであって、具体的には次のようなものとなされる。即ち、細径部37dの内孔内に圧縮スプリング39を装着すると共にこのスプリング39の弾力に抗して下方へ変位されるものとしたボール40を存在させる。また細径部37dにはボール40の密接により供給路s2を閉塞するものとした筒部材41を嵌着する。細径部37dは内管12の下端に嵌着する。
【0037】この改良品の作用を説明すると、切削油の非供給状態ではボール40はスプリング39の力により同図に示すように筒部材41の下端に密接され、供給路s2を閉塞した状態となる。一方、切削油が供給されると、ボール40はその圧力で図13に示すように下方へ変位され、切削油はボール40の周囲やスプリング39の存在箇所を経てノズル後部材37の内孔37bの先方へ供給される。
【0038】この供給中、切削油の供給が断たれるとボール40はスプリング39の力で直ちに図12に示す状態に復して供給路s2を閉塞する。
【0039】かくして切削油は必要時には支障なく供給され、不必要時には供給路s2内の残液が漏出することなく直ちに停止されるものとなる。このさい、止め弁38がミスト発生装置33の近傍に設けてあることは液垂れ防止を一層確実にする。
【0040】次に第二の実施態様を説明すると、図14は主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【0041】図に示すように主軸1の先端には自動工具交換装置などで脱着される工具ホルダ8がテーパシャンク部8cを介して嵌着されている。
【0042】工具ホルダ8の通路8bはプルスタッド8dの後端から刃物2装着部に至るものとなされている。
【0043】42は主軸1の後端面にボルト固定されたシリンダ係止部材、43は主軸1の内孔1aの先端に内嵌された案内筒部材であり、また44は先端膨大部44aが前記部材43内に摺動変位自在に内挿されたドローバーである。
【0044】ドローバー44の後端部には鍔部45aを具備した延長棒45が連結固定され、この延長棒45にリング部材46が外嵌状に固定されると共にこのリング部材46の後端面にスラスト受け部材47が延長状にボルト固定されている。
【0045】48はスラスト受け部材47に嵌着されたベアリング49などを介して延長棒46の外周囲にその中心線廻りの回転自在に装着されてなるピストン支持筒であり、これの周囲に段付ピストン50が固定されている。
【0046】51はピストン50を包囲したシリンダ部材で上面には円環状のシリンダカバ52を、そして下端面には前記シリンダ係止部材42で主軸1方向変位を係止されるものとした係止リング部材53をボルト固定したものとなされている。このさい51a及び51bは圧力流体の出入り口である。
【0047】54は皿バネであって案内筒部材43の上端と延長棒45の鍔部45aとの間に圧縮状に段重ねされている。
【0048】55はドローバー44の先端に固定された段付のクランプ部材支持筒で、これの外周面には案内筒部材43の内周面に案内されるクランプ部材56を係合状に装着してある。
【0049】しかして、ドローバー44の中心孔、延長棒45及びスラスト受け部材47の中心孔内に内管12を設け、この内管12の壁面の外側と内側を前述の供給路s1、s2に対応した供給路となし、またクランプ部材支持筒55の中心孔内にミスト発生装置33や摺動筒部材34及びこれらの関連部品を装設するほか、先の実施態様のものと同様に回転継手11Aとミスト発生装置33を気体の供給路と液体の供給路とで結合している。
【0050】上記した態様の装置においてもミストmは第一の実施態様のものと同様に刃物2の先端から噴出され、所要の作用を奏するものとなる。
【0051】そして切削油の供給が停止された状態の下で、工具ホルダ8の脱着を行うようにする。
【0052】このさい一方の出入り口51aに圧力流体が供給されると、ピストン50及びドローバー44が主軸1先端側へ移動され、クランプ部材支持筒55が工具ホルダ8を押し出すと同時にクランプ部材56がプルスタッド8dを解放するものとなり、工具ホルダ8は主軸1から分離される。
【0053】逆に他方の出入り口51bに圧力流体が供給されると、各部が上記とは逆に作動し、クランプ部材56が自動工具交換装置などにより主軸1先端に挿入操作された工具ホルダ8のプルスタッド8dを把握して引き込むものとなり、工具ホルダ8は図14に示すように主軸1に強固に固定される。
【0054】上記実施態様は図15に示すように変形することができるのであって、即ちスラスト受け部材47を上方に延長してこれにモータ57の回転軸58の下端を連結し、同回転軸58の上端に延長部材59を介して回転継手11Aの軸筒部材13を固定する。このさい回転軸58などの中心部にも回転継手11Aとミスト発生装置33とを連結するための前記供給路s1、s2に対応した供給路を設ける。
【0055】このものによってもミストmは先の各態様のものと同様に被加工物wの加工部に供給されるものとなり、また主軸1は回転軸58と同体に回転される。
【0056】
【付記事項】本明細書の全図において実質的同一部位には同一符号を付して説明の簡略化を図っている。
【0057】
【発明の効果】上記の如く構成した本発明によれば、被加工物の比較的深い箇所を加工する場合にも加工部へ十分なミストを供給することができ、ミスト供給による加工法の利点を支障なく得ることのできるものである。
【0058】請求項2に記載のものよれば、刃物のサイズが大きいことなどに起因して刃物内の通路におけるミストの圧力が低くなるような場合に、気体がその供給路からバイパス通路を経て自動的にミスト発生装置のミスト噴出側に直接的に供給されるため、刃物内の通路のミストの流れが増強され、加工部に十分なミストを供給することができるものとなる。
【0059】請求項3に記載のものによれば、ミストの供給を停止させるべく主軸への切削油の供給を断ったとき直ちにミスト発生装置への切削油の供給が断たれ、その後に供給路内などの残油が刃物から垂れるのを効果的に防止し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の工作機械の主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【図2】他の従来例に係る主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【図3】他の従来例に係る主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【図4】さらに他の従来例に係る主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【図5】本発明の第一実施態様に係る主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【図6】同態様の主軸ヘッド部の上部を示す拡大縦断面図である。
【図7】同態様の主軸ヘッド部の下部を示す拡大縦断面図である。
【図8】図7の主軸の中心部を示し、(a)はx-x部断面図、(b)はx1-x1部断面図、そして(c)はx2-x2部断面図である。
【図9】同態様のミスト発生装置の周辺を示す縦断面図である。
【図10】同態様の変形例に係る主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【図11】同態様の変形例に係る主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【図12】同態様の改良例に係る要部を示す縦断面図である。
【図13】同改良例の作動を説明するための縦断面図である。
【図14】本発明の第二実施態様に係る主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【図15】同態様の変形例に係る主軸ヘッド部を示す縦断面図である。
【符号の説明】
m ミスト
s1 気体の供給路
s2 切削液の供給路
s5及び1b バイバス通路
8 工具ホルダ
33 ミスト発生装置
34及び36a 開閉弁
38 止め弁
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-06-11 
結審通知日 2009-06-16 
審決日 2009-06-29 
出願番号 特願平7-259174
審決分類 P 1 123・ 121- Y (B23Q)
P 1 123・ 113- Y (B23Q)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 千葉 成就
尾家 英樹
登録日 1997-08-22 
登録番号 特許第2687110号(P2687110)
発明の名称 工作機械の主軸装置  
代理人 井口 司  
代理人 鶴田 準一  
代理人 岩永 利彦  
代理人 西山 雅也  
代理人 内田 公志  
代理人 三橋 真二  
代理人 松島 淳也  
代理人 松島 淳也  
代理人 青木 篤  
代理人 井口 司  
代理人 島田 哲郎  
代理人 内田 公志  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 長沢 幸男  
代理人 加藤 志麻子  
代理人 岩永 利彦  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 長沢 幸男  
代理人 加藤 志麻子  

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