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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09K 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C09K |
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管理番号 | 1211642 |
審判番号 | 不服2007-5288 |
総通号数 | 124 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-02-19 |
確定日 | 2010-02-12 |
事件の表示 | 平成11年特許願第64407号「光誘起相転移有機材料」拒絶査定不服審判事件〔平成12年9月19日出願公開、特開2000-256663〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成11年3月11日の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。 平成18年6月26日付け 拒絶理由通知書 平成18年8月30日 意見書・手続補正書 平成19年1月17日付け 拒絶査定 平成19年2月19日 審判請求書 平成19年3月13日 手続補正書 平成19年5月18日 手続補正書(方式) 平成20年3月24日付け 前置報告書 平成21年5月18日付け 審尋 平成21年7月13日 回答書 第2 平成19年3月13日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成19年3月13日付け手続補正を却下する。 [理由] 1.平成19年3月13日付け手続補正の内容 平成19年3月13日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲である平成18年8月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の 「【請求項1】 結晶状態においてフォトクロミック反応するジヘテロアリールエテン系化合物よりなる光誘起相転移有機材料であって、該ジヘテロアリールエテン系化合物が、下記構造式[II]で表される1,2-ビス(5-フェニル-2-メチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテン、又は下記構造式[III]で表される1,2-ビス(2,5-ジメチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテンであることを特徴とする光誘起相転移有機材料。 【化1】 」 を 「【請求項1】 結晶状態においてフォトクロミック反応するジヘテロアリールエテン系化合物よりなる光誘起相転移有機材料であって、該ジヘテロアリールエテン系化合物が、下記構造式[II]で表される1,2-ビス(5-フェニル-2-メチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテン、又は下記構造式[III]で表される1,2-ビス(2,5-ジメチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテンであり、光照射により、結晶状態の開環体から結晶状態の閉環体に変わる途中、或いは、結晶状態の閉環体から結晶状態の開環体に変わる途中で液相状態を経ることを特徴とする光誘起相転移有機材料。 【化1】 」 とする補正を含むものである。 2.特許法第17条の2第4項に規定する要件について 上記請求項1についての補正は、「光照射により、結晶状態の開環体から結晶状態の閉環体に変わる途中、或いは、結晶状態の閉環体から結晶状態の開環体に変わる途中で液相状態を経る」ことを発明を特定するために必要な事項として追加するものである。 しかしながら、上記「光照射により、結晶状態の開環体から結晶状態の閉環体に変わる途中、或いは、結晶状態の閉環体から結晶状態の開環体に変わる途中で液相状態を経る」ことは、「光誘起相転移有機材料」の性質を示すものであるから、上記事項を追加することによって、「光誘起相転移有機材料」が限定され、特許請求の範囲が減縮されるものではない。 そうすると、上記請求項1についての補正は、本件補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項である「光誘起相転移有機材料」を限定し、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。 よって、上記請求項1についての補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げられた「特許請求の範囲の限縮」を目的とするものではなく、また、同項第1号に掲げられた「請求項の削除」、第3号に掲げられた「誤記の訂正」、第4号に掲げられた「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的とするものでもない。 したがって、上記請求項1についての補正は、同法第17条の2第4項の規定に違反するものである。 3.まとめ 上記のとおり、上記請求項1についての補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、その余の補正を検討するまでもなく、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成19年3月13日付け手続補正(本件補正)は上記のとおり却下されたから、この出願の発明は、平成18年8月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、下記のとおりのものである。 「結晶状態においてフォトクロミック反応するジヘテロアリールエテン系化合物よりなる光誘起相転移有機材料であって、該ジヘテロアリールエテン系化合物が、下記構造式[II]で表される1,2-ビス(5-フェニル-2-メチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテン、又は下記構造式[III]で表される1,2-ビス(2,5-ジメチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテンであることを特徴とする光誘起相転移有機材料。 【化1】 」 2.原査定の理由 原査定は、「この出願については、平成18年6月26日付け拒絶理由通知書に記載した理由 1-3 によって、拒絶をすべきものである。」というものであって、その理由1は、「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」というものである。 そして、その「下記の刊行物」のうちの一つは、特開平10-251630号公報(以下、「刊行物A」という。原査定における「引用例(2)」と同じ。)である。 3.刊行物Aの記載事項 刊行物Aには、以下の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 ヘテロ5員環をアリール部にもつジアリールエテンからなる可視域透明微結晶性フォトクロミック材料。」(特許請求の範囲) (イ)「フォトクロミック材料とは、光の作用により状態の異なる2つの異性体を可逆的に生成する分子または分子集合体を含む材料を言う。」(段落【0002】) (ウ)「【発明の実施の形態】次に本発明を詳しく説明する。フランあるいはチオフェン環などの芳香族性の小さいヘテロ5員環をアリール基としてもつジアリールエテンは、熱不可逆フォトクロミック反応性を示す。多くのジアリールエテンは、結晶状態においてフォトクロミック反応性を示さないが、下記のジアリールエテンは結晶状態においてもフォトクロミック反応性を示す。 【化2】 」(段落【0006】?【0007】) (エ)「実施例1 下記のジアリールエテン(3)をエタノールに溶解(1×10^(-2)M)し、その溶液0.1mlを、強力に撹拌した水10mlにマイクロ注射器を用いて注入した。その後、それぞれを(1)(審決注:○の中に1。)そのまま(図1)、(2)(審決注:○の中に2)1.0μmフィルター透過後(図2)および(3)(審決注:○の中に3)0.2μmフィルター透過後(図3)の水溶液の吸収スペクトルを測定した。吸収スペクトルは、紫外光照射前(実線)および紫外光照射後(点線)に測定した。 【化3】 」(段落【0011】?【0012】) (オ)「実施例2 可視域透明性微結晶のフォトクロミック反応性をヘキサン溶液系と比較した。実施例1と同様の化合物のヘキサン溶液中のフォトクロミック反応に伴う吸収スペクトル変化(図4)と、微結晶状態での変化(図5)とを示す。両者は、同様のスペクトル変化を示した。閉環反応および開環反応の量子収率をヘキサン中と微結晶で比較した。」(段落【0014】) (カ)「実施例4 化合物(1)、(2)、(4)、(5)についても、実施例1と同様に水中において可視域透明性微結晶を作製した所、いずれもヘキサン溶液中と同様のフォトクロミック反応性を示した。また、ポリビニルアルコールへ、実施例3同様に分散させた所、同様のフォトクロミック反応性を示した。」(段落【0018】) 4.当審の判断 (1)刊行物Aに記載された発明 刊行物Aには、「ヘテロ5員環をアリール部にもつジアリールエテンからなる可視域透明微結晶性フォトクロミック材料」が記載されており(摘記(ア))、上記ジアリールエテンは「結晶状態においてもフォトクロミック反応性を示す」ものであって(摘記(ウ))、具体的には、 が記載されている(摘記(ウ)、(エ)、(カ)におけるジアリールエテン(1)と(3))。 そうすると、刊行物Aには、 「結晶状態においてもフォトクロミック反応性を示すジアリールエテンからなるフォトクロミック材料であって、上記ジアリールエテンは、ジアリールエテン(1)または(3)であるフォトクロミック材料。 」 の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (2)本願発明と引用発明の対比 本願発明と引用発明を対比すると、引用発明における「ジアリールエテン(1)」と「ジアリールエテン(3)」は、その化学構造式からみて、それぞれ本願発明における「構造式[III]で表される1,2-ビス(2,5-ジメチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテン」と「構造式[II]で表される1,2-ビス(5-フェニル-2-メチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテン」に相当する。 そして、引用発明の「ジアリールエテン」は、ジアリールエテン(1)又は(3)であるところ、上記ジアリールエテン(1)と(3)は、その化学構造式からみて、ジアリール基がジヘテロアリール基であるから、引用発明の「ジアリールエテン」は、本願発明の「ジヘテロアリールエテン系化合物」に相当する。 そうすると、引用発明の「結晶状態においてもフォトクロミック反応性を示すジアリールエテン」は、本願発明の「結晶状態においてフォトクロミック反応するジヘテロアリールエテン系化合物」に相当する。 また、引用発明の「ジアリールエテンからなるフォトクロミック材料」は、ジアリールエテンが有機化合物であることからみて「有機材料」であり、さらに、「フォトクロミック材料」とは、「光の作用」により異性体を生成する材料であるから(摘記(イ))、「フォトクロミック材料」は「光誘起」材料であるといえる。 そうすると、引用発明の「フォトクロミック材料」は、本願発明の「光誘起有機材料」に相当する。 以上によれば、本願発明と引用発明は、 「結晶状態においてフォトクロミック反応するジヘテロアリールエテン系化合物よりなる光誘起有機材料であって、該ジヘテロアリールエテン系化合物が、下記構造式[II]で表される1,2-ビス(5-フェニル-2-メチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテン、又は下記構造式[III]で表される1,2-ビス(2,5-ジメチルチオフェン-3-イル)パーフルオロシクロペンテンであることを特徴とする光誘起有機材料。 【化1】 」 の点で一致し、以下の点で一見相違する(以下、「相違点」という。)。 光誘起有機材料が、本願発明では、「相転移」するものであるのに対し、引用発明は、そのようなものであるか明らかでない点 (3)相違点についての判断 本願発明における「相転移」とは、どのような相からどのような相に転移することを意味しているのか明らかではないが、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないなどの特段の事情がある場合に限っては、発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるものであるから(最高裁昭和62年(行ツ)第3号判決(リパーゼ事件))、本願発明における「相転移」について、この出願の発明の詳細な説明の記載を以下検討する。 この出願の発明の詳細な説明には、本願発明における「相転移」について明確な定義は記載されていないが、段落【0008】には、「この化合物は、紫外線等の光照射により結晶状態のまま開環体と閉環体との間で相転移する。」と記載され、段落【0013】には、「これらのジヘテロアリールエテン系化合物は、紫外線例えば300?400nmの光照射により開環体から閉環体に相転移し、可視光の照射により閉環体から開環体に相転移する。」と記載されていることからみて、本願発明における「相転移」とは、「開環体と閉環体の間の転移」であると認められる。 一方、刊行物Aには、引用発明の「閉環反応および開環反応の量子収率」を測定したことが記載されており(摘記(オ))、「閉環反応および開環反応」とは、「開環体と閉環体の間の転移」、すなわち「相転移」をともなうものであるから、引用発明も「相転移」するものといえる。 そうしてみると、本願発明と引用発明は、いずれも「相転移」する光誘起有機材料であるから、上記相違点は実質的な相違点ではない。 (4)まとめ したがって、本願発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 5.審判請求人の主張について 審判請求人は、平成21年7月13日の回答書の[3](イ)において、 「(イ) 本願発明に係る「光誘起相転移」とは、光照射により単に化合物が「色」を変えることを指すのではなく、その化合物からなる材料の「相(Phase)」が変化すること、換言すると「固体(固相)から液体(液相)へ」、あるいは「固相でも融点の異なった状態へ」など、「異なった相へ転移すること」を意味しています。 …略… このように、本願発明の光誘起相転移有機材料は、光照射により固体(固相)から液体(液相)に可逆的に変化することから、色変化でなく、相変化(固相から液相へ、液相から固相へ)による、屈折率、光透過率の変化、あるいは電気接触のオン・オフ制御等を利用して、光記録や、表示用パネル、センサー、光スイッチ素子など、様々な用途に使用することができます。」と主張している。 しかしながら、「光誘起相転移」の「相転移」とは、「開環体と閉環体の間の転移」であると認められることは、上記4.(3)で述べたとおりである。 また、たとえ「光誘起相転移」が、上記審判請求人主張の意味を有するものであったとしても、該「光誘起相転移」は、「構造式[II]または[III]で表されるジヘテロアリールエテン系化合物よりなる有機材料」の性質であるから、引用発明も、同じジヘテロアリールエテン系化合物からなる有機材料である以上、当然同じ性質を有するものであり、この点において、本願発明と引用発明に差異があるとはいえない。 また、審判請求人は、同回答書の[3](リ)において、 「本願発明は、本願の請求項1に記載される「構造式[II]又は[III]で表される特定のジアリールエテン系化合物」そのものに、その発明が存在するのではなく、「光誘起相転移現象を示す光誘起相転移有機材料」、即ち、「化合物がある状態で存在しているもの、例えば単結晶、粉末結晶形態をした機能性材料」を対象にしたものです。 このような光誘起相転移有機材料は、参考文献1に示されるように、材料としての形態において、化合物からは全く想到されない、質的に異なった材料固有の機能・性能を示すものです。」と主張している。 しかしながら、引用発明も「化合物」の発明ではなく、「有機材料」の発明であることは、上記4.(2)で述べたとおりであり、同じ「有機材料」である以上、審判請求人主張の「光誘起相転移現象を示す光誘起相転移有機材料」と同じように、「光誘起相転移現象を示す」ものであり、また、審判請求人主張の「材料固有の機能・性能を示す」ものであるといえる。 よって、この点において、本願発明と引用発明に差異はない。 さらに、引用発明は、「結晶状態においてもフォトクロミック反応性を示すフォトクロミック材料」、すなわち、結晶形態の材料であるから、審判請求人主張の「化合物がある状態で存在しているもの、例えば単結晶、粉末結晶形態をした機能性材料」に相当し、この点においても、本願発明と引用発明に差異はないというべきである。 したがって、審判請求人の主張はいずれも採用できない。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、この出願は、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-11 |
結審通知日 | 2009-12-15 |
審決日 | 2009-12-28 |
出願番号 | 特願平11-64407 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C09K)
P 1 8・ 57- Z (C09K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 昌広 |
特許庁審判長 |
柳 和子 |
特許庁審判官 |
橋本 栄和 井上 千弥子 |
発明の名称 | 光誘起相転移有機材料 |
代理人 | 重野 剛 |
代理人 | 重野 剛 |