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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01Q
管理番号 1211650
審判番号 不服2007-10496  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-12 
確定日 2010-02-12 
事件の表示 特願2002-112179「多周波数共用アンテナ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月31日出願公開、特開2003-309424〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,平成14年4月15日の出願であって,平成21年8月3日付けの当審拒絶理由通知に対して,平成21年10月5日付け手続補正書により,本願請求項1は,
「地板と,
この地板の上方に間隔をおいて配置された第1周波数用の金属製の第1パッチアンテナ素子と,
第1パッチアンテナ素子の上方に間隔をおいて配置された第2周波数用の金属製の第2パッチアンテナ素子と,
第1パッチアンテナ素子の中央を前記地板に支持し,その第1パッチアンテナ素子への接触面積が小さい第1の導電性筒状のスペーサと,
第2パッチアンテナ素子の中央を第1パッチアンテナ素子に支持し,その第2パッチアンテナ素子への接触面積が小さい第2の導電性筒状のスペーサと,
第1パッチアンテナ素子の給電点に接続された第1給電線と,
第2パッチアンテナ素子の給電点に接続され,第1の導電性筒状のスペーサ内を通過する第2給電線とを,
具備し,第2パッチアンテナ素子の送受信周波数が第1パッチアンテナ素子の送受信周波数よりも1GHz以上隔たっている多周波数共用アンテナ。」(以下,「本願発明」という。)と補正された。

第2 引用発明
1.当審における拒絶理由で引用した,本願出願前公知の特開平2-172306号公報(平成2年7月3日公開,以下「引用文献1」という。)には,以下の事項が記載されている。

「第5図は従来の二周波共用マイクロストリップアレイアンテナの他の例であり,51,53は円形放射素子導体,52,54は誘電体板,57,59は給電線,56は短絡導体,60,61は給電コネクタ,58は円形放射素子導体51を給電するだめの同軸線路である。第4図の構成と同様に,円形放射素子導体51,53の大きさによって決まる二つの共振周波数をもち,それぞれに独立に直接給電ができる。また,この構成は円形放射素子導体51を誘電体板52上で中心よりずらして配置しているため,円形放射素子導体51と誘電体板52からなる上部アンテナのインピーダンス整合がとりやすいという利点を有する。
ところが,第5図の構成では二つの周波数が接近している場合には,放射素子導体51,53の大きさに差があまりなくなり,上部アンテナの円形放射素子導体51が下部アンテナの円形放射素子導体53を塞いでしまい,下部アンテナからの放射ができなくなる。これを避けるためには誘電体板52の誘電率を誘電体板54より大きくして,円形放射素子導体51を小さくすることも可能であるが,誘電体による電力損失が大きくなる。」(第2頁左下欄第9行?同頁右下欄第10行)

・第5図(b)中の「55」は,部位としての名称が記載されていないが,機能的に見て,地導体(5)(33)に相当するものであるから,地導体である。
・上記摘記事項中の「円形放射素子導体(51)」,「円形放射素子導体(53)」を区別するために,それぞれ第1円形放射素子導体,第2円形放射素子導体と称する。また,これらの円形放射素子導体は当然金属製である。さらに,各円形放射素子導体はそれぞれが異なる周波を受け持っているから,それぞれ第1の周波数用,第2の周波数ということもできる。
・摘記事項中の「同軸線路(58)」は,給電線(57)を中心導体とする同軸線路の意で用いられているが,給電線に対しての外側の被覆導体は,その形状からして,導電性筒状体ということができるから,これを,第1の導電性筒状体と称することができる。
・上記摘記事項中の「給電線(59)」,「給電線(57)」を区別するために,それぞれ第1の給電線,第2の給電線と称することができる。

したがって,引用文献1には,以下の発明が開示されている。
「地導体(55)と,
この地導体の上方に間隔をおいて配置された第1周波数用の金属製の第1円形放射素子導体(53)と,
第1の円形放射素子導体(53)の上方に間隔をおいて配置された第2周波数用の金属製の第2円形放射素子導体(51)と,
第1の円形放射素子導体(53)の中央を前記地導体に接続する第1の円形放射素子導体(53)への接触面積が小さい第1の導電性筒状体と,
第2の円形放射素子導体(51)の中央を第1の円形放射素子導体(53)に接続する短絡導体(56)と,
第1の円形放射素子導体(53)の給電点に接続された第1給電線(59)と,
第2の円形放射素子導体(51)の給電点に接続され,第1の導電性筒状体内を通過する第2給電線(57)と,
前記地導体及び前記各円形放射素子導体間に誘電体板を,
具備する二周波数共用マイクロストリップアレイアンテナ。」(以下,「引用発明1」という。)

2.同じく当審における拒絶理由で引用した,本願出願前公知の特開平8-237025号公報(平成8年9月13日公開,以下「引用文献2」という。)には,以下の事項が記載されている。

イ)「【0014】・・・図1は本実施例の一部省略した分解斜視図を示し,図2は本実施例の一部省略したアンテナ構成の断面図を示している。・・・
【0015】金属装荷折り返しモノポールアンテナAは,地導体板1と,装荷板2と,同軸線一体型Nコネクタから成るコネクタ3と,短絡用支柱となる略円筒状のスペーサ4と,ポリカーボネートなどのプラスティック材料で形成されたボルト5及びナット6とを主要構成部材として用いており,パッチアンテナBは,セラミック製の誘電体基板7と,パッチ素子8とを主要構成部材として用いている。」(第3頁第4欄)
ロ)「【0035】(実施例4)図8は本実施例の一部省略した分解斜視図を示し,図9は本実施例の一部省略したアンテナ構成の断面図を示している。ただし,金属装荷折り返しモノポールアンテナAの構成については上記実施例2と共通であるので同一の符号を付して説明は省略する。
【0036】本実施例は,実施例2におけるパッチアンテナBの代わりにスペーサ4内部を貫通させた同軸ケーブル12の先端を金属製の装荷板17の略中心に半田などで固定するとともに,装荷板17と装荷板2との間に略円筒状の金属製のスペーサ18を介装させ,金属装荷折り返しモノポールアンテナAの下面より地導体板1,装荷板2を貫通させたボルト5をこのスペーサ18内部に貫通させ,ボルト5の先端にナット6を締結することにより,地導体板1,装荷板2,装荷板17を一体的に固定してある。
【0037】装荷板17は市販のアルミニウム(0.5mm厚さ)を略直径50mmの円盤状に打抜き加工して形成したもので,中心を通る直線上に2つの孔を所定間隔で開けてあり,中心位置の孔に同軸ケーブル12の先端が接続されて給電され,また,他方の孔からボルト5の先端が貫通させてある。上述のように構成した本実施例では,地導体板1と装荷板2とを有する第1の金属装荷折り返しモノポールアンテナA1と,この第1の金属装荷折り返しモノポールアンテナA1を構成する装荷板2を地導体板として兼用し装荷板2と装荷板17とを有する第2の金属装荷折り返しモノポールアンテナA2とを全体として一体に構成して複合型平面アンテナを実現している。」(第5頁第8欄)

・装荷板(2)(17)はアンテナ素子であり,本願発明でいうパッチアンテナ素子の一種であり,略円筒形の金属スペーサ(4)(18)は導電性筒状のスペーサと表現することもでき,これらのスペーサはアンテナ素子を支持固定すると共に必要に応じて前記スペーサ内に給電線を貫通させている。

したがって,引用文献2には,以下の発明が開示されている。
「導電性筒状のスペーサを用いて,パッチアンテナ素子を地導体や他のパッチアンテナ素子に支持固定すると共に必要に応じて前記スペーサ内に給電線を貫通させるアンテナの支持固定構造。」(以下,「引用発明2」という。)

第3 対比
本願発明と引用発明1を対比検討する。
・「地導体」は地板ともいわれる。
・マイクロストリップアンテナを構成する円形放射素子はパッチアンテナ素子であるから,引用発明1の「第1円形放射素子導体(53)」「第2円形放射素子導体(51)」は,本願発明の「第1パッチアンテナ素子」「第2パッチアンテナ素子」に包含される。
・本願発明の「第2の導電性筒状のスペーサ」は,第2パッチアンテナ素子の中央を第1パッチアンテナ素子に接続する短絡導体である。
・引用発明1の「二周波数共用マイクロストリップアレイアンテナ」は多周波数共用アンテナの一種である。
したがって,両者は,
「地板と,
この地板の上方に間隔をおいて配置された第1周波数用の金属製の第1パッチアンテナ素子と,
第1パッチアンテナ素子の上方に間隔をおいて配置された第2周波数用の金属製の第2パッチアンテナ素子と,
第1パッチアンテナ素子の中央を前記地板に接続する第1パッチアンテナ素子への接触面積が小さい第1の導電性筒状体と,
第2パッチアンテナ素子の中央を第1パッチアンテナ素子に接続する短絡導体と,
第1パッチアンテナ素子の給電点に接続された第1給電線と,
第2パッチアンテナ素子の給電点に接続され,第1の導電性筒状体内を通過する第2給電線とを,
具備する多周波数共用アンテナ。」 で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
「第1パッチアンテナ素子」の支持に関し,本願発明では,第1の導電性筒状体である「第1の導電性筒状のスペーサ」を用いて,「第1パッチアンテナ素子の中央を前記地板に支持」しているが,引用発明1では,「誘電体板」を用いて地板に支持している。
(相違点2)
「第2パッチアンテナ素子」の支持に関し,本願発明では,第2の導電性筒状体である「第2の導電性筒状のスペーサ」を用いて,「第2パッチアンテナ素子の中央を前記第1パッチアンテナ素子に支持」しているが,引用発明1では,「誘電体板」を用いて第1パッチアンテナ素子に支持している。
(相違点3)
本願発明では,「第2パッチアンテナ素子の送受信周波数が第1パッチアンテナ素子の送受信周波数よりも1GHz以上隔たっている」が,引用発明1では,どの程度隔たっているのか不明である。

第4 当審の判断
そこで,まず,上記相違点1,2について検討する。
マイクロストリップアンテナを構成する円形放射素子等のパッチアンテナ素子の支持構造として,プリント回路技術を利用した誘電体板を使用する支持構造と,各アンテナをスペーサ等を使用して支持する支持構造が,最も基本的な手法として広く知られており,使用周波数,求められているアンテナの支持強度,誘電体板の高周波特性に与える影響,製造コスト等の検討に基づいて,使い分けられている。
したがって,引用発明1において,誘電体板による支持構造を,スペーサを使用する支持構造に変更することは,当業者が当然に想起しうることであって,その際,スペーサを使用する支持構造に係る引用発明2を利用する程度のことに格別の困難性はないから,引用発明1中の導電性筒状体を,同様の形状,構造,機能を有する引用発明2の「導電性筒状のスペーサ」で,置き換える程度のことは,容易になし得ることである。したがって,第1の導電性筒状体として「第1の導電性筒状のスペーサ」を用いて,「第1パッチアンテナ素子の中央を前記地板に支持」(相違点1に係る構成)し,第2の導電性筒状体として「第2の導電性筒状のスペーサ」を用いて,「第2パッチアンテナ素子の中央を前記第1パッチアンテナ素子に支持」(相違点2に係る構成)する程度のことは,当業者が容易になし得るものである。
次に,上記相違点3について検討する。
上記「第2 引用発明」の「1.」の引用文献1に関した摘記事項中には,
「ところが,第5図の構成では二つの周波数が接近している場合には,放射素子導体51,53の大きさに差があまりなくなり,上部アンテナの円形放射素子導体51が下部アンテナの円形放射素子導体53を塞いでしまい,下部アンテナからの放射ができなくなる。」と記載されており,アンテナのサイズが送受信周波数に依存するが技術常識であることを考慮すると,「パッチアンテナ素子」間で送受信周波数が隔たっていた方がよいことは記載されているということができる。
一方,本願発明での「1GHz」については,本願の発明の詳細な説明に若干の記述(段落【0004】【0005】【0018】)はあるものの,「望ましい」という程度のもので,特に臨界的意義を有しているものとして記載されていない。また,「1GHz」を境に臨界的意義を有するような変化を奏するものとも考えられない。
したがって,引用発明1において,本願発明のように,「第2パッチアンテナ素子の送受信周波数が第1パッチアンテナ素子の送受信周波数よりも1GHz以上隔たっている」とする程度のことは,単なる数値限定として,適宜なし得るものである。

そして,本願発明の作用・効果も,引用発明1,2に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-04 
結審通知日 2009-12-08 
審決日 2009-12-28 
出願番号 特願2002-112179(P2002-112179)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 圭一郎西脇 博志  
特許庁審判長 山本 春樹
特許庁審判官 柳下 勝幸
新川 圭二
発明の名称 多周波数共用アンテナ  
代理人 木村 正俊  

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