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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F22D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F22D
管理番号 1211675
審判番号 不服2007-27192  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-10-04 
確定日 2010-02-12 
事件の表示 特願2002-156585号「ボイラ装置における復水供給装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年12月 3日出願公開、特開2003-343807号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本件に係る出願(以下「本願」という。)は,平成14年5月30日の特許出願であって,平成19年8月13日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年9月4日),これに対し,平成19年10月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,平成19年11月5日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成19年11月5日付け手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の結論]

平成19年11月5日付け手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

(1)補正後の本願発明

本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,次のように補正された。

「給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と,このボイラ2へ給水を供給する給水部3と,前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5と,前記負荷機器4で使用した蒸気を復水として前記給水部3へ供給する復水供給部6とを備えたボイラ装置1における復水供給装置であって,前記復水供給部6において凝縮された復水の水質を透過光強度により測定する測定装置23と,この測定装置23の測定結果を判定する第一制御装置25と,前記復水供給部6において凝縮された復水の水温を測定する水温測定部59と,この水温測定部59の測定結果を判定する第二制御装置60と,前記第一制御装置25および前記第二制御装置60との判定結果に基づいて,前記復水供給部6中の復水を前記給水部3へ供給するか廃棄するかを切り換える切換弁7とを備え,前記第一制御装置25が,前記ボイラ2において腐食の抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等のために許容される水質の濃度を算出し,この算出値に基づいて,復水を前記給水部3へ供給するか廃棄するかを判定するとともに,前記第二制御装置60が,前記ボイラ2において回収すべき熱量が確保できる復水の水温を算出し,この算出値に基づいて,復水を前記給水部3へ供給するか廃棄するかを判定することを特徴とするボイラ装置における復水供給装置。」

(2)補正の適否

本件補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第一制御装置」について,「第一制御装置が,前記ボイラにおいて腐食の抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等のために許容される水質の濃度を算出し,この算出値に基づいて,復水を前記給水部へ供給するか廃棄するかを判定する」との限定を付加するとともに,「第二制御装置について」,「第二制御装置が,前記ボイラにおいて回収すべき熱量が確保できる復水の水温を算出し,この算出値に基づいて,前記給水部へ供給するか廃棄するかを判定する」との限定を付加するものであり,かつ,補正後の請求項1に記載された発明は,補正前の請求項1に記載された発明と,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。

(3)引用文献記載の発明

(3-1)原査定の拒絶の理由で引用された,特開2000-121003号公報(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

1a.「図1において,ボイラ1へ水を供給する給水タンク2を設け,この給水タンク2内の水を加熱する加熱手段を備えている。この加熱手段は,前記ボイラ1で発生させた蒸気を負荷側へ供給する蒸気配管3の途中に,加熱用蒸気管4の一端を接続し,他端を前記給水タンク2の下部に接続している。前記加熱用蒸気管4には電動弁5が設けられている。」(段落【0018】)
1b.「前記ボイラ1と前記給水タンク2とを給水ポンプ7を備えた給水ライン8で接続している。この給水ライン8の途中には節炭器9が設けてある。この節炭器9は,前記ボイラ1からの排気ガスを導入し,前記給水ライン8からの給水を加熱するものであるから,内部に前記ボイラ1からの排気ガスが流通する排ガス通路10と,前記給水ライン8からの給水を流通させる伝熱管11を備えている。
前記給水タンク2には,補給水を供給する補給水ライン12が接続してある。この補給水は,予め原水中の溶存気体(空気,特に酸素)を除去した脱気水である。したがって,前記給水タンク2の水面には,空気との接触による酸素の再溶存を防止するためのビーズ13が浮かべてある。」(段落【0020】-【0021】)

1c.「つぎに,この発明の第二実施例を図2に基づいて説明する。図2は,第二実施例の構成を概略的に示す説明図である。この第二実施例は,前記第一実施例で説明した給水タンク2の外側にボイラのドレンを回収するドレン回収装置14を設けた構成としたものである。したがって,前記第一実施例と同一部材には同一符号を付し,重複する説明は省略する。
前記ドレン回収装置14は,ドレンタンク15と連通管16とからなる気体分離器17を設け,前記連通管16の上流側にドレン回収ライン18の一端を接続するとともに,前記給水タンク2と前記ドレンタンク15とを供給管19を介して連通した構成となっている。前記ドレン回収ライン18の他端は,蒸気使用機器(図示省略)の下流側に接続している。
前記気体分離器17は,図2に示すように,前記給水タンク2の外側所定位置に,前記ドレンタンク15を配置し,このドレンタンク15内の所定位置に前記連通管16を配置している。前記ドレンタンク15の上部に小孔20が開口してあり,この小孔20からドレンに混入していた蒸気や気泡が分離されて気体となって大気中へ排出される。前記ドレンタンク15と前記連通管16との配置は,前記ドレンタンク15の内側および上部と前記連通管16の外周および上端部21との間に空間部が形成されるようになっている。そして,前記ドレンタンク15の下部と前記給水タンク2の下部とを供給管19を介して連通し,前記ドレンタンク15内のドレンを前記給水タンク2へ流入させる。
また,前記ドレン回収ライン18には,図2 に示すように,初期ドレン排出手段22を設けている。この初期ドレン排出手段22は,温度センサ23と,この温度センサ23の下流側から分岐した電動弁24を備えたドレン排出ライン25とを備えている。また,前記温度センサ23および前記電動弁24は,信号線26を介して制御器27にそれぞれ接続した構成となっている。」(段落【0024】-【0027】)

1d.「前記構成のドレン回収装置14は,ボイラ(図示省略)で発生した蒸気が,蒸気使用機器(図示省略)において熱交換され凝縮水となったドレンを,ドレン回収ライン18および気体分離器17を介して給水タンク2へ再び回収するものである。」(段落【0028】)

1e.「また,前記初期ドレン排出手段22は,前記ボイラが起動してからの初期ドレンは,ボイラ停止後,回収されずに残ったドレン(すなわち,配管系統内に残っていたもので,ボイラ停止に伴う温度降下により,酸素や二酸化炭素を多量に含んでいる。)あるいは温度の低いドレンであるので,初期ドレンは系外に排出するようにしている。この初期ドレンは,温度が低く,前記温度センサ23からの信号を前記制御器27が受け,この信号により前記制御器27は,前記電動弁24を開弁する。そして,前記ボイラからの蒸気が蒸気使用機器において熱交換され,凝縮水となった初期ドレンが,前記ドレン回収ライン18および前記ドレン排出ライン25を介して系外へ排出される。前記初期ドレンは,当初は比較的低温で流出しているが,時間の経過とともに温度が上昇する。前記温度センサ23は,前記ドレン温度が予め設定した温度(たとえば,60℃)に達したとき,検出信号を前記制御器27へ通報する。前記制御器27は,前記温度センサ23の信号を受け,前記電動弁24を閉弁する。したがって,初期ドレン排出後は,通常のドレン回収が行われる。
以上のように,前記構成の第二実施例は,高温のドレンを給水タンク2内へ還流させるので,給水タンク2内の水を加熱する効果がある。したがって,ボイラからの加熱用蒸気の供給量を低減することができる。」(段落【0030】-【0031】)

そこで,上記記載事項について検討すると,記載1bによると,「前記ボイラ1と前記給水タンク2とを給水ポンプ7を備えた給水ライン8で接続」しており,また,「前記給水タンク2には,補給水を供給する補給水ライン12が接続してある」ことから,ボイラシステムが,「給水部」を備えていることは明らかである。

また,記載1cによると,「前記ドレン回収装置14は,ドレンタンク15と連通管16とからなる気体分離器17を設け,前記連通管16の上流側にドレン回収ライン18の一端を接続するとともに,前記給水タンク2と前記ドレンタンク15とを供給管19を介して連通した構成となっている。前記ドレン回収ライン18の他端は,蒸気使用機器(図示省略)の下流側に接続」しており,ボイラシステムが,「ドレン供給部」を備えていることは,明らかである。

さらに,上記1eの記載事項からみて,ボイラシステムが,「ドレン供給装置」を備えていることは,明らかである。

そして,記載1eには,「初期ドレンは,ボイラ停止後,回収されずに残ったドレン(すなわち,配管系統内に残っていたもので,ボイラ停止に伴う温度降下により,酸素や二酸化炭素を多量に含んでいる。)あるいは温度の低いドレンであるので,初期ドレンは系外に排出するようにしている」,「前記温度センサ23は,前記ドレン温度が予め設定した温度(たとえば,60℃)に達したとき,検出信号を前記制御器27へ通報する。前記制御器27は,前記温度センサ23の信号を受け,前記電動弁24を閉弁する。」,「高温のドレンを給水タンク2内へ還流させるので,給水タンク2内の水を加熱する効果がある」と記載されており,これらの記載からみて,「ドレン温度が予め設定した温度に達したとき」は,給水タンク内の水を加熱することができるものであるから,制御器が,「ボイラにおいて,酸素や二酸化炭素を多量に含むことなく,回収すべき熱量が確保できるドレンの水温を算出し,この算出値に基づいて,ドレンを給水部へ供給するか廃棄するかを判定する」ものであると理解できる。

そこで,これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用文献1には,次の発明(以下「引用文献1記載の発明」という。)が記載されている。

「給水を加熱して蒸気を生成するボイラと,このボイラへ給水を供給する給水部と,前記ボイラで生成した蒸気を蒸気利用機器へ供給する蒸気配管と,前記蒸気利用機器で使用した蒸気をドレンとして前記給水部へ供給するドレン供給部とを備えたボイラシステムにおけるドレン供給装置であって,前記ドレン供給部において凝縮されたドレンの水温を測定する温度センサと,この温度センサからの検出信号を判定する制御器と,前記制御器の判定結果に基づいて,前記ドレン供給部中のドレンを前記給水部へ供給するか廃棄するかを切り換える電動弁とを備え,前記制御器が,前記ボイラにおいて,酸素や二酸化炭素を多量に含むことなく,回収すべき熱量が確保できるドレンの水温を算出し,この算出値に基づいて,ドレンを前記給水部へ供給するか廃棄するかを判定するボイラシステムにおけるドレン供給装置。」

(3-2)同じく原査定の拒絶の理由で引用された,実願昭56-61858号(実開昭57-178909号)のマイクロフィルム(以下「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

2a.「本考案は蒸気使用機器等で発生した復水の保有熱量をボイラ等に有効に回収する場合に使用するドレン回収装置に関する。」(第2ページ第10-12行)

2b.「給水ポンプ14とボイラ等の給水ライン13,15に熱交換器3を配する。熱交換器3下部には流入口6が開口し,上流側給水ライン13が連通する。上部には流出口7が開口し,下流側給水ライン15が連通する。熱交換器3の筐体4内部には伝熱管5を配する。伝熱管5の上部には,蒸気使用機器等で発生した復水を導く復水回収通路1が連通する。伝熱管5の下部には,復水排出通路8が連通する。復水排出通路は給水ポンプ14より上流の上流側給水ライン13に連通する第1通路9と,系外に開口する第2通路10に分岐する。復水回収通路1には復水の水質を検出する検出器2を配する。第1通路9には第1制御弁11を配する。第2通路10には第2制御弁12を配する。第1制御弁11および第2制御弁12には電磁弁や電動弁等を用いる。第1制御弁11および第2制御弁12のかわりに三方弁を用いることもできる。検出器2からの測定信号は調節部16に入力する。調節部16は測定信号に応じた操作信号を第1制御弁11および第2制御弁12に出力し,開閉操作を制御する。」(第4ページ第15行-第5ページ第16行)

2c.「水質の検出器2は必要に応じて,水の透明度,導電率およびpHを検出するものを用いる。水の透明度を検出するものとして,発光ダイオードとCds光センサを用いたものが使用できる。導電率を検出するものとして導電率計を用いる。pHを検出するものとしてpH計を用いる。それぞれの検出器は単独で用いることができるが,必要に応じて組み合せて用いることもできる。調節部16にはマイクロコンピュータ等を用いることもできる。」(第5ページ第16行-第6ページ第6行)

2d.「蒸気使用機器等で発生した復水は復水回収通路1を流れてくる。復水の水質を検知器2が検出し,悪質の場合第2制御弁12が開弁し第1制御弁11が閉弁する。」(第6ページ第7-11行)

2e.「復水が良質の場合,第1制御弁11が開弁し第2制御弁12が閉弁する。熱交換器3を通つた復水は復水排出通路8および第1通路9を通つて給水ポンプ14上流の上流側給水ライン13に流入する。上流側給水ライン13に流入した復水は,給水ポンプ14で昇圧され熱交換器3および下流側給水ライン15を通つてボイラに回収する。従つて,復水が良質の場合,復水は給水ポンプ14の吸込側に導かれ給水ポンプ14で直接ボイラに回収される。」(第6ページ第17行-第7ページ第7行)

そして,ボイラ装置が,ボイラで生成した蒸気を蒸気使用機器へ供給する蒸気供給部を備えていることは,明らかである。

また,記載2cによれば,「水質の検出器2は必要に応じて,水の透明度,導電率およびpHを検出するものを用いる」ものであり,検出器によって検出される水質は,「ボイラにおいて腐食を抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等」に関連するものといえ,さらに,調節部は,検出器の測定信号に応じて,復水の水質が悪質か良質かを判定するものであるから,「調節部が,ボイラにおいて腐食を抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等のために許容される水質の濃度等を算出し,この算出値に基づいて,復水を供給部へ供給するか廃棄するかを判定するもの」と理解できる。
そこで,これらの記載事項及び図示内容からみて,引用文献2には,次の発明(以下「引用文献2記載の発明」という。)が記載されている。

「給水を加熱して蒸気を生成するボイラと,このボイラへ給水を供給する給水ラインと,前記ボイラで生成した蒸気を蒸気使用機器へ供給する蒸気供給部と,前記蒸気使用機器で使用した蒸気を復水として前記給水ラインへ供給する復水回収通路とを備えたドレン回収装置であって,前記復水回収通路において凝縮された復水の水質を測定する,発光ダイオードとCds光センサ,導電率計,pH計等からなる検出器と,この検出器の測定結果を判定する調節部と,調節部の判定結果に基づいて,復水回収通路中の復水を前記給水ラインへ供給するか廃棄するかを切り換える第1制御弁および第2制御弁とを備え,前記調節部が,ボイラにおいて腐食を抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等のために許容される水質の濃度等を算出し,この算出値に基づいて,復水を供給部へ供給するか廃棄するかを判定するドレン回収装置。」

(4)対比

本件補正発明と引用文献1記載の発明とを対比する。

引用文献1記載の発明の「蒸気利用機器」は,本件補正発明の「負荷機器」に相当し,以下同様にして,「蒸気配管」は「蒸気供給部」に,「ドレン」は「復水」に,「ドレン供給部」は「復水供給部」に,「ボイラシステム」は「ボイラ装置」に,「ドレン供給装置」は「復水供給装置」に,「温度センサ」は,「水温測定部」に,「検出信号」は「測定結果」に,「制御器」は「第二制御装置」に,「電動弁」は「切換弁」に,それぞれ相当する。

そうしてみると,両者は,

「給水を加熱して蒸気を生成するボイラと,このボイラへ給水を供給する給水部と,前記ボイラで生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部と,前記負荷機器で使用した蒸気を復水として前記給水部へ供給する復水供給部とを備えたボイラ装置における復水供給装置であって,前記復水供給部において凝縮された復水の水温を測定する水温測定部と,この水温測定部の測定結果を判定する第二制御装置と,前記復水供給部中の復水を前記給水部へ供給するか廃棄するかを切り換える切換弁とを備え,前記第二制御装置が,前記ボイラにおいて回収すべき熱量が確保できる復水の水温を算出するともに,この算出値に基づいて,復水を前記供給部へ供給するか廃棄するかを判定するボイラ装置における復水供給装置。」

である点で一致し,以下の点で相違している。

相違点1:本件補正発明は「復水供給部において凝縮された復水の水質を透過光強度により測定する測定装置」及び「この測定装置の測定結果を判定する第一制御装置」をさらに備えているのに対して,引用文献1記載の発明は,このような構成を備えていない点。

相違点2:切換弁は,本件補正発明では,第一制御装置および第二制御装置との判定結果(復水の水質及び水温)に基づいて切り換えられるのに対して,引用文献1記載の発明では,制御器の判定結果(復水の水温)に基づいて切り換えられる点。

相違点3:本件補正発明は,「第一制御装置が,ボイラにおいて腐食の抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等のために許容される水質の濃度を算出し,この算出値に基づいて,復水を給水部へ供給するか廃棄するかを判定する」のに対して,引用文献1記載の発明は,このような構成を有していない点。

(5)判断

上記相違点について検討する。

・相違点1について

引用文献2記載の発明の「給水ライン」は,本件補正発明の「給水部」に相当し,以下同様に,「蒸気使用機器」は「負荷機器」に,「復水回収通路」は「復水供給部」に,「ドレン回収装置」は「復水供給装置」に,「調節部」は「第一制御装置」に,「第1制御弁及び第2制御弁」は,「切換弁」に,それぞれ相当する。

そして,引用文献2記載の発明の「発光ダイオードとCds光センサ,導電率計,pH計等からなる検出器」と,本件補正発明の「透過光強度により測定する測定装置」は,ともに,「水質測定部」である点で共通している。
そうしてみると,引用文献2記載の発明は,

「給水を加熱して蒸気を生成するボイラと,このボイラへ給水を供給する給水部と,前記ボイラで生成した蒸気を負荷機器へ供給する蒸気供給部と,前記負荷機器で使用した蒸気を復水として前記給水部へ供給する復水供給部とを備えたボイラ装置における復水供給装置であって,前記復水供給部において凝縮された復水の水質を測定する水質測定部と,この水質測定部の測定結果を判定する第一制御装置と,復水供給部の復水を給水部へ供給するか廃棄するかを切り換える切換弁とを備え,前記第一制御装置が,ボイラにおいて腐食を抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等のために許容される水質の濃度等を算出し,この算出値に基づいて,復水を供給部へ供給するか廃棄するかを判定するボイラ装置の復水供給装置」であると言い換えることができる。

そして,水質を検出する検出器(水質測定部)を「透過光強度により測定する測定手段」とすることは,本願出願前周知の技術である(例えば,特開平10-325801号公報,特開平11-51871号公報参照。)。

また,ボイラ装置における復水供給装置において,復水を給水部へ供給するか廃棄するかを判定するにあたり,復水の「水質」及び「水温」のそれぞれの条件について考慮することは,引用文献1記載の発明においても示唆されている(前記「2.(3)(3-1)1e」参照。)こと,さらに,それぞれの水質パラメータごとに設けられる水質を検出する検出器を組み合わせて用いることは,引用文献2記載の発明においても示唆されている(前記「2.(3)(3-2)2c」参照。)。

そして,引用文献1記載の発明と引用文献2記載の発明とは「ボイラ装置の復水供給装置」という同一の技術分野に属している。

よって,引用文献1記載の発明おいて,復水供給部において凝縮された復水の水質を測定する水質測定部と,この水質測定部の測定結果を判定する第一制御装置を備えた引用文献2記載の発明を適用するに際し,上記周知技術に倣って,「復水供給部において凝縮された復水の水質を透過光強度により測定する測定装置」と「この測定装置の測定結果を判定する第一制御装置」をさらに設けることは,当業者が容易に想到し得たことである。

・相違点2及び3について

前述のとおり,引用文献1記載の発明において,上記相違点1に係る構成のようにすることは,引用文献2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである(前記「相違点1について」参照。)。

そして,ボイラ装置における復水供給装置において,復水を給水部へ供給するか廃棄するかを判定するにあたり,復水の「水質」及び「水温」のそれぞれの条件について考慮することは,引用文献1記載の発明においても示唆されている(前記「2.(3)(3-1)1e」参照。)こと,さらに,それぞれの水質パラメータごとに設けられる水質を検出する検出器を組み合わせて用いることは,引用文献2記載の発明においても示唆されている(前記「2.(3)(3-2)2c」参照。)。

してみれば,引用文献1記載の発明において,「第一制御装置が,ボイラにおいて腐食の抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等のために許容される水質の濃度を算出し,この算出値に基づいて,復水を給水部へ供給するか廃棄するかを判定する」ようにすること,及び,切換弁を,第一制御装置および第二制御装置との判定結果(復水の水質及び水温)に基づいて切り換えるようにすることは,「復水供給部において凝縮された復水の水質を透過光強度により測定する測定装置」と「この測定装置の測定結果を判定する第一制御装置」をさらに設けることに付随して,当業者にとって何ら困難性を有することなく採用し得る事項であるといえる。

よって,引用文献1記載の発明に,引用文献2記載の発明を適用し,「第一制御装置が,ボイラにおいて腐食の抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等のために許容される水質の濃度を算出し,この算出値に基づいて,復水を給水部へ供給するか廃棄するかを判定する」ようにするとともに,切換弁を,第一制御装置および第二制御装置との判定結果(復水の水質及び水温)に基づいて切り換えるようにすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本件補正発明の奏する効果は,引用文献1,2記載の発明及び周知技術から,当業者が予測し得る程度のものであって,格別なものではない。

したがって,本件補正発明は,引用文献1,2記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであることから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(6)むすび

以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について

(1)本願発明

平成19年11月5日付け手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成19年5月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「給水を加熱して蒸気を生成するボイラ2と,このボイラ2へ給水を供給する給水部3と,前記ボイラ2で生成した蒸気を負荷機器4へ供給する蒸気供給部5と,前記負荷機器4で使用した蒸気を復水として前記給水部3へ供給する復水供給部6とを備えたボイラ装置1における復水供給装置であって,前記復水供給部6において凝縮された復水の水質を透過光強度により測定する測定装置23と,この測定装置23の測定結果を判定する第一制御装置25と,前記復水供給部6において凝縮された復水の水温を測定する水温測定部59と,この水温測定部59の測定結果を判定する第二制御装置60と,前記第一制御装置25および前記第二制御装置60との判定結果に基づいて,前記復水供給部6中の復水を前記給水部3へ供給するか廃棄するかを切り換える切換弁7とを備えたことを特徴とするボイラ装置における復水供給装置。」

(2)引用文献

原査定の拒絶の理由に引用した引用文献1及び2,引用文献1及び2の記載事項,及び,引用文献1及び2記載の発明は,前記「2.[理由](3)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断

本願発明は,前記「2.[理由]」で検討した本件補正発明において,「前記第一制御装置25が,前記ボイラ2において腐食の抑制,スケール生成の抑制,給水系統の詰まり防止等のために許容される水質の濃度を算出し,この算出値に基づいて,復水を前記給水部3へ供給するか廃棄するかを判定するとともに,前記第二制御装置60が,前記ボイラ2において回収すべき熱量が確保できる復水の水温を算出し,この算出値に基づいて,復水を前記給水部3へ供給するか廃棄するかを判定する」との限定を省いたものである。

そうすると,実質的に本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに,他の発明特定事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記「2.[理由](5)判断」に記載したとおり,引用文献1,2記載の発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同様の理由により,本願発明も引用文献1,2記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび

以上のとおりであるから,本願発明は,引用文献1,2記載の発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-08 
結審通知日 2009-12-14 
審決日 2009-12-28 
出願番号 特願2002-156585(P2002-156585)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F22D)
P 1 8・ 121- Z (F22D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 3L案件管理書架D大屋 静男  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 長崎 洋一
豊島 唯
発明の名称 ボイラ装置における復水供給装置  

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