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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01M 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M |
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管理番号 | 1211698 |
審判番号 | 不服2008-5019 |
総通号数 | 124 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-02-28 |
確定日 | 2010-02-12 |
事件の表示 | 特願2000-132925「ゲル状電解質及びゲル状電解質電池」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月9日出願公開、特開2001-313075〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件審判に係る出願は、平成12年4月27日に出願されたもので、平成19年9月4日付け拒絶理由通知書が送付され、願書に添付した明細書又は図面についての同年11月12日付け手続補正書が提出されたものの、平成20年1月21日付けで拒絶査定されたものである。 そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として平成20年2月28日に請求され、同年3月26日付けで上記明細書等についての手続補正書が提出され、平成21年7月24日付け審尋を送付したところ、同年9月28日付け回答書が提出されたものである。 2.原査定 原査定の拒絶理由の1つは、以下のとおりのものと認める。 「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された以下の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」 引用文献1;特開平10-177814号公報(以下、「刊行物1」という。) 3.当審の判断 3-1.平成20年3月26日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)について 本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 その理由を以下に詳述する。 3-1-1.本件補正の内容 本件補正は、以下の補正事項aを有するものと認める。 補正事項a;特許請求の範囲の請求項1の記載につき、以下「A」を「B」と補正する。 A;「請求項1】 非水溶媒にリチウム含有電解質塩が溶解されてなる非水電解液がマトリクスポリマによってゲル状とされてなり、内部にセパレータが配されたゲル状電解質であって、 下記の化1で示されるエチレンカーボネートの1以上の水素原子をハロゲンで置換したハロゲン置換エチレンカーボネートを溶媒全体中5%以上、80%以下含有することを特徴とするゲル状電解質。 【化1】 」 B;「【請求項1】 非水溶媒にリチウム含有電解質塩が溶解されてなる非水電解液がマトリクスポリマによってゲル状とされてなり、内部にセパレータが配されたゲル状電解質であって、 上記非水電解液の非水溶媒には、低粘度溶媒を含まず、 下記の化1で示されるエチレンカーボネートの1以上の水素原子をハロゲンで置換したハロゲン置換エチレンカーボネートを溶媒全体中5%以上、80%以下含有することを特徴とするゲル状電解質。 【化1】 」 なお、ここ「3-1」においては、本件補正前の請求項1を旧請求項1といい、本件補正後の請求項1を新請求項1という。 3-1-2.本件補正の適否 1)補正事項aは、旧請求項1の「非水溶媒」との記載を、「上記非水電解液の非水溶媒には、低粘度溶媒を含まず、」とし、非水溶媒につき、低粘度溶媒を含まないものに限定するもので、いわゆる、限定的減縮を目的にしているといえる。 2)そこで、新請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて検討する。 2-1)補正発明は、新請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、先に「3-1-1」の「B」として示したとおりのものと認める。 2-2)原査定の拒絶理由に引用した刊行物1には、以下の記載a?fが認められる。 a;「【特許請求の範囲】 【請求項1】 高分子マトリクス、非水電解液および電解質塩を少なくとも含有する高分子ゲル電解質において、非水電解液の溶媒として、少なくとも1種のハロゲン置換炭酸エステルを含有していることを特徴とするイオン伝導性高分子ゲル電解質。 ・・・(審決注;「・・・」は記載の省略を示す。以下、同様。) 【請求項3】 非水電解液の溶媒が、ハロゲン置換炭酸エステルと環状炭酸エステルを含有するものである請求項1、2記載のイオン伝導性高分子ゲル電解質。 ・・・ 【請求項5】 ハロゲン置換炭酸エステルが一般式〔I〕で示されるハロゲン置換非環状炭酸エステルおよび/または一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステルである請求項1、2、3または4記載のイオン伝導性高分子ゲル電解質。 ・・・ 【化2】 (前式中、・・・R^(3)、R^(4)は炭素数1?2のハロゲン置換あるいは非置換アルキル基、水素、ハロゲンを示す。但し、R^(3)とR^(4)の少なくとも一方には、少なくとも1個のハロゲンが必ず存在する。)」 b;「【0009】本発明で用いる前記ハロゲン置換環状炭酸エステルは、比誘電率が4以上のものであれば、いずれも用いることができる。例えば、・・・下式〔V〕で示されるトリフルオロメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。その他、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ブロモエチレンカーボネート、ヨードエチレンカーボネート、・・・等も挙げられる。」 c;「【0010】・・・また、本発明においては、前記ハロゲン置換炭酸エステルに他の電解液構成溶媒として環状炭酸エステルを含有させることができ、含有させる環状炭酸エステルとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等が挙げられる。・・・これら非水電解液の構成溶媒中のハロゲン置換非環状炭酸エステル混合比率は、5?80容量%が好ましく、さらに20?70容量%が好ましい。特に30?50容量%が好ましい。また、構成溶媒中のハロゲン置換環状炭酸エステル混合比率は20?95容量%が好ましく、さらに30?80容量%が好ましく、特に50?70容量%が好ましい。」 d;「【0020】電解質塩としては、ルイス酸複塩としては、たとえばLiBF_(4)、LiAsF_(6)、LiPF_(6)、LiSbF_(6)などが挙げられ、スルホン酸電解質塩とては、たとえばLiCF_(3)SO_(3)、LiN(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiC(CF_(3)SO_(2))_(3)、LiC(CH_(3))(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiCH(CF_(3)SO_(2))_(2)、LiCH_(2)(CF_(3)SO_(2))、LiC_(2)F_(5)SO_(3)、LiN(C_(2)F_(5)SO_(2))_(2)、LiB(CF_(3)SO_(2))_(2)などが挙げられるが、これに限定されるものではない。・・・非水電解液としては、電解質塩を前記非水溶媒に溶解させたものが挙げられ、」 e;「【0025】本発明の高分子ゲル電解質は、そのまま電池の隔膜として使用することができるが、さらにフィラーを分散したり、多孔性膜(セパレータ)と複合化して使用することもできる。セパレータの例としてはガラス繊維、フィルター、ポリエステル、テフロン、ポリフロン、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子繊維からなる不織布フィルター、ガラス繊維とそれらの高分子繊維を混用した不織布フィルターなどをあげることができる。本発明の電池は電極や隔膜等の電池要素に高分子ゲル電解質形成用組成物を含浸させ、加熱あるいは活性光線の照射等の重合手段により粘弾性体とし、高分子ゲル電解質と電池要素の一体化を行うことが好ましい。」 f;「【0044】実施例11 イオン伝導性高分子固体電解質(XI) 非水溶媒:トリフルオロメチルエチレンカーボネート/エチレンカーボネート(7/3:体積比)に溶解した1.8mol/lのLiPF_(6)溶液の電解液86部に単官能モノマーとしてエチルジエチレングリコールアクリレート13.8部、多官能モノマーとしてトリメチロールプロパントリアクリレート0.2部、光開始剤としてベンゾインイソプロピルエーテル0.06部を添加混合溶解し、光重合性溶液を調整した。実施例3と同様に電解液を固体化した。」 2-3)刊行物1には、記載aによれば、「高分子マトリクス、非水電解液および電解質塩を少なくとも含有する高分子ゲル電解質において、非水電解液の溶媒として、ハロゲン置換炭酸エステルと環状炭酸エステルを含有しているイオン伝導性高分子ゲル電解質であって、前記ハロゲン置換炭酸エステルが一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステルであるイオン伝導性高分子ゲル電解質。」の発明が記載されていると認められる。 そして、記載cによれば、この発明の「一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステル」の溶媒中の混合比率は、20?95容量%であるといえる。 また、記載dによれば、この発明の「電解質塩」は、リチウムを含有する電解質塩であって、この発明の「非水電解液」は、このリチウムを含有する電解質塩を溶媒に溶解させたものであるといえる。 さらに、記載eによれば、この発明の「高分子ゲル電解質」は、セパレータに高分子ゲル電解質形成用組成物を含浸させ、重合手段により粘弾性体とし、セパレータと一体化させたものであるといえる。 そうすると、刊行物1には、大凡のものとして、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「高分子マトリクス、リチウムを含有する電解質塩を溶媒に溶解させた非水電解液を少なくとも含有する高分子ゲル電解質において、非水電解液の溶媒が、一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステルと環状炭酸エステルを含有しているイオン伝導性高分子ゲル電解質であって、溶媒中のハロゲン置換環状炭酸エステル混合比率が20?95容量%であり、前記高分子ゲル電解質が、セパレータに高分子ゲル電解質形成用組成物を含浸させ、重合手段により粘弾性体とし、セパレータと一体化させたものであるイオン伝導性高分子ゲル電解質。 【化2】 (前式中、・・・R^(3)、R^(4)は炭素数1?2のハロゲン置換あるいは非置換アルキル基、水素、ハロゲンを示す。但し、R^(3)とR^(4)の少なくとも一方には、少なくとも1個のハロゲンが必ず存在する。)」 2-4)補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明における「高分子マトリクス」、「高分子ゲル電解質」は、補正発明における「マトリクスポリマ」、「ゲル状電解質」に相当する。 引用発明における、「高分子マトリクス、リチウムを含有する電解質塩を溶媒に溶解させた非水電解液を少なくとも含有する高分子ゲル電解質」は、高分子マトリクスによりリチウムを含有する電解質塩を溶媒に溶解させた非水電解液がゲル状とされていることが明らかであるから、補正発明における、「非水溶媒にリチウム含有電解質塩が溶解されてなる非水電解液がマトリクスポリマによってゲル状とされ・・・たゲル状電解質」に相当する。 引用発明における、『一般式〔II〕のR^(3)、R^(4)が水素及びハロゲンである場合又はともにハロゲンである場合』の「一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステル」は、補正発明の『化1のX_(1)、X_(2)、X_(3)、X_(4)のうちの1つがハロゲン原子である場合又はX_(1)、X_(2)のうちの1つ及びX_(3)、X_(4)のうちの1つがハロゲン原子である場合』に相当する。 そして、引用発明における、「一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステル」が上記のものである場合に、その溶媒中での「混合比率が20?95容量%」であることは、補正発明のハロゲン置換エチレンカーボネートの含有量が、本件審判に係る出願の明細書の【0042】に記載されるように重量比で表されるものを意味するとしても、補正発明における含有量は「溶媒全体中5%以上、80%以下」であって、引用発明における「20?95容量%」と同様に広範な範囲であるから、補正発明と重複する範囲を含むということであり、補正発明における「溶媒全体中5%以上、80%以下含有する」ことに対応する。 引用発明における、「前記高分子ゲル電解質が、セパレータに高分子ゲル電解質形成用組成物を含浸させ、重合手段により粘弾性体とし、セパレータと一体化させたもの」であることは、高分子ゲル電解質の内部にセパレータが存在するものとなるから、補正発明の「内部にセパレータが配されたゲル状電解質」であることに相当する。 そうすると、『化1のX_(1)、X_(2)、X_(3)、X_(4)のうちの1つがハロゲン原子である場合又はX_(1)、X_(2)のうちの1つ及びX_(3)、X_(4)のうちの1つがハロゲン原子である場合』の補正発明は、引用発明とは、「非水溶媒にリチウム含有電解質塩が溶解されてなる非水電解液がマトリクスポリマによってゲル状とされてなり、内部にセパレータが配されたゲル状電解質であって、 上記非水電解液の非水溶媒には、 下記の化1で示されるエチレンカーボネートの1以上の水素原子をハロゲンで置換したハロゲン置換エチレンカーボネートを溶媒全体中5%以上、80%以下含有することを特徴とするゲル状電解質。 【化1】 」である点で一致し、 以下の点で、一応、相違していると認められる。 相違点1;補正発明は、非水電解液の非水溶媒には、「低粘度溶媒を含ま」ないのに対し、引用発明は、非水電解液の溶媒に、低粘度溶媒を含まないか不明である点。 2-5)相違点1について検討する。 先に「2-2)」で摘記した刊行物1の記載fは、「非水電解液の溶媒が、一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステルと環状炭酸エステル」を含有している引用発明の実施例を記載したものであり、この実施例における「非水電解液の溶媒」は、「トリフルオロメチルエチレンカーボネートとエチレンカーボネートの混合溶媒」である。 そして、エチレンカーボネートは、高粘度溶媒であることが周知である。 そうすると、刊行物1には、非水電解液の溶媒として、「低粘度溶媒を含ま」ないものが記載されているといえる。 よって、先に一応の相違点とした相違点1は実質的なものでない。 なお、記載fの実施例において「一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステル」は、トリフルオロメチルエチレンカーボネートであって、『一般式〔II〕のR^(3)、R^(4)が水素及びハロゲンである場合又はともにハロゲンである場合』のものではないが、記載bには、これらの化合物が「一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステル」として並列的に記載されており、これらの化合物は作用・効果も同等のものと認められるから、記載fの実施例における、トリフルオロメチルエチレンカーボネートを、他の「一般式〔II〕で示されるハロゲン置換環状炭酸エステル」に置き換えたものも、ここに記載されているに等しいとすることは何ら阻害されていない。 2-6)以上のことから、補正発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3-1-3.まとめ 補正事項aを有する本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3-2.原査定の拒絶理由について 3-2-1.本件の発明 本件補正は、先に「3-1」で述べたように却下すべきものであり、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、本件補正前の、願書に添付した明細書の請求項1に記載した事項により特定されるとおりのものであり、先に「3-1-1」の「A」として示したとおりのものと認める。 3-2-2.刊行物1の記載発明との対比判断 刊行物1には、「3-1-2」の「2-3)」において認定した引用発明が記載されている。 そして、先に「3-1-2」の「1)」で述べたことから明らかなように、本件発明は、補正発明を包含するものであって、補正発明は、「3-1-2」の「2)」で述べたように、刊行物1に記載された発明であるから、本件発明も、刊行物1に記載された発明であるといえる。 3-2-3.まとめ 本件発明は、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおりであるから、原査定は、妥当である。 したがって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-04 |
結審通知日 | 2009-12-08 |
審決日 | 2009-12-21 |
出願番号 | 特願2000-132925(P2000-132925) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01M)
P 1 8・ 113- Z (H01M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松岡 徹 |
特許庁審判長 |
吉水 純子 |
特許庁審判官 |
青木 千歌子 山本 一正 |
発明の名称 | ゲル状電解質及びゲル状電解質電池 |
代理人 | 祐成 篤哉 |
代理人 | 山口 茂 |
代理人 | 小池 晃 |
代理人 | 藤井 稔也 |
代理人 | 伊賀 誠司 |
代理人 | 野口 信博 |