ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N |
---|---|
管理番号 | 1211756 |
審判番号 | 不服2007-20789 |
総通号数 | 124 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-07-26 |
確定日 | 2010-02-08 |
事件の表示 | 平成11年特許願第 78866号「遠赤外線放射板材」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 1月 7日出願公開、特開2000-317号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 1.本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う出願日が平成10年11月20日である実願平10-9203号を平成11年3月24日に特許出願に変更したものであって、平成19年4月3日付け拒絶理由に対して、同年6月4日付けで手続補正がなされたが、同年6月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年8月27日付けで明細書についての手続補正がなされたものである。その後、当審の審尋に対する回答書が平成21年9月13日付けで提出された。 2.平成19年8月27日付け手続補正後の本願発明 平成19年8月27日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、次のように補正された(以下、「本願補正発明」という。)。 「粒径が1μm以上であって、気泡率が30%以上の富士五湖周辺において産出する溶岩の粉末を、担持体に保持させて板状もしくはシート状に形成したことを特徴とする遠赤外線放射板材。」(下線は補正箇所を示す。) 3.補正の目的 本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「富士山系の溶岩粉末」について、「富士五湖周辺において産出する溶岩の粉末」と補正したものであるが、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項である「富士山系の溶岩粉末」を明りょうにしようとするために補正したものであって、本件補正は平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当すると認める。 そして、本件補正は新規事項を追加するものではない。 第2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由のうち、理由2(特許法第36条第6項第2号)と理由1(特許法第29条第2項)の概要は次のとおりである。 1.特許法第36条第6項第2号違反について (1)平成19年4月3日付け拒絶理由通知 「2.理由2 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 記 以下の点で、特許請求の範囲に記載された、特許を受けようとする発明が明確ではない。 a.請求項4の「富士山系の溶岩粉末」とはどのようなものを指すのか不明であり、発明の範囲が不明である。」 (2)平成19年6月22日付け拒絶査定 「この出願については、平成19年 4月 3日付け拒絶理由通知書に記載した理由2(に)よって、拒絶をすべきものである。」と明記した上で、備考欄に以下のように記載されている。 「出願人は、平成19年6月4日付けの意見書において、『しかしながら、本願発明は、富士山系の溶岩粉末、すなわち、富士五湖周辺において産出する溶岩を粉砕して得た粉末を使用することを、必須構成要件としている。そして、この富士山系、特に富士五湖周辺において産出する溶岩は、気泡率が30%以上で遠赤外線の生成に優れた作用を発揮するものである。本構成要件は、前記いずれの引用文献にも記載されていない。』と主張している。 しかしながら、先の拒絶理由通知書の理由2において指摘したとおり、『富士山系の溶岩粉末』がどのようなものを指すのか不明であり、その発明の範囲が不明確である。 すなわち、明細書には『本願発明において、富士山系の溶岩粉末とは、富士五湖周辺において産出する溶岩を粉砕して得た粉末をいう』(【0001】)と記載されているものの、溶岩粉末の組成等については何ら記載されておらず、また、富士五湖周辺において産出する溶岩が特定の組成を有する溶岩のみしか意味しないとも認められない。さらに、『富士五湖周辺』とは、どこを指すのか不明である。 したがって、上記明細書の記載を参酌しても、『富士山系の溶岩粉末』が特定できず、当該記載を含む発明の範囲が不明確である。 よって、上記出願人の主張は失当であり請求項1-6に係る発明については、平成19年4月3日付け拒絶理由通知書で示した拒絶の理由2を解消していない。」 2.特許法第29条第2項について (1)平成19年4月3日付け拒絶理由通知 「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ・請求項 1-3,5-8 ・引用文献等 1,2 ・備考 (当審注:省略する) ・請求項 9 ・引用文献等 1,2,3 ・備考 (当審注:省略する) 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開平8-52235号公報 2.登録実用新案第3048985号公報 3.実願昭62-198202号(実開平1-103388号公報)のマイクロフィルム」 (2)平成19年6月22日付け拒絶査定 「なお、溶岩の組成を限定したとしても、粒径が1μm以上の溶岩粉末を用いること及び気泡率が30%以上の溶岩粉末を用いることは引用文献1及び2に記載されており、その組成が本願記載の作用や効果にどう影響し、引用文献1,2に記載された発明から導き出されるものとの作用や効果の差異がどの程度のものかが明確にならなければ、当業者が容易に想到し得たものと判断される可能性がある。」 第3.当審の判断 1.記載不備について (1)特許請求の範囲の記載は、これに基づいて新規性・進歩性等の特許要件の判断がなされ、これに基づいて特許発明の技術的範囲が定められるという点において重要な意義を有するものであり、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要である。 特許法第36条第6項第2号は、こうした特許請求の範囲の機能を担保する上で重要な規定であり、特許を受けようとする発明が明確に把握できるように記載しなければならない旨を規定したものである。特許を受けようとする発明が明確に把握されなければ、的確に新規性・進歩性等の特許要件の判断ができず、特許発明の技術的範囲も理解し難い。 発明が明確に把握されるためには、発明に属する具体的な事物の範囲(以下、「発明の範囲」という。)が明確である必要があり、その前提として、発明を特定するための事項の記載が明確である必要がある。 (2)本願の明細書の記載をみると ア「【発明の属する技術分野】 この発明は溶岩粉末を所定の形状を有するように形成したことにより、フロアシートやマットレス、クッション等の下地材やカバー(例えば座布団カバー)等のシート状物、またシーツの下敷き類、浴槽内に浮かばせて温湯中の不純物を分解する入浴材、その他の様々な用途に適用することができる新規な遠赤外線放射板材に関するものである。」(【0001】) イ「【従来の技術】 従来、火山地帯で産出する溶岩の用途としては、加工しやすいこと、軽量であること、吸水性があること等を利用した建築用ブロック等の建築素材、焼き肉用のプレートが一般的である。また最近では、溶岩が発生させる遠赤外線を利用した小石状の入浴材、炊飯用ジャー等に投入して炊飯時に使用するための炊飯用補助材等も知られている。 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら粉末状の溶岩は、火山地帯では粉末といえば火山灰のことであり、火山灰はその悪影響ばかり強調されているために、溶岩を粉砕して粉末として利用することには思い至らないのが実情である。」(【0002】?【0003】) ウ「この発明において使用する溶岩粉末は、富士山系、特に富士五湖周辺において産出する溶岩を粉砕して得た粉末であることが望ましい。この富士山系、特に富士五湖周辺において産出する溶岩は、気泡率が30%以上で遠赤外線の生成に優れた作用を発揮する。」(【0014】) と記載されている。 a.平成19年8月27日付けの手続補正で補正された請求項1は、「富士五湖周辺において産出する」という溶岩が産出される場所により、発明特定事項としての「溶岩」を特定するものと解される。 しかしながら、そもそも「富士五湖周辺」という用語は、境界が曖昧な表現である。 その上、溶岩を区別する観点としては、溶岩を形成する岩石の種類(玄武岩や安山岩等)や溶岩が含有する鉱物の種類等が考えられるが、「富士五湖周辺において産出する溶岩」というだけでは前記した岩石の種類、含有する鉱物の種類等による特性を表すものではないし、それによって他の場所(例えば、浅間山)で産出される溶岩と区別できるものでもない。 してみると、「富士五湖周辺」という産出場所は、発明特定事項としての「溶岩」に属する具体的な事物の範囲を明確にするものとはいえない。 さらに、上記の点について、発明の詳細な説明の記載を検討する。 発明の詳細な説明には、「富士五湖周辺において産出する溶岩」であることに関し、「この発明において使用する溶岩粉末は、富士山系、特に富士五湖周辺において産出する溶岩を粉砕して得た粉末であることが望ましい。この富士山系、特に富士五湖周辺において産出する溶岩は、気泡率が30%以上で遠赤外線の生成に優れた作用を発揮する。」(【0014】)という記載が確認できるのみである。 上記発明の詳細な説明の記載においても、溶岩が産出される地域に関し、単に境界が曖昧な表現である「富士五湖周辺において産出する」と記載されているにすぎず、発明の範囲の境界を明確に把握できることはできない。 加えて、溶岩の特性に関しては、「富士五湖周辺において産出する溶岩は、気泡率が30%以上で遠赤外線の生成に優れた作用を発揮する。」と記載されているが、この記載は、所定の気泡率を有する「富士五湖周辺」において産出される溶岩が、遠赤外線の生成に優れた作用を発揮するということを表現するにとどまり、「溶岩」自体としてみた場合、他の場所(例えば、浅間山)で産出された溶岩との識別性をいうものとまでは解されない。 してみると、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「富士五湖周辺」という産出場所は、発明特定事項としての「溶岩」に属する具体的な事物の範囲を明確にするものとはいえない。 b.審判請求人は「『富士山系の溶岩粉末とは、富士五湖周辺において産出する溶岩を粉砕して得た粉末をいう』との記載は、該溶岩が富士五湖を形成する際に生じた複数の溶岩流で構成される溶岩を意味するものであるということは当業者において自明のことがらであって、溶岩組成等についての記載がなくとも充分特定可能である。」(審判請求書の平成19年8月27日の補正書4頁11?14行)と主張する。 しかしながら、請求人の主張される点は、富士五湖周辺の溶岩の一般的形成過程を説明したものにとどまり、富士五湖周辺とそれ以外の境界を明らかにしたものではなく、富士五湖周辺において産出される溶岩の特性を明確にするものとはいえないから、「富士五湖周辺において産出する」という溶岩が産出される場所により、発明特定事項としての「溶岩」を特定することについての当審の上記判断を否定するものではない。 c.以上によれば、平成19年8月27日付けの手続補正書で補正された請求項1に記載された発明特定事項である、「富士五湖周辺において産出する溶岩」は明確でなく、補正された請求項1に係る発明は明確ではない。 よって、この出願は、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。 2.なお、進歩性についても以下に付言する。 (1)本願補正発明(略、第1.2.参照) (2)引用例 (2-1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-52235号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。 ア「【請求項1】 火山灰に含まれる微粒体を合成樹脂に混入し、この合成樹脂をシート状に形成した赤外線放射シート。」(【特許請求の範囲】) イ「【産業上の利用分野】この発明は、赤外線放射シート及びその製造方法に関する。」(【0001】) ウ「この火山灰の粒体は、多孔質であって、その表面が極めて粗く、このために赤外線放射率が高い。ここでは、φ32μm未満の粒体(以下粘土と称す)を適用して、この粘土を合成樹脂に混入し、この合成樹脂から第1及び第2合成樹脂層1,2を形成している。このため、第1及び第2合成樹脂層1,2は、その赤外線放射率が高く、十分な効果を期待できる。」(【0022】) 上記記載ア?ウを総合し、本願補正発明の記載ぶりに則って整理すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「多孔質の火山灰の微粒体を合成樹脂に混入させてシート状に形成した赤外線放射シート。」 (2-2)原査定の拒絶の理由に引用された登録実用新案第3048985号公報(以下、「引用例2」という。)には、 「溶岩粒の気孔が溶岩全体の20?60%程度で、溶岩粒の直径が数mm以上のものを、回転ドラム等に投入して面取りし、角のない小石状に形成してなる遠赤外線放射材」が記載されている。 (3)対比 そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その機能・構造からみて、引用発明の「火山灰の微粒体を合成樹脂に混入させて」と本願補正発明の「溶岩の粉末を担持体に保持させて」とは、「火山からの生成粒体を固定体に固定させて」で、共通である。 引用発明の「シート状に形成した」は、本願補正発明の「板状もしくはシート状に形成した」に相当する。 遠赤外線は、赤外線の1つの種類であるから、引用発明の「赤外線放射シート」と本願補正発明の「遠赤外線放射板材」とは、「赤外線放射材」で共通している。 引用発明の「多孔質である」(火山灰の微粒体)と本願補正発明の「気泡率が30%以上の」(溶岩の粉末)とは、「多孔質の」(火山からの生成粒体)で共通する。 そこで、本願補正発明の用語を用いて表現すると、両者は 「多孔質の火山からの生成粒体を固定体に固定させて、板状もしくはシート状に形成した赤外線放射材」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点1> 多孔質の火山からの生成粒体について、本願補正発明は、「粒径が1μm以上であって、気泡率が30%以上の富士五湖周辺において産出する溶岩の粉末」であるのに対し、引用発明は「多孔質の火山灰の微粒体」である点。 <相違点2> 固定体に固定させていることについて、本願補正発明は「担持体に保持させて」いるのに対し、引用発明は「合成樹脂に混入させて」いる点。 <相違点3> 赤外線放射材について、本願補正発明は「遠赤外線放射板体」であるのに対し、引用発明は「赤外線放射シート」である点 (4)判断 <相違点1について> 引用例2には、多孔質の火山からの生成粒体である、気孔を有する溶岩粒を小石状に形成した遠赤外線放射材が記載され、その気孔が溶岩全体の20?60%程度であって、直径数mm以上の溶岩粒を、回転ドラム等に投入して面取りし、角のない小石状に形成して生成粒体としているので、相違点1に係る溶岩の粉末(溶岩粒)の、「気泡率30%以上とすること、粒径を1μm以上とすること」は引用例2記載の技術事項から当業者が容易になし得たことである。 さらに、富士五湖周辺において産出する富士山の溶岩を小石状あるいは粒体として、使用することは従来周知の事項(実願平5-34423号(実開平7-580号)のCD-ROM(11頁【0013】)、特開平10-195844号公報(2頁【0009】参照)である。 以上のことから、引用発明に引用例2記載の技術事項及び従来周知の事項を適用して、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易に想到したことである。 <相違点2について> 多孔質の火山からの生成粒体を固定体に固定するのに、担持体に保持させることは当業者が容易になし得ることである。 <相違点3について> 遠赤外線放射材は、引用例2に記載されているので、引用発明の赤外線放射シートを遠赤外線放射材とし、さらに、遠赤外線放射材を遠赤外線放射板体とすることは当業者が適宜なし得ることである。 以上のことから、引用発明に引用例2に記載の点を適用して、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは当業者であれば容易に想到したことである。 そして、本願補正発明による効果は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知の事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別なものとはいえない。 以上のことから、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第4.むすび 第3.1.で述べたとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、請求項1に記載された発明が明確であると認められないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 また、第3.2.の「なお書き」として述べたとおり、請求項1に係る発明は引用例1、2に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によっても特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-09 |
結審通知日 | 2009-12-10 |
審決日 | 2009-12-22 |
出願番号 | 特願平11-78866 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(A61N)
P 1 8・ 121- Z (A61N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今村 亘 |
特許庁審判長 |
横林 秀治郎 |
特許庁審判官 |
増沢 誠一 安井 寿儀 |
発明の名称 | 遠赤外線放射板材 |
代理人 | 土橋 博司 |