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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1211877
審判番号 不服2008-23973  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-18 
確定日 2010-02-12 
事件の表示 特願2004- 22931「筒内噴射式内燃機関の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月11日出願公開、特開2005-214102〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年1月30日の出願であって、平成20年3月19日付けで拒絶理由が通知され、同年5月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年6月9日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年7月29日付けで意見書が提出されたが、同年8月15日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年9月18日付けで拒絶査定不服審判が請求され、同年10月17日付けで審判請求書の請求理由を変更する手続補正書(方式)が提出されたものであって、その請求項1ないし3に係る発明は、上記平成20年5月16日付けの手続補正書によって補正された明細書及び願書に最初に添付された図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。
「少なくとも吸気バルブの開閉タイミングを可変する可変バルブタイミング機構を搭載し、吸気行程で筒内に燃料を噴射して均質燃焼させる機能を備えた筒内噴射式内燃機関の制御装置において、
吸気バルブと排気バルブの両方が開いているバルブオーバーラップの有無を判定するバルブオーバーラップ判定手段と、
バルブオーバーラップがあるときには燃料噴射時期をバルブオーバーラップ期間内に設定し、バルブオーバーラップがないときには燃料噴射時期を吸気バルブの開弁タイミング直後に設定する燃料噴射時期設定手段と
を備えていることを特徴とする筒内噴射式内燃機関の制御装置。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第97/13063号(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
なお、下線は、発明の理解の一助として、当審において付した。
(ア)「技術分野
本発明は内燃機関の制御装置に係り、特に内燃機関の吸気,燃料を制御する制御装置に関する。」(第1頁3ないし5行)
(イ)「運転状態検出手段27の結果に基づいて、可変バルブ制御手段28は可変バルブ機構11,12に吸気バルブ4,排気バルブ5の開閉タイミングおよびバルブリフトの制御信号を出力し、吸気バルブ4,排気バルブ5をそれぞれ制御する。また、燃料噴射制御手段29は運転状態検出手段27と可変バルブ制御手段28の制御信号に基づいて、燃料噴射量,燃料噴射タイミングの制御信号を出力し、燃料噴射弁3を制御する。燃料噴射弁3は燃料噴射制御手段29の制御信号基づいて、燃焼室17内に燃料20を噴射する。」(第5頁15ないし22行)
(ウ)「第3図は本発明の第1実施例における、吸排気バルブ4,5の開弁状況と燃料噴射量とタイミングの関係を示したものである。吸気バルブ4の開閉タイミングおよびバルブリフト量はエンジン制御装置13によって決められる。エンジン1が高回転高負荷の状態では吸気バルブ4は上死点(図中TDC)より前で開き始め(クランク角度a)、排気バルブ5のバルブリフト50とのオーバーラップを大きく取り、また吸入空気量が多くなるようにバルブリフト量が大きく(図中A)、設定される。さらに閉弁タイミングは慣性過給の効果を最大限利用するために、下死点(図中BDC)より後に設定される(クランク角度a′)。エンジン1が低負荷の状態の時は吸気バルブ4の開弁タイミングを上死点より後にし(クランク角度c)、吸気バルブ4から流入した空気が排気バルブ5から流出してしまう、新気の吹き抜けを防止し、閉弁タイミングを下死点より前にして吸気バルブ4の開弁期間を短くして、さらにバルブリフト量をCのように小さくして、吸入空気量を少なくする。また、吸気バルブ4の開弁タイミング,弁リフト,閉弁タイミングを無段階に変化させて、その中間の設定(クランク角度bで開弁し、バルブリフトをBまで開き、クランク角度b′で閉弁する)もすることができる。
燃料の噴射タイミングは吸気バルブ4の開閉タイミングに同期して決定される。第3図に示した実施例は吸気バルブ4の開弁タイミングに同期して燃料を噴射させた例であり、このように設定することにより吸気バルブの開弁と同時に噴射された燃料が燃焼室内中を液滴の状態で飛翔しているところを、開弁直後の流速の早い空気流によって、引きちぎられるようにして吹き飛ばされて、微粒化していく。燃料が微粒化すると、燃焼室内での空気と燃料の混合が促進され、点火されるときに着火しやすい混合気が形成され、確実に燃焼し、失火のない安定した燃焼が得られる。特に、筒内噴射エンジンの場合、燃料噴射弁周りに燃料が付着しやすく、液状のまま壁に付着し空気との混合不足のために、失火や異常燃焼の原因になりやすいが、流速の速い空気流によって、燃料を壁から引きはがすことによって改善される効果が大きい。
燃料噴射量は吸気バルブ4のバルブリフト量で決定される。吸気バルブ4が線51に沿って開弁する場合は、吸入される空気量は多いので燃料噴射量はαとなり、燃料噴射開始タイミングは吸気バルブの開弁タイミングのクランク角度aとなる。吸気バルブが曲線53に沿って開弁する場合は、吸入される空気量は少ないので燃料噴射量も少なくなりγとなり、燃料噴射開始タイミングはクランク角度cとなる。また、吸気バルブ4の開弁タイミング,弁リフト,閉弁タイミングを無段階に変化させて、その中間の設定(クランク角度bで開弁し、バルブリフトをBまで開き、クランク角度b′で閉弁する)にした場合は、燃料噴射量はβ、燃料噴射開始タイミングはクランク角度bとなる。」(第7頁22行ないし第9頁10行)
(エ)「第5図は本発明の第1実施例における、吸排気バルブ4,5のバルブリフト量と燃焼室17内の圧力Pcとの関係を示したものである。第5図において、40は排気バルブのバルブリフト変化であり、本実施例においては、開閉弁タイミング,バルブリフト量は一定値に制御される。41は吸気バルブを高負荷時の設定に従って、作動させた時のバルブリフト変化で、この運転状態の時、燃焼室17内の圧力Pcは排気行程中、すなわち排気バルブ5が線40のように開いている間は43のようにほぼ大気圧Paである。吸気バルブ4がクランク角度aで開弁し、排気バルブ5がクランク角度bで閉弁するようなオーバーラップがある場合は、燃焼室17内の圧力Pcは灰色の実線44のように変化し、吸気行程中は吸気管18内の圧力Pbとほぼ等しくなる。・・(略)・・。一方、排気バルブ5が閉じた後、吸気バルブ4を開かなければ燃焼室17内の圧力Pcは点線45のように下がり、下死点(図中BDC)では、
Pc=Pa/ε (ε:エンジン1の圧縮比) …(1)
となる。
この途中で、燃焼室17内の圧力Pcが、 Pc<0.54*Pb …(2)
となるクランク角度cで吸気バルブ4を開いた場合、燃焼室17内の圧力Pcは急激に上昇し、それに伴って衝撃波が発生する。」(第9頁22行ないし第10頁18行)
(オ)「このような衝撃波がエンジンの燃焼室内に発生した場合、衝撃波は燃焼室内の壁で反射を繰り返す。この衝撃波の圧力エネルギで燃焼室内の燃料噴霧を加振し、噴霧を微粒化するのが本発明のポイントである。
第3図のように、燃料の噴射開始タイミングを吸気バルブの開弁タイミングに同期させ、衝撃波の発生直後または衝撃波発生中に、燃料を燃焼室内に噴射するようにすると、上記の効果が得られる。」(第11頁6ないし11行)
(カ)「第8図は本発明の制御信号の流れを示すブロック図である。これを用いて、衝撃波発生予測を含めた、エンジン制御装置内での制御信号の流れを説明する。・・(略)・・。さらに、それらのデータからエンジン運転状態、すなわち、エンジンが高負荷状態か中低負荷状態かを判定する。例えば、第9図のようにエンジン回転数とアクセルペダル踏み込み量のマップから領域LまたはM内のときはそれぞれ低負荷、中負荷状態と判定し、領域H内の時は高負荷状態にあると判断する。ブロック28では、ブロック27でエンジン運転状態が低負荷または中負荷と判定された場合は、衝撃波が発生するように吸気バルブを制御する。すなわち、クランク角度センサ,吸気管内圧力センサ、燃焼室内圧力センサ等の検出結果から衝撃波の発生を予測または確認し、それに同期させて燃料噴射を開始する。また、エンジン運転状態が高負荷状態と判定された場合は、運転者が要求するエンジン出力をアクセルペダルの踏み込み量から推定し、その出力を得るために吸入空気量を増やすように吸気バルブのバルブリフト量を大きくし、開弁期間を長くするように制御する。この時は、衝撃波は発生しないが燃焼室内は吸入空気量増大および回転数上昇にともない、空気流動が強くなるので、燃料噴霧と空気が充分混合されるので、燃焼も安定し、問題は無い。
・・(略)・・。さらに、ブロック61ではブロック27でエンジン運転状態が低負荷または中負荷状態と判定され、衝撃波を発生させる場合は燃料噴射開始タイミングを吸気バルブの開弁タイミングに同期させるように決定する。また、エンジンの運転状態が高負荷状態と判定され、衝撃波を発生させない場合は、排気管からの負圧波の脈動を利用して充填効率を上昇させるために排気バルブとのオーバーラップが大きくなるように、吸気バルブの開弁タイミングを進角させる。ブロック28,29で決定された吸気バルブの開閉弁タイミング,バルブリフト量および燃料噴射量,燃料噴射開始タイミングの制御信号は、それぞれブロック11の可変バルブ装置、ブロック3の燃料噴射装置に送られ、所定のタイミングで実行される。」(第13頁18行ないし第15頁3行)

上記記載事項(ア)ないし(カ)によると、引用例には、
「少なくとも吸気バルブ4の開閉タイミングを可変する可変バルブ機構11,12を搭載し、吸気行程で筒内に燃料を噴射して均質燃焼させる機能を備えた筒内噴射エンジンの制御装置において、
吸気バルブ4と排気バルブ5の両方が開いているバルブオーバーラップがあるときにも、ないときにも、燃料噴射開始タイミングを吸気バルブ4の開弁タイミングに同期させるものであって、バルブオーバーラップがないときには、さらに、燃料噴射開始タイミングを予測または確認された衝撃波の発生直後または衝撃波発生中とする燃料噴射制御手段29を備えている筒内噴射エンジンの制御装置。」
という発明(以下、「引用例に記載された発明」という。)が記載されている。

3.対比
本願発明と引用例に記載された発明を対比すると、引用例に記載された発明おける「吸気バルブ4」は、その技術的意義からみて、本願発明における「吸気バルブ」に相当し、以下同様に、「可変バルブ機構11,12」は「可変バルブタイミング機構」に、「筒内噴射エンジン」は「筒内噴射式内燃機関」に、「排気バルブ5」は「排気バルブ」に、「燃料噴射開始タイミング」は「燃料噴射時期」に、「バルブオーバーラップがあるときには、燃料噴射開始タイミングを吸気バルブ4の開弁タイミングに同期させる」は「バルブオーバーラップがあるときには燃料噴射時期をバルブオーバーラップ期間内に設定し」に、「バルブオーバーラップがないときには、燃料噴射開始タイミングを吸気バルブ4の開弁タイミングに同期させるものであって、さらに、燃料噴射開始タイミングを予測または確認された衝撃波の発生直後または衝撃波発生中とする」は「バルブオーバーラップがないときには燃料噴射時期を吸気バルブの開弁タイミング直後に設定する」に、それぞれ相当する。

してみると、本願発明と引用例に記載された発明は、
「少なくとも吸気バルブの開閉タイミングを可変する可変バルブタイミング機構を搭載し、吸気行程で筒内に燃料を噴射して均質燃焼させる機能を備えた筒内噴射式内燃機関の制御装置において、
バルブオーバーラップがあるときには燃料噴射時期をバルブオーバーラップ期間内に設定し、バルブオーバーラップがないときには燃料噴射時期を吸気バルブの開弁タイミング直後に設定する燃料噴射時期設定手段
を備えている筒内噴射式内燃機関の制御装置。」
の点で一致し、次の[相違点]で相違している。
[相違点]
本願発明においては、「吸気バルブと排気バルブの両方が開いているバルブオーバーラップの有無を判定するバルブオーバーラップ判定手段」を備え、「バルブオーバーラップがあるときには」燃料噴射時期を適宜設定するのに対し、引用例に記載された発明においては、「吸気バルブと排気バルブの両方が開いているバルブオーバーラップの有無を判定するバルブオーバーラップ判定手段」に相当する手段を備えているのか否か明らかでなく、したがって、「バルブオーバーラップがあるときには」燃料噴射時期を設定するのか否か明らかでない点(以下、単に「相違点」という。)。

4.当審の判断
引用例に記載された発明においては、「吸気バルブと排気バルブの両方が開いているバルブオーバーラップ」があるときにも、ないときにも、燃料噴射開始タイミングを吸気バルブ4の開弁タイミングに同期させるものであるが、バルブオーバーラップがないときには、さらに、燃料噴射開始タイミングを予測または確認された衝撃波の発生直後または衝撃波発生中とするのであるから、すなわち、バルブオーバーラップのある、なしによって、その制御内容を実質的に異にするのであるから、引用例に記載された発明は、バルブオーバーラップの有無を判定するバルブオーバーラップ判定手段を備えることを示唆しているものといえる。
また、吸気管内に燃料を噴射する吸気管内噴射式内燃機関ではあるが、「吸気バルブと排気バルブの両方が開いているバルブオーバーラップの有無を認識し、バルブオーバーラップ期間内に燃料噴射を開始する」ことは、周知技術[例えば、平成20年3月19日付け及び平成20年6月9日付けの拒絶理由通知書において、先行技術を示すものとして引用された特開昭58-220933号公報、同じく引用された特開平5-86942号公報、参照。]である。
そうすると、引用例に記載された発明において、上記周知技術を勘案し、もって、「吸気バルブと排気バルブの両方が開いているバルブオーバーラップの有無を判定するバルブオーバーラップ判定手段」を備えるようにし、「バルブオーバーラップがあるときには」燃料噴射時期を適宜設定するように構成することは、当業者が格別困難なく想到し得るものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用例に記載された発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-09 
結審通知日 2009-12-15 
審決日 2009-12-28 
出願番号 特願2004-22931(P2004-22931)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 畔津 圭介  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 中川 隆司
河端 賢
発明の名称 筒内噴射式内燃機関の制御装置  
代理人 永井 聡  
代理人 伊藤 高順  
代理人 加藤 大登  
代理人 碓氷 裕彦  

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