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審決分類 審判 査定不服 特29条の2 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1211931
審判番号 不服2007-13  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-04 
確定日 2010-02-10 
事件の表示 平成8年特許願第61416号「強誘電性キャパシタ」拒絶査定不服審判事件〔平成8年10月11日出願公開,特開平8-264735〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成8年3月18日(パリ条約に基づく優先権主張1995年3月20日,韓国)の出願であって,平成17年3月22日付け及び平成18年8月28日付けで手続補正がなされたところ,同年9月26日付けで,同年8月28日付けの手続補正についての却下の決定がなされ,また,同日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成19年1月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同年2月1日付けで手続補正がなされ,その後当審において,平成21年4月2日付けで審尋がなされたものである。

第2 平成19年2月1日付けの手続補正について
[補正の却下の決定の結論]
平成19年2月1日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は,平成18年8月28日付けの手続補正が却下されたため,平成17年3月22日付けで補正された本件補正前の請求項1を,本件補正後の請求項1とする補正を含むものであって,その補正事項を整理すると,以下のとおりとなる。
(1)補正事項1
本件補正前の請求項1の「前記絶縁層と前記Rh下部電極との間に介される第1RhO_(2)接着層」を,本件補正後の請求項1の「前記絶縁層と前記Rh下部電極との間に介されるRhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固容体よりなる第1接着層」と補正すること。
(2)補正事項2
本件補正前の請求項1の「前記第1RhO_(2)接着層上に備えられる強誘電体層」を,本件補正後の請求項1の「前記Rh下部電極上に備えられ,Nb,La,Zn,Ta及びScよりなる一群から選択されたいずれか一つでドーピングされたPZT,またはPZTからなる強誘電体層」と補正すること。
(3)補正事項3
本件補正前の請求項1の「前記強誘電体層上に備えられる第2RhO_(2)接着層」を,本件補正後の請求項1の「前記強誘電体層上に備えられるRhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固容体よりなる第2接着層」と補正すること。
(4)補正事項4
本件補正前の請求項1の「前記第2RhO_(2)接着層上に備えられるRh上部電極」を,本件補正後の請求項1の「前記第2接着層上に備えられるRh上部電極」と補正すること。

2 補正の目的の適否
(1)補正事項1について
ア 補正事項1は,本件補正前の「第1RhO_(2)接着層」を,本件補正後の「RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固容体よりなる第1接着層」と,接着層の素材を「RhO_(2)」から「RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固容体」に変更するものである。
イ そして,本件補正前の明細書(以下「本件明細書」という。)に,「RhO_(2)」及び「RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固容体」を含むRhO_(X)を接着層として用いることについては,次の記載のみがある。
「【請求項1】 基板と,
前記基板上に形成される絶縁層と,
前記絶縁層上に備えられるRh下部電極と,
前記絶縁層と前記Rh下部電極との間に介される第1RhO_(2)接着層と,
第1RhO_(2)接着層上に備えられる強誘電体層と,
前記強誘電体層上に備えられる第2RhO_(2)接着層と,
前記第2RhO_(2)接着層上に備えられるRh上部電極とを具備することを特徴とする強誘電性キャパシタ。」
「【0008】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成するために本発明の強誘電性キャパシタは,基板と,前記基板上に形成される絶縁層と,前記絶縁層上に備えられるRh下部電極と,前記絶縁層と前記Rh下部電極との間に介される第1RhO_(2)接着層と,前記第1RhO_(2)接着層上に備えられる強誘電体層と,前記強誘電体層上に備えられる第2RhO_(2)接着層と,前記第2RhO_(2)接着層上に備えられるRh上部電極とを具備する点にその特徴がある。」
「【0012】そして,接着層は反応性スパッタリング法により製造された20?50nmの厚さのTi,RhO_(2)(ロジウム オキサイド)またはRh_(2)O_(3),或いは,RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との混合層である。接着層を形成するためのスパッタリング装置のパワーは300?500W,望ましくは500Wであり,反応ガスの圧力は5?10mTorr,望ましくは5mTorrであり,反応ガスは7:3?8:2の重量比で混合された200?300℃範囲の温度を保つAr/O_(2)混合ガスである。」
「【0017】前記絶縁層20の上には20nm程度の厚さを有する接着層30としてのRhO_(x)またはTiよりなる薄膜が形成される。この接着層はその下部の絶縁層と後述するRh下部電極40との接着性を向上させるためのものである。」
「【0021】前記絶縁層20の上には20?50nm程度の厚さを有する第1接着層としてのRhO_(x)またはTiよりなる薄膜30aが形成される。この第1接着層はその下部の絶縁層と後述するRh下部電極40との接着性を向上させるためのものである。
【0022】前記第1接着層30aの上部にはRh(ロジウム)下部電極40が形成されるが,この厚さは約150nm以下である。そして,下部電極40の上にはPZT,Y1またはBST強誘電体層50が250nm以下の厚さで形成されている。前記強誘電体50の上にはRhO_(x)よりなる第2接着層30bが形成される。そして,最終的に前記第2接着層30bの上にはRh上部電極60が形成されている。」
「【0024】以上のような工程により絶縁層20が形成されれば,図4に示したように,TiまたはRhO_(x)の第1接着層30を形成し,その上に下部電極40をRh素材として蒸着して形成する。Rhを蒸着するにおいてはDCマグネトロンスパッタリング法を使用することが望ましく,この際の条件は温度200℃,Ar圧力9.0mTorr,パワーは500Wが望ましい。」
「【0027】以上のような方法により製造された本発明の強誘電性キャパシタにおいて,電極の素材として用いられるRhは既存の電極として用いられるPtとは異なり酸素と反応して界面に物理的に安定した導電性RhO_(x),RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との混合層を形成する。該RhO_(x)は本発明において接着層として用いられるが,該接着層はSiO_(2)絶縁層とRh電極を強く接着させ,特にPZT強誘電体の成分のPbの拡散を防止する。該RhO_(x)層は実際的にRhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固溶体である。化学的にRh_(2)O_(3)がさらに安定するのでRh_(2)O_(3)の多い相であるほど信頼性は向上される。一方,Tiを接着層として用いる場合には,電極の素材として用いられるRhが既存の電極として用いられるPtに比して組織が緻密なのでTiの拡散に非常に強く,かつ,電気伝導度及び熱伝達の特性が優秀であり電気的な特性においても優れる。このような本発明のキャパシタとPt電極を使用する従来のキャパシタの特性とを比べた結果,次のような違いを見だした。」
「【0029】図8及び図9は本発明によるキャパシタの疲労特性をそれぞれ示し,図10は従来のキャパシタの疲労特性を示す。ここで,本発明のキャパシタは強誘電体としてPZTを用い,接着層としてTiまたはRhO_(x)を用いるものである。図8及び図9に示したように,本発明のキャパシタが図10に示した従来のキャパシタに比して疲労の特性が優秀である。このような疲労特性の優秀性は,本発明のキャパシタが従来のキャパシタより寿命が長いということにある。図面においてX座標は時間のログスケールであり,本発明のキャパシタの分極値(Y座標,単位μC/cm^(2))を一定に保ち,10^(7)サイクル(図8)と10^(9)サイクルで緩やかに立下がる反面,従来のキャパシタの分極値は持続的に立下がり,10^(6)サイクルで急激に立下がる特性を示す。」
「【0031】
【発明の効果】以上のように,本発明によれば,電極としてPtの代わりにRhを用い,接着層の素材としてRhO_(x)またはTiを用いることにより,疲労の特性及びコアシブ電圧の特性が向上される。」
ウ これらの記載によれば,本件明細書には,接着層の素材である「RhO_(X)」の概念的により下位の素材として,「RhO_(2)」と「RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固容体」が択一的に記載されている。そうすると,補正事項1は,接着層の素材を択一的に記載された別の素材に変更するものであって,概念的により下位の素材に補正するものではないから,本件補正前の請求項1の発明特定事項を限定的に減縮するものではない。したがって,補正事項1は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また,補正事項1が,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。
(2)補正事項3について
補正事項3は,本件補正前の「第2RhO_(2)接着層」を,本件補正後の「RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固容体よりなる第2接着層」と,接着層の素材を「RhO_(2)」から「RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固容体」に変更するものであるから,上記(1)の補正事項1についてと同様の理由により,本件補正前の請求項1の発明特定事項を限定的に減縮するものではない。したがって,補正事項3は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また,補正事項3が,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

3 本件補正についてのむすび
以上のとおり,補正事項1及び3を含む本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成19年2月1日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?4に係る発明は,平成17年3月22日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その内の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】 基板と,
前記基板上に形成される絶縁層と,
前記絶縁層上に備えられるRh下部電極と,
前記絶縁層と前記Rh下部電極との間に介される第1RhO_(2)接着層と,
前記Rh下部電極上に備えられる強誘電体層と,
前記強誘電体層上に備えられる第2RhO_(2)接着層と,
前記第2RhO_(2)接着層上に備えられるRh上部電極とを具備することを特徴とする強誘電性キャパシタ。」
なお,本件補正前の請求項1には,「前記第1RhO_(2)接着層上に備えられる強誘電体層と,」と記載されているが,これが「前記Rh下部電極上に備えられる強誘電体層と,」の誤記であることは文脈上明らかであるから,本願発明を上記のように認定した。

2 先願発明
(1)本願の優先権主張の日前の他の出願であって,その出願後に出願公開された特願平6-198422号(平成6年8月23日出願,特開平8-64767号公報(平成8年3月8日出願公開)参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下「先願明細書」という。)には,次の記載がある。
ア 図5を参照して,「【0038】(実施例5)図5は,この発明に係る実施例5の高,強誘電体薄膜キャパシタの断面構造を示す。但し,図1と同部材は同符号を付して説明を省略する。Siもしくはガラスからなる基板1上には,高,強誘電体薄膜キャパシタの下層2が形成されている。ここで,下層2は,SiO_(2),BPSG,PSG,NSG,SiN等の絶縁膜を0.5μmの膜厚であるいはそれらの絶縁膜を介して多結晶シリコン膜をCVDで0.5μmの膜厚で形成した。前記下層2上には,ITO(酸化物)からなる第一層3a及びその上に形成された白金からなる第二層3bの2層から構成される第1の電極3が形成されている。第1の電極3の第二層3b上には,PZT等の高,強誘電体膜4が形成されている。前記高,強誘電体膜4上には,ITO(酸化物)からなる第一層51a及びその上のAlからなる第二層51bの2層から構成される第2の電極51が形成された構造になっている。」
イ 「【0044】なお,実施例5の第1の電極の第一層,第2の電極の第二層(審決注:「第二層」は「第一層」の誤記である。)のITOの代わりに酸化スズ,酸化インジウム,酸化ルテニウム,酸化ロジウム,酸化レニウム,酸化オスミウム,酸化イリジウムを用い,第1の電極の第二層の白金の代わりにパラジウム,金,ルテニウム,ロジウム,レニウム,オスミウム,イリジウムを用い,第2の電極の第二層のAlの代わり銅を用いたた場合でも同様に第2の電極と高,強誘電体薄膜界面からの剥離を防ぐことが可能となり,さらに高,強誘電体薄膜キャパシタの最良および安定したヒステリシス,リ-ク電流,耐圧,誘電率等の特性を得ることができた。」
ウ 「【0095】15.(実施例5に対応)・・・
【0096】[作用] この構造において,第一層(酸化物)3aは下層2との接着層の役割を果たすと共に下層2からのSi等の拡散物を阻止する働きをする。また,第二層(金属)3bは,高,強誘電体薄膜キャパシタの最良および安定した誘電率,ヒステリシス,リ-ク電流,耐圧等の特性を引き出す役目をする。更に,第一層(酸化物)51aは,高,強誘電体膜4との良好な接着力を持っていると共に,500℃以上の高温熱処理を施しても高,強誘電体膜4に拡散等の影響を及ぼすことがない。更に,Al,Cuのうち少なくとも一つを主成分としている第二層(金属)51bは,第2の電極51の抵抗を下げる作用をする。」
(2)上記(1)アによれば,先願発明は,高,強誘電体薄膜キャパシタであるから,「強誘電性キャパシタ」に関するものである。
(3)上記(1)アによれば,先願明細書には,Siからなる基板1上に,SiO_(2)等の絶縁膜からなる下層2が形成されていることが記載されているから,基板1上に形成された絶縁膜からなる下層2が開示されている。
(4)上記(1)ア及びイによれば,先願明細書には,下層2上には,ITO(酸化物)からなる第一層3a及びその上に形成された白金からなる第二層3bの2層から構成される第1の電極3が形成されていること,及び,第1の電極3の第一層3aのITOの代わりに酸化ロジウムを用い,第1の電極3の第二層3bの白金の代わりにロジウムを用いることが記載されているから,下層2上に形成されたロジウムからなる第1の電極3の第二層3bと,下層2と第1の電極3の第二層3bとの間に形成された酸化ロジウムからなる第1の電極3の第一層3aが開示されている。
(5)上記(1)アによれば,先願明細書には,第1の電極3の第二層3b上には,PZT等の高,強誘電体膜4が形成されていることが記載されているから,第1の電極3の第二層3b上に形成された高,強誘電体膜4が開示されている。
(6)上記(1)ア及びイによれば,先願明細書には,高,強誘電体膜4上には,ITO(酸化物)からなる第一層51a及びその上のAlからなる第二層51bの2層から構成される第2の電極51が形成されること,及び,第2の電極51のITOの代わりに酸化ロジウムを用いることが記載されているから,高,強誘電体膜4上に形成された酸化ロジウムからなる第2の電極51の第一層51aと,第2の電極51の第一層51a上に形成されたAlからなる第2の電極51の第二層51bが開示されている。
(7)よって,先願明細書には,以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。
「基板1と,
基板1上に形成された絶縁膜からなる下層2と,
下層2上に形成されたロジウムからなる第1の電極3の第二層3bと,
下層2と第1の電極3の第二層3bとの間に形成された酸化ロジウムからなる第1の電極3の第一層3aと,
第1の電極3の第二層3b上に形成された高,強誘電体膜4と,
高,強誘電体膜4上に形成された酸化ロジウムからなる第2の電極51の第一層51aと,
第2の電極51の第一層51a上に形成されたAlからなる第2の電極51の第二層51bとを具備することを特徴とする強誘電性キャパシタ。」

3 本願発明と先願発明との対比
(1)先願発明の「基板1」は本願発明の「基板」に相当し,また,先願発明の「下層2」は,絶縁膜からなるから,本願発明の「絶縁層」に相当する。したがって,先願発明の「基板1上に形成された絶縁膜からなる下層2」は,本願発明の「前記基板上に形成される絶縁層」に相当する。
(2)先願発明の「第1の電極3の第二層3b」は,ロジウムからなるから,本願発明の「Rh下部電極」に相当する。したがって,先願発明の「下層2上に形成されたロジウムからなる第1の電極3の第二層3b」は,本願発明の「前記絶縁層上に備えられるRh下部電極」に相当する。
(3)本件明細書の段落【0012】の記載(上記第2,2(1)イ参照)によれば,本願発明の「RhO_(2)」は,「ロジウム オキサイド」すなわち酸化ロジウムである。そうすると,先願発明の「第1の電極3の第一層3a」は,酸化ロジウムからなり,また,上記2(1)ウによれば下層2との接着層の役割を果たすことから,本願発明の「第1RhO_(2)接着層」に相当する。したがって,先願発明の「下層2と第1の電極3の第二層3bとの間に形成された酸化ロジウムからなる第1の電極3の第一層3a」は,本願発明の「前記絶縁層と前記Rh下部電極との間に介される第1RhO_(2)接着層」に相当する。
(4)先願発明の「高,強誘電体膜4」は,本願発明の「強誘電体層」に相当するから,先願発明の「第1の電極3の第二層3b上に形成された高,強誘電体膜4」は,本願発明の「前記Rh下部電極上に備えられる強誘電体層」に相当する。
(5)本願発明の「RhO_(2)」が,酸化ロジウムであることは,前示(3)のとおりである。そうすると,先願発明の「第2の電極51の第一層51a」は,酸化ロジウムからなり,また,上記2(1)ウによれば高,強誘電体膜4と良好な接着力を持っているから,本願発明の「第2RhO_(2)接着層」に相当する。したがって,先願発明の「高,強誘電体膜4上に形成された酸化ロジウムからなる第2の電極51の第一層51a」は,本願発明の「前記強誘電体層上に備えられる第2RhO_(2)接着層」に相当する。
(6)先願発明の「第2の電極51の第二層51b」は,Rhであることは別にして,本願発明の「Rh上部電極」に対応する。したがって,先願発明の「第2の電極51の第一層51a上に形成されたAlからなる第2の電極51の第二層51b」は,本願発明の「前記第2RhO_(2)接着層上に備えられるRh上部電極」に対応し,本願発明と先願発明は,本願発明がRhであることは別にして,「前記第2RhO_(2)接着層上に備えられる上部電極」を具備する点で共通する。
(7)以上のことを踏まえると,本願発明と先願発明とは,
「基板と,
前記基板上に形成される絶縁層と,
前記絶縁層上に備えられるRh下部電極と,
前記絶縁層と前記Rh下部電極との間に介される第1RhO_(2)接着層と,
前記Rh下部電極上に備えられる強誘電体層と,
前記強誘電体層上に備えられる第2RhO_(2)接着層と,
前記第2RhO_(2)接着層上に備えられる上部電極とを具備することを特徴とする強誘電性キャパシタ。」
である点で一致し,以下の点で一応相違する。
<一応の相違点>
上部電極が,本願発明では,Rhであるのに対して,先願発明では,Rhでない点。

4 当審の判断
(1)上記一応の相違点について検討すると,まず,本件明細書に,電極としてRhを用いることの意義,及び,上部電極をRhとすることについては,次の記載のみがある。
「【請求項1】 基板と,
前記基板上に形成される絶縁層と,
前記絶縁層上に備えられるRh下部電極と,
前記絶縁層と前記Rh下部電極との間に介される第1RhO_(2)接着層と,
第1RhO_(2)接着層上に備えられる強誘電体層と,
前記強誘電体層上に備えられる第2RhO_(2)接着層と,
前記第2RhO_(2)接着層上に備えられるRh上部電極とを具備することを特徴とする強誘電性キャパシタ。」
「【0002】
【従来の技術】強誘電性キャパシタは電荷の伝達のために伝導性のよい電極を要する。一般に使用される白金電極は強誘電性膜の疲労(layer fatigue)現象による電気的特性の劣化が問題となっている。
【0003】既存の電極として主に用いられるPtまたはPt/Ti電極とPZT(PbZrTiO_(3))などの強誘電体との界面に酸素空乏(Oxygen vacancy)により電気的な特性が急激に低下する。即ち,強誘電体から拡散する酸素空乏は界面で蓄積されつつ,分極反転時の分極値が急激に減少して膜の疲労をもたらす。
【0004】このような疲労を加重させる酸素空乏が界面に拡散されて空間電荷領域に形成されることを抑制するためにRuO_(2)のような導電性酸化物電極が提案された。この導電性酸化物電極は前述したように膜の疲労現象を遅らせるが,漏れ流が多くてメモリ素子として使用しにくいという欠点を有する。このような原因は,導電性酸化物電極と強誘電体との界面に存在する欠陥による電子障壁値(BarrierHeight)が減少して電流の漏れを増加させる。特に,PZTが用いられる場合,下部電極として用いられるRu(ルテニウム)金属が拡散されてPZTの結晶粒子の境界でPbOと反応して導電性物質である鉛-ルテニウム酸塩(PbRuO_(3-x))を形成することにより強誘電体薄膜の電気抵抗を低減させる。
【0005】一方,FeRAMの構造上,Pt電極をSiO_(2)絶縁膜上に蒸着すべきであるが,この場合に二つの物質間の接着性が悪くて接着層としてのTi薄膜をこの間に介しなければならない。ところが,Tiは酸素との親和力が非常によいのでPZTまたはY1を蒸着するとき,下部電極であるPt層を突き抜いて拡散される傾向があってPZTまたはY1の特性を劣化させる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明はTiの拡散による強誘電体の特性低下を抑制しうる強誘電性キャパシタ及びその製造方法を提供するにその目的がある。
【0007】また,本発明は疲労が少なくて長時間にかけて使用できる強誘電性キャパシタ及びその製造方法を提供するにその目的がある。」
「【0008】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成するために本発明の強誘電性キャパシタは,基板と,前記基板上に形成される絶縁層と,前記絶縁層上に備えられるRh下部電極と,前記絶縁層と前記Rh下部電極との間に介される第1RhO_(2)接着層と,前記第1RhO_(2)接着層上に備えられる強誘電体層と,前記強誘電体層上に備えられる第2RhO_(2)接着層と,前記第2RhO_(2)接着層上に備えられるRh上部電極とを具備する点にその特徴がある。」
「【0018】前記接着層30の上部にはRh(ロジウム)下部電極40が形成されるが,この厚さは約150nm以下である。そして,下部電極40の上にはPZT,Y1またはBST強誘電体層50が250nm以下の厚さで形成されている。そして,最終的に前記強誘電体層50の上にはRh上部電極60が形成されている。」
「【0022】前記第1接着層30aの上部にはRh(ロジウム)下部電極40が形成されるが,この厚さは約150nm以下である。そして,下部電極40の上にはPZT,Y1またはBST強誘電体層50が250nm以下の厚さで形成されている。前記強誘電体50の上にはRhO_(x)よりなる第2接着層30bが形成される。そして,最終的に前記第2接着層30bの上にはRh上部電極60が形成されている。
【0023】以上のような構造の本発明の実施例によるキャパシタは電極の素材としてRhを用いるということにその特徴があるが,その製造方法は次の通りである。まず,図3に示したように,シリコンウェーハの上にSiO_(2)絶縁層20を形成する。このような酸化物層は一般の蒸着法と酸化法で形成される。」
「【0026】強誘電体層の形成後には,図6に示したように第2接着層30bとRh上部電極60を形成するが,前記第1接着層と下部電極と同様な方法で形成される。
【0027】以上のような方法により製造された本発明の強誘電性キャパシタにおいて,電極の素材として用いられるRhは既存の電極として用いられるPtとは異なり酸素と反応して界面に物理的に安定した導電性RhO_(x),RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との混合層を形成する。該RhO_(x)は本発明において接着層として用いられるが,該接着層はSiO_(2)絶縁層とRh電極を強く接着させ,特にPZT強誘電体の成分のPbの拡散を防止する。該RhO_(x)層は実際的にRhO_(2)とRh_(2)O_(3)との固溶体である。化学的にRh_(2)O_(3)がさらに安定するのでRh_(2)O_(3)の多い相であるほど信頼性は向上される。一方,Tiを接着層として用いる場合には,電極の素材として用いられるRhが既存の電極として用いられるPtに比して組織が緻密なのでTiの拡散に非常に強く,かつ,電気伝導度及び熱伝達の特性が優秀であり電気的な特性においても優れる。このような本発明のキャパシタとPt電極を使用する従来のキャパシタの特性とを比べた結果,次のような違いを見だした。
【0028】図7に示した本発明の実施例によるキャパシタのXRD分析表は,Rhを電極として用いる場合,Ptを電極として用いる場合とは異なりPZTが(001)方向にエピタキシャル成長されることにより,このエピタキシャル成長されたPZTによりコアシブ電圧が低くなることがわかる。」
「【0031】
【発明の効果】以上のように,本発明によれば,電極としてPtの代わりにRhを用い,接着層の素材としてRhO_(x)またはTiを用いることにより,疲労の特性及びコアシブ電圧の特性が向上される。」
これらの記載によれば,本件明細書には,「電極の素材として用いられるRhは既存の電極として用いられるPtとは異なり酸素と反応して界面に物理的に安定した導電性RhO_(x),RhO_(2)とRh_(2)O_(3)との混合層を形成する。該RhO_(x)は本発明において接着層として用いられるが,該接着層はSiO_(2)絶縁層とRh電極を強く接着させ,特にPZT強誘電体の成分のPbの拡散を防止する。」(段落【0027】),「Rhを電極として用いる場合,Ptを電極として用いる場合とは異なりPZTが(001)方向にエピタキシャル成長されることにより,このエピタキシャル成長されたPZTによりコアシブ電圧が低くなる」(段落【0028】)と,SiO_(2)絶縁層上に備えられ,PZT強誘電体がエピタキシャル成長される下部電極を,Rhとすることの技術的意義は明記されている。しかしながら,上部電極をRhとすることについては,何らの特別な技術的意義の開示もなく,単に実施例として記載されているにすぎない。したがって,本願発明において上部電極をRhとすることは,先願発明が実施者の適宜の選択にゆだねていた設計的事項について,上部電極の素材を特定してみたにすぎず,その特定に格別の技術的意義を見いだすことはできない。
(2)また,強誘電性キャパシタの上部電極を,下部電極と同じRhで形成することは,例えば下記の周知例1又は周知例2に記載されているように,強誘電性キャパシタにおいて従来周知の技術である。そうすると,本願発明の上部電極がRhであるという一応の相違点に係る構成は,先願発明で採用し得る種々の上部電極として,従来周知である下部電極と同じRhに特定したにすぎないものというべきであり,先願発明との実質的な相違点とはいえないから,一応の相違点の存在をもって,本願発明が先願発明とは異なる別の発明であるということはできない。

周知例1:特開平4-92468号公報(平成18年3月23日付けの拒絶の理由で提示された周知例)
「2.特許請求の範囲
1)強誘電体膜が半導体基板上に集積された半導体装置に於て,前記強誘電体を挟む上,下電極の少なくとも1層以上が,Au,Cu,Ag,Ni,Co,Pt,Rh,W等の電解,又は無電解メッキ層より成ることを特徴とする半導体装置。」(1頁左下欄6?12行)
「[産業上の利用分野]
本発明は,半導体装置,特に強誘電体を用い,電気的に書き換え可能な不揮発性メモリの構造に関するものである。」(1頁右下欄4?7行)

周知例2:特開平3-214717号公報(平成16年12月13日付けの拒絶の理由で提示された先行技術文献4)
「2.特許請求の範囲
・・・
3.電気的セラミック酸化物コンデンサにおいて,ルテニウム,イリジウム,オスミウム,ロジウム,ルテニウム酸化物,イリジウム酸化物,オスミウム酸化物,ロジウム酸化物からなるグループから選択した物質からなる第一物体を具備する第一電極,第二電極,前記第一電極と前記第二電極との間に配設されている電気的セラミック酸化物誘電体物質,を有することを特徴とする電気的セラミック酸化物コンデンサ。
・・・
5.特許請求の範囲第3項において,前記第二電極が,ルテニウム,イリジウム,オスミウム,ロジウム,ルテニウム酸化物,イリジウム酸化物,オスミウム酸化物,ロジウム酸化物からなるグループから選択される物質からなる第一物体を具備していることを特徴とする電気的セラミック酸化物コンデンサ。
6.特許請求の範囲第5項において,前記第一及び第二電極の各々における電気第一物体が,ルテニウム酸化物,イリジウム酸化物,オスミウム酸化物,ロジウム酸化物からなるグループから選択されるものであり,且つ前記第一及び第二電極の各々が,更に,ルテニウム,イリジウム,オスミウム,ロジウムからなるグループから選択される物質からなる第二物体を具備しており,前記第一物体が前記電気的セラミック酸化物誘電体物質と前記第二物体との間に配設されていることを特徴とする電気的セラミック酸化物コンデンサ。」(1頁左下欄4行?2頁右上欄3行)
「技術分野
本発明は,電気的セラミック酸化物装置に関するものである。更に詳細には,本発明は,ルテニウム,イリジウム,オスミウム,ロジウム及びこれらの金属の導電性酸化物の何れかによって構成される電極を持った電気的セラミック酸化物装置に関するものである。これらの電極は,例えば,マイクロ電子メモリ,高温超導電体,電気光学装置用の強誘電体コンデンサ用に使用するような電気的セラミック酸化物に対して良好なコンタクトを形成する。」(3頁右下欄7?17行)

5 まとめ
以上検討したとおり,本願発明は,先願発明と同一であり,しかも,本願発明の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも,また,本願の出願時に,その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので,本願発明は,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおりであるから,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-07 
結審通知日 2009-09-08 
審決日 2009-09-25 
出願番号 特願平8-61416
審決分類 P 1 8・ 16- Z (H01L)
P 1 8・ 572- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國島 明弘  
特許庁審判長 廣瀬 文雄
特許庁審判官 安田 雅彦
近藤 幸浩
発明の名称 強誘電性キャパシタ  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 奈良 泰男  
代理人 八田 幹雄  

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