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審判番号(事件番号) データベース 権利
不服20056282 審決 特許
不服200627219 審決 特許

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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1211939
審判番号 不服2007-10988  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-04-16 
確定日 2010-02-10 
事件の表示 特願2006- 14221「Swedish変異を有するAPP対立遺伝子を含有するトランスジェニック動物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月18日出願公開、特開2006-122059〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年10月18日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年10月27日 米国、1993年11月1日 米国)とする特願平7-512698号の一部を特許法第44条第1項の規定により、平成18年1月23日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明は、平成19年5月16日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】アミロイド前駆体タンパク質のβ-アミロイドペプチドへのプロセシングに影響を及ぼす事が出来る物質をスクリーニングする方法において、
ヒトAPP695における位置595及び596に対応する位置のアミノ酸残基がそれぞれアスパラギン及びロイシンであるSwedish変異を有するヒトAPPポリペプチドをコードするトランスジーンを含んで成る二倍体ゲノムを有するトランスジェニック齧歯動物を用意し、ここで、前記トランスジーンは発現されて前記Swedish変異を有するヒトAPPポリペプチドを産生するものであり、そして前記ポリペプチドは、前記トランスジェニック齧歯動物の脳ホモジネート中で、APPと反応することなくATF-βAPPと反応する抗体を用いることにより検出される量でATF-βAPPにプロセッシングされ、
前記トランスジェニック齧歯動物を物質と接触せしめ、そして
前記物質が開裂に影響を及ぼすのを示すために、前記接触されたトランスジェニック齧歯動物における、β-アミロイドペプチドのN-末端とATF-βAPPとの間での前記アミロイド前駆体タンパク質の開裂を、対照トランスジェニック齧歯動物での開裂と比較してモニターする、
ことを含んで成る方法。」(以下、「本願発明」という。)
2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由で引用文献3として引用された本願優先日前の1993年8月23日に頒布された刊行物Society for Neuroscience ABSTRACTS (1993) Vol.19, part2, p.1035 (Abstract 421.15)(以下、「引用例1」という。)は、本願発明者が共著者である講演要旨集であって、
(i)「トランスジェニックマウスにおけるヒトアルツハイマーアミロイド前駆体タンパク質の発現」(表題)、
(ii)「アルツハイマー病(AD)は、神経細胞の脱落と2つの病変、すなわち、神経原線維変化(NFTs)と老人斑(SPs)によって組織病理学的に特徴付けられる神経変性疾患である。AD関連神経病理を模倣する動物モデルは、ADを引き起こす病態生理的メカニズムに関する我々の理解を促進し、AD治療法の開発の助けになるだろう。」(第1行?第7行)、
(iii)「A/bペプチドはSPの病態生理学的に活性な構成要素であると考えられている。このペプチドはアルツハイマーアミロイド前駆体タンパク質(APPs)として知られるタンパク質のファミリーからタンパク質分解によって生成される。最近のデータはAPP中の変異が家族性ADのいくつかの形態の原因であることを示し、APPが疾患のプロセスの中心であることを示唆している。」(第9行?第15行)、
(iv)「ADのための動物モデルを開発する我々のアプローチは、家族性AD変異を発現するAPPトランスジェニックマウス系統を作成することである。NSEプロモーターを使用し、我々は野生型、オランダ型、及び、スウェーデン型APP751を発現する系統を作成した。」(第15行?第19行)、と記載されている。
また、原査定の拒絶の理由で引用文献4として引用された本願優先日前の1993年8月23日に頒布された刊行物Society for Neuroscience ABSTRACTS (1993) Vol.19, part2, p.1035 (Abstract 421.13)(以下、「引用例2」という。)は、引用例1と同じ研究集会の講演要旨集であって、引用例1と同じ頁に、
(v)「トランスジェニックマウスにおけるヒトベータ-アミロイド前駆体タンパク質(APP)のニューロン特異的発現」(表題)、
(vi)「β/A4タンパク質の脳における蓄積は、アルツハイマー病の特徴である。βA/4タンパク質のプロセッシングと沈着の動物モデルを開発する試みにおいて、我々は神経特異的ラットシナプシンIプロモーターを、野生型APP751、VからIへ、あるいは、KMからNLへの家族性アルツハイマー病(FAD)変異を含むAPP751、及び、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血に関するEからQへの変異、オランダ型と融合させたトランスジーンを用いるトランスジェニックマウスを作成した。野生型とKMからNLへのFAD変異を含むAPP695トランスジーンもまた構築された。」(第1行?第7行)、
(vii)「脳におけるトランスジーンの発現レベルは系統間で400倍まで異なり、そのため、動物は、引き続く分析のために、発現量が最大であるものから優先付けされた。」(第11行?第13行)、
(viii)「ウェスタンブロット分析はヒトAPP751タンパク質が内因性APP751と比較してトランスジェニック脳中で過剰発現することを明らかにした。」(第17行?第18行)、と記載されている。
3.対比
そこでまず、本願発明と引用例1に記載された事項を比較すると、引用例1の、「アルツハイマーアミロイド前駆体タンパク質」及び「A/bペプチド」は、本願発明の「アミロイド前駆体タンパク質」及び「β-アミロイドペプチド」にそれぞれ相当し、また、引用例1の「スウェーデン型APP751」は、上記引用例1記載事項(i)及び(iv)の記載から、スウェーデン型の家族性アルツハイマー病変異を有するヒトアルツハイマーアミロイド前駆体タンパク質であるから、本願発明の「ヒトAPP695における位置595及び596に対応する位置のアミノ酸残基がそれぞれアスパラギン及びロイシンであるSwedish変異を有するヒトAPPポリペプチド」(以下統一して、「変異APP」という。)に相当する。さらに、マウスは二倍体の生物であり、「系統」とは、祖先を共通とし遺伝子型の等しい個体群、すなわち有性生殖によってもその遺伝子型が維持されるものを意味するのであるから、引用例1の、NSEプロモーターを使用し、スウェーデン型APP751を発現するトランスジェニックマウス系統は、本願発明の「変異APPをコードするトランスジーンを含んで成る二倍体ゲノムを有し、前記トランスジーンは発現されて前記変異APPを産生するトランスジェニック齧歯動物」(以下簡略化して、「変異APPトランスジェニック齧歯動物」という。)に相当する。
そして、本願発明と引用例1に記載された事項は、変異APPトランスジェニック齧歯動物に関連するものである点で共通するが、両者は、
(a)本願発明は、変異APPトランスジェニック齧歯動物を物質と接触せしめ、その物質がβ-アミロイドペプチド(以下、「βAP」という。)のN-末端とATF-βAPPとの間での変異APPの開裂に影響を及ぼすのを示すため、変異APPの開裂を、対照トランスジェニック齧歯動物での開裂と比較してモニターすることを含んでなる、変異APPのβAPへのプロセッシングに影響を及ぼすことができる物質をスクリーニングする方法であるのに対して、引用例1には、変異APPトランスジェニック齧歯動物を、アルツハイマー病(以下、「AD」という。)のための動物モデルとして用いることが記載されているものの、本願発明のように、該トランスジェニック齧歯動物を用いて上記物質のスクリーニングをすることは記載されていない点、
(b) 変異APPトランスジェニック齧歯動物において発現する変異APPについて、本願発明では,変異APPトランスジェニック齧歯動物の脳ホモジネート中で、変異APPと反応することなくATF-βAPPと反応する抗体を用いることにより検出される量でATF-βAPPにプロセッシングされるものであるのに対し、引用例1には、発現する変異APPが脳ホモジネート中で特定の抗体により検出する量でプロセッシングされることは記載されていない点、
の2点で相違する。

4.当審の判断
(1)相違点(a)について
引用例1には、変異APPトランスジェニック齧歯動物を、AD関連神経病理を模倣する動物モデルとして、ADを引き起こす病態生理的メカニズムの理解の促進と、AD治療法の開発のために用いることが記載されている(記載事項(ii)乃至(iv))。
また、同じく変異APPトランスジェニック齧歯動物を作製したことが記載された引用例2の記載事項(vi)には、「変異APPトランスジェニックマウスをβA/4タンパク質(本願発明の「βAP」に相当する。)のプロセッシングと沈着の動物モデルとして用いることが記載されている。
一般に、疾病のモデル動物をその治療薬剤のスクリーニングに用いることは、本願優先日前、既に周知慣用の手段(必要があれば、原審の拒絶の理由において引用文献1として引用された国際公開第91/19810号参照。)であり、そもそも疾病のモデル動物作製の目的の一つでもあるから、上記引用例1及び2に記載の変異APPトランスジェニック齧歯動物を、治療薬剤としての候補物質のスクリーニングに用いようとすることは、当業者の極めて自然な発想である。
そしてその際、変異APPのβAPへのプロセッシング及び沈着が、家族性アルツハイマー病(FAD)の原因であることは本願優先日前、既に周知の技術的事項(Nature(1992)Vol.360,p.672-674の特に第360頁右欄下から第21行?下から第12行、Science(1993)Vol.259,p.514-516の特に第514頁要約の項第3行?第8行、上記国際公開第91/19810号参照。)であるから、その候補物質が、変異APPからβAPへの開裂に及ぼす影響を、物質と接触させない対照トランスジェニック齧歯動物での開裂と比較してモニターすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、引用例1及び2に記載された変異APPトランスジェニック齧歯動物に候補物質を接触させて、その変異APPのβAPへのプロセッシングに影響を及ぼすことができる物質をスクリーニングしようとすることは、上記周知事項から当業者が容易に想到し得ることである。
(2)相違点(b)について
本願発明は、発現する変異APPについて、「変異APPトランスジェニック齧歯動物の脳ホモジネート中で、APPと反応することなくATF-βAPPと反応する抗体を用いることにより検出される量でATF-βAPPにプロセッシングされる」と特定している。この特定は、ATF-βAPP特異的抗体を用いる方法で特定しているものではなく、発現する変異APPが、ATF-βAPPとβAPに開裂する量が、脳ホモジネート中でATF-βAPP特異的抗体により検出される量であるという、開裂される量を特定するものであるが、この量は、用いる抗体の結合親和性、その結合の検出方法に依存するものであるから、当該量の範囲は明確でなく、その下限値はあいまいで幅広く解し得るものである。
一方、引用例1に記載された変異APPトランスジェニックマウスは、NSEプロモーター(本優先日前の技術常識から、ニューロン特異的エノラーゼ(Neuron Specific Enolase)プロモーターと認められる。)を使用して変異APPを発現させるものであって(記載事項(iv))、当該プロモーターが当該トランスジェニックマウスの脳内で当該変異ヒトAPPを、当該トランスジェニックマウスがADの動物モデルとなるのに十分な量発現させることができることは、引用例1に接した当業者に自明の技術的事項である。
しかも、トランスジェニックマウスの作成において、導入された遺伝子のコピー数の差異等によって個体間で導入遺伝子の発現に差異が見られることは通常であり、所望の形質を獲得した個体を選抜することは本願優先日前の技術常識であることを参酌すると(引用例2記載事項(vii)及び(viii)参照)、引用例1においても、形質転換したトランスジェニックマウスから変異ヒトAPPの脳内発現量が十分である個体を選抜して取得することは当然行われることであり、引用例1に記載されたトランスジェニックマウスは、この点からも変異APPの脳内発現量が十分なものであるといえる。また仮に、引用例1に記載のトランスジェニックマウスが、変異APPを十分発現しているかどうか不明であるとした場合であっても、上記のような手法により、その発現が十分なトランスジェニックマウスを得ることは、当業者であれば容易になし得ることである。
そして、変異APPが十分発現すれば、それがATF-βAPPとβAPに、検出されるのに十分な量で開裂されることは、上記(1)に記載した周知文献にも記載のように、培養細胞中で変異APP遺伝子を発現させると、野生型APP遺伝子を発現させた場合に比べ、βAPが数倍の量検出されるという本願優先日前周知の技術的事項から、当業者が当然予測することである。
してみれば、上記相違点(b)は、引用例1に記載されたに等しい事項、または自明な事項であり、実質的な相違点ではない。あるいは少なくとも、引用例1及び2の記載及び上記周知事項から容易に想到し得ることであり、この点に格別な技術的特徴は見いだせない。
(3)本願発明の効果について
本願発明において奏される効果である、βAPの産生および/または蓄積を低下させる効果を有する剤をスクリーニングできることは(本願明細書段落【0119】)は、上記引用例1及び2の記載並びに上記周知事項から予測できる範囲のことであり、格別顕著な効果とはいえない。
(4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成19年6月21日付で提出した審判請求書の手続補正書において、本願優先日前にアルツハイマー病のトランスジェニック動物のモデルを生成することが可能であるかどうかという疑念が当業界に存在したこと、並びに、脳ホモジネートにおいて検出できる量のATF-βAPPの存在は、トランスジェニック動物がアルツハイマー病の有用なモデルであることを示すものであって、当該トランスジェニック動物のスクリーニングへの使用を可能にするマーカーであるところ、引用例1及び2は、脳ホモジネートにおいて検出できる量のATF-βAPPを生成するトランスジェニック動物のサブセットを教示しておらず、本願発明を予測することができない旨主張している。
しかしながら、引用例1及び2には、ADの動物モデルになり得る変異APPトランスジェニックマウスが記載されているのであるから、本願優先日前にADの動物モデルの生成に係る疑念が存在するという上記請求人の主張は失当である。
そして、引用例1に記載のトランスジェニックマウスがADの動物モデルである以上、変異APPの脳内発現量が十分である個体を取得することは当然であって何らの困難性を伴うものではなく、そうして選択された個体は、上記変異APPが脳ホモジネート中で、APPと反応することなくATF-βAPPと反応する抗体を用いることにより検出される量でATF-βAPPにプロセッシングされる(すなわち、β-アミロイドペプチドAPを生成する)ものといえるのは、上記(2)で述べた理由のとおりである。
さらに、ATF-βAPPと特異的に反応する抗体といっても、その抗原との結合親和性はさまざまであり、特定の抗体と反応する量というのであれば、何らかの量の特定になっているともいえるが、本願発明においてはそのような特定はないので、検出される量がどの程度のものか不明であり、結局、本願発明の「抗体を用いることにより検出される量でATF-βAPPにプロセッシングされる」とは、実質的には検出される量の限定ではなく、発現した変異APPがトランスジェニックマウスの脳でプロセッシングされて開裂されるものであるという周知の事項が記載されているにすぎないものである。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。
(5)小括
以上の点からみて、本願発明は、引用例1及び2の記載並びに上記周知事項から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-14 
結審通知日 2009-09-15 
審決日 2009-09-30 
出願番号 特願2006-14221(P2006-14221)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 正展  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
北村 弘樹
発明の名称 Swedish変異を有するAPP対立遺伝子を含有するトランスジェニック動物  
代理人 西山 雅也  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  
代理人 吉田 維夫  
代理人 石田 敬  
代理人 吉田 維夫  

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