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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60L
管理番号 1211949
審判番号 不服2008-3808  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-02-18 
確定日 2010-02-10 
事件の表示 特願2002- 12439「電気推進車両への電力供給システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月23日出願公開,特開2002-238107〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成14年1月22日(パリ条約による優先権主張2001年1月24日,仏国)の出願であって,平成19年11月12日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年2月18日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願の発明
本願の請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,平成19年6月4日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「主電動機(3)を備える電気推進車両(2)用電力供給システムであって,主電動機(3)に電力を供給するための車両(2)に搭載され,再充電可能な自律電力供給システムと,本線電力供給網(10)に接続された電力供給システムを備えた少なくとも1つの駅(1)と,車両が駅(1)に停車する際に自律電力供給システムを充電するために,車両が駅(1)に接近すると車両の自律電力供給システム(6)を駅(1)の電力供給システムと電気的に接続する接続手段(5,7)とを有し,車両に搭載される前記自律電力供給システムはスーパーコンデンサのバッテリ(6)を含み,駅の前記電力供給システムは運動エネルギー蓄積システム(9)を含むことを特徴とする電力供給システム。」

3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-78702号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 牽引システム(1)によって給電する電気牽引モータ(M1-M4)と,前記牽引システムを懸垂線(3)に接続するパンタグラフ手段(2)とを装備した電気牽引車両のための電源システムであって,更に,車両上に搭載し,フライホイールを形成する回転子を有し,モータとしてまたは発電機として動作する回転機械を有する運動エネルギ蓄積システム(5)を含む自律電源装置と,充電期間中前記車両の駅内での停止の間,前記運動エネルギ蓄積システム(5)を主電源に接続し,放電期間中前記牽引システム(1)に接続する手段(2,18)と,を組み合わせて含み,前記運動エネルギ蓄積システム(5)が,前記車両の制動エネルギを回復するシステムであること,を特徴とする電源システム。」

(イ)「【0007】図1に示すのは,先に掲示した多数の解決策を組み合わせた,自律路面電車の電力回路図である。この回路は,車両の車輪を駆動するためのモータM1,M2,M3,M4に給電する牽引システム1を構成する。牽引システム1には,一方では従来方式(conventional regime)で懸垂線3からパンタグラフ2を介して給電し,他方では自律方式で,車両上で携行する自律電源装置によって給電する。自律電源装置には全体として参照番号4を付してある。
【0008】車載装置4は,運動エネルギ蓄積システム5と,バックアップ予備システム6とを備え,これら双方は,懸垂線3からの供給エネルギを伝送するパンタグラフ2と共に共通点7に接続してある。運動エネルギ蓄積システム5は,永久磁石を有する多相同期モータ10を備え,その回転子は,それ自体公知の態様で,外側に取り付けてあり,慣性質量として作用する。このモータには,可変周波数電子電源装置11を関連させてあり,モータ10の速度の関数として,固定電圧を調整できるようにしてある。IGBTトランジスタ・ブリッジ12を補助として用いて,モータ10の一相に給電する場合を図1に示す。」

(ウ)「【0010】具体的には,これによって次のことが可能となる。
-自律モードにおいて良好な性能レベルを車両に確保すること。
-電圧変換用電子システムや電磁接続部材を全く採用することなく,懸垂線供給と運動エネルギ蓄積システム5による供給との間で,容易に切り替えること。
-牽引システム1から回復する制動エネルギに基づき,運動エネルギ蓄積システム5の再充電容量を高めること。バックアップ予備システム6は,牽引バッテリ14を備えており,これには,パンタグラフ2に接続した充電器16を関連させ,懸垂線3または外部の電源回路のいずれかにリンクさせるようにしてある。外部電源回路については,図2を参照して説明する。
【0011】バックアップ予備システム6は,回路遮断器17を回路遮断器18と組み合わせることによって,牽引システム1に接続することができる。また,回路遮断器19を介して,主電源3に接続し,牽引バッテリ14を充電することもできる。接続部20は,システム5が牽引システム1に運動蓄積エネルギを供給できるようにする。図2に概略的に示すのは,本発明の電源システムを装備した路面電車の停車駅である。この駅は,接触ワイヤ23を支持する天蓋22を備えている。接触ワイヤ23は,軌道24上に位置し,高電圧主電源によって給電を行う。このワイヤは,路面電車のパンタグラフ2と協同し,路面電車が駅に停車している間に,運動エネルギ蓄積システム5およびバックアップ予備システム6を再充電するためのものである。」

(エ)「【0013】この連続動作の様子は次の通りである。頭上に懸垂線がある地帯から自律地帯まで,車両を動かす場合を例として取り上げる。
1)駅(図2)に停車する際,運転手の命令で従来の制御装置(図示せず)によってパンタグラフ2を下ろし,補助機器を低電力に移行させ,エネルギ発生器に切り替わった運動エネルギ蓄積システム5によって給電させる。
2)次に,牽引システム1の命令により,運動エネルギ蓄積システム5は必要な電力を供給することによって,車両を起動させ,速度を次第に上昇させる。制動中,牽引システム1は,運動エネルギ蓄積システム5にエネルギを送る。
3)牽引を再開させる必要がある場合,または運転の都合または路線によって不意の停止を強行した場合,運動エネルギ蓄積システム5上の消費は大幅に増加する。したがって,図3を参照して説明するエネルギ管理によって,車両が次の駅に到達するための十分なエネルギを確保しつつ車両の牽引性能を最適化することによって,この消費を制限することを可能にする。
4)次の駅において,パンタグラフ2を上げて,エネルギ取り込みを最短時間だけ有効にし,接触ワイヤ23(図2)を通じた運動エネルギ蓄積システム5の再充電,および車両の補助機器への最大電力の給電を可能にする。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「モータM1,M2,M3,M4を装備した電気牽引車両のための電源システムであって,モータM1,M2,M3,M4に給電するための電気牽引車両に車載され,再充電できるバックアップ予備システム6と,高電圧主電源によって給電を行う接触ワイヤ23を備えた駅と,電気牽引車両が駅に停車している間にバックアップ予備システム6を充電するために,電気牽引車両が駅に到達した際に電気牽引車両のバックアップ予備システム6を高電圧主電源によって給電を行う接触ワイヤ23とパンタグラフ2とを協同させ,車載されるバックアップ予備システム6は牽引バッテリ14を備えており,電気牽引車両は運動エネルギ蓄積システム5を車載している電源システム。」

4.対比
本願発明と引用発明を対比する。

(ア)引用発明の「モータM1,M2,M3,M4を装備した」という態様は,本願発明の「主電動機を備える」という態様に相当する。また,引用発明の「電気牽引車両のための電源システム」は,本願発明の「電気推進車両用電力供給システム」に相当する。

(イ)引用発明の「モータM1,M2,M3,M4に給電する」という態様は,本願発明の「主電動機に電力を供給する」という態様に相当する。また,引用発明の「電気牽引車両に車載」される態様は,本願発明の「車両に搭載」される態様に相当する。さらに,引用発明の「再充電できるバックアップ予備システム6」は,本願発明の「再充電可能な自律電力供給システム」に相当する。

(ウ)引用発明の「高電圧主電源によって給電を行う接触ワイヤ23を備えた駅」と,本願発明の「本線電力供給網に接続された電力供給システムを備えた少なくとも1つの駅」とは,「電力供給源を備えた少なくとも1つの駅」という概念で共通する。

(エ)引用発明の「電気牽引車両が駅に停車している間に」という態様は,本願発明の「車両が駅に停車する際に」という態様に相当する。また,引用発明の「電気牽引車両が駅に到達した際に電気牽引車両のバックアップ予備システム6を高電圧主電源によって給電を行う接触ワイヤ23とパンタグラフ2とを協同させ」る態様と,本願発明の「車両が駅に接近すると車両の自律電力供給システムを駅の電力供給システムと電気的に接続する接続手段を有」する態様とは,「車両が駅に接近すると車両の自律電力供給システムを電力供給源と電気的に接続する接続手段を有」するという概念で共通する。

(オ)引用発明の「牽引バッテリ14」と,本願発明の「スーパーコンデンサのバッテリ」とは,「蓄電装置」という概念で共通する。

したがって両者は,
「主電動機を備える電気推進車両用電力供給システムであって,主電動機に電力を供給するための車両に搭載され,再充電可能な自律電力供給システムと,電力供給源を備えた少なくとも1つの駅と,車両が駅に停車する際に自律電力供給システムを充電するために,車両が駅に接近すると車両の自律電力供給システムを駅の電力供給源と電気的に接続する接続手段とを有し,車両に搭載される前記自律電力供給システムは蓄電装置を含む電力供給システム。」
の点で一致し,以下の点で相違している。
[相違点1]
電力供給システムに関し,本願発明は「本線電力供給網に接続され」,「駅」に備えられているのに対し,引用発明はかかる特定がない点。
[相違点2]
蓄電装置に関し,本願発明は「スーパーコンデンサのバッテリ」を有しているのに対し,引用発明はかかる特定がない点。
[相違点3]
運動エネルギー蓄積システムに関し,本願発明は駅の電力供給システムに含まれるのに対し,引用発明は車載されている点。

5.判断
上記相違点について,以下に検討する。
(ア)相違点1,3について
例えば特開昭56-132101号公報に示されているように,本線電力供給網(該公報の「架線3」が相当。)に接続された,運動エネルギー蓄積システムを含む電力供給システム(「フライホイール式エネルギ蓄勢制御装置6」が相当。)を,電気推進車両(「電車4」が相当。)の外に備えることは,周知技術である(該公報の1頁左下欄17行?2頁左上欄19行,第1図参照。以下,「周知技術1」という。)。また,電力供給システムの配置場所を駅とすることは,当業者が適宜なし得たことである。
そうすると,例えば特開2000-83302号公報に示されているように,運動エネルギー蓄積システムを電気推進車両に車載する場合には該運動エネルギー蓄積システムのジャイロスコープトルクを減衰させるための配置等が課題であったことは本願出願前に知られていたので(該公報の段落【0062】?【0064】を参照。),該課題を解決するために,引用発明の運動エネルギ蓄積システム5の配置・接続形態として,上記周知技術1を適用して本願発明の相違点1,3に係る構成とすることは,当業者にとって容易である。

(イ)相違点2について
例えば特開2000-4507号公報に示されているように,電気推進車両の自律電力供給システムとして,スーパーコンデンサのバッテリ(該公報の「電気二重層コンデンサにより構成されたキャパシタ・バンク6」を参照。)を用いることは,周知技術である(以下,「周知技術2」という。)。
そうすると,高速かつ高効率で多量の電気エネルギーを吸収・復元させるという,電気推進車両における一般的課題を解決するために,引用発明の牽引バッテリ14に代えて上記周知技術2を適用することにより,本願発明の相違点2に係る構成とすることは,当業者にとって容易である。

そして,本願発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明,周知技術1及び周知技術2から当業者が予測し得る範囲内のものである。

6.むすび
したがって,本願発明は,引用発明,周知技術1及び周知技術2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-03 
結審通知日 2009-09-08 
審決日 2009-09-25 
出願番号 特願2002-12439(P2002-12439)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安池 一貴  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 片岡 弘之
黒瀬 雅一
発明の名称 電気推進車両への電力供給システム  
代理人 川口 義雄  
代理人 小野 誠  
代理人 大崎 勝真  

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