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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16J
管理番号 1211951
審判番号 不服2008-6507  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-17 
確定日 2010-02-10 
事件の表示 特願2004-104401「パッキン」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月 4日出願公開、特開2004-308906〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成16年3月31日(パリ条約に基づく優先権主張2003年4月3日、ドイツ国)の出願であって、平成19年12月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成20年3月17日に審判請求がなされ、その後、当審において平成21年1月13日付けで拒絶理由が通知されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成19年4月3日付け手続補正、及び平成21年7月21日付け手続補正(この手続補正は平成21年8月5日付け手続補正、及び平成21年8月14日付け手続補正により補正がなされている)により補正された明細書、特許請求の範囲、及び図面からみて、それぞれその特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるものである。
「【請求項1】
回転するシャフト又は往復動されるロッドを密封するためのパッキンであって、密封用のシール面(8)又はシールエッジ(9)を備えたシール本体を有し、
前記シール本体(3)が、前記シャフト又はロッドを向いた表面(6)に、ポリマー分散体が含浸されてなるポリマー含浸不織布から成る上張り(7)を備え、該上張り(7)が、前記シール面(8)又はシールエッジ(9)を構成しているものにおいて、
前記不織布が、前記シール本体(3)の凹部に挿入され、前記凹部内に嵌合により保持されていることを特徴とするパッキン。
【請求項2】
前記不織布がポリマー分散体で含浸された少なくとも1つの不織布層から成ることを特徴とする、請求項1に記載のパッキン。
【請求項3】
回転するシャフト又は往復動されるロッドを密封するためのパッキンであって、密封用のシール面(8)又はシールエッジ(9)を備えたシール本体を有し、
前記シール本体(3)が、前記シャフト又はロッドを向いた表面(6)に、ポリマー分散体が含浸されてなるポリマー含浸不織布から成る上張り(7)を備え、該上張り(7)が、パッキン(1)の軸方向外側を向いたシール本体(3)の表面(6)に、前記シール面(8)又はシールエッジ(9)から間隔(21)を置いて配置されているものにおいて、
前記不織布が、前記シール本体(3)の凹部に挿入され、前記凹部内に嵌合により保持されていることを特徴とするパッキン。
【請求項4】
前記不織布がポリマー分散体で含浸された少なくとも1つの不織布層から成ることを特徴とする、請求項3に記載のパッキン。」

3.本願発明1について
(1)本願発明1
本願発明1は上記のとおりである。
(2)引用例
(2-1)引用例1
特開平10-73165号公報(以下、「引用例1」という。)には、下記の事項が図面とともに記載されている。
(あ)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、例えば、自動車の冷却水循環ポンプ(ウォーターポンプ)の軸封部に用いられる密封装置に関する。」
(い)「【0019】図1に本発明に係る密封装置1の要部断面図を示す。
【0020】密封装置1は、筒状の補強環20に一体に形成された第1シール30、シール保持部材40、第2シール50、第3シール60からなる。
【0021】金属製の補強環20には、筒部21の密封対象側(図上では上方)に段付の内向きフランジ22が設けられ、反密封対象側(図上では下方)にも内向きフランジ23が形成されている。
【0022】補強環20の筒部21の外周,内向きフランジ22の外側面及び内向きフランジ22の内径側端部はゴム状弾性体のシール部材によって被覆されており、内向きフランジ22の内径側端部には、補助シールリップとしての内径側密封対象方向に延びる第1シールリップ31と内径側反密封対象方向に延びる副リップ32が形成されている。
【0023】第1シールリップ31の外径側には第1シールリップ31を内径側に付勢する環状のばね33が装着されており、このばねによって、第1シールリップ31の摺接部としての先端部31aが、軸外周に摺接する。
【0024】副リップ32は、軸外周には非接触であっても接触していてもよく、後述するように、第1シールリップ31及び第2シールリップ52との間にグリースを保持している。
【0025】補強環20の内周には、断面略V字形の金属製のシール保持部材と補強環の内向きフランジ23とにより、第2シール外径部51と第3シール60がかしめ固定されている。
【0026】第2シール50は、樹脂としてのPTFE製で、略環状に形成されており、内径側端部には、内径側密封対象方向に延びる主シールリップとしての第2シールリップ52が一体に設けられている。第2シールリップの摺接面52aには、らせん状の凹凸が設けられており、ねじポンプ作用により侵入した流体を密封対象側へ排除しシール性を高めるようになっている。らせん状の凹凸は図1のように多条のものに限らず、1条の連続するらせんでもよい。
【0027】第3シール60は、断面矩形の金属製補強環61に一体に焼付けられたゴム状弾性体によって密封対象側端面と内径側端部を被覆され、内径側端部には、内径側に延びる第3シールリップ62が設けられている。第3シールリップ先端は、図1のように密封対象側に屈曲しているものに限らず反密封対象側に屈曲していてもよい。
【0028】図2に、密封装置1をウォーターポンプの軸封部に装着した状態を示す。
【0029】第1シール30の外周部分がハウジング2の内側面に嵌合している。
【0030】軸と、密封装置1の第1シールリップ先端部31aと副リップ32との間,副リップ32と第2シールリップ52との間,第2シールリップ52と第3シールリップ62との間にそれぞれ潤滑剤としてのグリース4が封入されている。」
(う)「【0047】(第4の実施形態)図5は、本発明の第5の実施の形態に係る密封装置300を説明するものである。第1の実施形態と同様の構成部分に関しては、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0048】この密封装置300は、第1シールリップの摺動面と対向当接する軸3の摺動表面との間のグリース4による潤滑をさらに確実に行うことを可能とするもので、特に密封対象流体がLLC等の水成分を多く含むものである場合でも、リップ先端部の油膜切れを防止して耐久性を向上させることを可能としている。
【0049】この密封装置300の構成上の特徴は、第1シールリップのグリース4を保持する側の摺接面に繊維生地302を接合している。
【0050】繊維生地302は、いわゆる不織布や強度の強い繊維で編成された布帛を使用することができ、この布帛にゴム状弾性材料として例えばゴム材料を接着するのに利用される数%のゴム成分を含有する石油系溶剤溶液等(ゴムのり)を塗布・含浸させたり、あるいは粉体状のゴム成分を付着させた後に、第1シールリップの成形を行う成形型に装填され、第1シールリップの加硫成形と同時に接合されるものであり、繊維生地の内部にゴム状弾性材料が架橋された状態で存在している。
【0051】この繊維生地302は、繊維生地に存在するゴム状弾性材により、摺接面の密封性を繊維生地302を備えないものと同等に発揮すると共に、繊維生地による強度の向上、及び繊維生地及びゴム状弾性材の隙間に保持される潤滑剤による耐摩耗性の向上を得ることができる。」
(え)上記の段落【0049】、【0051】、図5をみると、繊維生地302が、シール面又はシールエッジをなす第1シールリップ先端部301aを構成していることが看取される。
以上の記載事項及び図面(特に図5)からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。
「冷却水循環ポンプの軸封部に用いられる密封装置300であって、第1シールリップ301を備えた第1シール30を有し、
第1シール30は、第1シールリップ301のグリース4を保持する側の摺接面に、数%のゴム成分を含有する石油系溶剤溶液等(ゴムのり)を含浸させてなる不織布から成る繊維生地302を備え、該繊維生地302が、シール面又はシールエッジをなす第1シールリップ先端部301aを構成し、第1シールリップ301の加硫成形と同時に接合されている密封装置300。」
(3)対比
本願発明1と引用例1発明とを対比すると、後者の「冷却水循環ポンプの軸封部に用いられる密封装置300」は前者の「回転するシャフト又は往復動されるロッドを密封するためのパッキン」に相当し、以下同様に、「第1シール30」が「シール本体」に、「第1シールリップ先端部301a」が「密封用のシール面又はシールエッジ」に、「第1シールリップ301のグリース4を保持する側の摺接面」が「シャフト又はロッドを向いた表面(6)」に、「数%のゴム成分を含有する石油系溶剤溶液等(ゴムのり)を含浸させてなる不織布から成る繊維生地302」が「ポリマー分散体が含浸されてなるポリマー含浸不織布から成る上張り(7)」に、それぞれ相当すると認められる。
以上より、本願発明1の用語に倣って整理すると、両者は、
「回転するシャフト又は往復動されるロッドを密封するためのパッキンであって、密封用のシール面又はシールエッジを備えたシール本体を有し、
前記シール本体が、前記シャフト又はロッドを向いた表面に、ポリマー分散体が含浸されてなるポリマー含浸不織布から成る上張りを備え、該上張りが、前記シール面又はシールエッジを構成しているパッキン。」で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願発明1では、前記「不織布」が「前記シール本体(3)の凹部に挿入され、前記凹部内に嵌合により保持されている」のに対して、引用例1発明は、「数%のゴム成分を含有する石油系溶剤溶液等(ゴムのり)を含浸させてなる不織布から成る繊維生地302」が「第1シールリップ301の加硫成形と同時に接合されている」点。
(4)判断
[相違点1]について
引用例1発明において、「繊維生地302」をどのようにして第1シールリップ301に取り付けるかは、所要の接合強度や作業性等を考慮して適宜設計する事項にすぎない。実際、本願明細書には、「【0017】構造上の観点からは、PTFE含浸不織布がシール本体に設けた凹部に挿入して装着されるのが有利である。この場合にはPTFE含浸不織布はシール本体の凹部の中に嵌め込まれていてもよく、そしてその中で嵌合によってのみ保持されることができる。しかしながらPTFE含浸不織布は、シール本体と接着することも可能であるし、加硫によって結合することも可能である。」と記載されている。
ここで、一般に、回転するシャフト又は往復動されるロッドを密封するためのパッキンにおいて、シャフト又はロッドと接触するシール面又はシールエッジを構成する部材を、シール本体の凹部に挿入し、該凹部内に嵌合により保持することは周知のことと認められる(例えば、特開平11-94092号公報(段落【0036】等)、特開平8-4902号公報(段落【0034】等)、等参照)。引用例1発明に上記の周知事項を採用することは、上記の適宜の設計の一例として当業者が容易に想到し得たものと認められる。このようにしたものは、実質的にみて、相違点1に係る本願発明の上記事項を具備しているということができる。
そして、本願発明1の作用効果は、引用例1に記載された発明、及び周知事項に基づいて当業者が予測し得た程度のものである。

なお、平成21年7月21日付け意見書において、審判請求人は、「審査官殿は、この引用例1において、補助リップである第1のシールリップ231に設けられた補強部材233が、本願の上張りに相当すると指摘されています。」と主張しているが、平成21年1月13日付け拒絶理由では、「本願発明1と引用例1発明とを対比すると、…後者の「数%のゴム成分を含有する石油系溶剤溶液等(ゴムのり)を含浸させてなる不織布から成る繊維生地302」が前者の「ポリマー分散体が含浸されてなるポリマー含浸不織布から成る上張り(7)」に、それぞれ相当すると認められる。」と記載しているとおりである。
同じく、「引用例1の図5を参照しますと、補強部材233が設けられている箇所が、第1のシールリップ(301a)、つまり、主に密封機能を担うのではなく、異物の一時的阻止及びグリースの保持を果たす「補助リップ」であることが分かります(段落0032)。つまり、引用例1は、本願で云う「シール本体」に補強部材が設けられている構成を開示していません。」と主張しているが、まず、その「本願で云う「シール本体」に補強部材が設けられている構成」の「補強部材」が本願発明1の何に相当するのか、「補助リップ」かどうかということと本願発明1の特定事項との関連が必ずしも明らかでない。また、引用例1発明の「第1シール30」が本願発明1の「シール本体」に相当すること、また、引用例1発明の「数%のゴム成分を含有する石油系溶剤溶液等(ゴムのり)を含浸させてなる不織布から成る繊維生地302」が「シール面」を構成していることは上述のとおりである。
同じく、「そして最後に、引用例1に記載の装置の複雑さに注目すべきであると思料します。引用例1の装置は、内フランジ、シール保持部材、多数のリップを備えており、部材点数も多く、その構成も複雑です。したがって、引用例1の装置は、本願課題に含まれる「製造の容易性」が全く解決されていない構成であると考えます。」と主張しているが、例えば、「内フランジ」を有するかどうか、「リップ」がいくつあるか等の点については、本願の請求項1に特に記載されておらず、また、「製造の容易性」は必ずしも「部材点数」の多寡のみによるものではなく、この点で、格別の差異があると認めることはできない。

(5)むすび
以上より、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願発明1が特許を受けることができないものである以上、本願発明2?4について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-09 
結審通知日 2009-09-15 
審決日 2009-09-28 
出願番号 特願2004-104401(P2004-104401)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴  
特許庁審判長 山岸 利治
特許庁審判官 常盤 務
藤村 聖子
発明の名称 パッキン  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 古谷 聡  

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