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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1212043
審判番号 不服2007-26364  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-27 
確定日 2010-02-18 
事件の表示 特願2003-435549「基板表面の清浄化方法とエピタキシャル膜の成膜方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月 4日出願公開、特開2005-209666〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年12月26日(優先権主張:平成15年12月25日)の出願であって、平成19年8月20日付けで拒絶査定(発送日:同年同月28日)がなされ、平成19年9月27日に拒絶査定不服審判が請求され、平成19年10月29日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成19年10月29日付けの手続補正について
[結論]
平成19年10月29日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1. 平成19年10月29日付けの手続補正
平成19年10月29日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正後の特許請求の範囲の請求項1において、「III-V族半導体基板上にIII-V族半導体膜を分子線エピタキシー法により形成する」との発明特定事項を含むものである。
そこで、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「当初明細書等」という。)の記載を検討する。
当初明細書等には、半導体の材質について、「それと同時に、たとえば化合物半導体のGaAsの場合では、電子線回折をモニターしながら表面のGaとAsの被覆率を最適化し、再成長表面の平坦性を確保する。もちろん、この出願の発明は主としてGaAs系基板に対して好適に適用されるが、このものに限定されることはなく、Si等の基板に対しても適用可能である。」(段落【0014】)、「図1の(a)は量子井戸のほぼ中央に再成長界面を持つ幅5nmのGaAs量子井戸であり、(b)は同じ構造で再成長界面を持たない通常のGaAs量子井戸を示している。
(a)では界面の原子レベルの揺らぎによる半値幅の増大が見られるが、強度の劣化はなく、界面の不純物または欠陥は(b)と同程度であることを示している。なお、(a)(b)とも井戸幅5nm、障壁層A10.3Ga0.7As、測定温度10Kである。」(段落【0021】)、
「・・・As圧力:1×10-5Torr
InAs成長量:2モノレヤー
成長速度:0.14モノレヤー/秒
(c)は大気曝露後水素清浄化した基板上に成長したInAs量子ドットからのフォトルミネッセンス(Photoluminescence)である。大気曝露のない(d)に比べて強度、半値幅が優れているのは水素による欠陥の不活性化と、量子ドット形成時のIn原子の表面拡散の増大が原因であると考えられる。(d)は連続成長した量子ドットである。なお、(c),(d) ともGaAs基板上のInAs量子ドットで、測定温度は10Kである。」(段落【0022】)との記載がある。

上記のとおり、III-V族半導体の元素として、Ga、In、Asが示されており、このものに限定されることはないとの記載もある。

しかし、元素について、それを一般化し、これらの元素以外のIII-V族の元素を用いて、III-V族半導体基板上にIII-V族半導体膜を形成するとの記載は、見当たらず、また、示唆があるともいえない。

このように、補正後の前記事項は、Ga、In、As以外のIII-V族の元素を用いて、「III-V族半導体基板上にIII-V族半導体膜を形成する」との発明特定事項を追加しようとするものであるから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるとはいえない。

したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものということはできず、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願の請求項1?3に係る発明
前記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明は、平成19年1月5日付け補正書の特許請求の範囲項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

「【請求項1】
分子線エピタキシー法において、超真空槽から取り出し大気中に曝露または大気中で加工された半導体基板を、再び超高真空槽に戻して清浄化処理するデバイス用基板の清浄化方法であって、不純物の含有量が10^(-9)以下の純度の原子状水素により半導体基板表面を清浄化処理することを特徴とするデバイス用基板の清浄化方法。」

2.引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平9-148342号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に以下の記載がある。

ア 「【請求項1】 Zn、Mg、Cd、HgおよびBeからなる群より選ばれた少なくとも一種類以上のII族元素とSe、SおよびTeからなる群より選ばれた少なくとも一種類以上のVI族元素とからなるII-VI族化合物半導体を真空を用いた気相成長法によりIII-V族化合物半導体基板上に成長させるようにしたII-VI族化合物半導体の成長方法において、成長直前に基板温度300℃ないし550℃において上記III-V族化合物半導体基板の表面に原子状または活性水素を照射することにより上記III-V族化合物半導体基板の表面の酸化膜を除去した後、上記III-V族化合物半導体基板上に上記II-VI族化合物半導体を成長させるようにしたことを特徴とするII-VI族化合物半導体の成長方法。
・・・(中略)・・・
【請求項5】上記II-VI族化合物半導体に成膜または加工処理を施した後、この成膜または加工処理が施された上記II-VI族化合物半導体の表面に基板温度450℃以下において原子状または活性水素を照射することにより上記II-VI族化合物半導体の表面の酸化膜を除去し、上記II-VI族化合物半導体上に上記II-VI族化合物半導体を再成長させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のII-VI族化合物半導体の成長方法。」(特許請求の範囲)

イ 「【発明の属する技術分野】この発明は、II-VI族化合物半導体の成長方法に関し、例えばII-VI族化合物半導体を用いた半導体発光素子の製造に適用して好適なものである。」(段落【0001】)

ウ 「したがって、この発明の目的は、単一の成長室を備えた気相成長装置を用いてIII-V族化合物半導体基板またはII-VI族化合物半導体基板の表面の酸化膜をこれらの基板の構成元素の再蒸発を抑えつつ除去することができることにより、低結晶欠陥密度で良質のII-VI族化合物半導体を低コストで成長させることができるII-VI族化合物半導体の成長方法を提供することにある。」(段落【0008】)

エ 「この発明において、II-VI族化合物半導体の成長には、具体的には例えば分子線エピタキシー(MBE)法が用いられる。」(段落【0032】)

オ 「また、成膜または加工処理が施されたII-VI族化合物半導体の表面に基板温度450℃以下において原子状または活性水素を照射することによりII-VI族化合物半導体の表面の酸化膜を除去しているので、平坦かつ清浄な表面を得ることができる。このため、この平坦かつ清浄な表面にII-VI族化合物半導体を再成長させることにより、低結晶欠陥密度で良質のII-VI族化合物半導体を得ることができる。」(段落【0038】)

カ 「まず、この発明の一実施形態において用いるII-VI族化合物半導体用のMBE装置について説明する。図1はこのMBE装置の構成を示す。
図1に示すように、このMBE装置においては、真空排気装置(図示せず)により真空排気された成長室1の中央部に、ヒーター(図示せず)により加熱可能な基板ホルダー2が設けられている。
・・・(中略)・・・
さらに、成長室1には、熱クラッキングセルまたはプラズマセルからなる水素用セル5が取り付けられている。この水素用セル5には、外部から配管6を通して純化された水素(H_(2 ))ガスが導入されるようになっている。この水素用セル5が熱クラッキングセルである場合には、この水素用セル5内に配置されたタングステンフィラメント(図示せず)を例えば1500?2000℃程度の高温に加熱し、ここにH_(2) ガスを通すことにより熱エネルギーによってH_(2 )を励起し、原子状水素を発生させる。また、水素用セル5がプラズマセルである場合には、この水素用セル5内に導入されたH2 ガスを高周波または電子サイクロトロン共鳴(ECR)によりプラズマ状態にして励起し、水素イオンなどとともに原子状または活性水素を発生させる。・・・(中略)・・・
この場合、成長室1内に不純物として酸素が残留していると、後述の原子状または活性水素の照射による酸化膜12の除去後にGaAs基板11の表面が再び酸化される懸念があるため、この再酸化を防止するために、成長室1内は、水素ガス導入前の圧力で1.33×10^(-5)Pa(1×10^(-7)Torr)以下の圧力にしておくことが望ましい。この成長室1内の圧力の一例を挙げると、1.33×10^(-8)Pa(1×10^(-10) Torr)程度である。」(段落【0043】?【0047】)

キ 「 以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
・・・(中略)・・・
また、今後、II-VI族化合物半導体を用いた半導体素子、例えば青色ないし緑色で発光可能な半導体発光素子の長寿命化や高性能化を図るために、基板上にII-VI族化合物半導体を成長させた後、このII-VI族化合物半導体にエッチングや絶縁層の成膜などの処理を施して光導波路などを形成し、その上にさらにII-VI族化合物半導体を再成長させる可能性がある。したがって、これらのエッチングや成膜の際にII-VI族化合物半導体の表面に形成された酸化膜を、II-VI族化合物半導体の再成長前に原子状または活性水素を照射して除去することにより、界面準位の形成や結晶欠陥の増大を防止し、より低結晶欠陥密度で良質のII-VI族化合物半導体再成長層を得ることができる。」(段落【0075】?【0078】)
3.引用例に記載された発明
ところで、前記摘記事項から、次の事項が把握できる。
A. 記載事項イ、エ及びキの記載からみて、引用例に係るII-VI族化合物半導体の成長方法は、分子線エピタキシー法(MBE法)を採用し、II-VI族化合物半導体を用いた半導体発光素子の製造に用いられること。
B. 記載事項カの記載及び技術常識からみて、分子線エピタキシー法(MBE法)が超高真空を採用し、その実施MBE装置の成長室1(記載事項カ参照。)が超高真空に維持されていること。

C. 記載事項イ、オ?キの「原子状または活性水素」による酸化膜の除去は、清浄化処理に該当し、前記「原子状または活性水素」としては、記載事項カの記載からみて純化された水素(H_(2) )ガスを励起したものであること 。

D. 記載事項イ 、エ及びオの記載からみて、分子線エピタキシー法でIII-V族化合物半導体基板上に成長させたII-VI族化合物半導体に成膜または加工処理を施した後、この成膜または加工処理を施した前記II-VI族化合物半導体を同法にて清浄化処理し、再成長させること。

したがって、記載事項ア?キ及び図1から、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「分子線エピタキシー法によりIII-V族化合物半導体基板上に成長させたII-VI族化合物半導体に成膜または加工処理を施した後、この成膜または加工処理を施した前記II-VI族化合物半導体を同法により超高真空に維持された成長室1で清浄化処理する、II-VI族化合物半導体を用いた半導体発光素子用基板の清浄化方法であって、純化された水素(H_(2) )ガスを励起した原子状水素により前記II-VI族化合物半導体表面をその酸化膜を除去して清浄化処理するII-VI族化合物半導体を用いた半導体発光素子用基板の清浄化方法。」

4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「II-VI族化合物半導体」は本願発明の「半導体基板」に相当し、以下同様に、「成長室1」は「超高真空槽」、「超真空槽」に、「II-VI族化合物半導体を用いた半導体発光素子用基板」は「デバイス用基板」に、それぞれ相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、次の一致点、相違点を有するものである。

[一致点]
分子線エピタキシー法において、半導体基板を超高真空槽で清浄化処理するデバイス用基板の清浄化方法であって、原子状水素により半導体基板表面を清浄化処理するデバイス用基板の清浄化方法。

[相違点1]
本願発明では、超真空槽から取り出し大気中に曝露または大気中で加工された半導体基板を、再び超高真空槽に戻して清浄化処理するのに対して、
引用発明では、分子線エピタキシー法にてIII-V族化合物半導体基板上に成長させたII-VI族化合物半導体に成膜または加工処理を施した後、この成膜または加工処理を施した前記II-VI族化合物半導体を同法にて超高真空槽で清浄化処理する点。

[相違点2]
原子状水素が、本願発明では不純物の含有量が10^(-9)以下の純度の原子状水素であるのに対して、引用発明では純化された水素(H_(2) )ガスを励起した原子状水素である点。

相違点1及び2について検討する。
[相違点1について]
分子線エピタキシー法(MBE法)により成長処理した半導体基板を大気中に暴露した後、再び超高真空槽においてMBE法にて清浄化、成長処理することは、従来周知(例えば、特開平7-86183号公報【0027】、特開平7-94423号公報実施例1、2、特開2002-75867号公報実施例4参照。)である。

また、引用発明の前記成膜または加工処理は、例えば記載事項キで示す化合物半導体を成長させた後の絶縁層の成膜またはエッチングであると考えられるところ、これらを大気中において行うことは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。

さらに、引用発明は記載事項ウに示すように前記の処理や成長を単一の成長室を備えた気相成長装置を用いて行うことにより低コストを達成することを目的としていることから、引用発明において分子線エピタキシー法にてII-VI族化合物半導体を成長させた超高真空槽に再び戻して清浄化処理を行うことは設計的事項に過ぎない。

したがって、引用発明において、超真空槽から取り出し大気中に曝露または大気中で加工するようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。
[相違点2について]
引用発明は、清浄化処理のために純化された水素(H2 )ガスを励起した原子状水素を用いるものであり、清浄化作用に用いる原子状水素の純度が高ければ不純物も少なく清浄化の程度が向上することは明らかである。
そして、引用例には、室内圧力の例として、10^(-8)のものが示されている(前記「2.カ」参照。)。
さらに、本願発明においても、原子状水素の純度を高める必要があることは認めている(段落【0012】)一方、不純物の含有量を10^(-9)以下とする数値限定が、臨界的意義を有すると認めるに足る根拠を示していない。

したがって、引用発明においてその清浄化処理に、不純物の含有量が10^(-9)以下の純度の原子状水素を用いることは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本願発明の効果は、引用発明及び周知技術から予測し得た程度のものであって、格別なものではない。

してみると、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-17 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-05 
出願番号 特願2003-435549(P2003-435549)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 561- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲垣 浩司  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 長崎 洋一
豊島 唯
発明の名称 基板表面の清浄化方法とエピタキシャル膜の成膜方法  

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