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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60K |
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管理番号 | 1212050 |
審判番号 | 不服2007-33547 |
総通号数 | 124 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-12-13 |
確定日 | 2010-02-18 |
事件の表示 | 特願2002- 66577「車両用インストルメントパネル」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月16日出願公開、特開2003-260959〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本件発明 本件出願は、平成14年3月12日の出願であって、平成19年9月3日付けで拒絶理由が通知され、同年10月18日付けで意見書が提出されたが、同年11月7日付けで拒絶査定がなされ、同年12月13日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成20年1月9日付けで明細書を補正する手続補正がなされ、その後、平成21年5月18日付けで当審において書面により審尋がなされ、これに対して、同年6月17日付けで回答書が提出され、当審において同年9月28日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年11月5日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成20年1月9日付け及び平成21年11月5日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 樹脂からなる芯材の車内側を向く表面にそれぞれ樹脂からなるフォーム層及び表皮が順次設けられ、上記芯材にその裏面から表面に向かって熱刃を押し込むことにより、上記芯材の裏面にエアバッグが膨張したときに破断の起点となるスリットが形成されている車両用インストルメントパネルにおいて、 上記芯材と上記フォーム層との間に、上記熱刃によって上記芯材にスリットを形成することができる温度範囲での引っ張り強度が上記芯材を構成する樹脂より高い樹脂からなる高強度層を設けたことを特徴とする車両用インストルメントパネル。」 2.刊行物 (1)刊行物の記載事項 当審において平成21年9月28日付けで通知した拒絶理由において引用された特開2001-80442号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 a)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、表皮部及びカバー本体部とを備え、該カバー本体部が前記表皮部の裏面に接した射出成形部であるとともに、カバー本体部の裏面に後加工テアライン溝を備えた構成であって、表皮部がカバー本体部接触側に耐熱性樹脂からなるバリア層を備えているエアバッグカバーに関する。」(段落【0001】) b)「【0003】 【背景技術】図1に示すようなインストルメントパネル12における、エアバッグ装置組み付け部位(図1の2-2線部位)のエアバッグカバーの構成として、例えば、図2に示すような構成のものがあつた。 【0004】表皮部14及びカバー本体部16とを備え、該カバー本体部16が表皮部14の裏面に接した射出成形部であるとともに、カバー本体部16の裏面に後加工テアライン溝18を備えた構成である。 【0005】そして当該構成においては、図3に示す如く、表皮部14がカバー本体部16との接触側に耐熱性樹脂からなるバリア層20を備えている。表皮部14の構成は、図例では、裏側から耐熱性樹脂からなるバリア層20、軟質発泡材料からなるクッション層22、および軟質合成樹脂からなる意匠層24の三層構成である。 【0006】そして、意匠層24は、例えば、軟質ポリ塩化ビニルやオレフィン系やスチレン系の熱可塑性エラストマー(TPE)等で形成し、クッション層22は、例えば、発泡ポリプロピレン(PP)・ポリエチレン(PE)等で形成し、上記バリア層24(当審注;「バリア層20」の誤記と認められる。)は、例えば、結晶性PP、無機充填剤配合PP(PPF)やオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPE)で形成していた。そして、カバー本体部16は、ヒンジ特性、飛散防止等の見地及び表皮部との熱融着性さらには軽量化の見地から、主として、オレフィン系やスチレン系の非極性TPEで形成していた。 【0007】即ち、予め三層構成としたシート体を所定形状に裁断後、真空成形等により賦形した状態で、カバー本体部材料を射出成形してカバー本体部16を成形する。なお、インストルメントパネル本体部13は、カバー本体部16の材料と熱融着可能なPPF等の構造強度を備えた非極性合成樹脂で成形する。」(段落【0003】ないし【0007】) c)「【0018】そして、バリア層20を形成する耐熱性樹脂としては、無機充填剤配合PP(PPF)やオレフィン系熱可塑性エラストマー(TP0)を使用できる。これらの曲げ弾性率及び熱膨張係数は、40%タルク充填PP:3087?4312MPa、5.5?8.0×10^(-5)/℃であり、TPO:10.8?137MPa、13.0?17.0×10^(-5)/℃であるが、TPOの場合、曲げ弾性率が高め(100MPa以上)で、線膨張係数が低め(14.0×10^(-5)/℃以下)のものを使用することが、形態保持性及び耐熱性等の見地から望ましい。 【0019】クッション層22を形成する軟質発泡材料としては、軟質発泡ポリプロピレン(PP)・ポリエチレン(PE)等を使用することができる。これらの曲げ弾性率及び熱膨張係数を、発泡体についてのものではないが、参照的に示すと、非充填PP:1176?1724MPa、11×10^(-5)/℃、軟質PE:58.8??413.5MPa、16?18×10^(-5)/℃である。 【0020】意匠層24を形成する感触性に優れた軟質合成樹脂としては、ソフト感に優れた軟質ポリ塩化ビニル(PVC)、TPO等を使用することができる。これらの曲げ弾性率及び線膨張係数は、軟質PVC:前者は不明、7.0?25.0×10^(-5)/℃、TPOは前述の通りであるが、軟質PVCの場合、11.0×10^(-5)/℃以上のものを使用する。 【0021】また、カバー本体部16の肉厚は、後加工テアライン溝18の形成部位で、2.5?4mm、通常、3.5mm前後とする。 【0022】カバー本体部(基材部)16は、飛散防止等の見地及び表皮部との熱融着性さらには軽量化の見地から、主として、オレフィン系(TPO)やスチレン系(SBC)の非極性TPEで形成する。このとき、これらの曲げ弾性率及び線膨張係数は、TPOは前述の通りであるが、SBC:27.4?1029MPa、13.0?13.7×10^(-5)/℃である。」(段落【0018】ないし【0022】) d)「【0032】ここで、同等とは、例えば、バリア層20の材料として曲げ弾性率3500MPaのPPFを使用して、(後略)」(段落【0032】) e)「【0036】上記構成のエアバッグカバーは、従来における方法と裏打ち材をカバー本体部射出成形時において、金型に裏打ち材をセットする以外は、基本的には同じである。 【0037】即ち、図7に示す如く、予め、真空成形した表皮材(表皮部)14を固定型30にセットした状態で、裏打ち材(裏打ち層)26を可動型32にセットし、その後、型閉めを行ない、カバー本体部16の成形材料を注入する。このとき、カバー本体部16の成形材料は、カバー本体部16のバリア層20及び裏打ち層26の各形成材料と熱融着可能な同種材料(上記例ではオレフィン系相互)であるため、カバー本体部16は表皮部14及び裏打ち層26と一体化される。このとき、同時に二色成形的にインストルメントパネル本体部13も同時成形する。なお、上記表皮材14を固定型30にセットする際、二点鎖線で示す如く、スラブウレタン28等で表皮材14の裏面に裏打ち材26を固定保持しておけば、裏打ち材26のセット作業が不要となる。 【0038】こうして成形した、インストルメントパネル12に一体化されたエアバッグカバー11Aにおいて、超音波カッタ(ウェルダー)等で、裏面から裏打ち層26、カバー本体部16及びバリア層20を貫通切断して後加工テアライン溝18を形成する。」(段落【0036】ないし【0038】) f)「【0041】例えば、バリア層20及びカバー本体部16が、前者:3500MPaのPPF、後者:100MPaのTPOを使用したとする。(後略)」(段落【0041】) g)「【0043】こうした製造したインストルメントパネル12は、エアバッグ装置34をバッグカバー体の裏面に形成された取り付け脚部17、17を介して組み付けて、車両に装着する。なお、各図例中、36はエアバッグ、38はインフレータである。 【0044】そして、車両が所定値以上の衝撃を受けると、インフレータ38から流入するガスによりエアバッグ36が膨出し、該エアバッグ36の膨出力により、テアライン溝が破断して、エアバッグが展開する。(後略)」(段落【0043】及び【0044】) (2)ここで、上記(1)a)ないしg)の記載及び図面より、次のことが分かる。 ア)上記(1)a)、b)、g)及び図1ないし図3より、刊行物には、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPE)等からなるカバー本体部16の車内側を向く表面にそれぞれ発泡プロピレン(PP)等からなるクッション層22及び軟質合成樹脂からなる意匠層24が順次設けられ、上記カバー本体部16の裏面にエアバッグ36が膨張したときに破断の起点となるテアライン溝18が形成されている車両用インストルメントパネルが記載されていることが分かる。ここで、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPE)、発泡プロピレン(PP)及び軟質合成樹脂は、当然それぞれ「樹脂」であるといえる。 イ)上記e)及び図1ないし図3より、刊行物に記載された車両用インストルメントパネルにおいて、テアライン溝18は、カバー本体部16に裏面から表面に向かって超音波ウェルダー等を押し込むことにより形成されていることが分かる。 ウ)上記(1)b)ないしf)及び図3より、刊行物に記載された車両用インストルメントパネルにおいて、カバー本体部16とクッション層22との間に、強度の一種である曲げ弾性率がカバー本体部22を構成する樹脂よりも高く、かつ耐熱性がカバー本体部22を構成する樹脂よりも高い耐熱性樹脂からなるバリア層22を設けたものであることが分かる。 (3)刊行物に記載された発明 したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。 <刊行物に記載された発明> 「樹脂からなるカバー本体部16の車内側を向く表面にそれぞれ樹脂からなるクッション層22及び意匠層24が順次設けられ、上記カバー本体部16に裏面から表面に向かって超音波ウェルダーを押し込むことにより、上記カバー本体部16の裏面にエアバッグ36が膨張したときに破断の起点となるテアライン溝18が形成されている車両用インストルメントパネルにおいて、 上記カバー本体部16と上記クッション層22との間に、高温における耐熱性及び曲げ弾性率が上記カバー本体部16を構成する樹脂よりも高い耐熱性樹脂からなるバリア層22を設けた車両用インストルメントパネル。」 3.対比・判断 本件発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、機能・構造からみて、刊行物に記載された発明における「カバー本体部16」は本件発明における「芯材」に相当し、以下同様に、「クッション層22」は「フォーム層」に、「意匠層24」は「表皮」に、「エアバッグ36」は「エアバッグ」に、「テアライン溝18」は「スリット」に、それぞれ相当する。 また、刊行物に記載された発明における「超音波ウェルダー」は、「加熱により切断するカッタ」である限りにおいて、本件発明における「熱刃」に相当する。 また、バリア層の機能(芯材の射出成形時にフォーム層を保護する)からみて、バリア層は、芯材が流動性を有する温度でも一定の強度を有するものであるから、刊行物に記載された発明における「高温における耐熱性及び曲げ弾性率がカバー本体部16を構成する樹脂よりも高い耐熱性樹脂からなるバリア層22」は、「芯材を形成する樹脂が流動状態となる程度の高温における強度が芯材を構成する樹脂よりも高い樹脂からなる樹脂層」である限りにおいて、本件発明の「熱刃によって上記芯材にスリットを形成することができる温度範囲での引っ張り強度が芯材を構成する樹脂より高い樹脂からなる高強度層」に相当する。 してみると、本件発明と刊行物に記載された発明とは、 「樹脂からなる芯材の車内側を向く表面にそれぞれ樹脂からなるフォーム層及び表皮が順次設けられ、上記芯材に裏面から表面に向かって加熱により切断するカッタを押し込むことにより、上記芯材の裏面にエアバッグが膨張したときに破断の起点となるスリットが形成されている車両用インストルメントパネルにおいて、 上記芯材と上記フォーム層との間に、芯材を形成する樹脂が流動状態となる程度の高温における強度が芯材を構成する樹脂よりも高い樹脂からなる樹脂層を設けた車両用インストルメントパネル。」の点で一致し、次の[相違点]で相違する。 [相違点] 「加熱により切断するカッタ」として、本件発明においては「熱刃」を使用しているのに対して、刊行物に記載された発明においては、「超音波ウェルダ」を使用している点、及び 「芯材を形成する樹脂が流動状態となる程度の高温における強度が芯材を構成する樹脂よりも高い樹脂からなる樹脂層」について、本件発明においては「熱刃によって上記芯材にスリットを形成することができる温度範囲での引っ張り強度が芯材を構成する樹脂より高い樹脂からなる高強度層」であるのに対し、刊行物に記載された発明においては「高温における耐熱性及び曲げ弾性率がカバー本体部16を構成する樹脂よりも高い耐熱性樹脂からなるバリア層22」である点(以下、単に「相違点」という。)。 上記相違点について検討する。 エアバッグが膨張したときに破断の起点となるスリットを、芯材にその裏面から表面に向かって「熱刃」を押し込むことにより形成する技術は、車両用インストルメントパネルの製造の技術分野において従来周知の技術(以下、「周知技術」という。例、平成21年9月28日付け拒絶理由通知書において引用された特開2001-328502号公報の段落【0028】及び図5、同特開平9-2180号公報の段落【0032】、平成19年9月3日付け拒絶理由通知書において周知技術を示す文献として例示された特開2000-108724号公報の段落【0035】等の記載を参照。)にすぎない。 してみると、刊行物に記載された発明において、「加熱により切断するカッタ」として周知技術である「熱刃」を使用することは、当業者が容易に想到できたことにすぎない。 また、本件発明において、「上記熱刃によって上記芯材にスリットを形成することができる温度範囲での引っ張り強度が上記芯材を構成する樹脂より高い樹脂からなる高強度層を設けた」理由は、インパネ10の芯材11の背面11bに熱刃Bを押し込んでスリット11cを形成する際に、熱刃Bが高温で芯材11を軟化させつつその内部に押し込まれるが、熱刃Bが高強度層14に押し込まれることがないため、高強度層14には、スリットが形成されることがほとんどない(本件出願明細書の段落【0014】を参照。)ためである。また、この「高強度層」は、芯材11を射出成形する際に、刊行物に記載された発明と同様に、フォーム層12及び表皮13を保護する役割を果たしており、いわゆる「バリア層」としてはたらく(本件出願明細書の段落【0012】を参照。)ものといえる。 一方、刊行物における「バリア層20」は、カバー本体部16の射出成形時に、注入されたカバー本体部16の成形材料の熱及び圧力に耐えて、表皮部を保護するためのものである(必要であれば、平成19年9月3日付け拒絶理由通知書において引用された特開平9-2187号公報の段落【0032】等の記載を参照されたい。)。このときのカバー本体部16の成形材料の射出成形時の温度は、ポリプロピレン材料の場合200?250℃程度である(必要であれば、特開2000-15758号公報の段落【0026】等の記載を参照されたい。)から、射出成形時には、200℃程度の高温において、カバー本体部の成形材料は流動状態にあり、バリア層20は、熱及び圧力に耐えて形状を維持する程度の強度を有することになる。 そうすると、射出成形時の温度においては、刊行物に記載された発明における「バリア層20」はカバー本体部16よりも引っ張り強度が高いといえる。 そして、「熱刃Bが高温で芯材11を軟化させつつその内部に押し込まれる温度」は芯材が軟化する温度であるから、射出成形時の温度に近い高温であり、その温度においても、同様に、「バリア層20」はカバー本体部16よりも引っ張り強度が高いと推認される。 したがって、刊行物に記載された発明において、「加熱により切断するカッタ」として周知技術である「熱刃」を使用し、「バリア層20」を、「熱刃によって芯材にスリットを形成することができる温度範囲での引っ張り強度が上記芯材を構成する樹脂より高い樹脂からなる高強度層」として、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことである。 そして、本件発明を全体としてみても、刊行物に記載された発明及び上記周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。 4.むすび したがって、本件発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-16 |
結審通知日 | 2009-12-22 |
審決日 | 2010-01-05 |
出願番号 | 特願2002-66577(P2002-66577) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B60K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 伊藤 元人 |
特許庁審判長 |
早野 公惠 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 鈴木 貴雄 |
発明の名称 | 車両用インストルメントパネル |
代理人 | 原田 三十義 |
代理人 | 渡辺 昇 |