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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1212056
審判番号 不服2008-1094  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-15 
確定日 2010-02-18 
事件の表示 特願2003-57157「通気部材およびこれを用いた通気筐体」拒絶査定不服審判事件〔平成16年9月24日出願公開、特開2004-266211〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成15年3月4日に出願されたものであって、その願書に添付した明細書についての平成19年9月18日付け手続補正書が提出されたものの、同年12月7日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として平成20年1月15日に請求されたものであって、上記明細書についての同年2月14日付け手続補正書が提出されたものの、該手続補正書による手続補正は、平成21年9月10日付けで補正の却下の決定がなされ、さらに、同日付け拒絶理由通知書が発送され、これに対して同年11月16日付けで上記明細書についての手続補正書が提出されたものである。

2.拒絶理由の内容
平成21年9月10日付け拒絶理由通知書で示された拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)は、概略、以下の理由A及びBを有するものである。

理由A;この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された以下の刊行物1、2のそれぞれに記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
理由B;この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された以下の刊行物3及び4に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1;特開平8-206438号公報
刊行物2;特開平9-57044号公報
刊行物3;特開2001-168543号公報
刊行物4;特開平8-294403号公報

3.当審拒絶理由の妥当性について
理由A?Bについて検討する。

3-1.この出願の発明
この出願の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められ、特許請求の範囲の請求項1の記載は、平成21年11月16日付け手続補正書により補正された、願書に添付した明細書又は図面によれば、以下のとおりのものと認める。

「筐体の開口部に固着された状態で前記筐体の内部へ水および粉塵が侵入することを防止し、前記筐体内部の圧力変化を緩和する通気部材であって、
前記開口部を通過する気体が透過し前記気体の透過方向に沿って互いに接しないように配置された第1の通気膜と第2の通気膜とを含む複数の通気膜と、前記複数の通気膜を支持し貫通孔が形成された支持体とを含み、
前記貫通孔の一方端が前記第1の通気膜により被覆されるように、前記支持体における1つの前記貫通孔の一方端の周囲と前記第1の通気膜の周縁が接着または溶着され、前記貫通孔の他方端が前記第2の通気膜により被覆されるように、前記支持体における1つの前記貫通孔の他方端の周囲と前記第2の通気膜の周縁が接着または溶着され、
前記第1の通気膜と前記第2の通気膜の間には、前記支持体と気体のみが存在していることを特徴とする通気部材。」

3-2.理由A(刊行物2を主引例とした場合)の妥当性について

1)刊行物2の記載
刊行物2には以下の記載が存在する。

記載(2-a);「【請求項1】 金属製函体内を外気に連通する通気路を遮断する透湿可能な貫通微細孔を有する2枚の防水膜から構成される少なくとも1つの小室を有し、前記各防水膜の一側が疎水性または撥水性のある疎水性面から構成され、他側が撥水性を有すると共に前記疎水性面よりも疎水性の低い不織布より構成され、前記小室を形成する外気側防水膜が、函体側防水膜よりも通気度が高く、かつ透湿度が低くなるように配列され、かつ前記防水膜が2枚とも前記疎水性面側を外気側に向け、かつ小室壁部は水蒸気に対して結露しにくい熱量的関係にある単一の材料から構成され、さらに、最反函体側防水膜以外の防水膜に近接して高導電性高磁束密度多孔質体が配置されていることを特徴とする除湿装置。」

記載(2-b);「【0012】より化学的に安定な例えば弗化化合物(4弗化エチレン)等の分離膜における使用は、上記のような日常生活環境において非常に多く認められる有機化学物質の存在する場所に、本装置を使用する場合には有利である。
【0013】図4?図6は日東電工株式会社登録商標「ブレスロン」及び「ミクロテックス」のカタログにおける物性表の複写図である。対照群としての測定結果をグラフ1として図3で示している。」及び【図4】

記載(2-c);「【0056】
【実施例】図19は第1実施例の除湿装置1を示す。図中10は金属製函体、11は第1膜、12は第2膜、13は第3膜、14は外筒部、14aは入口、14bは排出口、15は内筒部、15aは保温腔、16は疎水性面、17は不織布、18は高導電性高磁束密度性多孔体としてのフェライト膜、19は低導電性低磁束密度多孔体としての樹脂メッシュ、20はパッキング、21は通気路、21aは函体側小室、21bは外気側(反函体側)小室、22aは捕獲チャンバー22bを形成するネット、22cは防虫ネットである。また、図20(イ)は金属メッシュ18の一部拡大を示し、図中M:N=1:2を示す。23は貫通微細孔である。また、図20(ロ)は前記金属メッシュ18を近似的に変形させたものである。
【0057】次に、詳細に説明すると、函体側が、本除湿装置の主要構成部である小室部を形成する物質よりも温度下降速度が早いことが予想される金属製函体である場合には、下記のような分離膜の配列をおこなわなければならない。また、第1膜側に吸引分離を行う場合の構成も同様の配列である。
【0058】
配列表2
第1膜
b r n 1 0 5 0 - p 2 0 b
透湿度 ( g / m × m× d a y )通気度( s e c / 1 0 0 c c )
4600 350
第2膜
b r n 1 1 0 0 - c 4 0 a
透湿度 ( g / m ×m ×d a y ) 通気度( s e c / 1 0 0 c c )
2000 1000
第3膜
b r n 1 1 0 8 - n 4 0 c
透湿度 ( g / m ×m ×d a y ) 通気度( s e c / 1 0 0 c c )
250 18000
このような配列と小室の組み合わせにより、温度下降があまり急激でない場合は特に、水蒸気の函体側への拡散は抑制される。また温度上昇があまり急激でない場合は特に水蒸気の外気側への移動は妨げられ難いので、しかも通気度は外気側にゆくに従って、大きくなり、外気側へ向かうに従い、外気側の空気と混ざり易くなるので、徐々に薄まり、さらに、外気側に拡散しやすいという現象が発生する。」及び【図19】

記載(2-d);「【0099】
【発明の効果】以上説明してきたように本発明請求項1記載の除湿装置にあっては、前記構成としたため、作用も安定し温暖地域仕様に適し、しかも小室1個で効果が得られ、これにより小型化および量産が可能となる。また、構造が簡単で取扱やすく、長期使用に適している等の効果が得られる。」

2)刊行物2記載の発明

記載(2-a)によれば、刊行物2には、「金属製函体内を外気に連通する通気路を遮断する透湿可能な貫通微細孔を有する2枚の防水膜から構成される少なくとも1つの小室を有し、前記各防水膜の一側が疎水性または撥水性のある疎水性面から構成され、他側が撥水性を有すると共に前記疎水性面よりも疎水性の低い不織布より構成され、前記小室を形成する外気側防水膜が、函体側防水膜よりも通気度が高く、かつ透湿度が低くなるように配列され、かつ前記防水膜が2枚とも前記疎水性面側を外気側に向け、かつ小室壁部は水蒸気に対して結露しにくい熱量的関係にある単一の材料から構成され、さらに、最反函体側防水膜以外の防水膜に近接して高導電性高磁束密度多孔質体が配置されている、除湿装置。」の発明が記載されていると認められる。
そして、この発明の実施例を説明する記載(2-c)によれば、この発明の「除湿装置」に用いられる、「一側が疎水性または撥水性のある疎水性面から構成され、他側が撥水性を有すると共に前記疎水性面よりも疎水性の低い不織布より構成され」る「防水膜」は、b r n 1 0 5 0 - p 2 0 bなどであって、これらは、記載(2-b)に日東電工株式会社登録商標「ブレスロン」のカタログにおける物性表を示すとされた【図4】によれば、日東電工株式会社製造の商品名ブレスロンである。
また、記載(2-c)の【図19】からは、この発明の「通気路」は、金属製函体の開口部に取り付けられた筒状体とも呼べるものの筒内に形成されていることが窺えるし、この発明における、「防水膜」と「高導電性高磁束密度多孔質体」の位置関係に関し、同図からは、「防水膜」の金属製函体側に「高導電性高磁束密度多孔質体」が配置されていることが窺える。
さらに、記載(2-d)には、「本発明請求項1記載の除湿装置にあっては、前記構成としたため、作用も安定し温暖地域仕様に適し、しかも小室1個で効果が得られ、」と記載されているから、この発明における「小室」は1つでよく、小室を構成する防水膜も2枚でよく、その場合、この発明の「反函体側防水膜以外の防水膜」とは「函体側防水膜」であるといえる。

そうすると、刊行物2には、以下の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されていると認められる。

「金属製函体内を外気に連通する、金属製函体の開口部に取り付けられた筒状体の筒内に形成される通気路を遮断する透湿可能な貫通微細孔を有する2枚の防水膜から構成される1つの小室を有し、前記各防水膜は日東電工株式会社製造の商品名ブレスロンであり、前記小室を形成する外気側防水膜が、函体側防水膜よりも通気度が高く、かつ透湿度が低くなるように配列され、かつ前記防水膜が2枚とも疎水性面側を外気側に向け、かつ小室壁部は水蒸気に対して結露しにくい熱量的関係にある単一の材料から構成され、さらに、函体側防水膜の金属製函体側に近接して高導電性高磁束密度多孔質体が配置されている、除湿装置。」

3)対比・判断
本件発明と刊行物2発明とを対比する。
刊行物2発明の「金属製函体」、「取り付けられた」、「通気路」及び「防水膜」は、それぞれ、本件発明の「筐体」、「固着された」、「貫通孔」及び「通気膜」に相当する。
そして、刊行物2発明の「金属製函体内を外気に連通する、金属製函体の開口部に取り付けられた筒状体の筒内に形成される通気路を遮断する透湿可能な貫通微細孔を有する2枚の防水膜」は、「2枚の防水膜から構成される少なくとも1つの小室」を形成するものであるから、小室を形成できるように互いに離間して配置されているといえ、本件発明における、「前記開口部を通過する気体が透過し前記気体の透過方向に沿って互いに接しないように配置された第1の通気膜と第2の通気膜とを含む複数の通気膜」に相当する。
また、刊行物2発明の「筒状体」は、筒内に形成される通気路を遮断する透湿可能な貫通微細孔を有する2枚の防水膜を有するから、本件発明の「複数の通気膜を支持し貫通孔が形成された支持体」に対応しているといえる。
さらに、刊行物2発明の「除湿装置」は、2枚の防水膜のうちの函体側防水膜にのみ、その金属製函体側に近接して高導電性高磁束密度多孔質体が配置されるから、2枚の防水膜間には、筒状体と気体のみが存在するといえる。

そうすると、本件発明は、刊行物2発明とは、
「筐体の開口部に固着された状態で
前記開口部を通過する気体が透過し前記気体の透過方向に沿って互いに接しないように配置された第1の通気膜と第2の通気膜とを含む複数の通気膜と、前記複数の通気膜を支持し貫通孔が形成された支持体とを含み、
前記第1の通気膜と前記第2の通気膜の間には、前記支持体と気体のみが存在している」点で一致し、
以下の点で相違していると認められる。

相違点2-A;本件発明は、「前記筐体の内部へ水および粉塵が侵入することを防止し、前記筐体内部の圧力変化を緩和する通気部材」であるのに対し、刊行物2発明の「除湿装置」は、そのような通気部材であるか不明な点。

相違点2-B;本件発明は、「前記貫通孔の一方端が前記第1の通気膜により被覆されるように、前記支持体における1つの前記貫通孔の一方端の周囲と前記第1の通気膜の周縁が接着または溶着され、前記貫通孔の他方端が前記第2の通気膜により被覆されるように、前記支持体における1つの前記貫通孔の他方端の周囲と前記第2の通気膜の周縁が接着または溶着され」ているのに対し、刊行物2発明は、2枚の防水膜である函体側防水膜と外気側防水膜とが筒状体に対してどのような状態とされることで通気路を遮断する1つの室を構成しているのか特定していない点。

相違点2-Aについて検討する。
刊行物2発明における、「日東電工株式会社製造の商品名ブレスロンであり、」「透湿可能な貫通微細孔を有する2枚の防水膜」は、元来、透湿性と通気性とを併せ持ち、水や塵を通しにくい膜であるから、防水膜が配置される刊行物2発明の除湿装置は、結果として、容器の内部へ水および粉塵が侵入することを防止するものとなるといえる。また、通気性の膜が配置された刊行物2発明の除湿装置は、結果として、容器内部の圧力変化を緩和するものとなるといえる。
よって、相違点2-Aは実質的なものでない。

相違点2-Bについて検討する。
刊行物2発明において、筒状体には、2枚の防水膜により1つの小室のみ構成されるから、2枚の防水膜を筒状体の両端部を被覆するように配置すること、その際、2枚の防水膜を筒状体両端部に接着又は溶着することにより被覆を行うことは、当業者が適宜決め得る設計的事項であり、当業者が容易に成し得たことである。
そして、本件発明において、第1の通気膜と第2の通気膜により支持体の両端を接着又は溶着によって被覆することで、格別顕著な効果が得られるわけでもない。

4)小括
以上のとおり、相違点2-Aは実質的なものでなく、刊行物2発明において、相違点2-Bを解消することは当業者が容易に成し得たことであるから、本件発明は、刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に成し得たものである。
よって、理由Aは妥当である。

3-3.理由B(刊行物3を主引例とした場合)の妥当性について

1)刊行物3?4の記載
1-1)刊行物3には以下の記載が存在する。

記載(3-a);「【請求項1】 筐体の周壁に開口部が設けられ、この開口部に、呼吸部材が、開口部を被覆した状態で取り付けられていることを特徴とする通気筐体。」

記載(3-b);「【0022】また、上記通気筐体は、筐体1の開口部2が上記呼吸部材(多孔体からなる膜材)3で被覆されているため、防塵性,防水性および防油性が高い。さらに、上記呼吸部材3も補強材4も通気性を有しているため、上記通気筐体内のECU等の発熱等により通気筐体内外で圧力差が生じても、通気筐体は、その内部圧力の変化を緩和することができる。しかも、上記呼吸部材3に撥水処理,撥油処理が施されていると、上記通気筐体は、防水性,防油性が一層向上する。」

記載(3-c);「【実施例1】実施例1品は、図1および図2に示す通気筐体である。そこで、筐体1を、テイジン社製CG7640(ポリブチレンテレフタレート樹脂:融点225℃)を用いて射出成形により作製した。得られた筐体1の開口部2の内径は6mmであった。また、呼吸部材3として、日東電工社製ミクロテックスNTF1131(ポリテトラフルオロエチレン樹脂製の多孔質膜:融点327℃)を準備し、撥水処理および撥油処理を施した。」

記載(3-d);「【0051】
【実施例4】実施例4品は、図7および図8に示す通気筐体である。そこで、筐体31を、住友化学工業社製AW564(ポリプロピレン樹脂:曲げ弾性率1.35×10^(9) N/m^(2):融点170℃)を用いて射出成形により作製した。得られた筐体31の開口部32の内径は、上側部分が14mm、下側部分が6mmであった。また、呼吸部材33および補強材34は、実施例1と同様のものであり、実施例1と同様にして呼吸部材33と補強材34との積層体35を得た。また、底部に貫通孔36が形成された有底筒状体38を、上記筐体31と同様の材料を用いて射出成形により作製した。得られた有底筒状体38の高さは5mm,胴部の内径は8mm、底部貫通孔36の内径は5mmであった。そして、上記積層体35の補強材34を下側(上記有底筒状体の底側)にして積層体35を有底筒状体38の上端開口部から挿入する。つぎに、上記有底筒状体38の底面に積層体35の補強材34を当接させ、呼吸部材33側から温度160℃,圧力4.9×10^(5)Paで10秒間圧着して熱融着し、略筒状体37を得た。つづいて、上記略筒状体37を底部から上記筐体31の開口部32の上側部分に挿入したのち、温度170℃,圧力4.9×10^(5)Paで10秒間圧着して熱融着し、図7および図8に示す通気筐体を得た。」及び【図8】

1-2)刊行物4には以下の記載が存在する。

記載(4-a);「【0011】非透水性の通気性部材3は、表底2に複数設けた貫通孔2a全体を覆うことが可能な形状を有しており、図2に示すように、弾性樹脂31とその両面に積層された非透水性の通気膜32,33とからなる。弾性樹脂31は、後述するように、製造の際にボトムモールド7にピン71を有するものを用いるため、仮にそのピン71の先端が突き刺さったとしても、弾性樹脂31の上面に積層した通気膜32は突き破らないようにするため、及びクッション性を高めるために配設される。また、この弾性樹脂31は、通気性を有していることが必要であり、予め適宜数の貫通孔31aを厚み方向に穿設したものを用いる。なお、弾性樹脂31としては、天然ゴム、合成ゴム、ウレタン等を用いることができるが、クッション性を向上させるためにそれらの発泡体を用いることが好ましい。
【0012】非透水性の通気膜32,33は、水を通過させずに水蒸気や空気のみを通過させるものであればどのようなものであってもよい。例えば、日東電工社製、商品名「ミクロテックス」を用いることができるが、これのみではなく、その一面に目の粗い織布(例えば、旭化成アピコ社製、商品名「トリコット」)を、他面に目の細かいポリエステル織布又は不織布を貼着したものを用いると、耐久性の点から好ましい。なお、本実施例では、非透水性の通気膜32,33を弾性樹脂31の両面に積層している。これは、本実施例の靴を着用することにより、表底2に形成された貫通孔2aから異物が侵入して接地面側に貼着された通気膜33に穴があいたとしても、水の侵入を防止するためである。防水性を高めるためには本実施例のような構成とすることが最も好ましいが、最低限の要素としては、該通気膜は弾性樹脂31の少なくとも片面、好ましくは上面に貼着されていればよい。」及び【図2】

2)刊行物3記載の発明
刊行物3には、記載(3-a)によれば、「筐体の周壁に開口部が設けられ、この開口部に、呼吸部材が、開口部を被覆した状態で取り付けられていることを特徴とする通気筐体。」が記載されているといえる。
そして、この「通気筐体」は、記載(3-b)によれば、防塵性,防水性および防油性が高く、内部圧力の変化を緩和することができるといえる。
また、この「通気筐体」の構成について具体的に説明した記載(3-d)によれば、呼吸部材が補強材とともに有底筒状体に挿入された略筒状体が、筐体の開口部に挿入され、熱融着されて通気筐体を構成するから、この「通気筐体」において、筐体の開口部には、呼吸部材が有底筒状体に挿入されてなる略筒状体が、開口部を被覆した状態で熱融着されているといえる。
さらに、この「通気筐体」の「呼吸部材」は、記載(3-c)及び記載(3-d)によれば、日東電工社製ミクロテックスであるといえる。

そうすると、刊行物3には、
「筐体の周壁に開口部が設けられ、この開口部に、日東電工社製ミクロテックスからなる呼吸部材が有底筒状体に挿入されてなる略筒状体が、開口部を被覆した状態で熱融着されている、防塵性,防水性および防油性が高く、内部圧力の変化を緩和することができる通気筐体。」の発明が記載されていると認められ、
この発明からは、以下の発明(以下、「刊行物3発明」という。)をも把握することができる。

「防塵性,防水性および防油性が高く、内部圧力の変化を緩和することができる通気筐体に用いられる、筐体の周壁に設けられた開口部に、該開口部を被覆した状態で熱融着されている、日東電工社製ミクロテックスからなる呼吸部材が有底筒状体に挿入されてなる略筒状体」

3)対比・判断
本件発明と刊行物3発明とを対比する。
刊行物3発明の「融着されている」、「日東電工社製ミクロテックスからなる呼吸部材」、「有底筒状体」は、それぞれ、本件発明の「固着された」、「通気膜」、「貫通孔が形成された支持体」に相当する。
刊行物3発明の「日東電工社製ミクロテックスからなる呼吸部材が有底筒状体に挿入されてなる略筒状体」は、本件発明の「通気部材」に対応する。
また、刊行物3発明において、通気筐体の「防塵性,防水性および防油性」を高め、筐体の「内部圧力の変化を緩和すること」に寄与するのは、「日東電工社製ミクロテックスからなる呼吸部材が有底筒状体に挿入されてなる略筒状体」に他ならない。

そうすると、本件発明は、刊行物3発明とは、
「筐体の開口部に固着された状態で前記筐体の内部へ水および粉塵が侵入することを防止し、前記筐体内部の圧力変化を緩和する通気部材であって、
通気膜と、前記通気膜を支持し貫通孔が形成された支持体とを含む、通気部材。」である点で一致し、
以下の点で相違していると認められる。

相違点3;本件発明は、「前記開口部を通過する気体が透過し前記気体の透過方向に沿って互いに接しないように配置された第1の通気膜と第2の通気膜とを含む複数の通気膜」を有し、支持体は、「前記複数の通気膜」を支持するものであって、支持体の「前記貫通孔の一方端が前記第1の通気膜により被覆されるように、前記支持体における1つの前記貫通孔の一方端の周囲と前記第1の通気膜の周縁が接着または溶着され、前記貫通孔の他方端が前記第2の通気膜により被覆されるように、前記支持体における1つの前記貫通孔の他方端の周囲と前記第2の通気膜の周縁が接着または溶着され、前記第1の通気膜と前記第2の通気膜の間には、前記支持体と気体のみが存在している」のに対し、刊行物3発明は、このような複数の通気膜(呼吸部材)を有していない点。

相違点3について検討する。
刊行物4には、先に「3-3」の「1-2)」に示した記載(4-a)によれば、「適宜数の貫通孔を厚み方向に穿設された弾性樹脂の両面に、日東電工社製、商品名ミクロテックスからなる非透水性の通気膜が貼着された通気性部材」が記載され、外気側の通気膜に穴があいたとしても水の侵入を防止できる旨も記載されている。
通気膜により通気性を付与する技術の分野において、通気膜が傷ついたときに水等の侵入を防止すべきことは当然の課題であるから、刊行物3発明における日東電工社製ミクロテックスからなる呼吸部材を備える略筒状体に代えて、刊行物4に記載された、「適宜数の貫通孔を厚み方向に穿設された弾性樹脂(貫通孔が形成された支持体)の両面(一方端及び他方端)に、日東電工社製、商品名ミクロテックスからなる非透水性の通気膜(第1の通気膜及び第2の通気膜)が貼着(接着)された通気性部材」を採用することは、必要に応じて、当業者が容易に成し得たことである。
そして、刊行物4に記載された上記の通気性部材は、弾性樹脂の両面に貼着された通気膜間には、弾性樹脂と気体のみが存在するものである。

4)小括
以上のとおり、刊行物3発明において、相違点3を解消することは当業者が容易に成し得たことであるから、本件発明は、刊行物3?4に記載された発明に基いて当業者が容易に成し得たものである。
よって、理由Bは妥当である。

3-4.まとめ
本件発明は、この出願の出願前に頒布された刊行物2に記載された発明に基いて、この出願の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるし、また、同じく刊行物3?4に記載された発明に基いて、この出願の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、当審拒絶理由は妥当である。

4.むすび
以上のとおり、当審拒絶理由は妥当であるから、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-16 
結審通知日 2009-12-17 
審決日 2010-01-06 
出願番号 特願2003-57157(P2003-57157)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森林 克郎  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 青木 千歌子
大橋 賢一
発明の名称 通気部材およびこれを用いた通気筐体  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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