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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1212133
審判番号 不服2007-6001  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-27 
確定日 2010-02-19 
事件の表示 特願2000-279271「誘電体磁器組成物及びこれを用いた積層セラミックコンデンサ」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 3月27日出願公開、特開2002- 87879〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年9月14日の出願であって、平成19年1月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年2月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに同年3月26日付けで手続補正書が提出されたものである。その後、平成21年6月1日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対する回答書が平成21年8月3日に提出されている。

II.平成19年3月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年3月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成19年3月26日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として酸化マグネシウム、酸化ディスプロシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化バナジウム、酸化ケイ素、酸化マンガンおよび酸化モリブデンを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)換算で100モルとした場合に、酸化マグネシウムをMgO換算で1.0?3モル、酸化ディスプロシウムをDy_(2)O_(3)換算で1?5モル、酸化バリウムおよび酸化カルシウムをそれぞれBaOおよびCaO換算で合計0.5?5モル、酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01モル以上0.1モル未満、酸化ケイ素をSiO_(2)換算で1?5モル、酸化マンガンをMnO換算で0.1?1モル、酸化モリブデンをMoO_(3)換算で0.05?0.2モル含有することを特徴とする誘電体磁器組成物。」
と補正された。
上記補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01モル?0.1モル」を「酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01モル以上0.1モル未満」に限定するものであるから、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか以下検討する。

2.引用文献の記載事項
(1)引用文献1:特開2000-26160号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1)
(ア)「BaTiO_(3)100モルに対し、BaOもしくはBaCO_(3)をBa/Tiの比が1.001?1.04になるように添加し、更にMgOを0.5?5.0モル、Dy_(2)O_(3)を0.1?3.0モル、MnO_(2)を0.01?0.4モル、BaO・MgO・SiO_(2)化合物を0.6?5.0モル添加することを特徴とする誘電体磁器組成物。」(【請求項1】)
(イ)「バナジウム原子をV_(2)O_(5)に換算し、BaTiO_(3)100モルに対し0.01?0.26モル添加する事を特徴とする請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物。」(【請求項3】)
(ウ)「本発明の誘電体磁器組成物は、中性あるいは還元性雰囲気中で大量焼成を行っても、絶縁抵抗特性の劣化がない信頼性の高い積層コンデンサを得ることのできる誘電体磁器組成物を提供することを目的とするものである。」(段落【0004】)
(エ)「【発明の実施の形態】 本発明の請求項1に記載の発明は、・・・を特徴とする誘電体磁器組成物であり、基本成分のBa/Ti比を調整するために加えた過剰のBaOあるいはBaCO_(3)とMnO_(2)は誘電体組成物の耐還元性を強化し、特にMnO_(2)の添加は中性あるいは還元性雰囲気中での積層コンデンサの焼成において、誘電体組成物の絶縁抵抗特性の劣化を防ぐと共に、積層コンデンサの静電容量のバラツキを抑制して均質な焼結体が得られるという効果がある。MgO、Dy_(2)O_(3)の添加は誘電率、静電容量温度特性、誘電正接等の電気特性を満足させるという効果を有し、BaO・MgO・SiO_(2)化合物の添加は比較的焼成温度が低い場合でも誘電体組成の焼結を促進し緻密な焼結体が得られるので、絶縁抵抗を安定させ電気的性能を満足させることができるという作用を有するものである。」(段落【0006】)
(オ)「本発明の請求項3に記載の発明は、バナジウム原子をV_(2)O_(5)に換算し、BaTiO_(3)100モルに対して0.01?0.26モル添加することを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物であり、V_(2)O_(5)の添加は、還元雰囲気の焼成で還元されやすい基本成分BaTiO_(3)を構成するTiO_(2)の還元を抑制して積層コンデンサの絶縁抵抗の低下を防ぎ、静電容量バラツキの小さい積層コンデンサを得ることができるという作用を有するものである。」(段落【0008】)
(カ)「以上の結果から主成分のBaTiO_(3)100モルに対し、BaCO_(3)をBa/Ti比が0.001?0.04になるように過剰添加することにより、還元雰囲気中での大量焼成において誘電体が還元される事なく良好な焼結体が得られる。MgOを0.5?5.0モル添加することにより誘電率の温度変化率を小さくすると共に、絶縁抵抗値を向上させる効果があり、Dy_(2)O_(3)を0.1?3.0モル添加することにより静電容量の温度変化率、及び絶縁抵抗値を向上させる効果がある。MnO_(2)を0.01?0.4モル添加することで主成分のBaTiO_(3)中のTiO_(2)の還元を防止し絶縁抵抗特性を向上させることができる。BaO・MgO・SiO_(2)化合物を0.6?5.0モル添加することで比較的低温での焼結を可能にし、静電容量、絶縁抵抗のバラツキを小さくする効果があることが明らかとなる。但し各添加物の添加量が前記本発明の範囲を外れると焼成時に誘電体磁器組成物が半導体化してしまったり、電気特性のバラツキが大きくなる、静電容量温度変化率が大きくなるなど好ましくないことが分かる。」(第5頁右欄18?36行、段落【0023】)

(2)引用文献2:特開平8-124785号公報(原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2)
(ア)「誘電体層と内部電極層とが交互に積層された構成のコンデンサチップ体を有する積層型セラミックチップコンデンサであって、
誘電体層が、主成分としてチタン酸バリウムを、副成分として酸化マグネシウムと、酸化イットリウムと、酸化バリウムおよび酸化カルシウムから選択される少なくとも1種と、酸化ケイ素と、酸化マンガンと、酸化バナジウムおよび酸化モリブデンから選択される少なくとも1種とを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)に、酸化マグネシウムをMgOに、酸化イットリウムをY_(2)O_(3)に、酸化バリウムをBaOに、酸化カルシウムをCaOに、酸化ケイ素をSiO_(2)に、酸化マンガンをMnOに、酸化バナジウムをV_(2)O_(5)に、酸化モリブデンをMoO_(3)にそれぞれ換算したとき、BaTiO_(3)100モルに対する比率が
MgO:0.1?3モル、
Y_(2)O_(3):0モル超5モル以下、
BaO+CaO:2?12モル、
SiO_(2):2?12モル、
MnO:0モル超0.5モル以下、
V_(2)O_(5):0?0.3モル、
MoO_(3):0?0.3モル、
V_(2)O_(5)+MoO_(3):0モル超
である積層型セラミックチップコンデンサ。」(【請求項1】)
(イ)「積層型セラミックチップコンデンサは通常、内部電極層用のペーストと誘電体層用のペーストとをシート法や印刷法等により積層し、一体同時焼成して製造される。」(段落【0003】)
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、容量の温度特性であるX7R特性を満足することができ、かつ、直流電界下での容量の経時変化が小さく、絶縁抵抗IRの加速寿命が長く、直流バイアス特性が良好であり、絶縁破壊が生じにくい積層型セラミックチップコンデンサを提供することである。」(段落【0012】)
(エ)「BaO+CaOの含有量が前記範囲未満であると、直流電界印加時の容量の経時変化が大きくなり、また、IR加速寿命が不十分となり、また、容量の温度特性を所望の範囲とすることができない。含有量が前記範囲を超えると、IR加速寿命が不十分となり、また、比誘電率の急激な低下が起こる。」(第4頁右欄15?20行、段落【0027】)
(オ)「酸化マンガンは誘電体層を緻密化する作用とIR加速寿命を向上させる作用とをもつが、含有量が多すぎると直流電界印加時の容量の経時変化を小さくすることが困難となる。」(段落【0028】)
(カ)「酸化バナジウムおよび酸化モリブデンは、直流電界下での容量の経時変化を改善する。また、酸化バナジウムは絶縁破壊電圧を向上させ、酸化モリブデンはIRの加速寿命を向上させる。V_(2)O_(5)およびMoO_(3)の少なくとも一方が多すぎると、初期IRの極端な低下を招く。」(段落【0029】)
(キ)「焼成雰囲気は還元性雰囲気とすることが好ましく、雰囲気ガスとしては、例えば、N_(2)とH_(2)との混合ガスを加湿して用いることが好ましい。」(第6頁右欄15?17行、段落【0057】)
(ク)「各サンプルの誘電体層の組成を各表に示す。組成は、前述したようにBaTiO_(3)100モルに対する比率で表わしてある。」(段落【0085】)
(ケ)表2(第9頁)に、サンプルN0.205として「BaO(モル):1.74、CaO(モル):1.26、MnO(モル):0.375、V_(2)O_(3)(モル):0.05、MoO_(3)(モル):0.1」が記載され、表3(同頁)に、サンプルN0.304として「BaO(モル):1.74、CaO(モル):1.26、MnO(モル):0.19、V_(2)O_(3)(モル):0.05、MoO_(3)(モル):0.1」が記載されている。

3.対比・判断
引用文献1には、記載事項(ア)及び(イ)によれば、「BaTiO_(3)100モルに対し、BaOもしくはBaCO_(3)をBa/Tiの比が1.001?1.04になるように添加し、更にMgOを0.5?5.0モル、Dy_(2)O_(3)を0.1?3.0モル、MnO_(2)を0.01?0.4モル、BaO・MgO・SiO_(2)化合物を0.6?5.0モル添加するとともに、バナジウム原子をV_(2)O_(5)に換算し、BaTiO_(3)100モルに対し0.01?0.26モル添加する誘電体磁器組成物」が記載されているといえる。
この記載中の「BaTiO_(3)100モルに対し、BaOもしくはBaCO_(3)をBa/Tiの比が1.001?1.04になるように添加」については、記載事項(カ)の「主成分のBaTiO_(3)100モルに対し、BaCO_(3)をBa/Ti比が0.001?0.04になるように過剰添加する」ことから、BaOをBaTiO_(3)100モルに対して0.1?4.0モル添加されていることになる。また、「BaO・MgO・SiO_(2)化合物を0.6?5.0モル添加」は、BaO・MgO・SiO_(2)化合物の形でBaO、MgO、SiO_(2) を各々0.6?5.0モル添加することを示している。そうすると、BaOについて、BaTiO_(3)100モルに対し、(0.1?4.0)+(0.6?5.0)である0.7?9.0モル、また、MgOについては、(0.5?5.0)+(0.6?5.0)である1.1?10モル含有するものといえる。
そして、「BaTiO_(3)」については、「BaTiO_(3)100モル」がBaTiO_(3)が他の添加成分に比して多量であり主成分であることを示しているといえるから、「誘電体磁器組成物」の主成分であることは明らかである。
以上のことから、上記記載の事項を補正後発明1の記載振りに則して整理すると、引用文献1には、
「主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として酸化マグネシウム、酸化ディスプロシウム、酸化バリウム、酸化バナジウム、酸化ケイ素および酸化マンガンを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)換算で100モルとした場合に、酸化マグネシウムをMgO換算で1.1?10モル、酸化ディスプロシウムをDy_(2)O_(3)換算で0.1?3.0モル、酸化バリウムをBaO換算で0.7?9.0モル、酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01?0.26モル、酸化ケイ素をSiO_(2)換算で0.6?5モル、酸化マンガンをMnO換算で0.01?0.4モル含有する誘電体磁器組成物」の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されているといえる。

そこで、本願補正発明と引用文献1発明とを対比すると、両者は、「主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として酸化マグネシウム、酸化ディスプロシウム、酸化バリウム、酸化バナジウム、酸化ケイ素、酸化マンガンを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)換算で100モルとした場合に、酸化マグネシウムをMgO換算で1.1?3モル、酸化ディスプロシウムをDy_(2)O_(3)換算で1?3モル、酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01モル以上0.1モル未満、酸化ケイ素をSiO_(2)換算で1?5モル、酸化マンガンをMnO換算で0.1?0.4モル含有する誘電体磁器組成物」を含む発明である点で重複・一致し、次の点で相違する。

相違点:本願補正発明が「酸化カルシウム、・・・および酸化モリブデンを含有し」、「酸化バリウムおよび酸化カルシウムをそれぞれBaOおよびCaO換算で合計0.5?5モル、酸化モリブデンをMoO_(3)換算で0.05?0.2モル含有」するのに対して、引用文献1発明は「酸化バリウムをBaO換算で0.7?9.0モル」含有しているが、かかる特定事項を有していない点

そこで、相違点について検討する。
引用文献2には、記載事項(ア)に「主成分としてチタン酸バリウムを、副成分として酸化マグネシウムと、酸化イットリウムと、酸化バリウムおよび酸化カルシウムから選択される少なくとも1種と、酸化ケイ素と、酸化マンガンと、酸化バナジウムおよび酸化モリブデンから選択される少なくとも1種とを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)に、酸化マグネシウムをMgOに、酸化イットリウムをY_(2)O_(3)に、酸化バリウムをBaOに、酸化カルシウムをCaOに、酸化ケイ素をSiO_(2)に、酸化マンガンをMnOに、酸化バナジウムをV_(2)O_(5)に、酸化モリブデンをMoO_(3 )にそれぞれ換算したとき、BaTiO_(3)100モルに対する比率が
MgO:0.1?3モル、
Y_(2)O_(3):0モル超5モル以下、
BaO+CaO:2?12モル、
SiO_(2):2?12モル、
MnO:0モル超0.5モル以下、
V_(2)O_(5):0?0.3モル、
MoO_(3):0?0.3モル、
V_(2)O_(5)+MoO_(3):0モル超
である誘電体層」が記載されている。
この記載中の「BaO+CaO:2?12モル」及び「MnO:0モル超0.5モル以下、V_(2)O_(5):0?0.3モル、MoO_(3):0?0.3モル、V_(2)O_(5)+MoO_(3):0モル超」における「BaO+CaO」については、記載事項(エ)に「BaO+CaOの含有量が前記範囲未満であると、直流電界印加時の容量の経時変化が大きくなり、また、IR加速寿命が不十分となり、また、容量の温度特性を所望の範囲とすることができない。含有量が前記範囲を超えると、IR加速寿命が不十分となり、また、比誘電率の急激な低下が起こる」と記載されている。かかる記載によれば、BaOとCaOは、直流電界印加時の容量の経時変化、IR加速寿命、容量の温度特性、比誘電率を好ましいものとするために添加されるものといえ、同等な成分として認識されていることが分かる。また、同様に「MoO_(3):0?0.3モル、V_(2)O_(5)+MoO_(3):0モル超」については、記載事項(カ)に「酸化バナジウムおよび酸化モリブデンは、直流電界下での容量の経時変化を改善する。また、酸化バナジウムは絶縁破壊電圧を向上させ、酸化モリブデンはIRの加速寿命を向上させる。V_(2)O_(5)およびMoO_(3)の少なくとも一方が多すぎると、初期IRの極端な低下を招く」と記載されている。かかる記載によれば、V_(2)O_(5)およびMoO_(3)がいずれも直流電界下での容量の経時変化、初期IRを好ましいものとするために添加されるものであり、同等な成分として認識されていることが分かる。
また、引用文献1発明と引用文献2に記載の誘電体層は、ともに「BaTiO_(3)を主成分とする誘電体」に関し、引用文献1の記載事項(ウ)に「本発明の誘電体磁器組成物は、中性あるいは還元性雰囲気中で大量焼成を行っても、絶縁抵抗特性の劣化がない信頼性の高い積層コンデンサを得ることのできる誘電体磁器組成物を提供することを目的とするものである」と記載され、引用文献2の記載事項(ウ)に「本発明の目的は、容量の温度特性であるX7R特性を満足することができ、かつ、直流電界下での容量の経時変化が小さく、絶縁抵抗IRの加速寿命が長く、直流バイアス特性が良好であり、絶縁破壊が生じにくい積層型セラミックチップコンデンサを提供することである」と記載されていることからみれば、絶縁抵抗特性の劣化がない信頼性の高い積層コンデンサを得る目的の類似性が窺えるものである。
そして、引用文献1発明の「酸化バリウム」、「酸化バナジウム」に関し、引用文献1の記載事項(エ)に「BaOあるいはBaCO_(3)とMnO_(2)は誘電体組成物の耐還元性を強化し、特にMnO_(2)の添加は中性あるいは還元性雰囲気中での積層コンデンサの焼成において、絶縁抵抗特性の劣化を防ぐと共に、積層コンデンサの静電容量のバラツキを抑制して均質な焼結体が得られるという効果がある。・・・BaO・MgO・SiO_(2)化合物の添加は・・・絶縁抵抗を安定させ電気的性能を満足させることができるという作用を有する」こと、記載事項(オ)に「V_(2)O_(5)の添加は、・・・TiO_(2)の還元を抑制して積層コンデンサの絶縁抵抗の低下を防ぎ、静電容量バラツキの小さい積層コンデンサを得ることができるという作用を有する」こと、記載事項(カ)に「BaCO_(3)を・・・添加することにより、還元雰囲気中での大量焼成において誘電体が還元される事なく良好な焼結体が得られる。・・・BaO・MgO・SiO_(2)化合物を・・・添加することで・・・静電容量、絶縁抵抗のバラツキを小さくする効果がある・・・但し各添加物の添加量が前記本発明の範囲を外れると焼成時に誘電体磁器組成物が半導体化してしまったり、電気特性のバラツキが大きくなる、静電容量温度変化率が大きくなるなど好ましくない」ことが記載されている。
これらの記載によれば、引用文献1発明のBaO、V_(2)O_(5)の特定量の添加は絶縁抵抗や積層コンデンサの静電容量を好ましいものとするものといえる。
以上のことを踏まえ、更に、引用文献2の記載事項(ケ)の「サンプルNo.205」として「BaO(モル):1.74、CaO(モル):1.26、MnO(モル):0.375、V_(2)O_(3)(モル):0.05、MoO_(3)(モル):0.1」が記載され、「サンプルNo.304」として「BaO(モル):1.74、CaO(モル):1.26、MnO(モル):0.19、V_(2)O_(3)(モル):0.05、MoO_(3)(モル):0.1」が具体的実施例が記載されている事を勘案すれば、引用文献1発明の「BaO」の添加については、耐還元性、絶縁抵抗特性、静電容量温度特性等を満足させつつ、「BaO」と共に同等成分のCaOを添加成分として加えることに格別困難性はなく、「BaO+CaO」の量を酸化バリウムをBaOおよびCaO換算で合計0.7?5未満モルに限定することも、当業者が設計的な範疇で適宜選定し得ることといえる。また、「MoO_(3)」の添加についても「V_(2)O_(5)」と共に同等成分である「MoO_(3)」を添加成分として加え、引用文献2に記載のIR加速寿命の向上を重視して必須成分の最適添加量として「MoO_(3)(モル):0.1」を含む適宜範囲に限定することは、当業者であれば容易に行い得ることといえる。

そして、補正後発明1が前記相違点に係る事項を採用することにより奏するとする明細書記載の効果も、以下の理由で、格別であるとすることができない。
すなわち、本願の明細書には、酸化カルシウムの添加に関して「酸化バリウム及び酸化カルシウムの含有量が合計で0.5モル未満であると、直流電界印加時の容量の経時変化が大きくなる。また、絶縁抵抗加速寿命が不十分となり、さらに、容量の温度特性を所望の範囲とすることができなくなる。一方、酸化バリウム及び酸化カルシウムの含有量が合計で5モルを超えると、絶縁抵抗加速寿命が不十分となり、また、比誘電率の急激な低下が起こる。」(【0019】)と記載され、酸化モリブデンの添加に関して「酸化モリブデンは直流電界下での容量の経時変化を改善するとともに、絶縁抵抗の加速寿命を向上させる。酸化モリブデンの含有量が0.05モル未満ではそのような作用を得ることが困難となり易く、0.2モルを超えると初期絶縁抵抗の極端な低下き易い。」(【0023】)と記載され、補正後発明1が、直流電界印加時の容量の経時変化、絶縁抵抗加速寿命、容量の温度特性、比誘電率や初期絶縁抵抗の低下という点で優れるとしているが、これらの効果は、酸化カルシウムについては、引用文献2の記載事項(エ)の「BaO+CaOの含有量が前記範囲未満であると、直流電界印加時の容量の経時変化が大きくなり、また、IR加速寿命が不十分となり、また、容量の温度特性を所望の範囲とすることができない。含有量が前記範囲を超えると、IR加速寿命が不十分となり、また、比誘電率の急激な低下が起こる。」と同じ作用効果であり、酸化モリブデンについては、記載事項(カ)の「酸化バナジウムおよび酸化モリブデンは、直流電界下での容量の経時変化を改善する。また、酸化バナジウムは絶縁破壊電圧を向上させ、酸化モリブデンはIRの加速寿命を向上させる。V_(2)O_(5)およびMoO_(3)の少なくとも一方が多すぎると、初期IRの極端な低下を招く。」と同じ作用効果であるといえることから、引用文献2の記載から予想し得る効果であり、格別顕著なものとはいえない。
なお、請求人は、審判請求書(平成19年6月4日付け手続補正書の「(4)」の「(ロ)本願発明の効果の立証」)において、実験成績証明書において、酸化ディスプロシウムや酸化マグネシウムの含有量が低いものは、静電容量及び誘電率が小さく、誘電損失が大きい旨主張しているが、補正後発明1と引用例1発明とは、酸化ディスプロシウムや酸化マグネシウムの含有量に相違はなく、また、酸化カルシウム及び酸化モリブデンを含有しない誘電体磁器組成物(試料2)では、試料1に比して静電容量の温度変化が大きい旨主張しているが、上記したように「CaO」と「BaO」、「MoO_(3)」と「V_(2)O_(5)」が同等成分と考えられるところ、「CaO+BaO」並びに「MoO_(3)+V_(2)O_(5)」の含有量に試料1及び試料2に違いがあることから、この静電容量の温度変化に格別の顕著性を見出すことはできない。したがって、これらの請求人の主張を格別のものとすることはできない。

してみると、前記相違点に係る補正後発明1の事項は、当業者であれば引用文献1及び引用文献2の記載に基づいて格別困難なく想到し得るものといえる。
よって、補正後発明1は、本願の出願日前に頒布された引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
平成19年3月26日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明は、平成18年3月31日付けで手続補正された明細書及び図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりの事項により特定されるものである。
【請求項1】主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として酸化マグネシウム、酸化ディスプロシウム、酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化バナジウム、酸化ケイ素、酸化マンガンおよび酸化モリブデンを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)換算で100モルとした場合に、酸化マグネシウムをMgO換算で1.0?3モル、酸化ディスプロシウムをDy_(2)O_(3)換算で1?5モル、酸化バリウムおよび酸化カルシウムをそれぞれBaOおよびCaO換算で合計0.5?5モル、酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01モル?0.1モル、酸化ケイ素をSiO_(2)換算で1?5モル、酸化マンガンをMnO換算で0.1?1モル、酸化モリブデンをMoO_(3)換算で0.05?0.2モル含有することを特徴とする誘電体磁器組成物。

IV.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、「この出願については、平成18年1月30日付けの拒絶理由通知書に示した理由1、2によって、拒絶すべきものである。」であり、平成18年1月30日付けの拒絶理由通知書に示した理由1は、「この出願の請求項に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に特許を受けることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。引用文献1:特開2000-026160号公報、引用文献2:特開平08-124785号公報」というものである。

V.引用文献の記載及び引用文献1発明
引用文献1及び引用文献2の記載事項は、上記「II.2」に記載のとおりである。また、引用文献1発明は、上記「II.3」に記載されるとおり「主成分としてチタン酸バリウムを含有し、副成分として酸化マグネシウム、酸化ディスプロシウム、酸化バリウム、酸化バナジウム、酸化ケイ素および酸化マンガンを含有し、チタン酸バリウムをBaTiO_(3)換算で100モルとした場合に、酸化マグネシウムをMgO換算で1.1?10モル、酸化ディスプロシウムをDy_(2)O_(3)換算で0.1?3.0モル、酸化バリウムをBaO換算で0.601?5.04モル、酸化バナジウムをV_(2)O_(5)換算で0.01?0.26モル、酸化ケイ素をSiO_(2)換算で0.6?5モル、酸化マンガンをMnO換算で0.01?0.4モル含有する誘電体磁器組成物」の発明である。

VI.対比判断
本願発明1は、上記「II.」で検討した補正後発明1が「酸化バナジウム」について「V_(2)O_(5)換算で0.01モル以上0.1モル未満」であるのに対し、「V_(2)O_(5)換算で0.01モル?0.1モル」である点で異なり、他の特定事項は同じである。この異なる点については、本願発明1の「V_(2)O_(5)換算で0.01モル?0.1モル」は、補正後発明の「V_(2)O_(5)換算で0.01モル以上0.1モル未満」を包含するものである。
してみると、補正後発明1を包含する本願発明1は、補正後発明1と同様上記「II.3」に記載した理由により、引用文献1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

VII.平成21年8月3日付け回答書における補正案について
前記回答書における補正案は、請求項1における酸化ディスプロシウムの含有量を「Dy_(2)O_(3)換算で1?5モル」から「Dy_(2)O_(3)換算で2?3モル」に補正するものである。
しかし、酸化ディスプロシウムの含有量を「0.1?3モル」とすることは、引用文献1に記載されているところであり、「0.1?3モル」からその大部分を占める「2?3モル」を選択することは当業者が誘電体磁器組成物の全体の特性に照らして適宜なし得ることである上に、明細書の記載や前記回答書と同日付けの手続補足書で提示された実験証明書の記載をみても、上限値及び下限値である「2モル」及び「3モル」に係る具体的な効果の記載はなく、それらの数値が臨界的意義を有するとすることはできない。
したがって、補正案をみても、上記結論を覆すとまではいえない。

VIII.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、本願の出願日前に頒布された引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-25 
結審通知日 2009-12-28 
審決日 2010-01-08 
出願番号 特願2000-279271(P2000-279271)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C04B)
P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 賢一  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 斉藤 信人
深草 祐一
発明の名称 誘電体磁器組成物及びこれを用いた積層セラミックコンデンサ  
代理人 末成 幹生  
代理人 末成 幹生  

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