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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F01L
管理番号 1212142
審判番号 不服2008-5366  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-05 
確定日 2010-02-19 
事件の表示 平成10年特許願第213121号「エンジンのカムシャフト構造」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 2月15日出願公開、特開2000- 45714号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成10年7月28日の出願であって、平成20年1月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年3月5日に拒絶査定不服審判が請求されたものであり、その後当審において、平成21年7月10日付けで拒絶の理由を通知したところ、平成21年8月19日付け手続補正書により手続補正がされたものである。
そして、本願の各請求項に係る発明は、平成21年8月19日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】エンジン(21)が船外機に搭載され、クランク軸(23)が縦方向に配設され、前記クランク軸に設けたドライブギヤ(23a)とカムシャフト(45)に設けたドリブンギヤ(45a)とが噛合させると共に、前記カムシャフトの回転により燃料ポンプ(42)を駆動させるエンジンにおいて、前記エンジンが単気筒OHV式4サイクルエンジンであり、シリンダボディ(21c)およびクランクケース(21d)には、前記クランク軸に平行に前記カムシャフトを配置し、前記カムシャフトに前記ドリブンギヤ、排気弁用カム(45b)、燃料ポンプ兼吸気弁用カム(45c)を一体に成形し、前記燃料ポンプ兼吸気弁用カムは、前記排気弁用カムよりも上方に位置し、前記燃料ポンプのプランジャ(42a)が前記燃料ポンプ兼吸気弁用カムに当接し、前記ドリブンギヤは、前記排気弁用カムより下方に位置し、前記燃料ポンプ兼吸気弁用カムに対向した前記シリンダボディの外側面に前記燃料ポンプが取り付けられ、前記シリンダボディの外側面に対する前記燃料ポンプの取り付け面は、前記ドリブンギヤの一方の外側端部より内側で前記カムシャフトの上方に近接しており、前記シリンダヘッド(21a)内部には動弁室(46)が形成され、吸気弁(21f)及び排気弁(21g)の端部はロッカーアーム(49)の一端に当接され、前記シリンダボディにはリフター(51)が摺動自在に配設され、前記リフターの一端は前記排気弁用カム及び前記燃料ポンプ兼吸気弁用カムに当接可能にされ、他端はブッシュロッド(50)を介して前記ロッカーアームの他端に連結されていることを特徴とするエンジンのカムシャフト構造。」

2.引用刊行物及びその記載事項
(1)当審の拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された、実願昭59-13587号(実開昭60-125360号)のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

a:「従来、この種のポンプ作動装置として、動弁機構におけるロツカアームの揺動を利用して燃料ポンプを作動するようにしたものが知られているが・・・」(明細書第2ページ第6?8行)

b:「第1図及び第2図において、エンジン本体Eは、クランク軸1を支承するクランクケース2と、クランク軸1に連接されるピストン4が摺合するシリンダブロツク3と、このシリンダブロック3の端面にガスケツト5を介して重合結着されるシリンダヘツド6とより構成され、シリンダブロツク3は水平姿勢でクランクケース2の一側面に一体に連設される。」(明細書第3ページ第5?12行)

c:「即ち、動弁機構13のカム軸14は、クランクケース2にクランク軸1と平行に支持されると共に、調時歯車15,16を介してクランク軸1より2分の1の減速比を以て駆動されるようになつている。このカム軸14には対をなす吸気用カム14i及び排気用カム14eが並設されており、これらカム14i,14eは、シリンダブロツク3にピストン4と平行に摺合される一対のタペツト17,18に係合する。」(明細書第4ページ第7?15行)

d:「カム軸14には、吸,排気用カム14i,14eの中間部にポンプ用カム14pが形成され、このカム14pに作動される往復動式の燃料ポンプPがクランクケース2に装着される。
燃料ポンプPは、クランクケース2の外壁にボルト25(第3図参照)で固着されるポンプ本体26・・・」(明細書第6ページ第4?10行)

e:第1図にはエンジンの要部縦断平面図が、また、第2図には第1図の断面図が、ぞれぞれ記載されている。
第2図において、エンジン本体は、調時歯車15,16の辺りを境にして、上側のクランクケース2と、それよりも下側に設けられて、クランクケース2に結合されている部材(以下「エンジンの下側の部材」という。)とから構成されていると認められる。

上記の各記載事項及び図面の記載を参照すると、引用例1には、
クランク軸1が縦方向に配設され、前記クランク軸1に設けた調時歯車15とカム軸14に設けた調時歯車16とが噛合させると共に、前記カム軸14の回転により燃料ポンプPを駆動させるエンジンにおいて、エンジンが単気筒OHV式4サイクルエンジンであり、シリンダブロツク3、クランクケース2およびエンジンの下側の部材には、前記クランク軸1に平行に前記カム軸14を配置し、前記カム軸14に調時歯車16、排気用カム14e、ポンプ用カム14p、吸気用カム14iを設け、吸気用カム14iとポンプ用カム14pは、排気用カムよりも上方に位置し、前記燃料ポンプPのピストン35がポンプ用カム14pに当接し、調時歯車16は、前記排気用カム14eより下方に位置し、ポンプ用カム14pに対向した前記クランクケース2の外側面に燃料ポンプPが取り付けられ、前記クランクケース2の外側面に対する燃料ポンプPの取り付け面は、前記調時歯車16の一方の外側端部よりも内側で前記カム軸14の上方に近接しており、シリンダヘツド6内部には動弁室が形成され、吸気弁11及び排気弁12の端部はロツカーアーム19,20の一端に当接され、前記シリンダブロツクにはタペツト17,18が摺動自在に配設され、前記タペツトの一端は前記排気用カム14e及び吸気用カム14iに当接可能にされ、他端はプツシユロツド21,22を介して前記ロツカーアーム19,20の他端に連結されているエンジンのカム軸構造(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(2)当審の拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された、特開平10-47073号公報(以下「引用例2」という。)には、船外機のエンジンが記載されており、図1?2では、クランク軸が鉛直方向のものが記載されている。

(3)当審の拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された、特開平10-47030号公報 (以下「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【従来の技術】多くの船外機のエンジンは、そのクランク軸が鉛直方向を向くように縦置きに船外機に搭載されており・・・」(段落番号【0002】)

(4)当審の拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された実願昭47-104635号(実開昭49-58918号)のマイクロフィルム(以下「引用例4」という。)には、以下の事項が記載されている。
「本考案は内燃機関における燃料ポンプの駆動装置に関するもので,その目的は吸気カム又は排気カムをポンプカムとして兼用することにより機関寸法の短縮と,コスト低減をはかる点にある。」(第1ページ第9?12行)
また、第2?3図には、ポンプカムとして吸気カムを採用した例が記載されている。

(5)当審の拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された特開平6-248911号公報 (以下「引用例5」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【従来技術】エンジンの動弁カム軸の従来技術として図4に示すものがある。この従来技術1は、いわゆる合成樹脂一体型の動弁カム軸であり、合成樹脂で軸部101とカム部102・125とカムギヤ部103とを一体に形成してある。・・・」(段落番号【0002】)

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「調時歯車15」は本願発明の「ドライブギヤ」に相当し、
以下、同様に、「カム軸14」は「カムシャフト」に、「調時歯車16」は「ドリブンギヤ」に、「排気用カム14e」は「排気弁用カム」に、「吸気用カム14i」は「吸気弁用カム」に、「ピストン35」は「プランジャ」に、「タペツト」は「リフター」に、それぞれ相当する。
また、本願の図3及び図5から明らかなように、本願発明では、ドライブギヤ23a及びドリブンギヤ45aの辺りを境にして、エンジンの上側を「シリンダボディ21c」と、下側を「クランクケース21d」と、それぞれ規定しているから、
引用発明における「シリンダブロツク3」及び「クランクケース2」は本願発明の「シリンダボディ」に、引用発明の「エンジンの下側の部材」は本願発明の「クランクケース」に、それぞれ相当する。

以上のことから、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。
「クランク軸が縦方向に配設され、前記クランク軸に設けたドライブギヤとカムシャフトに設けたドリブンギヤとが噛合させると共に、前記カムシャフトの回転により燃料ポンプを駆動させるエンジンにおいて、前記エンジンが単気筒OHV式4サイクルエンジンであり、シリンダボディおよびクランクケースには、前記クランク軸に平行に前記カムシャフトを配置し、前記ドリブンギヤは、前記排気弁用カムより下方に位置し、前記シリンダボディの外側面に対する前記燃料ポンプの取り付け面は、前記ドリブンギヤの一方の外側端部より内側で前記カムシャフトの上方に近接しており、前記シリンダヘッド内部には動弁室が形成され、吸気弁及び排気弁の端部はロッカーアームの一端に当接され、前記シリンダボディにはリフターが摺動自在に配設され、前記リフターの一端は前記排気弁用カム、に当接可能にされ、他端はブッシュロッドを介して前記ロッカーアームの他端に連結されているエンジンのカムシャフト構造。」

一方で、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本願発明では、「エンジンが船外機に搭載され」るものであるのに対し、引用発明では、エンジンは何に搭載されたものであるのか明らかではない点。

<相違点2>
本願発明では、吸気弁用カムが「燃料ポンプ兼吸気弁用カム」となっており、「カムシャフトに前記ドリブンギヤ、排気弁用カム、燃料ポンプ兼吸気弁用カムを一体に成形」したものであるのに対し、
引用発明では、ポンプ用カムと吸気用カムとは別々に設けられていて、「燃料ポンプ兼吸気弁用カム」とはなっておらず、また、カム軸、調時歯車16(ドリブンギヤに相当。)及び各カムが一体に成型されたものかどうか明らかではない点。

<相違点3>
本願発明では、「燃料ポンプ兼吸気弁用カムは、前記排気弁用カムよりも上方に位置し」、「前記燃料ポンプのプランジャが前記燃料ポンプ兼吸気弁用カムに当接し」、「前記燃料ポンプ兼吸気弁用カムに対向した前記シリンダボディの外側面に前記燃料ポンプが取り付けられ」、また、リフターの一端は「燃料ポンプ兼吸気弁用カムに当接可能にされ」ているのに対して、
引用発明では、吸気用カムは排気用カムよりも上方に位置し、燃料ポンプのピストンがポンプ用カム14pに当接し、ポンプ用カムに対向したシリンダボディの外側面に燃料ポンプが取り付けられ、更に、タペツト(リフターに相当。)の一端は吸気用カムに当接可能にされてはいるものの、吸気用カムとポンプ用カムとは別々に設けられており、「燃料ポンプ兼吸気弁用カム」とはなっていない点。

4.相違点についての検討
<相違点1>について
引用発明はクランク軸を縦方向に配設するエンジンであるところ、船外機に搭載するエンジンとしてクランク軸を縦方向に配設したものを用いることは、引用例2及び引用例3に記載されているように慣用技術であるから、
引用発明を船外機に適用することにより上記相違点1に係る事項とすることは、当業者が容易になし得たものである。

<相違点2>について
吸気用カムと燃料ポンプ用カムとを兼用とすることは引用文献4に記載されており、また、動弁カム軸において、軸部、カム部及びカムギヤ部(ドリブンギヤに相当。)を一体に形成することは引用文献5に記載されている。
したがって、引用発明において、吸気用カムとポンプ用カムとを兼用とし、また、カム軸、各カム及び歯車を一体に形成することにより上記相違点2に係る事項とすることは、当業者が容易になし得たものである。

<相違点3>について
引用発明において、上記「<相違点2>について」で述べたごとく、吸気用カムとポンプ用カムとを兼用とした場合には、
ポンプ用カム兼吸気用カムは排気用カムよりも上方に位置し、燃料ポンプのピストンがポンプ用カム兼吸気用カムに当接し、ポンプ用カム兼吸気用カムに対向したシリンダボディの外側面に燃料ポンプが取り付けられ、更に、タペットの一端はポンプ用カム兼吸気用カムに当接可能にされたものとなるから、
その結果として、「燃料ポンプ兼吸気弁用カムは、前記排気弁用カムよりも上方に位置し」、「前記燃料ポンプのプランジャが前記燃料ポンプ兼吸気弁用カムに当接し」、「前記燃料ポンプ兼吸気弁用カムに対向した前記シリンダボディの外側面に前記燃料ポンプが取り付けられ」、更に、リフターの一端は「燃料ポンプ兼吸気弁用カムに当接可能にされ」たものとなる。
したがって、上記相違点3に係る事項は、引用発明において、「<相違点2>について」で述べたごとく吸気用カムとポンプ用カムとを兼用とした場合に、おのずと備える事項に過ぎない。

そして、上記相違点1?3を併せ備える本願発明の作用・効果について検討しても、引用発明、引用例2?5に記載された事項及び慣用技術から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明、引用例2?5に記載された事項及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用例2?5に記載された事項及び慣用技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-16 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-07 
出願番号 特願平10-213121
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 橋本 敏行  
特許庁審判長 川向 和実
特許庁審判官 金丸 治之
小関 峰夫
発明の名称 エンジンのカムシャフト構造  
代理人 阿部 龍吉  

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