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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1212206 |
審判番号 | 不服2006-23058 |
総通号数 | 124 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-10-12 |
確定日 | 2010-02-17 |
事件の表示 | 平成8年特許願第115222号「薄膜トランジスタの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成9年10月31日出願公開,特開平9-283443〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成8年4月15日の出願であって,平成18年9月6日付けの拒絶査定に対し,平成18年10月12日に審判請求がされるとともに平成18年10月31日に手続補正書が提出されたが,当審による審理の結果,平成21年8月17日付けで拒絶理由を通知し,これに対し,平成21年10月23日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 平成21年10月23日に提出された手続補正書の特許請求の範囲(請求項の数は全部で5個)の請求項1は,次のとおりである。以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。 【請求項1】 「半導体薄膜としてのポリシリコン薄膜を有する薄膜トランジスタの製造方法であって,水素含有のアモルファス状のシリコン薄膜上に絶縁膜を形成し,次いで,大気中において前記シリコン薄膜にエキシマ光を照射することにより,前記シリコン薄膜を脱水素化し,次いで,大気中においてエキシマレーザの照射により前記シリコン薄膜の少なくとも一部を結晶化して前記ポリシリコン薄膜を形成し,次いで,前記絶縁膜の一部を除去して前記ポリシリコン薄膜上の所定の個所にチャネル保護膜を形成後,少なくとも前記チャネル保護膜と重なる部分が残存するように前記ポリシリコン薄膜の一部を除去して前記薄膜トランジスタのチャネル領域を形成することを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。」 3 引用例と引用発明 (1)当審の拒絶の理由に引用した,本願の出願日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-226374号公報(以下「引用例」という。)には,次の記載がある。なお,下線は当審で付加したものである。 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,絶縁ゲイト型電界効果トランジスタ等の薄膜デバイスに用いられる結晶性を有する半導体を作製する方法に関するものである。 【0002】【従来の技術】従来,薄膜型の絶縁ゲイト型電界効果トランジスタ(以下に薄膜トランジスタと称する)等の薄膜デバイスに用いられる結晶性を有する珪素半導体薄膜の作製方法としては,プラズマCVD法や熱CVD法で形成された非晶質珪素膜をレーザー光の照射や加熱によって結晶化させる方法が知られている。結晶性を有する珪素膜または結晶性珪素膜とは,一般に多結晶珪素膜,微結晶珪素膜,マイクロクリスタル等と称される珪素膜。さらには,結晶成分または結晶構造を有する珪素膜のことをいう。 【0003】【発明が解決しようする課題】レーザー光の照射による結晶化は,レーザービームの不均一性や出力の変動があるので,膜中における結晶性が不均一になるという問題がある。本発明は,レーザー光の照射による非晶質珪素膜の結晶化を行う場合において,均一な結晶性を有する珪素薄膜を得る技術を提供することを目的とする。」 「【0114】〔実施例8〕本実施例は,非晶質珪素膜の少なくとも一方の面に窒化膜を形成し,該窒化膜と非晶質珪素膜との界面およびその近傍に結晶化を助長する触媒元素を用いて結晶核を形成させ,さらにこの結晶核が形成された面側からレーザー光を照射することによって,結晶性珪素膜を得るものである。 【0115】窒化膜を形成するのは,窒化膜を形成することによって,非晶質珪素膜との界面の荒れを少なくし,その平坦性を高めるためである。この平坦性を有している界面に結晶核を形成するこによって,結晶核を均一に形成することができる。そして,後のレーザー光の照射による結晶化工程において均一な結晶成長を行わすことができる。また窒化珪素(SiN_(X) ) 膜は反射防止膜として機能するので,非晶質珪素膜表面に窒化膜を形成した場合において,その面側からレーザー光を照射することで,レーザーパワーを有効に利用できる構成とすることができる。 【0116】以下の図11を用いて本実施例の作製工程を説明する。まず,ガラス基板121の表面に下地膜122として酸化珪素膜を1000Åの厚さで形成する。この下地膜122としては,窒化珪素膜や窒化アルミ膜を用いてもよい。 【0117】次に非晶質珪素膜123をプラズマCVD法または減圧熱CVD法によって,1000Åの厚さに形成する。そして実施例2に示した方法により,結晶化を助長する触媒元素としてニッケルを非晶質珪素膜123の表面に導入する。(図11(A)) 【0118】次に図11(B)に示すようにプラズマ窒化法によって窒化膜124を形成する。プラズマ窒化法は,アンモニアの減圧雰囲気中において,高周波放電によってプラズマを生じさせ,窒化膜を形成する方法である。窒化膜の厚さは50Å?500Å,例えば200Åとすればよい。プラズマ窒化法の他にアンモニアの減圧雰囲気下において熱エネルギーを加える方法を用いてもよい。 【0119】次に図11(C)に示すように結晶核形成のための加熱処理を行なう。この工程は,窒素雰囲気中において550度,1時間の条件で行なう。この工程において,結晶核120が形成される。 【0120】次に図11(D)に示すように,水素出しのための加熱処理を行なう。この工程は,窒素雰囲気中において400度,2時間の条件で行なう。この工程において,非晶質珪素膜123中からの脱水素化が促進され,非晶質珪素膜123中に不対結合手が多量に形成される。 【0121】次に図11(E)に示すように,レーザー光(KrFエキシマレーザー)125を照射し,結晶核120から結晶成長を行なわせる。こうして結晶性珪素膜126が得られる。」 「【0122】〔実施例9〕本実施例は,図12に示すように,まず非晶質珪素膜の表面に触媒元素を導入し,しかる後にこの非晶質珪素膜の表面に窒化膜を形成し,さらに水素出しのための加熱処理を行ない,さらに結晶核形成のための加熱処理を行ない,最後に結晶核が形成された面側からレーザー光を照射し,非晶質珪素膜の結晶化を行なうものである。」 「【0128】〔実施例10〕本実施例は,図13に示すように,絶縁表面を有する基板上に形成された非晶質珪素膜に対してまず脱水素化のための加熱処理を行ない,次に非晶質珪素膜表面に触媒元素を導入し,次に触媒元素を導入した非晶質珪素膜表面に窒化膜を形成し,次に結晶核形成のための加熱処理を行ない,最後に結晶核が形成された面側からレーザー光を照射し,非晶質珪素膜を結晶化させるものである。」 (2)段落【0001】?【0003】の記載及び実施例8,9,10についての上記記載(段落【0114】?【0128】)によれば,引用例には,薄膜トランジスタに用いられる結晶性を有する珪素膜を形成する方法であって, 「非結晶珪素膜の表面に窒化膜を形成し,次に水素出しのために窒素雰囲気中で加熱処理を行い,次に,結晶化のためのレーザ光照射(エキシマレーザの照射)を行うことにより,結晶性珪素膜を形成する方法」 の発明(以下「引用発明」という)が開示されている。 ここで,引用発明は,非晶質珪素膜を結晶化し,結晶性珪素膜を形成するものであるが,結晶性珪素膜は,一般に,多結晶珪素膜を包含するものである(引用例の段落【0002】の記載を参照。)。 なお,引用例の説明では,結晶化を促進するためにニッケル等の触媒を添加しているが,原理的には,必ずしもその必要はない(例えば,特開平7-230101号公報の段落【0098】?【0101】の記載を参照。)。 4 本願発明の容易想到性 (1)本願発明と引用発明の対比 引用発明の「非結晶珪素薄膜」は,本願発明の「アモルファス状のシリコン薄膜」に相当する。また,上に述べたように,引用発明は,珪素薄膜が,多結晶(ポリシリコン)状態のもの(多結晶珪素膜)も包含すると理解するのが自然であるから,引用発明の「結晶性珪素膜」は,本願発明の「ポリシリコン薄膜」を包含する。 そうすると,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりとなる。 〈一致点〉 「半導体薄膜としてのポリシリコン薄膜を有する薄膜トランジスタの製造方法であって,水素含有のアモルファス状のシリコン薄膜上に絶縁膜を形成し,次いで,前記シリコン薄膜に処理を施すことにより,前記シリコン薄膜を脱水素化し,次いで,エキシマレーザの照射により前記シリコン薄膜の少なくとも一部を結晶化して前記ポリシリコン薄膜を形成する方法。」 〈相違点〉 〈相違点1〉 本願発明では,脱水素化のための「処理」を「エキシマ光を照射すること」により行っているのに対し,引用発明では,「加熱処理」とされているだけで,それ以上の具体的な開示がない点。 〈相違点2〉 本願発明では,脱水素化のための処理と結晶化のためのエキシマレーザの照射を「大気中」で行っているのに対し,引用発明では,前者については窒素雰囲気とされ,後者については条件が明らかでない点。 〈相違点3〉 本願発明では,ポリシリコン薄膜上に形成されている絶縁膜の一部を除去してポリシリコン薄膜上の所定の個所にチャネル保護膜を形成後,少なくとも前記チャネル保護膜と重なる部分が残存するように前記ポリシリコン薄膜の一部を除去して前記薄膜トランジスタのチャネル領域を形成しているのに対し,引用発明においては,結晶性珪素膜の表面に形成されている窒化膜を,その後の薄膜トランジスタの製造過程でどのようにするのか,実施例8,9,10を見ても開示がない点。 (2)相違点についての検討 ア 相違点1について 脱水素のための熱処理を紫外線の照射により行うことは常套手段であり(例:特開平8-31739号公報,段落【0006】の記載),紫外線の光源として,エキシマランプは,周知である(例:特開平3-1436号公報,特開平7-50151号公報)。 したがって,引用発明における「加熱処理」の手段として,エキシマ光の照射を選択することは,設計事項である。 イ 相違点2について 引用例には,「大気中」で処理をすることは記載されていない。しかし,引用例では,脱水素化のための加熱処理は窒素雰囲気中で行うとされ,真空度については特に言及がないこと,及び,本願発明と同様,非結晶珪素膜は絶縁膜(窒化膜)で覆われていることからみて,「大気中」で処理を行うことを排除していないものと理解できる。また,結晶化のためのレーザ光照射が大気中で行えることは,周知である(例:特開平8-88196号公報,段落【0040】の記載)。 そうすると,引用発明において,脱水素のための加熱処理と結晶化のためのレーザ照射を「大気中」で行うことは,当業者が必要に応じて選択する設計事項といえる。 なお,本願の明細書において,「大気中」で処理が行える理由として挙げられているのは,表面が絶縁膜で覆われていることのみであり,膜質や膜厚など,特に「大気中」での処理を可能とする工夫がなされているというものではない。 ウ 相違点3について 引用例の実施例8,9,10の記載をみても,結晶性珪素膜の表面に形成されている窒化膜を,その後の薄膜トランジスタの製造過程でどのようにするのか明らかでない。 しかしながら,典型的な薄膜トランジスタの1つであるスタガ型薄膜トランジスタ(バックゲート型薄膜トランジスタ)においては,シリコン薄膜の表面に形成された絶縁膜(窒化膜等)の一部を除去してポリシリコン薄膜上の所定の個所にチャネル保護膜を形成後,少なくとも前記チャネル保護膜と重なる部分が残存するように前記ポリシリコン薄膜の一部を除去して前記薄膜トランジスタのチャネル領域を形成することは,常套技術である(特開平8-29809号公報「薄膜トランジスタおよびその製造方法,特開平7-302910号公報「薄膜トランジスタおよびその製造方法,特開平7-221316号公報「薄膜トランジスタの製造方法」,特開平6-132536号公報「薄膜トランジスタ」,特開平7-245407号公報「半導体装置およびその製造方法」)。 もっとも,引用発明において,形成した窒化膜を取り除いて改めてチャネル保護膜となる窒化膜等の絶縁膜を形成するという選択肢も考えられる。しかし,すでに形成してある窒化膜をそのままチャネル保護膜として用いることもまた,当業者が容易に考え付く選択肢である。 エ 以上のとおり,相違点1?3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。 (3)したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 結言 以上の次第で,本願発明は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-11-12 |
結審通知日 | 2009-11-17 |
審決日 | 2009-12-03 |
出願番号 | 特願平8-115222 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北島 健次、松田 成正 |
特許庁審判長 |
相田 義明 |
特許庁審判官 |
廣瀬 文雄 安田 雅彦 |
発明の名称 | 薄膜トランジスタの製造方法 |