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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1212228
審判番号 不服2008-23338  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-11 
確定日 2010-02-17 
事件の表示 特願2002-21418号「成形機用ねじ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年8月8日出願公開、特開2003-222222号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成14年1月30日の出願であって、その請求項1?4に係る発明は特許を受けることができないとして、平成20年8月4日付けで拒絶査定がされたところ、平成20年9月11日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1?4に係る発明は、平成20年4月16日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
(a)表面に形成されたねじ溝を備えるねじ軸と、
(b)内面に形成された前記ねじ溝と対面する転動部材通過溝を備えるナットと、
(c)前記ねじ溝及び転動部材通過溝によって形成される転動部材通路内を転動する転動部材と、
(d)両端が前記転動部材通過溝に接続されるとともに、少なくとも一部が前記ナットの表面に露出するように該ナットに取り付けられ、前記転動部材が内部を転動するリターンチューブと、
(e)該リターンチューブの周囲と前記ナットの表面との間に塗布されるシール材とを有することを特徴とする成形機用ねじ装置。」

2.本願の出願前に日本国内において頒布され、当審における平成21年7月15日付けの拒絶の理由に引用された刊行物に記載された発明及び記載事項
(1)刊行物1:特開2001-50366号公報
(2)刊行物2:実願平5-28359号(実開平6-87763号)のCD-ROM
(3)刊行物3:特開平5-164210号公報

(刊行物1)
刊行物1には、「ボールねじ」に関して、図面(特に、図2を参照)とともに、下記の技術的事項が記載されている。
(ア)「この発明は、グリース潤滑で使用されるボールねじに関する。」(第2頁第1欄第19及び20行、段落【0001】参照)
(イ)「従来のボールねじの潤滑方法は、大きく2種類に分けられる。その一つは、油潤滑で、多くはナットに給油孔を設け、この部分より適量の油を間欠的にナット内に滴下することにより行っている。もう一つはグリース潤滑で、ナット内部にグリースを適量封入、充填することにより潤滑している。グリース潤滑の利点は、油のように周囲を汚染しないことや、油の滴下ユニット等、周辺装置を設ける必要がないことにある。
電動射出成形機や電動プレス機など、従来では油圧シリンダを用いていた短いストロークで駆動され高負荷が加わる用途では、初期封入されたグリースだけでは潤滑が不十分であり、自動給脂装置を取付けることが増えつつある。特に、ボールねじのストロークがナットの全長よりも短い仕様で使われる場合は、ナット内に封入したグリースがナットの中で攪拌され難く、一度、ボールの転走するねじ溝以外(軸の外径部分やナットの内径部分)に排除されたグリースが、実際に潤滑に必要なねじ溝に戻る可能性が低い。このために、多量のグリースを追加で給脂し、古いグリースをナットの両端から出す方法を採らざるを得なかった。このように古いグリースをナットの両端から出す場合、周辺の汚染等の面から好ましくない。」(第2頁第1欄第22?44行、段落【0002】及び【0003】参照)
(ウ)「この実施形態は、軸回転でナットが軸方向に移動する駆動方式で使用される仕様とした例である。このボールねじは、ねじ軸1の外径面とナット2の内径面に、螺旋状のねじ溝4,5を設け、これらねじ溝4,5の間に複数のボール3を介在させたボールねじにおいて」(第3頁第3欄第7?12行、段落【0009】参照)
(エ)「図2に示すように、ナット2には、ねじ軸1とナット2のねじ溝4,5間に介在したボール3を、これらねじ溝4,5間から取り出して循環させる循環路10が設けられている。循環路10は、各種の形式のものが採用できるが、図示の例では、リターンチューブと呼ばれる循環部品11で構成されている。この循環部品11は、ナット2のねじ溝5の両端あるいは一部を連通させるものであり、ナット2の外側に設けられて、ナット2のねじ溝5の全体または各一部ずつを1本の無端経路とするものである。」(第3頁第3欄第25?34行、段落【0010】参照)
(オ)「電動射出成形機の射出部駆動機構21に上記実施形態のボールねじAを用いた」(第4頁第5欄第12及び13行、段落【0016】参照)
(カ)「この発明のボールねじが、電動射出成形機の射出部駆動機構に使用されるものである」(第4頁第6欄第16及び17行、段落【0020】参照)
刊行物1には、上記摘記事項(イ)の記載から明らかなように、従来技術であるナット内部にグリースを適量封入、充填することにより潤滑しているボールねじ、すなわち、エア供給孔を設けていないボールねじについて記載又は示唆されている。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
(a’)表面に形成されたねじ溝4を備えるねじ軸1と、
(b’)内面に形成された前記ねじ溝4と対面するねじ溝5を備えるナット2と、
(c’)前記ねじ溝4及びねじ溝5によって形成されるボール3通路内を転動するボール3と、
(d’)両端が前記ねじ溝4及びねじ溝5に接続されるとともに、少なくとも一部が前記ナット2の表面に露出するように該ナット2に取り付けられ、前記ボール3が内部を転動するリターンチューブ11とを有する電動射出成形機用ボールねじ。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「ねじ溝4」は本願発明の「ねじ溝」に相当し、以下同様にして、「ねじ溝5」は「転動部材通過溝」に、「ナット2」は「ナット」に、「ボール3」は「転動部材」に、「リターンチューブ11」は「リターンチューブ」に、「電動射出成形機用ボールねじ」は「成形機用ねじ装置」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
(a)表面に形成されたねじ溝を備えるねじ軸と、
(b)内面に形成された前記ねじ溝と対面する転動部材通過溝を備えるナットと、
(c)前記ねじ溝及び転動部材通過溝によって形成される転動部材通路内を転動する転動部材と、
(d)両端が前記転動部材通過溝に接続されるとともに、少なくとも一部が前記ナットの表面に露出するように該ナットに取り付けられ、前記転動部材が内部を転動するリターンチューブと、
を有する成形機用ねじ装置。
(相違点)
本願発明は、「(e)該リターンチューブの周囲と前記ナットの表面との間に塗布されるシール材」を有するのに対し、引用発明は、そのような構成を具備しているかどうか明らかでない点。
そこで、上記相違点について検討する。
(相違点について)
刊行物1の「従来のボールねじの潤滑方法は、大きく2種類に分けられる。その一つは、油潤滑で、多くはナットに給油孔を設け、この部分より適量の油を間欠的にナット内に滴下することにより行っている。もう一つはグリース潤滑で、ナット内部にグリースを適量封入、充填することにより潤滑している。グリース潤滑の利点は、油のように周囲を汚染しないことや、油の滴下ユニット等、周辺装置を設ける必要がないことにある。
電動射出成形機や電動プレス機など、従来では油圧シリンダを用いていた短いストロークで駆動され高負荷が加わる用途では、初期封入されたグリースだけでは潤滑が不十分であり、自動給脂装置を取付けることが増えつつある。特に、ボールねじのストロークがナットの全長よりも短い仕様で使われる場合は、ナット内に封入したグリースがナットの中で攪拌され難く、一度、ボールの転走するねじ溝以外(軸の外径部分やナットの内径部分)に排除されたグリースが、実際に潤滑に必要なねじ溝に戻る可能性が低い。このために、多量のグリースを追加で給脂し、古いグリースをナットの両端から出す方法を採らざるを得なかった。このように古いグリースをナットの両端から出す場合、周辺の汚染等の面から好ましくない。」(上記摘記事項(イ)参照)の記載からも明らかなように、刊行物1には、ボールねじ装置から潤滑剤が漏れ出さないようにして、周囲が潤滑剤によって汚染されることのないようにする技術的課題が記載又は示唆されている。
一方、ねじ装置において、リターンチューブの周囲とナットの表面との間の隙間を埋めることは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2には、「ボールねじナット8の組み付け後に、その貫通孔15から前記隙間Cの空間(受面9cと壁9a及びナット本体8aとナットフランジ8fとに囲まれた空間)に、粘度の高いゲル状物質16、この実施例ではボールねじ装置Bに用いたグリースと同じグリースが充填されている。」[第6頁第21?24行、段落【0014】参照]と記載されている。また、刊行物3には、「ナット本体10、20内にリターンチューブ11、21を設置し、さらに、リターンチューブ押え12、22をボルト13、23でナット本体10、20に固着する。そして、それぞれのナット本体10、20の挿入溝部14、24及び固定溝部15、25内に溶融した樹脂材40を注入して硬化させ、リターンチューブ11、21と共にリターンチューブ押え12、22を埋設して、これらのがた付及び振動等を防止する。」[第3頁第4欄第5?12行、段落【0018】参照]と記載されている。)にすぎない。
また、引用発明に上記従来周知の技術手段を適用して、リターンチューブ11の周囲とナット2の表面との間の隙間を埋めたものは、ナット2内の密閉性が向上して、その隙間から潤滑剤が漏れ出さなくなるので、シール効果があることは技術的に自明である。
そして、シール効果があるものを設けるにあたっては、ボールねじ装置から潤滑剤が漏れ出さないように、必要な箇所に必要な量だけ設けることは、当業者が適宜なし得る設計変更の範囲内の事項にすぎない。
してみれば、引用発明に上記従来周知の技術手段を適用して、リターンチューブの周囲とナットの表面との間に塗布されるシール材を設けるようにして、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
また、本願発明の奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段の奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成21年9月24日付けの意見書において、「刊行物1と本願発明とを対比してみますと、刊行物1は『エア供給によりグリースを積極的に送ろうとする発明』であるのに対して、本願発明は『潤滑材の保持性を高めるため、シール部材により密閉性を向上させる発明』であります。上述の如く、刊行物1のように『エア供給によりグリースを積極的に送ろうとする』には、エア抜きの隙間が必ず必要であります。このように、刊行物1の発明と本願発明の技術的思想は、明らかに逆向きの思想であります。
そうすると、刊行物1の『ボールねじ』を『本願発明の成形用ねじ装置』へ変更した場合、ナット2内の密閉性が向上してしまうため、エア供給が困難になってしまいます。その結果、エア供給を阻害してしまい、潤滑に寄与していないグリースを効果的に必要部分に送ることができなくなってしまいます。つまり、刊行物1に変更して本願発明を用いた場合、刊行物1の課題に反する結果となってしまいます。
このように、刊行物1を本願発明の先行文献として認定するには、明らかに阻害要因が存在いたします。」(「(2)本願発明が特許されるべき理由」「2-3.請求項に関わる発明と刊行物との対比」「ア)刊行物1に記載された発明と本願発明(請求項1)との対比について」の項を参照)と主張している。
しかしながら、上述したように、刊行物1には、上記摘記事項(イ)の記載からみて、引用発明に係る、従来技術であるナット内部にグリースを適量封入、充填することにより潤滑しているボールねじ、すなわち、エア供給孔を設けていないボールねじについて記載又は示唆されていることから、引用発明は審判請求人が主張するような『エア供給によりグリースを積極的に送ろうとする』ものではないし、上記(相違点について)において記載したように、引用発明に、ナット内の密閉性を向上させる技術である従来周知の技術手段を適用することは当業者が容易に想到し得たものであるところ、審判請求人が主張する本願発明の奏する上記の作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の上記主張は採用することができない。

4.むすび
結局、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の請求項2?4に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-09 
結審通知日 2009-11-17 
審決日 2009-12-21 
出願番号 特願2002-21418(P2002-21418)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山崎 勝司  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 藤村 聖子
常盤 務
発明の名称 成形機用ねじ装置  
代理人 羽片 和夫  

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