• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1212262
審判番号 不服2008-15441  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-19 
確定日 2010-02-18 
事件の表示 特願2002- 63866「モータのステータ鉄心」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月19日出願公開、特開2003-264946〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成14年3月8日の出願であって、平成20年5月16日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月19日に拒絶査定に対する審判請求がされると共に、同年6月30日付で手続補正書が提出されたものである。

2.平成20年6月30日付手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願の発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ヨークとティースとを分割し、さらにヨークについては周方向に分割して打ち抜いた一方向性電磁鋼板を積層して形成するモータのステータ鉄心において、ヨーク片あるいはティース片はその表面に、ヨーク片あるいはティース片の長さ方向に対して直角に近い角度で周期的に並ぶ溝を有し、また、ティース部は各鉄心個片の磁化容易方向は奇数枚目と偶数枚目とで互いに直交するように積層し、前記の周期的に並ぶ溝の底部の鋼板組織中に微細粒を有する場合、溝の深さをDm(μm)、設計磁束密度をBd(T)としたときに、-12.5Bd+26.25<Dm<-12.5Bd+36.25を満足すること、また、前記の周期的に並ぶ溝の底部の鋼板組織中に微細粒が存在しない場合、溝の深さをDg(μm)、設計磁束密度をBd(T)としたときに、-12.5Bd+36.25<Dg<-12.5Bd+46.25を満足することを特徴とするモータのステータ鉄心。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「ティース片」に関し「ティース部は各鉄心個片の磁化容易方向は奇数枚目と偶数枚目とで互いに直交するように積層し」との限定をするものであって、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開平7-67272号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【請求項2】 固定子コイルが巻回されるティースを備えたステータを複数枚、厚さ方向に積層・固定して用いる同期機のステータ構造であって、
少なくとも前記ティースとヨークとを別体とすると共に、該ヨークを周方向に複数に分割し、
少なくとも該ヨークを方向性電磁鋼板により形成すると共に、該方向性電磁鋼板の磁化容易方向を該各ヨークの周方向とした同期機のステータ構造。」

・「【0004】
【発明が解決しようとする課題】同期機の効率の向上、例えば三相同期モータの出力トルクの増大、形状の小型化などを図るためには、ティースやヨークでの鉄損を一層低減しなければならないが、無方向性電磁鋼板の使用によっては、鉄損のこれ以上の低減は困難であった。ところで、例えばティースに着目すると、磁束の方向は径方向に限られるから、径方向を磁化の容易方向となるように方向性電磁鋼板が使用できるなら、鉄損をかなり低減できることは明らかである。こうした問題は、同期モータに限らず、同期発電機などの同期機に共通である。
【0005】本発明の同期機のステータ構造は、こうした点に着目してなされたものであり、同期機の効率を更に向上することを目的とする。また、本発明のステータの製造方法は、かかるステータ構造の製造法にかかるものであり、更に本発明のティース片およびヨーク片は、かかる目的の実現に好適な部材を提供するものである。これは、次の構成を採った。」

・「【0025】これらのヨーク片20,21、ティース片22,23には、ロータ57とは異なり、方向性電磁鋼板が用いられている。方向性電磁鋼板の磁化の容易な方向は、図5に矢印X,Yで示したように、ヨーク片20,21にあってはその円周方向、ティース片22,23にあっては径方向である。従って、図1に示すように、永久磁石51,52による磁束を例に取ると、ヨーク片20,21、ティース片22,23では、磁界の方向が電磁鋼板における磁化の容易な方向と一致している。
【0026】固定子30は、上述した方向性電磁鋼板を打ち抜いて成形したヨーク片20,21およびティース片22,23を複数枚積層したものである。しかも、図1および図3に示すように、ヨーク片20およびティース片22の組合わせとヨーク片21およびティース片23の組合わせとを、積層方向においても交互に配置している。これらの方向性電磁鋼板には、その表面に絶縁層と接着層が形成されており、積層後所定温度に加熱して接着層を溶融させ、固定している。この結果、図4に示すように、ヨーク片20,21とティース片22,23との接続位置は、積層方向に隣接するもの同士で互い違いとなる。また、特に図示しないが、ヨーク片20,21も周方向の幅(中心角)が異なるので、積層方向に隣接するヨーク片20,21同士の接続の位置も、互い違いになっている。
【0027】永久磁石51ないし54により形成される磁束にとって、ヨーク片20,21とティース片22,23との突き当てによる接続は、両者を密着させているとしても一体構造のものと較べれば、透磁率を下げると考えられる。しかし、方向性電磁鋼板を採用したことによる鉄損の低下は、接続部における損失を補って余りある。更に、本実施例のように、電磁鋼板の接続箇所を隣接するもの同士で互い違いにしておくと、磁束が電磁鋼板の比較的表面に近い部位に形成されるためか、ヨーク片20,21とティース片22,23との接続による損失およびヨーク片20,21同士の接続による損失はほとんど生じない。従って、方向性電磁鋼板を採用し、ヨーク片とティース片とで、材料の磁化の容易方向を、永久磁石51ないし54による磁界の方向に合わせておくと、鉄損は数十パーセント低下し、これをそのまま同期モータ40の効率の向上に転化することができる。」

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「ヨークとティースとを別体とし、さらにヨークについては周方向に分割して打ち抜いた方向性電磁鋼板を積層して形成するモータのステータにおいて、各ティース片の磁化の容易な方向は径方向となるように積層したモータのステータ。」

(2-2)引用例2
同じく引用された特開平8-47185号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【請求項5】 周方向に分割された積層鉄心を備え、前記積層鉄心の分割面を溶着か、溶接か、接着して固着し、
または、前記積層鉄心の外周部に連続した環状構造体により前記積層鉄心を内径方向に押圧して固着したモータの鉄心において、
前記積層鉄心を一方向性電磁鋼板で構成し、この一方向性電磁鋼板の磁化容易方向を偶数枚目と奇数枚目とで90度ずらしながら積層した構成を特徴とするモータの鉄心。」

・「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は既に述べた従来のモータの鉄心についての課題を解決するためになされたもので、効率良く磁束を流すことで励磁電流や鉄損を低減したり磁気飽和をおさえ、さらに永久磁石モータの場合コギングトルクや誘起電圧の歪みを小さくしつつ誘起電圧を大きくすることで、効率を高めるモータの鉄心を提供することを目的とする。」

・「【0017】以上のように本発明の第2の実施例のモータの鉄心においては、傾き角を0度以上60度以下の範囲に変化させることで、コギングトルクを最大45%程度、誘起電圧歪み率を最大70%低減しつつ、誘起電圧を最大5%程度増加させる効果が得られる。
【0018】(実施例3)以下本発明の第3の実施例について、図面を参照しながら説明する。
【0019】図4は積層鉄心個片41の断面図であり、一方向性電磁鋼板材による鉄心個片42を所定枚数積層して構成されている。各鉄心個片42の磁化容易方向43は奇数枚目と偶数枚目とで互いに直交するように積層する。ただし、傾き角は0度以上60度以下の範囲にしている。
【0020】上記構成において、磁束は透磁率が高い方へ流れる性質があるので空隙部から積層鉄心個片41に入る磁束は右側では奇数枚目の電磁鋼板へ、反対に左側では偶数枚目の電磁鋼板へと流れやすくなる。
【0021】このような本発明の実施例によれば、サーボモータのように左右どちらにも回転する場合において、第2の実施例の効果が得られる。
【0022】なお、本発明はモータの構造がインナーロータタイプやアウターロータタイプにかかわらず適用できる。」

・また、図4には、各鉄心個片のティース部の磁化容易方向が、奇数枚目と偶数枚目とで互いに直交するように積層する態様が示されている。

(2-3)引用例3
同じく引用された特開2000-144251号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

・「【0002】
【従来の技術】現在実用化されている一方向性電磁鋼板は、鋼板の圧延方向に磁化容易で、主にトランスなどの電気機器に使われている。この鋼板に局所歪の導入、あるいは溝の形成による磁区細分化を施すと、鋼板断面に流れる渦電流が減少し、熱エネルギーの発生が抑えられるため鉄損が低減する。これにより電気機器のエネルギーロスを減らすことができる。」

・「【0005】ところで、上記の物理的な溝を形成された一方向性電磁鋼板は、その溝による断面積低下や、溝直下に生じる微細粒のため、透磁率あるいはB8(磁界800A/mにおける磁束密度)が劣化することが知られている。磁束密度が高ければ、トランスの設計磁束密度を大きくとることでトランスを小型化できる。従って、従来はより高い設計磁束密度で用いられることを考慮して鋼板の製造も行われてきた。」

・「【0007】本発明では、従来技術よりも簡易な製造条件を用いることで、溝形状、間隔をそれぞれ詳細な一定条件に規定せず、使用磁束密度に応じて最適な製造指針を示す、歪取り焼鈍による鉄損劣化がない耐歪取り焼鈍低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法を提供することにある。」

・「【0014】本発明者らは鋼板表面に形成される溝の幅、深さ、間隔、溝直下に形成される微細粒と歪取り焼鈍後の鉄損特性を種々検討した結果、磁区細分化後のB8劣化量と鉄損の間にある一定の関係があることを見出した。以下、実験結果に基づいて詳細に説明する。
【0015】仕上げ燒鈍済みの板厚0.23mmの一方向性電磁鋼板で、B8がほぼ1.93Tのものを選定し、これに圧延方向に対して垂直方向に刃型をプレスして、溝の間隔および深さを種々変えたサンプルを作成した。
【0016】この鋼板を最後に800℃で歪取り焼鈍を行った後、主な設計磁束密度として用いられているB=1.3、1.5、1.7Tの条件で鉄損を評価した。
【0017】図1に、B8とB=1.3Tの鉄損(W13/50)の関係を示す。この磁束密度域(1.4T>B)では、B8が1.84?1.88、従って溝形成前後のB8劣化量が0.05T?0.09Tで鉄損の最適値が得られた。
【0018】図2に、B8とB=1.5Tの鉄損(W15/50)の関係を示す。この磁束密度域(1.7T>B≧1.4T)では、B8が1.87?1.89、従って溝形成前後のB8劣化が0.04T?0.06Tで鉄損の最適値が得られた。
【0019】図3に、B8とB=1.7Tの鉄損(W17/50)の関係を示す。この磁束密度域(B≧1.7T)では、B8が1.87?1.90、従って溝形成前後のB8劣化量が0.03T-0.06Tで鉄損の最適値が得られた。
【0020】また表1に、それぞれの溝間隔および溝深さにおけるB8劣化量を示す。表1からB8劣化量は溝間隔に関わらず溝深さとともに漸増しており、このことから溝深さによって所望のB8劣化量を制御できることが明らかになった。従って、前記B8劣化を調整する方法としては、溝の深さを調整すること、好ましくは5?25μmの範囲で使用するトランスの設計磁束密度に応じて溝の深さを調整する必要がある。
【0021】
【表1】
本発明によりB8劣化量を規定することで低鉄損条件が得られるメカニズムは必ずしも定かではないが、以下のように考えている。溝形成によって磁区細分化が生じ鉄損が低減する。一方、B8劣化量が大きすぎると鋼板透磁率が減少して実質的な断面積減少となり、相対的に通過磁束が大きくなって鉄損を増加させる。この2つの相反する現象の兼ね合いによって最適値が現われ、ある一定の最適B8劣化量が決定されるためと考えている。
【0022】上記知見により、歪取り焼鈍後も優れた低鉄損得性を持ち、使用磁束密度に応じて最適の鉄損が得られる製造指針を有する、歪取り焼鈍による鉄損劣下がない耐歪取り焼鈍低鉄損一方向性電磁鋼板の製造方法が明らかになった。」

・また、図1?3には、それぞれ2.5mm、3mm、4mm、5mmの一定の間隔で溝を形成した一方向性電磁鋼板について、磁束密度と鉄損の関係が示されている。

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明1とを対比すると、
後者における「別体とし」ている態様が前者における「分割し」ている態様に相当し、以下同様に、
「方向性電磁鋼板」が「一方向性電磁鋼板」に、
「ステータ」が「ステータ鉄心」に、それぞれ相当している。
また、後者の「各ティース片の磁化の容易な方向は径方向となるように積層し」た態様と前者の「ティース部は各鉄心個片の磁化容易方向は奇数枚目と偶数枚目とで互いに直交するように積層し」た態様とは、「ティース部は各鉄心個片の磁化容易方向は所定方向となるように積層し」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「ヨークとティースとを分割し、さらにヨークについては周方向に分割して打ち抜いた一方向性電磁鋼板を積層して形成するモータのステータ鉄心において、ティース部は各鉄心個片の磁化容易方向は所定方向となるように積層したモータのステータ鉄心。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]
本願補正発明は、「ヨーク片あるいはティース片はその表面に、ヨーク片あるいはティース片の長さ方向に対して直角に近い角度で周期的に並ぶ溝を有し」ているのに対し、引用発明1はそのような構成を有していない点。
[相違点2]
ティース部の磁化容易方向は「所定方向となる」態様に関し、本願補正発明では「奇数枚目と偶数枚目とで互いに直交する」態様であるのに対し、引用発明1では、「径方向となる」態様である点。
[相違点3]
溝の深さに関し、本願補正発明では「周期的に並ぶ溝の底部の鋼板組織中に微細粒を有する場合、溝の深さをDm(μm)、設計磁束密度をBd(T)としたときに、-12.5Bd+26.25<Dm<-12.5Bd+36.25を満足すること、また、前記の周期的に並ぶ溝の底部の鋼板組織中に微細粒が存在しない場合、溝の深さをDg(μm)、設計磁束密度をBd(T)としたときに、-12.5Bd+36.25<Dg<-12.5Bd+46.25を満足すること」としているのに対し、引用発明1は溝を有していないため、そのような特定がされていない点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点2について
引用例2には、コギングトルクを低減するために、一方向性電磁鋼板で構成される「ティース部は、各鉄心個片の磁化容易方向は奇数枚目と偶数枚目とで互いに直交するように積層し」たモータの鉄心(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
そして、コギングトルクを低減するという課題は、モータの鉄心において一般的な課題であり、引用発明1においても考慮されるべき課題といえるから、当該課題の下に、引用発明1に引用発明2を適用して、相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点1、3について
引用例3の【0016】?【0019】には、設計磁束密度が1.3T→1.5T→1.7Tと大きくなるに伴って、鉄損の最適値が得られるB8劣化量の範囲は0.05Tないし0.09T→0.04Tないし0.06T→0.03Tないし0.06Tと徐々に小さくなる旨が記載されている。
また、【0020】には「B8劣化量は溝間隔に関わらず溝深さとともに漸増しており、このことから溝深さによって所望のB8劣化量を制御できる」と記載されている。
これらのことから、引用例3には、設計磁束密度が1.3T→1.5T→1.7Tと大きくなるに従って、鉄損の最適値が得られる溝深さは、B8劣化量が0.05Tないし0.09Tとなる範囲→0.04Tないし0.06Tとなる範囲→0.03Tないし0.06Tとなる範囲、というように徐々に浅くする旨が記載されているといえる。
また、引用例3の【0005】には「物理的な溝を形成された一方向性電磁鋼板は・・・溝直下に生じる微細粒のため・・・B8(磁界800A/mにおける磁束密度)が劣化する」と記載されていることから、鉄損の最適値を得るための溝深さは、溝直下に微細粒を有する場合の方が、微細粒が存在しない場合より浅くすべきことが示唆されているといえる。

したがって、引用例3には、一方向性電磁鋼板の鉄損を低減するために、「プレスやケガキ針により、一方向性電磁鋼板の圧延方向に対して垂直方向に一定の間隔で形成した溝を有し、溝深さは、設計磁束密度に対応する所定範囲のものであり、且つ、設計磁束密度が大きくなるほど溝深さを浅くし、溝直下に微細粒を有する場合の方が、微細粒をが存在しない場合より浅くした」一方向性電磁鋼板(以下、「引用発明3」という)が記載されているといえる。

なお、一方向性電磁鋼板の鉄損を低減するために形成する溝の深さを、溝の底部の鋼板組織中に微細粒を有するか否かで場合分けし、微細粒を有する場合の溝の深さを、微細粒が存在しない場合に比べて浅くすることは周知技術であり、例えば原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-328140号公報(特に【0012】の「溝直下に微細な結晶粒が存在する場合の溝深さを、板厚t(μm)に対して(0.06t-5)から(0.06t+5)μmの範囲とした。」なる記載、【0014】の「微細結晶粒を伴わない場合の溝深さを、板厚t(μm)に対して、(0.11t-5)から(0.11t+5)μmの範囲とした。」なる記載参照)にも開示されている。

そして、本願明細書の【0015】には「一方向性電磁鋼板の圧延方向とヨーク片、ティース片の長手方向の関係は0?60°の角度範囲」と記載されていることから、引用発明3の「プレスやケガキ針により、一方向性電磁鋼板の圧延方向に対して垂直方向に一定の間隔で形成した溝」が、本願補正発明の「その表面に、ヨーク片あるいはティース片の長さ方向に対して直角に近い角度で周期的に並ぶ溝」に相当する。
また、鉄損を低減するための溝の深さの最適値は、電磁鋼板の厚さや微細粒の層の厚さ等にも依存するといえるから、これらの要因について何ら特定せず、設計磁束密度のみに基づいて溝の深さを規定している請求項1における不等式の数値が臨界的意義を有するとは認められない。

そうすると、引用発明1のヨークあるいはティースにおいて、一方向性電磁鋼板の鉄損を低減するという共通の課題の下に、引用発明3を適用し、その際に上記周知技術を参酌すると共に溝深さの「所定範囲」の具体的数値を最適化又は好適化して、相違点1及び3に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本願補正発明の全体構成によって奏される効果も、引用発明1?3及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって、本願補正発明は、引用発明1?3及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおりであって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願の発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成19年11月9日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「ヨークとティースとを分割し、さらにヨークについては周方向に分割して打ち抜いた一方向性電磁鋼板を積層して形成するモータのステータ鉄心において、ヨーク片あるいはティース片はその表面に、ヨーク片あるいはティース片の長さ方向に対して直角に近い角度で周期的に並ぶ溝を有し、前記の周期的に並ぶ溝の底部の鋼板組織中に微細粒を有する場合、溝の深さをDm(μm)、設計磁束密度をBd(T)としたときに、-12.5Bd+26.25<Dm<-12.5Bd+36.25を満足すること、また、前記の周期的に並ぶ溝の底部の鋼板組織中に微細粒が存在しない場合、溝の深さをDg(μm)、設計磁束密度をBd(T)としたときに、-12.5Bd+36.25<Dg<-12.5Bd+46.25を満足することを特徴とするモータのステータ鉄心。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物、及び、その記載内容は、上記「2.(2)引用例」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、上記「2.(1)補正後の本願の発明」で検討した本願補正発明の「ティース片」に関し「ティース部は各鉄心個片の磁化容易方向は奇数枚目と偶数枚目とで互いに直交するように積層し」との限定を省いたものである。

そうすると、本願発明と引用発明1とを対比した場合の相違点は、上記「2.(3)対比」で挙げた相違点1及び3となるから、上記「2.(4)判断」における検討内容を踏まえれば、本願発明は引用発明1、引用発明3及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2009-12-14 
結審通知日 2009-12-15 
審決日 2010-01-04 
出願番号 特願2002-63866(P2002-63866)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河村 勝也  
特許庁審判長 田良島 潔
特許庁審判官 槙原 進
小川 恭司
発明の名称 モータのステータ鉄心  
代理人 津波古 繁夫  
代理人 田村 弘明  
代理人 渡辺 良幸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ