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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05B
管理番号 1212264
審判番号 不服2008-16316  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-26 
確定日 2010-02-18 
事件の表示 特願2003-401754「回転ノズル装置及びこれを備えた洗浄機」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月23日出願公開、特開2005-161156〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年12月1日の出願であって、平成20年1月25日付けで拒絶理由が通知され、これに対する応答がなく、平成20年5月23日付けで拒絶査定がなされ、平成20年6月26日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けの手続補正書によって明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成21年8月7日付けで書面による審尋がなされ、平成21年10月16日付けで回答書が提出されたものである。


第2.本願発明について
以下、本願発明の特許性について検討する。
[特許法第29条第2項違反について]
1.本願発明
本件補正後の請求項1ないし4に係る発明は、平成20年6月26日付けの手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
ロータ軸に回転自在に装着されると共に、前記ロータ軸の内部の通水路に連通し半径方向に形成されたロータ水路孔を有する逆円錐形状のロータと、
前記ロータの周側面に、前記ロータ水路孔と連通して設けられた反動回転用ノズル及びブレーキ用ノズルとを備え、
前記反動回転用ノズルと前記ブレーキ用ノズルとが、前記ロータ軸に対して対角線上に配置され、
前記反動回転用ノズル及び前記ブレーキ用ノズルの流体の噴射による反力方向は、前記ロータ軸から偏心した方向に設定されると共に、それぞれの反力の分力によって発生するロータ軸回りの回転モーメントが互いに打ち消しあう方向に設定され、ロータの回転速度が低速化され、
前記反動回転用ノズル又は前記ブレーキ用ノズルは、前記ロータ水路孔の孔端に回転自在に設けられ、その噴射方向が調節可能とされることにより、前記ロータの回転速度が調節可能とされたことを特徴とする回転ノズル装置。」

2.引用文献
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前の刊行物である特開平4-156931号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「2.特許請求の範囲
(1)外部からタンク内に液体を導入するために該タンクに設けられた入口管路の内端に設けられるノズルヘッドであって、
前記内端に概ね水平面に沿って回転自在に支持されたノズルベースと、
回転軸に対する半径方向から周方向にオフセットされた方向に開口するように前記ノズルベースに設けられた噴射ノズルとを有し、
前記噴射ノズルの前記液体の噴射反力により当該ノズルヘッドの回転トルクを発生させることを特徴とする貯蔵タンクの液体導入用ノズルヘッド。
(2)前記噴射ノズルが、前記半径方向から周方向にオフセットされた第1の方向に前記液体を噴射して前記ノズルヘッドに第1の回転トルクを発生させる第1の噴射ノズルと、
前記第1の噴射ノズルの発生する前記第1の回転トルクに抗する向きに該第1の回転トルクよりも弱い第2の回転トルクを前記ノズルヘッドに発生させるべく、周方向について前記第1の方向とは相反する第2の方向に前記液体を噴射する第2の噴射ノズルとを有することを特徴とする請求項1に記載の貯蔵タンクの液体導入用ノズルヘッド。」(特許請求の範囲)

イ.「<課題を解決するための手段>
このような目的は本発明によれば、外部からタンク内に液体を導入するために該タンクに設けられた入口管路の内端に設けられるノズルヘッドであって、前記内端に概ね水平面に沿って回転自在に支持されたノズルベースと、回転軸に対する半径方向から周方向にオフセットされた方向に開口するように前記ノズルベースに設けられた噴射ノズルとを有し、前記噴射ノズルの前記液体の噴射反力により当該ノズルヘッドの回転トルクを発生させることを特徴とする貯蔵タンクの液体導入用ノズルヘッドを提供することにより達成される。特に、前記噴射ノズルが、前記半径方向から周方向にオフセットされた第1の方向に前記液体を噴射して前記ノズルヘッドに第1の回転トルクを発生させる第1の噴射ノズルと、前記第1の噴射ノズルの発生する前記第1の回転トルクに抗する向きに該第1の回転トルクよりも弱い第2の回転トルクを前記ノズルヘッドに発生させるべく、周方向について前記第1の方向とは相反する第2の方向に前記液体を噴射する第2の噴射ノズルとを有すると良い。
<作用>
このようにすれば、液体の噴射力をもって直接ノズルヘッドを回転させ、タンク内を撹拌することができる。」(公報第2ページ右上欄第8行ないし左下欄第13行)

ウ.「入口管路部材2の最端部2aに於ける開口部2bには、有底円筒形をなすノズルベース5が概ね水平面に沿って回転自在に設けられている。このノズルベース5の側面部には該ノズルベース5の回転軸に対する半径方向に沿って第1の噴射ノズル6が突設され、かつ第1の噴射ノズル6と相反する側の側面には同じくノズルベース5の回転軸に対する半径方向に沿って第2の噴射ノズル7が突設され、これらノズルベース5、第1の噴射ノズル6及び第2の噴射ノズル7からノズルヘッド4が構成されている。
第2図に良く示すように、第1の噴射ノズル6は、軸線方向上方から見て上記半径方向に対してθ1の角度で中間部から曲折して曲折部6aをなし、その先端部には噴射口6bが設けられている。また、第2の噴射ノズル7は、同じく軸線方向上方から見て上記半径方向に対して-θ1の角度で中間部から曲折して曲折部7aをなし、その先端部には第1の噴射ノズル6の噴射口6bよりも口径の小さな噴射口7bが設けられている。」(公報第2ページ右下欄第4行ないし第3ページ左上欄第3行)

エ.「次に本実施例の作動要領について説明する。まず、重油などの液体が入口管路部材2を介してノズルヘッド4に導入されると、第1の噴射ノズル6の噴射口6b及び第2の噴射ノズル7の噴射口7bから上記液体をタンク1の内部に噴射する。
このとき、第1の噴射ノズル6の噴射口6bがノズルベース5の回転軸に対する半径方向からオフセットされた方向に開口していることからノズルヘッド4は第2図に想像線で示すように矢印Aの方向に回転しようとする。そして、第2の噴射ノズル7の比較的小さな口径の噴射口7bがノズルヘッド4の矢印Aの方向への回転に抗する力を発生する方向に液体を噴射している。従って、例えば第1の噴射ノズル6のみを設けた場合には、上記半径方向に対する角度によっては噴射ノズル6の液体噴射力の殆どがノズルヘッド4の回転動作に用いられて液体の噴流による撹拌作用が損なわれる心配があるが、本実施例では第2の噴射ノズル7の噴射力がノズルヘッド4の回転抵抗となり、ノズルヘッド4が適正な速度で回転しつつ両ノズル6、7から適度な噴射力を持って液体が噴射される。
第3図は、本発明が適用された第2の実施例を示す第2図と同様の図であり、第1の実施例と同様な部分には同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。本実施例では、第2の噴射ノズル17の曲折部17aの曲折角度が第1の噴射ノズル6の曲折部6aの曲折角度θ1よりも小さなθ2となっている。また、第2の噴射ノズル17の噴射口17bの口径は第1の噴射ノズル6の噴射口6bの口径と等しくなっている。従って第1の実施例と同様に第2の噴射ノズル17の噴射力がノズルヘッド4の回転抵抗となり、ノズルヘッド4が適正な速度で回転しつつ両ノズル6、17から適度な噴射力を持って液体が噴射される。そのこと以外の構成は第1の実施例と同様である。」(公報第3ページ左上欄第4行ないし右上欄第19行)

以上、ア.ないしエ.及び図面の記載から以下のことが分かる。

オ.上記ア.ないしエ.及び図面の記載から、引用文献1には、入口管路部材2の開口部2bに回転自在に設けられ有底円筒形をなすノズルベース5と、ノズルベース5の側面部に設けられた第1の噴射ノズル6及び第2の噴射ノズル7、17とを備えたノズルヘッド4が記載されていることが分かる。また、液体が、入口管路部材2の内端から、ノズルベース5の内部及び第1の噴射ノズル6又は第2の噴射ノズル7、17の内部を通り、第1の噴射ノズル6の噴射口6b又は第2の噴射ノズル7、17の噴射口7b、17bから噴射されることが分かる。

カ.上記ア.ないしエ.及び図面の記載から、引用文献1に記載されたノズルヘッド4において、第2の噴射ノズル7、17は、第1の噴射ノズル6と相反する側のノズルベース5の側面に設けられていることが分かる。

キ.上記ア.ないしエ.及び図面の記載から、引用文献1に記載されたノズルヘッド4において、第1の噴射ノズル6及び第2の噴射ノズル7、17は、それぞれ回転軸に対する半径方向から周方向にオフセットされた方向に開口するようにノズルベース5に設けられ、第1の噴射ノズル6は、前記半径方向から周方向にオフセットされた第1の方向に前記液体を噴射して前記ノズルヘッドに第1の回転トルクを発生させるものであり、第2の噴射ノズル7、17は、前記第1の噴射ノズル6の発生する前記第1の回転トルクに抗する向きに該第1の回転トルクよりも弱い第2の回転トルクを前記ノズルヘッド4に発生させるべく、周方向について前記第1の方向とは相反する第2の方向に前記液体を噴射するものであることが分かる。すなわち、第1の噴射ノズル6は反動回転用ノズルであり、第2の噴射ノズル7、17はブレーキ用ノズルであり、第1の噴射ノズル6の液体の噴射反力による回転トルクと、第2の噴射ノズル7、17の液体の噴射反力による回転トルクとが互いに打ち消しあって、ノズルヘッド4の回転が低速化されることが分かる。

上記ア.ないしキ.及び図面から、引用文献1には次の発明(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「入口管路部材2の開口部2bに回転自在に装着されると共に、内部空間を有する有底円筒形状のノズルベース5と、
前記ノズルベース5の周側面に、前記ノズルベース5の内部と連通して設けられた第1の噴射ノズル6及び第2の噴射ノズル7、17とを備え、
前記第1の噴射ノズル6と前記第2の噴射ノズル7、17とが、前記ノズルベース5の互いに相反する側の側面に配置され、
前記第1の噴射ノズル6と前記第2の噴射ノズル7、17の液体の噴射反力の方向は、半径方向から周方向にオフセットされた方向に設定されると共に、第1の噴射ノズル6の液体の噴射反力による回転トルクと、第2の噴射ノズル7、17の液体の噴射反力による回転トルクとが互いに打ち消しあって、ノズルヘッド4の回転速度が低速化される、
ノズルヘッド4。」

(2)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前の刊行物である特開昭64-80458号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。

ア.「2.特許請求の範囲
(1) 流体送給路を形成した装置本体とこの装置本体にシール手段を介して回転自在に装着される噴射ヘッドとからなり、前記噴射ヘッドに流体送給路の軸線に対して所定角度偏倚させた一対もしくはそれ以上の噴射水路を対向するように穿設し、各噴射水路の一端部を噴射ヘッドの流体送給路に連通するとともに他端部側に噴射ノズルを装着することを特徴とする噴射ノズル装置。
(2) 各対毎の噴射水路を流体送給路の所定箇所を中心として纏めて配設することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の噴射ノズル装置。
(3) 各対毎の噴射水路を流体送給路の軸線方向に沿って離間させて配設することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の噴射ノズル装置。
(4) 流体送給路を形成した装置本体とこの装置本体にシール手段を介して回転自在に装着される噴射ヘッドとからなり、前記噴射ヘッドに流体送給路の軸線に対して所定角度偏倚させた一対もしくはそれ以上の噴射水路を対向するように穿設し、各噴射水路の一端部を前記噴射ヘッドの流体送給路に連通するとともに他端部側に噴射ノズルを装着し、さらに対をなす噴射ノズルの流体噴射方向を周方向に対して対称的にかつ所定角度偏倚させることを特徴とする噴射ノズル装置。
(5) 各対毎の噴射水路を流体送給路の所定箇所を中心として纏めて配設することを特徴とする特許請求の範囲第4項記載の噴射ノズル装置。
(6) 各対毎の噴射水路を流体送給路の軸線方向に沿って離間させて配設することを特徴とする特許請求の範囲第4項記載の噴射ノズル装置。」(特許請求の範囲)

イ.「〔産業上の利用分野〕
この発明は、噴射ノズル装置に関するものであり、一層詳細には、ウォータージェット噴射装置における高圧水噴射装置として好適に使用されるノズル装置に関するものである。
〔従来技術およびその問題点〕
従来より、超高圧水を噴射するウォータージェット噴射装置は、対照物の洗浄から切削加工まで広範な用途に採用され需要者の便宜に供されている。
ところで、この種のウォータージェット噴射装置におけるノズル装置は極めて細く絞られているため、例えば、対照物におけるある程度広い範囲の洗浄などを行うに際しては、ノズル装置全体を振る必要があり、従って、作業に手間がるだけでなくこのような操作を機械的に行うように構成すると製造コストが嵩み保守管理も面倒になる等の問題点を有していた。
〔問題点の解決手段〕
そこで、この発明は、内部に流体送給路を形成した装置本体にシール手段を介して噴射ヘッドを回転自在に装着し、この噴射ヘッドに流体送給路の軸線に対して所定角度偏倚させた一対もしくはそれ以上の噴射水路を対向させて穿設し、各噴射水路の一端部を噴射ヘッドの流体送給路に連通するとともに他端部側に噴射ノズルを夫々装着することによりある程度広い範囲に亘る作業も簡便に行えるようにしたものである。
また、前述のように構成した噴射ノズル装置における対をなす噴射ノズルの流体噴射方向を周方向に対して対称的にかつ所定角度偏倚させて噴射水の反力で噴射ヘッドを旋回させるように構成すれば作業の簡便化をさらに図ることができる。」(公報第2ページ左上欄第2行ないし右上欄第15行)

ウ.「第1図?第3図において、本発明に係る噴射ノズル装置は、軸方向中心部に高圧水送給路10を形成した装置本体12にシール手段14を介して噴射ヘッド16を装着し、さらにこの装置本体12自体を筒形カバ一部材18内に収容して後述する噴射ヘッド16の噴射口をその開口部18aから外部に臨ませるとにより基本的に構成されている。
噴射ヘッド16はワッシャー20を介してボルト22により装置本体12に対し回転自在に取着し、また、この本体12の送給路10はその先端部を半径方向に対称的に延設して該本体12の外周部と噴射ヘッド16の内側との間に形成した室24に連通する。この場合、前記室24の両端部近傍には複数の条溝26で形成したシール手段14を設け、これらの条溝26に流入する水により装置本体12と噴射ヘッド16とのシールおよび潤滑化を達成し得るように構成する。
一方、噴射ヘッド16には送給路10の軸線Aに対して、例えば、60度の角度に偏倚させた一対の噴射水路28、28を対向させて穿設し、これらの噴射水路28、28の先端部にセットボルト30、30を介して噴射ノズル32、32を装着する。
このように構成される本発明に係る噴射ノズル装置は、図示しない高圧発生装置に接続して送給路10に高圧水を供給すると、この高圧水は送給路10から室24を介して噴射ヘッド16における各対の噴射水路28、28に送給され、さらに噴射ノズル32、32の噴射口を介して高圧噴射されるが、噴射水路28、28(噴射方向)が送給路10の軸線Aに対して60度偏倚しているため広い範囲に亘る噴射が可能となり洗浄作業などの容易化を図ることができるものである。」(公報第2ページ左下欄第16行ないし第3ページ左上欄第11行)

エ.「また、第4図?第6図は本発明に係る噴射ノズル装置の別の実施例を示すものである。
すなわち、この実施例は、送給路10の軸線Aに対して夫々60度および90度の角度に偏倚させた二対の噴射水路34、34、36、36を各対毎に対向させしかもこの送給路10の所定箇所に纏めて放射状に配設し、これらの噴射水路34、34、36、36の先端部に装着した噴射ノズル32、32の高圧水噴射方向Bを周方向に対して対称的に、例えば、2度偏倚するように構成したものである。なお、この高圧水噴射方向Bを周方向に対称的に偏倚させる手段としては、第6図に示すように各噴射ノズル32の取付面38を38a、38b、38c、38dのごとく4分割し、夫々対向する面部分38aと38c、38bと38dを対称的に2度傾斜させるとともにこれらの面部分38a、38b、38c、38dと噴射ノズル32の噴射軸Cとを直交させれば良い。
なお、噴射水路34、34および36、36は、第7図に示すように、各対ごとに装置本体12の送給路10の軸線A方向に沿って所定距離離間させて配置すれば、纏めて配設した場合よりも広い範囲への噴射が可能となり好適である。
この実施例によれば、各噴射ノズル32の噴射口から噴射される高圧水は、噴射水路34、34および36、36が送給路10の軸線Aに対して60度および90度の角度で偏倚しているだけでなく各噴射方向Bが周方向に対称的に偏倚しているため、その噴射反力により噴射ヘッド16は高速で回転することになる。」(公報第3ページ右上欄第2行ないし左下欄第13行)

以上、ア.ないしエ.及び図面の記載から以下のことが分かる。

オ.上記ア.ないしエ.及び図面の記載から、引用文献2には、内部に送給路10を形成した装置本体12に噴射ヘッド16を回転自在に装着し、噴射ヘッド16に噴射水路28を穿設し、各噴射水路28の一端部を噴射ヘッド16の内部の送給路10に連通するとともに各噴射水路28の他端部側に噴射ノズル32、32を夫々装着した噴射ヘッド16が記載されていることが分かる。

カ.上記ア.ないしエ.及び図面の記載から、引用文献2に記載された噴射ヘッド16は、各噴射ノズル32、32から高圧水を噴射するときの噴射反力により回転するものであることが分かる。

上記ア.ないしカ.及び図面から、引用文献2には次の発明(以下、「引用文献2に記載された発明」という。)が記載されているといえる。

「噴射ヘッド16が装置本体12に回転自在に装着され、装置本体12の内部の送給路10に連通し半径方向に形成された噴射水路28を有する噴射ヘッド16。」

3.対比
本願発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「ノズルベース5」は、技術的意義からみて、本願発明における「ロータ」に相当し、以下同様に、「第1の噴射ノズル6」は「反動回転用ノズル」に、「第2の噴射ノズル7、17」は「ブレーキ用ノズル」に、「ノズルベース5の互いに相反する側の側面に配置され」は「ロータ軸に対して対角線上に配置され」に、「液体の噴射反力の方向」は「流体の噴射による反力方向」に、「半径方向から周方向にオフセットされた方向」は「ロータ軸から偏心した方向」に、「液体の噴射反力による回転トルク」は「反力の分力によって発生するロータ軸周りの回転モーメント」に、「互いに打ち消しあって」は「互いに打ち消しあう方向に設定され」に、「ノズルヘッド4の回転速度」は「ロータの回転速度」に、「ノズルヘッド4」は「回転ノズル装置」にそれぞれ相当する。
また、引用文献1に記載された発明における「有底円筒形状」は、「底面が円形である有底形状」である限りにおいて、本願発明における「逆円錐形状」に相当する。
また、引用文献1に記載された発明における「ノズルベース5の内部」は、「ロータの内部」である限りにおいて、本願発明における「ロータ水路孔」に相当する。
してみると、本願発明と引用文献1に記載された発明とは、
「回転自在に装着され、底面が円形である有底形状のロータと、
前記ロータの周側面に、前記ロータの内部と連通して設けられた反動回転用ノズル及びブレーキ用ノズルとを備え、
前記反動回転用ノズルと前記ブレーキ用ノズルとが、前記ロータ軸に対して対角線上に配置され、
前記反動回転用ノズルと前記ブレーキ用ノズルの流体の噴射による反力方向は、ロータ軸から偏心した方向に設定されると共に、それぞれの反力の分力によって発生するロータ軸回りの回転モーメントが互いに打ち消しあう方向に設定され、ロータの回転速度が低速化される、
回転ノズル装置。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(1)相違点1
ロータの構造として、本願発明においては、「ロータがロータ軸に回転自在に装着され、ロータ軸の内部の通水路に連通し半径方向に形成されたロータ水路孔を有する」のに対し、引用文献1に記載された発明においては、本願発明におけるロータに相当する「ノズルベース5」の内部の構造が、「ロータ軸に回転自在に装着され、ロータ軸の内部の通水路に連通し半径方向に形成されたロータ水路孔を有する」ものかどうか明らかでない点(以下、「相違点1」という。)。

(2)相違点2
「底面が円形である有底形状」であるロータの外面形状に関して、本願発明においては、ロータが「逆円錐形状」であるのに対し、引用文献1に記載された発明においては、本願発明におけるロータに相当するノズルベース5が「有底円筒形状」である点(以下、「相違点2」という。)。

(3)相違点3
ノズルの取付けに関して、本願発明においては、「反動回転用ノズル又は前記ブレーキ用ノズル」が、「ロータ水路孔の孔端に回転自在に設けられ、その噴射方向が調節可能とされることにより、前記ロータの回転速度が調節可能とされ」ているのに対し、引用文献1に記載された発明においては、本願発明における「反動回転用ノズル又は前記ブレーキ用ノズル」に相当する「第1の噴射ノズル6又は第2の噴射ノズル7」が、ノズルベース5に突設されており、「ロータ水路孔の孔端に回転自在に設けられ、その噴射方向が調節可能とされることにより、前記ロータの回転速度が調節可能とされ」てはいない点(以下、「相違点3」という。)。

4.判断
前記相違点について検討する。
(1)相違点1について
前記第3.2.(2)において検討したとおり、引用文献2に記載された発明は、
「噴射ヘッド16が装置本体12に回転自在に装着され、装置本体12の内部の送給路10に連通し半径方向に形成された噴射水路28を有する噴射ヘッド16。」
というものである。
ここで、引用文献2に記載された発明における「噴射ヘッド16」は、その技術的意義からみて、本願発明における「ロータ」に相当し、以下同様に、「装置本体12」は「ロータ軸」に、「送給路10」は「通水路」に、「噴射水路28」は「ロータ水路孔」に、それぞれ相当する。
してみると、引用文献2に記載された発明は、本願発明の用語を用いると、
「ロータがロータ軸に回転自在に装着され、ロータ軸の内部の通水路に連通し半径方向に形成されたロータ水路孔を有するロータ。」
と書き換えることができる。
そして、引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明は、本願発明と同様に、共に「流体噴射の反力により回転する噴射ノズル」に係る発明である。
してみれば、引用文献1に記載された発明において、ロータの構造として、引用文献2に記載された発明を適用することにより、前記相違点1に係る本願発明の発明特定事項を想到することは、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
ロータの外面形状を「逆円錐形状」とすることは、「回転する噴射ノズル」の技術分野における従来周知の技術(以下、「周知技術1」という。たとえば、特開平5-154450号公報の図2、3及び10、実願平3-108711号(実開平5-56260号)のCD-ROMの図2、実願平3-108708号(実開平5-49055号)のCD-ROMの図2、引用文献2の第1、5、7図等の記載を参照。)にすぎない。
してみれば、引用文献1に記載された発明において、上記周知技術1を適用して、ロータの外面形状を「逆円錐形状」とすることにより、前記相違点2に係る本願発明の発明特定事項を想到することは、当業者が容易に想到できたことである。

(3)相違点3について
ノズルを「ロータ水路孔の孔端に回転自在に設けられ、その噴射方向が調節可能とされることにより、前記ロータの回転速度が調節可能とされ」る技術は、「回転する噴射ノズル」の技術分野における従来周知の技術(以下、「周知技術2」という。たとえば、実願昭58-202661号(実開昭60-106572号)のマイクロフィルムの実用新案登録請求の範囲、明細書第7ページ第2行ないし第6行、第8ページ第18行ないし第9ページ第4行、実願昭61-192815号(実開昭63-98752号)のマイクロフィルムの実用新案登録請求の範囲、明細書第3ページ第4行ないし第4ページ第16行、第5ページ第17行ないし第7ページ第1行及び図面、実願昭60-99640号(実開昭62-6963号)のマイクロフィルムの実用新案登録請求の範囲、明細書第5ページ第8行ないし第10行及び図面、特公昭50-15190号公報の第2ページ第3欄第18行ないし第3ページ第5欄第4行及び特許請求の範囲及び図面等の記載を参照。)にすぎない。
してみれば、引用文献1に記載された発明において、上記周知技術2を適用して、ノズルを「ロータ水路孔の孔端に回転自在に設けられ、その噴射方向が調節可能とされることにより、前記ロータの回転速度が調節可能とされ」とすることにより、前記相違点3に係る本願発明の発明特定事項を想到することは、当業者が容易に想到できたことである。

また、本願発明を全体として検討しても、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明、周知技術1及び2から予測される以上の格別の効果を奏するとも認めることができない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載された発明、周知技術1及び2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。


(付言)
なお、審判請求人は当審の審尋に対する回答書において、(1)ノズルの形状を「L字型」とする点及び(2)ノズルが「その噴射領域がロータの軸方向前方領域となるように設定する」点を限定した補正案を提示しているが、
(1)ノズルの形状を「L字型」とする点は、当業者が適宜なし得る設計的事項と認められ、また、たとえば、前記周知技術2を示す文献でもある実願昭58-202661号(実開昭60-106572号)のマイクロフィルムの第1図ないし第3図に記載されているように、従来周知の技術でもあり、
(2)ノズルが「その噴射領域がロータの軸方向前方領域となるように設定する」という記載は、本願発明において「前方」が定義されていないことから、意味が明確でないが、仮に、本願発明の実施例のように、「その噴射領域が円錐形状のロータの底面側の領域となるように設定する」という意味だとしても、たとえば、前記周知技術1を示す文献でもある特開平5-154450号公報の第2、3、及び10図に記載されているように、従来周知の技術にすぎないものである。
したがって、審判請求人の提示した補正案についても、審決の結論において影響しないものである。
 
審理終結日 2009-12-18 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-05 
出願番号 特願2003-401754(P2003-401754)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土井 伸次  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 金澤 俊郎
西山 真二
発明の名称 回転ノズル装置及びこれを備えた洗浄機  
代理人 稗苗 秀三  
代理人 大島 泰甫  
代理人 後藤 誠司  

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