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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1212386 |
審判番号 | 不服2007-17225 |
総通号数 | 124 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-06-21 |
確定日 | 2010-02-25 |
事件の表示 | 特願2003-293540「インクジェット記録装置、インクジェット記録方法及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月10日出願公開、特開2005- 59440〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成15年8月14日の出願であって、平成19年5月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月21日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月23日付けで特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正がなされたものである。 さらに、審査官により作成された前置報告書について審尋がなされたところ、審判請求人から平成21年8月6日付けで回答書が提出されたものである。 第2.平成19年7月23日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成19年7月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲を補正する内容を含んでおり、本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「 インク滴を吐出するインクジェットヘッドと、 入力された画像データに応じて、前記インクジェットヘッドにインク滴を吐出させるための吐出信号を生成する吐出信号生成装置と、前記吐出信号生成装置で生成された吐出信号を前記インクジェットヘッドに供給する吐出信号供給装置とを備えたインクジェット記録装置であって、 前記インクジェットヘッドが、 ノズルに連通した複数の圧力室が平面に沿ってマトリクス状に互いに隣接配置された流路ユニットと、 前記圧力室に対向する位置に配置され且つ前記吐出信号供給装置から吐出信号がそれぞれ供給される複数の個別電極、共通電極、及び、前記共通電極と前記個別電極とによって挟まれた圧電シートを含み、前記流路ユニットの一表面に固定されて前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニットとを備えており、 前記圧力室の平面形状が2つの鋭角部を有する平行四辺形又は角部が丸められた平行四辺形形状であり、 前記流路ユニットにおいて複数の前記圧力室が千鳥状に配置されることによって、前記圧力室の2つの鈍角部を結ぶ方向に互いに平行に延在する複数の圧力室列が形成されており、 前記吐出信号生成装置が、互いに位相が異なる2種類の吐出信号を生成し、 前記吐出信号供給装置が、前記2つの鋭角部を結ぶ方向に隣接する前記圧力室に対向した前記個別電極に同じ種類の吐出信号を供給すると共に、前記圧力室列に属する隣接した複数の前記圧力室に対向した前記個別電極に2種類の吐出信号を交互に供給することを特徴とするインクジェット記録装置。」 から 「 インク滴を吐出するインクジェットヘッドと、 入力された画像データに応じて、前記インクジェットヘッドにインク滴を吐出させるための吐出信号を生成する吐出信号生成装置と、前記吐出信号生成装置で生成された吐出信号を前記インクジェットヘッドに供給する吐出信号供給装置とを備えたインクジェット記録装置であって、 前記インクジェットヘッドが、 ノズルに連通した複数の圧力室が平面に沿ってマトリクス状に互いに隣接配置された流路ユニットと、 前記圧力室に対向する位置に配置され且つ前記吐出信号供給装置から吐出信号がそれぞれ供給される複数の個別電極、共通電極、及び、前記共通電極と前記個別電極とによって挟まれた圧電シートを含み、前記流路ユニットの一表面に固定されて前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニットとを備えており、 前記圧力室の平面形状が2つの鋭角部を有する平行四辺形又は角部が丸められた平行四辺形形状であり、 前記流路ユニットにおいて複数の前記圧力室が千鳥状に配置されることによって、前記圧力室の2つの鈍角部を結ぶ方向に互いに平行に延在する複数の圧力室列が形成されており、 複数の前記圧力室に連通した共通インク室が前記流路ユニット内に設けられることによって、前記共通インク室の出口から前記圧力室を経て前記ノズルに至る複数の個別インク流路が前記流路ユニット内に形成されており、 同じ前記圧力室列に属する前記圧力室が同じ前記共通インク室に連通していると共に、当該共通インク室において当該圧力室に関する前記出口が、前記圧力室列の配列方向に沿って配列しており、 前記吐出信号生成装置が、互いに位相が異なる2種類の吐出信号を生成し、 前記吐出信号供給装置が、前記2つの鋭角部を結ぶ方向に隣接する前記圧力室に対向した前記個別電極に同じ種類の吐出信号を供給すると共に、前記圧力室列に属する隣接した複数の前記圧力室に対向した前記個別電極に2種類の吐出信号を交互に供給することを特徴とするインクジェット記録装置。」 に補正された。 上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「圧力室」、「圧力室列」及び「流路ユニット」に関して、 「複数の前記圧力室に連通した共通インク室が前記流路ユニット内に設けられることによって、前記共通インク室の出口から前記圧力室を経て前記ノズルに至る複数の個別インク流路が前記流路ユニット内に形成されており、 同じ前記圧力室列に属する前記圧力室が同じ前記共通インク室に連通していると共に、当該共通インク室において当該圧力室に関する前記出口が、前記圧力室列の配列方向に沿って配列して」いる構成に限定したものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.独立特許要件について (1)刊行物に記載された発明 (刊行物1について) 原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-165215号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、以下の記載がある。(下線は当審にて付与した。) (1-a)「【請求項1】 それぞれがノズルに連通した複数の圧力室が平面に沿って配列されており、インク供給口から前記圧力室を経て前記ノズルに至るインク流路を内部に有する流路ユニットと、 各圧力室の平面領域内に形成された個別電極と、複数の前記個別電極に跨って形成された共通電極と、前記共通電極と複数の前記個別電極とによって挟まれた圧電シートとを有していると共に、前記平面と平行な前記流路ユニットの一表面に固定され、前記圧電シートの変形により前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニットとを備え、 前記個別電極が、主電極領域部と、前記主電極領域部とつながっており且つ前記主電極領域部よりも平面積が小さい補助電極領域部とを有しており、 前記補助電極領域部の各々と接合される端子を有し、前記アクチュエータユニットに駆動信号を供給する柔軟ケーブルを備えていることを特徴とするインクジェットヘッド。」 (1-b)「【0018】図1乃至図4に示すように、インクジェットプリンタヘッド1は、略長方形に形成された薄い金属板の積層構造からなるキャビティプレート2の上に、平面視略台形状若しくは略平行四辺形状のプレート型の5枚の各圧電シート20、20、20、20、20が互いに隣接した状態で積層された構造となっている。また、キャビティプレート2の表面には、ほぼ菱形形状に形成されたインク圧力室19Aが要求される印字密度に対応して複数列配列されている。また、この複数列の各インク圧力室19Aは、このインク圧力室19Aの鋭角部を互いに他の列のインク圧力室19A間に入り込ませるように高密度に配置されている。 【0019】また、キャビティプレート2は、略長方形の金属板の板材を9枚積層した9層構造になっている。具体的には、キャビティプレート2は、図3(B)に示すように、下層から、ノズルプレート11、カバープレート12、第一マニホールドプレート13、第二マニホールドプレート14、第三マニホールドプレート15、サプライプレート16、アパーチャプレート17、スペーサプレート18及びベースプレート19の9枚の薄い金属板を積層した構造となっている。また、図1に示すように、キャビティプレート2の長手方向の両端縁部には、インクが供給される各フィルタ孔19B、19Bが形成され、この各フィルタ孔19B、19Bには、インク内のゴミが侵入するのを防ぐための微細な貫通孔が多数形成される各フィルタ21、21が積層されている。 【0020】また、図3に示すように、ノズルプレート11には、微小径のインク噴出用のノズル11Aが、多数個穿設されている。また、カバープレート12には、各ノズル11Aに対向する位置に該ノズル11Aに連通した微小径のインクの通路である貫通孔12Aが多数穿設されると共に、各マニホールドプレート13、14、15によって形成される後述のインクマニホールド通路の1つの壁面を構成している。 【0021】また、第1マニホールドプレート13には、前記貫通孔12Aに対向する位置に該貫通孔12Aに連通した微小径のインクの通路である貫通孔13Aが多数穿設されると共に、前記インクマニホールド通路を構成する溝状の孔部13Bが長手方向に沿って延びるように各インク圧力室19Aの各列に沿って複数列形成されている。 【0022】また、第2マニホールドプレート14には、前記貫通孔13Aに対向する位置に該貫通孔13Aに連通した微小径のインクの通路である貫通孔14Aが多数穿設されると共に、前記インクマニホールド通路を構成する溝状の孔部14Bが長手方向に沿って延びるように各インク圧力室19Aの各列に沿って複数列形成されている。 【0023】また、第3マニホールドプレート15には、前記貫通孔14Aに対向する位置に該貫通孔14Aに連通した微小径のインクの通路である貫通孔15Aが多数穿設されると共に、前記インクマニホールド通路を構成する溝状の孔部15Bが長手方向に沿って延びるように各インク圧力室19Aの各列に沿って複数列形成されている。 【0024】また、サプライプレート16には、前記貫通孔15Aに対向する位置に該貫通孔15Aに連通した微小径のインクの通路である貫通孔16Aが多数穿設されている。また、このサプライプレート16の貫通孔16Aに対して上記インク圧力室19Aの鋭角部と反対の対角線方向で、かつ、前記孔部15Bの側端縁部の近傍位置(図3(B)中、右側端縁部の近傍位置)には、インクマニホールド通路に連通してインクの供給通路を形成する貫通孔16Bが多数穿設されている。 【0025】ここで、図3(B)に示すように、カバープレート12の上面部、溝状の各孔部13B、14B、15B、及びサプライプレート16の底面部によって構成され、インクを各インク圧力室19Aに供給する共通のインク室として働くインクマニホールド通路が長手方向に複数列形成されいてる。」 (1-c)「【0030】次に、圧電シート20の概略構造及び該圧電シート20と電源回路部(不図示)から延設されるフレキシブルプリント配線板(FPC)との電気的な接続構造について図5及び図6に基づいて説明する。図5は本実施形態に係るインクジェットプリンタヘッド1の圧電シート20の要部拡大縦断面図である。図6は本実施形態に係るインクジェットプリンタヘッド1の圧電シート20の内部の電気接続構造を模式的に示す分解斜視図である。図5及び図6に示すように、圧電シート20は、5枚の第1圧電層21、第2圧電層22、第3圧電層23、第4圧電層24、及び第5圧電層25を積層した構造に形成されている。また、第1圧電層21の上面部には、上記のように各インク圧力室19Aに対応する位置に該インク圧力室19Aの投影形状よりも少し小さいほぼ相似形の略菱形の駆動電極20Aと、該駆動電極20Aの鋭角部から連続して形成される矢印形状のランドパターン20Bが形成されている。また、各ランドパターン20Bの略中央部には、貫通孔20Cが穿設されている。」 (1-d)「【0036】上記のように構成された第1乃至第5圧電層21、22、23、24、25の内、FPC32を介して第1圧電層21の駆動電極20A及び第3圧電層23の内部電極23Aと、第2圧電層22のコモン電極22B及び第4圧電層24のコモン電極24Aとの間に駆動電圧を印可することにより、第1乃至第5圧電層21、22、23、24、25が変形して、キャビティプレート2の対応するインク圧力室19A内のインクに圧力を加えることができる。」 (1-e)図1ないし図5として、 「 」 (1-f)図6ないし図7として、 「 」 上記摘記事項に記載の「インクジェットプリンタヘッド」がインクジェットプリンタに用いられることは自明の事項である。 また、上記摘記事項から、複数の圧力室(インク圧力室19A)については、「ほぼ菱形形状に形成された複数の圧力室が平面に沿って長手方向に複数列配列され」ているといえる。 上記の事項をまとめると、刊行物1には、以下の発明が開示されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。) 「それぞれがノズルに連通し、ほぼ菱形形状に形成された複数の圧力室が平面に沿って長手方向に複数列配列され、かつ、前記圧力室は、各列の圧力室の鋭角部を互いに他の列の圧力室間に入り込ませるように高密度に配置されており、 インクを各圧力室に供給する共通のインク室として働くインクマニホールド通路が長手方向に複数列形成され、該インクマニホールド通路から、インク供給口及び前記圧力室を経て前記ノズルに至るインク流路を内部に有する流路ユニットと、 各圧力室の平面領域内に形成された個別電極と、複数の前記個別電極に跨って形成された共通電極と、前記共通電極と複数の前記個別電極とによって挟まれた圧電シートとを有していると共に、前記平面と平行な前記流路ユニットの一表面に固定され、前記圧電シートの変形により前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニットとを備える、 インクジェットプリンタヘッドを用いた、インクジェットプリンタ。」 (刊行物2について) また、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-69544号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。) (2-a)「【0005】 【目的】本発明は、上述のごとき実情に鑑みてなされたもので、インクの噴射状態を安定にし、駆動周波数に対するインクの噴射速度の変動をなくすようにした液体噴射記録ヘッドの駆動方法を提供すること、またマルチノズルヘッドの同時駆動時の相互干渉による滴速度低下を防止するようにした液体噴射記録ヘッドの駆動方法を提供することを目的としてなされたものである。」 (2-b)「【0018】図8は、位相差のある場合の駆動電圧波形を示す図である。すなわち、奇チャンネル群と偶チャンネル群の2群に圧電素子を分割し、奇チャンネルと偶チャンネル間に位相差をもたせた例を示すもので、奇チャンネルの立上り時間と偶チャンネルの立下り時間が重複するようになっている。このような条件では、奇チャンネルに注目すると、奇チャンネルの圧電素子が膨張(立上り)する間に隣接する偶チャンネルは収縮(立下り)するため、位相差のない場合にくらべて流路板の変形が防止されるため、奇チャンネルの相互干渉による滴速度の低下は改善されることになる。この時の圧電素子の状態を図9に示す。なお、偶チャンネルの膨張時には、少くとも奇チャンネルの圧電素子の変形は何ら影響を与えないが、位相差なしで全チャンネル同時駆動に対して、1チャンネル飛ばしで半数のチャンネルが同時駆動された時の相互干渉が期待されるが、非駆動流路内に発生する圧力波(図6参照)と、偶数chの圧電素子の膨張時に発生する圧力波との位相を合わせることにより、大幅な相互干渉の低減が可能であることがわかった。」 (2-c)図8として、 「 」 (刊行物3について) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-315451号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。) (3-a)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】上述した従来のインクジェット記録装置やヘッド制御回路にあっては、いずれも隣接するノズル間(チャンネル間)の駆動タイミングをずらすことによって隣接ノズル間の機械的相互干渉或いは流体的相互干渉を低減させようとするものである。」 (3-b)「【0048】次に、以上のように構成したこのインクジェット記録装置の作用について図11以降をも参照して説明する。先ず、本発明の概要について説明すると、複数のノズルを有するインクジェットヘッドを駆動してノズルからインク滴を吐出させる場合、通常は、図11に示すように各ノズルに対応するエネルギー発生手段に対して同じタイミングで駆動波形を与えて各ノズルを同時に駆動する、つまり、インク滴吐出タイミングを同じにしている(この駆動方法を「駆動a」という。)。 【0049】このように複数のノズルを同時に駆動する(実際にはエネルギー発生手段を駆動するのであるが、便宜上、ノズル又はチャンネルを駆動するという表現を用いる。)場合、駆動時に発生する機械的な振動、インクの物性と液室構造で決まる流体的な振動が、隣接するチャンネルへ影響を及ぼす相互干渉が発生するので、1つのノズルを単独で駆動した場合に比べて、インク滴の速度Vjや液体積Mjが変動したり、気泡をノズル内に引き込んでインク滴吐出不良になったりする。 【0050】この駆動aの方法による駆動を行ったときのインク滴吐出速度Vjと隣接チャンネル(ノズル)数の関係を図14に示している。同図の隣接駆動チャンネル数の「±0」は着目チャンネルを単独で駆動した場合を示し、±1(全駆動チャンネル数3)、±2(全駆動チャンネル数5)、……は、着目チャンネルに隣接する両側の駆動チャンネル数を示している。この図から分るように、隣接駆動チャンネル数(隣接駆動ノズル数)が増加するにつれてインク滴吐出速度Vjは低下していくが、駆動チャンネルが着目チャンネルから離れるに従って相互干渉の影響が少なくなるので、あるチャンネル数以上になると、インク滴吐出速度Vjの低下率が飽和する。 【0051】そこで、これを改善するために、図12に示すように隣接するノズル相互間で駆動波形にディレイ時間Td(b)を設けて隣接ノズル相互間の駆動タイミングをディレイ時間Td(b)だけずらす駆動方法もある(この駆動方法を「駆動b」という。)。」 (3-c)図12として、 「 」 (刊行物4について) 同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開昭55-34906号公報(以下、「刊行物4」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は、当審にて付与した。) (4-a)「 本発明はこの点に鑑みてなされたもので、その目的は、ノズル間で相互干渉の生じないインクジェット記録装置を提供するにある。 この目的を達成するため、本発明は、近接する複数個のインク室にそれぞれ設けられた電歪振動子のようなインク室容積変化手段に印加する駆動電圧信号の位相を互に異ならせたことを特徴とする。」(第2頁左下欄第8行?第15行) (2)対比 本願補正発明と刊行物1発明とを対比する。 まず、刊行物1発明における 「インクジェットプリンタヘッド」、 「インクジェットプリンタ」、 「長手方向」、 「(それぞれがノズルに連通し、)ほぼ菱形形状に形成された複数の圧力室が平面に沿って長手方向に複数列配列され、かつ、前記圧力室は、各列の圧力室の鋭角部を互いに他の列の圧力室間に入り込ませるように高密度に配置されており」、 「インクを各圧力室に供給する共通のインク室として働くインクマニホールド通路」、 「インクを各圧力室に供給する共通のインク室として働くインクマニホールド通路が長手方向に複数列形成され、該インクマニホールド通路から、インク供給口及び前記圧力室を経て前記ノズルに至るインク流路を内部に有する」、 「それぞれがノズルに連通し、ほぼ菱形形状に形成された複数の圧力室が平面に沿って長手方向に複数列配列され、かつ、前記圧力室は、各列の圧力室の鋭角部を互いに他の列の圧力室間に入り込ませるように高密度に配置されており、(インクを各圧力室に供給する共通のインク室として働くインクマニホールド通路が長手方向に複数列形成され、該インクマニホールド通路から、インク供給口及び前記圧力室を経て前記ノズルに至るインク流路を内部に有する)流路ユニット」は、 それぞれ、本願補正発明における 「インク滴を吐出するインクジェットヘッド」、 「インクジェット記録装置」、 「圧力室列の配列方向」及び「前記圧力室の2つの鈍角部を結ぶ方向」、 「前記圧力室の平面形状が2つの鋭角部を有する平行四辺形(又は角部が丸められた平行四辺形)形状であり、(前記流路ユニットにおいて)複数の前記圧力室が千鳥状に配置されることによって、前記圧力室の2つの鈍角部を結ぶ方向に互いに平行に延在する複数の圧力室列が形成されており」、 「複数の前記圧力室に連通した共通インク室」、 「複数の前記圧力室に連通した共通インク室が前記流路ユニット内に設けられることによって、前記共通インク室の出口から前記圧力室を経て前記ノズルに至る複数の個別インク流路が前記流路ユニット内に形成されており、同じ前記圧力室列に属する前記圧力室が同じ前記共通インク室に連通していると共に、当該共通インク室において当該圧力室に関する前記出口が、前記圧力室列の配列方向に沿って配列しており」、 「ノズルに連通した複数の圧力室が平面に沿ってマトリクス状に互いに隣接配置された流路ユニット」に相当する。 そして、刊行物1発明における「インクジェットプリンタ」において、「入力された画像データに応じて、前記インクジェットヘッドにインク滴を吐出させるための吐出信号を生成する吐出信号生成装置と、前記吐出信号生成装置で生成された吐出信号を前記インクジェットヘッドに供給する吐出信号供給装置」に相当する構成を有しており、「吐出信号供給装置から吐出信号が複数の個別電極」に供給されることは自明の事項である。 そうすると、刊行物1発明における「各圧力室の平面領域内に形成された個別電極と、複数の前記個別電極に跨って形成された共通電極と、前記共通電極と複数の前記個別電極とによって挟まれた圧電シートとを有していると共に、前記平面と平行な前記流路ユニットの一表面に固定され、前記圧電シートの変形により前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニット」は、 本願補正発明における「前記圧力室に対向する位置に配置され且つ前記吐出信号供給装置から吐出信号がそれぞれ供給される複数の個別電極、共通電極、及び、前記共通電極と前記個別電極とによって挟まれた圧電シートを含み、前記流路ユニットの一表面に固定されて前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニット」に相当する。 したがって、本願補正発明と刊行物1発明とは、 「 インク滴を吐出するインクジェットヘッドと、 入力された画像データに応じて、前記インクジェットヘッドにインク滴を吐出させるための吐出信号を生成する吐出信号生成装置と、前記吐出信号生成装置で生成された吐出信号を前記インクジェットヘッドに供給する吐出信号供給装置とを備えたインクジェット記録装置であって、 前記インクジェットヘッドが、 ノズルに連通した複数の圧力室が平面に沿ってマトリクス状に互いに隣接配置された流路ユニットと、 前記圧力室に対向する位置に配置され且つ前記吐出信号供給装置から吐出信号がそれぞれ供給される複数の個別電極、共通電極、及び、前記共通電極と前記個別電極とによって挟まれた圧電シートを含み、前記流路ユニットの一表面に固定されて前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニットとを備えており、 前記圧力室の平面形状が2つの鋭角部を有する平行四辺形形状であり、 前記流路ユニットにおいて複数の前記圧力室が千鳥状に配置されることによって、前記圧力室の2つの鈍角部を結ぶ方向に互いに平行に延在する複数の圧力室列が形成されており、 複数の前記圧力室に連通した共通インク室が前記流路ユニット内に設けられることによって、前記共通インク室の出口から前記圧力室を経て前記ノズルに至る複数の個別インク流路が前記流路ユニット内に形成されており、 同じ前記圧力室列に属する前記圧力室が同じ前記共通インク室に連通していると共に、当該共通インク室において当該圧力室に関する前記出口が、前記圧力室列の配列方向に沿って配列している、インクジェット記録装置。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点]:「吐出信号生成装置」及び、「吐出信号供給装置」に関して、本願補正発明においては、「吐出信号生成装置」が、「互いに位相が異なる2種類の吐出信号を生成し、」かつ、「吐出信号供給装置」が、「前記2つの鋭角部を結ぶ方向に隣接する前記圧力室に対向した前記個別電極に同じ種類の吐出信号を供給すると共に、前記圧力室列に属する隣接した複数の前記圧力室に対向した前記個別電極に2種類の吐出信号を交互に供給する」のに対し、刊行物1発明においては、そのような特定がない点。 (3)判断 (相違点について) 上記相違点について検討する。 まず、構造的クロストークを抑制することは、周知の課題であって、そのために、隣接するノズルの駆動信号の位相を異ならせることは、刊行物2?4に示されるとおり、従来周知の技術であり、特に、刊行物3に記載のものは、「そこで、これを改善するために、図12に示すように隣接するノズル相互間で駆動波形にディレイ時間Td(b)を設けて隣接ノズル相互間の駆動タイミングをディレイ時間Td(b)だけずらす駆動方法もある(この駆動方法を「駆動b」という。)。」(上記摘記事項(3-b)、段落【0051】)とあるとおり、2種類の駆動波形を交互に用いるものである。 そして、「前記2つの鋭角部を結ぶ方向に隣接する前記圧力室に対向した前記個別電極に同じ種類の吐出信号を供給する」とした点については、2つの鋭角部を結ぶ方向に隣接する圧力室間では、構造的クロストークの影響が少ないことは明らかであり、かつ、「2種類の吐出信号」しか選択できない条件の下で、隣接する圧力室群において、極力、同じ位相の吐出信号を連続して供給しないようにすることも当業者にとって当然の事項といえるから、該「前記2つの鋭角部を結ぶ方向に隣接する前記圧力室に対向した前記個別電極に同じ種類の吐出信号を供給する」とした点は、斜め方向に隣接する3以上の圧力室群に同じ吐出信号を供給することがないよう、「前記圧力室列に属する隣接した複数の前記圧力室に対向した前記個別電極に2種類の吐出信号を交互に供給する」ために適宜採用できる設計的事項に過ぎない。 したがって、刊行物1発明において、「吐出信号生成装置」が、「互いに位相が異なる2種類の吐出信号を生成し、」かつ、「吐出信号供給装置」が、「前記2つの鋭角部を結ぶ方向に隣接する前記圧力室に対向した前記個別電極に同じ種類の吐出信号を供給すると共に、前記圧力室列に属する隣接した複数の前記圧力室に対向した前記個別電極に2種類の吐出信号を交互に供給する」構成を採用することは、当業者が容易に為し得たことである。 (本願補正発明が奏する効果について) そして、上記相違点によって、本願補正発明が奏する「構造的クロストークを抑制することができる。」、「最大消費電力を抑えることができるため、電力の小さい電源装置を使用することができる。これによりインクジェット記録装置の省スペース化及び低コスト化を図ることができる。」といった効果は、刊行物1?4に記載された事項から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。 (4)まとめ 以上のように、本願補正発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 3.補正却下の決定についてのむすび したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成19年7月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?12に係る発明は、平成18年10月23日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるものであり、特に、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。 「 インク滴を吐出するインクジェットヘッドと、 入力された画像データに応じて、前記インクジェットヘッドにインク滴を吐出させるための吐出信号を生成する吐出信号生成装置と、前記吐出信号生成装置で生成された吐出信号を前記インクジェットヘッドに供給する吐出信号供給装置とを備えたインクジェット記録装置であって、 前記インクジェットヘッドが、 ノズルに連通した複数の圧力室が平面に沿ってマトリクス状に互いに隣接配置された流路ユニットと、 前記圧力室に対向する位置に配置され且つ前記吐出信号供給装置から吐出信号がそれぞれ供給される複数の個別電極、共通電極、及び、前記共通電極と前記個別電極とによって挟まれた圧電シートを含み、前記流路ユニットの一表面に固定されて前記圧力室の容積を変化させるアクチュエータユニットとを備えており、 前記圧力室の平面形状が2つの鋭角部を有する平行四辺形又は角部が丸められた平行四辺形形状であり、 前記流路ユニットにおいて複数の前記圧力室が千鳥状に配置されることによって、前記圧力室の2つの鈍角部を結ぶ方向に互いに平行に延在する複数の圧力室列が形成されており、 前記吐出信号生成装置が、互いに位相が異なる2種類の吐出信号を生成し、 前記吐出信号供給装置が、前記2つの鋭角部を結ぶ方向に隣接する前記圧力室に対向した前記個別電極に同じ種類の吐出信号を供給すると共に、前記圧力室列に属する隣接した複数の前記圧力室に対向した前記個別電極に2種類の吐出信号を交互に供給することを特徴とするインクジェット記録装置。」 2.引用刊行物 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用された刊行物1?4、及び、その記載事項は、前記第2.2.(1-a)?(4-a)で示したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は、上記第2.2.で検討した本願補正発明から、「圧力室」、「圧力室列」及び「流路ユニット」に関して、「複数の前記圧力室に連通した共通インク室が前記流路ユニット内に設けられることによって、前記共通インク室の出口から前記圧力室を経て前記ノズルに至る複数の個別インク流路が前記流路ユニット内に形成されており、同じ前記圧力室列に属する前記圧力室が同じ前記共通インク室に連通していると共に、当該共通インク室において当該圧力室に関する前記出口が、前記圧力室列の配列方向に沿って配列して」いる構成を削除したものである。 そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2.2.に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 なお、請求人は、当審からの審尋への回答書において、補正の用意がある旨記載しているが、特許法が補正の時期的制限を設けていることの趣旨に鑑みて、補正の機会を設けることとはしない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-12-15 |
結審通知日 | 2009-12-22 |
審決日 | 2010-01-12 |
出願番号 | 特願2003-293540(P2003-293540) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大仲 雅人、横林 秀治郎 |
特許庁審判長 |
赤木 啓二 |
特許庁審判官 |
柏崎 康司 大森 伸一 |
発明の名称 | インクジェット記録装置、インクジェット記録方法及びプログラム |
代理人 | 梶 良之 |
代理人 | 須原 誠 |