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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G10L
管理番号 1212461
審判番号 不服2007-2710  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-22 
確定日 2010-02-26 
事件の表示 特願2001-587422「CELP型音声符号化装置用の利得量子化」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月29日国際公開、WO01/91112、平成16年 4月 2日国内公表、特表2004-510174〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯・本願発明
本願は,平成13年4月16日(パリ条約による優先権主張2000年(平成12年)5月19日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成17年11月14日付けで拒絶理由が通知され,これに対して平成18年5月15日付けで意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたところ,平成18年10月19日付けで拒絶査定がされ,これに対して平成19年1月22日に拒絶査定不服審判が請求されたものであって,平成20年11月5日付けで審判合議体によって拒絶理由が通知され,これに対して平成21年5月7日に意見書が提出されるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。
そして,本願の特許請求の範囲の請求項1ないし6の記載は,平成21年5月7日付け手続補正書により補正されたものであるところ,その請求項6(以下,「新請求項6」という。)の記載は,次のとおりのものである。

「【請求項6】 音声信号を受信する音声符号化システムであって,
(a)この音声信号のフレームを処理するフレーム処理器であって,
非量子化ピッチ利得を求めるためのピッチ利得生成器と,
この非量子化ピッチ利得を受信して量子化ピッチ利得を生成するための第1のベクトル量子化器と,を備えているフレーム処理器と,
(b)ピッチ利得生成器が非量子化ピッチ利得を求め,かつ,第1のベクトル量子化器が量子化ピッチ利得を生成した後に,サブフレーム処理を開始するサブフレーム処理器であって,非量子化固定コードブック利得を生成するための閉ループ生成器を備えているサブフレーム処理器と,
(c)このサブフレーム処理器によるサブフレーム処理の後に,非量子化固定コードブック利得を受信して量子化固定コードブック利得を遅延決定閉ループで生成する第2のベクトル量子化器と,
(d)適応コードブック励振ベクトルを生成するための第1のコードブックと,
(e)この適応コードブック励振ベクトルに量子化ピッチ利得を乗じて,スケールされた適応コードブック利得ベクトルを生成する第1の乗算器と,
(f)固定コードブック励振ベクトルを生成するための第2のコードブックと,
(g)この固定コードブック励振ベクトルに固定コードブック利得を乗じて,スケールされた固定コードブック利得ベクトルを生成する第2の乗算器と,
(h)これらのスケールされた適応コードブック利得ベクトルとスケールされた固定コードブック利得ベクトルとを加算する加算器と,
を備えている音声符号化システム。」

第2 審判合議体の拒絶理由
審判合議体が平成20年11月5日付けで通知した拒絶理由は次のとおりのものである。

「本件出願は,明細書及び図面の記載が下記の点で,特許法第36条第4項並びに第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。



発明の構成が著しく不明りょうである。また,発明の詳細な説明の記載との対応も明確でない。
また,発明の詳細な説明において,発明を構成する個々の要素の定義,対応関係が明確でない。

例えば,以下のとおり。

(以下,省略)」

新請求項6は,その記載事項からみて,平成18年5月15日付け手続補正書に記載された特許請求の範囲の請求項(以下,「旧請求項」という。)19を引用した請求項27を独立形式の請求項としたものと認められる。
なお,審判請求人も,平成21年5月7日付け意見書において「請求項19と27を組み合わせて新たな請求項6としました」と説明していることから,本願発明は,旧請求項19,27に基づくものとの認識を示している。

そして,審判合議体が平成20年11月5日付けで通知した拒絶理由における指摘事項のうち,旧請求項19及び27に関する拒絶理由は次のとおりのものである。

「(15)請求項19において「非量子化ピッチ利得を求めるためのピッチ利得生成器と,この非量子化ピッチ利得を受信して量子化ピッチ利得を生成するための第1のベクトル量子化器と,を備えているフレーム処理器」との記載があるが,「第1のベクトル量子化器」,これを備える「フレーム処理器」とは,発明の詳細な説明において,具体的に,それぞれ,どの回路を表しているのか,明りょうでない。例えば,符号化システムを表す図4?図7において,どの回路を表しているのか,それを説明する発明の詳細な説明の記載箇所と共に,それぞれの対応関係を明確にされたい。

(16)請求項19の「非量子化固定コードブック利得を生成するための閉ループ生成器を備えているサブフレーム処理器」との記載において,「閉ループ生成器」,これを備える「サブフレーム処理器」とは,発明の詳細な説明において,具体的に,それぞれ,どの回路を表しているのか,明りょうでない。例えば,符号化システムを表す図4?図7において,どの回路を表しているのか,それを説明する発明の詳細な説明の記載箇所と共に,それぞれの対応関係を明確にされたい。

(17)請求項19の「このサブフレーム処理器によるサブフレーム処理の後に,非量子化固定コードブック利得を受信して量子化固定コードブック利得を遅延決定閉ループで生成する第2のベクトル量子化器」との記載において,「第2のベクトル量子化器」とは,発明の詳細な説明において,具体的に,どの回路を表しているのか,明りょうでない。例えば,符号化システムを表す図4?図7において,どの回路を表しているのか,それを説明する発明の詳細な説明の記載箇所と共に,対応関係を明確にされたい。

(中略)

(24)請求項27の「適応コードブック励振ベクトルを生成するための第1のコードブック」,「この適応コードブック励振ベクトルに量子化ピッチ利得を乗じて,増大された適応コードブック利得ベクトルを生成する第1の乗算器」,「固定コードブック励振ベクトルを生成するための第2のコードブック」,「この固定コードブック励振ベクトルに固定コードブック利得を乗じて,増大された固定コードブック利得ベクトルを生成する第2の乗算器」,「これらの増大された適応コードブック利得ベクトルと増大された固定コードブック利得ベクトルとを加算する加算器」とは,それぞれ,発明の詳細な説明において,具体的に,どの処理を表しているのか,明りょうでない。例えば,符号化システムを表す図4?図7において,どの手段を用いて行われる,どの処理を表しているのか,それを説明する発明の詳細な説明の記載箇所と共に,それぞれの対応関係を明確にされたい(なお,例えば,図7において,「第1のコードブック」を適応コードブック290,「第1の乗算器」を乗算器592,「第2のコードブック」を固定コードブック292,「第2の乗算器」を乗算器594とした場合,「加算器」に対応する回路が存在せず,また「第1の乗算器」を乗算器664,「第2の乗算器」を乗算器684,「加算器」を加算器670とした場合,「第1のコードブック」,「第2のコードブック」に対応する回路が存在していない。)。

また,請求項27の「適応コードブック励振ベクトルを生成するための第1のコードブック」,「この適応コードブック励振ベクトルに量子化ピッチ利得を乗じて,増大された適応コードブック利得ベクトルを生成する第1の乗算器」,「固定コードブック励振ベクトルを生成するための第2のコードブック」,「この固定コードブック励振ベクトルに固定コードブック利得を乗じて,増大された固定コードブック利得ベクトルを生成する第2の乗算器」,「これらの増大された適応コードブック利得ベクトルと増大された固定コードブック利得ベクトルとを加算する加算器」と,本請求項で引用する請求項19の音声符号化システムの各回路との関係(どの回路に設けられたものであるのか,または,どの回路とどの回路との間に備えられたものであるのか等)が,明りょうでない。

さらに,請求項27の「固定コードブック利得ベクトル」と,本請求項で引用する請求項19の「非量子化固定コードブック利得」,「量子化固定コードブック利得」との関係が明りょうでない(仮に,同じものを表すのであれば,用語は統一されたい。)。

なお,平成18年5月15日付意見書において,「scaled」という原文に基づいて「増大された」と訂正した旨主張しているが,「scaled」は,増大する場合だけでなく,減少させる場合の両方を意味する用語であり,これを「増大された」とすることは不適切である点も,留意されたい。」

第3 審判請求人の主張について
審判合議体が平成20年11月5日付けで通知した上記拒絶理由に対して,審判請求人は平成21年5月7日付け意見書で反論しているところ,そのうち,旧請求項19及び27に関する主張は次のとおりのものである。

「(2)記載不備について
審判官殿が指摘された記載不備は,以下に説明するように,すべて明確化されています。
すなわち,元の請求項19について,「第1のベクトル量子化器」,「第2のベクトル量子化器」とはどの回路を表しているのか不明であると指摘されましたが,これは図7においてn次元前ベクトル量子化器580とあり([0103]段参照),同じく図7においてn次元ベクトル量子化器680とありますので([0103]段参照),前者のn次元前ベクトル量子化器580が「第1のベクトル量子化器」,後者のn次元ベクトル量子化器680が「第2のベクトル量子化器」に相当し,それぞれ明確であると存じます。
元の請求項19について,「フレーム処理器」,「サブフレーム処理器」が不明であると指摘されていますので,これについて,ご説明申し上げます。通常のCELP型音声符号化装置は,いずれもフレーム処理及びサブフレーム処理を採用しております。フレーム処理及びサブフレーム処理については,本願明細書の発明の詳細な説明における以下の部分等に記載されています。端的に申し上げて,フレーム処理は,フレーム全体に対する処理ステップを言い,サブフレーム処理は,フレームの一部であるサブフレームに対する処理ステップを言います。
例えば,フレーム処理につきましては,本願明細書の[0052]段及び図8,並びに[0061]及び図4に説明があります。[0061]段には,「図4は,一般的なフレーム毎の音声信号処理を示す機能ブロック図である。つまり,図4には,フレーム毎の音声信号処理を示している。このフレーム処理は,モード依存処理250を行う前に,モード(0または1)とは無関係に行う。」とありますので,図4がフレーム処理器を表していることは明確であると存じます。また,サブフレーム処理につきましては,[0091]及び図5?7,並びに[0128]に説明があります。[0100]段では,「次に,モード1サブフレーム処理を説明する。図7は,モード依存サブフレーム処理器250のモード1サブフレーム処理部を示す機能ブロック図である。」とありますので,サブフレーム処理器は図4の250で示されております。
さらに,添付しましたITU-T G.729の図4(第8頁)には,CELP型音声符号化装置におけるフレーム処理とサブフレーム処理とが明確に区別されて示されています。
これらに基づいて,当業者であればフレーム処理及びサブフレーム処理の意味を十分に理解することができると思料致します。
元の請求項19について,「閉ループ生成器」が不明であると指摘されましたが,審査段階の意見書でも述べましたが,「閉ループ生成器」の処理内容や「非量子化固定コードブック利得」は明細書の記載から明らかでありますし,当業者は「閉ループ」や「非量子化固定コードブック利得」の意味について十分に知っているはずです。因みに,「閉ループ」や「量子化」などの用語は,例えば,特許3592473号公報「周波数領域内のLPC予測による時間領域内での知覚ノイズ整形」,特許3073017号公報「音声コーディングにおけるダブルモード長期予測」および特許2971266号公報「低遅延CELP符号化方法」の特許請求の範囲において,確立された技術用語として使用されております。

(中略)

元の請求項27について,第1のコードブック,第1の乗算器,第2のコードブック,
第2の乗算器,加算器が不明であると指摘されましたが,これは図11を参照して,第1のコードブック(適応コードブック290),第1の乗算器(乗算器904),第2のコードブック(適応コードブック292),第2の乗算器(乗算器922),加算器(加算器930)とそれぞれ表されていますので,明確であると存じます。
元の請求項27について,第1のコードブック,第1の乗算器,第2のコードブック,第2の乗算器,加算器が,元の請求項19の音声符号化システムの各回路との関係が不明であると指摘されましたが,本願明細書[0129]段に「図11は,本発明の改良型音声符号化装置に対応する音声復号化装置を示すブロック図である」と記載されているように,元の請求項19と27は本願発明の変形例(図11)に係るものであり,同図から対応関係は明確であると存じます。
元の請求項27について,「固定コードブック利得ベクトル」と,元の請求項19の「非量子化固定コードブック利得」,「量子化固定コードブック利得」との関係が不明であると指摘されましたが,これら3つの用語は別々の意味で使用されています。すなわち,図11を参照すると「固定コードブック利得ベクトル」は量子化固定コードブックベクトル920と量子化固定コードブック利得ベクトル924を乗算器922に入力して得られるものであります。また,図5で乗算器296に入力されるのが「量子化固定コードブック利得(Gc)」です。
なお,平成18年5月15日付け意見書で「scaled」の原文を「増大された」と訂正しましたが,審判官殿がご指摘のように増大と減少の両方を含む概念でありましたので,「スケールされた」と訂正することと致します。」

第4 当審の判断
拒絶理由は,その(15)ないし(17),及び(24)の第1段落において,旧請求項19及び27に記載された発明を特定するために必要な事項が,発明の詳細な説明における何を表しているのか,明りょうでないと指摘している。この点について,旧請求項19及び27に対応する新請求項6に当て嵌めて詳細に論ずれば,以下の通りである。

新請求項6は「音声符号化システム」と記載されていること,サブフレーム処理に関して図5,6は従来の量子利得化方式と同様な「モード0」を説明するものであって図7のみが本願の新方式である「モード1」に説明するものであること,フレーム処理に関して図4が「モード0」,「モード1」を問わずに説明するものであることから,本願発明は,図4及び図7に記載された実施形態に対応するものといえる。そこで,新請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項のぞれぞれと,図4及び図7に記載された実施形態の各機能ブロックとの対応関係について検討する。

まず,新請求項6に記載の「フレーム処理器」は,図4における「モード依存処理250」(段落【0100】には,当該機能ブロックを「モード依存サブフレーム処理部250」と記載しているから,以下,「モード依存サブフレーム処理部250」という。)を除く全体を表しているとともに,新請求項6に記載の「ピッチ利得生成器」は,図4の「ピッチ前処理254」を表しているといえる。
新請求項6に記載の「第1のベクトル量子化器」は,「非量子化ピッチ利得を受信して量子化ピッチ利得を生成する」ためのものと記載されているから,その機能からみて,図7の「n次元開ループVQ580」(段落【0103】には,当該機能ブロックを「n次元前ベクトル量子化器580」と記載しているから,以下,「n次元前ベクトル量子化器580」という。)を表していると推定される。しかし,新請求項6は「第1のベクトル量子器と,を備えているフレーム処理器」と記載していることから,「第1のベクトル量子化器」は「フレーム処理器」に備えられていなければならないが,図7の「n次元前ベクトル量子化器580」は,新請求項6に記載の「フレーム処理器」に含まれない「モード依存サブフレーム処理部250」に備えられている。つまり,上記新請求項6に記載の「第1のベクトル量子化器」が,図7の「n次元前ベクトル量子化器580」を表していると認定することはできない。

ただし,段落【0107】には「ボックス575外部の処理はフレーム毎に行われる。」との記載があることから,図7の「モード依存サブフレーム処理部250」のうち「ボックス575」を「サブフレーム処理器」,「ボックス575」以外を「フレーム処理部」の一部と解釈することも可能である。その場合,図7の「n次元前ベクトル量子化器580」は,新請求項6に記載の「フレーム処理器」に備えられることとなるから,新請求項6の「第1のベクトル量子化器」は,図7の「n次元前ベクトル量子化器580」を表すものといえる。よって,以下,この認定で検討する。

新請求項6に記載の「サブフレーム処理器」は,上述したように,図7の「ボックス575」に相当するものといえるから,当該「サブフレーム処理器」が備えている「閉ループ生成器」は,図7の「固定コードブック292」,「乗算器594」,「適応フィルタ268」,「知覚加重フィルタ612」,「減算器614」,「最小化620」で構成される閉ループ回路を表し,そこで生成される新請求項6に記載の「非量子化固定コードブック利得」は,図7の「固定コードブック利得ベクトル590」を表すものといえる。
新請求項6に記載の「第2のベクトル量子化器」は,「サブフレーム処理器によるサブフレーム処理の後に,非量子化固定コードブック利得を受信して量子化固定コードブック利得を遅延決定閉ループで生成する」ものであるから,図7の「n次元VQ利得コードブック680」(段落【0108】には,当該機能ブロックを「n次元ベクトル量子化利得コードブック680」と記載しているから,以下,「n次元ベクトル量子化利得コードブック680」という。)を表すとともに,新請求項6に記載の「遅延決定閉ループ」は図7の「n次元ベクトル量子化利得コードブック680」,「乗算器684」,「加算器668」,「合成フィルタ690」,「知覚加重フィルタ」,「減算器644」,「最小化678」から構成される閉ループを表すものといえる。
新請求項6に記載の「第1の乗算器」及び「第2の乗算器」は,それぞれ図7における「乗算器592」及び「乗算器594」,又は「乗算器664」及び「乗算器684」のいずれかを表すと考えられるが,前者の場合,新請求項6に記載の「加算器」に対応する機能ブロックが図7に存在しなくなるため,適切ではない。よって,新請求項6に記載の「第1の乗算器」,「第2の乗算器」は,それぞれ図7の「乗算器664」,「乗算器684」を表すとともに,新請求項6に記載の「加算器」は図7の「加算器670」を表すものといえる。
上記のように新請求項6に記載の「第1の乗算器」,「第2の乗算器」が,図7の「乗算器664」,「乗算器684」を表すものとすると,その位置関係から,新請求項6に記載の「適応コードブック励振ベクトル」は図7の「660」(段落【0108】には,当該部分を「適応コードブック利得ベクトル660」と記載しているから,以下,「適応コードブック利得ベクトル660」という。),「固定コードブック励振ベクトル」は図7の「672」(段落【0108】には,当該部分を「固定コードブック利得ベクトル672」と記載しているから,以下,「固定コードブック利得ベクトル672」という。)を表すものと推定される。しかし,これら図7の「適応コードブック利得ベクトル660」,「固定コードブック利得ベクトル672」が何によって生成されているのか,発明の詳細な説明には明確な記載がなされておらず,新請求項6に記載の「第1のコードブック」,「第2のコードブック」が,発明の詳細な説明における何を表しているのか明確に特定することができない。

ただし,図7には「適応コードブック290」,「固定コードブック292」の2つのコードブックが存在するため,「コードブック」と記載された新請求項6に記載の「第1のコードブック」,「第2のコードブック」が,それぞれ図7の「適応コードブック290」,「固定コードブック292」を表すものと推定することも可能である。以下,当該推定が妥当なものであるか,検討する。

図7の「固定コードブック292」は,上記したように新請求項6に記載の「サブフレーム処理器」内の「閉ループ生成器」を構成し,新請求項6に記載の「非量子化固定コードブック利得」を表す「固定コードブック利得ベクトル590」を生成するものであって,新請求項6に記載の「第2のコードブック」のように「固定コードブック励振ベクトル」を生成するためのものでないことは明らかである。また,発明の詳細な説明には,図7の「固定コードブック292」が「非量子化コードブック利得」及び「固定コードブック励振ベクトル」という異なる2つのものを生成する点は何ら記載されておらず,またCELP型音声符号化装置の技術において,利得と励振ベクトルを同じコードブックから生成することは常識的でない。よって,図7の「固定コードブック292」が新請求項6に記載の「閉ループ生成器」を構成するものである以上,当該「固定コードブック292」がさらに「固定コードブック励振ベクトルを生成するための第2のコードブック」を表すものということはできず,また発明の詳細な説明には,他に「第2のコードブック」を表すようなものは存在しないから,本願発明の「第2のコードブック」は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。したがって,新請求項6に記載の「固定コードブック励振ベクトル」が図7の「固定コードブック利得ベクトル590」,新請求項6に記載の「第2のコードブック」が図7の「固定コードブック292」を表すとの上記推定は妥当ではない。
また,図7の「固定コードブック292」が生成する「固定コードブック利得ベクトル590」は,“利得”と記載されているものの,これが“励振”の誤記である可能性も考えられる。つまり,新請求項6に記載の「非量子化固定コードブック利得」ではなく,新請求項6に記載の「固定コードブック励振ベクトル」が図7の「固定コードブック利得ベクトル590」を表すものであって,新請求項6に記載の「第2のコードブック」は図7の「固定コードブック292」を表すものと推定する。その場合,図7の「固定コードブック292」,「乗算器594」,「適応フィルタ268」,「知覚加重フィルタ612」,「減算器614」,「最小化620」で表わされる新請求項6に記載の「閉ループ生成器」は「非量子化固定コードブック利得を生成する」ためのものではなく,「固定コードブック励振ベクトルを生成する」ためのものとなるから,新請求項6に記載の「非量子化固定コードブック利得を生成するための閉ループ生成器」に対応するものが図7には存在しない。そして,発明の詳細な説明には,他に,本願発明の「閉ループ生成器」を表すような記載は存在しないから,本願発明の「閉ループ生成器」は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。よって,新請求項6に記載の「固定コードブック励振ベクトル」が図7の「固定コードブック利得ベクトル590」,新請求項6に記載の「第2のコードブック」が図7の「固定コードブック292」を表すとの上記推定は妥当ではない。

以上のとおりであるから,新請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項が,発明の詳細な説明の何を表しているのか,明りょうでなく,また対応させようにも発明の詳細な説明に対応する記載が存在しないから,本願発明はその一部において発明の詳細な説明に記載されたものではない。したがって,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

なお,審判請求人は,平成21年5月7日付け意見書において,新請求項6記載の「第1のベクトル量子化器」,「第2のベクトル量子化器」は,それぞれ,図7における「n次元前ベクトル量子化器580」,「n次元ベクトル量子化器680」に相当するものと主張している。
さらに,新請求項6記載の「第1のコードブック」,「第1の乗算器」,「第2のコードブック」,「第2の乗算器」,「加算器」は,図7に記載されたものではなく,図11に記載された「適応コードブック290」,「乗算器904」,「適応コードブック292」,「乗算器922」,「加算器930」に相当するものと主張している。
しかしながら,「図11は,本発明の改良型音声符号化装置に対応する音声復号化装置を示すブロック図である。」(段落【0129】)と記載されているように,そもそも,図11は音声“復号化”装置を示すものであって,新請求項6に記載された「音声符号化システム」に対応するものでないことは明らかであり,新請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項と図11の機能ブロックとを対応させるようとうする上記審判請求人の主張は失当といわざるを得ない。
また,審判請求人は,新請求項6に記載された発明を特定するために必要な事項を,図7の「音声符号器」の実施形態と,図11の「音声復号器」の実施形態という異なる実施形態に対応すると主張するものであり,そのような組み合わせによって一の発明をなすことが発明の詳細な説明には何ら記載されておらず,また自明なことでもないことから,採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおり,本願は,少なくとも上記の点において,依然として明細書に記載された特許請求の範囲の請求項6に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものでないから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,同法第49条第1項の規定に該当し,拒絶をすべきものである。
したがって,本願は,他の記載について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,原査定を取り消す,本願は特許をすべきものであるとする審判請求の趣旨は認められないから,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-10-05 
結審通知日 2009-10-06 
審決日 2009-10-19 
出願番号 特願2001-587422(P2001-587422)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 荏原 雄一  
特許庁審判長 板橋 通孝
特許庁審判官 廣川 浩
吉村 博之
発明の名称 CELP型音声符号化装置用の利得量子化  
代理人 白石 吉之  
代理人 田中 秀佳  
代理人 江原 省吾  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  

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