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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1212467
審判番号 不服2007-20350  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-23 
確定日 2010-02-26 
事件の表示 特願2000-320663「電子部品焼成用治具」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 5月 9日出願公開、特開2002-128583〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成12年10月20日の出願であって,平成19年2月13日付けで拒絶理由通知書が起案され,同年4月23日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され,同年6月12日付けで拒絶査定が起案され,同年7月23日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の特許請求の範囲に記載された発明は,平成19年4月23日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて,その明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項に特定されるとおりのものであり,その内請求項3に記載された発明(以下「本願発明3」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項3】 基材,及び該基材上に形成されたジルコニア表面層を含んで成る電子部品焼成用治具において,ジルコニア表面層が,50?80重量%の100?200メッシュの粗粒骨材と,50?20重量%の平均粒径10μm以下の微粒ボンド相を含んで成り,かつジルコニア表面層の表面粗さが中心線平均値で12.5?25.3μmであることを特徴とする電子部品焼成用治具」

3.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は,平成19年2月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由2すなわち,請求項3に係る発明は引用文献2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

4.引用文献2,3の記載事項
4-1.引用文献2:特開平11-240769号公報
(ア)「主にセラミック繊維と粒子とからなり,アルミナ含有量が75重量%以上,シリカ含有量が25重量%未満であって,通気率が5×10^(-3)cm^(2)以上であることを特徴とする電子部品焼成用セッター。」(請求項1)
(イ)「電子部品を載置する表面の表面粗さがRaで30μm以下であることを特徴とする,請求項1に記載の電子部品焼成用セッター。」(請求項2)
(ウ)「電子部品を載置する表面に,通気性を有するアルミナ又はジルコニアの被複層を有することを特徴とする,請求項1又は2に記載の電子部品焼成用セッター。」(請求項3)
(エ)「【発明が解決しようとする課題】上記のごとく,グリーンシートなどの電子部品の焼成には従来からセラミック製のセッターが使用されているが,緻密質であるため,特にグリーンシートの積層が益々多層化している現状では,その脱バインダ処理が非常に困難になってきている。
しかも,上記のごとくグリーンシートはガラス成分を多く含み,脱バインダー温度とガラスの軟化温度が接近しているため,グリーンシート中の有機バインダーをセッター側からも迅速に排出できなければ,焼成後の基板などの製品に亀裂が入ったり,あるいは変色が発生するなどの欠点があった。
また,グリーンシートのガラス成分の中には,K_(2)O,Na_(2)O,SiO_(2)などが多く含まれるので,これらが焼成用のセラミックセッターと反応しやすく,更にグリーンシートの表層に設けたAg又はCuなどの導電ペーストもセッターと非常に反応しやすいという問題があった。」(段落【0005】?【0007】)
(オ)「【発明の実施の形態】本発明のセッターは,・・・従来の緻密質のセッターが殆ど通気性を有しないのに対して,非常に優れた通気性を備えている。特に,低温焼成セラミック多層基板のグリーンシートを迅速に脱バインダー処理するためには,セッターの通気率が5×10^(-3)cm^(2)以上必要である。また,この通気率を達成するには,セッターの気孔率が70%以上であることが望ましい。」(段落【0012】)
(カ)「また,セッターの表面粗さをRa(中心線平均粗さ)で30μm以下とすることが好ましい。低温焼成セラミック多層基板のグリーンシートを焼成するとき,グリーンシートは大きく収縮するので,セッターの表面粗さがRaで30μmを越えると,焼成時のグリーンシート表面とセッター表面の摩擦により,得られる基板表面や導電回路に傷がつく恐れがあるからである。」(段落【0015】)
(キ)「このようにして得られたセッターは,十分な強度及び耐熱性を有し,空気中において1400℃の高温まで使用可能であると共に,表面粗さが制御されていて平滑であり,通気性にも優れている。しかも,このセッターの表面に通気性を有するアルミナ又はジルコニアの薄い被覆層を設けることによって,低温焼成セラミック多層基板のグリーンシートとセッターの反応を防止し,使用中のセッター表面からの粒子の脱落を無くすことができる。」(段落【0020】)

4-2.引用文献3:特開平03-177383号公報
(ア)「ジルコニア質コート層を有する耐火物であって,
前記ジルコニア質コート層は,粗粒からなる92?75wt%の骨材と,微粒からなる8?25wt%の結合微粉とからなり,
前記骨材同志が接触するとともに該接触部の周囲に前記結合微粉が固着し,これらの骨材および結合微粉によって囲まれる空隙が形成されることを特徴とするジルコニア質コート層を有する耐火物。」(請求項1)
(イ)「本発明は,匣鉢,棚板,セッター等の耐火物に関する。」(第1頁左下欄第17行?同頁右下欄第1行)
(ウ)「窯炉内に入れられる従来の匣鉢は,その表面にセラミックコンデンサ,フェライト等の被焼成体を載せて高温に晒されるもので,この被焼成体に接触する匣鉢の表面に例えばジルコニア質コート層が形成されている。」(第1頁右下欄第3?7行)
(エ)「このような従来のジルコニア質コート層は,いずれも空隙率が30%以下と低くジルコニア質コート層6,7,8の割れや剥離が起こりやすく,更にはジルコニア質コート層6,7,8の各表面6a,7a,8aに微粉1が多量に存在するためこの微粉1と被焼成体の接触面で反応が起きやすく被焼成体の表層を変質させやすいという問題がある。
例えば耐火物表面に形成されるジルコニア質コート層の空隙率が低過ぎると,加熱冷却による膨張収縮を吸収しきれず,ひび割れや剥離を生じやすい。また,ジルコニア質コート層の表面に微粉が多量に存在すると,被焼成体との接触面積が増大し被焼成体と反応しやすく被焼成体の品質を劣化させる。」(第1頁右下欄第18行?第2頁左上欄第12行)
(オ)「前記骨材は,200メッシュ?70メッシュの粒度の比較的粗いジルコニア原料を用いるのが望ましい。200メッシュより細かい粒度であると,骨材自体の収縮が現われてひび割れや剥離が生じるためであり,70メッシュより粗いとこの粗い粒子が表面に突出しコート表面の凹凸が大きくなり被焼成体に傷をつけやすくなるからである。骨材の配合割合は92?75wt%の範囲にするのが望ましい。骨材が92wt%を超えると,その分少なくなる結合微粉により骨材を結合させる力が弱くなるからであり,骨材が75wt%未満になると,その分微粒からなる結合微粉の量が多くなって空隙率が低くなりジルコニア質コート層のひび割れが起こりやすく被焼成体との反応も起こりやすくなるからである。
前記結合微粉は,1500メッシュより細かい粒度のジルコニア原料を用いるのが望ましい。1500メッシュよりも粗い結合微粉を用いると,骨材を結合させる力が弱くなり空隙率および空隙の大きさも小さくなるからである。」(第2頁右上欄第13行?同左下欄第12行)
(カ)「試験例1は,アルミナ・ムライト系匣鉢の表面に形成するジルコニア質コート層の骨材と結合微粉との粒度を変化させた原料を用いて試験した。
このジルコニア質耐火物の製造方法については,ジルコニア質からなる骨材80wt%とジルコニア質からなる結合微粉20wt%の総量5kgに・・・調合した。・・・
焼成して得られた匣鉢について,特性を評価するため1400℃の窯炉内に5時間保持し,その後冷却する操作を10回繰り返した。得られた匣鉢のジルコニア質コート層について,それぞれ評価した。その結果は第1表に示すとおりである。」(第2頁右下欄第8行?第3頁左上欄第4行)
(キ)「

」(第3頁第1表)
(ク)「第1表中,骨材の粒度40?100メッシュの間のもので結合微粉の粒度が1500メッシュ以上から8000メッシュ以上のものについて匣鉢の評価は良好であったが,この場合ジルコニア質コート層の表面が粗すぎ被焼成体に傷が発生するので製品としては不良であった。」(第3頁左下欄第5?10行)
(ケ)「試験例2は,アルミナ・ムライト系匣鉢の表面に形成するジルコニア質コート層の骨材と結合微粉の組成を変えて試験した。
骨材の粒度は70?200メッシュのものを用い,結合微粉の粒度は300メッシュ以上のものを用いた。」(第3頁左下欄第16行?同頁右下欄第1行)
(コ)「

」(第4頁第2表)
(サ)「この場合は,第2図(B)に示すように,ジルコニア質コート層10の表面において,第2図(A)に示すコート層全部が結合微粉12の場合に比べ,被焼成体16との接触面積が比較的小さいことから,ジルコニア質と被焼成体との反応が起こりにくく,被焼成体16の損傷,変質等が避けられる。また,空隙13が形成され比較的大きな空隙率を有していることから,加熱冷却つまり焼結による膨張収縮を緩和し,ひび割れや剥離を防止するので,匣鉢のジルコニア質コート層の耐久性が向上されている。」(第4頁右下欄第8?18行)
(シ)第1図には,「本発明実施例」として,「13空隙」を有する「10ジルコニア質コート層」を表す模式図が記載されており,空隙がジルコニア質コート層の内部及び表面に形成されている様子が見てとれる。

5.対比・判断
引用文献3には,記載事項(ア),(イ),(ウ)から,「ジルコニア質コート層を有する耐火物であって,粗粒からなる92?75wt%の骨材と,微粒からなる8?25wt%の結合微粉とからな」る「ジルコニア質コート層」を有する,「その表面にセラミックコンデンサ,フェライト等の被焼成体を載せて高温に晒される」「匣鉢,棚板,セッター等の耐火物」が記載されているといえる。また,記載事項(カ)の,「アルミナ・ムライト系匣鉢の表面に形成するジルコニア質コート層」との記載及び視認事項(シ)からみて,ジルコニア質コート層は耐火物上に形成されるものといえる。そして,記載事項(オ)から,「骨材は,200メッシュ?70メッシュの粒度の比較的粗いジルコニア原料を用いる」ことが記載されているといえる。
また,記載事項(オ)には,「前記結合微粉は,1500メッシュより細かい粒度のジルコニア原料を用いるのが望ましい。」と記載され,記載事項(キ)には,結合微粉の粒度として,「#1500<」の他,「♯3000<」のものを用いたことが記載されていることから,引用文献3には,結合微粉として,1500メッシュよりも更に細かい粒度である3000メッシュ,これより細かい粒度のジルコニア原料を用いることが開示されているといえる。
そこで,「3000メッシュより細かい粒度」について検討する。「メッシュ」とは,工業用のふるい分けに用いられる金網における1インチ(25400μm)あたりの網目の数と定義され,この網目の目開きの大きさがふるいにかけた時に網目を通る粒子の最大径を与えるものである。そして,「目開き(μm)=(25400/メッシュ)-線径」の関係がある(要すれば,日本粉体工業協会編,分級装置技術便覧,第2版,株式会社産業技術センター,昭和53年8月1日,p.67-68を参照。)。ここで,目開きの大きさは,網目を形成する鋼線等の線径に依存して変化するものであるが,3000メッシュの目開きは,上記式において線径=0とした場合の値より必ず小さいから,3000メッシュの目開き(μm)=25400/3000-線径<25400/3000≒8.5(μm)の関係が成り立つ。したがって,「3000メッシュより細かい粒度」は,少なくとも「約8.5μmより小さい粒径を有する粒度」に相当するといえる。そして,「メッシュ」はある粒径分布を有する粉末の粒径の最大値を規定するのに対し,「平均粒径」は粒径の平均値であるから,「約8.5μmより小さい粒径を有する粒度」の平均粒径の値は,約8.5μmよりも明らかに小さくなる。そうすると,引用文献3には,結合微粉として,「平均粒径が約8.5μmより小さい」粒度のものを用いることが記載されているといえる。
したがって,前記記載事項を本願発明3の記載ぶりに則して整理すると,引用文献3には,「耐火物,及び該耐火物上に形成されたジルコニア質コート層を有する,その表面にセラミックコンデンサ,フェライト等の被焼成体を載せて高温に晒される匣鉢,棚板,セッター等の耐火物において,ジルコニア質コート層が,92?75wt%の200メッシュ?70メッシュの粒度の骨材と,8?25wt%の平均粒径が約8.5μmより小さい粒度の結合微粉とからなる,その表面にセラミックコンデンサ,フェライト等の被焼成体を載せて高温に晒される匣鉢,棚板,セッター等の耐火物」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。
そこで,本願発明3と引用発明3とを対比すると,後者の「耐火物」は前者の「基材」に相当し,後者の「ジルコニア質コート層」は前者の「ジルコニア表面層」に相当し,後者の「重量%」は前者の「wt%」に相当するということができる。そして,引用発明3の「その表面にセラミックコンデンサ,フェライト等の被焼成体を載せて高温に晒される匣鉢,棚板,セッター等の耐火物」は,少なくともセラミックコンデンサが電子部品の一種であること,被焼成体を載せて高温に晒される匣鉢,棚板,セッター等の耐火物が焼成用治具に他ならないことから,本願発明3の「電子部品焼成用治具」に相当するといえる。更に,引用発明3の,「ジルコニア質コート層が・・・とからなる」は,本願発明3の,「ジルコニア表面層が・・・を含んで成」ることに概念上含まれることは明らかである。また,本願明細書の段落【0011】に,「このジルコニア表面層は100?200メッシュの粗粒骨材(粗粒子ジルコニア)と,平均粒径10μm以下の微粒ボンド層(微粒子ジルコニア)を含んで成っていることが望ましい。」と記載されていることからみて,引用発明3の「骨材」,「結合微粉」は,それぞれ本願発明3の「粗粒骨材」,「微粒ボンド相」に相当するといえる。そして,引用発明3の骨材(粗粒骨材),結合微粉(微粒ボンド層)の配合割合がそれぞれ「92?75wt%(重量%)」,「8?25wt%(重量%)」であるのに対し,本願発明3ではそれぞれ「50?80重量%」,「50?20重量%」であるから,両者はそれぞれ「75?80重量%」,「25?20重量%」で一致している。更に,引用発明3の骨材(粗粒骨材)の粒度が「200メッシュ?70メッシュ」であるのに対し,本願発明3では「100?200メッシュ」であるから,両者は「100?200メッシュ」で一致している。そして,引用発明3の結合微粉(微粒ボンド相)の粒度が「平均粒径が約8.5μmより小さい」のに対し,本願発明では「平均粒径10μm以下」であるから,両者は「平均粒径が約8.5μmより小さい」ことで一致している。
したがって,本願発明3と引用発明3とは,「基材,及び該基材上に形成されたジルコニア表面層を含んで成る電子部品焼成用治具において,ジルコニア表面層が,75?80重量%の100?200メッシュの粗粒骨材と,25?20重量%の平均粒径が約8.5μmより小さい微粒ボンド相を含んで成る電子部品焼成用治具」である点で一致し,次のの点で相違する。

相違点(A):本願発明3では,「ジルコニア表面層の表面粗さが中心線平均値で12.5?25.3μm」であるのに対し,引用発明3ではジルコニア表面層の表面粗さについて何ら特定がない点

そこで,前記相違点(A)について,以下検討する。

引用発明3においては,記載事項(ア),(エ),(オ),(サ)及び(シ)から,ジルコニア質コート層は骨材と結合微粉により形成された空隙を有し,該空隙はその表面にも存在することが記載されているといえる。また,記載事項(オ)には「70メッシュより粗いとこの粗い粒子が表面に突出しコート表面の凹凸が大きくなり被焼成体に傷をつけやすくなるからである。・・・骨材が75wt%未満になると,その分微粒からなる結合微粉の量が多くなって空隙率が低くなり」と記載され,記載事項(ク)には「この場合ジルコニア質コート層の表面が粗すぎ被焼成体に傷が発生するので製品としては不良であった。」と記載され,記載事項(サ)には「この場合は,第2図(B)に示すように,ジルコニア質コート層10の表面において,第2図(A)に示すコート層全部が結合微粉12の場合に比べ,被焼成体16との接触面積が比較的小さいことから,ジルコニア質と被焼成体との反応が起こりにくく,被焼成体16の損傷,変質等が避けられる。」と記載されていることから,ジルコニア質コート層の表面が粗すぎても,表面に微粉が多すぎて空隙が小さくなり被焼成体との接触面積が大きくなりすぎても好ましくないことが開示されているといえる。すなわち,引用文献3には,ジルコニア質コート層が適度な表面粗さを有するという思想が開示されていると認められる。してみれば,引用発明3において,骨材及び結合微粉それぞれの粒度及び配合割合を調整して,最適な表面粗さの程度を限定することは,当業者であれば困難なくなし得ることである。
一方,表面粗さの指標として中心線平均粗さは代表的なものの一つであるところ,引用文献2には,通気性を有するジルコニア被覆層を有する電子部品焼成用セッターにおいて,電子部品を載置する表面の表面粗さがRa(中心線平均粗さ)で30μm以下とすることが記載されているから(記載事項(ア)?(ウ)及び(カ)),同じく電子部品を焼成するためのセッター等の耐火物に係る引用発明3において上記のように表面粗さの程度を限定する際に,その指標としてRa(中心線平均粗さ)を用いることに格別の困難性はない。
また,本願明細書の段落【0012】には,「ジルコニア表面層の粗さ(凹凸の程度)を中心線平均値(Ra)で表して12.5?24.3μmとする。この中心線平均値はJISB0601-1982に規定されている。」と記載されており,JISB0601-1982において「Ra」は「中心線平均粗さ」とされていることから,引用文献2に記載されている「Ra(中心線平均粗さ)」が,本願発明3における「中心線平均値」に相当する指標であることは明らかである。そして,引用文献2には記載事項(カ)に「セッターの表面粗さがRaで30μmを越えると,・・・得られる基板表面や導電回路に傷がつく恐れがある」と記載されており,これは,引用文献3の記載事項(オ)に記載されている「コート表面の凹凸が大きくなり被焼成体に傷をつけやすくなる」という問題点と共通するものである。そうすると,上述のように引用発明3において最適な表面粗さの程度を限定するにあたり,Raで30μm以下の範囲において適宜調整し,Ra(中心線平均値)で表して12.5?24.3μmと限定することは,当業者であれば困難なくなし得たことである。

次に,本願発明3の効果について検討する。本願明細書には,段落【0024】に「ジルコニア表面層の表面粗さが適度なレベルに維持されているため,電子部品焼成時のバインダーから発生するガスの抜けを良好にしかつジルコニア表面層と電子部品間の反応を抑制して効率良く電子部品の焼成を実施できる。」と記載されていることから,相違点(A)に係る本願発明3による効果は,(a)バインダーから発生するガスの抜けを良好にすること,及び,(b)ジルコニア表面層と電子部品間の反応を抑制することと認められる。しかし,(a)の点については,前記引用文献2の記載事項(エ)に記載されているように,当業者にとって周知の課題であるところ,表面及び内部に多量の空隙を有する引用発明3においても耐火物表面が平滑なものと比較してガスの抜けがよいことは当業者にとって自明である。そして,(b)の点については引用文献3の記載事項(オ)に記載されているように,引用発明3においても奏し得る効果であるから,これらの効果は,引用文献3から当業者が予測し得る効果である。
また,本願明細書の段落【0013】には,「中心線平均値が25.3μmを超えるとジルコニア表面層のぼろつきが生じ易くなり十分な強度を有するジルコニア表面層が得難くなる。」と記載されていること,そして,平成19年4月23日付け意見書によれば,本願発明3の相違点(A)に係る数値限定の根拠は実施例1?5のRaの値であり,実施例及び比較例においては,電子部品焼成用治具を急熱・急冷を繰り返した際のぼろつきと表面亀裂の有無を評価していることから,ぼろつきがなく,かつ亀裂が発生しないことも前記相違点による効果であると認められる。しかし,引用文献3の記載事項(オ)?(サ)に記載されているように,引用発明3においても,骨材と結合微粉の粒度及び配合割合を調整して最適な空隙を形成する(表面が最適な粗さを有するものを形成する)ことで,ぼろつきがなく,かつ亀裂が発生しないものが得られるものであり,当該効果は当業者が予測し得ない格別な効果とは認められない。
そして,前記相違点の数値範囲についても,本願明細書には上限値及び下限値近傍の詳細な比較データは示されておらず,当業者が引用文献3の記載から予測し得ない格別の臨界的意義があるものとは認められない。
そうすると,本願発明3が引用発明3に対して格別の効果を有するとすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから,本願の請求項3に係る発明は,本願の出願日前に頒布された引用文献2,3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものである。
したがって,その余の請求項について論及するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-14 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-06 
出願番号 特願2000-320663(P2000-320663)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 亀代 陽子三崎 仁  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 深草 祐一
木村 孔一
発明の名称 電子部品焼成用治具  
代理人 森 浩之  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 竹沢 荘一  

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