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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D05B
管理番号 1212472
審判番号 不服2008-512  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-01-09 
確定日 2010-02-26 
事件の表示 特願2002-138417「多頭式ミシンの駆動装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月18日出願公開、特開2003-326065〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成14年5月14日の出願であって,平成19年12月4日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成20年1月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同年2月7日付けで明細書を対象とする手続補正がなされたものである。

第2.平成20年2月7日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成20年2月7日付けの手続補正(以下,「本件補正」という)を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の概要
本件補正は,平成19年11月9日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された
「【請求項1】ミシンフレームの上部に横方向に架設された断面四角形の筒状ブリッジの前面側に複数の縫製ヘッドを支持し,各縫製ヘッドの針棒及び天秤を駆動する上軸を各縫製ヘッドを貫いて軸支した多頭式ミシンにおいて,前記筒状ブリッジの内部の底部に駆動モータを設け,前記筒状ブリッジの前面に形成した通し穴又は通し切欠を通るように配した伝動部材を介して駆動モータの回転を前記上軸に伝達する回転伝達機構を設けたことを特徴とする多頭式ミシン。
【請求項2】前記駆動モータ,回転伝達機構及び通し穴又は通し切欠を前記筒状ブリッジの長手方向端部に設け,前記駆動モータの回転を前記上軸の端部に伝達するようにした請求項1記載の多頭式ミシン。
【請求項3】前記駆動モータ,回転伝達機構及び通し穴を前記筒状ブリッジの長手方向中央部に設け,前記駆動モータの回転を前記上軸の中央部に伝達するようにした請求項1記載の多頭式ミシン。
【請求項4】ミシンフレームの上部に横方向に架設された断面四角形の筒状ブリッジの前面側に複数の縫製ヘッドを支持し,各縫製ヘッドの針棒及び天秤を駆動する上軸を各縫製ヘッドを貫いて軸支した多頭式ミシンにおいて,前記筒状ブリッジの内部の底部に駆動モータを設け,前記筒状ブリッジの端面開口の直ぐ外部に配した伝動部材を介して駆動モータの回転を前記上軸の端部に伝達する回転伝達機構を設けたことを特徴とする多頭式ミシン」
を,以下のとおりに補正するものである。

「【請求項1】ミシンフレームの上部に横方向に架設された断面四角形の筒状ブリッジの前面側に複数の縫製ヘッドを支持し,各縫製ヘッドの針棒及び天秤を駆動する上軸を各縫製ヘッドを貫いて軸支した多頭式ミシンにおいて,前記筒状ブリッジの内部の底部に駆動モータを前記上軸との距離が微調整可能に設け,前記筒状ブリッジの前面に形成した通し穴又は通し切欠を通るように配した伝動部材を介して駆動モータの回転を前記上軸に伝達する回転伝達機構を設けたことを特徴とする多頭式ミシン。
【請求項2】前記駆動モータ,回転伝達機構及び通し穴又は通し切欠を前記筒状ブリッジの長手方向端部に設け,前記駆動モータの回転を前記上軸の端部に伝達するようにした請求項1記載の多頭式ミシン。
【請求項3】前記駆動モータ,回転伝達機構及び通し穴を前記筒状ブリッジの長手方向中央部に設け,前記駆動モータの回転を前記上軸の中央部に伝達するようにした請求項1記載の多頭式ミシン。
【請求項4】ミシンフレームの上部に横方向に架設された断面四角形の筒状ブリッジの前面側に複数の縫製ヘッドを支持し,各縫製ヘッドの針棒及び天秤を駆動する上軸を各縫製ヘッドを貫いて軸支した多頭式ミシンにおいて,前記筒状ブリッジの内部の底部に駆動モータを前記上軸との距離が微調整可能に設け,前記筒状ブリッジの端面開口の直ぐ外部に配した伝動部材を介して駆動モータの回転を前記上軸の端部に伝達する回転伝達機構を設けたことを特徴とする多頭式ミシン。」

請求項1及び請求項4の補正は,筒状ブリッジの内部の底部に駆動モータを設けるにあたって,「上軸との距離が微調整可能に」するとの限定を付したものであり,請求項2及び請求項3は,記載自体に変更はないが,これらは請求項1を引用するものであるから,実質的に上記と同じ内容の補正がなされたといえる。そして,本件補正は,産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものではない。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-243286号公報(以下,「引用例1」という)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(1-a)「【0009】
【実施例】次に本発明に係る多頭ミシンにつき,好適な実施例を挙げて,添付図面を参照しながら以下説明する。先ず図1?図6は,本発明の好適な第1実施例を示すものであって,ミシンテーブル1の上方に水平に配置した上フレーム2の前面に,8基のミシンヘッド3が等間隔で列設されている(図1)。」
(1-b)「【0010】
夫々のミシンヘッド3は,図6に示すように,上フレーム2の前面に固定したミシンアーム7と,その前面に横方向へのスライド自在に支持した針棒ケース8とから構成される。各ミシンアーム7の内部には,針棒駆動機構10や天秤駆動機構11が組付けられ,また各針棒ケース8には複数本(本実施例では6本)の針棒12と,各針棒12に対応する天秤13が支持されている。」
(1-c)「【0011】
図1?図3に示す如く,多頭ミシンの中央部より左側に位置する4基のミシンアーム7群および右側に位置する4基のミシンアーム7群には,夫々対応的に上軸20a,20bが貫通され,各ミシンアーム7の側壁に設けた軸受け(図示外)により回転自在に支持されている。・・・上フレーム2の後側には,上軸20a,20bに対応して,これらよりも大径をなす駆動軸21a,21bが平行に配置されている。・・・両駆動軸21a,21bの間には,上フレーム2の後面において両軸タイプの駆動モータ27が固定され,そのモータ軸27aの左側に駆動軸21aの右端が,また該モータ軸27bの右側に駆動軸21bの左端が,夫々連結部材28を介して連結されている。」
(1-d)「【0012】
前記2つの上軸20a,20bの各中央部にタイミングプーリ30が嵌着されると共に,前記2つの駆動軸21a,21bには,前記タイミングプーリ30と対応的にタイミングプーリ31,31が夫々嵌着されている。これらタイミングプーリ30,31の間には,タイミングベルト32が上フレーム2の前面および後面に穿設した窓孔2a(図5)を通して掛け渡されている。」
(1-e)「【0014】
【実施例の作用】次に,このように構成した実施例の作用につき説明する。先ず駆動モータ27を駆動し,駆動軸21a,21bを一方向へ回転駆動させると,タイミングベルト32を介して両上軸20a,20bが回転し,これにより針棒駆動機構10,天秤駆動機構11を介して針棒12および天秤13が上下に往復駆動される。」
(1-f)図4?6を参照すると,上フレーム2は断面が四角形に構成されたものであることが見て取れる。

記載事項(1-a)?(1-f)及び図面の記載によれば,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「ミシンテーブル1の上方に水平に配置した断面四角形の上フレーム2の前面に,多数のミシンヘッド3が等間隔で配置される多頭ミシンであって,ミシンヘッド3は,上フレーム2の前面に固定されたミシンアーム7及びその前面に支持された針棒ケース8から構成され,各針棒ケース8には針棒12と天秤13が支持され,左右のミシンアーム群にそれぞれ上軸20a,20bが貫通されてミシンアーム7の側壁に設けた軸受けにより回転自在に支持され,上フレーム2の後側には2つの駆動軸21a,21bが平行に配置され,両駆動軸21a,21bの間には上フレーム2の後面において両軸タイプの駆動モータ27が固定され,各上軸20a,20bの中央部に嵌着されたタイミングプーリ30と各駆動軸21a,21bに嵌着されたタイミングプーリ31との間にはタイミングベルト32が上フレーム2の前面および後面に穿設した窓孔2aを通して掛け渡され,駆動モータ27を駆動して駆動軸21a,21bを回転駆動させると,タイミングベルト32を介して両上軸20a,20bが回転し,これにより針棒12および天秤13が上下に往復駆動されるようにした多頭ミシン。」

(2)同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-47590号公報(以下,「引用例2」という)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(2-a)「【0013】
実施例1の多頭縫製装置1は、所定間隔離して設けた一対の立フレーム1aの間に、水平な上フレーム1bと下フレーム1cを渡設している。上フレーム1b前面には平行な一対のレール5を設け、このレール5に各ミシン頭部6を支持ベース7を介しレール5に沿って移動自在に取付けている。また、下フレーム1c上面にもレール18を設け、これに各ミシン釜部19を備えたミシンベッド20を移動自在に取付けている。さらに、これら上下両フレーム1b,1cに沿ってスプライン軸からなるミシン頭部駆動軸2およびミシン釜部駆動軸3を設け、立フレーム1a内の駆動用モータ4で同期回転させる仕組みとしている。」

3.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「ミシンテーブル1」,「上フレーム2」,「ミシンヘッド3」,「針棒12」,「天秤13」,「上軸20a,20b」,「駆動モータ27」,「上フレーム2の前面に穿設した窓孔2a」,「タイミングベルト32」及び「タイミングプーリ30,タイミングプーリ31及びタイミングベルト32」は,それぞれ本願補正発明の「ミシンフレーム」,「筒状ブリッジ」,「縫製ヘッド」,「針棒」,「天秤」,「上軸」,「駆動モータ」,「通し穴」,「伝動部材」及び「回転伝達機構」に相当する。
したがって,本願補正発明と引用発明は,本願補正発明の表記にしたがえば,
「ミシンフレームの上部に横方向に架設された断面四角形の筒状ブリッジの前面側に複数の縫製ヘッドを支持し,各縫製ヘッドの針棒及び天秤を駆動する上軸を各縫製ヘッドを貫いて軸支した多頭式ミシンにおいて,前記筒状ブリッジの前面に形成した通し穴又は通し切欠を通るように配した伝動部材を介して駆動モータの回転を前記上軸に伝達する回転伝達機構を設けたことを特徴とする多頭式ミシン。」の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明では,駆動モータが筒状ブリッジの内部の底部に設けられるのに対し,引用発明では,駆動モータ27が上フレーム2の後面に設けられる点。
[相違点2]
本願補正発明では,駆動モータと上軸との距離が微調整可能であるのに対し,引用発明では,駆動モータ27と上軸20a,20bとの距離は微調整可能でない点。

相違点1について検討する。引用例2には,多頭縫製装置において,ミシン頭部駆動軸2を駆動するモータ4を立フレーム1aの内部に設けることが記載されており(記載事項(2-a)参照),多頭式ミシンにおいて駆動モータをフレームの内部に設けるという技術思想が開示されている。引用発明において,駆動モータ27の設置箇所を,上フレーム2の後面から上フレーム2の内部に変更することは,この技術思想に基づいて,当業者が容易に想到し得たことであり,駆動モータ27を上フレーム2の内部に設置するに際して,駆動モータ27を上フレーム2の底部側で支持することは,当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎない。したがって,相違点1は,引用例2を参酌することにより,当業者が容易に想到し得たことである。
相違点2について検討する。ミシンの技術分野において,伝動部材(ベルト)の張力を調整するために駆動モータの位置を微調整可能に設けることは,特開平4-187177号公報,特開平6-126071号公報,特開2000-102689号公報に示されるように,従来からよく知られた技術であり(特開2000-102689号公報においては第24図を参照),引用発明において,タイミングベルト32の張力を調整するため,駆動モータ27と上軸20a,20bの軸線との距離を微調整可能とすること,すなわち相違点2は,上記周知技術を参酌することにより,当業者が容易に想到し得たことである。

したがって,本願補正発明は,引用例1,引用例2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は,平成19年11月9日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(「第2」の「1.本件補正の概要」参照)

第4.引用刊行物
引用刊行物及びその記載事項は,前記「第2」の「2.引用刊行物」に記載したとおりである。

第5.対比・判断
本願発明は,本願補正発明から,前記「第2」の「1.本件補正の概要」に記載した限定を外したものである。
してみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2」の「3.対比・判断」に記載したとおり,引用例1,引用例2及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1,引用例2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
したがって,原査定は妥当であり,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-09 
結審通知日 2009-12-15 
審決日 2010-01-04 
出願番号 特願2002-138417(P2002-138417)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (D05B)
P 1 8・ 121- Z (D05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西藤 直人  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 熊倉 強
谷治 和文
発明の名称 多頭式ミシンの駆動装置  
代理人 松原 等  

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