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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 D05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D05B
管理番号 1212477
審判番号 不服2008-30067  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-11-26 
確定日 2010-02-26 
事件の表示 平成11年特許願第158386号「多頭式ミシンのミシンフレーム」拒絶査定不服審判事件〔平成12年12月12日出願公開、特開2000-342876〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成11年6月4日の出願であって,平成20年10月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,明細書を対象とする手続補正がなされたものである。

第2.平成20年11月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成20年11月26日付けの手続補正(以下,「本件補正」という)を却下する。

〔理由〕
1.本件補正の概要
本件補正は,平成20年9月26日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された
「【請求項1】左右に間隔をおいて配された一対の床面(23)に立つ支柱(2)と,該両支柱の高部に架け渡された状態で固定された,ミシンヘッド(8)を取り付けるための上フレーム(3)と,前面が平面から見て前記上フレームの前面より相対的に後側になるように前記両支柱の中高部に架け渡された状態で固定された,ベッド(9)を取り付けるための第一下フレーム(4)と,前面が平面から見て前記第一下フレームの前面より相対的に前側になるように前記両支柱の低部に架け渡された状態で固定された,ミシンフレーム(1)の剛性を高めるための第二下フレーム(5)とを備えた多頭式ミシンのミシンフレーム。
【請求項2】前記支柱(2)は,支柱本体(2a)と,その後側に溶接固定された補助支柱(2b)とよりなり,前記上フレーム(3)は,その両端部が各支柱の上端に架け渡された状態で該上端に溶接固定され,前記第一下フレーム(4)は,その両端部が各支柱の補助支柱の中高部に架け渡された状態で該中高部に溶接固定され,前記第二下フレーム(5)は,その両端部が各支柱の支柱本体の低部に架け渡された状態で該低部に溶接固定された請求項1記載の多頭ミシンのミシンフレーム。
【請求項3】前記支柱(2)は,前記床面に配設された前後方向に延びる基台(6)の上面にそれぞれ設けられ,各基台の底面の前後端部及び中間部には,前記床面からの該基台の高さを調節する高さ調節機構を備えた床面接地部(11)が設けられ,前記高さ調節機構によりミシンフレーム(1)の水平を出すように調節する請求項1又は2記載の多頭ミシンのミシンフレーム。
【請求項4】前記第二下フレーム(5)の長さ方向の途中部は,前記床面に配設された前後方向に延びる途中基台(13)の上面に設けられ,前記上フレーム(3)の長さ方向の途中部には,該途中部の後面と,前記途中基台の上面とを連結する連結支柱(12)が設けられた請求項1,2又は3記載の多頭ミシンのミシンフレーム」
を,以下のとおりに補正するものである。

「【請求項1】左右に間隔をおいて配され,各支柱が,支柱本体(2a)とその後側に溶接固定された補助支柱(2b)とよりなり,前後方向に延びる基台(6)を介して床面(23)に立つ一対の支柱(2)と,両端部が各支柱本体の上端に架け渡された状態で各支柱の上端に溶接固定された,ミシンヘッド(8)を取り付けるための上フレーム(3)と,前面が平面から見て前記上フレームの前面より相対的に後側になるように,両端部が各補助支柱の中高部に架け渡された状態で該中高部に溶接固定された,ベッド(9)を取り付けるための第一下フレーム(4)と,前面が平面から見て前記第一下フレームの前面より相対的に前側になるように,両端部が各支柱本体の低部に架け渡された状態で該低部に溶接固定された,ミシンフレーム(1)の剛性を高めるための第二下フレーム(5)とを備えた多頭ミシンのミシンフレーム。
【請求項2】各基台(6)の底面の前後端部及び中間部には,前記床面からの該基台の高さを調節する高さ調節機構を備えた床面接地部(11)が設けられ,前記高さ調節機構によりミシンフレーム(1)の水平を出すように調節する請求項1記載の多頭ミシンのミシンフレーム。
【請求項3】前記第二下フレーム(5)の長さ方向の途中部は,前記床面に配設された前後方向に延びる途中基台(13)の上面に設けられ,前記上フレーム(3)の長さ方向の途中部には,該途中部の後面と,前記途中基台の上面とを連結する連結支柱(12)が設けられた請求項1又は2記載の多頭ミシンのミシンフレーム。」

補正後の請求項1に係る発明は,補正前の請求項2に係る発明について,各支柱が「前後方向に延びる基台(6)を介して床面(23)に立つ」ことを特定したものであるということができ,補正後の請求項2に係る発明は,補正前の請求項3に係る発明のうち,請求項2を引用するものに限定したものであるということができ,補正後の請求項3に係る発明は,補正前の請求項4に係る発明のうち,請求項2を引用するものについて,各支柱が「前後方向に延びる基台(6)を介して床面(23)に立つ」ことを特定したもの,または,補正前の請求項4に係る発明のうち,請求項3を引用するものに限定したものであるということができる。
以上の解釈によれば,請求項1?3の補正は,補正前の請求項2?4に記載された発明を特定する事項をそれぞれ限定するものであり,産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更するものでもない。なお,補正前の請求項1は削除されたと解される。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について検討する。

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-94367号公報(以下,「引用例」という)には,図面とともに,次の事項が記載されている。
(a)「【0004】
本発明の目的は,構造を簡単にし,かつ重量を増やすことなくミシンフレームの振動を効果的に抑制することである。」
(b)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は,ミシンフレームであって,横方向に間隔をもって立てられた一対の支柱に対し,ミシンヘッドを取付けるための高い剛性の上フレームと,この上フレームの下方において釜土台を取付けるための高い剛性の下フレームとがそれぞれ架け渡された状態で固定されていることを特徴とする。このように振動の発生源であるミシンヘッドと釜土台とが取付けられるそれぞれのフレームについてのみ,その剛性を高くすることで,ミシンフレーム全体の剛性を高める場合と異なり,ミシンフレームの構造が簡単になるとともに重量も増やすことなく振動を抑制できる。」
(c)「【0006】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態を説明する。・・・これらの図面で示すようにミシンフレームにおける左右の基台10は横方向(左右方向)に間隔をもって配置され,これらの基台10の上面にはそれぞれ支柱12が立てられている。両支柱12に対し,それぞれ角パイプ状をした高い剛性の上フレーム14及び下フレーム16が架け渡されている。上フレーム14についてはその両端部が両支柱12の上端面にそれぞれ固定され,下フレーム16についてはその両端部が両支柱12のほぼ中間部にそれぞれ固定されている。」
(d)「【0007】
前記の両支柱12の前面側には,これらの支柱12と両基台10との結合をより強固にするための補強リブ18がそれぞれ固定されている。また両支柱12の背面側には補助支柱20がそれぞれ設けられており,これらの補助支柱20によって基台10と支柱12及び支柱12と上フレーム14との結合をより強固にしている。なおミシンフレームを構成する前記の各部材間の固定部分は,溶接などによって一体化されている。前記下フレーム16の前面には土台22が固定されているとともに,上フレーム14と下フレーム16との間にはテーブル26が配置されている。さらに両補助支柱20の背面にはステー24の両端部が固定されている。テーブル26の上面には布などの被縫製物をセットするための保持枠28が載せられ,前記ステー24にはテーブル26を支えるスタット(図示外)や保持枠28を駆動するための部材(図示外)などが取付けられる。」
(e)「【0008】
図1で示されているように前記上フレーム14の前面には,その左右方向に沿って複数個(6個)のミシンヘッド30が設けられているとともに,この上フレーム14の上面には糸立て装置40が設けられている。また前記土台22の上面には各ミシンヘッド30と対応する位置において釜土台32がそれぞれ配置されている。前記の各ミシンヘッド30は個々に複数本(例えば6本)の縫い針(図示外)を備えた多針タイプであって,それぞれにおいて選択された1本の縫い針が上下に往復駆動されるようになっている。一方,各釜土台32には縫い針の上下駆動に同期して回転駆動される釜32a(図5を参照)が内蔵されている。このように上下に駆動される縫い針と回転駆動される釜32aとの協同作用,ならびに前記保持枠28の枠駆動により,周知のように前記被縫製物に縫いステッチが形成される。」
(f)図2を参照すると,ステー24は補助支柱20の高さ方向のほぼ中間部に設けられていることが看て取れ,また,下フレーム16は全体としてステー24よりもやや下方に位置していることが看て取れる。
(g)図2及び図3を参照すると,基台10は前後方向に延びていることが看て取れ,また,平面視において(平面から見て),ステー24の前面は上フレーム14の前面より相対的に後側になるように配置されており,かつ,下フレーム16の前面はステー24の前面より相対的に前側になるように配置されていることが看て取れる。

上記記載事項(d)中の「ミシンフレームを構成する前記の各部材間の固定部分は,溶接などによって一体化されている」との記載から,支柱12と補助支柱20,上フレーム14と支柱12,下フレーム16と支柱12は,いずれも相互に溶接などによって一体化されていると解される。

以上を総合すると,引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という)が記載されているといえる。
「前後方向に延びる左右の基台10の上面に立てられた両支柱12に対して,剛性の高い上フレーム14及び下フレーム16が架け渡され,両支柱12の背面側に補助支柱20が溶接によって固定されるミシンフレームであって,上フレーム14は,その両端部が両支柱12の上端面にそれぞれ溶接によって固定されるととともに,その前面には左右方向に沿って複数のミシンヘッド30が設けられるものであり,下フレーム16は,その両端部が両支柱12のほぼ中間部にそれぞれ溶接によって固定されるとともに,その前面には釜土台32を設置するための土台22が固定されるものであり,さらに,各補助支柱20の高さ方向ほぼ中間部の背面にはステー24の両端部が固定され,上フレーム14と下フレーム16との間に配置されるテーブル26がステー24によって支持され,テーブル26の上面に被縫製物をセットするための保持枠28が載置され,ステー24の前面は平面から見て上フレーム14の前面より相対的に後側になるように配置され,下フレーム16の前面は平面から見てステー24の前面より相対的に前側になるように配置され,下フレーム16は全体としてステー24よりもやや下方に位置するミシンフレーム。」

3.対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「支柱12」,「補助支柱20」,「基台10」,「ミシンヘッド30」,「上フレーム14」,「ステー24」,「テーブル26」及び「下フレーム16」は,それぞれ本願補正発明の「支柱本体(2a)」,「補助支柱(2b)」,「基台(6)」,「ミシンヘッド(8)」,「上フレーム(3)」,「第一下フレーム(4)」,「ベッド(9)」及び「第二下フレーム(5)」に相当し,引用発明の「ミシンフレーム」は,複数のミシンヘッド30が設けられるものであるから,「多頭ミシンのミシンフレーム」に該当する。
本願補正発明は,第一下フレームの両端部が各補助支柱の中高部に固定されるものであるが,この「中高部」とは,本願の実施例を示す図3を参照するに,高さ方向のほぼ中間部を意味すると解するのが相当である。
また,引用発明の「上フレーム14」は,剛性の高いものであって,ミシンフレームの剛性を高めることに寄与することは明らかである。
したがって,本願補正発明と引用発明は,本願補正発明の表記にしたがえば,
「左右に間隔をおいて配され,各支柱が,支柱本体とその後側に溶接固定された補助支柱とよりなり,前後方向に延びる基台を介して床面に立つ一対の支柱と,両端部が各支柱本体の上端に架け渡された状態で各支柱の上端に溶接固定された,ミシンヘッドを取り付けるための上フレームと,前面が平面から見て前記上フレームの前面より相対的に後側になるように,両端部が各補助支柱の中高部に架け渡された状態で該中高部に固定された,ベッドを取り付けるための第一下フレームと,前面が平面から見て前記第一下フレームの前面より相対的に前側になるように,両端部が各支柱本体に架け渡された状態で溶接固定された,ミシンフレームの剛性を高めるための第二下フレームとを備えた多頭ミシンのミシンフレーム。」
の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明は,第一下フレームの両端部が各補助支柱に溶接により固定されるのに対し,引用発明は,ステー24の両端部が各補助支柱20に固定されるが,溶接により固定されるか否かは明らかでない点。
[相違点2]
本願補正発明は,第二下フレームが支柱本体の低部に固定されるのに対して,引用発明は,下フレーム16が支柱12のほぼ中間部に固定される点。

なお,本願の実施例において,第二下フレーム5には昇降テーブル14が支持されていること(段落【0017】参照)を参酌するに,本願補正発明の「第二下フレーム」は,ミシンの剛性を高めるためだけに設けられるものとはいえないから,引用発明の「下フレーム16」が釜土台32を支持する機能をもつことは,本願補正発明と引用発明との相違点とはいえない。

相違点1について検討する。引用発明は,支柱12と補助支柱20,上フレーム14と支柱12,下フレーム16と支柱12が,いずれも相互に溶接によって固定されるものであり,ステー24と補助支柱20との固定についても溶接を用いることは,当業者が容易になし得たことである。
相違点2について検討する。引用発明において,ミシンフレーム全体の重心を低くして安定性を高くする必要があれば,下フレーム16の支柱に対する固定位置を低くしたり,あるいは,支柱12及び補助支柱20の下フレーム16よりも下方に位置する部分の高さを低くすればよいことは,当業者が容易に想到し得ることである。支柱12及び補助支柱20の下フレーム16よりも下方に位置する部分の高さを低くした場合は,下フレーム16が支柱12の低部に固定されることになる(この場合でも,全体として下フレーム16よりもやや上方に位置するステー24は,補助支柱20の高さ方向ほぼ中間部に位置させることができる)。したがって,相違点2は,当業者が必要に応じてなし得た設計事項に過ぎない。なお,振動源である作業装置を支持する機械構造物の重心を低くして安定性を高めることは,周知の課題である(建設機械における例として特開平4-7299号公報,工作機械における例として特開平9-11012号公報参照)。

以上のことから,本願補正発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という)は,平成20年9月26日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(「第2」の「1.本件補正の概要」参照)

第4.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物及びその記載事項は,前記「第2」の「2.引用刊行物」に記載したとおりである。

第5.対比・判断
本願発明は,本願補正発明から,各支柱が,支柱本体(2a)とその後側に溶接固定された補助支柱(2b)とよりなり,前後方向に延びる基台(6)を介して床面(23)に立つ点,上フレーム(3)の両端部が各支柱本体の上端に溶接される点,第一下フレーム(4)の両端部が各補助支柱に溶接される点及び第二下フレーム(5)の両端部が各支柱本体に溶接される点の限定が外されたものである。
してみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「第2」の「3.対比・判断」に記載したとおり,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
したがって,原査定は妥当であり,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-14 
結審通知日 2009-12-22 
審決日 2010-01-06 
出願番号 特願平11-158386
審決分類 P 1 8・ 575- Z (D05B)
P 1 8・ 121- Z (D05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西藤 直人  
特許庁審判長 千馬 隆之
特許庁審判官 谷治 和文
熊倉 強
発明の名称 多頭式ミシンのミシンフレーム  
代理人 松原 等  

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