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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1212496 |
審判番号 | 不服2007-10780 |
総通号数 | 124 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-04-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-04-13 |
確定日 | 2010-02-18 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第505250号「予備重合され担持されたメタロセン触媒系の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月23日国際公開、WO97/02297、平成11年 8月 3日国内公表、特表平11-508932〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成8年6月28日(優先権主張 1995年7月6日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成15年5月26日に誤訳訂正書が提出され、平成17年8月24日付けで拒絶理由が通知され、平成18年2月28日に意見書と手続補正書が提出されたが、再度同年5月11日付けで拒絶理由が通知され、同年8月22日に意見書が提出されたが、同年12月22日付けで拒絶査定がされた。これに対し、平成19年4月13日に拒絶査定に対する審判が請求され、同日に手続補正書が提出されたが、同年6月6日付けで前置報告がなされ、平成20年9月1日付けで審尋がなされ、同年11月11日に回答書が提出されたものである。 第2.補正却下の決定 [結論] 平成19年4月13日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成19年4月13日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成18年2月28日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1について 「1.予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用触媒系の形成方法であって、当該方法が、下記工程(a)?(f)を含む方法: (a)メタロセンとアルキルアルモキサンとの反応生成物を形成する; (b)担体1g当たり0.1?20ミリモルのアルミニウムを生成する量の当該反応生成物を、多孔質担体と接触させる; (c)得られた担持触媒系を、全溶媒の少なくとも90%以上が多孔質担体の細孔から取り去られるように乾燥する; (d)工程(c)の乾燥された担持触媒系、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させる; (e)気体モノマーの存在下に、担持触媒系を予備重合する;及び、 (f)予備重合され担持された触媒系を回収する。」 を 「【請求項1】 予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用自由流動触媒系の形成方法であって、当該方法が、下記工程(a)?(f)を含む方法: (a)メタロセンとアルキルアルモキサンとの反応生成物を形成する; (b)担体1g当たり0.1?20ミリモルのアルミニウムを生成する量の当該反応生成物を、多孔質担体と接触させる; (c)得られた担持触媒系を、全溶媒の少なくとも90%以上が多孔質担体の細孔から取り去られるように乾燥する; (d)工程(c)の乾燥された担持触媒系、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させる; (e)気体モノマーの存在下に、担持触媒系を予備重合する;及び、 (f)予備重合され担持された自由流動触媒系を回収する。」 と補正するものである。 2.補正の目的について 本件手続補正は、以下の補正事項を含むものである。 1)「予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用触媒系」を「予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用自由流動触媒系」に変更する補正事項 2)「予備重合され担持された触媒系」を「予備重合され担持された自由流動触媒系」に変更する補正事項 補正事項1)および2)は、願書に最初に添付した明細書の実施例4、7などの記載に基づいて、予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用触媒系が、自由流動するものであることを限定するものである。 したがって、補正事項1)および2)は、いずれも、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、平成18年法律第55号附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされた同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 3.独立特許要件について 本件手続補正は、上記2.のとおり、特許法第17条の2第4項第2号に適合するものであるから、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する補正か否かについて、以下に検討する。 3-1.補正発明の認定 本件補正後の明細書(以下、「補正明細書」という。)の記載からみて、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用自由流動触媒系の形成方法であって、当該方法が、下記工程(a)?(f)を含む方法: (a)メタロセンとアルキルアルモキサンとの反応生成物を形成する; (b)担体1g当たり0.1?20ミリモルのアルミニウムを生成する量の当該反応生成物を、多孔質担体と接触させる; (c)得られた担持触媒系を、全溶媒の少なくとも90%以上が多孔質担体の細孔から取り去られるように乾燥する; (d)工程(c)の乾燥された担持触媒系、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させる; (e)気体モノマーの存在下に、担持触媒系を予備重合する;及び、 (f)予備重合され担持された自由流動触媒系を回収する。」 3-2.補正明細書の発明の詳細な説明の記載 補正明細書の発明の詳細な説明には、補正発明1に関して、以下の事項が記載されている。 [摘示ア] 「本発明は、具体的には、気相予備重合法であって、予備重合の際、担持触媒系が所定量の液体を含有する方法に関する。好ましくは、液体のこの量は、担持触媒系の総細孔容積以下である。得られた触媒系がオレフィン類の重合に使用される時、汚損が低減又は除去され、ポリマー形態が改良される。」(補正明細書1頁5?8行) [摘示イ] 「担体物質は、有機又は無機であることが出来、あるいはそれらの混合物であることが出来る。好ましいキャリヤーは、金属酸化物類(特に、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、及びそれらの混合物)等の多孔質無機酸化物類である。例えば、マグネシア、チタニア、ジルコニア、及び細かく分割されたポリオレフィン類も、使用され得る。」(補正明細書2頁19?23行) [摘示ウ] 「その細孔内に炭化水素液体を含有する担持メタロセン触媒系は、その後、予備重合される。メタロセン/アルモキサン反応生成物溶液又は炭化水素液体の選択においては、一旦予備重合が始まると、当該溶液又は液体が濃縮される可能性があることを考慮することが重要であるかもしれない。ポリマーが形成されるに従って、濃縮が生じるかもしれず、それは、液体を細孔から引き出し、担持触媒系を取り囲んでいる大気中に押し込む。様々な因子により、液体は、触媒系を取り囲んでいる表面上で、及び、触媒系それ自体の上で濃縮するかもしれず、それは、触媒系の凝集を引き起こし得る。当業者は、予備重合反応の温度及び圧力条件のために適切な蒸気圧を有する液体を選択すること、触媒系が入っている容器を加熱すること、予備重合の間、触媒系を徹底的に混合すること、モノマー供給材料を稀釈することにより、予備重合速度を低下させること、モノマーが再循環されるプロセスを使用すること、連行する液体、蒸気等を濃縮すること等の多くの様々な方法で、上記手順を調整することにより、この問題が回避され得ることを認識するであろう。」(補正明細書15頁末行?16頁13行) [摘示エ] 「理論によって拘束されることを望むわけではないが、モノマー気体が、触媒系の細孔中に存在する脂肪族炭化水素液体中に溶け、重合は、その場所で開始されることが信じられる。触媒系の表面積の90%超が、触媒系の細孔内の表面積に帰する。つまり、本発明の方法を使用することにより、プレポリマーは、主として担体物質表面上でというよりは、むしろ、主として担体物質の細孔内にて形成される。」(補正明細書16頁末行?17頁3行) [摘示オ] 「触媒Aの調製 MS948シリカ(ダビソン・ケミカル・ダビソン(Davison Chemical Davison)、ダブリュー・アール・グレイス・アンド・カンパニー(W.R. Grace & Co.)、コンノート(Conn.))が、N_(2)の流通下に600℃にて脱水され、その結果、揮発成分含有量が、1000℃、24時間後の重量損失が0.38%となるまで低減された。前駆体溶液は、30重量%メチルアルモキサンのトルエン溶液(タイプSAS-L1、アルベマール・コーポレーション(Albemarle Corp.)、バトンルージュ、ルイジアナ州)343gを、ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド6.38gと一緒にし、その後トルエン367gを加えることによって調製された。前駆体が、攪拌下、シリカ392gに添加された。湿気のある固体が、50℃までのゆっくりとした加熱下に、16時間にわたって、真空で乾燥された。結果物は、Alを7.37%、Zrを0.09%含む自由流動性固体485.5gであった。触媒がN_(2)のゆっくりとした流れに24時間暴露された時、重量損失は生ぜず、これは、触媒系の細孔に液体がないことを示していた。 触媒Bの調製 アルベマールから購入した標準の30重量%MAOトルエン溶液5.05g、上記メタロセン0.065g、及びトルエン2.20gから、同様の方法で前駆体が調製された。これが、4.00gのMS948に添加され、湿気のある固体が、50℃までのゆっくりとした加熱下に、2.6時間にわたって、真空で乾燥された。結果物は、Alを13.43%、Zrを0.09%含む自由流動性固体5.60gであった。触媒がN_(2)のゆっくりとした流れに24時間暴露された時、重量損失は生ぜず、これは、触媒系の細孔に液体がないことを示していた。」(補正明細書20頁下から10行?21頁14行) [摘示カ]実施例、参考例の概要 補正明細書22?26頁には、触媒Aを用いた予備重合に関する実施例1?2、参考例3A、実施例4および触媒Bを用いた予備重合に関する参考例5A、参考例6A、実施例7が記載されている。 (カ-1)予備重合の条件について、表1および2に次のように記載されている。 「 」 (カ-2)予備重合における触媒系の状態について、以下のように記載されている。 ○参考例3Aの記載 「プレポリマーが直ちに形成され始めた。その後まもなく、トルエンがフラスコの壁に濃縮され、且つ、触媒が塊になった。20分後、・・・予備重合された触媒の一部は、壁上に残り、自由流動しなかった。」 ○参考例5Aの記載 「プレポリマーが直ちに形成され始め、その後まもなく、フラスコの壁を湿らせ且つ触媒を汚染していたヘキサンが濃縮された。予備重合された触媒は、もはや自由流動せず、実験は中止された。」 ○参考例6Aの記載 「ヘキサン0.45mLが触媒Bに添加されたことを除いて、実施例5(注:「実施例5」は「参考例5A」に変更されており、この記載は「参考例5A」の誤記であると認められる。)が繰り返された。結果は同じであり、予備重合は0.25時間後に停止された。」 (カ-3)予備重合された触媒を用いた、オレフィン類の重合試験の結果について、表3および4に次のように記載されている。 「 」 3-3.特許第36条第4項に規定する要件について 補正発明1は、「オレフィン類の重合を、汚損が低減又は除去され、ポリマー形態が改善された状態で実施する」(摘示ア)ために、「予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用自由流動触媒系」(以下、「自由流動触媒系」という。)を形成するものであって、 「(a)メタロセンとアルキルアルモキサンとの反応生成物を形成する; (b)担体1g当たり0.1?20ミリモルのアルミニウムを生成する量の当該反応生成物を、多孔質担体と接触させる; (c)得られた担持触媒系を、全溶媒の少なくとも90%以上が多孔質担体の細孔から取り去られるように乾燥する; (d)工程(c)の乾燥された担持触媒系、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させる; (e)気体モノマーの存在下に、担持触媒系を予備重合する;及び、 (f)予備重合され担持された自由流動触媒系を回収する。」の工程を発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)として備えるものである。 しかしながら、補正明細書に記載された参考例3A、5A、6Aは、工程(a)?(e)によって予備重合が行われている(摘示カ-1)にもかかわらず、予備重合により得られた触媒系は、摘示カ-2に示されるように、参考例3Aでは一部が自由流動しないものであり、また、参考例5Aおよび6Aでは全く自由流動しないものである。 したがって、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が補正発明1を実施し自由流動触媒系を得るためには、発明特定事項である工程(a)?(e)以外に、摘示ウに示されるような「予備重合反応の温度及び圧力条件のために適切な蒸気圧を有する液体を選択すること、触媒系が入っている容器を加熱すること、予備重合の間、触媒系を徹底的に混合すること、モノマー供給材料を稀釈することにより、予備重合速度を低下させること、モノマーが再循環されるプロセスを使用すること、移動する液体、蒸気等を濃縮すること等の多くの様々な方法」から適切な方法を取捨選択する必要があり、さらに、選択した方法を具体的に実施するための温度、圧力、予備重合速度などの諸条件を設定する必要もあるため、当業者が過度の試行錯誤を要すると認められる。 したがって、補正明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が補正発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないので、この出願は発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 3-4.特許第36条第6項1号に規定する要件について 特許法第36条第6項第1号は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と定めている。これは、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない場合には、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていないことを意味するものである。 そこで、この点について以下に検討する。 補正発明1は、「オレフィン類の重合を、汚損が低減又は除去され、ポリマー形態が改善された状態で実施する」(摘示ア)ために、自由流動触媒系を形成するものであって、 「(a)メタロセンとアルキルアルモキサンとの反応生成物を形成する; (b)担体1g当たり0.1?20ミリモルのアルミニウムを生成する量の当該反応生成物を、多孔質担体と接触させる; (c)得られた担持触媒系を、全溶媒の少なくとも90%以上が多孔質担体の細孔から取り去られるように乾燥する; (d)工程(c)の乾燥された担持触媒系、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させる; (e)気体モノマーの存在下に、担持触媒系を予備重合する;及び、 (f)予備重合され担持された自由流動触媒系を回収する。」の工程を発明特定事項として備えるものである。 しかしながら、この「多孔質担体」としては、補正明細書の発明の詳細な説明では、「有機又は無機あるいはそれらの混合物、好ましいものとして、金属酸化物類(特に、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、及びそれらの混合物)等の多孔質無機酸化物類、例えば、マグネシア、チタニア、ジルコニア、及び細かく分割されたポリオレフィン類」(摘示イ)が列挙されているが、実施例において具体的に用いられているものは「MS948シリカ(ダビソン・ケミカル・ダビソン(Davison Chemical Davison)、ダブリュー・アール・グレイス・アンド・カンパニー(W.R.Grace & Co.)、コンノート(Conn.))」(摘示オ、カ、キ)のみであり、MS948シリカ以外の多孔質担体を採用した場合にも、MS948シリカと同等の効果が得られることが確認できるような一般的な説明はなされていない。 また、摘示エに記載されているように、「多孔質担体の細孔内に存在する炭化水素溶液に、気体モノマーが溶けてその場で予備重合が開始されることにより、予備重合によるプレポリマーが主として多孔質担体の細孔内にて形成される。」ことにより補正発明1の所期の効果が奏されると考えられるが、多孔質担体の細孔内に炭化水素溶液が必要な量取り込まれなければ、予備重合において多孔質担体の細孔内にプレポリマーが十分に形成されず、また、多孔質担体の細孔内に取り込まれた炭化水素溶液が予備重合中に細孔内で保持されなければ、多孔質担体の細孔内にプレポリマーが十分に形成されない、触媒系の凝集を引き起こすなどの問題が生じることとなる。 したがって、予備重合の前に必要な量の炭化水素溶液を細孔内に取り込み、予備重合中にこれを細孔内に保持するためには、多孔質担体の細孔の大きさ、深さ、密度などが制限されるものであり、あらゆる「多孔質担体」がこのような炭化水素溶液の細孔内への取り込み、保持を適切に行う機能を有するとは考えられない。 そして、オレフィン重合においては、触媒の組成、構造等が重合過程に大きく影響することが技術常識であることを勘案すると、実施例で具体的に示されたMS948シリカの結果のみをもって、多孔質担体全般についての効果が、MS948シリカを多孔質担体として使用した場合と同等の効果が得られるとまではいえないことから、本願の明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、所望の効果を奏する範囲を、「多孔質担体」全般まで拡張ないし一般化できるものとは認められない。 したがって、補正発明1は、補正明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないので、この出願は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3-5.まとめ したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成19年4月13日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、平成18年2月28日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用触媒系の形成方法であって、当該方法が、下記工程(a)?(f)を含む方法: (a)メタロセンとアルキルアルモキサンとの反応生成物を形成する; (b)担体1g当たり0.1?20ミリモルのアルミニウムを生成する量の当該反応生成物を、多孔質担体と接触させる; (c)得られた担持触媒系を、全溶媒の少なくとも90%以上が多孔質担体の細孔から取り去られるように乾燥する; (d)工程(c)の乾燥された担持触媒系、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させる; (e)気体モノマーの存在下に、担持触媒系を予備重合する;及び、 (f)予備重合され担持された触媒系を回収する。」 2.原査定の理由の概要 (1)原査定の理由1 本願発明の工程(a)?(f)のどの要件が、明細書記載の効果を達成するために必要な条件であるのか否かを確認することができず、発明の詳細な説明には当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載がなされているとはいえないので、この出願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 (2)原査定の理由2 発明の詳細な説明の記載は、特許請求の範囲に記載された工程(a)?(f)を満足することが、所望の効果を達成するために必要であることを裏付けているとはいえないので、この出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.当審の判断 前記原査定の理由が妥当なものであるかについて、以下に検討する。 (1)原査定の理由1について 本願発明1は、「オレフィン類の重合を、汚損が低減又は除去され、ポリマー形態が改善された状態で実施する」(摘示ア)ために、「予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用触媒系」を形成するものであって、 「(a)メタロセンとアルキルアルモキサンとの反応生成物を形成する; (b)担体1g当たり0.1?20ミリモルのアルミニウムを生成する量の当該反応生成物を、多孔質担体と接触させる; (c)得られた担持触媒系を、全溶媒の少なくとも90%以上が多孔質担体の細孔から取り去られるように乾燥する; (d)工程(c)の乾燥された担持触媒系、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させる; (e)気体モノマーの存在下に、担持触媒系を予備重合する;及び、 (f)予備重合され担持された触媒系を回収する。」の工程を発明特定事項として備えるものである。 しかしながら、本願明細書に記載された参考例3A、6Aは、工程(a)?(f)によって予備重合が行われている(摘示カ-1)にもかかわらず、 予備重合により得られた触媒系は、参考例3Aでは一部が自由流動しないもの、参考例5Aでは全く自由流動しないものであり(摘示カ-2)、摘示カ-3に示されているように、これらの参考例3A、5Aの予備重合された触媒系については重合試験さえ行われていない。 したがって、当業者が本願発明1を実施して、オレフィン類の重合に使用でき、所期の効果が得られる触媒系を形成するためには、発明特定事項である工程(a)?(f)以外に、摘示ウに示されるような「予備重合反応の温度及び圧力条件のために適切な蒸気圧を有する液体を選択すること、触媒系が入っている容器を加熱すること、予備重合の間、触媒系を徹底的に混合すること、モノマー供給材料を稀釈することにより、予備重合速度を低下させること、モノマーが再循環されるプロセスを使用すること、移動する液体、蒸気等を濃縮すること等の多くの様々な方法」から適切な方法を取捨選択する必要があり、さらに、選択した方法を具体的に実施するための温度、圧力、予備重合速度などの諸条件を設定する必要もあるため、当業者が過度の試行錯誤を要すると認められる。 したがって、本願明細書の発明の詳細な記載は、当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないので、この出願は発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 (2)原査定の理由2について 本願発明1は、「オレフィン類の重合を、汚損が低減又は除去され、ポリマー形態が改善された状態で実施する」(摘示ア)ために、「予備重合され担持されたメタロセンのオレフィン重合用触媒系」を形成するものであって、 「(a)メタロセンとアルキルアルモキサンとの反応生成物を形成する; (b)担体1g当たり0.1?20ミリモルのアルミニウムを生成する量の当該反応生成物を、多孔質担体と接触させる; (c)得られた担持触媒系を、全溶媒の少なくとも90%以上が多孔質担体の細孔から取り去られるように乾燥する; (d)工程(c)の乾燥された担持触媒系、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させる; (e)気体モノマーの存在下に、担持触媒系を予備重合する;及び、 (f)予備重合され担持された触媒系を回収する。」の工程を発明特定事項として備えるものである。 しかしながら、この「多孔質担体」としては、本願明細書の発明の詳細な説明では、「有機又は無機あるいはそれらの混合物、好ましいものとして、金属酸化物類(特に、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、及びそれらの混合物)等の多孔質無機酸化物類、例えば、マグネシア、チタニア、ジルコニア、及び細かく分割されたポリオレフィン類」(摘示イ)が列挙されているが、実施例において具体的に用いられているものは「MS948シリカ(ダビソン・ケミカル・ダビソン(Davison Chemical Davison)、ダブリュー・アール・グレイス・アンド・カンパニー(W.R.Grace & Co.)、コンノート(Conn.))」(摘示オ、カ、キ)のみであり、MS948シリカ以外の多孔質担体を採用した場合にも、MS948シリカと同等の効果が得られることが確認できるような一般的な説明はなされていない。 また、摘示エに記載されているように、「多孔質担体の細孔内に存在する炭化水素溶液に、気体モノマーが溶けてその場で予備重合が開始されることにより、予備重合によるプレポリマーが主として多孔質担体の細孔内にて形成される。」ことにより本願発明1の所期の効果が奏されると考えられるが、多孔質担体の細孔内に炭化水素溶液が必要な量取り込まれなければ、予備重合において多孔質担体の細孔内にプレポリマーが十分に形成されず、また、多孔質担体の細孔内に取り込まれた炭化水素溶液が予備重合中に細孔内で保持されなければ、多孔質担体の細孔内にプレポリマーが十分に形成されない、触媒系の凝集を引き起こすなどの問題が生じることとなる。 したがって、予備重合の前に必要な量の炭化水素溶液を細孔内に取り込み、予備重合中にこれを細孔内に保持するためには、多孔質担体の細孔の大きさ、深さ、密度などが制限されるものであり、あらゆる「多孔質担体」がこのような炭化水素溶液の細孔内への取り込み、保持を適切に行う機能を有するとは考えられない。 そして、オレフィン重合においては、触媒の組成、構造等が重合過程に大きく影響することが技術常識であることを勘案すると、実施例で具体的に示されたMS948シリカの結果のみをもって、多孔質担体全般についての効果が、MS948シリカを多孔質担体として使用した場合と同等の効果が得られるとまではいえないことから、本願の明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、所望の効果を奏する範囲を、「多孔質担体」全般まで拡張ないし一般化できるものとは認められない。 したがって、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえないので、この出願は特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3)審判請求人の主張について 審判請求人は、平成20年11月11日に提出された回答書において、本願発明1の発明特定事項である(d)工程について、 「(d)工程(c)の乾燥された担持触媒系を、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させる」 を 「(d)工程(c)の乾燥された担持触媒系を、ある容量の炭化水素溶液(当該容量は、多孔質担体の総細孔容積以下である)と接触させ、適切な蒸気圧を有する液体を選択すること、触媒系が入っている容器を加熱すること、予備重合の間触媒系を徹底的に混合すること、モノマー供給材料を稀釈することにより予備重合速度を低下させること、モノマーが再循環されるプロセスを使用すること、移動する蒸気を濃縮すること、のいずれかにより、液体の濃縮を回避する」 と補正する補正案を提示し、以下の主張1、2を行っている。 【主張1】 「補正案は、予備重合中に液体(炭化水素)が濃縮(凝縮)することを回避するための具体的操作を請求項1に加入するものです。このように予備重合中に炭化水素の凝縮を回避することにより、触媒粒子が凝縮液により予備重合容器の壁などに付着、汚染することを防止できます。 より詳しくは、本願の表1に示されているように、実施例1,2では相対的に重合速度が低い触媒Aに対し『適切な蒸気圧を有する液体』のヘキサンを用い、実施例4ではN225部とプロピレン75部の混合物を用いること(本願23ページ、16行目)、すなわち『モノマー供給材料を稀釈することにより予備重合速度を低下させること』で触媒粒子の付着を防止しています。また、実施例7ではプロピレン気体の流れに曝すこと(25ページ、下から4行目)、すなわち『モノマーが再循環されるプロセスを使用すること』で触媒粒子の付着を防止しています。 これに対し、参考例3Aでは、予備重合条件において蒸気圧が不適切なトルエンを用いたこと、および撹拌の欠如のため(23ページ、10行目)、触媒粒子の付着が生じています。また、参考例5A、6Aでは、相対的に重合速度が高い触媒Bとの関係では『適切な蒸気圧を有する液体』ではないヘキサンを用いたために、触媒粒子の付着が生じます。 なお、触媒Aより触媒Bの重合速度の方が高いことは、『反応器内での予備重合は、触媒Aについては40?50、触媒Bについては約315のプレポリマー比率を与えた』(26ページ、下から9?11行目)との記載から明らかです。 以上の説明から明らかなように、本願の効果を得るには、炭化水素が凝縮することを回避するために補正案の工程(a)?(f)を満足することが必要であり、工程(d)を満足しない参考例3A、5A、6Aは補正案に係る請求項1には包含されません。」 【主張2】 「補正案は予備重合容器で気化した炭化水素の凝縮を防止する方法を規定するものですから、触媒、担体、あるいは溶媒の種類に依存するものではないと思料します。 また、本願明細書には補正案に記載された全ての凝縮防止方法が例示されていません。しかし、当業者であれば、本願の開示内容に基づき、これらの凝縮防止方法を適宜実施することができると思料します。」 そこで、上記審判請求人の主張1、2について検討する。 主張1については、補正案のように、液体の濃縮を回避するための具体的操作を請求項1に加入したとしても、前記3.(1)に記載したように、液体の濃縮を回避するための多くの具体的操作から適切な方法を取捨選択する必要があり、さらに、選択した方法を具体的に実施するための温度、圧力、予備重合速度などの諸条件を設定する必要もあるため、当業者が過度の試行錯誤を要すると認められるので、主張1は採用できない。 また、主張2については、補正案のように、液体の濃縮を回避するための具体的操作を請求項1に加入したとしても、前記3.(2)に記載したように、実施例で具体的に示されたMS948シリカの結果のみをもって、多孔質担体全般についての効果が、MS948シリカを多孔質担体として使用した場合と同等の効果が得られるとまではいえないことから、本願の明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮しても、所望の効果を奏する範囲を、「多孔質担体」全般まで拡張ないし一般化できるものとは認められないので、主張2は採用できない。 したがって、上記審判請求人の主張1、2は採用できない。 第4.むすび 以上のとおり、原査定の理由1および2はいずれも妥当なものであるから、本願は、原査定の理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-09-07 |
結審通知日 | 2009-09-15 |
審決日 | 2009-09-28 |
出願番号 | 特願平9-505250 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C08F)
P 1 8・ 536- Z (C08F) P 1 8・ 575- Z (C08F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小出 直也 |
特許庁審判長 |
小林 均 |
特許庁審判官 |
一色 由美子 小野寺 務 |
発明の名称 | 予備重合され担持されたメタロセン触媒系の製造方法 |
復代理人 | 常光 克明 |
代理人 | 山崎 行造 |
代理人 | 山崎 行造 |